Japanese Journal of Medical Technology
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Efforts to improve work efficiency and standardization in genetic tests using pathological samples: Usefulness of information management using check sheets
Yukie TOOMINEFumihiko OKUBOHidetaka YAMAMOTOTomohiko YAMAGUCHIMiwako NOGAMIKanako NAKATSUKIMasaki NAKAYoshinao ODA
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2022 Volume 71 Issue 3 Pages 528-537

Details
Abstract

本邦において,分子標的治療やがんゲノム医療が推進され,病理検体を用いたコンパニオン診断・遺伝子検査(以下,病理検体遺伝子検査)の項目数と出検数が著しく増加しており,検体要件も検査ごとに異なる。これに伴い臨床検査技師への負担は大きくなっており,作業効率化や標準化への取り組みが急務である。今回,当院における病理検体遺伝子検査の現状と作業効率化のための取り組みを報告する。過去5年間(2016年~2020年)で,病理検体遺伝子検査は,項目数が約2.5倍,年間出検数が約2倍に増加していた。作業の効率化と標準化のため,当院では独自に3種類(コンパニオン診断用,肺がん関連遺伝子検査用,がん遺伝子パネル検査用)の病理検体遺伝子検査チェックシートを作成し,適宜改訂しながら運用してきた。主な特徴は,1)検体情報と確認事項の記入,2)複数検査項目依頼時の優先順位の記入,3)必要書類,検体提出要件の参照,4)病理医による検体適否と薄切枚数の記入である。このチェックシートの導入は,病理部員同士の情報共有と作業効率化や標準化の一助となった。病理検体遺伝子検査において,臨床検査技師はプレアナリシスの段階から重要な役割を担っているが,検査依頼を受けてから検体提出までの工程と情報管理も重要であり,その1つの手段として病理検体遺伝子検査チェックシートの活用は大変有用であると考えられた。

Translated Abstract

Molecular targeted therapy and cancer genomic medicine have been promoted in Japan, and the numbers of orders of genetic tests and companion diagnostics and completed tests have increased significantly. The sample requirements differ among these tests, and medical technologists’ workload has been increasing. Improved work efficiency and standardization are thus necessary. We report the current status of genetic tests and efforts to improve the related work efficiency at our hospital. We investigated the status of genetic tests at the hospital over the period from 2016 to 2020. As a result, we found that the number of orders increased by approximately 2.5-fold, and the number of genetic tests examined in one year increased by approximately twofold. To improve work efficiency and standardization, we created three types of check sheet (for companion diagnostics, genetic tests for lung cancer, and cancer multigene panel tests) and have been using them while revising them as the need arises. Their main features are descriptions of (1) sample information and confirmation contents, (2) the priority of multiple orders, (3) the application form required for ordering genetic tests and requirements for sample submission, and (4) sample suitability for pathologists and the number of unstained slides. The check sheets have helped staff share information, improve work efficiency, and standardize work. Medical technologists play an important role in genetic tests from the pre-analysis stage. The processes from receiving orders to submitting samples and information management are also important. Our analyses revealed that the use of check sheets has been very effective for improving our hospital’s genetic tests and companion-diagnostics-related work efficiency.

I  はじめに

近年,本邦におけるがんゲノム医療が推進され,がんの個別化医療において,適切な患者選定のための治療標的分子検索を目的とした多くのコンパニオン診断に加え,複数の遺伝子を一度に検索可能ながん遺伝子パネル検査の保険適用から,病理検体を用いた遺伝子検査の検査項目数と出検数が著しく増加している。また,2018年3月には,一般社団法人日本病理学会より「ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程」が策定され,病理組織検体の適切な検体処理等について,がんゲノム医療の普及に伴い多くの施設で参照・利用されている1)

