Japanese Journal of Medical Technology
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Effects and issues of in-hospital preparation of cryoprecipitates
Yuto SAKAMOTOHideaki MATSUURATomoki YADATakumi NEGISHIRyoka SUZUKITakahiro MATSUNOYukari SUGIURAYasuo MIURA
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2022 Volume 71 Issue 4 Pages 698-703

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Abstract

クリオプレシピテート(以下,クリオ)はフィブリノゲン(以下,Fib)等の凝固因子を高濃度に含むため,大量出血時に使用することで凝固能を早期に回復させ,出血量や輸血量の減少に繋がるとされている。当院でも心臓血管外科(以下,心外)からの要望でクリオの院内作製を開始したので導入経緯と使用実績及び課題について報告する。対象はクリオを使用した心外の手術51症例(以下,投与群)とクリオ未使用の心外の手術94症例として,術式を大血管手術とそれ以外(以下,非大血管手術)に分けて比較検討した。調査内容は出血量,赤血球液(RBC)・新鮮凍結血漿(FFP)の投与量,濃厚血小板(PC)投与量,RBCとFFPの投与比(R/F比),ICU在室日数とした。クリオ投与患者には投与前後のFib値を測定し,統計学的解析を行った。クリオ投与前後のFib値は有意な上昇を認めた。大血管・非大血管手術の両者ともに投与群の方が非投与群と比較して,出血量が多かった。RBCおよびFFPの投与量は大血管手術の投与群で低い傾向があるが,非大血管手術の投与群では有意に多かった。クリオ導入当初,クリオの投与により血液製剤の使用量が削減できると期待したが現状では明確な輸血量削減効果は得られていない。輸血量を削減するためには,クリオを使用できる環境を整えるだけではなく,クリオを効果的に投与するために使用者の意識を変える必要がある。

Translated Abstract

Cryoprecipitates contain high concentrations of coagulation factors such as fibrinogen. Hence, a cryoprecipitate infusion for massive bleeding may reduce blood loss and blood transfusion requirement. We introduced processes for the supply of in-hospital-prepared cryoprecipitates and found changes in transfusion-related clinical parameters in our hospital. In this study, we compared the use and non-use of cryoprecipitates in major and nonmajor cardiovascular surgeries. The parameters compared were the amounts of blood loss, red blood cells (RBC), fresh frozen plasma (FFP), and platelet concentrate administered, the ratio of RBC to FFP (R/F ratio), and the duration of intensive care unit admission. The levels of serum fibrinogen increased after cryoprecipitate infusion. However, the amount of blood loss was greater in use than non-use of cryoprecipitates for both major and nonmajor cardiovascular surgeries. There was no significant differences in RBC and FFP administered for patients use and non-use cryoprecipitates for major cardiovascular surgery. Reducing the requirement of blood products in cardiovascular surgeries requires not only the use of cryoprecipitates but also identifying the cases for which cryoprecipitate infusion is effective as well as changing the minds of the medical staff involved in transfusion therapy.

I  はじめに

クリオプレシピテート(以下,クリオ)はフィブリノゲン(以下,Fib)等の血液凝固因子を高濃度に含む血液製剤であり,新鮮凍結血漿(以下,FFP)から作製される。外傷・手術などの大量出血時に生じる希釈性凝固障害や止血困難な状況の本態は低Fib血症であり,止血を図るためにクリオの投与が有効である。手術時において,クリオまたはFib濃縮製剤を使用することで出血量や輸血量が減少するという報告1),2)もあり,クリオを使用するメリットは大きい。クリオは特に心臓血管外科(以下,心外)手術で使用されることが多い3)。心外手術では人工心肺装置離脱時の希釈性凝固障害などにより止血が困難になることがしばしば見受けられ,凝固能を早期に回復させ,術野での出血を抑える目的でクリオが使用される。今回はクリオを導入するまでの経緯,使用実績および課題について報告する。

II  導入過程

今回,当院の心外からの要望があり,2020年2月よりクリオの院内調整を導入することとなった。本取り組みを始めるにあたり「クリオ作製を通して診療支援を行うこと」,「血液製剤の使用量を削減すること」を目的とした。

1. 人員の確保

クリオを作製するには製剤の遠心操作や分離操作が必要であり,それら担当する人員の確保が必要であった。導入当初,当院の輸血部は医師(部長)1名,輸血専任の臨床検査技師13名(うち認定輸血検査技師3名)で構成されていた。平日の日勤帯に輸血部で業務をしている技師は3~4名でクリオ作製により日常業務に支障が出る可能性があった。そこで導入開始時はクリオ使用の対象は待機的手術のみに限定し,診療科にはできる限り早めに依頼をしてもらうよう依頼した。

