2023 Volume 72 Issue 2 Pages 236-242
血小板凝集は血算値に影響するため重要な検査所見である。今回,著明な大型血小板凝集像を認めたにも拘わらず,機器では血小板凝集フラグ「PLT-clumps?」が不検出であった2例を経験した。そこで血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離現象が発生するかをヘパリン血で検証した。結果,採血20分後に本例と同様の乖離現象を認めた。採血10分後と採血20分後の比較では1血小板凝集塊中の平均血小板数が有意に増加していた。したがって血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離原因は血小板凝集塊中の血小板数が原因であると推察した。そして血小板凝集塊中の血小板数が増加し,血小板凝集塊径が増大した結果,機器では血小板凝集塊を血小板と認識せず,「PLT-clumps?」不検出になったことが示唆される。したがって大型血小板凝集塊の場合には血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離現象が発生する可能性がある。
Platelet aggregation is an important laboratory finding because it affects blood counts. In this study, we evaluated two cases in which the platelet aggregation flag “PLT-clumps?”was undetectable on the device, despite the presence of markedly large platelet aggregates. In the same way as in the present case, we verified using heparin-treated blood the discrepancy between platelet aggregation images and “PLT-clumps?”. The results showed the same discrepancy of results as in the present case after 20 min of blood collection. A comparison between the results obtained 10 min after blood collection and those obtained 20 min after showed a predominant increase in the number of platelets in platelet aggregates in the latter. Therefore, we inferred that the cause of the discrepancy was the number of platelets in the platelet aggregates. It is then suggested that when the platelet aggregate diameter increased owing to an increase in the number of platelets in the platelet aggregate, the device did not recognize the platelet aggregates as platelets, and “PLT-clumps?” were undetectable. Therefore, the discrepancy between platelet aggregation images and “PLT-clumps?” may occur in the case of large platelet aggregates.
血小板凝集やフィブリン析出は血算の数値に影響を及ぼす。したがって血小板凝集やフィブリン析出は見逃してはいけない重要な検査所見である。近年,自動血球分析装置の発展はめざましく,中でも血小板数測定および血小板凝集検知の精度向上はめざましい1)。当院で使用しているXN-3000(シスメックス(株),神戸)では血小板数測定は電気抵抗法により血小板数を算出するPLT-Iチャンネル(シースフローDC検出法)と血小板を特異的に染色し,半導体レーザーを用いたフローサイトメトリー法で,前方散乱光,側方蛍光強度と側方散乱高強度から血小板数を算出するPLT-Fチャンネルがある(蛍光フローサイトメトリー法)。PLT-Fチャンネルは血小板数測定精度の向上だけでなく,血小板凝集検知の精度向上にも寄与している2)。現にXN-3000では血小板凝集だけでなく,フィブリンも検知し,検査精度の向上に寄与している3)。しかし,症例A・Bでは血液像で著明な大型血小板凝集塊を多数認めるにも拘わらず,XN-3000では血小板凝集フラグ「PLT-clumps?」が不検出であった4),5)。そこで経時的に血小板凝集を起こすヘパリン血で症例A・Bと同様に血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離現象が発生するかを検討した。今回,検討結果及び若干の考察を加えて報告する。
