Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Flags indicating abnormal coloration of urinary glucose in US-3500 automatic urine analyzer
Kanako OBATAKuniko MABUCHINaomi ISHIBASHIYoko KINUTAYu AKAISHI
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2022 Volume 71 Issue 3 Pages 436-442

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Abstract

尿試験紙による尿定性検査は,目視法と尿自動分析装置による装置判定法があり,装置判定は濃度判定と同時に異常発色の判定を行う付加機能も有している。今回我々は,全自動尿分析装置US-3500を用いた尿糖の測定で異常発色フラグが表示されたが,目視判定では異常発色を認めない検体を複数経験し,乖離原因の検討を行った。尿糖定量値との比較や数種類のLotの試験紙を用いた測定を行った結果,異常は確認されなかったことから,US-3500の尿糖異常発色識別基準に疑問を抱き,メーカーに検討を依頼した。測定で得られた反射率から演算した指数を異常発色識別基準に当てはめたプロット図を作成した結果,識別ライン付近に分布している検体が複数あり,異常発色フラグが表示されやすい設定になっていたことが判明した。本検討を契機に,メーカーによるUS-3500の装置パラメーターの改良が行われた。パラメーター変更後は,異常発色と誤判定される検体は大幅に減少し,より精度の高い装置判定結果が得られるようになった。

Translated Abstract

There are two methods of urine qualitative analysis using urine test strips: visual judgement and instrumental judgement based on the results of an automatic urine analyzer. The analyzer has an additional function for judging abnormal coloration at the same time as judging concentration. In the measurement of urinary glucose concentration using the fully automated urine analyzer US-3500, we encountered multiple specimens in which flags indicating abnormal coloration were displayed but no abnormal coloration was observed by visual judgement. In this study, we investigated the cause of this discordance between visual and instrumental judgements. Because no abnormality was found in the comparison between the urinary glucose concentrations measured using the analyzer and urinary glucose quantitative values or in the measurements using multiple types of lot test strips, doubts were cast on the accuracy of the identification criteria for abnormal coloration of urinary glucose in the US-3500. We therefore asked the manufacturer to investigate it. In a plot created by applying the index calculated from the reflectance obtained from the measurement to the identification criteria for abnormal coloration, there were multiple specimens that were distributed near the identification line, indicating that the setting was such that flags for abnormal coloration were likely to be generated. This investigation led to the improvement of the US-3500’s instrumental parameters by the manufacturer. After changing the parameters, the number of specimens misjudged as abnormal coloration has been significantly reduced, and more accurate results of instrumental judgement are now available.

I  はじめに

尿試験紙による尿定性検査は,目視法と尿自動分析装置による装置判定法があり,多数の検体を測定する施設では装置判定法が広く使われている1)。尿試験紙は,ろ紙に試薬を染み込ませた単純な構造で,原理は化学反応を利用したものが多いため,偽反応(偽陽性,偽陰性,異常発色)が非常に多い検査である2)~4)。また,装置判定は各メーカー独自の検量方法を用いて濃度判定を行い,同時に反応の異常な呈色を検知するため,濃度判定とは異なる波長・基準を用いて異常発色の判定を行う付加機能も有している5)。通常と異なる色調を示す原因として,薬剤との反応による呈色,尿自体の強度な着色,吸湿や高温などによる試験紙自体の変色などが挙げられる6)。全自動尿分析装置US-3500(以下,US-3500:栄研化学株式会社)では,装置判定により異常発色と識別された場合,高度異常発色の‘!’や,軽度異常発色の‘?’といったフラグが測定結果に添付して表示されることにより,測定者が気付くことができる仕組みとなっている。当院では,これらの異常発色フラグが表示された場合,その項目について目視判定を行い確認している。今回我々は,US-3500を用いた尿糖の測定において,異常発色フラグが表示されたが,目視判定では異常発色を認めなかった検体を複数経験した。それらの検体は,強度着色尿ではなく,試験紙の劣化も認めない点から,US-3500の尿糖異常発色識別基準の設定に疑問を抱いた。検討の結果,メーカーによる異常発色識別基準の見直しにつながったので報告する。

