Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
Two hematological disease patients with heart disease complication, who were urgently admitted to our hospital, when they needed to prepare for transfusion with difficult-to-judge pretransfusion test results
Miyako SAKAMOTOKaori MAEDATomoko IGARASHIAkisa TSUNEMIMasaru SHIMIZU
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2023 Volume 72 Issue 2 Pages 281-286

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Abstract

血液疾患に心疾患を合併した患者の緊急輸血検査結果の判定に難渋した2症例を経験した。症例1.79歳白人男性。旅行中に胸痛と呼吸困難の増悪,下腿浮腫のため急性うっ血性心不全と診断され,当院に緊急搬送された。紹介状には骨髄線維症で赤血球液(RBC)と血小板濃厚液(PC)輸血を頻回に行っていると記載されていた。来院時のABO血液型検査で,オモテ・ウラ検査が不一致のため判定保留とし,AB型PCとO型RBCを輸血したが,副反応は認められなかった。症例2.62歳男性。ベンスジョーンズ型多発性骨髄腫(BJ-MM)による腎不全で血液透析中に頻脈性心房粗動を発症し,当院へアブレーション治療目的で転入院した。紹介状にはBJ-MM治療についての記載はなかった。不規則抗体検査のスクリーニング赤血球とパネル赤血球とは自己赤血球以外のすべてが陽性で,同定できなかった。紹介元にBJ-MMの治療法を問い合わせたところ,ダラツムマブが3ヶ月前より投与されていた。DTT処理赤血球での不規則抗体スクリーニングは全て陰性となった。輸血は行われなかった。緊急時の輸血を安全かつ迅速に行う観点から,輸血検査に影響を及ぼす治療法についての紹介状への記載は必須である。

Translated Abstract

We encountered two hematological disease patients with heart disease complication, who were urgently admitted to our hospital, when they needed to prepare for transfusion with difficult-to-judge pretransfusion test results. The first patient was a 79-year-old Caucasian male who visited a physician for severe chest pain, dyspnea, and edema while traveling. He was diagnosed as having acute congestive heart failure and transported to our hospital by ambulance. The referral letter stated that he had frequently received transfusions of red blood cells (RBCs) and platelet concentrates (PCs) for myelofibrosis. On ABO blood typing upon arrival, judgment on the type of cells to transfuse was delayed because of inconsistency between cell group typing and reversed typing. AB-type PCs and O-type RBCs were transfused, partly on the basis of the presumed use of type O blood in previous transfusions in England. The second patient was a 52-year-old male who developed tachycardiac atrial flutter during hemodialysis for Bence–Jones multiple myeloma (BJ-MM)-induced kidney failure and was transferred to our hospital for ablation treatment. Treatment for BJ-MM was not mentioned in the referral letter. All irregular antibody screening cells and panel cells except for autologous blood cells were positive, and antibody identification was impossible. Upon request, the referring hospital indicated that daratumumab had been administered for three months. All DTT-treated screening cells were negative. No blood transfusion was performed. These cases show the importance of a referral letter providing a description of treatment, which may affect pretransfusion testing for safe and prompt emergency blood transfusion.

