Japanese Journal of Medical Technology
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Materials
Report on the immunostaining survey at the 2021 Chubu Area Pathology and Cytology Seminar: Immunohistochemical staining of p53 antibody in the Chubu area
Hiaki SATOYuko TAMANONorio SASAKIAtsuko YOSHINOKinji SAKOJunichi SAKANEAtsushi ASANO
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2022 Volume 71 Issue 3 Pages 470-484

Details
Abstract

免疫染色は,病理診断や治療薬の選定において重要である。中部圏支部では病理技術の向上を目的に毎年免疫染色サーベイを実施しており,今回p53抗体サーベイについてその詳細を報告する。方法は,p53蛋白を発現する培養細胞株を貼付した未染標本を参加71施設に配布し,免疫染色実施後に標本と工程アンケートを回収した。その後石川県免疫染色サーベイ評価委員が目視にて評価を行い,ポイント4.0–3.7を最適,3.6–3.4を良好,3.3–3.1を許容範囲,3.0以下を要努力と判定した。最適または良好の場合,診断上支障がないと判定した。参加71施設中59施設(83%)が最適または良好な染色性であり,おおむね診断上支障のない標本という結果であったが,要努力と判定された4施設では至急改善が必要であった。染色手技の解析では推奨染色工程に準じている施設は41施設(62%)と少なく,各施設の一次抗体のメーカーや自動染色装置の機種,検出系が多岐にわたり,その組み合わせが評価結果に影響する可能性が示唆された。免疫染色は,各施設の一次抗体のクローンや管理法,自動染色装置の機種,検出系の違い等が染色結果に影響を及ぼすため,手技や工程を統一しても施設間差をなくすことは困難である。しかし,本事業を定期的に行い自施設の結果を顧みて現状を把握し,検討と改善を図っていくことが免疫染色の質的保証や標準化への推進に繋がるものと考える。

Translated Abstract

Immunostaining aids in pathological diagnosis and selection of therapeutic agents. The Chubu Branch of Japanese Association of Medical Technologists conducts an annual immunostaining survey with the aim improving techniques of histopathological analysis. Unstained specimens labeled with cultured cell lines expressing the p53 protein were distributed to 71 participating institutions, and the specimens and process questionnaires were collected after immunostaining was performed. Members of a committee for evaluating Ishikawa cell immunostaining visually assessed the specimens: staining scores of 4.0–3.7 points were optimal, those of 3.6–3.4 points were good, those of 3.3–3.1 points were acceptable, and those of points below 3.0 indicated that more effort was required. Optimal or good scores were judged as not interfering with diagnosis. Of the 71 participating centers, 59 (83%) had optimal or good staining techniques and no diagnostic problems, whereas four centers required immediate improvement. Only 41 laboratories (62%) followed the recommended staining process, which suggests that the results may be affected by the combination of manufacturers of primary antibodies with various types of automated staining equipment and detection systems. Clones of primary antibodies, management methods, models of automated staining equipment, and differences in detection systems at each institution affect immunostaining results, and it is difficult to eliminate interinstitutional differences even if techniques and processes are standardized. However, we believe that quality assurance and standardization of immunostaining will be realized if these surveys are conducted regularly, the results of facilities are reviewed, the current situation is understood, and the results are examined and improved.

I  はじめに

免疫組織化学染色(以下,免疫染色)は,病理組織診断だけでなく,治療薬の選定を行う上でもその重要性が高まっている。一方で免疫染色は1抗原に対する複数のクローン抗体が存在し,それに対応した検出系キットや染色装置が発売されていることから,手技の統一が非常に困難な状況となっている。このような状況下ではあるが診断に十分な染色標本を担保するための精度管理や施設間差の是正を目指して,中部圏内の多施設が共同して免疫染色サーベイを毎年実施している。

今年度中部圏ではp53抗体を用いて免疫染色サーベイを実施した。染色工程アンケート集計結果と染色性評価結果について報告する。

II  実施要領

3種類の異なるp53蛋白発現を示す培養細胞株を貼付した未染色標本を用いた(購入先:株式会社パソロジー研究所)。固定などの条件が一定で安定した染色結果が得られる試料を選定した。

各細胞株を10%中性緩衝ホルマリンで24時間固定し,遠心して得た細胞沈査をパラフィン包埋して,コア1.5 mm径の細胞アレイ標本を作製した後,厚さ4 μmに薄切した。

