Japanese Journal of Medical Technology
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Muscle performance evaluation using the discharge-load index: A pilot study
Masafumi KATAYAMAYoshio TAKANO
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2022 Volume 71 Issue 3 Pages 417-423

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Abstract

表面筋電図は非侵襲的に実施できる一方で,記録位置や負荷のかけ方で大きく変化し,安定した評価がやや困難である。本研究では表面筋電図を用いて,筋力を発揮する際の筋放電量変化を数値化し,筋力の増強や減退の評価に利用可能かを検証した。評価には,我々が独自に設定した筋放電-負荷指数(discharge-load index;以下DLI)を用いた。21~65歳の健常人(27名)を対象に大腿直筋でDLIを測定した。対象者の脚に自重および1~3 kgの錘による負荷をかけた状態で記録し,それぞれの筋放電量を増加率として評価した。DLIは,大腿直筋周囲長と有意な負の相関が認められた。左右差や性差,加齢によるDLIの有意な変化は見られなかった。運動習慣の有無で分類すると,運動習慣がある群ではDLIの値が有意に低く,高齢になるとDLIに差が認められた。運動習慣がある対象では,加齢に伴うDLIの変化が少なかったことから,日常の運動が筋力の発揮能力に関係すると考えられる。測定方法の最終的な確定が未遂であるが,本法は被験者が最大筋力を発揮しなくても,評価が可能で,さらに精度を高めることで筋力評価に適用できる可能性がある。

Translated Abstract

[Aims] There are many measurement conditions for muscle strength evaluation using surface electromyogram (EMG) and it is relatively difficult to measure muscle strength stably depending on the settings. We have reported that a specific assessment is possible using the discharge-load index (DLI) that we devised. In this study, we confirmed the characteristics and accuracy of DLI and verified whether it could be applied to the evaluation of individual muscle strength exertion ability. [Methods] The DLI of rectus femoris muscle (RF) was measured in 27 healthy volunteers. EMG was carried out in each subject with a load of 1–3 kg. The changes in the volume of muscle discharge were evaluated as the rate of increase in muscle discharge. Before the experiment, the circumferences of the thigh and RF were measured. In addition, the exercise history and exercise habits of the subjects were investigated. [Results] There were no significant differences in DLI between the right and left sides and genders. DLI was not significantly correlated with the circumference of the thigh, but was significantly negatively correlated with that of RF. When results were classified by exercise history and exercise habits, past exercise history did not affect DLI, but DLIs were significantly lower in the group with current exercise habits. All subjects showed no significant changes in DLI with age. However, in the group without exercise habits, DLI increased with aging. On the other hand, the group with exercise habits had a low DLI even in old age. [Conclusions] DLI may be used to assess the ability of each individual to exert strength.

I  目的

筋力は,トレーニング効果による増強や,神経や筋の疾患による減弱が見られ,正確で安定した評価が求められる。筋の出力を計測する機器は,大掛かりな筋機能解析運動装置から,手軽で徒手的に計測できる手持ちのダイナモメータなど様々な種類が存在し,物理的な筋力の評価という観点では,ほぼ正確な判断が可能である。一方で,筋力を発揮することは,あくまで本人の意思に依るものであり,加えて神経機能や筋そのものの能力によって容易に変動する。そのため,筋力の変化を,時間を経て記録する際の再現性が課題となる1)~3)。また,表面筋電図による評価では,動員される運動単位の大きさや発火頻度など,様々な要因が関与しており,分析には注意を要する。

我々はサルコペニアの評価として,簡易に機能的,形態的両面から診断する方法の可能性について報告してきた4)。その過程で,筋力について,筋放電量の実数による評価では個体差が大きく,適用が困難であると考えた。そこで,筋力変化の観察を目的として,非侵襲的に実施できる,筋放電-負荷指数(discharge-load index;以下DLI)を考案し,様々な検証を進めている。その結果,被験者の状態との整合性はある程度認められているが,安定した筋電図の記録や,負荷の方法について,未だ最善策の確立には至っておらず,さらなる検討が必要な状態である。本研究では,DLIの再現性や,健常成人における特徴を把握し,今後,臨床への応用が可能な指数として利用できるかを検証する。

II  方法

1. 対象

対象は21~65歳(34.6 ± 15.4歳)の健常成人27名(男性21名,女性6名);54肢である。聞き取りでは,2名のみが利き足が左側であると申告したため,2名について左右差の判定時には,左右を入れ替えて比較した。また,対象女性はすべて20代前半の若年者であったため,性差は若年男性のみとの比較とした(男性8名:22.5 ± 1.9歳,女性6名:21.7 ± 0.8歳)。被験者は,膝や股関節に異常がないことを確認し,口頭および文書にて,測定の内容と趣旨を説明したうえで,同意を得て実施した。本研究は純真学園大学倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号:20-01)。