当院は,2018年2月にがんゲノム医療中核拠点病院に指定され2),病理診断科・病理部においては,2019年9月にISO 15189を取得し,現在に至る。また,院内もしくは九州大学医学部内には次世代シークエンサー等用いて遺伝子検査を行うがんゲノム医療に特化した部署3)はないため,病理検体を用いた遺伝子検査の実施については,そのすべてを外部委託している。そのため,病理診断科・病理部では,通常の組織診検査および細胞診検査に加えて病理検体を用いた遺伝子検査の運用と情報管理も行っている。当部署では2013年1月より,病理診断システムを用いてEGFR遺伝子変異解析検査の管理を開始した。それにより,病理診断システムで組織診検査,細胞診検査,病理検体を用いた遺伝子検査を一括管理し,病院情報システム(hospital information system; HIS)と連携し,検査依頼から結果報告までの作業を行っている。しかしながら,ゲノム診療用病理組織検体は,プレアナリシスの段階からの管理が必要とされ,それらは遺伝子検査の成否に影響する1)。更に,遺伝子検査はその項目によって,検体提出要件が当然異なる。また,委託検査会社専用依頼書を要するものもあり,出検までの手続きも多様で複雑なものも少なくない。その結果,病理医,臨床検査技師の遺伝子検査に関連した作業負担は大きくなっている。そのため,病理部員の作業負担軽減の観点から,病理検体を用いた遺伝子検査の作業効率化への取り組みは急務であり大きな課題となっている。

そこで今回,当院における病理検体を用いたコンパニオン診断・遺伝子検査(以下,病理検体遺伝子検査)の運用の現状調査と,病理検体遺伝子検査の依頼を受けてから検体を提出するまでの段階における作業効率化の取り組みについて報告する。

II  当院における病理検体遺伝子検査運用の概要と現状調査

1. 病理検体遺伝子検査運用の概要

当院では,病理検体遺伝子検査の依頼受付から最終結果報告までを病理診断システム(Dr.ヘルパーBegin S(ひろぎんITソリューションズ))を用いて情報管理と運用を行っている(Figure 1)。

Figure 1 Flowchart from the acceptance of ordering a genetic test for pathological specimen to the final report

検査依頼から結果報告までに,まず臨床医が,検体選択と病理検体遺伝子検査申込書を作成し提出する。このとき,臨床医は病理組織診断報告書に関連付けられたWhole Slide Imagingで,ヘマトキシリン・エオジン(hematoxylin-eosin; HE)染色標本を確認し,依頼する病理検体を選択する。生検等の小さな組織や複数の病理検体遺伝子検査を依頼予定である場合には,臨床医よりホルマリン固定パラフィン包埋(formalin-fixed, paraffin-embedded; FFPE)ブロックの残量について事前に問い合わせを受ける。その際には,担当技師が指定された検体のFFPEブロックの確認を行うが,FFPEブロック内の残余組織がほとんどなく,明らかに依頼予定の病理検体遺伝子検査に必要な枚数の未染標本の作製が困難であると判断した場合には,担当技師より依頼医へ連絡し,検査実施困難であることを伝えている。次に,臨床検査技師が,依頼内容と指定された検体の確認を行い,必要事項を病理検体遺伝子検査チェックシートに記入し,HE染色標本を病理医へ提出する。そして病理医が,各検査項目で委託検査会社より提示されている検体提出要件について,指定された検体の適否判定とFFPEブロックの選別を行う。検体が決まったら,臨床検査技師が提出用の未染標本やパラフィン切片,FFPEブロックを準備する。その後,さらに別の臨床検査技師が,委託検査会社へ提出するための検体(未染標本,FFPEブロック,腫瘍部分にマーキングをしたHE染色標本等)と必要書類の最終確認と受付作業を行う。最後に,メディカルアシスタント(以下,MA)が,HISと病理診断システムへ委託検査会社より返却された最終報告書のデータ取り込みと送信を行う。このように当院における現在の運用システムでは,1件の遺伝子検査の依頼に少なくとも6名が関わっている。そのため,各工程における担当者間での情報管理・共有が円滑な運用には大変重要となる。

