Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of primary malignant lymphoma in posterior cervix with cardiac infiltration
Yuka NAKAOChiaki INISHISayuri NISHIKIAyaka SAKAGAMINanami UEDAMasami MORI
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2022 Volume 71 Issue 4 Pages 754-758

Details
Abstract

心臓浸潤を認めた後頸部悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する。症例は80代男性。後頸部に腫瘤を自覚し前医を受診,生検にてびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断され,化学療法目的で当院へ転院となった。心臓超音波検査では心嚢内に腫瘤と心嚢液貯留,左室の下壁基部から乳頭筋レベルで壁運動低下を認めた。化学療法が施行され,4コース終了後の心臓超音波検査では心嚢内の腫瘤は縮小し,左室壁運動も改善を認め,CT検査でも後頸部と左房背側の腫瘤は縮小が見られた。3ヶ月後の心臓超音波検査では腫瘤の増大と左室下壁の壁運動低下が見られ,PET-CTでも後頸部と心嚢内の腫瘤の増大が見られた。その後も腫瘤サイズの増減と左室下壁の壁運動低下と改善の繰り返しを認めた。化学療法により後頸部の腫瘤と同時に心嚢内の腫瘤のサイズが増減したことより悪性リンパ腫の心臓浸潤であると考えられた。造血器腫瘍の心臓浸潤における心臓超音波検査所見は心嚢液貯留,心室壁肥厚,心筋内腫瘤が報告されているが,本症例は心嚢液貯留に加えて,心嚢内に腫瘤形成し,左室下壁の壁運動低下を認めたことが特徴であった。したがって,前述の心臓超音波所見は悪性リンパ腫による心臓浸潤を鑑別する上で重要な所見であり,超音波検査は有用であると思われた。

Translated Abstract

An 80-year-old man was diagnosed as having diffuse large B cell lymphoma in the posterior cervix on the basis of results of biopsy performed in another hospital, and he was admitted to our hospital for chemotherapy. Echocardiography revealed a mass in the pericardium, pericardial effusion, and hypokinesis of the left ventricular inferior wall. After four courses of chemotherapy, echocardiography showed reduction of the mass in the pericardium and improvement in the left ventricular inferior wall movement. Moreover, CT showed reduction of the mass in the posterior cervix and pericardium. However, three months later, the mass in the pericardium increased in size and the left ventricular inferior wall movement was reduced in echocardiography. Moreover, PET-CT showed an increase in the mass of the posterior cervix and pericardium again. The posterior cervical mass and pericardial mass decreased in size with chemotherapy. Therefore, we diagnosed the patient as having malignant lymphoma in the posterior cervix with cardiac infiltration. Recent reports have revealed that echocardiography showed pericardial effusion, ventricular wall thickness, and myocardial mass in cardiac infiltration of the hematopoietic tumor. In our patient, the mass in the pericardium and hypokinesis of the left ventricular inferior wall were revealed by echocardiography. Thus, echocardiography is an important tool for diagnosing cardiac infiltration of malignant lymphoma.

I  はじめに

悪性腫瘍の心臓への転移は1.5%~20.6%の頻度と報告されている1)~4)。心臓への転移は固形癌によるものが最も多く,次いで悪性リンパ腫の頻度が高いとされている5)。しかし心臓転移の診断は剖検時に発見されることがほとんどであり,生前に診断されるのは1%程度と非常に少ない6)。今回,われわれは超音波検査にて後頸部悪性リンパ腫が心嚢内へ浸潤し腫瘤を形成した1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

II  症例

症例:80歳代,男性。

主訴:倦怠感,食欲不振,後頸部疼痛。

既往歴:脳梗塞(左半身麻痺),高血圧,胆嚢炎,白内障,高Ca血症。

家族歴:特記事項なし。

現病歴:2018年11月頃より後頸部に無痛性の腫瘤を自覚し,2019年1月に前医を受診した。生検によりびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断され,同年2月に化学療法施行目的で当院転院となった。

