2023 Volume 72 Issue 2 Pages 205-209
現在,SARS-CoV-2検出において逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription polymerase chain reaction; RT-PCR)検査が最も検出感度に優れていると言われている。一方で,SARS-CoV-2抗原定量検査(以下,抗原定量検査)は,RT-PCR検査に比べ測定時間が短く(約20分),多検体の測定も可能である。今回,当院で実施した抗原定量検査とRT-PCR検査の結果から抗原定量検査の臨床における活用方法を検討した。RT-PCR検査陽性検体130件と陰性検体84件を用いて,抗原定量検査を実施したところ,陽性一致率は85.4%,陰性一致率は100%であった。現在,ウイルス量の指標として用いられているリアルタイムRT-PCRで算出されるCt値と対数変換した抗原定量値は概ね良好な逆相関を示した(r = 0.947)。しかし,Ct値が高値でウイルス量が少ない場合,陰性と判定される検体もあった。リアルタイムRT-PCR検査が陽性であってもCt値が高値の場合は,感染リスクが低いと言われていることから抗原定量検査は感染リスクを知る指標として有用であると考えられる。また,SARS-CoV-2抗原定量検査は,RT-PCR検査と比べ,測定時間が短く,多検体測定も可能なため,病床管理や無症候者のスクリーニング検査として活用できると考えられた。
The gold standard to detect SARS-CoV-2 is reverse transcription-polymerase chain reaction (RT-PCR). We evaluated an automated quantitative antigen assay using the Elecsys SARS-CoV-2 antigen (Roche) to detect SARS-CoV-2. We tested 214 subjects, 130 (60.7%) of whom were positive in the molecular tests for SARS-CoV-2 infection using nasopharyngeal samples, with a SARS-CoV-2 RT-PCR kit and the quantitative antigen assay. The positive concordance rate was 85.4% and the negative concordance rate was 100%. The Ct value of quantitative RT-PCR showed an inverse correlation with the logarithmically transformed antigen quantitative value (r = 0.947). Results suggest that the quantitative antigen assay is a potentially useful surrogate test for the quantitative RT-PCR assay since it also showed an acceptable accuracy as a screening test. The automated antigen assay also allows fast turn-around times and a high throughput and might be useful in emergency care, adequate bed management, and so forth.
現在,SARS-CoV-2検出において逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription polymerase chain reaction; RT-PCR)検査がゴールドスタンダードとして用いられており,最も検出感度に優れていると言われている1)。しかし,検査時間が長く(1~5時間),専用の機器を必要とし,遺伝子レベルのコンタミネーションを防止するために熟練した技術も必要であり,高コストであると言われている1)。一方で,SARS-CoV-2抗原定量検査(以下,抗原定量検査)は,RT-PCR検査に比べ測定時間が短く(約20分),多検体の測定も可能である。しかし,一部の試薬のみで有用性の報告がされており2),日常臨床で利用されている報告は少ない。今回,当院で実施した抗原定量検査とRT-PCR検査の結果から抗原定量検査の臨床における活用方法を検討した。
なお,本研究は厚生連廣島総合病院の倫理委員会で承認されている(No21-84)。
2020年10月1日から2022年3月31日までに当院でRT-PCR検査を行ったCOVID-19患者の鼻咽頭ぬぐい液残余検体130件とSARS-CoV-2スクリーニング検査でRT-PCR検査陰性となった患者の残余検体84件を用いて,抗原定量検査を実施した。抗原定量検査は,エクルーシス試薬SARS-CoV-2 Ag(ロシュ・ダイアグノスティックス)を使用し測定を行った。本試薬は,カットオフインデックス(cut-off-index; C.O.I.)により定量的な測定が可能であるため,厚生労働省より公表されている「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針」の「抗原検査(定量)」に用いる検査として令和3年3月に薬事承認された3)。結果判定はメーカー推奨のカットオフ値を用い,1.0 C.O.I.以上を陽性と判定した。RT-PCR検査は全自動遺伝子解析装置GENE CUBE(TOYOBO)を用いて測定を行った。
2. リアルタイムRT-PCR検査のCt値と抗原定量値の比較RT-PCR検査で陽性となった検体130例において,SARS-CoV-2 Detection Kit-Multi(TOYOBO)試薬を用いて,リアルタイムRT-PCR検査を実施した。リアルタイムRT-PCRで算出されるcycle threshold(Ct値)と抗原定量値の比較検討を行った。
