Japanese Journal of Medical Technology
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Effect of storage on the detection and identification of crystals in synovial fluid using polarized light
Yuta KATAYAMAShirou OGASAWARAKeiichi YOSHIDATomokazu KUCHIBIRO
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2023 Volume 72 Issue 3 Pages 413-418

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Abstract

結晶誘発性関節炎の代表である尿酸ナトリウム(MSU)結晶による痛風,ピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶による偽痛風は,関節液中結晶鏡検で確定できる。これを目的とした関節液は数日の冷蔵保存が可能との報告はあるが,我々が調査した限り本邦において結晶の経時的変化を述べた文献はなかった。そこで,関節液保存による結晶の経時的変化を検討した。2020年5月~2022年10月の期間に当院検査室に提出された関節液のうち,ヘパリン加関節液76件と抗凝固剤なし関節液55件を使用した。鋭敏色偏光装置を用いて鏡検を行い,独自の目視定性基準に沿って保存影響を検討した。検体を4℃で冷蔵保存し,24時間・48時間・72時間・96時間・1週間後に結晶の鏡検を行った。保存前後の目視定性値の一致率は,ヘパリン加検体では,CPPD結晶:96.0%(168/175),MSU結晶:100%(40/40),結晶なし:100%(165/165)であった。一方,抗凝固剤なし検体では,CPPD結晶:94.3%(99/105),MSU結晶:100%(35/35),結晶なし:100%(135/135)であった。両検体とも抗凝固剤の有無に関わらず一致率は良好であった。CPPD結晶の一部が目視定性値にばらつきを認めたが,結晶検出は十分可能であった。これらの結果から,結晶検出・同定を目的とした関節液の冷蔵保存は一週間可能であると思われる。

Translated Abstract

Gout caused by monosodium urate (MSU) crystals and pseudogout caused by calcium pyrophosphate (CPPD) crystals can be confirmed by the microscopic examination of crystals in synovial fluid. There is a report outside of Japan showing that “synovial fluid for observing crystals can be refrigerated for several days,” but as far as we investigated, there are no reports on this in Japan. We investigated the change of crystals over time by preserving synovial fluid. Of the synovial fluid specimens submitted to our inspection room from May 2020 to October 2022, 76 specimens with heparin added and 55 specimens with no anticoagulant, which could be examined, were used. The specimens were observed under a polarizing microscope, and the effects of storage were examined using a proprietary visual quantitative standard. The specimens were kept refrigerated at 4°C, and the change in crystals over time was observed after 24 hours, 48 hours, 72 hours, 96 hours, and 1 week. The concordance rates between visual quantification values before and after refrigerated storage were as follows: heparin addition: CPPD crystals, 96.0% (168/175); MSU crystals, 100% (40/40); no crystals, 100% (165/165); with no anticoagulant: CPPD crystals, 94.3% (99/105); MSU crystals, 100% (35/35); no crystals, 100% (135/135). Both types of specimen showed a good concordance rate before and after storage, and there was no particular difference due to the anticoagulant. Some CPPD crystals showed changes in visual quantitation during storage, but the crystals were sufficiently detectable. From the above, we believe that for crystal observation, refrigerated storage of synovial fluid for about one week is possible.

I  はじめに

結晶誘発性関節炎は関節内や関節周辺に沈着した結晶によって引き起こされる急性関節炎の総称であり,尿酸ナトリウム(monosodium urate; MSU)結晶による痛風,ピロリン酸カルシウム(calcium pyrophosphate; CPPD)結晶による偽痛風が代表的である。これらの結晶は,鋭敏色偏光顕微鏡装置を使用して屈折性を確認することで容易に同定することができ,臨床に直接報告して確定できる疾患であることから非常に意義の高い検査であるといえる1)~3)

関節液中結晶の保存性に関して,Kerolusら4)は,CPPD結晶は3~8週間まで保存可能である。一方,MSU結晶は8週間まで保存可能であるが,時間経過で小さくなり,偏光が弱まり,数も減少すると報告している。また,Ga’lvezら5)は,結晶検出を目的とした関節液は数日以内の冷蔵保存が可能であったと報告している。しかし,我々が調査した限り本邦において結晶の経時的変化を述べた文献は見つからなかった。むしろ,時間経過で崩壊または析出するという認識もあり6),7),検体の保存が困難であるとされる場合も多いように思われる。日勤帯以外に関節液が提出された場合,検体を保存している施設もあるかと思われるが,その保存性に関して一貫した基準は存在していないと考える。そこで,関節液検体保存による結晶の経時的変化を観察し,検体の保存性についての検討を行ったので報告する。