II  対象および方法

1. 対象

2020年8月から11月および2021年2月から3月の計6か月間に尿定性検査の依頼があった当院患者尿72,483件のうち,装置判定で尿糖に異常発色フラグが表示されたが,目視判定では異常発色を認めなかった検体が86件(0.1%)あった。そのうち,尿を確保することができた60検体を当院での検討対象とした。また,60検体のうち46検体について,栄研化学に追加検討を依頼した。

異常発色識別基準変更後の検証は,2021年7月から2021年8月の2か月間に尿定性検査の依頼があった当院患者尿23,723件を対象とした。

2. 測定機器

尿自動分析装置による尿糖装置判定は日常分析装置であるUS-3500,尿糖定量値の測定はLABOSPECT006(株式会社日立ハイテク)を用いて測定した。栄研化学での尿糖装置判定は,当院同様US-3500を用いて測定した。

3. 試薬

尿定性検査における尿糖装置判定および目視判定ではウロペーパーαIII栄研-11(栄研化学株式会社)を用いた。尿糖の定量値はLタイプワコーGlu2(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いて測定した。栄研化学での尿糖装置判定および目視判定では,当院同様ウロペーパーαIII栄研-11を用いて測定した。

4. 方法

1) 当院での検討

①尿糖定量値との比較

LABOSPECT006を用いた尿糖定量値とその定性換算値,US-3500の尿糖装置判定結果とを比較した。

②異なるLotの試験紙を用いた装置判定

使用中のものとは異なるLot Xの試験紙を用いた装置判定を行い,Lot間差の有無を確認した。

2) 栄研化学での検討

①複数Lotの試験紙を用いた装置判定

複数Lotの試験紙を用いた装置判定および目視判定を行った。

②各試験紙Lotの性能評価

計6濃度の精度確認用試料(集検尿A~F)を用いて,当該Lotを含む8種類のLotの試験紙で5回測定を行い,各試験紙Lotの性能を確認した。

③異常発色識別基準の確認

栄研化学での各検体測定で得られた反射率からの演算値を異常発色識別基準に当てはめたプロット図を作成し,分布を確認した。プロット図の例をFigure 1に示す。右上に向かっている実線と点線2本ずつが異常発色識別ラインである。測定で得られた反射率から演算された指数をプロットし,識別ラインを超えた際に異常発色フラグが表示される。点線と実線の間にプロットされた場合,軽度異常発色フラグである‘?’,実線より外側にプロットされた場合は強度異常発色フラグである‘!’が表示される。正常な色調で呈色した検体は灰色で示した楕円部分に分布するよう,識別ラインが設定されている。なお,左端と右上部分は異常発色の識別対象外領域となっている。

Figure 1 異常発色識別基準プロット図(例)

右上に向かっている実線と点線2本ずつが異常発色識別ラインである。測定で得られた反射率から演算された指数をプロットし,識別ラインを超えた際に異常発色フラグが表示される。

さらに,2020年7月20日から2020年7月30日の期間に尿定性検査の依頼があった当院患者尿2,086件について,当院のUS-3500の尿糖および同時測定した尿蛋白の反射率からの演算値を異常発色識別基準に当てはめたプロット図をそれぞれ作成し,分布の違いを確認した。

3) 異常発色識別検量線変更後の検証

栄研化学による尿糖の異常発色識別基準の見直しに伴う装置パラメーターの改良が行われ,当院は2021年6月末にソフトのバージョンアップを行った。以降2か月間に尿定性検査の依頼があった当院患者尿23,723件のうち,尿糖において同様の現象が確認された件数を確認した。また,尿糖測定結果を異常発色識別基準に当てはめたプロット図を作成し,分布を確認した。

III  結果

異常発色フラグが表示された60件は,装置判定(±)~(2+)の範囲で生じ,目視判定では全て異常発色は認めず,判定可能であった。

1) 当院での検討

①尿糖定量値との比較

60検体の装置判定,目視判定,定量値の測定結果をTable 1に,定性値のランクごとにまとめた結果をTable 2に示す。尿糖定量値は,40~350 mg/dL(平均151 mg/dL),定性換算値は(±)~(2+)であり,装置判定の尿糖定性ランクとは1ランク差以内で合致していた。