未染色標本1枚を各施設に配布し,標本内に各施設の内部精度管理(外部コントロール)切片を貼付した後,免疫染色を実施した(Figure 1)。免疫染色は自施設で保有している抗体,抗原賦活液等にて通常行っている染色方法にて実施していただいた。免疫染色実施後に標本と染色工程アンケートを回収した。

Figure 1 配布標本

①Core 1:強陽性 ②Core 2:弱陽性 ③Core 3:陰性

使用スライドガラス:松浪硝子工業株式会社

プラチナプロスライドガラス

1. 評価判定方法

評価方法は,Table 1の評価基準と評価補足事項に基づき,減点法にて目視評価を行った。評価基準は4段階評価(最適,良好,許容範囲,要努力)とし,Core 1–3のそれぞれを評価した後その平均値を算出し,施設の評価点数とした。

Table 1  p53免疫染色サーベイ(評価方法)
評価 判定 評価基準
4.0–3.7 最適 十分な染色性の標本
染色強度,陽性率,非特異的反応など,特に問題なし
Core 1(強陽性)およびCore 2(弱陽性):陽性となるべき染色性が十分であること
Core 3(陰性):陰性であること
非特異的反応(細胞質染色,背景染色,内因性ビオチン)は無もしくは軽度であり,診断に支障をきたさない
総じて診断に十分な染色性である
3.6–3.4 良好 診断に支障がない標本
一部のCoreに染色性が弱く,陽性率の低い組織がある
非特異的反応(細胞質染色,背景染色,内因性ビオチン)は軽度であり,診断に支障をきたさない
陽性反応強度に問題ないが核染色(ヘマトキシリン)が弱く,コントラストが悪い
3.3–3.1 許容範囲 改善の余地があるが,診断に支障がない標本
複数のCoreに染色性が弱く,陽性率の低い組織がある
非特異的反応(細胞質染色,背景染色)が目立つが,診断に支障はない
診断に問題ない染色性であるが,染色工程に改善の余地がある
陽性反応強度に問題ないが核染色(ヘマトキシリン)が弱く,コントラストが悪い
内因性ビオチンによる非特異反応を認めるが診断に支障はない
3.0以下 要努力 診断に苦慮(判断に迷う)染色性の標本
全体として陽性反応が弱い(強拡大で辛うじて陽性反応が出来る)
全体として非特異的反応を認める(陽性所見と背景染色のコントラストが悪いが,陽性所見は辛うじて判別できる)

評価点数は,7名の臨床検査技師(うち認定病理検査技師5名)から成る石川県免染サーベイ評価委員が目視評価を行い,各施設の評価点数を算出した。そして最高点1名と最低点1名を除いた5名の平均点数(小数点第3位以下を四捨五入)を各施設の総合評価とした。標本の是非は最終的に病理専門医1名に確認いただいた。

評価基準は,中部圏支部が持ち回りで担当している事業であるため,出来る限り同じ基準で行うことを目指すという観点から,前年度担当の静岡県を踏襲した。

〈補足事項〉

・4社のメーカーに免疫染色を依頼し,各メーカー推奨条件での染色結果を基準として参加施設の染色性を評価した。

〈協力企業〉

アジレントテクノロジー株式会社,ライカマイクロシステムズ株式会社,株式会社ニチレイバイオサイエンス,ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社(順不同)

・本調査ではすべての施設が「最適」もしくは「良好」に達することが望まれる。

・染色条件により一部,細胞変性が強い組織がみられるが染色性に特段の問題がない場合は細胞変性を評価対象にしない。

・コントロール切片は評価対象外とする。

2. 報告書様式

報告書には,総合評価と評価コメント,染色標本画像(各施設,参加施設における高評価施設,各メーカー推奨プロトコールで染色したもの)を記載した(Figure 2)。また,参考として,4社のメーカーの推奨プロトコール/デフォルトプロトコール(Table 2)による染色標本画像も記載した。

