2023 Volume 72 Issue 1 Pages 90-96
我々は,尿沈渣中に蛍光を持った結晶や外来性物質の存在することについて報告している。今回,核塩基の代謝産物であるキサンチン結晶,2,8-DHA(2,8-dihydroxyadenine)結晶,経口抗菌剤として知られるトスフロキサシン結晶,蛍光を持つ塩類・結晶円柱,また,人毛や爪,皮膚由来の角化細胞なども青白蛍光色を持つことを確認した。市販の尿酸は板状無色に近い結晶で弱い青白蛍光色を示した。今回,学校検診尿の冷蔵庫保存中に生成された尿酸結晶の分離精製物は,IRスペクトル分析から高い純度(98%以上)であった。尿中尿酸結晶は黄褐色~赤褐色に着色し,青白~黄緑色の蛍光色を示していることから,尿中有色物質の結晶内への取り込みによる蛍光発色性が考えられた。
There are many fluorescent substances in urine and urinary sediments. We have confirmed the fluorescence of xanthine and 2,8-dihydroxyadenine (2,8-DHA) crystals, which can be formed by purine catabolism, and tosufloxacin crystals that are derived from the tosufloxacin tosilate antimicrobial drug. A fluorescent pale blue color is obtained from salts/crystals in casts, human hair, nails, and stratified squamous keratinized epithelia. Commercially available uric acid is a colorless and thin crystal and has a faint pale blue fluorescence. Uric acid crystals obtained from the urine of students and kept in a refrigerator were found to be very pure (over 98% purity) by infrared absorption spectroscopy. They also showed different colors, namely, yellow brown, and red brown under visible light and pale blue and yellow green under fluorescent light. Each color may be included owing to the fluorescence of uric acid and the incorporation of urinary colored pigments.
我々は尿の遠心上清液に蛍光物質が存在することや尿沈渣中に蛍光を持つ結晶として無晶性尿酸塩,尿酸アンモニウム塩,尿酸など,また,精液や糞便などからの外来性物質が蛍光を持つことを報告した1)~3)。今回,市販キサンチン,2,8-DHA,トシル酸トスフロキサシン試薬を尿添加し結晶生成を行い,これらの結晶がどのような蛍光を持つのか検討した。尿中尿酸結晶は黄緑色蛍光色を示す3)。我々は市販尿酸の自家蛍光性の確認と冷蔵庫保存中に生じた尿酸結晶の蛍光発色性,偏光特性について比較検討した。尿沈渣には人や動物の毛,爪,角化した表皮などの混入が考えられる。これらの蛍光発色性についても検討した。この研究は施設の倫理委員会の承認のもとで行った(承認番号2)。
尿試料,尿中尿酸結晶の分離,精製は学校二次検診の試験紙法で蛋白,糖,潜血検査が陰性を示した検体を用いた。人毛,爪,皮膚角化試料は施設職員5名から集めたものを使用した。
2. 試薬と機器尿酸一Na(特級:半井化学),尿酸(特級:富士フイルム和光純薬),キサンチン(一級:富士フイルム和光純薬),2,8-DHA(Toronto Research Chemicals),トシル酸トスフロキサシン一水和物(薬理研究用:富士フイルム和光純薬),吸収スペクトル:U-2810(日立ハイテクノロジーズ),蛍光スペクトル:U-4000(日立ハイテクノロジーズ),蛍光検出用ブラックライト:ビオスコープI,II(アメニティ・テクノロジー),可視光・蛍光顕微鏡:BH2-RFCA(オリンパス),ケニス実体顕微鏡:DAL(科学共栄社),偏光:U-4000附属簡易偏光板(日立ハイテクノロジーズ),TLC分離用ケイ酸プレート:Silica gel 70 TLC Plate-Wako(和光純薬)を使用した。赤外線吸収スペクトルの測定はSRL検査センターに依頼した。
3. 市販試薬の結晶化,尿添加による結晶の生成市販試薬(キサンチン,2,8-DHA,トスフロキサシン)の結晶化,尿添加による結晶生成の検討は,冷蔵庫に2~3週間保存した学校検診プール尿を1,500 G,10分間遠心分離した遠心上清尿に市販試薬の精製水又はNaOHアルカリ溶解液を加え,pH調整後冷蔵庫保存による結晶生成を試みた(Figure 1)。
市販尿酸試薬,冷蔵庫保存により生じた尿中尿酸結晶を透過光,反射光,偏光および蛍光で比較検討した。また,市販試薬のTLC分離上の蛍光スポットの確認を行った。学校検診尿から分離した尿酸結晶の分離精製,ブタノール抽出,TLC分離はすでに報告した方法で行った3)。
5. 人毛,爪,角化表皮の蛍光確認人毛,爪,角化表皮は施設職員5名から集めた。各試料は不純物を除去し3回精製水で洗浄した。人毛,爪の検鏡は実体顕微鏡で行った。蛍光観察はLED蛍光ランプ(ビオスコープII)を用い暗室で行った。