II  対象および方法

1. 対象

2020年5月~2022年10月の期間に当院検査室に提出された関節液のうち,検討に使用可能な採取量があった,ヘパリン加関節液76件(膝67件,肩6件,手背1件,肘1件,股関節1件)と抗凝固剤なし関節液55件(膝51件,肩3件,股関節1件)を使用した。

当院では,結晶検出を目的とした関節液はヘパリン容器で提出され,細菌検査を目的とした関節液は抗凝固剤なし容器で提出される。検査オーダーの有無や検体採取量に違いがあるため,すべての患者について,ヘパリン加関節液と抗固剤なし関節液の両方を検討に使用できたわけではない。従って,両者の検討件数には差が生じている。

2. 使用機器

顕微鏡は光学顕微鏡BX-50,偏光装置として鋭敏色偏光顕微鏡装置U-GUN(OLYMPUS)を使用した。U-GUNは簡易偏光装置であり,ポラライザ(偏光板)とアナライザ(検出板)を光学顕微鏡に取り付けることで,偏光での観察が可能となる。

3. 検討方法

1) 結晶鏡検

ヒアルロニダーゼ処理をしていない関節液を混和し,15 μLをスライドガラスに滴下し,カバーガラス(18 mm × 18 mm)をかけたものを標本とした。そして,鋭敏色偏光顕微鏡装置を装着した光学顕微鏡で鏡検(×400)を行った。

関節液中結晶はアナライザの挿入方向(Z'軸)に対する結晶の長軸方向と偏光の色調で鑑別することができる(Figure 1)。結晶はそれぞれの複屈折性を有しており,Z'軸と結晶の長軸が平行で,結晶の色調が青色であればCPPD結晶,黄色であればMSU結晶と鑑別できる。一方,Z'軸に対して結晶の長軸が垂直で,結晶の色調が黄色であればCPPD結晶,青色であればMSU結晶と鑑別できる。また,形態的には四角形状・菱形状の結晶がCPPD結晶,針状の結晶がMSU結晶である場合が多い。

Figure 1 Identification of CPPD and MSU crystals by polarizing light microscope

Z' axis: Insertion direction of the analyzer

明らかに結晶を認める場合は最低10視野,結晶を認めないまたはごく少数の場合は全視野を鏡検した。鏡検から判定は研究者一人が行い,前述した結晶の形状と偏光が一致するものに限り有効な結晶と判定した。この時,白血球による結晶貪食の有無は区別していない。

今回の検討では,保存による影響をより比較しやすくするため,独自に設けた目視定性基準を用い,結晶が,全視野でなし(−),数視野に1個(±),各視野に1~2個(1+),各視野に複数(2+)と分類した(Table 1)。

Table 1  Proprietary visual quantitative standard
Number of crystals(×400) Visual quantitative value
0個/全視野 (−)
1個/数視野 (±)
1~2個/各視野 (1+)
3個以上/各視野 (2+)

※Does not distinguish between inside and outside cells

2) 検体の保存

関節液を臨床機材株式会社製のスクリューキャップ付き10 mL滅菌スピッツに移し,4℃で冷蔵保存した。24時間後,48時間後,72時間後,96時間後,1週間後にそれぞれ経時的に結晶の鏡検を行い目視定性値の変化を記録した。

III  結果

1. 保存前の鏡検結果

ヘパリン加関節液76件では,結晶(−):33件,CPPD結晶:35件((±):18件,(1+):15件,(2+):2件),MSU結晶:8件((±):1件,(1+):1件,(2+):6件)であった。一方,抗凝固剤なし関節液55件では,結晶(−):27件,CPPD結晶:21件((±):10件,(1+):10件,(2+):1件),MSU結晶:7件((±):1件,(1+):1件,(2+):5件)であった(Table 2)。

Table 2  Microscopy results before storage
Crystals Visual quantitative value Addition of heparin Without anticoagulant
No crystals (−) 33 27
CPPD (±) 18 10
(1+) 15 10
(2+) 2 1
MSU (±) 1 1
(1+) 1 1
(2+) 6 5
Total 76 55