2. 筋電図計測前の調査

被験者の大腿部中央の周囲長,超音波を用いて大腿直筋(rectus femoris;以下RF)の周囲長を計測した。機器は(株)フクダ電子 超音波画像診断装置 UF-760AGを使用し,コンベックスプローブ(2–5 MHz)を用いた。計測位置は筋腹中央で,短軸像を観察した。また,アンケートを実施して,過去の運動歴および現在の運動習慣の有無を調査した。聴取事項は自己申告で,運動歴は主に学生時代のクラブ活動,運動習慣は継続的に実施している1回30分以上の運動とした。

3. 表面筋電図の記録

RFを測定対象とし,軽い随意収縮下で筋腹を確認しながら,下前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結んだ線上の中間点にて,安静時,自重のみの負荷,および重錘負荷時に筋電図を記録した。記録電極は,使い捨てのシール型電極(日本光電社製NCS電極NM-31)を用い,電極位置は,先述した筋の中間点から,中枢側,末梢側にそれぞれ1 cmの位置とし,双極導出である。2秒間記録した筋電図の中間1秒間について,積分してその面積を求め,筋放電量として評価した。計測に際し,整流は実施しなかった。対象者は,リクライニングが可能な椅子上で,上半身が30度起き上がった半坐位とし,膝伸展の負荷の際の肢位は,下腿を水平に保ち,大腿-床面の角度を60度とした。測定は下腿を挙上し,自重のみの負荷がかかった状態から,足首部に1~3 kgの錘を装着し,RFの等尺性収縮時筋電図を記録した。負荷時には,目的筋以外の筋に力が入らないよう指示しながら実施した(Figure 1)。それぞれの筋放電量を測定して,自重のみの筋放電量を100%,負荷を課した時の放電量を増加率として評価した。また,同様の方法で健常成人男性5名(21.7 ± 0.6歳)を対象に,連続3日間,ほぼ同時刻にDLIの変動を観察した。筋電図の記録には,日本光電社製 筋電図・誘発電位検査装置MEB9600を使用し,バンドパスは10-10 kHzとした。

Figure 1 Design of EMG recording and measurement position

At the center of the RF muscle, EMG was recorded at rest, with a load of own weight, and with a load of 1–3 kg. Disposable electrodes were used as the recording electrode, and the distance between the electrodes is 2 cm, with bipolar recording. For 1 second while 2 seconds of recorded EMG, the area was calculated by integration and evaluated as muscle secretion.

The subject was in a half-sitting position with the upper body raised 30 degrees on a reclining chair, and the limb position under the load of knee extension was that the lower leg was kept horizontal and the thigh-floor angle was 60 degrees. The measurement was performed by raising the lower leg and attaching a weight of 1 kg to 3 kg to the ankle from the state where only the load of its own weight was applied.

4. DLI値の定義

測定した筋電図結果から,横軸に課した負荷,縦軸に筋放電量の自重のみからの変化率に設定した散布図を作成し,その近似する直線の傾きを表す数値をDLIとした(Figure 2)。呈示例の場合,DLIは28.824となる。すなわちこの値は,負荷1 kg増による筋放電量の増加率を表す。

Figure 2 The DLI evaluation method

An evaluation was attempted using the rate of increase in muscle discharge per unit load weight as an index. The slope of the approximate straight line represents the rate of increase in the amount of muscle discharge that increases with an increase in load of 1 kg. Using this slope as the Discharge Load Index: DLI, the following research will be conducted.

5. 統計解析

対象を2群に分けた場合は,左右差など対応がある場合は,ボンフェローニ補正したWilcoxon t-test,その他性差など対応がない場合はMann-Whitney U-testを用いて検定した。また,年齢,大腿部のサイズとDLI値間の相関関係は,Pearsonの相関分析を用いた。すべての検定において有意水準は5%とした。統計はMicrosoft Excel上で利用する統計演算フォーム集ファイル「ystat」を用いた。

III  結果

再現性を確認した5例において,DLIは連続した3日間で2–5程度の変動がみられ(Figure 3),その誤差は最大30%弱であった。Figure 4a, bは,大腿周囲長およびRF周囲長とDLIの関係を示す。大腿周囲長はDLIとの有意な相関はみられなかったが(p = 0.436),RFの周囲長は大きい例ほどDLIが低値であった(p = 0.011)。

Figure 3 Reproducibility of DLI

DLI were recorded for 3 consecutive days. There were slight changes in each day.

