Japanese Journal of Medical Technology
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Comparison of criteria for judging pleural effusion samples based on pathological conditions: Cell count and classification, protein (TP) ratio, light criteria, pH
Hizuru HOSHINASakae MORI
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2022 Volume 71 Issue 2 Pages 238-244

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Abstract

胸水検体の検査項目細胞数と分類,Lightの基準のTP比・LD,pH各々判断を行い,結果と貯留原因病態①心不全,②腫瘍性,③肺炎,④膿胸,⑤結核,⑥腎不全・肝硬変・低栄養726件と比較検討を行った。細胞数のcut off値は,漏出性と滲出性に区分した病態のROC曲線からYouden Indexを用いた結果,1,000/μLだった。この結果,漏出性と滲出性の病態を識別するための細胞数基準値として使用できると考える。滲出性と漏出性の病態でのクロス集計の結果,滲出性について細胞数は特異度84.6%と高く,TP比は感度78.9%,LDは感度84.8%と高い結果から,感度・特異度の特性を用いて滲出性・漏出性の判断や炎症性疾患の治療効果に有用である。全病態を用いたpH 7.2のROC曲線から,AUC 0.919,Youden Indexは,好中球76.5%であり,血液ガス分析装置を用いたpH測定の代用に使用できる検査と考えられた。

Translated Abstract

The pathological conditions of patients with pleural effusion samples are (1) heart failure, (2) neoplasticity, (3) pneumonia, (4) pyothorax, (5) tuberculosis, (6) renal failure, liver cirrhosis, and malnutrition (726 patients), and the criteria for judging these samples are cell count and classification of test items, TP ratio, and LD of light standard. A pH of 7.2 was used for judging the need for drainage adaptation and was compared among patients and examined. As for the cell count, its cut-off value based on the Youden index was 1,000/μL, as determined from the ROC curve analysis of the pathological conditions classified into leaky and exudative. In the future, this cut-off value can be used as a reference cell count to distinguish between leaky and exudative pathologies. Cross tabulation for exudative and leaky pathologies showed that exudative cells had a high specificity of 84.6%. The sensitivity was as high as 78.9% for the TP ratio and 84.8% for LD. The characteristics of sensitivity and specificity would be useful for the judgment of exudative and leaky pathologies and the therapeutic effect of drugs on inflammatory diseases. In the ROC curve with a pH of 7.2 obtained using all pathological conditions, the AUC was 0.919 and the Youden index was 76.5% for neutrophils. The value that neutrophils show 75% was considered to be a test that could be used as a substitute for pH measurement using a blood gas analyzer.

I  はじめに

穿刺液検体には,胸水や腹水,関節液があり,検査は漏出性・滲出性の鑑別が行われて診断に用いられている1)。漏出性と滲出性を判断する項目として蛋白1),アルブミンや糖があり,胸水はLightの基準2),3)が使用されている。またドレナージ処置の一項目としてpHが使用され,判断には重要な検査4)となっている。

胸水の貯留は,肺,消化器,循環器,腎臓・肝臓などの影響を受け,膿胸,肺炎,結核など炎症性や心不全,腎不全,肝硬変など非炎症性の病態によって出現する。胸水の貯留する原因を調べる方法として,昨年,日本臨床衛生検査技師会穿刺液検査標準化ワーキンググループから穿刺液検体の検査法5)が提案された。

今回われわれは,細胞数と細胞分類,TP,LD,pHから各々判断を行い,貯留原因の病態と比較検討をした。TPはLightの基準の胸水TP/血清TP比(以下,TP比),LDは胸水LD/血清LD比とLD値(以下,LD)を使用した。pHについては,胸水ドレナージの適応に使用されているpH基準値7.2を用いた。

