Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Low-vacuum scanning electron microscopy imaging of kidney vascular endothelium using metal-sensitized immunochemistry
Masaki BABAKunio KAWANISHITomoki NAKAGAWAYoshihiko MURATAShuichiro FURUYADaisuke MATSUBARAMitsuyasu KATO
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2023 Volume 72 Issue 2 Pages 230-235

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Abstract

腎針生検検体の病理診断には,種々の特殊染色,蛍光抗体法,免疫組織化学,透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope; TEM)などの多彩な解析が必要となる。しかし,症例によってはTEM用検体に糸球体が含まれていないなど,確定診断が困難な場合も少なくない。近年,特別な固定処理を必要としない低真空走査型電子顕微鏡(low-vacuum scanning electron microscopy; LVSEM)を用いた解析法が開発され,腎病理診断への応用が模索されている。我々は,腎組織のパラフィン包埋切片に対し,既報で用いられている白金ブルー染色とチオセミカルバジド-PAM(thiosemicarbazide-periodic acid-methenamine silver; TSC-PAM)染色に加えて,血管内皮マーカーとして用いられるCD31およびCD34に対する免疫組織化学を行い,3,3'-ジアミノベンジジン四塩酸塩水和物(DAB)発色後に塩化金増感を加えた検体のLVSEM観察を行った。CD31やCD 34のLVSEM観察では,白金ブルーやTSC-PAMでは観察が困難であった,糸球体血管内皮細胞,傍尿細管毛細血管網,小動脈などが明瞭に描出された。これらは,炎症性疾患や腫瘍浸潤の評価に有効である可能性が示唆された。また,DAB発色後の塩化金増感は,免疫組織化学全般に対して応用が可能であり,腎生検検体中の免疫複合体の沈着を確認する他,種々の免疫組織化学に適応することで,微細構造の観察が可能になると考えられた。

Translated Abstract

The pathological diagnosis of renal needle biopsy specimens requires the use of various analytical methods, including the use of various special stains, immunofluorescence, immunohistochemistry, and transmission electron microscopy (TEM). Inevitably, there are many cases wherein it is difficult to make a definitive diagnosis because of insufficient materials, especially for TEM. To compensate for this, low-vacuum scanning electron microscopy (LVSEM) imaging using formalin-fixed paraffin-embedded (FFPE) specimens is being tested as a possible diagnostic tool for kidney biopsy. Here, we report a new LVSEM imaging technique using metal-sensitized immunohistochemistry. We performed immunohistochemistry on FFPE samples of kidney tissue to detect CD31 and CD34, which are used as vascular endothelial markers. We then sensitized 3,3'-diaminobenzidine (DAB) with AuCl. We also performed platinum blue and thiosemicarbazide-periodic acid-methenamine silver (TSC-PAM) staining for the control of LVSEM imaging as previously reported. LVSEM imaging of CD31 and CD34 clearly visualized glomerular endothelial cells (GECs), the peritubular capillary network, and small arteries, which are difficult to identify in the case of platinum blue or TSC-PAM staining, suggesting that LVSEM imaging can be useful in the assessment of inflammatory disease and tumor invasion. In conclusion, we established a new LVSEM imaging technique for kidney endothelium, and the AuCl sensitization of DAB can be applied to any type of immunohistochemistry to observe microstructures as well as to confirm the deposition of immune complexes in renal biopsy specimens.

I  はじめに

1. 腎生検病理診断の現状

腎生検の病理診断では,まず初めに,formalin-fixed, paraffin-embedded(FFPE)組織を対象とした光学顕微鏡的検査として,糸球体基底膜(glomerular basement membrane; GBM)やメサンギウム基質の構造異常による糸球体病変,炎症細胞の浸潤,尿細管間質病変を正確に把握するために,ヘマトキシリンエオジン(hematoxylin-eosin; HE)染色,PAS(periodic acid-schiff)染色,PAM(periodic acid-methenamine silver)染色,マッソントリクローム(Masson trichrome; MT)染色を必要とする。また,免疫複合体の沈着や,特異抗体(特発性膜性腎症における抗PLA2R抗体など)を検出するため,免疫蛍光抗体法や免疫組織化学(以下,免疫染色)が実施される。これらに加え,透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope; TEM)を用いて,沈着物の分布,細胞および基底膜の構造異常や微細構造を確認することも必要不可欠な検査となっている。

しかし,各々の検査は固定条件や試料作製法が異なるため,針生検で得られる組織量によっては,確定診断に必要な検査が一部しか行えないこともしばしばである。この現状に対して,光学顕微鏡的検査用に作製したFFPE試料で観察が可能な,低真空走査型電子顕微鏡(low-vacuum scanning electron microscopy; LVSEM)を用いた解析法が開発され,腎病理診断への応用が模索されている。

