2022 Volume 71 Issue 3 Pages 510-522
2024年度より執行される『良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法などの一部を改正する法律』に先駆けて,病理検査の業務移管に関するアンケート調査を実施した。病理診断は,医療において最終診断を担う重責を果たすことから,その一端を臨床検査技師が担うことへの慎重な対応が求められる。一方で,国内における慢性的な病理医不足を解消するうえで,病理医から臨床検査技師への業務移管は大変有意義なことである。アンケート調査により,「業務移管について知らない技師が多い」と回答された施設は,575/1,058(54%)施設あった。切り出し作業の業務移管の準備については,498/745(67%)施設で可能あるいは準備を進めていると回答している。画像解析システムの導入やバーチャルスライド作製装置の導入は,国内においては普及していないことが明らかとなった。病理診断報告書の下書きの作成については,635/869(73%)施設で不可能と回答した。病理解剖補助については,599/1,018(59%)施設で病理医により実施されており,病理医が不在の場合には,517/706(73%)の施設が実施していない現状である。法律の施行を契機に,更なる医師とのコミュニケーションを図り,病理検査業務の見直しが進むことを期待する。
We conducted a questionnaire survey on the task shift/share from pathologists to medical technicians regarding the law that will come into effect in 2024. Pathological diagnosis is considered as the final basis for treatment, so careful measures are required. However, the task shift/share from pathologists to medical technicians makes much sense to solve the chronic shortage of Japanese pathologists. According to the responses to the questionnaire, in 54% of the facilities (575/1,058 pts), many medical technicians did not know about task shifting. In 67% (498/745 pts) of the facilities, medical technicians answered that they were ready to relocate their tissue slicing work or were in the process of relocating at the facility. It was found that the induction of the image analysis system and that of the whole slide image device did not spread in Japan. We found that making the draft of the pathological diagnosis report is impossible in 73% (635/869 pts) of the facilities. Autopsy is performed by a pathologist in 59% (599/1,018 pts) of the facilities, and in 73% (517/706 pts), it is not performed when a pathologist is absent. Prior to the enforcement of the law, I would like you to communicate with doctors and review the pathological examination work.
2024年度よりすべての勤務医に対して,時間外労働の上限規制を図り,国民に対して良質かつ適正な医療を提供する体制を確保する観点から,一定の医行為を医師から医療技術職へ業務移管し,労働環境を整えることを目的とした『良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法などの一部を改正する法律』が閣議決定された1)。
これにより臨床検査業務においても『医師の働き方改革を進めるためのタスクシフト・シェア(以後,業務移管)の推進に関する検討会』2)により審議が繰り返され,実現へ向けた事前周知や教育研修会等が整理されている3),4)。