2. 病理検体遺伝子検査の年間出検数と依頼項目数

当院における過去5年間(2016年1月1日~2020年12月31日)の病理検体遺伝子検査(コンパニオン診断およびがん遺伝子パネル検査等)の出検数と依頼項目数をTable 1に示す。依頼項目数は5年間で11項目から25項目となり,約2.5倍に増加した。これに伴い,遺伝子検査の年間出検数も増加傾向にあり,2016年では出検総数が432件(月平均36件)であるのに対し,2020年においては2019年より減少はしているものの918件(月平均76.5件)であり,約2倍に増加した。

Table 1  Relationship between the number of performed genetic tests and the number of ordered genetic test items at Kyushu University Hospital during the survey period Jan. 1, 2016 to Dec. 31, 2020
No. of performed genetic tests No. of ordered genetic test items
Companion diagnostics Multi-gene panel testing Total
2016 432 0 432 11
2017 460 0 460 13
2018 756 0 756 15
2019 867 130 997 20
2020 651 267 918 25

特に,がん遺伝子パネル検査であるFoundationOne® CDxがんゲノムプロファイル(以下,F1CDx),OncoGuideTM NCCオンコパネル システム(以下,NCCオンコパネル),オンコマインTM Dx Target TestマルチCDxシステム(以下,オンコマインDxTT)の年間出検数について,2019年では130件であるのに対し,2020年は267件と大きな差異があった。これは,これら3種類のがん遺伝子パネル検査が,2019年6月より保険適用4)となったため調査対象期間が2019年と2020年とで異なることが要因である。また,2020年における,がん遺伝子パネル検査の内訳は,F1CDxが最も多く72%(191件)を占めていた(Table 2)。また,これに加えて,治験の病理検体遺伝子検査(がん遺伝子パネル検査を含む)の一部についても,検体の適否判定や提出用HE染色標本および未染標本作製までを病理診断科・病理部にて請け負っている。

Table 2  Details of the cancer multi-gene panel testing at Kyushu University Hospital in 2020 (n = 267)
Multi-gene panel testing n %
FoundationOne® CDx 191 72
OncoGuideTM NCC Oncopanel system 3 1
OncomineTM Dx Target Test 73 27
Total 267 100

III  病理検体遺伝子検査チェックシートの作成

前項II-1の通り,病理検体遺伝子検査には少なくとも6名の病理部員が関わっているが,担当者間での情報共有と作業効率化を目的として,当院独自で「病理検体遺伝子検査チェックシート」を3種類(A4サイズ,各1枚)作成し,適宜改訂を加えながら運用してきた。このシートは原則として,患者ごとに1枚使用し,遺伝子検査依頼項目に応じて,①コンパニオン診断用(Figure 2),②肺がん関連遺伝子検査用(Figure 3),③がん遺伝子パネル検査用(Figure 4)の3種類を使い分けることとした。ただし,乳癌・胃癌HER2蛋白免疫染色は,院内において病理組織診断の過程で実施されるため,このチェックシートには含まれていない。

Figure 2 An example of the use of the check sheet for companion diagnostics created by Kyushu University Hospital

Green arrow: The formalin-fixed, paraffin-embedded (FFPE) sample information to be confirmed for genetic testing. Orange arrow: The priority of genetic tests. Pink arrow: The type and requirement of FFPE samples examined for genetic tests.

Figure 3 An example of the use of the check sheet for genetic tests associated with lung cancer created by Kyushu University Hospital

Green arrows: The FFPE sample information to be confirmed for genetic testing. Orange arrow: The priority of genetic tests. Pink arrow: The type and requirement of FFPE samples examined for genetic tests. Purple arrow: The number of unstained specimens required for ordered genetic testing.

Figure 4 An example of the use of the check sheet for cancer multi-gene panel testing created by Kyushu University Hospital

Green arrows: The FFPE sample information to be confirmed for cancer multi-gene panel testing. Pink arrow: The type and requirement of FFPE samples examined for cancer multi-gene panel testing. Purple arrows: The number of unstained specimens required for ordered cancer multi-gene panel testing.