入院時現症:血圧144/61 mmHg 脈拍98回/分。後頸部に径10 cm大の腫瘤を触知し,同部に疼痛を認めた。

入院時血液検査:可溶性IL-2レセプターは高値を示したが,その他に明らかな異常値は認めなかった(Table 1)。

Table 1  入院時血液検査
TBL 0.4 mg/dL Na 141 mEq/L WBC 9.8 × 103
TP 6.2 g/dL K 3.9 mEq/L RBC 4.13 × 106
Alb 3.1 g/dL Cl 99 mEq/L HB 13.0 g/dL
AST 19 IU/L 可溶性IL-2レセプター 3,768 U/mL HT 38.7%
ALT 8 IU/L HB抗原定量 0.0 IU/mL PLT 302 × 103
LDH 342 IU/L HCV抗体 1.0未満 STAB 0%
CK 37 IU/L SEG 79.5%
BUN 31.6 mg/dL ESO 0.5%
CRE 0.83 mg/dL BASO 0.5%
P 1.3 mg/dL MONO 4.0%
Fe 27 μg/dL LYM 15.5%
CRP 0.62 mg/dL A-LY 0%
RET 0.84%

心臓超音波検査:左房外側の心嚢内に100 × 33 × 39 mmの充実性腫瘤を認めた。腫瘤の境界は明瞭で内部は低エコー不均一であった(Figure 1)。腫瘤は心外膜とは接していたが,壁側心膜は保たれていた。また心嚢液貯留を認めた。壁運動は下壁が基部から乳頭筋レベルで低収縮を呈し,左室駆出率(EF)は51%(Simpson法)とやや壁運動の低下が見られた。

Figure 1 入院時経胸壁心エコー傍胸骨左室長軸像と腫瘤長径断面像

心嚢内に100 × 33 × 39 mmの腫瘤を認めた(矢印)。

PET-CT:後頸部~左上背部に異常集積を認めた。また左心耳周囲や心嚢内に異常集積と腫瘤を認め,心嚢液貯留及び心拡大が見られた(Figure 2A)。

Figure 2 PET-CT検査

A:入院時 後頸部から左上背部に異常集積と左心耳周囲や心嚢内に異常集積と腫瘤あり。

B:7月 後頸部と心嚢内の腫瘤は縮小しているが異常集積は見られ,活動性は残存。

C:10月 後頸部と心嚢内の異常集積は残存し腫瘍活性の増大あり。

単純CT:後頸部の皮下に横径10 cmの腫瘤を認めたが,腫瘤から脊柱管内への浸潤は認めなかった。さらに左房背側に分葉状の腫瘤を認め,心嚢液貯留が見られた。縦隔に病的リンパ節腫大は認めなかった。

III  経過

2019年3月よりP-THP-COP療法を開始した。4コース終了後の同年5月の心臓超音波検査にて心嚢内の腫瘤は80 × 33 × 20 mmと縮小を認めた。下壁の壁運動低下は見られず,EFは56%と改善していた(Figure 3A)。6コース終了後の6月の胸部CT検査では後頸部と左房背側の腫瘤は縮小していた。その後,一旦退院し経過観察となったが,7月に施行したPET-CTにて後頸部と心嚢内の腫瘤は縮小しているものの異常集積が見られ,活動性病変の残存が考えられた(Figure 2B)。8月の心臓超音波検査では再び下壁の壁運動低下を認め,EFは52%とやや低下し,心嚢内の腫瘤は90 × 32 × 28 mmと増大した(Figure 3B)。そのため追加でP-THP-COP療法を2コース行うこととなった。コース終了後の10月に施行したPET-CTでは後頸部と心嚢内の腫瘤は残存し腫瘍活性の増大を認めた(Figure 2C)。同年11月,頸部の腫れを再び自覚し受診となった。施行されたCT検査で後頸部と心嚢内の腫瘤の増大を認めたため入院となり,R-MECP療法が開始された。12月の超音波検査では心嚢内の腫瘤は78 × 30 × 26 mmと縮小し,下壁の壁運動は改善しEFは57%と回復した(Figure 3C)。また後頸部の腫瘤は63 × 57 × 21 mmと縮小した。2コース終了後の2019年1月の超音波検査では再び心嚢内の腫瘤は86 × 35 × 28 mmと増大し,下壁の壁運動やや低下が見られ,EFは52%と低下した(Figure 3D)。また後頸部の腫瘤も75 × 64 × 30 mmと増大を認めた。2月の超音波検査では心嚢内の腫瘤は89 × 41 × 30 mmとさらに増大し,新たに右房内にも16 × 11 mmの腫瘤が出現した(Figure 3E, F)。EFは50%とさらに低下が見られた。そこでR-GCD療法を開始したが,翌3月に状態悪化のため永眠された。

