Japanese Journal of Medical Technology
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Establishment of intrahospital referral collaboration system for hepatitis-virus-positive patients to hepatology specialists
Kota MAEYAMAHajime MIURA
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2022 Volume 71 Issue 3 Pages 493-500

Details
Abstract

【目的】当院臨床検査科では2017年11月より,血液検査で肝炎ウィルス検査陽性が判明した場合に消化器内科への院内紹介を促す院内連携を開始した。また2020年7月からは電子カルテ自動肝炎アラートシステムを構築した。4年間の活動とその効果について検証する。【方法】2017年11月から2020年6月まで以下の院内連携(検査科アラートシステム)を実施した。①臨床検査技師:HBs抗原またはHCV抗体が血液検査で陽性と判明した場合,電子カルテを用いて消化器内科への院内紹介勧奨アラートを発信した。②医師:アラートを確認後,患者への説明と消化器内科への紹介を行う。2020年7月には陽性患者の電子カルテを開くと消化器内科への紹介勧奨が表示される自動肝炎アラートシステムを構築した。また,2016年度から2020年度の消化器内科医以外の検査依頼を対象として効果の検証を行った。【結果】院内連携前,検査科アラートシステム後,自動肝炎アラートシステム後の院内紹介率はHBs抗原陽性患者で6.0%,28.8%,39.5%,HCV抗体陽性患者で8.6%,30.7%,28.6%であり院内連携前に比べて院内連携後には3~6倍に増加した。また,院内紹介件数は院内連携前に比べて,院内連携後に増加した。【考察】ウィルス性肝炎検査陽性患者の院内連携によって,院内紹介率,紹介件数は増加し,陽性患者を効率よく消化器内科受診につなげることができるようになった。

Translated Abstract

The purpose of this study was to evaluate the effectiveness of the intrahospital referral collaboration system for hepatitis-virus-positive patients to hepatology specialists. The following intrahospital collaboration (laboratory department alert system) was conducted from November 2017 to June 2020. (1) Medical technologists: When a blood test reveals positivity for the HB antigen (HBsAg) or HCV antibodies (HCVAbs), medical technologists indicate an alert in the electronic medical record recommending intrahospital referral to the gastroenterology department. (2) Physicians: After confirming the alert, the physician in charge explains the result to the patient and refer the patient to gastroenterology. In July 2020, we conducted an automatic alert system that allows physicians to recognize a recommendation for referral to gastroenterology when the electronic medical record of an HBsAg- or HCVAb-positive patient is opened. The intrahospital referral rates before collaboration, after the implementation of the laboratory department alert system, and after that of the automatic alert system were 6.0%, 28.8%, and 39.5% for HBsAg-positive patients and 8.6%, 30.7%, and 28.6% for HCVAb-positive patients, respectively. The number of intrahospital referrals increased after collaboration compared with before collaboration. The intrahospital referral rates and the number of referrals increased through the intrahospital referral collaboration, and the hepatitis-virus-positive patients were efficiently referred to gastroenterology.

I  序文

B型肝炎,C型肝炎は未治療のまま放置すると肝硬変,肝臓がんへ進行する可能性があり1),2),早期発見・治療はこれらの疾患を予防するうえで非常に重要である。またウィルス性肝炎の治療は日々進歩しており,厚生労働省は一生に一度は肝炎検査を受け,陽性の場合は専門医療機関を受診するよう,啓蒙活動を行っている3)。その一方,各医療機関では手術前や入院時に感染症スクリーニング検査として肝炎ウィルス検査を実施している場合が多いが,陽性患者を肝臓内科・消化器内科などの専門科に紹介していないケースもあり問題となっている4)

当院臨床検査科では2017年4月より,血液検査で肝炎ウィルス検査陽性が判明した場合に,消化器内科への院内紹介を促す院内連携システムの検討を始め,同年11月に検査科アラートシステムを開始した。また,2020年7月には電子カルテを用いた自動肝炎アラートシステムを構築した。4年間の院内紹介連携の取り組みとその効果について検証する。

II  院内連携の方法と効果の検証について

1. 検査科アラートシステムを中心とした院内連携(2017年11月~2020年6月)