病理検査業務においては,日常的に病理医と密接な関係のもとに診断作業が進められており,医師からの直接指導を受けやすい環境にある。一方で,病理診断は医療において最終診断を担う重責を果たすことから,その作業の一端を臨床検査技師が担うことによる診断の質低下を来さぬよう慎重な準備が求められる。
今回,業務移管の執行に先駆けて国内施設に対してアンケート調査を実施したので,その内容を整理して報告する。
安全で円滑な業務移管が可能となるよう,一般社団法人日本臨床衛生検査技師会(以後,日臨技)会員施設に対し,業務移管についての意識調査と,病理医からの業務移管が可能な検査業務についてのアンケート調査を行い,現況把握と会員への情報共有を図ることを目的とした。
2021年度日臨技臨床検査精度管理調査実施時に合わせ,参加1,626施設に対して,施設状況および病理検査における医師からの業務移管に関する30項目のアンケート調査をWeb回答方式により求め,設問ごとの集計結果を解析した。
厚生労働省より発出された『現行制度の下で実施可能な範囲における業務移管の推進について』5),6)の内容を踏まえ,臨床検査技師が担う責任範囲内で,病理診断に関連する項目「生検検体標本,特殊染色標本,免疫染色標本などの所見報告書の下書き作成」,「病理診断における手術検体等の切り出し」,「画像解析システムの操作等」,「病理解剖補助業務」の4項に関連する業務移管内容の調査を行った。
回答に協力頂いた1,308施設のうち,760(58%)施設が一般総合病院で,がんゲノム医療中核拠点および拠点または連携施設を含む「がんゲノム医療指定病院」7)159(12%)施設,一般単科病院163(12%)施設,登録検査所121(9%)施設,研究施設5(0.3%)施設,その他の施設100(7%)施設からの回答を得た。
また,施設ごとの病床数は,100~199床施設が299(23%)施設,300~499床施設が338(26%)施設で,合わせて全体の半数程度を占めていた(Figure 1)。
対象施設のうち,760(58%)施設が一般総合病院で,がんゲノム医療指定病院が159(13%)施設,一般単科病院163(13%)施設,登録検査所121(13%),研究施設5(0.3%)であった(左図)。また,施設ごとの病床数は,100~199床施設が299(23%)施設,300~499床施設が338(26%)施設と主を占める(右図)。
非常勤医を含まない病理医の配置状況については,699/1,270(55%)施設が病理医不在施設で,いわゆる1人病理医施設が296/1,270(23%)施設,2人が129/1,270(10%)施設,3人が60/1,270(5%)施設,4人以上在籍する施設が86/1,270(7%)施設であった。また,それぞれの所属施設について,一般総合病院と一般単科病院において病理医不在あるいは1人病理医施設が778/1,251(61%)施設と多く,対して4人以上の病理医が在籍する施設は,がんゲノム医療指定施設で65/86(76%)施設と多い(Figure 2)。
非常勤医を含まない所属病理医数については,病理医不在施設699(55%)施設と,1人病理医施設296(23%)施設を合わせ78%の施設におよぶ(左図)。施設分類では,一般総合病院で病理医不在もしくは1人病理医施設が多く,がんゲノム医療指定施設では,4人以上の病理医が配置されている傾向がある(右図)。
病理検査を担当する技師の所属については,臨床検査科(課)に所属する施設が692/1,084(64%)施設を占め,病理検査部門または病理診断科として独立している施設は,202/1,084(19%)施設であった(Figure 3)。
病理担当技師の所属は,臨床検査科(課)とする施設が,692(64%)施設を占める(左図)。病理検査業務の専任性については,専任で科内での異動もないと回答した施設が125(11%)施設程度ある(右図)。
病理担当業務の専任性については,専任で院内あるいは科(課)内での異動がないとした施設は,125/1,084(11%)施設で,何らかの業務あるいは他部署における業務を併任していると回答した施設は,1,044/1,084(96%)施設であった(Figure 3)。
4. 業務移管へ向けた理解度および準備Web回答方式によるアンケート調査回収時点(2021年8月上旬)で,「業務移管について知らない技師が多い」と回答した施設は,575/1,058(54%)施設あり,154/1,058(15%)施設が「技師および医師が業務移管の導入について消極的」と回答している。また,今後「業務移管の導入予定なし」と回答した施設が679/1,058(69%)施設あった(Figure 4)。
技師では,業務移管について知らなかったとする回答が575(54%)施設と多く,医師も含めて実践へ向けて消極的な施設が154(15%)施設みられる(左図)。業務移管の導入予定がないとした施設は679(69%)施設におよぶ(右図)。