Figure 3 心エコー画像による心嚢内充実性腫瘤の経過

A:2019年5月20 × 18 mm(EF 56%) B:8月28 × 25 mm(EF 52%) C:12月26 × 18 mm(EF 57%) D:2020年1月28 × 25 mm(EF 52%) E:2月30 × 20 mm(EF 50%) F:2月右房内に出現した腫瘤。16 × 11 mm

化学療法により後頸部の腫瘤と同時に心嚢内の腫瘤の大きさが増減したことより悪性リンパ腫の心臓浸潤であると考えられた。

IV  考察

心臓原発悪性腫瘍の発生頻度は全悪性腫瘍の0.1%程度と報告されている7)。一方,心臓への悪性腫瘍の転移は約1.5~20.6%と報告されており,心臓原発悪性腫瘍より頻度が高い1)~4)。心臓への転移のうち固形癌の55%に次いで2番目に多いのが悪性リンパ腫で15~20%を占める5)。しかし,これらの報告は剖検症例による検討であり,生前に悪性リンパ腫の心臓浸潤を診断できる割合は低く約1%と言われている6)。その理由としては,心臓浸潤に伴う臨床症状を呈することが少なく,症状があっても非特異的であることが多いためである8)

悪性リンパ腫における心臓浸潤の頻度はMcDonnellら8)によれば150例中8.7%,Robertsら9)は悪性リンパ腫の剖検例196例のうち24%と報告しており,心臓浸潤の頻度は高いと言える。

悪性リンパ腫の心臓への浸潤経路は直接浸潤,リンパ行性,血行性の3つに分類され,心臓への浸潤が認められた症例の半数以上で胸郭内病変を認めることから,直接浸潤によるものが主と考えられている10)

造血器腫瘍の心臓浸潤における心臓超音波検査所見は心嚢液貯留,心室壁肥厚,心筋内腫瘤が指摘されている11)~17)。山王ら18)はこれら3所見の陽性率は悪性リンパ腫で27例中29.6%であり,生前診断に有用であることを指摘している。心嚢液貯留は悪性リンパ腫の心外膜への浸潤によるものであり,心筋浸潤では心室壁肥厚をきたすか,心筋内腫瘤である報告が多く,剖検例において心室壁肥厚の見られた部位は,腫瘍細胞のび慢性浸潤を認めていた14)。本症例では心嚢液貯留に加えて,心嚢内に腫瘤を形成し,左室下壁の壁運動低下を認めたことが特徴であった。心嚢内腫瘤については生検による確定診断は得られていないが,化学療法によって後頸部のリンパ腫と同様に腫瘤のサイズが増減した臨床経過より悪性リンパ腫の心臓浸潤であると診断された。腫瘤については,化学療法の著効によりサイズの縮小がみられるものの,中止すると再度増大を繰り返した。また,腫瘤が増大すると下壁の壁運動が低下し,縮小すると改善が見られた(Figure 4)。その原因としてWeinbergら19),20)は腫瘍細胞による冠動脈への壁外性の圧迫や腫瘍塞栓により狭心症および心筋梗塞をきたすことを報告している。壁運動の低下は化学療法による心毒性の可能性も考えられるが,本症例は化学療法を継続することで腫瘤が縮小し壁運動の改善も見られたことより,冠動脈圧排による壁運動低下の可能性が示唆された。

Figure 4 化学療法と心嚢内腫瘤体積とEFの経過

悪性リンパ腫において,本症例のごとく超音波検査で心嚢液貯留,腫瘤形成や限局的な壁運動低下の所見は心臓浸潤に重要な所見であると思われた。また,文献的に見られるような心室壁肥厚を確認することも心臓浸潤を鑑別する上で重要な所見となりえる可能性が示唆された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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