Table 1  当院および栄研化学での検体測定結果
院内(n = 60) メーカー(n = 46)
Lot 初検値 Lot
X
目視 定量値
(mg/dL)
Lot
A
Lot
B
Lot
X
Lot
Y
目視
1 A ±! ± 70 ± ? ± ? ±
2 1+ ? 1+ 1+ 130 1+ 2+
3 1+ ? 2+ 1+ 220 2+ 2+ 2+
4 1+ ? 1+ 1+ 120 1+ 1+ 1+
5 1+ ? 1+ 1+ 170 1+ 1+ 1+ ? 2+
6 1+ ? 1+ 1+ 90 1+ 1+ 1+ 1+
7 1+ ? 1+ 1+ 80 1+ 1+ 1+
8 1+ ? 1+ 1+ 140 2+ 2+ 2+
9 1+ ? 2+ 2+ 320 2+ 2+ 2+
10 1+ ? 2+ 2+ 140 2+ 2+ 2+ 2+
11 1+ ? 2+ 2+ 150 2+ 2+ 2+
12 1+ ? 1+ ? 2+ 160 1+ 1+ 1+ 1+
13 1+ ? 2+ 2+ 190 2+ 2+
14 1+ ? 2+ 2+ 230 2+ 2+
15 1+ ? 2+ ? 2+ 260 2+ 2+
16 1+ ? 1+ 2+ 130
17 1+ ? 2+ 2+ 260
18 1+ ? 2+ 2+ 260
19 2+ ? 1+ 2+ 160 2+ 2+ 2+
20 B 1+ ? ± 1+ 40 1+ 1+ 1+
21 1+ ? ± 1+ 60 1+ 1+ 1+
22 1+ ? ± 1+ 40 1+ 1+ 1+
23 1+ ? 1+ 1+ 110 1+ 1+ 1+
24 1+ ? ± 1+ 70 1+ 1+ 1+
25 1+ ? 1+ ? 1+ 90 1+ 1+ 1+
26 1+ ? ± 1+ 70 1+ 1+ 1+
27 1+ ? 1+ 1+ 130 2+ 1+ 1+
28 1+ ? 1+ 1+ 100 1+ 1+ 1+
29 1+ ? ± 1+ 50 1+ 1+ ? 1+
30 1+ ? 1+ 1+ 150 2+ 1+ 2+
31 1+ ? 1+ 1+ 90 1+ 1+ 1+
32 1+ ? ± 1+ 40 1+ 1+ 1+
33 1+ ? ± 1+ 50 1+ 1+ 1+
34 1+ ? ± 1+ 80 1+ ? 1+ ? 1+
35 1+ ? 1+ 1+ 90 1+ 1+ 1+
36 1+ ? 2+ 1+ 260 2+ 2+ 2+
37 1+ ? 1+ 1+ 170 2+ 1+ 1+
38 1+ ? 2+ 1+ 180 2+ 2+ 2+
39 1+ ? 1+ 1+ 120 1+ 1+ ? 2+
40 1+ ? 1+ ? 2+ 110 1+ ? 1+ 1+
41 1+ ? 2+ 2+ 320 2+ 2+ 2+
42 1+ ? 2+ 2+ 280 2+ 2+ 2+
43 1+ ? 1+ 2+ 200 2+ 1+ 2+
44 2+ ? 2+ 2+ 190 2+ 2+ 2+
45 2+ ? 1+ 2+ 130 2+ 2+ 2+
46 2+ ? 2+ 2+ 170 2+ 2+ 2+
47 2+ ? 1+ 2+ 80 2+ 1+ 1+
48 2+ ? 2+ 2+ 180 1+ 2+ 2+
49 2+ ? 2+ 2+ 180 2+ 2+ 2+
50 C 1+ ? 1+ 1+ 140
51 1+ ? 1+ 1+ 130
52 1+ ? 1+ 1+ 120
53 1+ ? 1+ 1+ 110
54 1+ ? 1+ 1+ 70
55 1+ ? 2+ 1+ 350
56 1+ ? 1+ 1+ 140
57 1+ ? 1+ 1+ 180
58 1+ ? 1+ 2+ 220
59 1+ ? 2+ 2+ 340
60 1+ ? 2+ 2+ 150
Table 2  異常発色フラグが表示された検体の定性ランク別結果
US-3500装置判定 目視判定 LABOSPECT006定量値(mg/dL) 定性換算値
±(n = 1) ± 70 ±
1+(n = 52) 1+~2+ 40~350 ±~2+
2+(n = 7) 2+ 80~190 1+~2+

