Japanese Journal of Medical Technology
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Original Articles
Analysis of results of breast cancer screening held in Gunma Chuo Hospital Health Care Center: Focusing on the comparison of results of mammography and breast ultrasound
Sayaka TODAMiku TANTomomi HOSHINOKaori SHINAGAWAAsa TAKEUCHIMari SATOUHiromi HASEGAWAShinji SAKURAI
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2022 Volume 71 Issue 2 Pages 210-216

Details
Abstract

がん検診の結果を各々の実施施設で分析を行うことは,検診の精度,有用性を検証する上で重要である。今回,当院健診センターで実施された乳がん検診の分析を行った。対象は2015年4月1日から2018年3月31日の3年間に,当院健診センターで乳がん検診を受診した延べ18,971人で,がん検診の管理指標項目,陽性者の最終診断,検診時マンモグラフィ(MG)と精密検査(精検)で施行された乳腺超音波検査(US)の比較,がんと最終診断されるまでの経過について調査を行った。3年間の各精度管理指標は,要精検率6.3%,5.0%,6.6%,精検受診率は86%,89%,85%,陽性反応的中度は3.5%,3.4%,2.2%で,ガイドラインの許容値を満たしていたが,がん発見率は0.20%,0.17%,0.15%と,許容値を下回っていた。がん発見率の許容値はMG検診初回受診者を対象とした参考値であるが,当院健診センターは職域健診におけるがん検診(以下,職域)が主体で,毎年,同じ事業者の健診者が繰り返し受診している症例の多いことも原因と推測される。MGとUS検査の比較では,乳がんの診断において互いに補完する可能性が示唆され,MG,US併用検診の有用性を支持する結果であった。がんと診断された34人のうち,前年度の検診でA判定とされていた症例が12例存在し,そのうち4例は進行がんであった。これらの結果からは,適切な検診間隔,MGとUSの併用検診について,さらなる検討も必要があると考えた。

Translated Abstract

It is important to analyze the results of cancer screening at each institution to verify the accuracy and usefulness of the screening. We analyzed the results of breast cancer screening (BCS) of 18,971 individuals at our hospital during the three-year period from April 1, 2015 to March 31, 2018, and reviewed quality control indexes for cancer screening, the final diagnoses of positive cases, the comparative results of mammography (MG) and ultrasonography (US) performed for detailed examinations, and the processes leading to cancer diagnoses. The quality control indexes for each year were as follows: positive rates were 6.3%, 5.0%, and 6.6%; further examination rates were 86.4%, 88.9%, and 84.7%; and positive predictive values were 3.5%, 3.4%, and 2.2%, which met the acceptable guideline values. However, cancer detection rates were 0.20%, 0.17%, and 0.15%, which were lower than the acceptable values. A possible explanation is that the acceptable values were set using patients who underwent MG screening for the first time, whereas our hospital has many repeat patients who are examined every year from the same outside. A comparison between the MG and US results indicated that each the tests complement each other, and thus screening with both tests would be more effective as previously described. Of the 34 breast cancer patients, 12 were graded A in the previous year, and four of those patients had advanced cancer (stage II or III). These results suggest a need for further studies on appropriate screening intervals and the use of both MG and US for screening.

I  はじめに

近年,本邦では乳がんの年齢調整罹患率・死亡率ともに増加し続けており,2017年のデータでは罹患率が人口10万人当たり140.8人と,女性に発生するがんの臓器別で最も多く,2018年のデータでは女性の約65人に1人が乳がんで亡くなっている1)~3)

厚生労働省は「がん予防重点健康教育およびがん検診実施のための指針」(平成20年3月31日)を定め,市町村による科学的根拠に基づくがん検診を推進している。また,法的根拠のない職域におけるがん検診(以下,職域)についても,平成30年3月,上記に準じた「職域におけるがん検診に関するマニュアル」が策定され,職域の効果的な実施が望まれている4),5)

しかし,日本における乳がん検診の受診率は未だに低く,検診の方法についても議論がある6)~8)

当院(外来)では併設した健診センターで乳がん検診を行っており,精密検査(精検)受診者の多くが当院外来を受診していることから,検診データと最終診断を容易に突合することが可能であり,このような施設が検診結果の分析を行うことは,検診の精度,有用性を検証する上で重要であると考え,今回の研究を行った。