3. 抗原定量値の性別や年齢・SARS-CoV-2ウイルス株による比較RT-PCR検査で陽性となり,症状発現から10日以内の検体89例においてTaKaRa Primer/Probe N501Y,L452R,G339D(タカラバイオ)試薬を用いて,変異株の同定を行った。また,同一の検体で性別や年齢・各ウイルス株による抗原定量値の差異を検討した。差異の検定は,統計解析ソフトJMP(Ver. 11.2.0)にてWilcoxonの順位和検定を用いた。
4. COVID-19患者における抗原定量値の経時的変化COVID-19で当院入院中の患者において,後日RT-PCR検査が提出された6例において,抗原定量値の時系列変化を確認した。
RT-PCR検査を基準とした抗原定量検査の感度は85.4%,特異度は100%となった。RT-PCR検査と抗原定量検査の陽性一致率は130例中111例(85.4%)であった(Table 1)。
SARS-CoV-2 RT-PCR | ||||
---|---|---|---|---|
Positive | Negative | Total | ||
SARS-CoV-2 Ag test |
Positive | 111 | 0 | 111 |
Negative | 19 | 84 | 103 | |
Total | 130 | 84 | 214 |
SARS-CoV-2 Ag: positive ≥ 1.0
RT-PCR: Real time reverse transcription-Polymerase Chain Reaction
Ag: Antigen
Ct値と対数変換した抗原定量値は逆相関を示したが(r = 0.95),19件は抗原定量値が1.0 C.O.I.未満となり陰性となった(Figure 1)。抗原定量検査陰性となった19件は,症状発現日から平均12.2日±14.2経過しており,平均Ct値が37.4 ± 3.7と高値であった。
SARS-CoV-2 Ag: positive ≥ 1.0
Ct Value is calculated from RT-PCR
RT-PCR: Real time reverse transcription-Polymerase Chain Reaction
C.O.I.: Cut-Off-Index
Ag: Antigen
Ct: Cycle Threshold
症状発現から10日までの検体において,抗原定量値に性差は認めず(p = 0.928)(Figure 2),年齢との明らかな相関関係も認めなかった(r = 0.06)(Figure 3)。各ウイルス株による抗原定量値の違いに関しては,従来株がアルファ株とデルタ株よりも高値であった(p < 0.05)(Figure 4)。
SARS-CoV-2 Ag: positive ≥ 1.0
Ag: Antigen
C.O.I.: Cut-Off-Index
SARS-CoV-2 Ag: positive ≥ 1.0
Ag: Antigen
C.O.I.: Cut-Off-Index
SARS-CoV-2 Ag: positive ≥ 1.0
*: p < 0.05
Ag: Antigen
C.O.I.: Cut-Off-Index
全例とも抗原定量値は徐々に減少傾向を示した(Figure 5)。
SARS-CoV-2 Ag: positive ≥ 1.0
C.O.I.: Cut-Off-Index
Ag: Antigen
RT-PCR検査を基準にした時,抗原定量検査の特異度は100%であり,本検討では抗原定量検査の偽陽性例を認めなかった。陽性一致率は85.4%となり,RT-PCR検査陽性で,抗原定量検査は陰性となる検体が19件あった。
RT-PCR検査で算出されるCt値は,標的遺伝子の陽性結果が得られるまでの遺伝子増幅のサイクル数であり,その数値が低いほど標的遺伝子の量が多いことを意味する4)。そのため,Ct値が低い検体は,抗原定量値が高いと考えられる。本検討において,Ct値と対数変換した抗原定量値は,概ね良好な逆相関を示した。しかし,現在RT-PCR検査が陽性であってもCt値の増加にともないウイルス分離培養率は低下し,Ct値が34以上の検体ではウイルスの分離は不可能であったと報告されている5)。そして,英国や本邦の解析でも症状発現から10日以降の検体ではウイルス分離培養は概ね陰性となることが報告されている6),7)。これらの報告から厚生労働省や国立感染症研究所では,COVID-19の感染性評価におけるCt値の活用について検討が行われている4),8)。本検討において,抗原定量値が1.0 C.O.I.未満となった検体は,平均Ct値が37.4であり,症状発現から平均して12.2日経過していたことから,感染性が低下している可能性が高いと考えられる。しかしながらウイルス分離培養が行えていないため,感染性に関しては今後の検討課題である。遺伝子増幅法におけるCOVID-19検査にはPCR法やループ介在等温増幅(loop-mediated isothermal amplification; LAMP)法など多数の方法が応用されており,異なる増幅法を標準化した上で,統一したCt値の判定基準が必要であるという課題も提唱されている。そのため,Ct値と逆相関を示した抗原定量値が今後のCOVID-19感染性評価に活用できる可能性が高いと考えられる。
抗原定量値において,本検討では従来株の抗原定量値が変異株の抗原定量値よりも若干高い傾向を示したが,従来株と変異株の検体保存液が異なっていたこと等の採取条件が異なるため,今後多数例の解析が必要である。
今回,抗原定量値の経時的変化を評価できたCOVID-19患者は全て症状が軽快した症例であり,症状とともに抗原定量値は低下傾向を示した。したがって,治療効果のモニタリングにも有用であることが示唆された。抗原定量検査は免疫自動分析装置にて約20分で測定可能であるため,RT-PCR検査に比べ迅速に感染性を評価する指標として有用であると考えられる。そのため,各施設での院内感染時の早期対応として活用できる他,感染リスクを早期に判定することにより病床管理を容易にできるなどの利用も考えられる。
抗原定量検査は,RT-PCR検査と比べ,測定時間が短く,多検体の測定が容易であることから,ウイルスの感染性を簡便に把握する指標として有用であると考えられる。そのため,病床管理や無症候者のスクリーニング検査として活用できるほか,院内感染時などの緊急対応にも活用できると考えられた。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。