②異なるLotの試験紙を用いた装置判定

使用中のものとは異なるLot Xの試験紙を用いた装置判定では,4件のみに異常発色フラグが表示され,他の検体では表示されなかった(Table 1)。

2) 栄研化学での検討

①複数Lotの試験紙を用いた装置判定

栄研化学にて測定を行った46件は,4種類のLotの試験紙で6検体に異常発色フラグが表示された(Table 1)。いずれも目視判定では異常な発色は認めず,判定可能であった。

②各試験紙Lotの性能評価

8種類のLotの試験紙で各ランク濃度に対応する精度確認用試料(集検尿A~F)を用いて5回測定した反射率の最大値,最小値およびUS-3500(Ver. 2.10)の定性ランクごとの基準反射率範囲をTable 3に示す。測定の結果,すべての集検尿において基準反射率範囲内となり,期待値通りの定性値を示した。したがって,当該Lotの試験紙の異常によるものではないことが確認された。

Table 3  8種類のLotの試験紙を用いた集検尿測定結果(各Lot 5回測定)
試料 集検尿A 集検尿B 集検尿C 集検尿D 集検尿E 集検尿F
定性ランク ± 1+ 2+ 3+ 4+
R%範囲(US-3500 Ver. 2.10) 77.0 ≤ 31.0~77.0 30.0~49.0 22.0~30.0 14.0~22.0 < 14.0
測定値 Max(%) 97.0 63.5 42.9 26.9 19.0 13.2
Min(%) 94.1 43.3 33.6 23.0 16.6 9.8

③異常発色識別基準の確認

栄研化学での各検体測定で得られた反射率からの演算値を異常発色識別基準に当てはめたプロット図をFigure 2に示す。異常発色フラグが表示されなかった40件は,全て識別ライン付近に位置していたことが判明した。また,2020年7月20日から2020年7月30日の期間に当院のUS-3500の尿糖および同時測定した尿蛋白のプロット図をそれぞれFigure 3に示す。尿蛋白では識別ラインの中央付近でほとんど一直線にデータが分布しているのに対し,尿糖ではややばらつきがあり,特にプロット図の左下部分で識別ライン付近に分布しているものが多かった。以上より,尿糖の異常発色識別基準が適正でなく,フラグが表示されやすい設定となっていることが明らかになった。

Figure 2 栄研化学での測定結果プロット図(Lot A:n = 16,Lot B:n = 30,計n = 46)

栄研化学で測定した反射率からの演算値を異常発色識別基準に当てはめたプロット図である。

Figure 3 当院での尿糖および同時測定した尿蛋白のデータプロット図(2020/7/20~30, n = 2,086)

当院のUS-3500における尿糖および同時測定した尿蛋白の反射率からの演算値を異常発色識別基準に当てはめたプロット図である。

3) 異常発色識別検量線変更後の検証

尿糖の異常発色識別基準変更後の2021年7月から8月の2か月間(23,723件)に尿糖において同様の現象が確認された検体は2件(0.008%)であり,これらの2検体はそれぞれ(−)および(1+)で目視判定可能であった。23,723件の尿糖測定結果を異常発色識別基準に当てはめたプロット図をFigure 4に示す。改良後は改良前に比べ識別ライン中央付近で一直線に分布するようになった。

Figure 4 パラメーター改良後の当院測定結果プロット図

尿糖の異常発色識別検量線変更後2か月間の検体測定(23,723件)で得られた反射率からの演算値を異常発色識別基準に当てはめたプロット図である。

IV  考察

US-3500による尿試験紙の装置判定では,通常反射率の変化を光センサーで捉えるが,濃縮尿やビリルビン尿,薬剤の影響などで非特異的な試験紙パッドの吸着や異常な発色も起きる。異常判定結果は日常的に生じ,分析システムには限界があるため,臨床情報に基づく目視判定や他の検査による確認などを通して原因を究明することが求められる7)。今回我々は,US-3500の装置判定で尿糖に異常発色フラグが表示されたが,目視判定では異常発色を認めなかった検体を複数経験し,その原因の検討を行った。

当院での検討の結果,US-3500の装置判定,目視判定,尿糖定量値の定性換算値は ±1ランク差以内で一致していた。一方,異なるLotの試験紙を用いた装置判定では異常発色フラグが表示された件数が少なかったため,当初は試験紙のLot間差が原因であると疑った。しかし,使用する試験紙のLotを新たなものに変えても同様の現象が続いたことから,US-3500の装置自体に問題があると考えた。