Figure 4 Relationship between thigh size and the DLI

The outer circumference of the thigh was not significantly correlated with DLI (a), but the DLI was smaller in cases with a larger RF circumference (b).

測定したDLI値に左右差や性差は認められなかった(Figure 5a, b)。対象の生活背景とDLIの関連をみるうえで,性差や明らかな左右差が認められなかったため,以下の項目は左右DLIを平均し,測定対象個人のDLIとして評価した。アンケートの結果より,運動歴ありが17名,なし10名で,運動習慣あり7名,なし20名であった。過去の運動歴の有無で,DLIに差は認められなかった(Figure 6a)。一方で,現在の運動習慣がある群のDLIは15.6 ± 2.8,運動習慣がない群では26.6 ± 7.8であり,運動習慣がある群のDLIが有意に低値であった(p = 0.0006)(Figure 6b)。運動習慣の内訳はジョギングや自転車,登山などであった。

Figure 5 Laterality (a) and gender difference (b) in DLI

There was no laterality and gender difference in DLI.

Gender differences were age-matched, and in laterality comparison, the left and right were swapped for the two subjects who declared that their dominant foot was on the left.

Figure 6 History and habits of exercise

Exercise in youth did not affect DLI. In contrast, current exercise habits were effective in lowering DLI.

加齢がDLI値に与える影響では,全ての対象において,加齢によるDLIの有意な変化は見られなかった(p = 0.545)。しかし,年齢との関連について,運動習慣の有無で分類して検討すると,現在の運動習慣がない群では,DLIと年齢の間に有意な正の相関が認められた(p = 0.022)。しかし習慣がある群では,高齢になっても若年者と同等の低いDLIが持続していた(p = 0.303)(Figure 7)。

Figure 7 Correlation between age and the DLI

There was no significant change in DLI with age in all subjects. However, when classified by exercise habits, the DLI value increased with aging in the group without exercise habits. On the other hand, in the group of exercise habits, DLI had remained low even in the elderly.

IV  考察

連続3日間で記録したDLIは,ほぼ同じ値であった。しかし,DLI値に一定の変動は認められ,判定に際して考慮すべき誤差であると思われる。今後さらに測定法の改良を進め,誤差を少なくしていくことは必須と思われる。DLI測定に際して,誤差の原因として考えられる一つは,表面筋電図が,どの程度目的筋の放電を選択的に記録できているのかということである。これまでの我々の検討で,大腿前面の筋である大腿四頭筋(quadriceps femoris; QF)のうち,比較的表層に存在するRFおよび外側広筋(vastus medialis; VM),内側広筋(vastus lateralis; VL)から,膝伸展時の筋電図を同時記録した結果,本法の記録肢位においてRFの筋腹直上の記録で,筋電図が最も選択的に記録できていた4)。QFの中でVLとVMが近位は大腿骨上部に起しているのに対し,RFは骨盤に付着する二関節筋であるため,膝関節伸展に加え,股関節を屈曲する負荷で顕著に活動しているためであると思われた。一方で,この肢位ではRFの筋放電を効率よく記録することができたが,膝伸展と股関節屈曲を個別に評価することができないため,評価目的によってさらに測定肢位を変更する必要性もある。また,歩行など動作中の二関節筋は,歩行周期の時期によって収縮部位が異なるという報告があり5),等尺性収縮の状態で,どの部位が最も作用するのかが不明の状態であり,確認の必要があると思われる。さらにRFは筋厚が比較的薄いため,深層にある中間広筋(vastus intermedius; VI)の影響も考慮する必要があるとされている6)。またRFと同じ二関節筋で,やや内側に位置する縫工筋(sartorius; SA)の影響も小さくない可能性がある。以上を考慮して,今後最適な記録方法をさらに模索する必要があると思われる。

筋の放電量から算出したDLIは,課された負荷が1 kg増した時の,筋放電量の増加率を表す。原波形を積分した値である筋放電量は,筋そのものの肥大による筋力増強効果よりも,動員や頻度調整機能の向上など神経性因子の影響が大きいとされており7),単位負荷重量当たりの増加率は,効率よく筋力を発揮できる対象ほど動員される運動単位量が少ないことになる。すなわち,DLIが低値であることは筋力の発揮能力が高いと解釈できる。