切り出し作業の業務移管については,498/745(67%)施設で「可能」あるいは「準備を進めている」と回答し(Figure 5),病理検査室へ提出された「全ての病理検体の切り出しを病理医が行っている」と回答した施設は,165/1,118(15%)施設であった。何らかの条件で「技師が切り出し作業の補助に関わっている」施設は,566/1,118(50%)施設あり,このうち,全ての病理検体の切り出しを技師に一任されている施設は,66/1,118(6%)施設あった(Figure 5)。
切り出し作業の業務移管について,498(67%)施設で条件付きを含め移管可能あるいは準備を進めている(左図)。現状で566(51%)施設が何らかの条件を含めて技師による切り出し作業が行われ,そのうち345(31%)施設でリンパ節等のみ技師が実施している(右図)。
施設形態別にみると,病理担当技師により条件付きを含め切り出し作業が行われている433(27%)施設のうち,302(70%)施設を一般総合病院が占めていた(Figure 6)。一方,がんゲノム医療指定施設の54/231(23%)施設で切り出し作業の業務は,「不可能」あるいは「必要性を感じない」と回答している(Figure 6)。
切り出し作業を技師が実施している433施設中302(70%)施設が一般総合病院を占める(左図)。切り出し作業の移管は不可能あるいは必要性を感じないとする回答は,がんゲノム指定施設で多くみられる(右図)。
また,病理医の配置状況別でみると,切り出しの業務移管が「可能」および「条件付きで可能」と回答した施設は,常勤病理医不在135/230(59%)施設,1人病理医174/263(66%)施設,2人病理医77/119(65%)施設,3人病理医33/53(62%)施設,4人以上の病理医が配置されている施設では,35/76(46%)施設であった(Figure 7上段)。
切り出しの業務移管が条件付きを含めて可能とする施設は,1人病理医施設の67%と最も多く,必要性を感じないあるいは移管不可能とする施設は病理医不在施設と4名以上在籍する施設で多い(上図)。切り出しを技師が行っている施設において,病理医不在施設では全ての検体を技師により行っている施設が多くある。またその比は,病理医数の増加により減少傾向にある(下図)。
常勤病理医不在施設において,「全ての病理組織検体の切り出しを技師が担当している」施設は,37/135(27%)施設あり,常勤病理医が配置されている施設においても「消化管ポリープなどの生検材料」の切り出しについては多くの施設で技師が担当している(Figure 7下段)。
切り出しが可能な検体種をみると,330/417(79%)施設が,「ポリープなどの切り出しが必要な消化管検体」と回答し,切り出しの業務移管を「不可能」あるいは「必要としない」と回答した161/193(83%)施設においても,「ポリープなどの切り出しが必要な消化管検体」や「付属リンパ節」の切り出しは可能と回答している(Figure 8)。
技師により切り出しが行われている330(79%)施設では,消化管ポリープ等の切り出しを主に行われている(左図)。業務移管が不可能あるいは必要性を感じていないとする施設においても,161(83%)の施設でポリープ等の消化管検体や付属リンパ節の切り出し業務移管を可能としている(右図)。
画像解析システムを導入している施設は,100/985(10%)施設で,547/1,004(54%)施設において病理医が鏡検下で染色性判定を行っている(Figure 9)。病理担当技師が染色性判定を行うことが可能と回答した施設は,「条件付き」と「準備を進めている」を含め290/598(48%)施設であった。「移管不可能」あるいは「必要性がない」と回答した施設は,308/598(52%)施設であった。(Figure 10)。
システムを導入している施設は73(8%)施設のみで,その多くは病理医によって解析が行われている(左図)。鏡検下での染色判定は,半数以上が病理医により行われており,染色種を限定しても技師が判定を行っている施設はわずかな施設である(右図)。
技師が染色性判定を行うことについて,不可能あるいは必要性を感じていない施設は,308/598(52%)施設ある(左図)。移管可能とする施設は,病理医が複数名在籍する施設で,減少する傾向にある(右図)。
染色標本の判定について「現時点で移管可能」と回答した施設の状況をみると,病理医不在施設23/136(17%)施設,1人病理医施設36/237(15%)施設,2人病理医施設22/107(21%)施設,3人病理医施設5/46(11%),4人以上病理医が在籍する施設5/68(7%)施設と,多人数の病理医が在籍する施設でより減少する傾向にある(Figure 10)。
7. デジタルパソロジーシステムの導入と運用システムを「所有している」あるいは「今後購入予定である」と回答した施設は合わせて244/980(25%)施設で,「購入予定もない」あるいは「必要性がない」を含めた「システムを所有していない」施設は660/980(67%)施設である(Figure 11)。