2. 輸血部門システムへの登録

当院では輸血部門システムN-Bit Ferte(株式会社NDD)を使用している。クリオも輸血部門システムで管理することにした。既存システムを活用し,クリオのマスタ追加のみを行い,元製剤のラベルに記載されている製造番号をそのまま利用することとした。通常のFFPと見分けがつくように「クリオ」シールを製剤本体と外箱に貼付した(Figure 1)。また,クリオ依頼確認は毎日2週間先まで実施し,使用日に合わせ,クリオを作製している。

Figure 1 クリオシール

クリオシールを製剤本体と外箱に貼ることでFFPとの区別をつけている。

III  対象と方法

1. クリオの作製方法

日本輸血・細胞治療学会の「クリオプレシピテート作製プロトコール」4)を参考に当院で作成した「クリオプレシピテート作製手順書」に準じて作製した。FFP-LR-480を2~6℃の製剤管理用保冷庫にて24時間かけて融解し(1回法),遠心条件は4℃,3,000 g,15分とした。3本のFFP-LR-480を前述の方法で処理しクリオ1セットとした。また,製剤の血液型は患者同型のものとした。

作業開始時には「クリオプレシピテート作業記録」(Figure 2)に必要事項を記載し,保管している。融解開始日時・融解作業担当者名・分離作業終了日時・分離作業担当者名・使用した製剤の情報(製造番号,採血年月日,有効期限)・秤量(クリオ製剤)・分離バッグ(乏クリオ用)のロットと使用期限を記載する欄を設けた。

Figure 2 クリオプレシピテート作業記録

クリオプレシピテートの作成時に記録する。

2. クリオ投与前後Fib値の測定

クリオ使用のタイミングは麻酔科医の判断としているが,多くは人工心肺装置の離脱時に使用している。クリオ投与の妥当性を評価するためクリオを投与する直前と投与した後で採血しFib値を測定することを原則とした。Fib値の結果判明まで時間を要するため,結果確認前にクリオを投与することを許容する運用とした。

3. クリオ投与群と非投与群の比較

2020年2月~2021年3月の間に実施されクリオを投与した心外の手術のうち人工心肺装置を使用しなかった症例,大血管手術(上行,弓部動脈瘤切除)と非大血管手術(冠動脈バイパス,人工弁置換・形成術)以外の症例を除いた連続51症例(以下,投与群)と,2019年1月~6月のクリオの運用開始前に実施された心外の手術のうち前述の症例を除いた連続94症例(以下,非投与群)の比較検討を行った。調査項目は出血量,赤血球液(以下,RBC)・FFP・濃厚血小板(以下,PC)の投与量,RBCとFFPの投与比(以下,R/F比),ICU在室日数とした。RBC・FFP製剤は手術中に使用した製剤のみを対象とした。クリオ投与群と非投与群の比較は大血管手術(上行,弓部動脈瘤切除)と非大血管手術(冠動脈バイパス,人工弁置換,形成術)の2群に分けて行った。両群の患者背景をTable 1に示す。大血管手術の投与群をGroup A,非投与群をGroup B,非大血管手術の投与群をGroup C,非投与群をGroup Dとした。

Table 1  患者背景
大血管手術(n = 71) 非大血管手術(n = 74)
クリオ投与(n = 43) クリオ非投与(n = 28) クリオ投与(n = 8) クリオ非投与(n = 66)
Group Group A Group B Group C Group D
年齢(歳) 68 ± 12 66 ± 12 71 ± 15 69 ± 11
性別(男:女) 30:13 17:11 4:4 40:26
循環血液量(mL) 4,546 ± 930 4,229 ± 973 4,034 ± 617 4,265 ± 957

4. 統計学的検討

クリオ投与前後Fib値の解析には対応のあるペア分析を用い,クリオ投与群と非投与群の解析にはWilcoxonの順位和検定を用いた。統計解析にはJMP(Version 12.2.0 for Mac, SAS Institute Inc, Cary, NC)を用いた。危険率5%未満(p < 0.05)を統計学的に有意とした。

IV  結果

クリオ投与前後のFib値の結果をFigure 3に示す。投与群は全部で51件のうち欠損データのない31件を対象にクリオ投与前後のFib値を比較した結果,平均値が直前151.3 mg/dLから直後189.8 mg/dLと有意な上昇を認めた(p < 0.0001)。

Figure 3 クリオ投与前後のFib値(N = 31)

Fib値は有意に上昇した。

大血管,非大血管手術において,調査した6項目(出血量,RBC投与量,FFP投与量,PC投与量,R/F比,ICU在室日数)の投与群と非投与群の比較をFigure 4に示す。大血管手術において,出血量の中央値は投与群(n = 43)で1,131 g,非投与群(n = 28)で712 gとクリオ投与群の方が多く,有意差を認めた。RBC投与量,FFP投与量,R/F比,ICU在室日数に関しては有意差を認めなかったがPC投与量は投与群の方で有意に高かった。