II  対象と方法

2015年4月1日から2018年3月31日の3年間に当院健診センターにて乳がん検診を受診した延べ18,971人について,調査期間3年間中の受診回数,要精検率,精検受診率,がん発見率,陽性反応的中度について調査を行った。なお,この18,971人の内訳は,自治体検診が延べ5,759人で30.4%,職域が12,370人で65.2%,人間ドッグが842人で4.4%であった。また,精検の結果,最終的にがんと診断された症例については,患者の年齢,検診の受診歴,がんの組織型(診断当時の組織型を使用),ステージ,検診時のマンモグラフィ(以下,MG)と精検時乳腺超音波検査(以下,US)の判定について比較分析を行った。MGは5段階のカテゴリー分類で,USは良性,判定困難,悪性疑い,の3段階で判定している。なお,調査当時はUSにおいてカテゴリー分類を利用していなかったが,この調査の位置づけとして,良性をカテゴリー1・2,判定困難をカテゴリー3,悪性をカテゴリー4・5とした。

なお,当院の位置する前橋市の検診では,問診とMGに加え,視触診を行っており,受診間隔は1年に1回としている。

当院健診センターの結果は,A:異常なし,B:軽度異常あるも日常生活に支障なし,C:軽度異常あり生活習慣改善又は経過観察を要す,D1:要受診,D2:要精密検査,E:現在治療中と表記している。今回の調査では,D1とD2の受診者を要精査症例とした。当院健診センターの判定基準は,マンモグラフィでカテゴリー3以上,あるいは視触診で所見がある場合D判定と診断される。なお,当院健診センターの当時の乳がん検診方法は,視触診とマンモグラフィであり,超音波検査は行っていなかった。また,マンモグラフィのみ,視触診のみの受診はできず,必ず併用する。

III  倫理的配慮

本研究は,JCHO群馬中央病院倫理委員会の承認を得て実施している(承認番号18-001)。

IV  結果

対象期間の3年間における延べ18,971人の受診回数は,1回のみの受診者が4,680人で最も多く,46%,2回が3,090人で24%,3回が2,504人で30%であった(Figure 1)。

Figure 1 対象期間中の検診受診回数

受診回数1回が最も多い。

1. 検診管理指標

厚労省が推奨するがん検診ガイドラインの各管理指標と当院健診センターの結果を比較した(Table 1)。3年間の各精度管理指標について,当院健診センターの要精検率は6.3%,5.0%,6.6%,精検受診率は86%,89%,85%,陽性反応的中度は3.5%,3.4%,2.2%で,厚生労働省の許容値をみたしている。しかし,精検受診率については許容値の他に目標値が定められており,許容値には達しているが目標値には達していない(Table 2)。3年間で最終的にがんと診断された受診者は34人で,がん発見率は0.20%,0.17%,0.15%と,許容値を下回っていた9)

Table 1  精度管理指標結果
年度 検診受診者数 要精検者数 要精検率 精検受診者数 精検受診率 がん発見者数 がん発見率 陽性反応的中度
2015 6,378 403 6.3% 348 86% 13 0.20% 3.5%
2016 6,486 325 5.0% 289 89% 10 0.17% 3.4%
2017 6,107 404 6.6% 342 85% 11 0.15% 2.2%
総数 18,971 1,132 6.0% 979 86% 34 0.18% 3.0%

概ねガイドラインの推奨値を達成しているが,がん発見率は許容値よりも低い。

Table 2  厚生労働省による推奨値
要精検率(%) 精検受診率(%) がん発見率(%) 陽性反応的中度(%)
許容値 ≤ 11.0% ≥ 80% ≥ 0.23% ≥ 2.5%
目標値 ≥ 90%

設定対象としては対策型検診に対しての値である。

2. がん患者の分類

最終的に悪性と確定診断された34人は,何れも上皮性の癌であった。

1) 年齢

各年代の癌の発見数,発見率をTable 3に示す。発見率は60代で最も高かった。

Table 3  最終的に癌と診断された34人の年齢分布と各年代のがん発見率
年代 40代 50代 60代 70代
受診者数 6,432 5,272 3,630 1,517
がんの人数 11 10 10 3
がん発見率 0.17% 0.19% 0.28% 0.20%