Figure 2 報告書様式

報告書には,総合評価と評価コメント,染色標本画像(各施設,参加施設における高評価施設,各メーカー推奨プロトコールで染色したもの)を記載した。

Table 2  メーカー推奨プロトコール/デフォルトプロトコール
染色機・検出系 染色方法-メーカー名 機械法-Agilent,DAKO 機械法-Leica 機械法-ニチレイ
機種名 Autostainer Link 48 BOND MAX ヒストステイナー
検出キット名(検出系) DAKO:Envision FLEX Leica:Bond Polymer Refine Detection ニチレイ:シンプルステイン
MAX-PO
内因性ペルオキシダーゼブロック 試薬 市販品-DAKO 市販品-Leica 市販品-ニチレイ
時間(分) 5分 5分 5分
反応温度(℃) 室温 室温 室温
実施のタイミング 一次抗体前 発色前 一次抗体前
賦活処理 方法-器具 加熱:PT Link 加熱:装置の賦活機能 加熱(温浴処理):恒温槽
試薬 DAKO:Target Retrieval Solution,
pH 9
Leica:Bond Epitope Retrieval Solution 2(High pH) ニチレイ:脱パラ抗原賦活化液
pH 9
温度(℃) 97℃ 100℃ 95–99℃
時間(分) 20分 20分 40分
一次抗体 種別 モノクローナル モノクローナル モノクローナル
メーカー アジレント・テクノロジー株式会社 Leica 株式会社 ニチレイバイオサイエンス
クローン DO-7 DO-7 DO-7
希釈倍率 希釈済抗体 希釈済抗体 希釈済抗体
希釈後の経過時間 1ヶ月以内
反応温度(℃) 室温 室温 室温
反応時間(分) 20分 15分 30分
リンカー,反応増強剤 試薬 使用していない Leica:Bond Polymer Refine Detection 使用していない
反応温度(℃) 室温
反応時間(分) 8分
検出系 メーカー(検出キット名) DAKO:Envision FLEX Leica:Bond Polymer Refine Detection ニチレイ:シンプルステイン
MAX-PO
温度(℃) 室温 室温 室温
反応時間(分) 20分 8分 30分
発色 試薬 DAKO:DAB + Liquid Leica:DAB その他(試薬名:ニチレイ:DAB基質キット(ヒストステイナー用))
温度(℃) 室温 室温 室温
反応時間(分) 10分 10分 10分
核染色 試薬 既製品:DAKO 既製品:Leica 既製品:ニチレイ
温度(℃) 室温 室温 室温
反応時間(分) 5分 5分 3分
染色機・検出系 染色方法-メーカー名 機械法-Roche(ベンタナ)
機種名 BenchMark ULTRA
検出キット名(検出系) Roche:I-View Roche:ultraView Roche:OptiView Roche:I-View Roche:ultraView Roche:OptiView
内因性ペルオキシダーゼブロック 試薬 市販品-Roche
時間(分) 4分
反応温度(℃) 36℃
実施のタイミング 一次抗体前
賦活処理 方法-器具 加熱:装置の賦活機能
試薬 Roche:CC1
温度(℃) 95℃ 95℃ 100℃ 95℃ 95℃ 100℃
時間(分) 64分 64分 32分 64分 64分 32分
一次抗体 種別 モノクローナル
メーカー ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社
クローン DO-7 Bp-53-11
希釈倍率 希釈済抗体
希釈後の経過時間 1年以内 2年以内
反応温度(℃) 36℃
反応時間(分) 32分 16分 16分 32分 16分 8分
リンカー,反応増強剤 試薬 使用していない
反応温度(℃)
反応時間(分)
検出系 メーカー(検出キット名) Roche:I-View Roche:ultraView Roche:OptiView Roche:I-View Roche:ultraView Roche:OptiView
温度(℃) 36℃
反応時間(分) 16分 8分 16分 16分 8分 16分
発色 試薬 Roche:I-View DAB Roche:ultraView DAB Roche:OptiView DAB Roche:I-View DAB Roche:ultraView DAB Roche:OptiView DAB
温度(℃) 36℃ 36℃ 36℃ 36℃ 36℃ 36℃
反応時間(分) 12分 12分 12分 12分 12分 12分
核染色 試薬 既製品:Roche
温度(℃) 36℃
反応時間(分) 12分 12分 8分 12分 12分 8分

3. 参加施設

参加施設は計71施設で,愛知県22施設,静岡県16施設,富山県13施設,岐阜県8施設,石川県7施設,三重県4施設,中部圏外からも1施設の参加があった。

III  結果

1. 染色性評価結果

参加施設71施設中,判定が最適となったのは43施設(61%),良好は16施設(22%),許容範囲は8施設(11%),要努力は4施設(6%)であった(Figure 3)。十分な染色性で診断上問題がないとする最適又は良好と判定されたのは,59施設(83%)であった。