臨床検査技師が依頼医から病理検体遺伝子検査申込書を病理部受付にて受け取ると,指定された検体について,①~③のチェックシートに記載された確認項目について病理診断システムで検索を行う。必要時には依頼医に直接内容を確認した上でこれを記入し,病理検体遺伝子検査申込書(HISにて作成し印刷),①~③のうちいずれかの病理検体遺伝子検査チェックシート1枚およびHE染色標本を揃えて,病理医へ適否判定を依頼する。このとき,FFPEブロックについては基本的に病理医には提出しないが,生検検体の中でもかなり組織の小さなものや,組織診断時に複数の抗体で免疫染色を実施している場合,同一検体を使用した病理検体遺伝子検査の前歴がある場合には,事前に担当技師がFFPEブロックの残量についても確認を行っている。指定された検体について,FFPEブロック内の残余組織が少なく,HE染色標本のみの提出では,検体提出のための適否判定やブロックの選定の結果に影響を及ぼす可能性があると担当技師が判断した場合には,その旨をチェックシートに記載した上で,FFPEブロックも併せて病理医へ提出している。また,適否判定の結果,病理医より「腫瘍が少量で検査結果に影響する恐れあり」や「別検体の方が検査に適する」等のコメントが記載されている場合には,担当技師が,必ず依頼医に連絡し了承を得てから次の工程へとすすめることとしている。病理検体遺伝子検査チェックシートにおいて,作業効率を考え工夫した主な特徴を以下に5項目示した。

1. 検体情報および確認事項の記載

病理検体遺伝子検査の申込書は,病理部の受付で臨床医等から,直接臨床検査技師が受け取るが,特定の技師のみが受け取るわけではない。そのため,誰が受け取っても確認すべき項目が明確にわかるように,チェックシートには各検査で指定されている検体提出要件をふまえて,遺伝子検査実施の上で最低限確認が必要な項目を記載した(Figures 24,緑矢印)。これにより,検体について確認漏れを防ぎ,担当技師の確認作業の内容を統一することができた。また,指定された検体が生検検体であるときには,薄切担当者の作業を円滑にするため,必ず該当のFFPEブロックについて使いきりの可否を確認することとした。

また,がん遺伝子パネル検査においては,他施設で作製されたFFPEブロックや未染標本での依頼を受けることが少なくない。ホルマリン固定液の種類によっては,検体の核酸品質に影響し5),検査不成立や結果が限定的になる等何らかの影響を及ぼす可能性がある。そのため,必ず検体固定時に使用されたホルマリンが10%中性緩衝ホルマリンであるか否かを確認し記載することとした(Figure 4,緑矢印(上部))。依頼医からの資料にホルマリン固定液の種類について記載がない場合には,対象施設へ担当技師が電話で問い合わせを行っている。

2. 複数検査項目依頼時の優先順位の記載

特に,肺がん関連遺伝子検査においては,同一検体にて2項目(オンコマインDxTTとPD-L1検査等)もしくは3項目(EGFR遺伝子変異解析検査,オンコマインDxTTおよびPD-L1検査)の検査が依頼される場合が多い(Figure 3)。依頼項目数が多くなれば,当然その分薄切枚数が多くなり,これに伴い腫瘍細胞量減少や,FFPEブロックの残量不足の可能性がある。そのため,依頼医に優先順位を予め確認し記載することとした(Figures 2, 3,橙矢印)。委託検査会社に提出するための未染標本やパラフィン切片は,担当技師がこの優先順位に基づき作製している。

