Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Performance of SARS-CoV-2 amplification assay with Abbott ID NOW
Tomoki OKADAKoji TSUCHIYAHiroyuki TAKEMURAMitsuru WAKITATomohiko AIShigeki MISAWAYoko TABETakashi MIIDA
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2023 Volume 72 Issue 2 Pages 243-247

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Abstract

等温核酸増幅法であるNicking Enzyme Amplification Reaction(NEAR)法を測定原理とする迅速SARS-CoV-2検査「ID NOW新型コロナウイルス2019」(ID NOW)の性能と臨床的有用性を検証した。2021年2月1日~8月25日の間に順天堂大学医学部附属順天堂医院(東京)を受診した救急外来患者および緊急手術患者673例を対象とした。同一症例から同日に採取した鼻咽頭ぬぐい液検体を用いてID NOWとreal time reverse transcription-PCR(PCR)法による核酸増幅検査を行い,PCR法を対照法として評価した。PCR法では陽性36,陰性637,ID NOWでは陽性35,陰性638であった。PCR法による陽性36例中,ID NOW陽性は31例であり,PCR法による陰性637例中,ID NOW陰性は633例で,完全一致率は98.7%であった。PCR法を対照法としたID NOWの陽性一致率は86.1%,特異度は99.4%であった。偽陽性を4例認められたが原因は特定できなかった。陽性結果に対する繰り返し検査,整備された検査環境,および臨床検査部門によって許可されたものによる検査によって偽陽性を最小化することができる。ID NOWは,これらの対策を遵守して検査することでポイント・オブ・ケア・テストとして最適な性能を提供できる。

Translated Abstract

We examined the accuracy and clinical usefulness of a rapid SARS-CoV-2 test, “ID NOW COVID-19” (ID NOW), which uses the nicking enzyme amplification reaction (NEAR), an isothermal nucleic acid amplification method. A total of 673 patients who visited the emergency room at Juntendo University Hospital in Tokyo between February 1 and August 25, 2021 were enrolled. Both ID NOW and real-time reverse transcription PCR (PCR method) were performed using nasopharyngeal swab samples. The PCR method showed positive results in 36 and negative results in 637 patients, whereas ID NOW showed positive results in 35 and negative results in 638 patients. Of the 36 SARS-CoV-2-positive patients determined by the PCR method, 31 were also determined to be positive by ID NOW. Of the 637 SARS-CoV-2-negative patients determined by the PCR method, 633 were also determined to be negative by ID NOW, yielding an agreement rate of 98.7%. By using the PCR method as a reference, we found that the sensitivity of ID NOW was 86.1% and the specificity was 99.4%. The cause of the four false positives could not be identified. False positives can be minimized by repeated testing of patients with positive results, having a controlled environment, and having the test performed by authorized laboratory personnel. ID NOW provides optimal performance as a point-of-care test when the tests adhere to those measures.

I  序

2019年12月,中国湖南省武漢で最初に確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされるヒト呼吸器疾患である1)。SARS-CoV-2を検出するための標準的遺伝子検査法であるreal-time reverse transcription-PCR法(以下,PCR法)は,結果が得られるまでに2~4時間を必要とし,迅速な検査が求められる診療場面では対応困難である。

迅速SARS-CoV-2検査「ID NOW新型コロナウイルス2019」(ID NOW,Abbott社)は,ポイント・オブ・ケア・テスト システムとして開発された。

ID NOWは,ウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RNA dependent RNA polymerase; RdRp)遺伝子を標的として,等温核酸増幅法であるNicking Enzyme Amplification Reaction(NEAR)法を原理としている。RNAをcDNAに逆転写し,DNA切断酵素がDNAに切れ目を入れ,DNAポリメラーゼが相補鎖を伸長し,ORF1b遺伝子にあるRdRp領域を増幅させる。NEAR法により高速核酸増幅を行い,13分以内に結果が得られる2),3)

順天堂大学医学部附属順天堂医院では,2020年3月2日からPCR法によるSARS-CoV-2の院内検査を開始した4)。以後,検査装置の増設や前処理が簡略なDirect PCR法を導入して院内検査数を増やし,外部委託検査も並行運用しながら診療のニーズに応えてきた。2021年2月からは救急外来患者および緊急手術患者の対応を目的にID NOWを導入した。

本研究は,ID NOWの精度と臨床的有用性を検証する目的で2021年2月~8月の間に順天堂大学医学部附属順天堂医院を受診した救急外来患者および緊急手術患者673例を対象とし,ID NOWによる結果を精度検証として同時に実施したPCR法による結果と比較,評価した(承認番号:20-036)。

