Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Fundamental study of glycated hemoglobin analyzer, “The Lab 001”
Daichi MIYASHITANatsumi NAGAIMika SATOKeita KAMIYAMAKiyomi NAKAJIMAMasami MURAKAMI
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2022 Volume 71 Issue 2 Pages 277-283

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Abstract

キャピラリー電気泳動法を用いたHbA1c分析装置The Lab 001(アークレイ株式会社)の基礎的検討を行った。併行精度,室内間精度,正確性は良好な結果が得られた。HPLC法との相関性も良好で相関係数(r)は0.996であった。また,The Lab 001は,変異Hbの検出において,各主要変異Hbの分離・検出が可能であることが示された。さらに,HbFの影響も回避した正確なHbA1cが得られることから臨床的に十分な性能を持つと思われる。

Translated Abstract

We evaluated the performance of the glycated hemoglobin analyzer The Lab 001 in capillary electrophoresis. The accuracy results obtained were good, and the correlation coefficient between the HPLC analysis and capillary electrophoresis was 0.996. In addition, it was shown that The Lab 001 can separate and detect mutated hemoglobin and hemoglobin F. Although the mutated hemoglobin and hemoglobin F can affect HbA1c measurement, The Lab 001 can be used for measurement without being affected by these types of hemoglobin.

I  はじめに

ヘモグロビンA1c(HbA1c)は,糖尿病患者における過去1~2カ月の平均血糖コントロール状態の評価に有用であり,糖尿病の診断においても重要な指標として用いられている1)。測定方法は大きく,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法,免疫法,酵素法の3種類に分けられ,HPLC法であれば専用機,免疫法および酵素法であれば主に生化学汎用機で測定を行う。また,診療所においては卓上型の小型HbA1c測定機器の活用も多い。

HbA1cは赤血球寿命や変異ヘモグロビン(変異Hb),HbFなどの影響を受けて測定値が変動する。特に,変異Hbはグロビン鎖のアミノ酸置換が原因であり2),これによりHb分子の電荷や立体構造が変化し,測定値に影響を与える。また,HbFは胎生期にはHbの90%以上を占めているとされ,出生後減少してHbAに置き換わり,成人では通常1%となる。しかし,サラセミアや家族性高HbF血症,骨髄の障害などで値の上昇が認められる場合がある3)。これら変異HbやHbFの存在は,HbA1cの測定に大きく影響を与える4)。そのため,NGSP(National Glycohemoglobin Standardization Program)は,世界で主要な変異Hb(HbS, HbC, HbD, HbE)やHbFの影響を受けないHbA1c測定法を推奨しており,その重要性は高まっている5)~7)

今回,変異HbやHbFの影響を受けない,キャピラリー電気泳動(CE)法を原理としたHbA1c測定装置The Lab 001(アークレイ株式会社)8),9)が開発されたため,その基礎的検討を行った。

II  対象および検討機器

1. 対象

2020年2月~7月に当院でHbA1c測定依頼があった患者の検体を用いた。なお,本検討は当院倫理委員会の承認(承認番号:HS2020-013)を得て実施した。なお本報告は,その結果の表現を日本糖尿病学会の指針に基づきNGSP値とした。本検討内容は日本医療検査科学会第52回大会にて発表した。

2. 測定機器

検討機器は,CE法を原理とするThe Lab 001を用いた。比較対照として,HPLC法を原理とするADAMS A1c HA-8182(アークレイ株式会社,以下HA-8182)を用いた。精査が必要な検体は,高分離HPLC法であるADAMS A1c HA-8180T(アークレイ株式会社,以下HA-8180T)で測定を行った。

3. 測定原理

The Lab 001は血液中のHbA1cを電気泳動法により測定する。1.5 μLの血液を点着させた専用試薬カートリッジをセットすると,陽イオン交換導電クロマトグラフィー法により数種のHb成分に分画される。分画された各Hb成分を検出部において吸光光度法により検出することで得られる電気泳動結果(エレクトロフェログラム)よりHbA1cを定量する。