I  はじめに

当院は三次救急病院であり,循環器疾患の診療症例が多い。厚生労働省の報告1)によると,最近5年間の心血管系の患者数は疾患により増減の傾向が異なるが,不整脈や心不全,脳内出血,クモ膜下出血や下肢静脈瘤の患者数は増加傾向にある。一方,血液疾患では,多発性骨髄腫,白血病などの疾患で増加傾向にある。このような造血器腫瘍性疾患の治療には輸血療法は必須なことが多く,さらに最近の慢性骨髄性白血病のチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor; TKI)による治療では,長期延命が得られるようになってきた。しかし,TKI等の投与中のみでなく,長期投与による副作用として重篤な心血管障害が数%に見られるとの報告もある2)。今後血液疾患に心疾患を合併する症例の増加が予測される。さらに,血液疾患治療薬の中には,輸血検査に影響を及ぼす薬剤(ダラツムマブ,イサツキシマブ)もある3)~6)。血液疾患の加療中に心疾患を合併して来院した症例で,血液疾患の治療についての的確な情報が得られないと,緊急に輸血が必要となった場合に,適合血の選択に難渋し,輸血療法の遅滞をもたらしかねない。その対策として,日本輸血細胞治療学会では,輸血検査に影響を及ぼす治療法や検査結果についての履歴を記入したカード(輸血関連情報カード)(Figure 1)を患者に渡し,その後の輸血時に提示することを推奨している7)。今回我々は,血液疾患の治療中に心疾患を合併し,来院時に緊急輸血療法が必要とされたが,血液疾患の治療についての情報が不十分だったため,血液型や不規則抗体検査の判定に難渋した2症例を経験したので報告する。

Figure 1 An example of a blood transfusion related information card recommended by The Japan Society of Transfusion Medicine and Cell Therapy

II  症例

症例1:79歳白人男性。英国からニュージーランドへ帰国途中に日本に立ち寄った旅行者である。20XX年X月に来日し,旅行中に胸痛と共に呼吸困難の増悪,下腿浮腫を認めるようになり,近医を受診したところ,急性うっ血性心不全と診断され,当院へ緊急搬送された。来院時の紹介状には,英国で骨髄線維症(myelofibrosis; MF)の治療にパクリチニブ(Janus kinase[JAK]阻害薬)を服薬し,2週間毎に赤血球液(RBC)と血小板濃厚液(PC)の輸血を行っていることと,重度大動脈弁狭窄症と慢性心房細動(抗凝固薬の服用は中止中)について記載されていたが,患者と輸血された血液のABO血液型についての情報はなかった。入院時,著明な下腿浮腫と末梢の冷感,胸水貯留を認め,血色素量(Hb)7.5 g/dL,血小板数(PLT)0.7万/μLであったことから(Table 1),当直時間帯での緊急輸血として,PC輸血を行うことになった。ABO血液型検査のオモテ・ウラ検査結果が不一致であり(Table 2a),不規則抗体スクリーニングは陰性であった(Table 2b)。入院時にAB型PC20単位,翌日にはO型RBC 4単位を使用した。さらに,入院4日目と11日目にそれぞれAB型PC 20単位の輸血を実施した。いずれの輸血でも輸血副反応をみることなく終了した。

Table 1  Hematological test results at admission
Item Case 1 Case 2
WBC (×103/μL) 37.5 1.8
RBC(×106/μL) 2.39 2.49
Hb (g/dL) 7.5 8.7
HCT (%) 24.3 26.8
MCV (fL) 101.5 107.6
MCH (pg) 31.3 35.1
MCHC (%) 30.9 32.6
PLT (×103/μL) 7 61
Table 2  Blood transfusion test results of case 1
a: ABO blood typing
Method Cell grouping tests Reverse grouping tests ABO type
Anti-A Anti-B Judgement A1 cells B cells O cells Judgement
Column agglutination*mfmfIndeterminate000ABIndeterminate
Test tube (Saline)mfmfIndeterminate000ABIndeterminate

mf: mixed field (A small amount of free cells)

b: Irregular antibody screening
Method Screening cells Judgement
1 2 3
Column agglutination*000Negative