Figure 3 染色性評価結果

参加71施設の目視評価による染色性評価結果の内訳を示す。

2. 各染色工程の集計結果

1) 染色方法とメーカー,機種

機械法は66施設(93%),用手法は5施設(7%)であり,大部分が機械法であった。機械法のメーカーは,Rocheが36施設(51%),Leicaが18施設(25%),ニチレイが7施設(10%),Agilentが5施設(7%)となった(Figure 4)。

Figure 4 染色方法と機械法のメーカー

染色方法は参加施設の大部分が機械法(93%)であった。機械法の各メーカー(Agilent,Leica,ニチレイ,Roche)の内訳を示す。

次に,各メーカーにおける機種の詳細を以下に示す(Figure 5)。

Figure 5 各メーカーにおける機種

各メーカー(Agilent,Leica,ニチレイ,Roche)における機種の詳細について示す。

① Roche:Bench Mark

Bench Mark ULTRAが22施設(31%)と最も多く,次いでGXが7施設(10%),XTが6施設(9%),HXが1施設(1%)であった。

② Leica:Bond

Bond-Maxが13施設(18%),Bond-IIIが5施設(7%)であった。

③ ニチレイ:ヒストテイナー

7施設全て(10%)がヒストテイナーであった。

④ Agilent

Autostainer Link48が4施設(6%),OMNISが1施設(1%)であった。

2) 一次抗体のクローンとメーカー

一次抗体のクローンは,DO-7が67施設(94%)となり大部分を占めた(Figure 6)。DO-7のメーカーは,Agilentが28施設(40%)と最も多く,次いでRocheが17施設(25%),Leicaが11施設(16%),ニチレイが11施設(16%)となった(Figure 7)。

Figure 6 一次抗体のクローン

参加施設の大部分がDO-7(94%)を使用していた。

Figure 7 一次抗体のクローンとメーカー

DO-7のメーカーはAgilentが40%を占め,最も多かった。

3) 一次抗体の希釈状態

今回参加された施設では,一次抗体の希釈済み抗体はAgilent,Leica,ニチレイ,Roche,濃縮抗体はAgilent,Leica,Santa Cruz Biotechnology(以下,SANTA CRUZ),Thermo Fisher Scientificを使用していた。希釈済み抗体使用は33施設(46%)であり,濃縮抗体使用は34施設(48%)と同程度であった。希釈済み抗体をさらに希釈して使用している施設は4施設(6%)であった(Figure 8)。

Figure 8 一次抗体の希釈状態

希釈済み抗体使用施設と濃縮抗体使用施設の割合は同程度であった。

4) ヘマトキシリンのメーカー

対比染色は,全施設がヘマトキシリンを使用していた。ヘマトキシリンは,機械専用ヘマトキシリンが46施設(65%),自家製ヘマトキシリンが18施設(25%),その他が7施設(10%)であった。機械専用ヘマトキシリンのメーカーは,Rocheが26施設(37%),Leicaが16施設(23%),Agilentが3施設(4%),ニチレイが1施設(1%)であった。

5) コントロール切片使用の有無

外部コントロールを使用しているのは71施設中59施設(83%)であった(Figure 9)。その内訳は大腸がんが19施設(30%)と最も多く,子宮体がんが9施設(14%),胃がんが4施設(7%),膠芽腫が3施設(5%)と続き,その他が14施設(22%)であった(Figure 10)。マルチコントロールとセルラインには陰性コントロールも含まれていた。

Figure 9 コントロール切片使用の有無

参加施設の83%が外部コントロールを使用していた。

Figure 10 コントロール切片の内訳

大腸がんが最も多く30%を占めており,次いで子宮体がんが14%,胃がんが7%であった。

外部コントロールは腫瘍部のみ,或いは腫瘍部と正常部の混合であった。その陽性率は80%~100%が50例(80%)と大部分を占め,70%~50%が9例(14%),20%以下が4例(6%)であった。弱陽性~強陽性が混在する症例や強陽性のみの症例があり,発現強度は施設により異なっていた。また,陽性率が100%の中には細胞質に共染を示すものもあった。

外部コントロールを用いない理由として,「明確な理由はない」,「作業の簡略化のため」,「インターナルコントロールで代用している」,「今後は精度管理上他の抗体も含め外部コントロールを載せる方針だが,現時点では差し迫った理由がない」と挙げられていた。

