Japanese Journal of Medical Technology
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Activity report on the Unsui Course, a human resources development course for the medical device development field, in which we participated as clinical laboratory technicians
Yukari ENDOAtsuro KOGAKatsunori KIMURANobuyuki ISOOHiromu OKADAHarunobu IMAGAWANaofumi SAIKIChieko OHNO
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2022 Volume 71 Issue 3 Pages 501-509

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Abstract

医療分野で使用される製品開発は,医療現場で評価されることで製品化が可能となるため,医療従事者がアイデア提案や課題抽出の段階から関わる真の医工連携が求められている。これまでに医工連携により製品化に至った事例には,看護用品,診断装置,及び治療装置等挙げられるが,臨床検査技師が製品化に関与した製品数は他の医療職と比較すると少ない。当院では,医療機器開発人材育成共学講座を開講し,医療ニーズに応える製品開発を目的に支援事業及び人材育成を行っている。今回,本講座の中で,医療ニーズの探索から製品企画・提案までの道のりを学ぶプログラム「雲水コース」に臨床検査技師として参画し,様々な職務経歴者で編成したチームメンバーとともに製品開発に挑んだ。本コースの取り組みは短期間だったが,実際に病理検査業務での課題や医療ニーズを提示し,課題とニーズの深掘り,解決アイテムのアイデア出し,及び製品アイデアを具現化する手法等,製品開発に至る一連の流れを体験した。製品開発は容易ではなく,特に医療従事者ではないメンバーとの検査業務内容や医療ニーズの理解は,個々の努力と時間を要した。しかし一方で,製品アイデアが具現化されていく面白さを知ることができた。本コースに参画し,医療従事者として製品開発へ関わることの重要性や日常業務で使用する医療物資や検査装置の価値,及び日常検査業務の意義や課題を再認識でき,貴重な経験となった。

Translated Abstract

Medical devices can be commercialized only after being evaluated in clinical practice; therefore, there is a need for medical–industrial collaboration that involves medical professionals from the earliest stages of development. Products that have been commercialized through such collaboration include nursing supplies, diagnostic equipment, and treatment equipment, but the number of products that clinical laboratory technicians have helped to commercialize is small compared with other medical professions. Our hospital offers a human resources development course in medical device development and conducts support projects with the aim of developing products that meet medical needs. Recently, I have participated as a clinical laboratory technician in the Unsui Course, which teaches the medical device development process, from identifying medical needs to product planning and proposals, taking on the challenge of developing products in collaboration with members of various professions. Although this was a short-term course, participants carried out in many activities, including identifying issues and medical needs at a pathological examination site, considering those issues and needs, formulating solutions, and implementing those solutions. Product development was not easy, and it took time and effort for all team members to understand the testing work and medical needs. However, I discovered the joy of turning product ideas into reality. Participating in this course was a valuable experience that allowed me to reaffirm the importance of being involved in product development as a medical professional, understand the value of medical supplies and inspection equipment used in daily work, and appreciate the significance and issues of daily inspection work.

I  はじめに

医療製品の開発は医療分野で評価後に初めて製品化が可能となるため,企業側の一方的な判断でものづくりができない点が一般的な工業製品の開発と異なり,難しい部分とされる。そのため,大学病院や医療機関の関与が必須であり,医療従事者が積極的に製品開発に関与し,医療現場のニーズを活かしたものづくり,いわゆる医工連携の促進が推奨されている1)~3)。医工連携の取り組みは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:以下,AMED)を中心に様々な事業が推進され,医療従事者側が医療ニーズを常に提示できるように,ワンストップ窓口「医療機器開発支援ネットワーク」やWebサイト「医療機器アイデアボックス」が設置されている4)。また,「医工連携」の拡充と加速のため医療従事者個人や医療機関との連携だけではなく,種々の医学関連学会との連携を図ることが期待され,既に一部の学会では企業と学会員の医工連携活動の支援や企業からの相談窓口の設置などを開始している5)