2017年4月より院内勉強会や各委員会,医局会,看護師長会,医療クラークのミーティングなどでウィルス性肝炎検査陽性患者の院内連携の重要性と当院での方法について説明し,同年11月より検査科アラートシステムを開始した。開始の際には,経営管理層から承認を得た院内全体の取り組みであることを強調するため,院長・消化器内科・臨床検査科の連名で検査科アラートシステムの説明と協力をお願いする文書を各部署に配布し,電子カルテ(HOPE EGMAIN-GX V8,富士通)のトップページにも掲載した(Figure 1)。検査科アラートシステムの方法は以下のとおりである。①臨床検査技師は当日の血液検査によってHBs抗原またはHCV抗体が陽性と判明した場合,該当する患者の電子カルテ掲示板に「HBs抗原(HCV抗体)が陽性です。初回指摘や精査未実施の場合は消化器内科への紹介を検討ください」のアラートメッセージを夜間,休日に関わらず迅速に入力する。②主治医はアラートメッセージを確認後,検査結果が初回指摘の場合や,精査未実施の場合,患者への説明と消化器内科への院内紹介を検討する(Figure 2a)。

Figure 1 院内連携の説明およびお願い文書

院長・消化器内科・臨床検査科の連名で院内連携活動への協力を呼び掛ける文書を配布した。

Figure 2 検査科アラートシステムおよび自動肝炎アラートシステムのイメージ

(a)検査科アラートシステム:検査技師が電子カルテ掲示板にアラートメッセージを入力し,発信した。

(b,c)自動肝炎アラートシステム:電子カルテ画面右下のアラートメッセージ(b)をクリックすると新たにウィンドウが立ち上がり(c),チェックボックスにチェックを入れて確定保存しないとアラートメッセージが消えない仕組みになっている。

2. 自動肝炎アラートシステムを中心とした院内連携(2020年7月~現在)

2020年7月には電子カルテに搭載されている既存機能を改修し,自動肝炎アラートシステムを構築した。当院では,肝炎やHIV,梅毒を始めとする感染症検査の結果は,検査日と共にプロフィール情報として患者の電子カルテに登録され,検査実施のたびに更新される。自動肝炎アラートシステムでは最新のプロフィール情報に基づき,HBs抗原またはHCV抗体が陽性の患者の電子カルテを記述しようとした場合,画面の右下に「BorC型肝炎疑い,紹介検討ください」のアラートが自動で常時表示されるように設定した(Figure 2b)。アラートメッセージの文字をクリックすると検査結果ウィンドウが表示され「他院もしくは当院でフォロー済みである」または「消化器内科へ紹介する→診療予約をお願いします」のどちらかのチェックボックスを選択して保存確定しない限り,アラートメッセージが消えないように設定し,注意喚起した(Figure 2c)。アラートメッセージの非表示期間は保存確定日から5年間とし,その間は複数回の検査依頼があってもアラートメッセージは再表示されない。非表示期間を5年としたのはアラートメッセージの再表示が医師から煩わしく思われず,かつ患者の受診科や主治医が変更になっても肝炎検査の結果を再び注意喚起できるようにするためであり,消化器内科と協議して設定した。

3. 効果の検証方法

2016年度から2020年度の消化器内科医以外の検査依頼(重複患者を除外)を対象として2016年4月から2021年4月までのウィルス性肝炎陽性患者の院内紹介および治療状況を追跡調査した。院内連携前19か月(2016年4月~2017年10月),検査科アラートシステム後32か月(2017年11月~2020年6月),自動肝炎アラートシステム後9か月(2020年7月~2021年3月)の各期間に新規に発見されたHBs抗原またはHCV抗体陽性患者において,ウィルス性肝炎精査目的での消化器内科への院内紹介率,未対応率,紹介件数,投薬治療症例数,紹介元の診療科数について比較検証した。各期間の院内紹介率の比較には統計解析ソフトEZRを用いてFisherの正確検定を行い,p < 0.05を有意水準とした。院内紹介率算出の際には,検査依頼の時点ですでに当院や他院で介入済みや重篤な状態の患者は除外した。それ以外の調査項目については単純集計を行った。本研究は十和田市立中央病院倫理委員会の承認を得て実施した(通知番号3-2)。

III  効果検証結果

1. 消化器内科への院内紹介率と未対応率(Figure 3
Figure 3 院内連携前,検査科アラートシステム後,自動肝炎アラートシステム後のウィルス性肝炎検査陽性患者の院内紹介状況