症例Aはvon Willebland病2B(VWD2B)で当院血液内科に通院中の70代男性4)。外来経過観察中に度々消化管出血を認め,入退院を繰り返していた。
血液像では血小板凝集像を継続して認めた(Figure 1A)。しかし,経過中XN-3000では「PLT-clumps?」は不検出であった。
症例A・B共に経過中,大型血小板凝集像を認めたが,「PLT-clumps?」は1度も検出されなかった。
症例Bは以前に当院血液内科でDLBCL加療後,寛解し血液内科終診となっていた50代男性5)。近医採血で血小板減少を認め,当院血液内科に血小板減少精査目的で紹介受診となった。約6ヶ月間,血小板減少精査を行ったが当院では確定診断に至らず,他院へ紹介となった。
診療期間中の採血で継続して血小板減少,及び血小板凝集像を認めたが(Figure 1B),症例Aと同様に経過中XN-3000では「PLT-clumps?」が不検出であった。
ヘパリンはアンチトロンビン(AT)と複合体を形成し,抗トロンビン作用を発揮するため2次止血を阻害する6)。さらに,ヘパリン管採血ではin vitroで血小板凝集が発生することが知られている。ヘパリン管採血によるin vitroでの血小板凝集については数例報告がある7)~9)。それらの報告では物理的刺激による血小板活性8)やRGD配列を持つ粘着蛋白がGP IIb/IIIa complexに結合することによりクラスタリングが誘導されることの関連を示唆している7)が,いまだに発生機序は明らかではない。ヘパリン管採血ではin vitroで血小板が凝集する性質を踏まえ,ヘパリン管採血で症例A・B同様に血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離現象が発生するかを検討した。
2. 検討A方法は健常者からヘパリンリチウム管で採血を行い,XN-3000で血算測定(血小板数は血小板凝集を優位に検出するPLT-Fチャンネル2)),血液塗抹標本を作成しそれぞれの経時的変化(採血直後,採血10分後,採血20分後)を観察した。検討項目はPLT,「PLT-clumps?」表示の有無,血小板凝集像の有無(PLT-clumps),血小板凝集塊中の平均血小板数(PLT/PLT-clump)(Figure 2)の4項目を観察した。
標本辺縁上段の血小板凝集塊20個の血小板数をカウントし,平均血小板数/血小板凝集塊(PLT/PLT-clump)を算出。血小板凝集塊はGroupe Francophone de’hematologie Cellulaire(GFHC)の定義を採用し,血小板が5個以上結合している凝集塊をカウントした1)。
健常者20名(当院職員)にヘパリンリチウム管で採血を行い(陰性対照としてEDTA-2Kも同時採血),採血30分後にXN-3000で血算測定(血小板数はPLT-Fチャンネル),血液塗抹標本を作成し以下の4点を観察した。PLT・「PLT-clumps?」表示の有無,血小板凝集像の有無(PLT-clumps),検討Aと同様の方法で血小板凝集塊中の平均血小板数(PLT/PLT-clump)の4点を確認し,採血30分後に血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離現象が発生するかを検討した(Table 2)。
検討Aの結果をTable 1に示す。PLTは採血直後に255 × 109/Lが採血20分後には22 × 109/Lまで減少し経時的減少を認めた。「PLT-clumps?」表示の有無及び血小板凝集像は採血直後には両者とも認めなかったが,採血10分後には両者とも認めた。採血20分後には症例A・Bと同様の血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離を認めた。血小板凝集塊中の平均血小板数は採血10分後で19.9個/血小板凝集塊,採血20分後で43.9個/血小板凝集塊であり,平均血小板数/血小板凝集塊(PLT/PLT-clump)の経時的増加を認めた。
ヘパリン血 | EDTA血 | ||||
---|---|---|---|---|---|
採血直後 | 10分後 | 20分後 | 症例A | 症例B | |
PLT(×109/L) | 255 | 33 | 22 | 38 | 41 |
IPF(%) | 2.5 | 25.5 | 20.1 | 44.5 | 20.0 |
「PLT-clumps?」 | × | 〇 | × | × | × |
PLT-clumps | 無 | 有 | 有 | 有 | 有 |
PLT/PLT-clump | 19.9 | 43.9 | 38.1 | 32.6 |
「PLT-clumps?」:XN-3000血小板凝集フラグ。×:不検出,〇:検出
IPF(%):幼若血小板比率(Immature Platelet Fraction)
PLT-clumps:血小板凝集像
PLT/PLT-clump:平均血小板数/血小板凝集塊