これまでに医工連携により製品化に至った報告事例には,看護用品,診断装置,及び治療装置などがいくつか散見される6)~15)。しかし,臨床検査技師が開発段階から関与した製品数は他の医療職と比較すると少ない11),13),14)。2020年に「医療機器アイデアボックス」に寄せられた医療ニーズの内訳をみると処置器具や看護用品に関連するニーズが27件に対し,検査に関連したニーズは5件に留まる4)。実際に,全国の研修会企画をみても製品開発についてノウハウを学ぶ機会は殆どなく,十分な情報共有ができていないことも現状である16)。2021年5月には医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアに関する法改正が成立し,その後正式に政令・省令等が公布され,臨床検査技師が実施できる行為として新たに10業務が追加された17)。臨床検査技師は日常業務として数多くの検査を行い,様々な検査装置を扱い,適切な検査報告に努めているが,今後は業務範囲拡大に併せ各施設の業務形態の見直しや,使用する検査装置の更なる利便性,安全性や時間短縮化が求められる状況にある。

鳥取大学では,医療現場のニーズに応える医療製品の開発と実用化を推進することを目的とした人材育成や支援事業を行っている。具体的には「企業人と医療人が共に学ぶ共に育つ」をキーワードに医療機器人材育成講座「共学講座」を平成26年度より開講し,医療機器開発経験のない中小企業の技術者と医療従事者が同じ目標に向かって協働する活動を目指した「発心コース」と「雲水コース」(令和3年度よりさらに各コースは2つに区分)を設置している。「発心コース」はいわゆる入門コースとして位置づけ,座学を中心にした医療機器に関する知識を身に付けるとともに医療現場見学会を行い,医療現場に企業の技術者を招待し,企業人と医療人が現場で交流する場を形成する内容である。一方,「雲水コース」は,医療人,企業人,学生らの参加した4~5人のグループがグループワークにより能動的に意見を発言し討議することを通じて,新しいアイデアを創発する応用コースである。いずれのコースも,発明は多様な考え方を持つ人々が同じ課題について話し合うことによって生まれると考え,「混ざる教育」を徹底して実践する内容である。

その他にも,医療従事者に対して医療ニーズや製品アイデアを常に募集しており,製品開発に挑みやすい環境が築かれている。これまで当院にて製品化し発売に至った事例は2021年4月1日時点で24件に達した(Table 1)。

Table 1  鳥取大学医学部附属病院 開発製品紹介(2021年4月1日時点)
職種 製品詳細 件数 職種 製品詳細 件数
医 師 ・漏れにくい紙おむつ
・膵臓採取細胞チェッカー
・血糖値測定器データ転送アダプター
・手術映像録画システム
・医療用ドリル
・医療シミュレーター『mikoto』,『大腸モデル』
・上内視鏡用マウスピース
・褥瘡シミュレーター
・感染防止製品『紙製フェイスシールド』,
 『飛沫防止ボックス』
・サージカルルーペ用防曇性フィルム
13 看護師 ・看護用ワゴン
・医療用タグ付け器
・水対応頸椎カラー
・小児用両手稼働制限サポーター
・尿器カバー
5
管理栄養士 ・病院食用 冷めにくい食器
・紙製配膳トレー
2
教 員 ・寝るときに着る背中保温保護用衣料 1
歯科技工士 ・粘膜保護用マウスピース 1
医用工学技士 ・呼吸器回路カバー 1
放射線技師 ・手首肘固定シーネ 1
合 計  24 件

著者は手作業が多い病理検査業務の中で誤認防止による作業負担や精神的な負担を軽減したい希望があり,具体的な製品アイデアを練るため雲水コースに参加した。今回,チームメンバーとともに製品開発に挑んだのでその活動内容を紹介する。

II  医療機器開発人材育成プログラム「雲水コース」の概要

1. 雲水コースの目的(令和2年度)