Figure 4 投与群・非投与群における大血管手術,非大血管手術の比較

出血量,PC投与量は大血管・非大血管手術共に投与群の方が有意に高かった。

RBC投与量,FFP投与量,ICU在室日数では大血管手術の比較で有意差はなく,非大血管手術では投与群の方が有意に高かった。

R/F比は大血管,非大血管手術共に有意な差は認めなかった。

非大血管手術の投与群(N = 8)と非投与群(N = 66)の比較では出血量,RBC投与量,FFP投与量,PC投与量,ICU在室日数は投与群の方が有意に高値であった。R/F比に関しては有意な差を認めなかった(p = 0.1164)。

V  考察

クリオの院内作製導入開始から,現在まで臨床的に大きな問題は起きていない。クリオを作製する人員の確保など,懸念事項はあったもののクリオ製剤の対象に制限を設けるなどの工夫によって,ルーチン業務に定着できている。現在では,臨床側のニーズに対応する形で,緊急輸血時に使用できるAB型クリオや利用頻度の高いA型クリオも院内に1セットずつ常備しており,緊急使用にも対応できる状態である。これまでに74症例,218バッグのクリオが使用されており,期限切れで廃棄となったことは一度もない。臨床からの依頼状況を鑑み,今後常備する定数在庫数を臨床との協議の上,見直したいと考えている。

クリオの使用効果に関して,今回は出血量・輸血量が多い大血管手術と少ない大血管以外の手術5)に分けて検討を行った。大血管手術で投与群の割合が多く,出血量が多い症例に対してクリオ投与が選択される傾向にあった。統計学的有意差はないが,RBC投与量とFFP投与量の中央値がクリオ投与群で低い傾向を認めた。一方,非大血管手術では,クリオ使用による血液製剤使用削減効果は認めず,むしろ投与群でRBC,FFPの使用量が多かった。これは非大血管手術では投与群の割合が低く,クリオを投与した症例では大血管手術症例に匹敵する出血量であったという患者背景を反映していると考えられた。本検討では出血量が多い症例でクリオが使用される傾向を認めるが,血液製剤使用削減には至っていない。山本ら1)は胸部大動脈瘤手術において,クリオまたはFib濃縮製剤を投与することで出血量・輸血使用量が減少したと報告している。また,吉田ら2)は急性大動脈解離に対する手術でクリオを使用することで輸血使用量の削減が示唆されたと報告している。今回の検討も前述の内容と同様に出血量・輸血使用量が減少すると予測していたが,大血管手術の投与群で出血量は多く,PC投与量も多かった。その理由として出血や止血困難リスクの高い症例にクリオが依頼され,投与されていたという対象患者の背景が一因であると考えている。

もうひとつクリオ投与群で血液使用量が減少していない理由として麻酔科医への情報提供や行動変容の促進が不足していることが挙げられる。クリオが投与できることで早期にFib値の回復が見込めるようになり,血液製剤の使用を抑制できると想定していたが,当院の手術室ではFib値の迅速測定が行えず,結果として検査値に基づく輸血療法が実施されていない。輸血投与を決定する麻酔科医は,クリオ投与症例と非投与症例によって血液製剤の投与方法を明確に変えていない。そのため現状ではクリオによって輸血効果が得られていたとしても,血液製剤の使用抑制の効果は限定的である。輸血管理部門の臨床検査技師として,術中の凝固検査や血液粘弾性検査など輸血実施の判断に有益な情報を提供する追加の取り組みが必要であると考えている。

本研究の限界としては,検討したサンプルサイズが小さく症例のばらつき(出血量や血液製剤の使用量)の影響が大きい点,単施設での検討である点が挙げられる。そのため,引き続き症例を蓄積して検討を進めていく必要がある。

クリオの運用を開始して,診療支援という形で臨床側の要望に応えることができた。しかし,現状では当初,期待していたような輸血使用量の削減は達成できていないことがわかった。クリオを使用できる状況だけを作るのではなく,使用者の意識や行動を変えるために,一層の情報提供を行わなければ輸血使用量の削減は困難であると感じた。

VI  結語

臨床側からのクリオ導入の依頼に対して,診療支援を実現することができた。今後の課題はクリオ使用後の対応について調査し,出血量・輸血使用量を減らすための取り組みが必要であると考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本稿作成にあたり,データ収集および統計解析にご協力頂いた藤田医科大学病院輸血部の小嶋隼人技師をはじめ,本研究にご協力いただいた皆様に深謝いたします。

文献
 
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