がん発見率は60代で最も高い。

2) 受診歴

癌の見つかった34人のうち,初回検診で診断されたのは6人で,過去に受診歴がある28人のうち,前回A判定であった受診者は20人(前年受診12人,前々年受診7人,5年前1人),前回B判定2人(前年1人,前々年1人),前回C判定2人(前年1人,前々年1人)であった。前回D判定(前年2人,前々年1人,3年前1人)であった4人は,前回精検で癌の診断がつかなかった受診者が3人,精検未受診者が1人であった(Table 4)。

Table 4  がんと診断された34人の検診時の判定と受診歴
A判定 B判定 C判定 D判定
6人
前年 12人 1人 1人 2人
前々年 7人 1人 1人 1人
3年以上 1人 1人

空欄は0人。前年A判定,B判定であった受診者が3割以上存在する。

3) 病理診断

34人の癌の組織型は,非浸潤性乳管癌3人(9%)浸潤性乳管癌28人(82%),浸潤性小葉癌1人(3%),不明が2人(6%)であった。さらに浸潤性乳管癌の組織型(当時の分類)は硬癌8人(29%),乳頭腺管癌7人(25%),充実腺管癌6人(21%),その他4人(14%),不明3人(11%)であった(Figure 2)。

Figure 2 発見された癌34症例の,浸潤の有無,組織型

組織型に大きな偏りはみられなかった。

4) ステージ

手術検体による最終的な癌のステージは,早期癌20人(0期3人,I期17人)(59%),進行癌11人(II期10人,III期1人)(32%),不明3人(9%)であった。癌と判定された34人中,前年度も検診を受診していた人が16人(47%)存在した。そのうち4人(27%)は進行癌(II期)で,前回の検診結果はA判定3人,C判定1人であった(Figure 3)。この進行癌4例の組織型は,乳頭腺管癌1例,充実腺管癌2例,硬癌1例で,腫瘍細胞の核グレードは,Grade 2が1人,Grade 3が3人と,何れも異型,増殖性が高い腫瘍であった。

Figure 3 検診受診歴とステージとの関係

早期癌の比率が高い。

3. 陽性,偽陽性症例のMGとUSの判定比較

最終的に癌と判定された34人中,MGでカテゴリー(C)4または5と判定されていたのは22人(65%),USで悪性疑いと判定されたのは27人(79%)で,MGでC1または2と判定されていた受診者3人のうち2人は,USで悪性疑い,1人は良性(乳管拡張および嚢胞)と判定されている。この3人は,1人(USで良性だった上記受診者)は血性乳汁分泌のため,2人は触診にて腫瘤を触知したためD判定となっていた。また,これ以外に1人,腫瘤を触知したためマンモグラフィを撮ることなくD判定になった(USでは悪性疑いであるがMGを撮っていないためTable 5には含まれず)。

Table 5  癌と判定された34人の,検診MGとUSの比較
検診MG
C-1・2(視触診異常も含む) C-3 C-4・5
US悪性疑い2420
判定困難022
良性120

MGとUSでは判定が交差する症例があり,互いに補完する可能性がある。

USで良性と判定した3人のうち1人は浸潤性乳管癌で,MGでもC1(前出の血性乳汁分泌の症例),2人は浸潤性乳管癌で,MGではC3であった。USで判定困難と判定した4人のうち2人は非浸潤性乳管癌,2人は浸潤性乳管癌で,この4人中2人はMGでC4,もう2人はMGでC3と判定されていた(Table 5)。

乳がん検診受診者18,971人のうち精密検査を受診したのが979人であり,そのうちの784人が当院(外来)にて精密検査を行っている。784人のうちUSでがん疑いとなったのが37人で,うちがんと診断されたのが27人,がんではなかった偽陽性が10人であった。精検患者におけるUSの陽性反応的中度は73%(37人中27人)であり,偽陽性10人の症例の生検ないしMRI診断は,乳腺症5人,線維腺腫2人,乳管過形成1人,その他2人であった。このUS偽陽性10人の検診時MGの判定は,多い順にC3が6人,C5が2人,C1が1人(触診でD判定),C4が1人であった(Figure 4)。