II  対象と方法

1. 対象

2013年から2020年に,一般検査に提出された胸水を対象とした。本検討は当院倫理委員会の承諾を得て,実施した(29諏訪中央―倫理第15号)。

2. 方法

提出された検体の胸水貯留原因から①心不全,②腫瘍性,③肺炎,④膿胸,⑤結核,⑥腎不全・肝硬変・低栄養,⑦原因不明・その他に7分類し,そのうち原因不明・その他は検査値から判断できないため除外し検討を行った。病態から心不全,腎不全・肝硬変・低栄養を漏出性に,腫瘍性,肺炎,膿胸,結核を滲出性と区分した。細胞数の判断は全病態の滲出性と漏出性からROC曲線を作成し,そのcut off値を求め基準値として使用した。Lightの基準の胸水TP/血清TP比の0.5以上,胸水LD/血清LD比0.6以上または胸水LDが血清LDの正常上限値2/3以上を滲出性2)とした。pHについては,ドレナージの指標に用いる7.2を用いた6),7)。細胞数と細胞分類,TP比,LD,pHのそれぞれについて病態と比較を行った。細胞については,好中球・リンパ球・その他細胞の細胞3分類を加え,各病態の感度・特異度またドレナージ指標の検討を行った。

検討は,IBM SPSS ver. 25にて解析した。

III  結果

検体は,総数809件(内男性512件),年齢は13歳から103歳,中央値は81歳だった。病態の内訳は,①心不全148件,②腫瘍性215件,③肺炎180件,④膿胸74件,⑤結核16件,⑥腎不全・肝硬変・低栄養93件,⑦原因不明とその他の83件だった。検討は原因不明とその他の83件を除外し,726件にて比較を行った。Table 1に検討の内訳を示した。

Table 1 検討検体の病態と件数
病態
心不全腎不全・肝硬変・低栄養肺炎膿胸結核腫瘍性
148931807416215

細胞数のcut off値は,滲出性と漏出性のROC曲線分析から(Figure 1)AUC 0.757,Youden Indexを用いた結果,細胞数1,000/μLだった。この結果から漏出性と滲出性の病態を識別するための細胞数基準値とした。

Figure 1 細胞数の基準値を求めたROC曲線

細胞数のcut off値は,漏出性と滲出性に区分した病態のROC曲線からYouden Indexを用いた結果1,000/μLだった。

1)滲出性検体について,病態全体と比較した結果は,細胞数は感度58.6%,特異度84.6%,TP比は感度78.6%,特異度67.2%,LDは,感度84.8%,特異度64.7%となりTable 2に示した。

Table 2 全病態から漏出性・滲出性区分した項目別クロス表と滲出性の感度・特異度
臨床病態
漏出性滲出性
細胞区分漏出性204201
滲出性37284

感度 58.6%

特異度 84.6%

臨床病態
漏出性滲出性
TP比区分漏出性12176
滲出性59284

感度 78.9%

特異度 67.2%

臨床病態
漏出性滲出性
LD区分漏出性14571
滲出性79396

感度 84.8%

特異度 64.7%

2)各病態別感度は,漏出性は①心不全の細胞数85.8%,TP比67.8%,LD 71.1%,⑥腎不全・肝硬変・低栄養の細胞数82.8%,TP比66.1%,LD 53.7%となった。滲出性は②腫瘍性の細胞数43.2%,TP比84.0%,LD 86.5%,③肺炎の細胞数58.3%,TP比67.4%,LDは75.4%となった。④膿胸の細胞数100%,TP比86.0%,LD 98.6%,⑤結核の細胞数75.0%,TP比100%,LD 100%となった。各病態別の項目別感度をTable 3に示した。

Table 3 各病態別の項目別感度(%)
細胞数TP比LD
病態心不全85.867.871.1
腎不全・肝硬変・低栄養82.866.153.7
肺炎58.367.475.4
膿胸100.086.098.6
結核75.0100.0100.0
腫瘍性43.284.086.5

