2022 Volume 71 Issue 2 Pages 257-262
目的:2021年7月に抗体カクテル薬,casirivimab-imdevimabの投与が本邦厚生労働省により特例承認された。今回,casirivimab-imdevimab投与による抗SARS-CoV-2抗体価の推移と臨床経過を検討した。方法:入院時酸素投与を要さない,重症化リスクを有するCOVID-19患者についてcasirivimab-imdevimab投与群と非投与群で抗ヌクレオカプシド蛋白抗体(抗N抗体)価および抗スパイク蛋白抗体(抗S抗体)価を測定し,臨床経過を比較した。結果:casirivimab-imdevimab投与群と非投与群の入院時患者背景に有意差は認められなかった。発症から抗S抗体陽転までの日数は非投与群では中央値12日に対して投与群では8日と有意に短縮していた。陽転時の抗S抗体価は投与群では中央値125 U/mLに対して非投与群では7.8 U/mLであり投与群で有意に高値であった。抗N抗体価の推移に両群間の有意差は認められなかった。発症から軽快までに要した日数は,非投与群では中央値14日に対して投与群では9日と有意に短縮していた。結語:casirivimab-imdevimab投与はSARS-CoV-2感染症の臨床経過を改善する可能性がある。また,casirivimab-imdevimab投与の効果判定には抗S抗体価の上昇の確認が有用である。
Aims: In July 2021, the administration of casirivimab-imdevimab, a neutralizing antibody cocktail, was approved by the Ministry of Health, Labor and Welfare of Japan. We aimed to examine the transition of the anti-severe acute respiratory syndrome coronavirus-2 (SARS-CoV-2) antibody titer and the clinical course of patients after casirivimab-imdevimab administration. Materials and Methods: High-risk patients with coronavirus disease-19 (COVID-19) infection who did not require oxygen administration on admission were divided into antibody-treated and untreated groups. We measured the titers of anti-SARS-CoV-2 nucleocapsid (N) protein and anti-SARS-CoV-2 spike (S) protein antibodies and compared the clinical courses of both groups. Results: There was no significant difference in the patient background at admission between the two groups. The median times from onset to anti-S seroconversion were 8 and 12 days in the antibody-treated and untreated groups, respectively; it was significantly shorter in the antibody-treated group. The median titers of the anti-S antibody at the time of seroconversion were 125 and 7.8 U/mL in the antibody-treated and untreated groups, respectively; it was significantly higher in the antibody-treated group. There was no significant difference in the anti-N antibody titer transition between the two groups. The median times from onset to recovery were 9 and 14 days in the antibody-treated and untreated groups, respectively; it was significantly shorter in the antibody-treated group. Conclusions: Casirivimab-imdevimab can improve the clinical course of patients with COVID-19. The measurement of titers of anti-S protein antibodies is useful in the evaluation of casirivimab-imdevimab efficacy.