6) 染色工程について

機械法における染色工程は自己申告とし,推奨染色工程は41施設(62%),改変染色工程は20施設(30%),独自染色工程は5施設(8%)であった。しかし,推奨染色工程においても抗体や機械,検出系が一致しておらず,各工程の反応温度や反応時間も多彩であった。そもそも推奨染色工程が明確でないこともあり,施設により認識に差がみられた。推奨染色工程のうち,各工程が完全に一致したのは5施設のみであった(Agilent:3施設,LeicaとRoche:各1施設)。推奨染色工程だが抗体が他メーカーであるのが5施設(全てLeica)であった。

改変染色工程の20施設における染色機械の内訳は,Leica(Bond-Max:6施設,Bond-III:2施設),Roche(Bench Mark ULTRA:5施設,Bench Mark GX:3施設),ニチレイ(ヒストテイナー:3施設),Agilent(Autostainer Link48:1施設)であった。

7) 染色機械別使用抗体メーカーの比較(Figure 11
Figure 11 染色機械別使用抗体メーカーの比較

各メーカー(Agilent,Leica,ニチレイ,Roche)の染色機械と一次抗体のメーカーの内訳について詳細を示す。

染色機械がAgilentの場合,5施設全てが同一メーカーの一次抗体を使用していた。これに対して染色機械がLeicaの場合,一次抗体はAgilentが8施設(44%),Leicaが5施設(28%),ニチレイが2施設(11%),Immuno-Biological Laboratories Co, Ltd.(以下,IBL)とRoche,SANTA CRUZが各1施設(6%)であった。染色機械がRocheの場合,一次抗体は同一メーカーが17施設(47%),Agilentが10施設(28%),Leicaが5施設(14%),ニチレイが3施設(8%),Thermo Fisher Scientificが1施設(3%)となった。染色機械がニチレイの場合,一次抗体はAgilentが4施設(57%),ニチレイが3施設(43%)であった。用手法では,一次抗体はニチレイが3施設(60%),Agilentが1施設(20%),Leicaが1施設(20%)であった。これより,染色機械がAgilentの場合を除いて,染色機械と一次抗体のメーカーは必ずしも一致していないことが示された。

8) 検出系別使用抗体メーカーの比較(Figure 12
Figure 12 検出系別使用抗体メーカーの比較

各メーカー(Agilent,Leica,ニチレイ,Roche)の検出系と一次抗体のメーカーの内訳について詳細を示す。

検出系がAgilentの場合,1施設を除いて9施設(90%)が同一メーカーの一次抗体を使用していた。これに対して検出系がLeicaの場合,一次抗体はAgilentが8施設(44%),Leicaが5施設(28%),ニチレイが2施設(11%),IBLとRoche,SANTA CRUZが各1施設(6%)であった。検出系がRocheの場合,一次抗体は同一メーカーが17施設(47%),Agilentが10施設(28%),Leicaが5施設(14%),ニチレイが3施設(8%),Thermo Fisher Scientificが1施設(3%)となった。検出系がニチレイの場合,一次抗体は同一メーカーが5施設(72%),AgilentとLeicaが各1施設(14%)であった。

これより,検出系がAgilentとニチレイでは同一メーカーの一次抗体を使用している割合が高いものの,検出系と一次抗体のメーカーは必ずしも一致していないことが示された。

3. 染色性目視評価結果

1) 一次抗体(クローン)と染色性目視評価結果との関連(Figure 13
Figure 13 一次抗体(クローン)と染色性目視評価結果

各メーカーの一次抗体における染色性目視評価結果(最適,良好,許容範囲,要努力)の内訳について詳細を示す。

各抗体における「最適」判定施設は,Agilent DO-7では16施設/28施設中(57%),Leica DO-7では9施設/11施設中(82%),ニチレイDO-7では7施設/11施設中(64%),Rocheでは9施設/17施設中(53%),その他では2施設/4施設中(50%)であった。その他4施設の内訳は,IBL Bp53-12,SANTA CRUZ DO-1,Thermo Fisher Scientific SP5,Roche Bp-53-11であった。

さらに詳細に検討した結果をTable 3に示す。一次抗体がAgilent DO-7で検出系がRocheの場合,「許容範囲」の1施設の染色標本は細胞質に非特異反応を認めた。染色工程を比較すると,「最適/良好」の施設では抗原賦活の時間が60~64分であったのに対して,「許容範囲」の施設では8分であった。