III  方法

全血検体については血糖採血管を用いた。試料は1.5 μLを専用試薬カートリッジに点着させ,測定を行った。

1. 併行精度

3濃度の全血検体および精製水で溶解した2濃度のA1C HDコントロール(アークレイ株式会社)を各20回連続測定した。

2. 室内間精度

2濃度のA1C HDコントロールを10日間3重測定した。

3. 正確性

HbA1c測定用実試料一次標準物質JCCRM411-4(Lot6)(ReCCS)5濃度を5重測定した。

4. 相関性

患者検体(n = 110)をThe Lab 001とHA-8182で測定した。

5. 変異Hbの分離・検出およびHbA1c値への影響回避

主要変異Hbのヘテロ型であるHbAS,HbAC,HbAD,HbAE試料ならびにHbA1cの測定依頼があった患者のうち,血糖値とHbA1cの値に乖離がある検体をThe Lab 001とHA-8182で測定を行い,変異Hb存在の有無を確認した。乖離の条件は血糖値160 mg/dL以上かつHbA1c 5.8%未満とした。

HbA1c値への影響回避はHA-8180Tを基準として比較し,その判定基準はNGSPが推奨する ±7相対%とした5)

6. HbFの影響

HA-8182で測定した患者検体をHbF値が2%未満,2~5%,5%以上の3グループに分け,それぞれ15検体ずつThe Lab 001にて測定した。The Lab 001とHA-8182間のバイアスを評価した。

IV  結果

1. 併行精度

全血検体3濃度およびコントロール2濃度の連続測定時の変動係数(CV%)は1.25%以内であった(Table 1)。

Table 1  Within-run precision
Sample A1C HD control Whole blood
Level 1 Level 2 Low Middle High
n2020202020
Mean5.299.884.747.4111.03
SD0.050.120.060.090.10
CV (%)0.931.251.241.150.89
Max5.410.34.87.611.2
Min5.29.74.67.210.9
R0.20.60.20.40.3

(NGSP%)

2. 室内間精度

コントロール2濃度の10日間測定時の変動係数(CV%)は1%未満であった(Table 2)。

Table 2  Between-day precision
Sample A1C HD control
Level 1 Level 2
day1010
Mean5.309.88
SD0.030.06
CV (%)0.510.58
Max5.310.0
Min5.39.8
R0.00.2

(NGSP%)

3. 正確性

各濃度の平均値は認証値より低値傾向を認めたが,その差は全てNGSPの認証基準である ±5相対%以内であった(Figure 1)。

Figure 1 Accuracy of The Lab 001

4. 相関性

The Lab001とHA-8182の相関性は,標準主軸回帰式y = 0.991x − 0.026,相関係数r = 0.996であった(Figure 2)。

Figure 2 Correlation

Correlation between The Lab 001 and HA-8182.

5. 変異Hbの分離・検出およびHbA1c値への影響回避

The Lab 001において,HbASおよびHbACの両変異はHbA0の後に分離され,それぞれのピークが検出された。HbADはHbA0が二峰性となることでピークが検出され,HbAEはHbA0分画の拡がりを認めることで検出された(Figure 3)。

Figure 3 Comparison between The Lab 001 electropherograms and HA-8182

Arrow shows variant hemoglobin peak in electropherograms.

HbA1cの値についてHA-8180Tを基準として比較したところ,The Lab 001は,HbAS,HbAC,HbAE,HbADすべての試料でNGSPの推奨する ±7相対%以内であった。一方,HA-8182は4種類の試料のどの変異も検出できず,HbA1c値はHA-8180Tに比較して約18~28%低値を示した(Table 3)。

Table 3  Comparison of interference avoidance ability between The lab 001, HA-8182 and HA-8180T for major variant hemoglobins
Variant hemoglobin The Lab 001 HA-8182 HA-8180T
HbAS 5.1
0.00
3.8
−25.49
5.1
NA
HbAC 5.2
−1.89
3.9
−26.42
5.3
NA
HbAD 4.8
−2.04
3.5
−28.57
4.9
NA
HbAE 7.4
0.00
6
−18.92
7.4
NA

Table Upper row: Measurement result (NGSP%), Lower row: Bias from HA-8180T (relative%), NA: Not applicable

また,血糖値とHbA1cの値に乖離がある検体をスクリーニングした結果,1検体で変異Hbの可能性が示唆された(Figure 4)。この検体についてHA-8180Tで精査した結果,HbA0後の140秒付近に変異Hbを検出した(Figure 5)。

Figure 4 Electropherograms and chromatograms of variant hemoglobin possible specimen

Comparison between The Lab 001 electropherograms and HA-8182 chromatograms of variant hemoglobin possible specimen.

Figure 5 High resolution analysis

High resolution analysis on HA-8180T for variant hemoglobin possible specimen.