製品企画を進めると同時に,参加者1人1人が下記事項を修得することとされた。

・人とのつながり(人脈,コミュニケーション)をもつこと

・自分にとってのリーダーシップ像,医療製品開発におけるリーダーシップ像を見出すこと

・医療製品開発にとって大事なことは何か実践を通し学ぶこと

2. チーム編成

実際の製品開発の流れを模したチームづくりが行われた。予め医療従事者は各自の現場で問題となっている医療ニーズをいくつか提案し,非医療従事者はこの中から関心や問題解決可能な医療ニーズ内容(マッチングする内容)を選択した。今回,雲水コースに参加した医療従事者は,医師,臨床検査技師,薬剤師の3名で,それぞれの医療ニーズに対応した3チーム(順に診療科系チーム,病理系チーム,医薬品系チーム)が形成された。著者は「標本作製時の患者誤認や検体誤認リスクを軽減したい」という医療ニーズを提案し,著者ら6名(医療1名,企業2名,学生1名,支援機関1名,教員兼ファシリテーター1名)が病理系チームに属した。製品開発時の権利を明確にするため,開発内容の共有は参加者のみとされた。

3. 開催形式と雲水コースの内容

全日程ともオンラインツール(Zoom)が活用された。開催期間は約2ヶ月,開講日数としては7日間で,金曜日(18時~20時)と土曜日(10時~16時)に実施された。コース内容としては基礎と実践を学ぶために,それぞれセミナーおよびワークショップが企画された(Table 2)。チーム内の情報共有の手段はメンバーで相談し,LINEのみに限定した。

Table 2  雲水コース講義内容
講義内容
セミナー ・今雲水コースと目指すゴールについて
・リーダーシップについて
・医療製品開発の勘所について
・取組み内容の中間発表
・医療機器ビジネスにおけるリーダーシップについて
ワークショップ ・ウォンツとニーズの違い
・モノづくりサポート体制
・ニーズの具現化
・ワールドカフェ
・医療製品の提案

III  雲水コース セミナー

リーダーシップに関する理論,種類,製品開発やビジネスにおいて必要とされるリーダー像についての講演を聴講した。この講演では,リーダーシップには支配型,支援型,民主型,共創型などの種々のリーダーシップ像が存在すること,また製品開発では,主体性や創造性を引き出す共創型のリーダーシップ像が重要であることを学習した。講演後,病理系チーム内では,メンバー各自の持ち味を活かすこと,製品企画の段階や状況に応じて各々がリーダーシップを発揮することに注意を払った。

また,コース期間中盤に中間発表の機会が設けられ,各チームの製品開発の進捗状況を発表した。発表後は製品アイデアや製品像についてコメンテーター,オブザーバー,及びファシリテーター(医療機器・薬事承認申請コンサルト会社,商工会議所企画部,医療機材専門商社等の各専門家,看護師,医師ら)全員より指摘やアドバイスを受けた。病理系チームでは後述する根本的なニーズの深掘りを行うこと,誤認事例の傾向や市場性を分析することに重点を置き,改善に努めた。

IV  雲水コース ワークショップ

実践開始前に,先ずチームメンバーが病理検査業務の内容を理解することが必要であった。病理検査は患者との接点がなく,医療従事者の中でも関係者以外が目にする機会が殆どない検査分野である。そのため,検査内容をイメージし難く業務内容の共有に苦戦した。更に,コロナ禍の来院制限により実際の職場を見学する機会を欠き,チームメンバーに対してどのように検査工程や使用する装置を伝えるかコース開始早々に困難に直面した。対処方法としては,多くの現場写真や動画記録の共有,実際の業務で使用するカセットおよびプレパラートの提供等を行い,検査イメージをつかみやすいよう工夫した。チームメンバーも独自に下調べを行い,相互理解に努めた。業務内容の共有に時間は要したが最終的には病理検査について未知であったチームメンバーが検査内容を代弁し説明可能なレベルに達した。