3. 必要書類,検体提出要件の記載

遺伝子検査項目が異なれば,必要書類や検体提出要件が異なるため,チェックシートには委託検査会社専用の検査申込書が必要になる場合や,検査項目毎に指定されている検体採取日からの推奨期間について,3年よりも短い場合について記載した(Figures 2, 3,ピンク矢印)。これは,病理検体遺伝子検査が,一般的に検体採取日より3年以内の検体が推奨される検査項目が多いことから,これより短い検体採取日から1年以内や2年以内の検体が推奨されているRASBRAF遺伝子変異解析,マイクロサテライト不安定性検査,ROS1融合遺伝子解析,EGFR遺伝子変異解析コバスv2(Figures 2, 3)では,注意を要するためである。また,腫瘍組織以外に血液検体や正常組織の提出が必要な場合にも,その旨を記載した。このように記載することで,病理部の受付で担当者が遺伝子検査の申込書を受け取った際に,必要書類の確認や推奨期間外の検体を用いる場合には,依頼医にその場で確認・了承を得ることが可能となった。

なお,Figure 3に記載されているオンコマインDxTT(図中には「肺癌オンコマインマルチCDxシステム」と記載)とArcherMET(CDx)遺伝子変異解析の検体提出要件に関しては,メーカーの推奨要件を基に,当院独自の腫瘍細胞数による基準を設けている。したがって,この基準が他施設による検査精度を保証するものではないことを申し添えておく。

4. 病理医による薄切枚数の指定

病理医は,病理検体遺伝子検査申込書,依頼検査項目に応じた①~③いずれかのチェックシートおよびHE染色標本をセットで受け取る。そして,検査申込書の内容とHE染色標本を確認し,依頼された遺伝子検査の検体提出要件と腫瘍細胞核含有率,必要に応じてFFPEブロックの残量を加味し,検体提出のための適否判定とFFPEブロックの選別を行う。そして,その結果をチェックシートに記入する。特に,がん遺伝子パネル検査のような多くの遺伝子を検索する項目では,検査実施のために腫瘍細胞核含有率や切片表面の面積等に指定があるため6),7),それぞれの検体で腫瘍細胞核含有率と切片表面の面積から薄切枚数を指定された条件に見合うように調整する必要がある。以前は,この薄切枚数の調整を提出用の未染標本の作製を担当する技師が行っていたが,担当者間で個人差があること,病理医が検体の内容を加味した上で薄切枚数を指定した方がよいという観点から,現在は適否判定を行った病理医が薄切枚数を指定している(Figures 3, 4,紫矢印)。また,F1CDxおよびNCCオンコパネルについては,提出用の未染標本作製後に薄切した切片で作製したHE染色標本にて2回目の適否判定を行っている。その際に病理医が,そのHE染色標本内容から必要と判断した場合(1回目の適否判定時より腫瘍細胞核含有率が極端に減少しており,検査に最低限必要な核酸の収量不足や腫瘍体積を満たさない可能性がある場合等)には,追加必要枚数をチェックシートに記入し,提出用未染標本の追加作製を指示することとした(Figure 4,紫矢印(下部))。

病理医により提出用の未染色標本の作製枚数が指定される遺伝子検査項目(Figures 3, 4)において,生検等の小さな検体では,各検査にて推奨される検体提出要件を満たすために,指定される未染色標本の作製枚数が切除検体に比較し多くなる。病理医による適否判定後に,担当技師がFFPEブロックを準備するが,その際に指定された未染標本作製枚数に対して,FFPEブロック内の残余組織(特に腫瘍細胞成分の含まれる部分)が不足しており,指定されただけの未染標本を作製することが困難な可能性がある場合には,担当技師が依頼医へ連絡し,了承を得た上で次の工程へと進めている。また,同様に薄切した結果,指定された枚数だけ未染標本を作製することができなかった場合にも,担当技師が依頼医へその旨を伝え,了承を得た上で,委託検査会社へ検体を提出している。

5. 病理検体遺伝子検査チェックシートの管理

3種類の病理検体遺伝子検査チェックシートの原本となる電子データは,ISO 15189の関係上,文書管理ソフトにて「記録フォーマット」として登録されている。記載済みのチェックシート(紙媒体)については,現在2つの方法で管理・保管している。