2. 保存後の鏡検結果(抗凝固剤の有無)

保存前後の目視定性値の一致率について,ヘパリン加関節液をTable 3に,抗凝固剤なし関節液をTable 4に示す。ヘパリン加関節液と抗凝固剤なし関節液ともに,結晶(−)の検体とMSU結晶を認めた検体については,全保存期間において保存前後の目視定性値に一致を認めた。CPPD結晶を認めた検体については,保存前(2+)であった検体では変化を認めなかった。しかしながら,保存前(±)や(1+)であった検体の一部では,保存前後で目視定性値が一致しないものを認めた。

Table 3  Match rate of visual quantitative values before and after storage (addition of heparin) ※Percentage in ( )
Crystals Visual quantitative values Preservation period Total
24 hours 48 hours 72 hours 96 hours One week
No crystals (−) 33/33 (100) 33/33 (100) 33/33 (100) 33/33 (100) 33/33 (100) 165/165 (100)
CPPD (±) 18/18 (100) 18/18 (100) 18/18 (100) 18/18 (100) 18/18 (100) 90/90 (100)
(1+) 15/15 (100) 14/15 (93.3) 13/15 (86.6) 13/15 (86.6) 13/15 (86.6) 68/75 (90.7)
(2+) 2/2 (100) 2/2 (100) 2/2 (100) 2/2 (100) 2/2 (100) 10/10 (100)
MSU (±) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 5/5 (100)
(1+) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 5/5 (100)
(2+) 6/6 (100) 6/6 (100) 6/6 (100) 6/6 (100) 6/6 (100) 30/30 (100)

(±):1個/数視野 (1+):1~2個/数視野 (2+):3個以上/数視野

Table 4  Match rate of visual quantitative values before and after storage (without anticoagulant) ※Percentage in ( )
Crystals Visual quantitative values Preservation period Total
24 hours 48 hours 72 hours 96 hours One week
No crystals (−) 27/27 (100) 27/27 (100) 27/27 (100) 27/27 (100) 27/27 (100) 135/135 (100)
CPPD (±) 9/10 (90.0) 10/10 (100) 10/10 (100) 9/10 (90.0) 10/10 (100) 48/50 (96.0)
(1+) 9/10 (90.0) 10/10 (100) 9/10 (90.0) 9/10 (90.0) 9/10 (90.0) 46/50 (92.0)
(2+) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 5/5 (100)
MSU (±) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 5/5 (100)
(1+) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 1/1 (100) 5/5 (100)
(2+) 5/5 (100) 5/5 (100) 5/5 (100) 5/5 (100) 5/5 (100) 25/25 (100)

(±):1個/数視野 (1+):1~2個/数視野 (2+):3個以上/数視野

抗凝固剤別に比較したものでは,両者ともに保存前後での目視定性値の一致率に大きな偏りはなく,明確な差は認められなかった。

IV  考察

本研究では,関節液中結晶の鏡検と同定を目的とした関節液検体の冷蔵保存が可能であるかを検討した。独自の目視定性値を用いて保存前後での結晶量を比較することで,CPPD結晶とMSU結晶の経時的変化と新たな結晶成分析出の有無について検討を行った。

保存前後の目視定性値の一致率は概ね良好であったが,CPPD結晶を認めた検体の一部が,保存前後の目視定性値に不一致を認めた(Table 5)。表中のNo. 28,No. 50は,保存前の目視定性値(±)が保存期間内の一部で(−)に変化した検体である。いずれも保存前の目視定性値は(±)であるが,標本全体を見渡して結晶が2~3個と非常に少ない検体であった。保存期間内で(−)と判定した検体については,標本2枚目を鏡検することで結晶を検出することができた。保存の有無にかかわらず言えることではあるが,結晶を認めないもしくは少ない検体については,標本を複数枚作成して鏡検する,もしくは遠心した沈渣を鏡検することが有用であると考える。一方,No. 14,No. 27,No. 54,No. 71は,保存前の目視定性値(1+)が保存期間内の一部で(±)に変化した検体である。これらは目視定性値の変化はあるが,保存期間内において結晶を検出することは十分に可能であった。検討に使用した検体のうち,結晶量が比較的少ない検体(±, 1+)で,保存前後の目視定性値にばらつきを認めた一因として,フィブリンによる影響が考えられる。抗凝固剤としてヘパリンを添加していても,フィブリンが析出すると考えられ,結晶を取り込んでいる像が多々確認された(Figure 2)。また,その析出量に差はないと考えられた。フィブリンの析出は,冷蔵保存による時間経過でより顕著となり,それにより,結晶の分布に偏りが生じることや,結晶とフィブリンが重なることにより偏光がマスクされる可能性が考えられる。しかしながら,フィブリンの析出を認めても,検討を行った保存期間内における結晶の検出と同定は可能であった。また,Table 3Table 4で示した通り,抗凝固剤の有無についての比較でも,保存期間内における目視定性値の一致率にほとんど差を認めなかった。これらの結果から,関節液の冷蔵保存は抗凝固剤の有無に関わらず可能であると考える。