1. 医療ニーズの深掘り

「なぜなぜ分析」を応用し,標本作製時になぜ誤認リスクが発生してしまうのかチーム内で分析した。その結果,検体種類が多い点,作業工程が多い点,各作製工程の所要時間が異なる点,複数名の技師が関わる点,及び手作業を要する工程がある点など様々なリスク因子が挙がった。特に標本作製時には検体の問題(小さい,形状が類似するなど),および視認性の問題(番号が見えにくい,見えないなど)があり,それらの問題が標本作製中の各工程で発生していることが明確化した(Figure 1)。またチームメンバーと質疑応答を繰り返す過程を経て,医療ニーズの本質には「不安なく」「容易に」標本作製したいという,潜在的願望がある点が浮上した。

Figure 1 病理系チームの医療ニーズの深掘り(なぜなぜ分析)結果

2. 製品アイデアの捻出

医療ニーズの深掘り分析を参考に,チームメンバーで製品アイデアを出し合った(Figure 2)。先ず検体の問題(小さい,形状が類似するなど)を解消するアイデアとして,近距離無線通信を利用しモノを識別・管理する技術(radio frequency identification; RFID)の利用案が挙がった(Figure 2a)。病理検体は検体提出から標本化までの課程で容器や検体の形状が変化することから,手術検体には組織検体を包むガーゼタイプのRFIDを,パラフィンブロックやプレパラートにはシールタイプのRFIDをそれぞれ使用し,非接触検出機能を活用して検体採取から標本化と保管に至る一連工程を管理する方法が提案された。その他には切り出し時の誤認防止案が挙がった(Figure 2b)。切り出しは手作業のため,組織のカセット入れ間違いや番号のずれが発生しないように,特に形状が類似した組織を処理する際は注意しなければならない。そこで,大きさ,形状,色調を変えた種々の寒天を組織検体ともにカセットへ収納し,目視にて識別し易くする案が挙がった。次に視認性の問題(検体の番号が見えにくい,見えないなど)を解決する製品アイデアには,検体の薄切工程のカセット検体番号の表示ツールが提案された(Figure 2c)。通常,薄切装置(ミクロトーム)にはカセットの検体番号が記載された面を裏返した状態,つまり組織検体が包埋された面を表に向けて装置にセットすることから,薄切作業中にカセットの検体番号を認識できず,検体取り違えを起こすリスク要因となっている。そのため,薄切中の検体番号がリアルタイムに確認できる製品案が提案された。

Figure 2 病理系チームの医療ニーズ「標本作製時の患者誤認や検体誤認リスクの軽減」を解決するために提案された製品アイデアの一部

(a)RFIDを利用した管理:手術検体にはRFID(ガーゼタイプ)を使用,ブロックやプレパラ−トにはRFID(シールタイプ)を使用し非接触検出機能により受付やシステム管理を行う。

(b)色素や寒天を用いた識別:大きさ,形状,色調を変えた種々の寒天を組織検体ともにカセットへ収納し識別化を図る。同一臓器や形状が類似した検体を処理する場合に利用する。

(c)薄切時のカセット番号表示装置:薄切中のカセット番号がリアルタイムに大きく表示する装置。主に病理システムが導入できていない現場やシステムを必要としない場面で使用する。