Figure 4 US偽陽性10症例の内訳と同一症例検診MGの診断

MGでC4以上は3人のみであった。

V  考察

今回の検討で当院健診センターにおける乳がん検診は,検診管理指標のうち,要精査率,精検受診率,陽性反応的中度はほぼガイドラインの条件を満たしていたが,がん発見率は許容値を下回っていた。原因として,ひとつは,精検受診率はがん発見率に大きく影響を与えるが,精検受診率において,許容値には達しているものの目標値には達していないことが挙げられる。これについて当院健診センターでは,要精密検査となった受診者には検診結果と共に受診カードを送付し,精密検査を受診した場合に返信していただいている。返信が無い場合,3~4ヶ月後に受診勧奨のご案内を再度郵送にて行っているが,その後もなお未受診の方々が存在しており,精検受診率,ひいてはがん発見率に影響している可能性がある。また,他の要因として,がん発見率の許容値が,MG検診初回受診者を対象とした参考値であるのに対し,当院健診センターは任意型検診である職域が主体で,毎年,ある程度限られた事業者の検診者が繰り返し受診している症例が多いことも要因として推測される。「職域におけるがん検診に関するマニュアル」では,対策型検診の許容値がそのまま設定されているが5),限られた集団に繰り返し実施される傾向の強い職域と,要精検症例が除外され,毎年新たな受診者が追加される自治体の対策型検診では,対象者の条件が大分異なると思われ,職域の精度管理については,施設の状況に応じた独自の管理指標を設定する必要もあるのではないか,と感じられる。発見されたがんは早期がんの比率が高く,これまでの報告と同様,検診の有効性を示す結果であった10)~12)

検査方法については,MGで良性と判定されていた3例中2例がUSでは悪性ないし悪性疑いと判定されているのに対し,MGで悪性ないし悪性疑いとされていた2例はUSで良性と判定されていた。この結果からは,エビデンスが無いものの,MGとUSは乳がんの診断において互いに補完する可能性が示唆され,MG,US併用検診の有用性を支持する結果と考える。東北大の大内らによるJ-START研究では,MGに超音波検査を加えることで,早期乳がんの発見率は1.5倍になり,ステージIIまたはIII以上のがんの発見数は介入群,コントロール群では差は見られず,USはステージ0またはI期の早期がんの発見に寄与していることを明らかにしている11),13),14)

癌と診断された34人のうち,前年度検診を受診し,A判定とされていた症例が12例存在し,そのうち4例は進行癌であった。この4例は,何れも手術検体の病理組織学的検索で,癌細胞の核グレードが高く,進行の早い症例であったと推測された。隔年検診であれば中間期乳がんに相当する症例であった可能性がある。

近年,検診と検診の間に発見される,中間期乳がんの存在が問題となっている15)。秋田県疾病登録室の戸堀ら16)によれば,「乳がん検診受診者80,663人中発見した乳がんは184人,0.228%であった。一方中間期乳がんは41人,0.05%であり,発見乳がんと中間期乳がんの比は4.5:1であった」と報告されており,中間期乳がんは少なからず存在するものと考えるが,まとまった報告はまだ少ない。乳がん検診について,厚労省は隔年検診を推奨しているが,多くの自治体では現在でも逐年検診が行われている。今回の調査では,当院健診センターで行われている職域においても,逐年で受診している人が相当数存在した。対策型検診の目的は,集団における死亡率の低下であり,利益が不利益(偽陰性,偽陽性,過剰診断,放射線被爆,受診者の身体的・心理的負担など)を上回らなければならず,今回,悪性度の高いと思われる中間期乳がんを拾ったとしても,集団の死亡率に関与し得るのかは検証が必要で,乳がん検診の適切な実施間隔については,患者年齢,MG,US併用検診の有効性や,中間期乳がんの存在なども考慮した上で,再検討する必要があるのではないだろうか。また管理指標に関しては,自治体が行う対策型検診と,職域,人間ドックで実施されている任意型検診の差異を各実施施設が把握した上で,考慮すべき必要もあると思われた。

VI  結語

今回,当院健診センターで実施されている乳がん検診について,管理指標項目,陽性者の最終診断,検診MGと精検で施行されたUS検査の比較,がんと診断されるまでの経過について詳細な調査を行った。今回の結果から,がんの発見率向上に関しては,更なる精検受診奨励の他に,逐年の検診,MGとUSの併用検診が有用と思われるが,自治体が行う対策型検診では,死亡率減少効果を含む費用対効果なども検証する必要があり,必ずしも職域や人間ドックと同一ではない。各健診実施施設では,その差異を理解した管理が必要と思われる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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