2. LVSEM観察の現状

腎生検のLVSEM観察は,細胞成分に白金ブルー染色,細胞外成分にチオセミカルバジド-PAM(thiosemicarbazide-periodic acid-methenamine silver; TSC-PAM)染色を用いてそれぞれ可視化することを基本とする1)。特に,TSC-PAM染色はGBMの観察に優れており,膜性腎症,Alport症候群2),IgA腎症3),移植糸球体症4)などを対象として,TEMとLVSEMの観察結果が相補的であることから,解析に応用可能であるとの報告がなされている。しかし,白金ブルー染色は細胞核と細胞質をそれぞれの輝度で可視化するが,糸球体構造の中で糸球体血管内皮細胞(glomerular endothelial cells; GEC)を特徴的に描出することが困難であり,観察法の改良が必要である。今回,抗ヒトCD31抗体および抗ヒトCD34抗体を用いた免疫染色と,3,3'-ジアミノベンジジン四塩酸塩水和物(DAB)の塩化金(AuCl)増感法5)(以下,DAB-AuCl)により,GECや,他の腎臓血管内皮細胞に対してLVSEM解析を試みたので報告する。

II  試料および方法

1. 試料

30代男性,腎細胞癌のため摘出された腎臓の非腫瘍部を用いた(つくば臨床医学研究開発機構による承認番号R01-021)。通常の免疫染色で用いるFFPE標本は,3 μmでの標本作製が基本であるが,今回の検討では,LVSEM観察で推奨2)されている5 μmでの切片厚で作製を行った。

2. 染色方法

抗ヒトCD31抗体(Agilent Technologie社:Clone JC70A),抗ヒトCD34抗体(Agilent Technologie社:Clone CQBEnd)を用いて染色を行った。染色手順は,メーカーが推奨しているプロトコールを参考にして,自動免疫染色装置Omnis(Agilent Technologies)を用いて染色を行った。核染色においては,ヘマトキシリンがLVSEM撮影時の解像度を低下させる原因となるため省略した。免疫染色終了後,DAB-AuCl増感法5)を行った。比較として,TSC-PAM染色と白金ブルー染色(日新EM株式会社:TI-Blue)を行った。

3. LVSEM観察

増感反応が終了した後,精製水で洗浄し自然乾燥したものを,Miniscope TM4000 Plus II(Hitachi High-Tech Corporation)によるLVSEM観察を行った。観察には反射電子像を用いた。

III  結果

血管マーカー(CD31とCD34)に対する免疫染色で陽性を示す,血管内皮細胞(GEC,輸入および輸出細動脈,傍尿細管毛細血管(peritubular capillary; PTC),小葉間動脈,弓状動脈,同レベルの静脈など)を光学顕微鏡下で確認した。その後,DAB-AuCl増感により,DABに金属粒子(Au)を結合させることで,血管内皮細胞の反射電子像をとらえることが可能となった。

TSC-PAM染色および白金ブルー染色とCD31およびCD34の比較

TSC-PAM染色では,GBM,ボウマン嚢基底膜,尿細管基底膜,およびPTC基底膜などが描出された。白金ブルー染色では,糸球体や尿細管の構成細胞が描出され,またそれらの細胞の核や細胞質がそれぞれの輝度で可視化された。しかし,いずれにおいても,GECを同定することは困難であった。対して,CD31およびCD34のDAB-AuClは,GECの位置や構造を詳細に把握することが可能であった(Figure 1)。

Figure 1 糸球体のLVSEM所見

A,B,C:白金ブルーの光顕像およびLVSEM像を示す。メサンギウムや糸球体血管内皮細胞(GEC)の核,細胞質が多彩な輝度で観察できる(矢印)。しかしメサンギウムとGECを明確に区別することは困難である。D,E,F:TSC-PAMの光顕像および LVSEM像を示す。糸球体基底膜(GBM)(矢印),ボウマン嚢基底膜(矢頭)が明瞭に描出されている。G,H,I:CD31の免疫染色(金属増感後)の光顕像およびLVSEM像を示す。GEC(矢印)と傍尿細管毛細血管(PTC)網(矢頭)が描出されている。J,K,L:CD34の免疫染色(金属増感後)の光顕像およびLVSEM像を示す。描出される像は,CD31と同様に,GECや細動脈の血管内皮細胞を観察できる(スケールバーは全て50 μm)。