*LISS-IAT: Low-ionic strength solution indirect antigloblin test

症例2:62歳男性。ベンスジョーンズ型多発性骨髄腫(Bence-Jones multiple myeloma; BJ-MM)による腎不全で血液透析(hemodialysis; HD)を行っていた。20XX年X月HD中に頻脈性心房粗動を発症し,血圧低下のためHDの継続が困難となり,アブレーションを行う目的で紹介入院となった。来院時の紹介状には,頻脈性心房粗動の診断についての記載はあったが,BJ-MMの治療歴についての情報はなかった。入院時,Hb 8.7 g/dL,PLT 6.1万/μLであり(Table 1),輸血検査が依頼された。血液型はO型,RhDは陽性であったが(Table 3a),不規則抗体検査のスクリーニング赤血球とパネル赤血球の全てで陽性反応を認め,抗体の同定はできなかった(Table 3b, c)。MMとの診断であることから,紹介元にMMの治療歴を問い合わせたところ,ダラツムマブ(daratumumab; DARA)を当院受診の3ヶ月前より投与されていたことが判明した。そこで,dithiothreitol(DTT)処理8)後の不規則抗体検査のスクリーニング赤血球との検査はすべて陰性となった(Table 3b)。なお,カテーテル治療は行われたが,輸血の依頼はなく,交差適合試験は行われなかった。

Table 3  Blood transfusion test results of case 2
a: ABO blood typing
Method Cell grouping tests Reverse grouping tests ABO type
Anti-A Anti-B Judgement A1 cells B cells O cells Judgement
Column agglutination*00O2+3+0OO
b: Irregular antibody screening
Method Screening cells Judgement
1 2 3
Column agglutination*2+2+2+Positive
DTT-treated RBC (PEG-IAT)000Negative

*LISS-IAT: Low-ionic strength solution indirect antigloblin test

DTT-treated RBC: Dithiothreitol-treated red blood cells

PEG-IAT: Polyethylene-glycol indirect antigloblin test

c: Irregular antibody panel blood cells
Method 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 Control
Saline000000000000
PEG-IAT1+1+1+1+1+1+1+1+1+1+1+0

III  輸血検査法と結果

当院では,ABO血液型,RhD血液型と不規則抗体スクリーニング(low-ionic strength solution indirect antiglobulin test [LISS-IAT])は,いずれも全自動輸血検査機器(ORTHO VISION; Ortho Clinical Diagnostics, 東京)によるカラム凝集法で行っている。カラム凝集法で判定保留となった場合には,試験管法での再検査を実施しており,ABO血液型は生理食塩液法(saline method;S法),不規則抗体スクリーニングとパネル赤血球による同定検査はS法,間接抗グロブリン試験(polyethylene-glycol indirect antiglobulin test; PEG-IAT)で実施している。

症例1:ABO血液型検査では,オモテ検査である抗A,抗Bとの反応は,各々部分凝集像(凝集塊に少数の非凝集赤血球)を示し,ウラ検査であるA1赤血球とB赤血球との反応は陰性であった(Table 2a)。オモテ・ウラ検査結果の不一致のため,ABO血液型の判定は保留とした。RhDは陽性,不規則抗体スクリーニング(LISS-IAT)は陰性であった(Table 2b)。試験管法によるABO血液型検査でも同様な部分凝集像を認め,抗A,抗Bとの反応ではわずかな非凝集赤血球を認めた(Table 2a)。

症例2:ABO血液型検査はO型(Table 3a),RhDは陽性であった。不規則抗体スクリーニングは,LISS-IATで全ての赤血球が2+陽性(Table 3b),PEG-IATも同様に1+の陽性であった。パネル赤血球を用いた同定検査では,S法は全て陰性であったが,PEG-IATでは自己赤血球を除き全てで1+の陽性となり,同定することができなかった(Table 3c)。不規則抗体スクリーニング赤血球をDTT(Dithiothreitol)処理8)をして検査を行ったところ全て陰性となり,不規則抗体は認められなかった(Table 3b)。

IV  考察

今回報告した2症例は,いずれも血液疾患の治療中に心疾患を合併して,紹介入院となった。紹介状には,輸血療法や血液疾患の治療歴についての記載内容が不十分であったことから,輸血検査の結果判定に難渋することとなった。