市販試薬,試薬添加尿の弱酸性,中性付近,弱アルカリ性の3種類のpH調整液を作成し冷蔵庫保存したところ,キサンチン溶液(pH 6.15),2,8-DHA溶液(pH 7.63),トシル酸トスフロキサシン溶液(pH 7.50)に結晶生成があった。いずれの結晶も透過光では黄褐色の着色を認め,青白蛍光色を示した。市販試薬はpH調製時結晶生成が認められたが,冷蔵庫保存による結晶生成は確認できなかった。今回,学校検診尿試料に黄緑色蛍光色を示す塩類・結晶円柱を検出した(Figure 2)。
1)試料:A~C.試薬結晶,D.学校検診尿(中学生女子),2)倍率:A~D.×400,3)検鏡:A.キサンチン結晶(pH 6.15):黄褐色顆粒状結晶の集塊物;青白蛍光色,B.2,8-DHA結晶(pH 7.63):黄褐色円形結晶;青白蛍光色,C.トスフロキサシン結晶(pH 7.50):黄褐色円形結晶;青白蛍光色,D.塩類・結晶円柱(尿酸塩);黄緑色蛍光色
市販尿酸試薬水溶液中の沈殿物は,透過光では無色に近い透明度の高い板状結晶であった。反射光観察では白色を呈し,蛍光観察では弱い青白蛍光色であった。また,偏光観察では尿酸結晶特有の偏光干渉色を示した。冷蔵庫保存中に生じた尿中の岩石状尿酸結晶は,強い赤褐色結晶であり,市販尿酸結晶に比べ反射光観察,蛍光発色性や偏光干渉色に違いが認められた。尿中尿酸結晶の強い赤褐色の着色は,尿中有色物質の取り込みによると考えられる3)(Figure 3)。
1)試料:イ)市販尿酸結晶,ロ)冷蔵庫保存により生じた尿中尿酸結晶,2)倍率:×200,3)検鏡:イ)市販尿酸結晶:A.透過光(透明色),B.反射光(白色),C.蛍光(青白色),D.偏光(偏光干渉色),ロ)尿中尿酸結晶:A.透過光(赤褐色),B.反射光(赤褐色 + 白色),C.蛍光(赤褐色 + 青白色),D.偏光(赤褐色)
人毛,爪,皮膚の角化層(落屑)は,いずれも強い青白蛍光色を呈し蛍光物質の存在を確認した(Figure 4)。
1)試料:A.頭毛(黒髪),B.指の爪,;C.角化表皮(足底),2)倍率:A,B.×40;C.×400,3)検鏡:A.青緑色蛍光色,B.青白蛍光色,C.青白蛍光色
市販尿酸飽和水溶液の尿酸ブタノール抽出液は290 nmに単一の吸収ピークを持っている。しかし,励起波長350 nmによる蛍光ピークは極めて小さく,蛍光灯光源(ビスコースI)の単独使用ではTLC分離上の蛍光スポットを確認することが難しかった。より強い発光量を出すLED光源(ビスコースII)による蛍光ランプとの2重照射により極めて弱い市販尿酸の蛍光スポットを確認できた(Figure 5)。
1)試料:A.尿中から分離精製した尿酸結晶,B,C,D.①市販尿酸一Na溶解液,②市販尿酸溶解液,③尿中から分離精製した尿酸結晶溶解液,2)TLC分離:ブタノール/メタノール/水/28%アンモニア水(80/10/10/1, V/V),展開時間:4時間,3)判定:A.尿酸の純度98%以上,B.極大吸収波長;①(285 nm),②(291 nm),③(285 nm),C.蛍光量:①,②<<③,D.市販尿酸のTLC分離上の蛍光スポットの確認(矢印:三日月状)
臨床の場では,尿中にキサンチン結晶4)~6),2,8-DHA結晶7)~11),トスフロキサシン結晶12)の検出が報告されている。しかし,これらの尿中結晶が蛍光を持っているかどうかについてはこれまで明確ではなかった。今回,市販試薬による尿中2,8-DHA結晶が自家蛍光を持っていることを確認し,この結果は1981年川村ら11)による2,8-DHA結晶が蛍光を持つとの報告と一致した。また,トシル酸トスフロキサシン錠剤も医療用医薬品添付文書13)に蛍光を持つことが記載されているが,尿中トスフロキサシン結晶が蛍光を持つかは不明であった。
今回,市販試薬より生成された結晶の2,8-DHA結晶は,文献に報告されている患者尿中の結晶に近い構造物であった。一方,患者尿中のキサンチン結晶は,黄褐色顆粒状板状と紹介されており,今回の顆粒状結晶集塊物とは多少の違いが認められた。塚原ら6)は,顆粒状板状結晶と顆粒状集塊物の両方の排泄を報告していることから,キサンチンの尿中排泄の量的違いによるのではないかと推定される。尿中薬物結晶の生成がIn vivo,In vitroで同じメカニズムで生じるかどうかについては更なる検討が必要である。
円柱に色々な塩類結晶14)や薬物結晶成分が含まれていることが知られているが,塩類・結晶円柱の蛍光発色性については明確ではなかった。今回,学校検診尿沈渣試料の中に弱い蛍光発色を認め,無晶性尿酸塩と思われる塩類・結晶円柱を観察した。今後,リン酸塩,炭酸塩などの無晶性塩類を含む円柱が蛍光を示すかどうか確認する必要があり検討を続けたい。
人毛,皮膚には尿酸が含まれていることは知られている15)。爪の尿酸量については明確ではないが,爪は皮膚上皮の角質が変化したものであるので尿酸が含まれている可能性は高い16)。今回の検討で人毛,爪,皮膚表皮が強い青白蛍光色を持っていた。これらの強い青白蛍光色が尿酸単独によるのか,あるいは他の蛍光物質に由来するのか確認する必要がある。
市販尿酸溶液中の尿酸のブタノール抽出は極めて小さく,TLC分離上の尿酸の蛍光スポットの確認が難しい。強い蛍光ランプの使用や蛍光ランプの2重照射などの工夫が必要である。
LED光源ランプは従来から使用されている蛍光灯ランプに比べて強い蛍光発光量を持っており,微量な蛍光物質の検出が可能である17)。塩類・結晶円柱の結晶成分の確認に偏光が利用されている18)。今回,蛍光を持つ塩類・結晶円柱の鑑別に蛍光発色性利用の可能性が示された。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。