下肢において,筋の大きさと発揮できる筋力は,有意ではないが,弱い正の相関を示す報告があり8),9),また岡ら10)は大腿部の周径ではなく,MRIを用いた筋の断面積で計測することを推奨している。我々はこれまでの研究で,簡便に記録ができる超音波による形態観察を実施しており,指標として用いるのは,断面積より周囲長が検者間の誤差が少ないことを確認している4)。本研究においても大腿周囲長やRF周囲長とDLIとの関連を調査し,MRIを用いた場合と同様に,超音波による観察でも皮下脂肪や軟部組織の影響は低減すると思われ,RF周囲長のみ相関がみられた。Kosarovら11),原12)は,運動単位によって生じた荷重電位は,記録電極から運動単位の電位軸までの半径の距離のn乗に比例して減少するとし,筋放電量に対する皮下脂肪の影響については,有意な負の相関が認められたと報告している。また,最大随意筋力(maximum voluntary contraction; MVC)は,個体間の比較などを実施する際の正規化の手法として用いられるが,最大の筋力発揮は被験者の意思であるため,測定困難な例が存在することも予想される。DLIは,筋放電量の実数ではなく増加率であり,さらに被験者が発揮できる最大の筋力が不明でも利用できる可能性があると考えている。

今回の調査では,DLIの値に20代の若年者における性差や,利き足と非利き足の有意差は認められなかった。性差についてはさらに高齢の対象者を増やして観察する必要がある。筋量や筋力の性差については,下肢筋では,上肢の筋と比較して顕著ではないことが報告されており13),今後,上肢筋におけるDLIを測定し,検証する必要があると考える。筋力やそれ以外の下肢機能も含めた左右差については,甲斐ら14),浅見ら15)の報告でも有意差は報告されておらず,DLIでもそれらと同様の評価が可能であったと考える。利き足の聴取は,本人もはっきりとはわからないとした例も多く,正確性に問題がある。脚を変則的に使用するスポーツ経験者では,片側で優勢がみられることがあるが16),17),上肢筋ほど顕著ではなく,一般人における明らかな歩行動作の左右差の報告は比較的少ないというレビューもある18)。ヒトの基本動作となる歩行や走行動作における左右差の存在はまだ明確ではない。

過去の運動歴や現在の運動習慣が筋力に及ぼす影響について,土屋ら19)は,運動経験がある群では,ない群と比較して伸展,屈曲いずれの筋力も有意に高値を示したことから,青少年期における運動経験が,その後の大腿部筋力維持に重要であるとしながらも,現在の運動習慣が関係している可能性も述べている。今後,過去の運動歴や,生活背景としての運動習慣についてヒアリングする際には,その種類や負荷量,期間および効果を定量的に判断し,関連を調査することが必要であると思われる。

すべての対象について観察すると,年齢とDLIの有意な相関は認められなかった。しかし,DLIの明らかな差が認められた運動習慣で分類すると,加齢がDLIに及ぼす影響で異なる結果が確認された。Janssenら20),山田ら21)による,30代以降で筋量や筋力が低下するという報告を支持できる結果であり,さらに継続した運動習慣で,その低下を抑止する効果がある可能性も示唆された。年齢がDLIに及ぼす影響についても,さらに多くの高齢対象の結果が必要であると思われる。

これまで,表面筋電図の積分値が,発揮筋力に比例し,その周波数成分の変化が筋疲労状態に相関することなどはすでに報告されており22),23),経験的な事実として医療や運動生理学などの分野で応用されている。DLIはそれを評価の指標として数値化しており,経時変化や個体差などの評価もできる可能性があると考えている。ただし,DLIは単純に発揮される筋力を反映しているわけではないことは明らかである。最大筋力のみではなく,筋長24)や関節角度25),動員する運動単位など神経系の影響26)によるDLIの変化を確認する必要があると思われる。今回は,DLIと被験者背景の関連を調査し,ほぼ予測に違わない結果であり,日常生活における筋の評価に利用できる可能性が示唆されたが,DLI値が表すものが何かという検討に及ばなかった。今後は徒手検査による筋力との対比や,何らかの介入後に筋力や運動能力が変化した場合の評価が可能かどうかを観察する必要があると考える。その結果をもとに,筋力発揮時の運動単位動員パターン,発火頻度変動の増減等の変化も分析していきたい。

本研究は,JSPS科研費(課題番号20K12719)「超音波および筋電図を用いた筋の形態・機能の簡易的評価法によるサルコペニア診断」の助成を受けて実施された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本稿を終えるにあたり,筋電図の記録にご助力いただいた純真学園大学保健医療学部の学生諸子に深謝いたします。

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