HA-8182ではこの変異Hbを検出できず,HbA1c値は,HA-8180Tでは6.0%,The Lab 001では5.8%,HA-8182では4.6%とHA-8182のみ低値を示した(Table 4)。

Table 4  The profile of variant hemoglobin possible specimen and the results obtained from The Lab 001 and HA-8180T
Analyte Methods Results Relative Bias %
from HA-8180T
Glu GA-1170
(whole blood)
181 mg/dL NA
HbA1c HA-8182 4.6% −23.3%
The Lab 001 5.8% −3.3%
HA-8180T 6.0% NA

6. HbFの影響

HA-8182のHbF値が2%未満,2~5%,5%以上と高くなるに従い,HbA1c値はThe Lab 001とHA-8182のHbA1c値に乖離が認められた。乖離はHbFとHA-8182におけるHbA1c値が反比例する傾向にあった。HbF値が10%を超える検体においては,NGSPが許容範囲とする±7相対%を超えていた。(Figure 6)。

Figure 6 Interference of HbF

Negative interference of HbA1c on HA-8182 for elevated HbF.

V  考察

今回我々は,The Lab 001の基礎性能評価を行った。併行精度と室内間精度で確認した精密性は良好な結果であった。正確性は,認証値に対して低値傾向を示したが,JCCRM411-4 Level-3(認証値7.43%)までの差は最小報告単位の −0.1%であり,5濃度全てNGSPの認証基準である ±5相対%内であった。またHPLC法を原理とするHA-8182との相関性も良好であることから,The Lab 001の基本性能は日常診療の要求を満たしていると考えられる。

さらに,変異Hbの検出においてThe Lab 001は,各主要変異Hbの分離・検出が可能であることを確認した。血糖値とHbA1c値の乖離検体においては,高分離HPLC法であるHA-8180Tと比較し,変異Hbの判定は異なっていたものの,HbA1cの測定値自体はよく一致していた。一方,HA-8182は低値となったが,これはHbA0以上のイオン強度のHb成分を一気に溶出するためであり,HbA0とイオン強度が同等以上の変異Hbを検出できず,このような変異Hbを見逃してしまう可能性が高い。また,変異HbのピークがHbA0ピークに上乗せされ,HbA1cが偽低値となるため,血糖値とのバランスから変異Hbを疑う検査フローは有用であることを確認できた。変異Hbのデータベースであるthe Globin Gene Serverでは世界で1,300種類以上の変異Hbが登録されている10)。頻度の多い主要変異Hbは外国人に多いが,2020年12月時点での在留外国人数は295万人11),また,わが国の変異Hbの頻度としては2,000~3,000人に1人で,210種類以上もあると言われている2),12)。これらの報告は,主要変異Hbを検出し,その影響を受けない正確なHbA1c値を診療に使用すること,また,日本人に多いマイナー変異Hbの分離・検出能を明らかにすることの重要性を示すものであり,変異Hbを念頭に置いた検査が求められている。

さらに,現在本邦で使用されているHPLC法の多く,免疫法および酵素法は全Hb量に対するHbA1c(%)を表すためHbFの影響を受ける。今回検討したThe Lab 001は,HbF分画を除いてHbA1c値を算出するため,HbFの影響を受けない。一方で対照機として使用したHA-8182はHbF分画も合わせて算出を行うため,HbFの影響を受ける可能性がある。実際に,HbF値が5.0%未満の検体ではHbA1c値はHA-8182とThe Lab 001で差はNGSPの許容範囲内±7相対%あったが,HbF値が14.6%,16.4%と高値の検体において,HA-8182のHbA1c値がThe Lab 001に比較して−8.0相対%,−11.6相対%となる検体が認められた。HA-8182で許容範囲を超えて低値となってしまっている可能性が示唆された。HbFは乳児に多いHbとして知られている4)。また,溶血性貧血や腎性貧血,がん患者の治療や移植によって高値になることが報告されている4)。適切な診断,治療には変異Hbの存在を確認でき,変異HbやHbFの影響を回避できる分析装置が有用であり,The Lab 001はそれらの性能を有していると考えられる。

VI  結論

CE法を測定原理とするThe Lab 001は,精密度,正確性は良好であり,HPLC法を原理とするHA-8182とも高い相関性を持ち,変異Hb分離・検出を可能としている。また,HbF高値検体についても影響を受けないHbA1c値の算出が可能であるため,糖尿病診療において有用であると考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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