症例1は,MFに急性うっ血性心不全を合併し,当院に緊急搬送され,当直時間帯に緊急輸血をすることになり,ABO血液型のオモテ・ウラ検査の結果が不一致であった。患者は英国から母国(ニュージーランド)への帰国途上にあり,MFの治療は母国と英国で行われていたと考えられ,来日後に急性心不全を発症し,近医を受診後直ちに当院へ緊急搬送されてきた。このような状態では,本人や家族,あるいは近医や国外の医療機関に詳細な診療情報の提供を求めることは,困難であった。ABO血液型不一致の原因としては,異型適合血(O型など)輸血,骨髄移植,その他稀ながら亜型や疾患による抗原減弱による可能性が考えられる。MFへの輸血も母国と英国の病院で行われていたと考えられることから,患者(AB型)が異型適合血(O型)を頻回に輸血されていたと推測される。それは,英国人の血液型頻度9)は日本人に比して,AB型が3%と低く,O型が47%と高いことから,欧米では日本以上にO型のRBC輸血が行われていると考えられるからである。紹介状に患者の本来のABO血液型と輸血された血液製剤の血液型が記載されていれば,検査結果の判定をより迅速に行うことができたと考える。なお,本例の輸血には,RBC製剤はO型,PC/FFP製剤はAB型を使用する方針とした。輸血療法の実施に関する指針10)では,ABO血液型の判定を確定できない場合には,O型のRBCの使用を推奨している。PCについては,抗A,抗Bを含まないAB型製剤を使用することは妥当な選択と考える11)

症例2は,MMによる腎不全でHD中に心房粗動を発症し,治療としてアブレーションを実施するために入院した。その治療時の出血に対処するために,血液型検査と不規則抗体スクリーニング検査を実施した。不規則抗体スクリーニング赤血球と同定パネル赤血球との結果は,自己対照以外の赤血球とはすべて陽性を示した。この陽性反応については,不規則抗体による凝集も考えられたが,MMとの診断から,まず MMの治療による影響を考えた。紹介元の医療機関に治療について問い合わせたところ,3ヶ月前からDARAを投与していることが判明した。そこで,スクリーニング赤血球をDTT処理8),12)して不規則抗体検査を実施したところ,すべての赤血球との反応が陰性となった。DARAの使用例では,その輸血検査への影響は最長6ヶ月と言われており13),DTT処理などを含めた不規則抗体スクリーニングの最終判定までには数時間を要する。紹介状にDARA投与歴や使用前の輸血検査情報が記載されていれば,DTT処理赤血球による不規則抗体スクリーニングをより迅速に行うことが可能であったと考えられる。今回はアブレーション時の出血に備えるための輸血検査であり,結果として輸血は行われなかったが,安全な輸血用血液を迅速に準備するためには,治療歴や投与歴は必須な情報である。

これらの症例に見られるように,紹介状には輸血検査結果やその検査に影響を及ぼす使用血液製剤や薬剤を含む治療歴についての情報を,的確に記載する必要がある。さらに,折角持参し,提示した情報が輸血検査室に届かないことも起こりうるであろう。そのためには,関連する医師をはじめとした関連医療職に,輸血検査に影響を及ぼす薬剤を含む治療法についての知識を,周知する努力も欠かせないと考える。

当院では,輸血検査マニュアルを準備し,当直時間帯での問題のある症例に対しては,輸血専任技師が相談に与る体制を取っている。さらに,今回報告した問題のある症例は,定期的に開催される輸血療法委員会に掲示して,輸血療法に対する理解と知識の共有に努めている。

V  結語

当院では循環器系疾患を重点的に診療しており,緊急に搬送されてくる患者の中には血液疾患の治療中に循環器系疾患を合併する患者もいる。その際の紹介状には,循環器系疾患のみならず,血液疾患の治療歴についての情報をも記載することが必要とされる。このことは,近年輸血検査に影響を及ぼす血液疾患の治療薬などが使用されるようになってきたこともあり,特に来院時に緊急輸血が必要とされるような場合には,安全な血液をより迅速に供給するためには必須であると考える。輸血関連情報カード(Figure 1)のような輸血治療における重要な情報共有の手段が,血液内科のみならず,他科への認知度上昇と普及が望まれる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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