滲出性は細胞数がTP比・LDに比較して,感度が低いため,細胞数1,000/μL以上と細胞3分類を加え,ROC曲線を求めた。Youden Index結果から肺炎は好中球25%以上(AUC 0.565),感度は68.6%,特異度53.2%であった(Figure 2)。

Figure 2 肺炎における細胞3分類中の因子検索ROC曲線

細胞3分類の中でYouden Index結果は,好中球25%以上が,AUC 0.565を示した。

腫瘍性はその他の細胞20%(AUC 0.763)で,感度が75.3%,特異度70.2%となった(Figure 3)。

Figure 3 腫瘍性における細胞3分類中の因子検索ROC曲線

細胞3分類の中でYouden Index結果は,その他の細胞20%以上が,AUC 0.763を示した。

膿胸は好中球75%以上(AUC 0.947)で,感度95.9%,特異度82.2%(Figure 4),結核はリンパ球75%(AUC 0.921)で,感度83.3%,特異度86.7%であった(Figure 5)。

Figure 4 膿胸における細胞3分類中の因子検索ROC曲線

細胞3分類の中でYouden Index結果は,好中球75%以上が,AUC 0.947を示した。

Figure 5 結核における細胞3分類中の因子検索ROC曲線

細胞3分類の中でYouden Index結果は,リンパ球75%以上が,AUC 0.921を示した。

3)pH 7.2未満の病態は,①心不全2/148件 ②腫瘍性7/211件 ③肺炎28/179件 ④膿胸41/69件 ⑤結核0/15件 ⑥腎不全・肝硬変・低栄養0/93件であった。病態別にpH 7.2未満・以上の件数をTable 4に記載した。

Table 4 病態別pH 7.2以上・未満
pH 7.2以上pH 7.2未満
病態心不全1462
腎不全・肝硬変・低栄養930
肺炎15128
膿胸2941
結核150
腫瘍性2047

膿胸,肺炎は,Kruskal Wallis検定で有意差を認め,他の病態に比べpH 7.2未満が多かった。pH 7.2未満の件数が多かった膿胸と肺炎について,pH 7.2のROC曲線を求め細胞数と細胞成分を調べた。膿胸はFigure 6,肺炎はFigure 7に記載した。両病態ともAUCが一番高い成分は好中球であり,cut off値は膿胸94.5%,肺炎76.5%であった。

Figure 6 膿胸におけるpH 7.2のROC曲線

膿胸検体でpH 7.2のROC曲線は,好中球がAUC 0.740を示し,一番良い結果を示した。

Figure 7 肺炎におけるpH 7.2のROC曲線

肺炎検体で,pH 7.2のROC曲線は,好中球がAUC 0.910を示し,一番良い結果を示した。

pH 7.2とそれぞれの好中球のcut off値から,感度特異度を求め,膿胸は感度48.8%,特異度78.6%となりTable 5に示し,肺炎は感度85.7%,特異度82.1%でTable 6に示した。

Table 5 膿胸におけるpH 7.2と好中球94.5%のクロス表
pH分類
pH 7.2以上pH 7.2未満
好中球%94.5未満2221
94.5以上620

感度 48.8%

特異度 78.6%

Table 6 肺炎におけるpH 7.2と好中球76.5%のクロス表
pH分類
pH 7.2以上pH 7.2未満
好中球%76.5未満1244
76.5以上2724

感度 85.7%

特異度 82.1%

全病態を用いたpH 7.2のROC曲線は,AUC 0.919,Youden Index好中球は76.5%だった(Figure 8)。

Figure 8 全病態におけるpH 7.2のROC曲線

全病態を用いた。pH 7.2のROC曲線はAUC 0.919,Youden Index好中球は76.5%であった。

全病態におけるpH 7.2と好中球76.5%のクロス表は,感度86.3%,得度90.0%となった(Table 7)。

Table 7 全病態におけるpH 7.2と好中球76.5%のクロス表
pH分類
pH 7.2以上pH 7.2未満
好中球%76.5未満57311
76.5以上6469

