Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of peritoneal-dialysis-associated peritonitis caused by Mycobacterium mageritense
Marina SUZUKISaori MUTOHiromi NOZAKIYohei KONORie OKUTSUTakuya ADACHIMariko NEGISHIKeisuke KAMADA
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2022 Volume 71 Issue 3 Pages 587-593

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Abstract

60歳代,女性。腹膜透析中,下痢と倦怠感持続のため腹膜透析(peritoneal dialysis; PD)関連腹膜炎を疑い,入院加療となった。採取されたCAPD排液を血液培養ボトルで培養したところ,42時間後に陽転化し,Ziehl-Neelsen染色で抗酸性に染まる桿菌を確認した。発育したコロニーは,外注の検査会社に委託し,質量分析装置MALDI BiotyperでMycobacterium mageritenseと同定された。薬剤感受性検査では,マクロライド系抗菌薬をはじめ,一般的に非結核性抗酸菌の治療に用いられる多くの薬剤に対して耐性傾向を示した。meropenem(MEPM)(一時imipenem/cilastatin(IPM/CS)に変更)とlevofloxacin(LVFX)による治療が5週間行われ,軽快したため退院となった。迅速発育抗酸菌(rapidly growing mycobacteria; RGM)は,時にPD関連腹膜炎の原因菌として検出されることがある。適切な治療へと繋げるためには,正確な菌種同定と薬剤感受性検査が必要である。

Translated Abstract

Peritonitis is a frequent complication of peritoneal dialysis (PD). Common etiologic agents are staphylococcal species, whereas infections caused by rapidly growing mycobacteria (RGM) are considered rare. We report here a case of PD-associated peritonitis caused by RGM, specifically Mycobacterium mageritense. The patient, a woman in her 60s undergoing continuous ambulatory peritoneal dialysis (CAPD), was admitted to our hospital because of persistent diarrhea and general malaise, leading to the suspicion of PD-associated peritonitis. CAPD drainage fluid was collected and cultured in a blood culture bottle for 42 h. Ziehl–Neelsen staining showed the presence of acid-fast bacilli. The colonies formed were further analyzed and identified as M. mageritense by mass spectometry (MALDI Biotyper). The patient was treated with meropenem (temporarily changed to imipenem/cilastatin) and levofloxacin, and she was discharged after five weeks because her symptoms were better. This case demonstrates the importance of the accurate identification of mycobacterial species and drug susceptibility testing for the appropriate diagnosis and treatment of PD-associated peritonitis.

I  序文

腹膜透析(peritoneal dialysis; PD)関連腹膜炎の主な原因菌として,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌,緑膿菌などの細菌が挙げられる1)。その他の起因菌としては抗酸菌や真菌が挙げられるが,抗酸菌が原因で腹膜炎を起こす場合,その多くがMycobacterium tuberculosisによるものである。しかし,Mycobacterium abscessusMycobacterium fortuitumなどの迅速発育抗酸菌(rapidly growing mycobacteria; RGM)も起因菌として報告されており2),重症例の治療では原則カテーテルを抜去し,加えて化学療法やデブリードマン等の外科的処置を必要とすることが多い。今回,我々はRGMの一種であるMycobacterium mageritenseによるPD関連腹膜炎の一症例を経験した。本菌による症例報告は少なく,貴重な知見と考え文献的考察を加えて報告する。

II  症例

患者:60歳代,女性。

主訴:下痢(1週間ほど前から),発熱,倦怠感,食欲不振。

既往歴:妊娠糖尿病,糖尿病性腎症,慢性腎不全,糖尿病性網膜症。

家族歴:母と弟が2型糖尿病。

現病歴:腎不全により20XX年1月に腹膜灌流用カテーテル留置術を行い,以降腹膜透析を継続していた。1週間ほど前から下痢の症状を認め,経過を見ていたが,倦怠感著明となり,PD関連腹膜炎,脱水症の加療目的で20XX年8月に当院入院となった。

入院時現症:体温は36.2℃で,CAPD排液は黄色混濁であり,フィブリンの析出を認めた。出口部の発赤や肉芽・排膿はなく,出口部から腹腔内入口部まで圧痛・疼痛はなかった。

入院時検査所見:血液検査ではCRPが12.57 mg/dL,BNP 1,988.7 pg/mL,CRE 11.23 mg/dLであった。CAPD排液の一般検査では,細胞数が1,700/μLであり,腹膜炎が疑われた。

臨床経過(Figure 1):PD関連腹膜炎を疑い,入院直後からcefazolin(CEZ)1 g × 2/日とceftriaxone(CTRX)1 g/日による抗菌薬療法を開始した。入院2日目より,CTRXはceftazidime(CAZ)1 g/日に変更された。