II  材料および方法

対象は,2021年2月1日~8月25日の間に順天堂大学医学部附属順天堂医院を受診した救急外来患者および緊急手術患者673症例である。各症例から,同日内に鼻咽頭ぬぐい液をスワブ(Puritan PurFlock Ultra Sterile Flocked Collection Devices: Puritan Medical Products Company LLC, USA)2本を採取し,それぞれID NOWとPCR法による核酸増幅検査用とし,滅菌プラスチック製試験管に入れて検査室へ速やかに輸送した。ID NOWによる検査は,鼻咽頭ぬぐい液を採取したスワブを直接用い,メーカーの最新添付文書と取扱説明書に従って検査した。PCR検査は,残り1本のスワブをpH 7.4のリン酸緩衝液(PBS)0.5 mLに懸濁し,懸濁液の一部を用いた。PCR検査は,2019新型コロナウイルス検出試薬キット(島津製作所)とAmpdirectTM 2019-nCoV検出キット(島津製作所)を用い,それぞれLightCycler 480 II(日本ジェネティクス)とAutoAmp(島津製作所)にて検査した。LightCycler 480 II(日本ジェネティクス)にて検査した症例は99例,AutoAmp(島津製作所)にて検査した症例は574例であった。

なお,検討期間中にID NOWによる偽陽性症例を経験したことから,ID NOW陽性の場合は,鼻咽頭ぬぐい液を再採取し,LightMixR Modular SARS-CoV E gene(Roche社)を用い,LightCycler 480 II(日本ジェネティクス)による確認PCR検査を行った。

結果の評価はPCR法を対照法とし,ID NOWの陽性一致率と陰性一致率を算出した。統計解析には,EZR Ver. 1.54(http://www.jichi.ac.jp/saitama-sct/SaitamaHP.files/statmed.html)を用い,ID NOWとPCR検査の一致度(κ係数)も算出した。

III  結果

673症例のID NOWとPCR法による結果をTable 1に示した。PCR法では陽性36,陰性637,ID NOWでは陽性35,陰性638であった。PCR法陽性36症例中,ID NOW陽性は31症例であり,PCR法陰性637症例中,ID NOW陰性は633症例であった。PCR法を対照法としたID NOWの陽性一致率は86.1%,陰性一致率は99.4%,全体一致率は98.7%であり,κ係数は0.87であった。

Table 1  ID NOWとPCR法による結果の比較(n = 673)
PCR法
陽性 陰性 合計
ID NOW 陽性 31 4 35
陰性 5 633 638
合計 36 637 673

PCR検査陽性36症例におけるCt値をID NOW陽性群(31症例)と陰性群(5症例)とで比較しFigure 1に示した。ID NOW陽性群のPCR法によるCt値は中央値24.7(分布幅15.0~39.0),ID NOW陰性群のCt値は中央値34.0(分布幅33.0~37.4)であった。

Figure 1 PCR法陽性36症例におけるCt値のID NOW陽性群と陰性群との比較

各バイオリンプロットの幅は密度分布を示す。

PCR検査陽性,ID NOW陽性31症例は,症状出現日から7日目以内に検査が行われていた。

PCR検査陽性でID NOW陰性となった5症例のPCR法によるCt値と臨床背景をTable 2に示した。5症例は当院受診日にID NOWによる検査が行われた。全5症例でCOVID-19を疑う臨床症状が認められ,症例3を除く4症例は以前COVID-19の既往が認められたことからID NOW偽陰性と考えられた。

Table 2  PCR法陽性,ID NOW陰性5症例のPCR法によるCt値と臨床背景
症例No. PCR法Ct値 症状(発症から当院受診までの日数) COVID-19の既往
(時期)
1 33.0 発熱,咳(3日) あり(2週間前)
2 33.9 腹痛(1日) あり(1か月前)
3 34.0 発熱,咳(0日) なし
4 36.0 腹痛,嘔吐(0日) あり(2か月前)
5 37.4 発熱(7日) あり(3か月前)

一方,PCR法陰性637症例のうち4症例がID NOW陽性となった。これら4症例について,当日及び翌日に確認PCR法による再検査が実施されていた。再検査の結果は,4症例中1症例が陽性,3症例は陰性であった。再検査陽性の1症例は咳および肺炎像が認められCOVID-19と診断されていた。再検査陰性の3症例はCOVID-19ではないと診断され,ID NOW偽陽性と解釈された。

IV  考察

1. PCR法との比較とCt値との関係

当院臨床検査部では,病院からの救急外来および緊急手術に対する迅速検査の要請に応えるためID NOWを導入した。導入後から院内PCR検査と並行して行って精度を検証した。7か月間で合計673症例の検査を行い,PCR法との陽性一致率は86.1%,PCR法のCt値が33.0未満の症例に絞った場合の陽性一致率は100%であった。他の報告によるID NOWのPCR法との陽性一致率は70.0~100%であり,我々の成績もこの範囲内であった5)~13)