システムを所有あるいは購入予定の施設は,244/980(25%)施設で(左図),その多くは「遠隔病理診断の送受信」と「他院および院内診断標本のアーカイブ」に活用している(右図)。
また,システムの運用状況については,「遠隔病理診断の送受信」に使用している施設が115/264(44%)施設,「他院および院内診断標本のアーカイブ」に活用している施設が113/264(43%)施設と主体を占める(Figure 11)。加えて,画像の取り込みやシステム管理担当者については,388/632(61%)施設で技師により行われており,これらの業務移管については,30/62(48%)施設で「不可能」あるいは「必要性を感じない」としている(Figure 12)。
技師によりシステム管理が行われている施設が,388/632(61%)施設を占めている(左図)。業務移管については,30/62(48%)施設で不可能あるいは必要性を感じないと回答している(右図)。
技師が担う病理診断報告書の内容確認作業として,792/903(88%)施設が「スペルチェックや誤字・脱字の確認」と回答し,次に「検体や臨床情報と報告書記載内容の整合性確認」と64/903(7%)施設が回答している。一方,病理診断報告書作成についての具体的な業務について「下書きの作成」は,635/869(73%)施設で不可能と回答している(Figure 13)。
報告書内容のスペルや誤字脱字確認は,792/904(88%)施設で可能としている(左図)。具体的な報告書の下書きは不可能とする回答が635/869(73%)施設でみられる(右図)。
国内施設において,剖検室が整備され,常勤病理医あるいは出張病理医により執刀されている施設は,599/1,018(59%)施設である。また,担当病理医が不在の場合には,517/706(73%)の施設で実施していない(Figure 14)。
国内施設の599/1,018(59%)施設で剖検室が整備され常勤病理医あるいは出張医により病理解剖が実施されている(左図)。
病理医不在の場合には,517/706(73%)施設で実施していない(右図)。
近年,国内における慢性的な病理医不足が危惧されるなか8),肺癌をはじめとする様々なコンパニオン診断9),10)の開発と,がんゲノム医療の発展により,病理組織学的診断のみならず良質な検査対象検体の確保や質的評価など11),病理検査部門に求められる責任範囲の拡大によって,病理医をはじめ担当技師の多忙さに拍車をかけている。この状況下において,病理医を含めた全勤務医の働き方改革を根底とする医療専門職種への業務移管については,特に国内施設の78%を占める病理医不在あるいはいわゆる1人病理医施設(Figure 2)において,病理医の業務負担軽減を図るうえで有意義なことである。
一方で,病理診断の質低下を招かぬよう認定病理検査技師を中心とした業務移管を請け負う側の更なる知識の習得と検査技術の研鑽が求められる。さらに,病理検査に限らず臨床検査技師への業務移管が多岐に渡るため3)~6),担当技師のマンパワーの破綻を来さぬよう各部署間の横断的配置を含めた十分な検討を必要とする。
今回の調査では,病理検査担当技師の所属部署が病理診断科(課)として独立している施設は,わずか2割弱程度の施設で,日常的に病理検査業務を専任し,他部署間の異動もないと回答した施設は1割程度であった(Figure 3)。最終診断に直結する業務であることと,用手的な技術習得に一定期間の経験を要すること,さらに年々変遷する診断技術を継続的に取り入れ,病理医との信頼関係を構築するうえでも担当技師の長期的な配置が理想とされる。
本調査の集計時期にもよるが,業務移管へ向けた現場での意識低下があることも明らかとなった。回答された半数以上の施設で,業務移管について理解しておらず,さらに7割程度の施設で「業務移管の予定がない」と回答している(Figure 4)。病理医と検査技師双方での具体的な作業分担について,これまで見直す契機がなかったことなども想定されるが,今後本法律1)執行の意義を深く理解し,十分な準備が可能となるように周知機会の充実化を図るなどの対策が必要である。
病理検査における切り出し作業は,切除された病巣部のオリエンテーションを把握し,肉眼所見による第一診断を行う重要な作業である12)。この作業について,現状で7割弱程度の施設で条件付きを含めた「業務移管が可能」あるいは「準備を進めている」と回答し,すでに国内病理検査室の半数程度の施設で何らかのかたちで技師が切り出し作業を担っている(Figure 5)。これらの施設を形態別にみると,検体種が比較的豊富な一般総合病院が7割程度を占める(Figure 6)。また,病理医が1人から2人所属する施設では,病理医からの指導のもとに,条件付きを含めて「業務移管可能」と回答する施設が7割弱程度と多くみられている。
一方,大学病院等を含む,常勤病理医が多人数在籍する施設においては,医師の教育や人材育成,臨床医との情報交換の貴重な作業時間として,病理医の切り出し時間が確保されていることが推察され,「業務移管不可能」あるいは「必要性を感じない」とする回答が目立っていた(Figure 6, 7)。