Figure 1 Clinical course of the patient

Clinical course and changes in CRP and WBC

入院時に採取されたCAPD排液から抗酸菌が検出されたため,入院6日目よりlevofloxacin(LVFX)250 mg分1を4日間,clarithromycin(CAM)400 mg分2とlevofloxacin(LVFX)250 mg分1(隔日)の併用経口投与が3日間行われた。患者状態は改善せず,入院10日目に菌株がM. mageritenseと同定された。M. mageritenseがマクロライド系抗菌薬に対し高いMIC値を示す3),4)ことや,フルオロキノロン系抗菌薬単剤での治療失敗例が報告されていた5)ことから,LVFX + imipenem/cilastatin(IPM/CS)+ sulfamethoxazole-trimethoprim(ST合剤)またはTetracycline(TC)系抗菌薬での多剤併用治療を提案した。入院13日目よりLVFX + meropenem(MEPM)0.5 g/日 + ST合剤4錠/日での治療に変更された。後日(入院16日目),MEPMはIPM/CS 0.25 g/日へ変更された。入院17日目に全身麻酔による腹腔内カテーテル抜去を行い,カテーテル先端,腹膜組織,腹膜カフ部位の抗酸菌検査が提出された。結果は全て陰性であった。入院23日目にM. mageritenseの薬剤感受性結果が判明し,ST耐性であったため入院32日目にST合剤を終了した。その後薬剤感受性結果を元に,LVFXとMEPMで治療を継続し,軽快したため入院54日目に退院した。以降,faropenem(FRPM)とLVFXでの経口投与による治療を現在も継続中である。

III  微生物学的検査

1. 塗抹検査

入院時,滅菌スピッツと血液培養ボトル1セット(BDバクテックTM 23F好気用レズンボトルP,BDバクテックTM 22F嫌気用レズンボトルP)(日本ベクトン・ディッキンソン)にCAPD排液が採取され提出された。血液培養ボトルはBDバクテックTM FXシステム(同社)で培養を開始した。41.6時間後にBDバクテックTM 23F好気用レズンボトルPのみ陽転し,グラム染色(バーミーM:武藤化学)を実施したがはっきりとした菌体を認めなかった。翌日,血液培養ボトルに採取されたCAPD排液約2 mLを3,000 gで10分遠心し,その沈渣物で再度グラム染色を実施したところ,まだらに染まるやや長く伸びた桿菌を認めた。抗酸菌を疑いZiehl-Neelsen染色を行ったところ,抗酸性に染まる菌体が確認された(Figure 2)。

Figure 2 Stain images (×1,000)

a: Gram stain of peritoneal dialysis fluid

b: Ziehl-Neelsen stain of peritoneal dialysis fluid

滅菌スピッツに採取されたCAPD排液は,同様に3,000 gで10分遠心後その沈渣物でグラム染色を行ったが,菌体を認めなかった。

2. 分離培養検査

塗抹検査で使用した,CAPD排液の遠心後の沈渣物を用いて分離培養検査を行った。トリプチケースソイ5%ヒツジ血液寒天培地及びチョコレートII寒天培地(共に日本BD)を用いて35℃,5%炭酸ガス条件下で培養を実施した。培養48時間後より白色の微小コロニーが発育し始め,培養96時間後にはスムース型で非溶血,辺縁不整のCorynebacterium様白色コロニーを確認した(Figure 3)。トリプチケースソイ5%ヒツジ血液寒天培地に比べて,チョコレートII寒天培地のコロニーはやや小さく,発育に違いが見られた(Figure 4)。発育したコロニーからZiehl-Neelsen染色を行ったところ,検体からの染色同様,抗酸性に染まる桿菌を認めた。発育の速さから,RGMを疑い,主治医へその旨を報告した。

Figure 3 M. mageritense colonies grown in 5% CO2 culture for 96 hours (Trypticase soy 5% sheep blood agar; TSA)

a: Plate image

b: Close-up image. It shows white, smooth, non-hemolytic colonies.

Figure 4 M. mageritense colonies grown in 5% CO2 culture for 96 hours (Chocolate II agar)

a: Plate image

b: Close-up image. It shows white, smooth, non-hemolytic colonies. But the colonies are slightly smaller than colonies on TSA.