Table 3  一次抗体(クローン)と染色装置/染色法,検出系と染色性目視評価結果の関連
一次抗体メーカー clone 染色装置/染色法 検出系 該当施設数 評価別施設数
最適 良好 許容範囲 要努力
Agilent DO-7 Roche Roche 10 6 3 1
Leica Leica 8 2 1 4 1
Agilent Agilent 5 5
ニチレイ Agilent 3 1 1 1
ニチレイ 1 1
用手法 Agilent 1 1
Roche DO-7 Roche Roche 16 8 7 1
Leica Leica 1 1
Bp-53-11 Roche Roche 1 1
Leica DO-7 Roche Roche 5 5
Leica Leica 5 4 1
用手法 ニチレイ 1 1
ニチレイ DO-7 Roche Roche 3 3
ニチレイ ニチレイ 3 2 1
Leica Leica 2 1 1
用手法 ニチレイ 2 1 1
Agilent 1 1
IBL Bp-53-12 Leica Leica 1 1
SANTA CRUZ DO-1 Leica Leica 1 1
Thermo Fisher Scientific SP5 Roche Roche 1 1
合計 71(100%) 43(60%) 16(23%) 8(11%) 4(6%)

Agilent DO-7で検出系がLeicaの場合,「許容範囲」の施設が最も多くなり評価別施設数にばらつきがみられた。「許容範囲/要努力」の5施設の染色標本は,細胞質に非特異反応を認め,Core 2(弱陽性)においては核に疑陽性反応がみられ過染と評価された。「最適/良好」の施設と「許容範囲/要努力」の施設の染色工程を比較すると,前者では一次抗体希釈液はLeica-Antibody Diluent(2施設/3施設中:67%)を使用し,後者はDako-Antibody Diluent REAL(3施設/5施設中:60%)を使用している割合が高い傾向にあった。Roche DO-7で検出系が同一メーカーであっても,「最適」は8施設,「良好」は7施設,「要努力」は1施設と評価が分かれた。各評価における染色標本を比較すると,「良好」の施設では細胞質に非特異反応を認め,「要努力」の施設では細胞質の非特異反応とCore 2(弱陽性)においては核に疑陽性反応がみられた。染色工程を比較すると,「最適」の施設ではBench Mark ULTRA(7施設/8施設中:88%)を使用している割合が高いのに対して,「良好/要努力」の施設ではBench Mark ULTRA以外(GX,HT,XT)(7施設/8施設中:88%)を使用していた。検出系は機種に関わらずI-Viewを使用している割合(9施設/16施設中:56%)が高く,「最適」の施設では,Bench Mark ULTRAとI-Viewの組み合わせが半数であった(4施設/8施設中:50%)。また,「要努力」の施設では,抗体希釈後3年以上経過しており,内因性ビオチンブロックとリンカー/反応増強剤を使用していた。

2) 染色機械メーカーと染色性目視評価結果との関連(Figure 14
Figure 14 染色機械メーカーと染色性目視評価結果

各メーカー(Agilent,Leica,ニチレイ,Roche)の染色機械と染色性目視評価結果(最適,良好,許容範囲,要努力)の内訳について詳細を示す。

各染色機械メーカーにおける「最適」評価施設は,染色機械がAgilentでは5施設/5施設中(100%),Leicaでは10施設/18施設中(56%),ニチレイでは4施設/7施設中(57%)Rocheでは22施設/36施設中(61%)となり,用手法では2施設/5施設中(40%)であった。

さらに詳細に検討した結果をTable 4に示す。染色機械メーカーはLeicaで一次抗体がAgilentの場合,8施設中「最適/良好」が3施設,「許容範囲/要努力」が5施設となった。染色工程を比較すると,「最適/良好」の施設ではBond III(2施設/3施設中:67%)を使用している割合が高いのに対して,「許容範囲/要努力」の施設では全施設がBond Max(5施設/5施設中:100%)を使用していた。