各期間のHBs抗原陽性患者(a),HCV抗体陽性患者(b)のうち既に介入済みや重篤な患者を除外した未精査患者に対して,院内紹介などの対応をした割合を算出した。

消化器内科へのウィルス性肝炎精査目的での院内紹率はHBs抗原陽性患者では院内連携前6.0%,検査科アラートシステム後28.8%,自動肝炎アラートシステム後39.5%であり,院内連携前に比べて検査科アラートシステム後に約4倍(p < 0.01),自動肝炎アラートシステム後に約6倍に増加した(p < 0.01)。HCV抗体陽性患者については院内連携前8.6%,検査科アラートシステム後30.7%,自動肝炎アラートシステム後28.6%であり,院内連携前に比べて検査科アラートシステム後,自動肝炎アラートシステム後にそれぞれ約3倍に増加した(p < 0.01, p < 0.05)。検査科アラートシステム後と自動肝炎アラートシステム後の比較ではB型肝炎,C型肝炎の各紹介率に有意差はなかった。また,院内連携前にHBs抗原陽性が判明した患者のうち,院内連携後に消化器内科へ新たに紹介された患者が6.0%,検査科アラートシステム後の期間にHBs抗原陽性が判明した患者のうち,自動肝炎アラートシステム後に消化器内科へ新たに紹介された患者が8.8%いた。また,各期間のHBs抗原陽性患者の1~10%は,自科で精査を実施,他院へ紹介などの理由ですでに介入を終了していた。これらの状況を加味した結果,各期間のHBs抗原陽性患者の未対応率は,院内連携前,検査科アラートシステム後,自動肝炎アラートシステム後で78.0%,61.3%,44.7%であり院内連携前に比べて,院内連携後に低下傾向であった。HCV抗体陽性患者についてもHBs抗原と同様に検証した結果,各期間のHCV抗体陽性患者の未対応率は,院内連携前,検査科アラートシステム後,自動肝炎アラートシステム後で72.9%,54.7%,52.4%であり,院内連携後に低下傾向であった。

2. 消化器内科への院内紹介の月別件数と投薬治療に至った症例数(Figure 4
Figure 4 院内紹介の月別件数と投薬治療に至った症例数

2016年度から2020年度までの5年間の消化器内科医以外からの肝炎精査目的での院内紹介件数を月別に示した。また各期間における院内紹介から投与治療に至った症例数の月平均を算出した。

ウィルス性肝炎精査目的での非専門科から消化器内科への院内紹介件数は院内連携前0.5件/月,検査科アラートシステム後1.7件/月,自動肝炎アラートシステム後4.4件/月と徐々に増加した。また院内紹介された症例のうち,B型肝炎における核酸アナログ製剤治療,およびC型肝炎における直接作用型抗ウィルス薬(direct acting antivirals; DAA)治療に至った症例数は院内連携前0.16例/月,検査科アラートシステム後0.22例/月,自動肝炎アラートシステム後0.56例/月と徐々に増加した。

3. 院内紹介元(非専門科)の診療科数(Table 1
Table 1  院内紹介元の診療科数
紹介元診療科 院内連携前 検査科アラートシステム後 自動肝炎アラートシステム後
呼吸器内科
循環器内科
総合内科
外科
脳神経外科
整形外科
産婦人科
泌尿器科
耳鼻咽喉科
皮膚科
眼科
メンタルヘルス科
診療科数(●の数) 4 10 11

HBs抗原またはHCV抗体の新規陽性症例があった診療科を一覧で示し,そのうち院内紹介があった診療科は●で示した。耳鼻咽喉科では検査科アラートシステム後,および自動肝炎アラートシステム後(※)に新規陽性例はなかった。

消化器内科以外の非専門科からのウィルス性肝炎精査目的での院内紹介は,院内連携前は4科からの紹介であったが,検査科アラートシステム後は10科,自動肝炎アラートシステム後は11科に増加した。

IV  考察

2010年の肝炎対策基本法の施行や医療費助成制度,「知って肝炎プロジェクト」などの啓蒙活動によって,現在本邦ではウィルス性肝炎の撲滅に重点的に取り組んでいる3)。田中ら5)の報告によると国内の2015年時点のキャリア数・患者数はHCVで89.1万~130.2万人,HBVで111.0万~118.6万人と算出されている。このうち,HBV潜在キャリアは45.2万人,未受診キャリアは33.0万~40.5万人,HCV潜在キャリアは22.5万人,未受診キャリアは1.3万~42.4万人と算出され,「自らの感染を知らない」,あるいは「感染を知っているが医療機関を受診していない」キャリアが数十万人規模でいることが想定されている。一方,ウィルス性肝炎治療はC型肝炎治療薬であるDAAをはじめとした経口薬の開発によって,副作用が少なく持続的ウィルス陰性化(sustained virological response; SVR)を達成できるようになるなど目覚ましい進歩を遂げている。従って,手術前や入院時の検査などで偶然見つかったウィルス性肝炎検査陽性患者を肝臓内科・消化器内科などの専門科受診につなげることはウィルス性肝炎の撲滅,さらには将来的な肝硬変,肝臓がんの予防のためにも非常に臨床的意義が高い。肝炎ウィルス検査陽性患者を拾い上げ,専門科受診につなげる院内連携活動については大学病院や肝疾患診療連携拠点病院からの報告はあるが6),7),市中病院からの報告は少ない。しかしながら中小病院であっても手術前や入院時に肝炎スクリーニング検査を実施している場合には潜在患者がいる可能性があるため,院内連携はどの施設であっても検討の必要がある。