滅菌スピッツに採取されたCAPD排液は,HK半流動培地(極東製薬)に接種し,35℃のふ卵器で好気培養を継続した。培養14日目,液面の上部にのみ混濁を認め,Ziehl-Neelsen染色で抗酸菌の発育を確認した。

3. 同定検査

TRC Ready MTB/MAC(東ソー)を用いてM. tuberculosisMycobacterium aviumMycobacterium intracellulareのrRNA検出を試みたが,すべて陰性であった。当検査室では,院内で同定できなかった抗酸菌について,matrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry(MALDI-TOF MS)での同定検査を外部委託している。今回はRGMを疑っていたこともあり,速やかに外注検査へ提出し,質量分析装置MALDI Biotyper(ブルカージャパン)でMALDI-TOF MSによる同定を依頼した。その結果,M. mageritense(Score value 2.18)と同定された。

4. 薬剤感受性検査

抗酸菌の薬剤感受性検査についても,同定検査と同様,外部委託している。薬剤感受性キットブロスミックRGM(極東製薬)を用いた薬剤感受性検査を依頼し,amikacin(AMK),tobramycin(TOB),imipenem(IPM),faropenem(FRPM),levofloxacin(LVFX),moxifloxacin(MFLX),sulfamethoxazole-trimethoprim(ST),doxycycline(DOXY),meropenem(MEPM),linezolid(LZD),clofazimine(CLF),sitafloxacin(STFX),azithromycin(AZM),clarithromycin(CAM)の14薬剤に対してMIC測定が実施された。結果をTable 1に示す。薬剤感受性検査はCLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)のM24 3rd editionに従って行い,MICカテゴリはM100-S62の基準を用いて判定した。

Table 1  Antimicrobial-susceptibility of the isolated strain
Antibiotics MIC (μg/mL) MIC categories
amikacin 32 I
tobramycin > 16 R
imipenem ≤ 2 S
faropenem 4
levofloxacin ≤ 1 S
moxifloxacin ≤ 0.25 S
sulfamethoxazole-trimethoprim 152/8 R
doxycycline > 16 R
meropenem 4 S
linezolid 2 S
clofazimine 0.5
sitafloxacin ≤ 0.25
azithromycin > 64
clarithromycin > 64 R

IV  考察

M. mageritenseは1987年にスペインで初めて分離され,1997年にDomenechら6)によって新種として記載された。Runyonの分類でIV群に分類されるRGMの一種であり,普段は土壌や水中などの環境中に存在し,創部感染やカテーテル関連血流感染症,皮膚軟部組織感染症の原因菌として報告されている7)~10)。ブドウ球菌やグラム陰性菌に比べ,抗酸菌がPD関連腹膜炎の起因菌として検出されることは稀である。しかし,抗酸菌性腹膜炎はカテーテル抜去率が高いという報告もあり11),難治性腹膜炎であることも多い。PD関連腹膜炎を疑う場合は抗酸菌の関与も考慮して検査を進める必要がある。

抗酸菌は,グラム染色では染色性の弱いグラム陽性桿菌として認められるが,時に,グラム陽性にも陰性にも染まらず,ガラス傷のように白く透けて見えることがある12)。「Ghost Mycobacteria」と表現されることもあり13),グラム染色での検出が困難であった症例も報告されている14)。今回の症例でも,最初のグラム染色では染色性の悪さから菌体を認識できなかった。好気ボトルのみ陽転したことや,発育の速さなどから抗酸菌を疑い,再度染色を行ったことで,抗酸菌の関与を推測することができた。今回のように腹膜炎が疑われる症例で,グラム染色で菌体が確認できない場合は,積極的に抗酸菌染色を実施することが重要である。

抗酸菌の至適温度は菌種によって異なる。M. mageritenseの至適温度は22~45℃であるとされており6),本症例で分離した菌株も,45℃での発育が見られた。また,褐色色素を産生する菌株の報告があるが11),今回検出された菌株は色素非産生株であった。生化学的性状は菌種鑑別の手がかりとはなるが,それのみで菌種を同定するのは困難である。

DNA-DNA hybridization法(DDH法)は結核菌群を含む18菌種の抗酸菌が同定可能であるが,その中でも同定可能なRGMはM. fortuitumM. abscessusM. chelonaeM. peregrinumの4菌種のみであり,本症例で検出されたM. mageritenseは同定できない。質量分析と遺伝子検査との精度比較では,MALDI TOF-MSによってM. mageritense 11株中11株が正しく同定されたという報告があり16),よって,本菌の同定には質量分析が有用であると言える。他,16S rRNA遺伝子やrpoB(RNAポリメラーゼサブユニット遺伝子B),hsp65(ヒートショック蛋白65)等の遺伝子シーケンス解析も有用とされている17)