2019年に発生した感染症COVID-19は,その原因ウイルスSARS-CoV-2に変異株が出現したことにより感染力が増強し,世界で依然として猛威を振っている。2021年8–9月には本邦において「第5波」が到来し,地域によっては医療崩壊と言える事態にまで至った。治療としてデキサメサゾン,抗ウイルス剤レムデシビル,サイトカインストームを合併した症例にはトシリズマブの投与などが実施されているが,中等症以上に重症化した症例に対して実施される治療である。
本邦では2021年7月に2つのモノクローナル抗体,casirivimabおよびimdevimabによる抗体カクテル療法(以下,casirivimab-imdevimab)が厚生労働省により特例承認された1)。対象は酸素投与を必要としない重症化リスクのあるCOVID-19患者であり,発症7日以内の投与により重症化予防の効果が期待されている。この2つの抗体は互いに競合することなくSARS-CoV-2のスパイク蛋白のreceptor binding domain(RBD)に結合し,スパイク蛋白とACE-2受容体との接着を阻害することにより宿主細胞へのウイルス感染を防御しうると考えられる2)。米国においては早期の少数例でのランダム化比較試験(randomized controlled trial; RCT)の結果から緊急使用を認め3),4),さらにRazonableら5)は多数症例での検討からcasirivimab-imdevimab投与が高リスクの軽症から中等症のCOVID-19患者の入院率を減少させることを報告した。発症早期の重症度の低い状態の患者に対して有効な治療があれば,重症化率即ち人工呼吸器や体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation; ECMO)を要する患者を減少させることができ,医療崩壊を回避する決定的な手段となりうる。
今回我々は,casirivimab-imdevimabを投与した酸素投与を要さないCOVID-19患者について,抗ヌクレオカプシド蛋白抗体および抗スパイク蛋白抗体の抗体価を測定し,抗体の陽転の時期および臨床症状を調査し,casirivimab-imdevimab導入前の同様の症状の患者と比較検討したので報告する。
本邦でcasirivimab-imdevimabが使用可能となった2021年7月19日以降1),2021年7月24日~2021年8月31日までの期間において,当院に入院したSARS-CoV-2陽性患者のうちcasirivimab-imdevimabを投与した患者11名(入院時酸素投与を要さなかった,重症化リスク因子を有する患者)をcasirivimab-imdevimab投与群(以下,投与群)とした。重症化リスク因子について,海外第III相試験(COV-2067試験)の組み入れ基準における重症化リスク因子を参照し,50歳以上,肥満(BMI 30 kg/m2以上),心血管疾患(高血圧を含む),慢性肺疾患(喘息を含む),1型又は2型糖尿病,慢性腎障害(透析患者を含む),慢性肝疾患,免疫抑制状態を重症化リスク因子とし,これらのうち少なくとも1項目を有する患者を「重症化リスク因子を有する患者」とした。casirivimab-imdevimabは発症から7日以内に投与した。
比較対象として,2021年3月~5月までの期間において,当院に入院したSARS-CoV-2陽性患者10名(入院時軽症~中等症Iで,重症化リスク因子を有する患者)をcasirivimab-imdevimab非投与群(以下,非投与群)とした。本検討において,ワクチン接種歴のある患者は対象から除外した。
2. 抗SARS-CoV-2抗体価の測定文書で同意を得たSARS-CoV-2陽性患者に対して抗SARS-CoV-2抗体を,入院中は週2回程度の頻度で経時的に測定した。抗SARS-CoV-2ヌクレオカプシド蛋白抗体(以下,抗N抗体)および抗SARS-CoV-2スパイク蛋白抗体(以下,抗S抗体)を,それぞれElecsys anti-SARS-CoV-2およびElecsys anti-SARS-CoV-2 Sを試薬として用いてCobas e801(ロシュ・ダイアグノスティクス)により測定した。カットオフ値は試薬添付文書をもとにそれぞれ抗N抗体価1.0(U/mL),抗S抗体価0.8(U/mL)とした。
3. SARS-CoV-2重症化マーカーの評価厚生労働省が示す新型コロナウイルス感染症診療の手引き中に挙げられているSARS-CoV-2重症化マーカーのうち6),リンパ球数,Dダイマー,CRP,LD,血清クレアチニンについて検討した。測定機器について,リンパ球数はADVIA2120i(シーメンス),DダイマーはCP3000(積水メディカル),CRP,LD,血清クレアチニンはCobas c702(ロシュ・ダイアグノスティクス)でそれぞれ測定した。
4. 統計学的解析連続変数はすべて中央値(最小値-最大値)で示した。統計学的検定はMann-Whitney U testを用いて検定を行い,p < 0.05を統計学的有意とした。
本研究は奈良県総合医療センター医の倫理委員会の承認を受け実施した(受付番号:564)。
2群の患者背景をTable 1に示す。すべての項目で2群間に有意差は認められなかった。
casirivimab-imdevimab (+) (n = 11) | casirivimab-imdevimab (−) (n = 10) | p value | |
---|---|---|---|
Age (years) | 53 (41–79) | 65 (44–82) | 0.052 |
Sex (male/female) | 7/4 | 7/3 | |