1) 病理診断システムでの管理

病理検体遺伝子検査申込書や各遺伝子検査における専用依頼書等の関連書類および遺伝子検査チェックシートは,PDF化し病理診断システムへ取り込み管理している。これにより,遺伝子検査の履歴を検索した際には,その検体の検体情報,適否判定の結果や薄切枚数等の参照が可能となった。

2) 記録として紙媒体で保管

病理診断システムでの管理と共に紙媒体で記録として保管している。特に,オンコマインDxTT と関連書類の多いF1CDx,NCCオンコパネルについては,臨床からの問い合わせを受けることもあるため,すぐに対応できるように検査毎に病理検体遺伝子検査申込書とチェックシートおよび関連書類のすべてをセットにして,ファイリングし管理をしている。

IV  まとめ

今回,当院における病理検体遺伝子検査の現状と作業効率化を目的とした取り組みの1つとして,「病理検体遺伝子チェックシート」の作成とその使用について報告した。過去5年間の病理検体を用いた遺伝子検査の出検数と依頼項目数の推移(Table 1)をみても,病理検体を用いた遺伝子検査は,今後更に増加していくことは明白である。

病理検体を用いた遺伝子検査数が増加すれば,委託検査会社に検体を提出するまでの作業工程が,必要書類の準備を含めて複雑化していくことが見込まれる。これに伴い,現在使用している3種類の病理検体遺伝子検査チェックシートも,適宜改訂を重ねていく必要があると考える。改訂作業を行う際には,言うまでもなく遺伝子検査の各工程に関わる病理医および臨床検査技師より追加・修正事項の意見を募り,その内容を最大限反映するよう努めることで,病理部員のストレス軽減と更なる作業効率の向上を目指すことが肝要である。特に当院では,通常の組織診検査,細胞診検査に加えて遺伝子検査の運用も病理診断科・病理部にて担うため,個人の作業負担の観点からも,各工程の担当者間での情報共有と業務円滑化のために病理検体遺伝子検査チェックシートの活用は大変意義深いものである。

また,各工程を担当する部員においては,病理検体遺伝子検査チェックシートに記載されていることを全て鵜呑みにせずに,記載内容を再度確認した上で疑問(がん遺伝子パネル検査の薄切枚数が適切か否か,指定されたFFPEブロックの残量等)が生じた場合には,前工程の担当者や必要があれば依頼医に問い合わせをすることも遺伝子検査成否に関わる重要な作業であると言える。これは,組織診検査や細胞診検査と異なり,遺伝子検査が依頼項目によっては最終結果報告までに,長いもので1ヵ月程度日数を要することからも重要であると考えられる。

病理検体遺伝子検査の作業効率化と検査成功のために,3種類の遺伝子検査チェックシートの活用以外では,新規に保険適用された遺伝子検査項目,検体提出要件の変更点,委託検査会社専用申込書の変更等があった場合には,部員に周知徹底し,普段から情報共有しておくことや作業担当者間でのコミュニケーションが重要な要素であることは言うまでもない。

V  結語

病理検体を用いる遺伝子検査において,臨床検査技師はプレアナリシスの段階から重要な役割を担っている8)。ゲノム研究用・診療用病理組織検体取扱い規程に則り,遺伝子検査を見据えてFFPE検体を作製するまでの工程は,後の検査結果を左右するため大変重要である。しかしながら,それと同様に検査依頼を受けてから検体を提出するまでの工程と情報管理も極めて重要であり,その1つの手段として「遺伝子検査チェックシート」を活用し作業効率化を図ることは大変有用であると考えられた。

本論文の一部内容は,第70回日本医学検査学会(2021年5月,福岡県(Web開催))において一般演題として発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本稿の執筆に当たり,ご指導・ご協力を賜りました九州大学大学院医学研究院形態機能病理学 孝橋賢一先生,山田裕一先生,橋迫美貴子先生,木下伊寿美先生,岩崎 健先生他,諸先生方,当院病理診断科・病理部 木村理恵技師,梶原大雅技師,並河真美技師,山本一美技師,髙松祐未技師,丸山千穂技師および関係の皆様に深謝申し上げます。

文献
 
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