病理医不在施設で,技師により切り出しが行われている施設では,「全ての病理組織検体の切り出しが可能」とする回答が3割弱を占め,病理診断報告のturn around time(TAT)改善を目的に積極的に技師が多くの切り出し作業を担っていることが窺われる(Figure 7)。こうした背景からも,消化器生検検体やリンパ節など,切り出し方法が定型的な検体種に限り,病理医との細かなコミュニケーションを図ることにより,多くの施設で業務移管が可能であることが示唆された(Figure 8)。
しかしながら,2018年度に実施した病理検査業務に関する日臨技アンケート調査を振り返ると,病理検査担当技師の恒常的な60分未満あるいは60分以上の時間外超過勤務があると394/1,145(31%)施設が回答しており,その業務内容として切り出し作業と生検検体処理による作業時間超過であると回答していることから(Figure 15),業務の偏りの矛盾さも感じる。担当技師の業務量増多にも注視し,必要に応じた人員確保も併せて考慮すべきである。
394/1,145(31%)施設で,病理担当技師の慢性的な60分未満から60分以上の時間外労働がある(左図)。その業務内容のうち,切り出し作業が324/956(15%)施設,生検検体処理が321/956(15%)施設と回答している(右図)。
染色性判定に画像解析装置を導入している施設は,ごくわずかな施設に限られた(Figure 9)。このことは,画像解析装置による染色性判定を技師が担当したとしても,施設限定的な施策となりうる。また,画像解析装置を導入せず病理医により顕微鏡下で染色性判定を行っている施設が半数以上を占め,技師が染色性判定を行っている施設は,染色種を限定しても現状ではわずかである(Figure 9)。
染色標本の判定については,病理医がHematoxylin & Eosin染色に加え,特殊染色や免疫組織化学染色を駆使した診断根拠をもとに最終診断が確定されるため,この判断を技師が担う場合には,病理医と技師との染色性判定に乖離がないことが必須となる。このことについては,例年実施されている日臨技臨床検査精度管理調査における染色性判定に関する設問で,高い正解率を得ていること13),14),そして何よりも染色標本の良否を日常的な精度管理として判断している技師が,染色性判定を行うことは十分可能であろう。
また,画像解析システム導入施設において,「判定可能」あるいは「業務移管が可能」な染色種として,IHC全般と回答している施設が4割程度を占めていることも本調査により把握しており,今後乳がん等におけるホルモンレセプター染色やHER2 FISH/DISH(human epidermal growth factor receptor 2 fluorescence/dual color in situ Hybridization)をはじめとする定量的染色判定15)~18)に加え,抗酸菌や真菌などの定性的細菌染色の判定等に関しては,病理担当技師が積極的にその判定を担っていくことが期待される。
病理医不足を相補する手段としてデジタルパソロジーによる診断の発展が期待されるが18)~20),国内施設における導入は大きく進展していない(Figure 11)。すなわち,画像解析装置を用いた染色性判定同様に,施設限定的な業務移管となりうる。すでにシステム導入している施設の半数以上が,その管理を技師が担当しており,積極的にこの分野の業務へ介入していることが把握できた(Figure 12)。
デジタルパソロジーシステムの用途については,遠隔診断の送受信に活用している施設が多くあった。通常,病理医不在施設における術中迅速診断の需要が高く,地域の中核医療を担う受信側施設の技師は,送信側施設の標本作製技術の指導やシステム管理について,病理医に代わって積極的に関わることも担当病理医の負担軽減のために重要である21)。加えて,良質な病理組織標本のデジタル化は,アナログ組織標本の質に大きく依存するため,日常的に標本作製を担う病理担当技師が管理を行うことが望ましい。
しかしながら,デジタルパソロジーシステムが周辺機器を含め高額な精密機器であることから,細かなメンテナンスについては,各販売メーカーのバックアップが必須となる。また,施設内通信回線網の管理や外部施設とのセキュリティーポリシー構築のための専門的知識も必要とし22),23),実際には各施設のシステムエンジニアと連携して不具合などの有事に対応すべきである。
過去に,日臨技主催先駆的臨床検査技術研修会としてwhole slide image(WSI)実技講習会が開催され,システムメーカー数社のデジタルパソロジー装置に実際に触れて技術を習得する研修会が開催されたが,参加者も限定的で継続に至っていない。
今後,病理組織標本のデジタルアーカイブ化により,過去のガラス標本の鏡検が不要となり,セカンドオピニオンやコンサルテーションへの対応を容易とさせ,人工知能(artificial intelligence; AI)の発展により病理医の染色標本判定の診断軽減の一助となることが予想される。デジタルパソロジー研究会等の関連学会と共に,この分野の業務移管を想定した研修会が企画開催されることを期待する。