Table 4  染色機械メーカーと染色性目視評価結果の関連
染色装置/染色法 一次抗体メーカー 検出系 該当施設数 評価別施設数
最適 良好 許容範囲 要努力
Agilent Agilent Agilent 5 5
Leica Agilent Leica 8 2 1 4 1
Leica Leica 5 4 1
ニチレイ Leica 2 1 1
IBL Leica 1 1
Roche Leica 1 1
SANTA CRUZ Leica 1 1
Roche Roche Roche 17 8 8 1
Agilent Roche 10 6 3 1
Leica Roche 5 5
ニチレイ Roche 3 3
Thermo Fisher Scientific Roche 1 1
ニチレイ Agilent Agilent 3 1 1 1
ニチレイ 1 1
ニチレイ ニチレイ 3 2 1
用手法 ニチレイ ニチレイ 2 1 1
Agilent 1 1
Agilent Agilent 1 1
Leica ニチレイ 1 1
合計 71(100%) 43(60%) 16(23%) 8(11%) 4(6%)

次に,染色機械メーカーと抗体のメーカー,検出系の一致率をTable 5に示す。一致率は染色機械メーカーがAgilentの場合は5施設/5施設中(100%),Leicaでは5施設/18施設中(28%),ニチレイでは3施設/7施設中(43%)Rocheでは17施設/36施設中(47%)であった。

Table 5  染色機械メーカーと抗体のメーカー,検出系の一致率
染色機械メーカー 該当施設数 抗体メーカー,検出系一致施設数 一致率(%)
Agilent 5 5 100
Leica 18 5 28
ニチレイ 7 3 43
Roche 36 17 47

3) 一次抗体の希釈状態と染色性目視評価結果との関連

一次抗体の希釈状態(希釈済み抗体/希釈済み抗体をさらに希釈/濃縮抗体を希釈)と染色性目視評価結果について,Figure 15に示す。「最適」となった施設は,希釈済み抗体は20施設/33施設中(61%),濃縮抗体を希釈は19施設/34施設中(56%)と同程度であり,希釈済み抗体をさらに希釈では4施設全てであった。

Figure 15 一次抗体の希釈状態と染色性目視評価結果

一次抗体の希釈状態における染色性目視評価結果(最適,良好,許容範囲,要努力)の内訳について詳細を示す。

希釈済み抗体をさらに希釈していた4施設の抗体メーカーの内訳は,Agilentが2施設(いずれも10倍希釈),Leicaが1施設(3倍希釈)Rocheが1施設(5倍希釈)であり,全施設がLeica-Antibody Diluentを用いて希釈していた。

4社のメーカー推奨プロトコール/デフォルトプロトコール(Table 2)による染色標本画像(Figure 16)と参加施設における高評価施設の染色標本画像(Figure 17)を示す。

Figure 16 各メーカーの推奨プロトコール/デフォルトプロトコールによる染色標本画像

左からCore 3(陰性),Core 2(弱陽性),Core 1(強陽性)を示し,上段からAgilent,Leica,ニチレイ,Rocheの染色標本画像を示す。

Figure 17 参加施設における高評価施設の染色標本画像

参加施設の番号とその施設が使用している染色機械のメーカー名を示し,左からCore 3(陰性),Core 2(弱陽性),Core 1(強陽性)の染色標本画像を示す。

IV  考察

今回実施したp53抗体免疫染色サーベイにおいて,90%以上の施設が自動染色装置を使用していた。国内の主要なメーカーは4社あり,各社それぞれに特徴を備えている1)

本サーベイでは参加施設の83%が十分な染色性であり,診断上支障のない標本という良好な結果が得られた。しかし,メーカー推奨染色工程に準じている施設は少なく,各施設で使用している一次抗体のメーカーや自動染色装置の機種,検出系の組み合わせが多岐にわたることが示された。このような背景が免疫染色の精度管理や標準化を難しくしていると以前から報告されている2)

一次抗体と染色装置/染色法,検出系と染色性目視評価結果の関連において,一次抗体のメーカーと染色装置/染色法,検出系のメーカーは必ずしも同一ではなく,その組み合わせによって目視評価結果に差を生じる可能性があること,各染色工程を同一メーカーに揃えて実施しても必ずしも高評価とはならず,その逆の場合もあることが示された。

同様に,染色機械メーカーと染色性目視評価結果の関連からは,染色機械メーカーや機種により目視評価結果に差を生じる可能性が示唆された。

また,一次抗体は,希釈済み抗体使用施設と濃縮抗体使用施設はほぼ同数であり,目視評価結果に差は見られなかった。濃縮抗体のメーカーとは異なるメーカーの抗体希釈液を用いている施設が多く,同一のメーカーでなくても目視評価結果は高評価の傾向を認めた。希釈済み抗体をさらに希釈して使用いる施設も少数あり,全施設が抗体と異なるメーカーの抗体希釈液を使用していた。