また,小葉間動脈や弓状動脈の観察においては,TSC-PAM染色では,基底膜以外にも動脈周囲の細網線維が描出された。白金ブルー染色では,基底膜が増感されないため,血管内皮細胞と中膜平滑筋細胞を隔てる輝度上昇のない領域として認識できた。また,平滑筋細胞の観察においては,核の輝度が細胞質や細胞外基質に比べて高く,核を認識することは可能であったが,細胞と細胞外基質の分別は困難であった。間質の構造も同様であった。CD31およびCD34のDAB-AuClは,内膜表層に存在する血管内皮細胞を単独で描出することができるため,細動脈や小葉間血管の動静脈,および尿細管の周囲に存在するPTCの血管内皮細胞について,分布や構造を詳細に観察することが可能であった(Figure 2)。これらのLVSEM観察は,例えば,血管炎や抗体関連型拒絶反応などの炎症性の病態や,微小血管内あるいはリンパ管内への腫瘍浸潤の評価においても有用である可能性が示唆された。

Figure 2 動静脈および毛細血管のLVSEM所見

A,B,C:白金ブルーの光顕像およびLVSEM像を示す。血管内皮細胞の他,平滑筋,および血管周囲の細網線維などが描出される。基底膜が輝度の無い領域として認識できるため,血管内皮細胞(矢印)と内皮下の構造物の境界がわかる。D,E,F:TSC-PAMの光顕像および LVSEM像を示す。血管内皮細胞(矢印)は輝度のない構造物で,血管内膜や周囲の細網線維が描出されている。白金ブルーに対して比較的に構造は把握できるが,血管内皮細胞の分布は不明瞭である。G,H,I:CD31 の免疫染色(金属増感後)の光顕像およびLVSEM像を示す。弓状動脈の血管内皮細胞(矢印)および傍尿細管毛細血管(PTC)網(矢頭)が描出される。血管内皮細胞の分布と構造が詳細に把握できる。J,K,L:CD34の免疫染色(金属増感後)の光顕像およびLVSEM像を示す。CD31と同様,血管内皮細胞(矢印)が描出される。CD34では,血管外膜の成分が描出された(スケールバーは全て50 μm)。

CD31とCD34の発現分布を比較すると,内皮細胞の観察においては,CD31陽性細胞と,CD34陽性細胞は,いずれもその分布と発現様式が類似しており,両者のLVSEM観察における血管内皮マーカーとしての有用性が示された。

IV  考察

腎生検病理診断におけるLVSEM解析の展望と,CD31およびCD34の有用性

LVSEM観察の利点として,前述したようにFFPE標本での観察が可能で,試料作製が〈簡便〉であることなどが挙げられる。また,TEM像では二次元的な観察であるため,立体的な構造を把握することが難しく,細胞や細胞外基質の構築を把握するのに熟練を要するが,LVSEM像は三次元的な観察が可能で,かつ,光顕像と比較できるため,構造異型や,細胞の位置関係を把握することが容易である。TSC-PAM染色のLVSEM解析は,冒頭で紹介した以外にも,Alport症候群のマウスモデル解析6),抗体関連型拒絶のGBM異常7),ネフロン瘻の尿細管基底膜異常8)の解析にも応用されている。

しかし,LVSEM解析に適した染色法や観察法は発展途上であり,臨床への応用には更なる検討が必要である。今回の検討で用いた血管内皮系の免疫染色(CD31およびCD34)のDAB-AuClは,TSC-PAM染色,および白金ブルー染色と同様に,FFPE標本を用いた免疫染色から作製が可能であり,従来のTEMによる解析に必要な複雑な試料作製を必要としない。さらに,今まで観察することが困難であった血管内皮細胞を詳細に描出することが可能であり,糸球体の構造や,血管内皮細胞を容易に把握することができる。よって,TSC-PAM,白金ブルー染色に加えてLVSEM観察法の一つとして応用が可能であると考えられる。

また,その他の病変の解析に対しても活用できることが示唆され,例えば,血管炎や抗体関連型拒絶反応などの炎症性病態に対しては,CD31またはCD34で毛細管血管を描出し,炎症細胞による内皮細胞への障害を評価することが可能と予想される。また,今回の検討では行っていないが,Podopranin:D2-40などの免疫染色にも応用できることが示唆され,微小血管内あるいはリンパ管内への腫瘍浸潤の評価などにも応用できると考えられる。また,腎生検病理診断でTEM観察が求められる理由の一つに,糸球体の免疫複合体沈着の確認があるが,TEM検体に糸球体が含まれていない場合もしばしばである。そのような場合に,免疫グロブリンや補体の沈着の確認を,LVSEMを用いてFFPE標本から解析することで,診断を補助できる可能性があり,今後も検討していく価値があると考えられた。

V  結語

腎生検病理診断におけるLVSEMの解析は,発展途上であり,臨床応用には更なる検討が必要である。

今回提示したCD31およびCD34による免疫染色後の金属増感(DAB-AuCl)は,LVSEM観察において,血管内皮細胞を描出することができた。この解析法は,炎症性疾患や腫瘍の浸潤の評価などに応用が期待でき,さらに種々の免疫染色への応用が可能で,LVSEM解析法の〈簡便さ〉に〈標的分子の可視化〉の要素を加えることの意義を技術的に支持すると考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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