そこで,栄研化学に検討を依頼した結果,同様の現象が46検体中6検体で確認された。残りの40検体については,異常発色識別基準に当てはめたプロット図を作成し,全て異常発色の識別ライン付近に位置していたことが明らかとなった(Figure 2)。当院での結果と比較してフラグの表示された件数が少なくなった要因としては,US-3500の機器の個体差や検体送付による検体の経時変化などが考えられた。

また,当院のUS-3500での尿糖および尿蛋白の測定結果を異常発色識別基準に当てはめたプロット図を比較した結果,尿蛋白では識別ライン中央でほぼ一直線に分布していたが,尿糖ではややばらつきがあり,左下部分で識別ライン付近に分布しているものが多かった(Figure 3)。

以上のことからUS-3500の尿糖測定において異常発色の識別に用いられていた基準が適切でなかったことが明らかになった。

今回の検討を契機に,栄研化学による尿糖異常発色識別基準の見直しに伴う装置パラメーターの改良が行われた。当院は,2021年6月末にソフトのバージョンアップを行い,以降2か月間の測定(23,723件)では尿糖において同様の現象を7月と8月それぞれ1件ずつ計2検体にのみ認めた(Figure 4矢印)。これらの2検体プロット位置は,これまでの検討対象となっていた左下の識別ライン付近の領域ではなく,識別ライン上部に大幅に外れて位置していた。栄研化学でこれらの2検体について解析を行った結果,通常のグルコースによって得られる呈色に比べ赤みが強いことが判明した。赤系の異常発色であることから,メサラジン(潰瘍性大腸炎治療薬)等の薬物による異常発色の可能性が推察された8)。患者の処方薬剤を調査したところ,異常発色と判定された2検体のうち1検体ではメサラジンを主成分とする製剤であるペンタサ顆粒を内服していたことが判明した。残る1検体については原因と考えられるものは特定できなかった。しかしながら,異常発色と判定された2検体は明らかに異常発色識別ラインを外れており,装置が本来の機能を発揮し,目視判定では確認できない程度のわずかな異常発色を検出したと考えられた。また,パラメーター改良後2か月間の尿糖測定結果を異常発色識別基準に当てはめたプロット図を作成したところ,識別ライン中央寄りで一直線に分布していた(Figure 4)。以上より,装置パラメーターの改良によって,US-3500の尿糖異常発色識別基準が適切なものとなり,異常発色と誤判定される検体は大幅に減少したといえる。

V  結語

目視判定では異常な呈色を認めないにもかかわらず,US-3500の尿糖装置判定では異常発色フラグが出やすい傾向が確認された。当初は試験紙のLot間差が原因ではないかと疑ったが,検討の結果,装置の異常発色の識別に用いられていた基準が適正でなかったことが判明した。今回の検討がUS-3500の尿糖異常発色識別基準の見直しにつながった。装置パラメーターの改良により,異常発色と誤判定される検体は大幅に減少し,より精度の高い装置判定結果が得られるようになった。

本論文は第51回岡山県医学検査学会において発表した内容にさらに検討と考察を加えた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

稿を終えるにあたり,本調査に御協力ならびに資料提供いただきました栄研化学株式会社の方々に深謝申し上げます。

文献
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  • 3)   高橋  勝幸:尿定性試験に求めるもの 第2回 尿糖.Medical Technology, 1999; 27: 633–638.
  • 4)   伊藤  機一, 野崎  司:概論:試験紙法による尿定性・半定量検査.日本臨床,2009; 67: 55–92.
  • 5)   數見  文彦:5.画像処理システムを用いた尿自動分析装置の可能性.臨床病理特集号,1995; 100: 262–267.
  • 6)   伊藤  機一,他:尿試験紙法における異常発色,着色.新・カラーアトラス尿検査,28–30,伊藤 機一,野崎 司(編),医歯薬出版,東京,2004.
  • 7)   河合  忠,他:尿定性検査(基本尿検査).最新尿検査―その知識と考え方―,34–37,メディカルジャーナル社,東京,2014.
  • 8)   服部  聡,他:尿糖試験紙法にて異常発色をきたした2症例.(社)愛知県臨床衛生検査技師会誌,2019; 70: 62.
 
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