血小板凝集像と「PLT-clumps?」が乖離した症例の平均PLT/PLT-clumpは38.2個で全て大型の血小板凝集塊であった。
検討Bの結果をTable 2に示す。EDTA血と比較しヘパリン血全例で血小板減少を認め,血小板凝集像を認めたのは19例であった。血小板凝集像を認めた19例中に血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離現象を認めたのは7例であった。「PLT-clumps?」の乖離現象を認めた7例の平均血小板数/血小板凝集塊(PLT/PLT-clump)の平均はPLT 35.1個/血小板凝集塊であり,乖離を認めなかった12例(mean:PLT 11.6個/血小板凝集塊)より平均血小板数/血小板凝集塊(PLT/PLT-clump)が増加していた。さらにt検定の結果,平均血小板数/血小板凝集塊と「PLT-clumps?」不検出有無で有意差に関連性を認めた(t(18)= 5.48, p < 0.001)。
No. | PLT-EDTA (×109/L) |
PLT-ヘパリン (×109/L) |
IPF-EDTA (%) |
IPF-ヘパリン (%) |
PLT/PLT-clump | clumps-EDTA | clumps- ヘパリン |
「PLT-clumps?」 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 233 | 28 | 4.1 | 20.3 | 32.8 | × | 〇 | × |
2 | 193 | 89 | 3.9 | 15.9 | 20.2 | × | 〇 | × |
3 | 246 | 24 | 4.6 | 16.5 | 34.4 | × | 〇 | × |
4 | 232 | 133 | 3.3 | 10.7 | 12.3 | × | 〇 | 〇 |
5 | 208 | 73 | 5.7 | 13.7 | 11.5 | × | 〇 | 〇 |
6 | 285 | 56 | 1.3 | 15.1 | 13.5 | × | 〇 | 〇 |
7 | 291 | 23 | 1.8 | 13.4 | 30.7 | × | 〇 | × |
8 | 313 | 33 | 4.4 | 16.6 | 17.2 | × | 〇 | 〇 |
9 | 272 | 26 | 2.1 | 18.5 | 70.6 | × | 〇 | × |
10 | 368 | 34 | 1.7 | 15.5 | 14.6 | × | 〇 | 〇 |
11 | 271 | 92 | 2.5 | 15.4 | 11.8 | × | 〇 | 〇 |
12 | 193 | 30 | 11.6 | 29.7 | 8.9 | × | 〇 | 〇 |
13 | 330 | 17 | 2.7 | 20.6 | 32.9 | × | 〇 | × |
14 | 282 | 44 | 2.1 | 17.7 | 9.4 | × | 〇 | 〇 |
15 | 203 | 23 | 1.6 | 16.3 | 6.5 | × | 〇 | 〇 |
16 | 232 | 44 | 4.3 | 21.4 | 13.1 | × | 〇 | 〇 |
18 | 233 | 47 | 1.4 | 15.3 | 9.0 | × | 〇 | 〇 |
19 | 283 | 43 | 1.9 | 18.4 | 11.0 | × | 〇 | 〇 |
20 | 210 | 10 | 1.0 | 17.6 | 24.4 | × | 〇 | × |
「PLT-clumps?」:血小板凝集フラグの表示
PLT-clumps:血小板凝集像の有無
PLT/PLT-clump:平均血小板数/血小板凝集塊
血小板凝集像と「PLT-clumps?」の解離を認めた7例(mean:PLT 35.1個/血小板凝集塊(20.2–70.6))。解離を認めなかった12例(mean:PLT 11.6個/血小板凝集塊(6.5–17.2))。1例は血小板凝集を認めず(No. 17)。
血小板凝集は血算値に影響するため見逃してはいけない重要な所見である。しかし,症例A・Bでは継続して大型血小板凝集を血液像で多数認めたにも拘わらず,XN-3000の血小板凝集フラグ「PLT-clumps?」が経過中1度も検出されなかった。症例A・Bと同様に血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離現象が発生するかをヘパリン管採血で検討した(検討A)。結果,採血20分後で症例A・Bと同様の乖離現象を認めた。この乖離現象が症例A・Bと検討A(採血20分後)の3例のみで発生する特異的な現象かを検証するために健常者20名にヘパリン管採血を実施し(陰性対照としてEDTA-2Kも同時採血),採血30分後に血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離現象が発生するかを検討した(Table 2)。結果20例中7例で血小板凝集像と「PLT-clumps?」乖離現象を認め,本例と検討1例の特異的な現象ではないことを確認した。