3. アイデアの具現化

製品アイデアの価値を整理するための「バリュープロポジションキャンバス」,ビジネスで重要となる要素を可視化し俯瞰するための「ビジネスモデルキャンバス」,創出アイデアのかたちを具現化するための「アイデアシート」といった各種フレームワークを使用し,製品を提供する価値,価格設定,販売ルート,収益および関連法規等を文字やイメージ図を用いて表出した。前述のRFIDを用いるアイデアは,標本作製工程中に使用する薬液や温度等の耐久性,標本作製の各工程でのRFID管理装置の配置,手作業によるシール貼付,価格,及び既存システムとの連携等の多くの課題が挙がり,コース期間内に具体的な製品像と価値を挙げることは難しかった。続いて,切り出し時に寒天を利用した誤認防止案については,実際に擬似検体を使用し検証した。その結果着色した寒天は目視にて容易に識別でき,組織検体と同様に遜色なく標本作製が可能であった。しかし,手作業での寒天の取扱いによって,切り出し時や包埋時で作業負担と所要時間が大幅に増加し,どのように手間を省くかが課題として残った。また,薄切工程中のカセット番号表示ツールのアイデアは,チームメンバーからイメージ製品の提供が即座にあった。最初の製品は薄い鏡2枚を合わせ鏡にして番号を表示する製品であったが,その製品を基に意見交換が進展し,小型カメラの利用が決定した。薄切現場で小型カメラを利用した試作品を検証すると,表示したカセット番号の文字が小さく見えにくい点,薄切の切りくずがカメラに付着してしまう点などの問題が生じた。その後,遠距離対応の小型カメラの利用案が挙がり,遠方からの撮影と検体番号の拡大表示を可能にしたツールの改良品が再度提供された。改良品を検証する段階で雲水コース期間は終了したが,その後も製品の改良とフィードバックを継続中である。

4. ブラッシュアップおよび最終プレゼン

より多くの「気づき」やアイデアを得る対話手法の1つであるワールドカフェが企画された。その内容としては3チームのメンバーの入れ替えを行い,各チームの製品開発について対話した。対話後は元のチームメンバーに戻り,他チームより新しく得た学びを共有し,自他チームの良い点を認め強化・改善・対策すべきことを話し合った。最終プレゼンでは,製品開発状況に加え中間評価での指摘やアドバイスを参考に,なぜなぜ分析の再調査結果や,誤認例がどの工程で発生し易いか過去の文献や事故報告例の分析結果を提示した。また小さい市場規模に対応するために,低価格でユーザーフレンドリーな製品を作製することを目標とした。最終プレゼンまでに病理系チーム独自のWebミーティングは4回開催し,LINE上で共有した資料(メンバー各自が提供した調査資料や試作検証報告など)は27件に達した。

V  参加者のアンケート結果について

雲水コース参加者に対し,問① 自身の成長に役立つか,問② 人脈の広がりができたか,問③ コース内容(開催日時,回数,負担感,楽しさ,満足度),3項目についてアンケート調査が行われた。結果,雲水コース参加者13名中,11名より回答を得た(回答率84.6%)。アンケート結果の詳細はFigure 3に示す。問① 今後の成長に役立つか,また問② 人脈の広がりができたか,に対し「とても思う」と回答した割合は順に54.5%,45.5%と高値を示した。また,雲水コース内容に対して,負担感については全体的に「負担」側に回答が分布した。その一方で,楽しさ,満足度については「楽しかった」,「満足した」と回答した割合が順に63.6%,45.5%と高値を示した。

Figure 3 雲水コース参加者アンケート調査結果

雲水コース参加者13名中,11名より回答を得た(回答率84.6%)。

VI  考察

医療製品の開発は医療従事者や患者に評価されて初めて製品化が可能になるため,製品化の実現には様々な障壁があるとされる1),18)

これまでに製品開発に携わった医療従事者の報告によると,医療現場の問題やイメージしているものを適切に企業側へ伝達することが重要かつ難しかったと述べた6),7)。本活動では,これまでの報告同様にチームメンバーの相互理解に努力と時間を要したが,最終的にはチームメンバーが業務内容を代弁し説明できるレベルに到達した。本活動を振り返り効果的だった点としては,より密にコミュニケーションを図った点とサポート体制があった点と思われる。1点目として,チームメンバーの情報共有手段として業務や日常生活で使用するメール機能は使用せず,LINEのみに限定した。これにより,各メンバーから提供された資料が雑然とすることがなく,併せてメンバーの既読管理を行うことができた。また,気軽に質疑応答し易く,チームメンバーとの距離を縮めたと考える。伝達の時間は要したが,製品開発序盤にチームメンバー内での十分な話し合いはその後の進展に大きく影響すると思われた。2点目は,各チームにファシリテーターが配置されたことであった。今回,ファシリテーターはチームメンバーの説明不足や解釈内容にずれがある場面にいち早く気付き,メンバー間で共通認識できるよう調整した。これにより,チームメンバーが個々の役割に専念すること,随時方向性の確認と修正することを可能にし,相互理解に貢献したと思われる。医療製品開発の一番の阻害要因はコミュニケーション不足であると指摘されている19)。実際の医療製品開発は,医療側と企業側のいずれも日常業務と並行しながらの事業となるため,参画したメンバー全員が多忙の中活動しているのが現状である。その中で,活動が停滞することなく,相互の状況を把握し円滑な連携を図るためには,ファシリテーターの介入は重要であり,貴重な役割と考える。