病理診断報告書の内容確認については,診断報告における誤記インシデントを解消するためにも重要な役割を果たす24),25)。本調査では,「スペルや誤字脱字」あるいは,「提出検体の上下左右別情報や部位と報告内容との整合性確認」について96%の施設で確認可能とする一方で,「取り扱い規約に沿った記載漏れ確認」を可能とする回答はみられない(Figure 13)。定型的なチェック以外の詳細な診断内容確認を求められると技師の負担が増大することを危惧し,消極的となった回答結果であると推察する。現在では,電子カルテの普及により,一般的に部門システムを経由した報告が行われるようになった。スペルや「てにをは」などの誤字脱字チェックに関する万能なアプリケーションソフトウエアの更なる開発が待たれる。
年々剖検率の減少傾向にある本邦において26),臨床医からの剖検依頼は医療の発展において貴重な機会となる。しかしながら,突発的な診断業務であるため,病理医の時間的な制約も大きい。現状では,剖検室が整備されている施設の6割程度で常勤病理医あるいは出張医により執刀されているが(Figure 14),病理医不在の場合には,「実施しない」施設が大半におよび,さらに剖検率の低下を招くこととなる。
現行法では,「剖検室が整備され,保健所長に解剖実施の許可を得ている施設あるいは,厚生労働大臣より死体解剖資格の認定を受けている場合は,保健所長の許可を受けることなしに実施可能」26),27)と定められており,献体された患者の病態解明については,深い病理学的知識を必要とし,当然のことながら医師により行われることとされている。
臨床検査技師が指導された医師からの推薦を受け,死体解剖資格を申請することは法律上可能だが,経験症例数などの要件は非常に高く28),臨床検査技師単独で剖検を行うことは事実上不可能である。
各施設の運用にもよるが,通常病理解剖介助にあたる際には,剖検器具の準備,臓器摘出,写真撮影を含めた計測および記録,組織固定,縫合,清拭消毒まで広く病理担当技師の技術が求められており26),これらの介助作業を積極的に技師が担うことで,病理医の業務軽減を図ることが可能となる。
一方,剖検率の低下している現状においては,若手病理医を含めて技師の後進育成が非常に難しい状況にある。臓器の切離手順は勿論のこと,肉眼所見をはじめ柔らかさ,硬さの判断や剥離具合などの実務により会得する剖検介助手技の教育が今後の課題と考える。
今回のアンケート調査では,『現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスクシフト/シェアの推進について』5),6)により策定された業務内容に限った調査を行ったが,実際には診断標本の出し入れや,カンファレンス資料の作成および整理,臨床医との連絡や学会プレゼン依頼など,病理医が負担されている細かな業務が多くある。また,病理検査室を持たない施設においても,内視鏡室での検体処理や,手術材料の組織固定及び計測・記録に至るまで,臨床医から求められる業務移管を請け負うことにより,病理検体の質を担保し,良質な診断への貢献が可能となる。これらの業務移管を技師から積極的に医師へ提案し,医師の痒いところに手を伸ばす姿勢が,いま臨床検査技師に求められていることと考える。
しかしながら,本来業務移管を必要とする病理医不在施設や一人病理医施設においては,病理担当技師も少人数で運用されていることが想定される。
本法律の執行は,臨床検査技師の業務拡大を目的とするものではなく,業務移管を必要とする施設が,病理医あるいは臨床医による「medical control」のもと,国民へ安心安全な医療体制を提供するための「働き方改革」を果たすことが根底である。この目的を十分に達成するためには,前述したとおり業務を請け負う技師の時間的余裕および精神的なゆとり,そして何よりも十分な知識を習得する機会を必要とする。限られた技師だけが業務移管に伴う義務と責任を背負い,業務超過となれば本末転倒である。可能な範囲内で医療安全を踏まえた検査業務の自動化を進めるなど,日常業務を病理医あるいは臨床医と共に見直し,チーム医療へ貢献することの契機となることを期待する。
2024年より執行される医師から臨床検査技師へ向けた業務移管を控え,病理検査業務に関するアンケート調査による現状把握を行いその結果を報告した。事故のない円滑な業務移管を進めるためには,医師との良好なコミュニケーションが構築され,完全なる信頼関係が成立していることが最優先となる。今後,本調査を継続して行い,良好な医師から臨床検査技師への業務移管について情報共有したい。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
本資料を執筆するにあたり,アンケート調査にご理解とご協力を頂いた日臨技会員各位と,日臨技事務局加藤智行氏に深謝致します。