Table 5  The samples with discrepancies in visual quantitative values before and after storage
Sample No. Addition of heparin Without anticoagulant
Before preservation 24 hours 48 hours 72 hours 96 hours 1 week Before preservation 24 hours 48 hours 72 hours 96 hours 1 week
14 1+ 1+ 1+ ± ± ± 1+ 1+ 1+ ± ± ±
27 1+ 1+ 1+ ± ± 1+
28 ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ±
50 ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ±
54 1+ 1+ ± 1+ 1+ 1+ 1+ ± 1+ 1+ 1+ 1+
71 1+ 1+ 1+ 1+ 1+ ± 1+ 1+ 1+ 1+ 1+ ±

No. 28, No. 50: Change (±) before preservation to (−) for part of the preservation period

No. 14, No. 27, No. 54, No. 71: Change (1+) before preservation to (±) for part of the preservation period

Figure 2 CPPD crystals entrapped in fibrin (×400)

CPPD crystals (1+) synovial fluid with heparin added, after refrigerating for 72 hours

a: Optical microscope image

b: Polarization image (Circles in the figure are CPPD crystals)

その他,保存による影響としては,時間経過による白血球の崩壊・減少が挙げられる4),8)。そのため,保存後の関節液は白血球数の算定には適さない。また,白血球による結晶の貪食像は,急性の結晶性関節炎で意義が高いとされる8)が,白血球の崩壊により,細胞内結晶の出現率は減少するとともに結晶が細胞外へ流出し,液中に浮遊した結晶が多くなることにも留意する必要がある9)。従って,保存後の関節液では,より多くの視野を注意深く鏡検することが望ましいと考える。

粘稠性の高い関節液検体については,前処理としてヒアルロニダーゼ処理を行うことが一般的である6)。関節液の主成分であるヒアルロン酸を溶解することで,検体の粘稠性を除去することができる。今回の検討では,当直者が検体の前処理を行わなくても,関節液の冷蔵保存が可能であることを証明するため,ヒアルロニダーゼ処理なしで検体保存を行った。また,設定した保存期間毎に標本を作製し鏡検を行ったため,検体量の観点からも,鏡検前のヒアルロニダーゼ処理は困難であった。そのため,検体の粘稠性が結晶の分布に影響している可能性も否定できないが,検体の前処理がなくても結晶の検出と同定は十分に可能であった。さらに,冷蔵保存後の関節液にヒアルロニダーゼを添加した場合であっても,粘稠性を除去することは可能であった。

今回検討を行った保存期間において,新たな結晶の析出を認めた検体はなかった。加えて,保存前後の目視定性値に不一致を認めた一部の検体に関しても,複数枚の標本を観察することで結晶の検出は十分に可能であった。これらの結果から,結晶の検出と同定を目的とした関節液検体の冷蔵保存は一週間程度可能であると考える。ただし,MSU結晶に関しては十分なサンプル数を集めることができなかったため,今後の検討課題とする。また,保存による影響は小さいと思われるが,皆無とは言い切れず,必要に応じて結果に参考値となる旨を記載した方が良いと思われる。

V  結論

鋭敏色偏光装置を用いたCPPD結晶とMSU結晶の検出と同定を目的とした関節液検体の冷蔵保存は,抗凝固剤の有無に関わらず,一週間可能である。また,冷蔵保存前の検体の前処理は必要としない。

令和4年度の診療報酬改定により,関節液中結晶鏡検が新規保険適応となった10)。本検査の需要が増すとともに,本研究結果が各施設での運用の一助になればと考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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