その他の別の問題としては,医療側がイメージしたものが企業側で同意を得られない,費用・経費等に無理がある,また技術力がない,等の理由で中断した内容が多かったと述べている7)。今回,一部の製品アイデアにおいては試作品の検証段階まで進展した。その進行の一助となった点としては,活動開始早々に企業側から医療側へイメージした製品サンプルやパーツの提供が直ちにあった点と考える。つまり,イメージした製品が言葉や図示だけではなく,「もの」として常に医療現場に存在したことで,医療側は企業側が提供する製品像を把握でき,その製品やパーツを基準に要望点や現場での必要条件を挙げやすく,円滑な進行を導いたと考える。

その他にも製品開発では様々な障壁があるとされる。これまでの報告では開発した製品が複数の医療機関で期待する臨床効果が得られるか,製品の需要が本当にあるか,企業側の商業的な意義があるか,及び製作費はあるか,等の点も重要と指摘している2),6),7),20)。今回のコースとしての活動は終了したが,今後は自施設以外での詳細な現場検証とフィードバックを行い,医療ニーズを解決する製品の開発に向けて協議中である。

今回臨床検査技師として雲水コースに参加し,製品開発に至る一連の流れを体験した。コース期間中は参加者全員が時間的制約を受けたが,参加者のアンケート結果が示した通り,内容に負担と感じつつも,楽しさ,満足度では高評価を示し,やりがいを持ち製品企画に取り組むことができたと考える。また,これまで気付くことができなかった検査業務中の盲点の指摘,安全で作業効率の良い機材の設置場所の提案,検査道具の紛失防止のため収納方法の工夫など,チームメンバーから製品開発以外に多くの業務改善ポイントやアドバイスを受けた。更に,実際に製品開発を体験したことで,医療製品開発の難しさを知ると同時に検査現場で使用する製品や環境面の改善意識が高まり,自施設の他,他施設の現状や地域の検査体制にも目を向けるきっかけとなった。そして,チームメンバーと相互信頼関係を築けたことは大きな利点であった。今回得た成果は,「雲水コース」で行った取り組み「混ざる教育」をもとに多様な人材が協働して創発したアイデアと,これを活用した研究活動により生み出されたと考える。

國本12)は,機器の使いにくさや機能不足については,医療従事者が慣れることにより医療現場での問題を解決している状況にある,と指摘している。今後,検査体制は益々変動していくと予測されるが17),常に現場では問題意識を持ち,それら問題点を医療ニーズとして示すことが重要と考える。本コースと同様の体制は大学病院を中心とした他の医療機関でも整備されている19)。将来は施設規模を問わずより多くの医療機関や学会などの団体が支援ないし協力施設として参画し,各々の医療現場や職種に即した医療ニーズの提示と製品開発が活発になされることが望まれる。

VII  結語

今回,臨床検査技師として雲水コースに参加し,チームメンバーとともに製品開発に挑んだ。短期間ではあったが,医療現場での課題やニーズの提示から製品開発に至るまでの一連の流れを体験し,苦労と面白さを知った。更に,医療従事者として医療製品の開発へ関わることの重要性,日常業務で使用する医療物資や検査装置の価値,また日常検査業務の意義や課題を再認識することができ,貴重な経験をした。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本活動のチームオブザーバーとして支援いただきました鳥取大学工学部電気情報系学科 松永忠雄先生に深謝申し上げます。

文献
 
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