D-dimer (mg/dL) | 0.8 (0.6–4.6) | 0.9 (0.5–1.1) | 0.816 |
Lymphocyte (×102) | 9.2 (4.7–15.6) | 8.1 (4.6–14.4) | 0.870 |
CRP (mg/dL) | 0.94 (0.04–7.66) | 2.02 (0.10–6.55) | 0.431 |
LD (U/L) | 254 (153–453) | 213 (196–372) | 1.000 |
Creatinine (mg/dL) | 0.99 (0.56–1.77) | 0.85 (0.50–1.51) | 0.100 |
また,本検討におけるSARS-CoV-2感染症の重症化リスク因子の保有状況についてTable 2に示した。
casirivimab-imdevimab (+) | A | B | C | D | E | F | G | H | I | J | K |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
50 years or older | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||
Obesity (BMI ≥ 30 kg/m2) | ● | ● | ● | ● | |||||||
Cardiovascular disease (including hypertension) | ● | ● | |||||||||
Chronic lung disease (including asthma) | |||||||||||
Diabetes | ● | ||||||||||
Chronic kidney disease (including dialysis) | |||||||||||
Immunosuppresive disease or treatment |
casirivimab-imdevimab (−) | A | B | C | D | E | F | G | H | I | J |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
50 years or older | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | |
Obesity (BMI ≥ 30 kg/m2) | ||||||||||
Cardiovascular disease (including hypertension) | ● | ● | ● | ● | ||||||
Chronic lung disease (including asthma) | ● | |||||||||
Diabetes | ● | ● | ● | |||||||
Chronic kidney disease (including dialysis) | ||||||||||
Immunosuppresive disease or treatment | ● |
次に,2群における発症~抗体陽転までの日数および抗体価を検討した。陽転時の抗S抗体価は,投与群では中央値125(U/mL)に対して非投与群では7.8(U/mL)であり,投与群で有意に抗S抗体価は上昇していた。抗体陽転までの日数は,投与群で中央値8(日)であったのに対して非投与群では12(日)であり,投与群で日数は短縮していることを確認した(Table 3)。続いて,抗N抗体価について検討した。観察期間中,投与群では11名中6名で抗N抗体価の陽転が認められた。一方,非投与群では10名中9名で抗N抗体価の陽転が認められた。陽転時の抗N抗体価は,投与群では中央値5.7(U/mL)に対して非投与群では3.1(U/mL)であり,2群間に有意差は認められなかった。抗体陽転までの日数は,投与群で中央値10(日)に対して非投与群では12(日)であり,2群間に有意差は認められなかった(Table 3)。
casirivimab-imdevimab (+) | casirivimab-imdevimab (−) | p value | |
---|---|---|---|
Anti-spike proteins antibodies (U/mL) | 125 (90.3–157) | 7.8 (1.32–234) | < 0.01 |
time from onset to seroconversion (day) | 8 (5–9) | 12 (7–14) | < 0.01 |
Anti-nucleocapsid antibodies (U/mL) | 5.7 (1.9–12.5) | 3.1 (1.5–24.8) | 0.792 |
time from onset to seroconversion (day) | 10 (8–13) | 12 (6–16) | 0.155 |
また,投与群においてcasirivimab-imdevimab投与前後の体温を調べたところ,casirivimab-imdevimab投与前の平均体温は37.4 ± 0.5(℃),投与後1日目は38.8 ± 0.8(℃)まで体温の上昇を認めた。投与後2日目は37.3 ± 0.7(℃),投与後3日目には36.6 ± 0.5(℃)と,速やかな解熱を得られた(Figure 1)。一方,非投与群において入院時の平均体温は37.9 ± 0.2(℃),ステロイド投与後の平均体温は37.8 ± 0.7(℃)であったことから,非投与群における治療前後の体温変化は,投与群と比較すると急激な変化ではなかった。
Data are the mean ± SD.