RGMの薬剤感受性検査は,CLSIに準拠したRGM専用のキットを用いて実施することが望ましい。その理由としては,RGMが非結核性抗酸菌(non-tuberculosis mycobacteria; NTM)の治療に通常用いられる抗結核薬やマクロライド系抗菌薬に対し耐性を示すことや,RGMが35~37℃より28℃でよく発育するといった培養条件が異なることが挙げられる18)。現在,本邦で大半の施設が使用しているとされるブロスミックNTM(極東製薬)の添付文書にも,対象菌としてRGMは除くと記載されている。しかし,検査を外部委託している施設では同定と薬剤感受性検査を同時依頼することが多いため,同定された菌種がRGMであっても,依頼通りNTM専用キットで薬剤感受性検査が実施され,報告されていることが多いと推測される。今回の症例では,菌名が報告された後,外部委託先の検査センターにブロスミックRGMでの薬剤感受性検査が可能かどうかの問い合わせを行った。その結果,菌名が同定されている場合は実施可能であるとの回答を得たため,改めてブロスミックRGMでの薬剤感受性検査を依頼した。施設の規模,コスト面,マンパワーなどの点から,抗酸菌の同定や薬剤感受性検査を外部委託している施設も多いと思われる。外部委託先での検査内容や,目的とする検査が実施可能であるかどうかを把握しておくことは,正確な検査結果の報告及び治療薬剤の選択の上で非常に重要である。

肺以外のRGM感染症に対する治療は,ガイドラインもないため,いまだ確立されてはいない。よって,RGMの薬剤感受性検査の結果が得られてから治療薬剤を選択することも多く,治療開始までに時間を要することも少なくない。また,過去の報告を参考に抗菌薬を選択し治療することもあるが,M. mageritenseによる過去の報告例では,治療抗菌薬は多岐にわたる17)。RGMによる感染症の治療は,軽症の場合は経過観察または外科的治療が多い。しかし,重症の場合は外科的治療に抗菌薬療法を組み合わせて行われることが一般的である19)。RGMは菌種や菌株によって薬剤の感受性が異なるため,重症例ではより積極的に薬剤感受性検査を実施し,その結果から適切な治療薬を選択すべきである。

今回,治療でFRPMを選択した理由としては,フルオロキノロン系抗菌薬以外に薬剤感受性が担保されている抗菌薬がなかったこと,わずかに残存する腎機能温存のためアミノグリコシド系抗菌薬の併用は避けたかったことが前提にある。その上で,フルオロキノロン系抗菌薬の単剤治療での失敗例が報告されている5)ことや,M. mageritenseと薬剤感受性パターンの似ているM. fortuitumに対しフルオロキノロン系抗菌薬単剤治療での耐性化を伴う治療失敗20)も確認されているため,やむなく選択した。既報ではM. mageritenseのFRPM MIC50は4 μg/mLと他のRGMと比較して低く3),本症例でも4 μg/mLであったということも選択の理由として挙げられる。LZDについてはin vitroでの有効性は示されているが,高価な薬剤であり患者負担も大きく,また長期使用に伴う有害事象も大きな問題となるため,本症例では選択しなかった。RGM治療におけるFRPMの有効性は現時点では不明であり,今後検証していく必要がある。

M. mageritenseはフルオロキノロン系抗菌薬やLZD以外の薬剤に対し,耐性を示すことが報告されている。国内におけるRGMの薬剤感受性成績の報告3),4)では,菌種により薬剤感受性に差が見られる。特に,NTM感染症の初期治療で経験的に使用されるマクロライド系抗菌薬に対しては高いMIC値を示す。これは,M. mageritenseerm遺伝子を保有していることが理由と考えられている21)。今回の症例では初期治療にCAMを使用していたが,外部委託先からの菌名報告後は,耐性の可能性があるため別の抗菌薬に変更してもらうよう臨床側へ提案した。同時に薬剤科にも本症例を相談しておいたことで,薬剤の投与量決定や薬剤選択がスムーズに行われた。結果として,適切な治療に変更することができ,患者の軽快につながったと考えられる。菌種の正確な同定が適切な治療薬剤の選択に大きく影響するため,今後も症例の蓄積が望まれる。

以上,M. mageritenseによるPD関連腹膜炎の一症例を経験し,報告した。抗酸菌が腹膜炎の起因菌になることは知られているが,その菌種により薬剤感受性は多様であり,正確な菌種同定が適切な抗菌薬選択および治療に繋がると考えられた。

本論文は豊島病院倫理委員会の承認を得た(承認番号:倫臨迅3-50)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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