感度 86.3%

特異度 90.0%

IV  考察

胸水検査において,一般検査では漏出性か滲出性の判断が行われ,細菌培養検査は感染症の確認,細胞診検査は癌の診断に使われている。昨年,日本臨床衛生検査技師会穿刺液検査標準化ワーキンググループから,穿刺液検体の細胞数と分類についての検査法が提案された8)。全病態726件について,漏出性と滲出性のROC曲線分析からYouden Indexを用いた細胞数は,cut off値1,000/μLであった。細胞数は,TP比やLDと比較して漏出性病態の心不全や腎不全・肝硬変・低栄養は感度が高いため,ROC曲線分析のAUC 0.757から,漏出性と滲出性の病態を識別するための細胞数基準値として使用できると思われた。

滲出性と漏出性の病態から求めたクロス集計(Table 2)では,滲出性は細胞数が特異度84.6%と高く,また感度はTP比78.9%,LD 84.8%と高いため,それぞれの特性を用い,滲出性・漏出性の判断や炎症性疾患の治療効果判定に有用である。

各病態別の漏出性病態を示す心不全や腎不全・肝硬変・低栄養は,細胞数における感度は心不全85.8%,腎不全・肝硬変・低栄養82.8%を示し,TP比やLDと比較し高かった。Romeroらの報告では,Lightの基準は約25%を誤って滲出性に分類されると証明されているため3),9),10),補助としてコレステロールやアルブミン,ビリルビンなど多くの検査項目が用いられ判断されている。今回の結果から我々は,漏出性の判断には,漏出性・滲出性区分した項目別クロス表より,特異度の高い細胞数が優れていると思われた。滲出性病態の感度は,腫瘍性はLD 86.5%,TP比84.0%と高く,肺炎はLD 75.4%とTP比67.4%になり,共に細胞数における感度は低かった。膿胸は細胞数の感度100%であり,細胞数測定の重要性を認めた。結核の感度はLDやTP比が100%となったが,件数が16件と少数のため,継続の検討が必要と思われる。滲出性は,TP比やLDより細胞数は感度が低いことから,cut off値細胞数1,000/μLと細胞分類の併用にて感度・特異度は上がるため,同時測定することにより診断意義が高まると考える。

TP比やLDの検査は,滲出性の診断に感度は高いため,胸水の滲出性スクリーニングに有用と示唆できた。細胞数は漏出性の特異度が高いことから,細胞数と細胞分類を活用し,疾患別推定ができると思われる。細胞分類は,腫瘍細胞の検出や膿胸による炎症を示唆する好中球,また結核を推定するリンパ球など白血球各細胞による診断意義が高いと考えられた。

ドレナージ適応を判断するpH 7.2以下については,膿胸や肺炎に多く認められた。今回全病態ROC曲線から求めたpHと一致したのは好中球であり,Youden Indexはcut off値76.5%,AUCは0.919で感度86.3%特異度90.0%と高いため,血液ガス分析装置のpH測定の補助的検査として考えられる。血液ガス分析装置での測定は値が変化するため緊急性が望まれ11),12),採取後直ちに測定が必要である。細胞数や細胞分類の検査と同時にドレナージ対応の判断ができれば患者のメリットにも繋がる。

また,穿刺液検査の自動化が進み,多項目自動血球分析装置をルーチンに使用し手軽な検査となっている13),14)。今回,細胞数算定や細胞分類は用手法による測定値を用いたが,用手法と多項目自動血球分析装置との相関は良好であった15)。多項目自動血球分析装置は,細胞数や細胞分類が数分で結果が出ることから,緊急検査に対応でき臨床にとって診断や治療に活用できると考えられる。

V  まとめ

滲出性胸水のスクリーニングにはTP比やLDが,漏出性胸水のスクリーニングには細胞数が適している。また胸水ドレナージの指標pH 7.2として,好中球76.5%以上が血液ガス分析装置でのpH測定と同等の基準と考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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