最後に,SARS-CoV-2感染症発症から症状軽快までに要した日数を検討した。本検討における症状の軽快とは,新型コロナウイルス感染症診療の手引きに示されている「解熱剤を使用せずに解熱しており咳嗽などの呼吸器症状が改善傾向である状態」とした6)。その結果,非投与群では中央値14(日)であったのに対して,投与群では中央値9(日)と有意に短縮していた(Table 4)。
casirivimab-imdevimab (+) | casirivimab-imdevimab (−) | p value | |
---|---|---|---|
Period (day) | 9 (6–14) | 14 (10–30) | 0.003 |
本検討結果から,casirivimab-imdevimab投与によって発症から軽快するまでの日数が,非投与群と比較して投与群で有意に短縮していることが明らかとなった。非投与群は入院時軽症~中等症Iであったが,全例で入院途中から酸素投与が必要な中等症IIとなっていた。一方,投与群では経過中に酸素投与を要した患者はいなかった。本検討において,2群の入院時点での患者背景に差がなく,重症化リスク因子は2群ともに有していたにもかかわらず軽快が得られるまでの日数に有意差が認められたのは,casirivimab-imdevimab投与の有無が影響している可能性が大きいと考えられた。本検討における非投与群の調査時期はアルファ株の蔓延時期である一方,投与群の調査時期はほぼデルタ株に置き換わった時期と考えられる7),8)。デルタ株はアルファ株に比し重症化する比率も高いとされているが9),今回の検討では変異株に影響されないcasirivimab-imdevimabの有効性が示された。
また,casirivimab-imdevimab投与によって抗S抗体価は,中央値125(U/mL)まで速やかに上昇していた。Resman Rusら10)はアメリカ食品医薬品局が推奨する治療に適する回復期血漿の中和抗体価に匹敵する抗S抗体価を133(U/mL)と報告しており,本検討で得られたcasirivimab-imdevimab投与によりもたらされる抗S抗体価の上昇はこれに概ね一致している。一方,抗N抗体価は2群間で有意差は認められなかった。casirivimab-imdevimabは,SARS-CoV-2スパイク蛋白のRBDに結合する2種類の抗体によるカクテル薬であるため2),抗S抗体価の早期上昇が認められた。一方,抗N抗体はSARS-CoV-2既感染によって陽性となる。そのため,2群間での抗N抗体価および陽転までの日数についてはcasirivimab-imdevimab投与による影響が認められなかった。これらのことからcasirivimab-imdevimab投与効果には抗S抗体価,SARS-CoV-2感染状態の判定には抗N抗体価の経過観察が有用である。最近では,液体クロマトグラフィー質量分析法によってcasirivimab-imdevimab血中濃度を測定する手法も開発されているが11),現時点において抗S抗体価測定は,casirivimab-imdevimab投与効果を簡単に確認できる方法として有用であると考えられる。
Casirivimab-imdevimab投与可能な症例については,積極的に抗体カクテル療法を実施することで,重症化の回避や入院日数の短縮につながることが本検討でも確認された。Copinら12)は,casirivimab-imdevimabのウイルス変異株に対する有効性について興味深いことに,casirivimabおよびimdevimab単剤使用では耐性ウイルスの出現を抑制できないが,casirivimab-imdevimabの併用によってのみ耐性ウイルスの出現を抑制できたことを報告した。今後重症化回避だけでなく変異株出現低減効果,予防投与による感染回避や他剤との併用による有効性の改善など,casirivimab-imdevimabの可能性がさらに明らかになることが期待される。
今後もワクチンや抗体薬といったSARS-CoV-2感染症の治療や予防手段がますます広まっていくと思われる。最近では,ワクチン接種後にも関わらずSARS-CoV-2に感染してしまうケース,ブレイクスルー感染が散見されるようになってきた13)。ブレイクスルー感染と抗体価の関係やブレイクスルー感染後の抗体価の推移は今後の検討課題である。
本検討において,casirivimab-imdevimabを用いた抗体カクテル療法によりSARS-CoV-2感染症の重症化の回避および発症から軽快に至るまでの日数が短縮することが確認された。また,casirivimab-imdevimab投与効果の判定には抗S抗体価が有用であること,およびSARS-CoV-2感染状態の判定には抗N抗体価が有用であることがそれぞれ明らかとなった。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。