各メーカーの希釈済み抗体の抗体希釈液の組成の詳細については明らかではないが,自動染色装置と検出系との相乗効果で高感度な検出系システムを構築するために,各抗体の最適な条件に合わせて調整されていると思われる。抗体希釈液のpHやイオン強度の違いが抗体と標的物質の特異的な結合の強弱に作用し,染色結果に大きく影響すると考えられることから,用いる抗体に適した抗体希釈液を選定することが重要である。

このように施設により各染色工程における試薬等のメーカーが混在し多種多様であることは,各施設が独自に染色条件を検討し,診断精度の向上に努めている現れと推測している。しかしその反面,施設間差の要因のひとつにも繋がり,施設間差解消の難しさを示している。

次に,外部コントロールは約80%の施設で使用しており,大部分が80~100%の陽性率を示す大腸や子宮体部の腫瘍組織を使用していた。発現強度は弱陽性~強陽性が混在する標本と強陽性のみの標本があった。陽性率が100%の中には細胞質に共染を示し,過染気味の標本もあった。

適切な外部コントロールとは単に陽性であれば良いのではなく,段階的に染色強度が確認できることが求められる3),4)。HER2免疫染色のように染色強度が治療選択に直結する場合はより慎重にコントロール標本を選定する必要がある。免疫染色で半定量的な評価を行う場合,強陽性の細胞をコントロールに使用すると過染色に気づくことができないからである。極端な強陽性ではなく2+であれば,試薬の状態や染色工程,手技上の問題が染色性に反映されやすい。

今回外部コントロールとして子宮体がんを用いた施設が多かったが,子宮内膜の核内にはビオチン(ビタミンH)が貯留する場合がある。熱処理を用いた抗原賦活化後にavidin-biotin-peroxidase complex法(ABC法)やlabeled streptavidin biotin法(LSAB法)を行った場合,内因性のビオチンが陽性を呈することがある5)

また,コントロール専用組織の固定条件を把握し,薄切後に抗原性が低下する場合があることを念頭におく必要がある。今回使用したp53やKi67などの核内抗原については薄切後に抗原性が低下するとの報告があり,保存時間や保存温度も重要である6),7)

外部コントロールを使用しない理由のひとつとして,「インターナルコントロールで代用している」ことが挙げられていた。インナーナルコントロールは簡便な方法であるが,染色性が十分でなかった場合,染色工程や試薬の調整不良,あるいは固定条件等どの段階に原因があるのか特定できないことを理解しておく必要がある3)

伊藤ら8)は,コントロールは理想的には検体と同じプレパラート上に置かれるべきであり,外部コントロールを置くことの重要性を説いている。外部コントロールとしては陽性部分と陰性部分が適切に含まれているものが望ましく,マルチコントロールブロック,多種類の抗体のコントロールに使用できるものに虫垂を挙げている4),8)。加えて,免疫染色の精度管理には,病理医と技師の間で十分なコミュニケーションを取り日常的に相互的フィードバックをするような体制にすること,自動免疫染色の精度管理においてPDCAサイクルの考え方が有効であると述べている。

V  結語

今回の免疫染色サーベイ実施結果から,診断に十分な染色性の標本であるものの,各施設で使用している一次抗体のメーカーや試薬,自動染色装置の機種,検出系が多岐にわたり,その組み合わせが評価結果に影響する可能性が示唆された。

免疫染色は,各施設の一次抗体のクローンや管理法,自動染色装置の機種,検出系の違い等が染色結果に影響を及ぼすため,手技や工程を統一しても施設間差をなくすことは困難である。しかし,本事業を定期的に行い自施設の結果を顧みて現状を把握し,検討と改善を図っていくことが免疫染色の質的保証や標準化への推進に繋がるものと考える。

本報告結果が,各施設で抗体や染色工程,外部コントロールを選定する際の一助となれば幸いである。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

2021年度中部圏支部病理細胞検査研修会企画p53抗体免疫染色サーベイにご協力いただきましたご施設,企業の皆様に厚く御礼申し上げます。

文献
 
© 2022 Japanese Association of Medical Technologists
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