Abbott社はID NOWの使用に際し,ウイルス輸送培地は使用せず,指定の滅菌スワブを用いて採取後は室温(15~30℃)で1時間以内に検査することを推奨している3)。Stokesら9)もこの推奨事項を遵守することを強調しており,当院でも従っている。

2. PCR法との乖離例の考察

1) PCR+/ID NOW−

本研究では,PCR法陽性・ID NOW陰性が5例(0.74%)認められ,偽陰性と解釈された。全5例はPCR法によるCt値が33以上の高値であり,検体中のウイルス遺伝子量が少なかったことが原因と考えられた。Mitchellら14),Farfourら15)による報告ではCt値35以上で偽陰性が認められており,本研究でも同様の傾向であった。偽陰性5症例中4症例は有症状であり,当院受診の2週間~3か月前にSARS-CoV-2に感染していたことから,急性期を過ぎウイルス量が減少した時期であったと考えられた。NguyenVanら8)も395検体を検査し3例(0.76%)がID NOW陰性であり,ウイルス量が検出感度より低いかSARS-CoV-2感染の既往が偽陰性の原因であったことを報告している。ID NOWによるSARS-CoV-2の最低検出感度は,Abbott社の添付文書3)では125コピー/mL,Zhenらによる検討7)では20,000コピー/mLと報告されている。当院で行っているPCR法は,国立感染症研究所による性能評価試験16)あるいは国立医薬品食品衛生研究所による一斉試験17)では,2019新型コロナウイルス検出試薬キット(島津製作所)またはAmpdirectTM 2019-nCoV検出キット(島津製作所)の検出感度は5あるいは1コピー/反応であり,ID NOWの検出感度は劣る。また,ウイルス量と感染性には有意な相関関係があり,発症から8日以内は上気道のウイルス量が多く感染性が高い18),19)ことが報告されている。一方,セロコンバージョン後や感染性が消失した後も1か月以上PCR陽性が持続する例が報告されている20)~22)

本研究ではPCR法を同時に行っていたことでID NOWの偽陰性と確認することができ,検出感度の違いが偽陰性の主たる原因と考察することができた。ID NOWによる検査の所要時間は13分以内と極めて短時間である長所を有するが,ウイルス核酸の検出には限界がある。有病率が低い集団や市中の状況下において,偽陰性による感染リスクは低い可能性がある。しかし,感染から発症までのウイルス排出量が非常に少ない時期に確実に検出できず,入院または手術が行われた場合の診療への影響は大きい。ID NOWによる検査の限界を診療側へ説明しておく必要があり,検査回数を増やすことによって補う23)ことも考慮する必要がある。

2) PCR−/ID NOW+

本研究では,PCR法陰性・ID NOW陽性が3例(0.45%)認められたが,原因を特定することができなかった。当院ではID NOW陽性の場合は再度鼻咽頭スワブを採取し,PCR法による確認検査を行うことで偽陽性の回避を図っている。Tauhら24)は1,100検体中3検体(0.27%)認められ,検査を繰り返すことで発生を最小限に抑えることができたことを報告している。NguyenVanら8)は,不一致の原因は2番目のスワブのウイルス量の欠陥のために,PCR法によって検出されなかったと仮定し,ほかの仮説,特に交差汚染の問題が偽陽性を説明する可能性があると報告している。ID NOW偽陽性の原因は,すべて明らかにされていないが機器および検査環境の汚染が考えられる。Mitchellら14)は,機器と検査環境を20%ブリーチ,次いで70%エタノールで頻回に清拭することで交差汚染が起こらなかったことを報告している。当院でも70%エタノール含有除菌クロスを用いて汚染除去を行っており,陽性検体や検査環境の汚染に由来する偽陽性事例は観察されていない。陽性検体による交差汚染が疑われた事例がみられたが,同日内に他の陽性検体が認められなかったことから偽陽性を否定することができた。また,Smithgallら6)は,管理されていない検査環境や検査の訓練を受けていない者による実施は,汚染や偽陽性のリスクが高まることを報告している。当院では,救急部門で医師がID NOWを使用していることから,臨床検査部が機器の操作手順を示す動画と確認テストを作成しe-learningとして提供している。医師はe-learningを視聴し,テスト終了後に検査を行うよう取り決めていることによって検査の精度を確保している。

V  結語

ID NOWによるSARS-CoV-2の検出はPCR法との陽性一致率が86%と良好な性能を示し,Ct値が33未満のウイルス量が多い症例ではPCR法と100%一致していた。偽陰性および偽陽性の回避には,臨床症状と合わせた結果の解釈,繰り返し検査,および交差汚染対策のルーチン化が必要である。検査精度の確保には臨床検査部門が関与し,検査者に対してトレーニングプログラムを提供し,スキルを評価することが極めて重要である。以上が確実に行われることで,ID NOWはポイント・オブ・ケア・テストとしての威力を発揮することが可能である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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