当院では2017年4月より肝炎ウィルス検査陽性患者を拾い上げ,消化器内科へ紹介する院内紹介連携システムの検討を始め,同年11月より開始した。当院では,HBV再活性化対策のための検査セットの構築,注意喚起アラートの発信,各部署への説明を臨床検査科が担った経緯から,ウィルス性肝炎の院内連携の検討についても当科が中心となって開始した。院内連携を行う際には,まずは電子カルテ改修の必要がない,カルテ掲示板を用いた肝炎アラートの発信(検査科アラートシステム)から始めた。検査科アラートシステムの運用が1年以上経過した後,技師の退職や担当者の兼任業務が増えたことから,技師の負担軽減とアラート発信の見落とし予防のため,2019年度から自動肝炎アラートシステムの検討を始め,2020年7月より既存カルテのバージョンアップに合わせて自動肝炎アラートシステムの運用を開始した。

院内連携後は非専門科から消化器内科への院内紹介率が院内連携前に比べて約3~6倍に増加,未対応率は減少し,活動の効果が表れた。未対応率は院内連携後で約50%であったが,この中には超高齢者やがん患者なども含まれており,実際は消化器内科受診がすぐに推奨される患者はさらに少ない可能性がある。検査科アラートシステムと自動肝炎アラートシステムの比較では院内紹介率に有意差は認められなかったが,検査技師の労力は大幅に減った。また,検査科アラートシステムは電子カルテの仕様上,発信から2年でアラートメッセージが消えてしまう問題点があったが,自動肝炎アラートシステムではより大きな文字で電子カルテの分かりやすい部分に検査結果の記録が残っている間は永久に表示されるため,より効果的に主治医に注意喚起できるようになった。月別院内紹介件数および投薬症例数は検査科アラートシステム後に比べ,自動肝炎アラートシステム後に増加した。これは検査科アラートシステムの期間中に陽性であっても見過ごされていた症例が,自動肝炎アラートシステムによって再び注意喚起され,紹介されたためと考えられる。また,院内紹介元の診療科数は院内連携前の4科に対し,検査科アラートシステム後は10科,自動肝炎アラートシステム後は11科に増加し,院内連携システムが多くの診療科に浸透していることが示唆された。

ウィルス性肝炎陽性患者の院内連携には各診療科スタッフの協力が不可欠である。当院では院内連携を開始する前に,勉強会や説明会で各スタッフへの啓蒙活動を十分に行い,院内紹介の機運を高めてから運用を開始した。また,今回の活動を行う際には院長・消化器内科と連携を取り,経営管理層も巻き込んで院内全体の取り組みであることを強調したことも,各診療科スタッフの理解につながったと考えられた。当院は自治体病院であり医師の異動も多いため,今後さらに院内紹介率を上昇させるためには,定期的に勉強会,報告会を開きウィルス性肝炎患者の早期受診,院内紹介の重要性をスタッフに啓蒙し続ける必要があると考える。

臨床検査技師は正確なデータを迅速に臨床側に報告するだけではなく,付加価値情報を提供することが今後は求められていくと考えられる。本活動はアドバイスサービスの1つとして顧客(医師),ひいては患者に対して有益な情報を提供し,ウィルス性肝炎撲滅の一助になったと考える。

V  結語

ウィルス性肝炎検査陽性患者を専門科に紹介する院内紹介連携システムを臨床検査科が中心となって構築した。院内紹介率,紹介件数は増加し,院内連携システムを多くの科に浸透させることができた。今後も引き続きウィルス性肝炎検査陽性患者の院内連携システムを啓蒙し,一人でも多くの潜在患者を受診につなげていく必要がある。

本論文の内容は日本医療検査科学会第53回大会にて発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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