検討Bで血小板凝集像と「PLT-clumps?」乖離現象を認めた7例と認めなかった13例ではPLT数や幼若血小板比率(immature platelet fraction; IPF)に差は認めなかったが,平均血小板数/血小板凝集塊で大きく差を認めた。乖離現象を認めた7例では平均PLT 35.1個/血小板凝集塊,乖離現象を認めなかった13例(1例(No. 17)は血小板凝集像を認めず平均値算出から除外)では平均PLT 11.6個/血小板凝集塊であった。且つt検定の結果,平均血小板数/血小板凝集塊と「PLT-clumps?」不検出で有意に関連性を認めた(t(18)= 5.48, p < 0.001)。さらに検討A(Table 1)では乖離現象を認めなかった採血10分後の平均血小板数/血小板凝集塊は平均PLT 19.9個/血小板凝集塊であったが,乖離現象を認めた採血20分後は平均PLT 43.9個/血小板凝集塊であり平均血小板数/血小板凝集塊が増加していた。以上から血小板凝集像と「PLT-clumps?」乖離現象の原因の一端は血小板凝集塊中の血小板数が関連していることが示唆される。
一方,XN-3000では「PLT-clumps?」の指標であるPLT-F(FSC-FSCW)が右上方(WBC領域)に経時的に推移しPLT領域から外れていた(Figure 3)。これは血小板凝集塊中の血小板数が経時的増加するにつれて血小板凝集塊径が増大し,血小板凝集塊が大型化したためPLT領域から外れ,XN-3000は血小板凝集塊をPLTとして認識しなかったと考える。症例A・BではPLT-F(FSC-FSCW)のWBC領域にプロットされている集団がある(Figure 4)。これは症例A・Bの血小板凝集塊が巨大なためにWBC領域から上方のグラフ範囲外(右上方)にかけてプロットされていることが考えられる。したがって,XN-3000は血小板凝集塊径が一定以上になるとPLT領域外(WBC領域から上方のグラフ範囲外)にプロットされることが示唆される。これらの結果から,XN-3000では一定以上の大きさの大型血小板凝集塊をPLTと認識していない可能性がある。本例と乖離現象を認めた検討例(検討A,B)では血小板凝集塊が大型なために血小板凝集像と「PLT-clumps?」不検出の乖離現象が発生したことが推察される。
上段:PLT(FSC-FSCW)縦軸:FSC(大きさ)横軸:FSCW(幅)
下段:PLT(FSC-SFL)縦軸:FSC(大きさ)横軸:SFL(蛍光強度)
上段・下段共にクロット集団が右上段(濃青部分:WBC領域)へ経時的に推移し,機器では血小板の大型化を認めた。これは経時的に血小板凝集塊が大型化したことが示唆される。
上段:PLT(FSC-FSCW)縦軸:FSC(大きさ)横軸:FSCW(幅)
下段:PLT(FSC-SFL)縦軸:FSC(大きさ)横軸:SFL(蛍光強度)
症例A・Bの血小板凝集塊集団は上段・下段ともにグラフ外(右上方)に位置していると推察される。
検討の結果,血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離現象は血小板凝集塊径が関連していることが示唆された。今回の検討で認めた血小板凝集塊径の経時的増大による血小板凝集像と「PLT-clumps?」乖離現象は日常検査で遭遇するEDTA依存性偽性血小板減少症(EDTA-dependent pseudothrombocytopenia; EDP)でも起こりうる。EDPは患者血漿中の血小板膜蛋白GP IIb/IIIaに対する自己抗体によって血小板凝集を認め,経時的に血小板減少と血小板凝集を引き起こす10)。したがって長時間経過したEDPやGP IIb/IIIaに対する自己抗体力価が強いEDPでは血小板凝集塊径の増大が考えられる。このような場合には本例同様に血小板凝集像と「PLT-clumps?」乖離現象が発生することが予測されるため,EDPでは特に血小板凝集を見逃す恐れがある。検討Bで血小板凝集を認めた19例(IPF(mean): 17.3%)ではEDTA血(IPF(mean): 3.3%)に比して優位にIPFが高値であった。これは蛍光強度と血小板径から算出(PLT(FSC-SFL))するIPFが血小板凝集の場合には偽高値を示すため11)と考えられる。したがって,血小板減少があり,IPF高値例では「PLT-clumps?」不検出であっても血小板凝集を考慮し,血液像で血小板凝集の有無を確認する必要がある。しかし,このように血小板凝集の見逃し防止にも有用と考えられるIPFはPLT-Fチャンネル限定の測定項目である。したがって血小板減少時にはPLT-FチャンネルでIPFを測定し,IPFが高値の場合には血小板凝集像の有無を確認することで血小板凝集の見逃し防止の一助になると考える。
本検討結果では血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離現象は血小板凝集塊径の増大が原因の一端であることが示唆された。機器の発展はめざましく,血小板凝集検知の精度も向上してはいるが,未だに技師が血小板凝集像の目視確認することの重要性は変わらない。特に血小板減少時は血小板凝集像の有無を目視確認することが必要である。
本論文内の検討は大阪鉄道病院倫理委員会の承認を得て実施した(2020 No. 17)。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。