Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Technical Articles
Study of influenza virus infection using the integrated Geographic Information System “YokohaMap”
Minoru AONORyoko YOKOYAMAIchiro OKUBOYutaka GOTO
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 72 Issue 3 Pages 395-406

Details
Abstract

横浜市では,新たに統合型GISよこはまっぷ(PasCAL for LGWAN)を2022年3月から公開している。従来からインフルエンザ感染症によるGISの利用を図ってきたが,今回の更新による機能等の追加で,若干の知見が得られたので報告する。本研究の目的は,インフルエンザ感染症の流行の可視化を新規性のあるGISとして実現することである。方法としては,従来の登録システムを改修して,データや運用の変更を図り新たなGISを構築した。インフルエンザ感染症は,感染症発生動向調査(NESID)を利用して,施設別発生状況や定点当たりの患者報告数が報告されている。成果としては,施設別発生状況において,詳細な学校等の流行状況と中学校学区域によるポリゴン表示を利用した情報を,一元的にGIS上へ可視化することが可能となった。また,中学校学区域や定点当たりの患者報告数では,時系列データの参照も可能である。本研究により,新たなGIS構築の結果として,中学校学区域,定点当たりの患者報告数のポリゴン表示と地域包括支援センターの情報を可視化させることで,地域におけるインフルエンザ感染症の予防啓発に繋げられると考える。

Translated Abstract

Yokohama City has been using the Integrated GIS “YokohaMap” since March 2022. The city has conventionally used GIS to process the data on influenza infection to date. For influenza infection, the National Epidemiological Surveillance of Infectious Diseases (NESID) System has been used to report the incidence of infection based on facilities/institutions and the number of patients per fixed point. For the incidence of infection based on facilities/institutions, it has become possible to centralize and visualize in the GIS the information obtained using polygon representation junior high school districts and based on detailed epidemic situations in schools. We hope that the enlightenment of the prevention of influenza infection in communities by polygonally representing junior high school districts and the number of patients reported per fixed point can be shown, and the currently available influenza infection data in respective Community General Support Centers can be displayed as well.

I  背景

わが国では,各自治体からインフルエンザ感染症における地理情報システム(Geographic Information System;以下,GIS)を利用した情報が,ウェブページ等で公開されている。主な表示方法には,施設ごとの感染状況をマップアイコンやグラフ等で表示する方法や定点医療機関からの情報を地域ごとにポリゴン表示する方法にとどまっている。

横浜市は18区で構成されており,従来から市民向けや庁内向けに,よこはまっぷの名称でGISが導入されていた。筆者ら1),2)は,よこはまっぷやArcGIS(ESRI社製)を利用して,インフルエンザ施設別発生状況(以下,学級閉鎖等)について,学会誌等で報告してきた。今回,よこはまっぷの更新が図られ,2021年度から移行作業が行われ,2022年から新たなGISとして,統合型よこはまっぷのPasCAL for LGWAN(パスコ社製:以下,PasCAL)が導入された。これに伴い,従来から利用してきた学級閉鎖等の感染症発生動向調査(National Epidemiological Surveillance of Infectious Disease;以下,NESID)へ計上するための感染症流行状況提供システム(以下,新登録システム:登録システムは従来のよこはまっぷを利用していた時の名称のため区別した)を改修して(Figure 1),従来のよこはまっぷやArcGISで実現していた機能をPasCALへ統合し,庁内向けに新たなGISを構築したので報告する。主な機能としては,よこはまっぷによる施設ごとの詳細な情報とArcGISによる中学校学区域を利用したポリゴン表示を一元的にGIS上に構築するものである。また,PasCAL画面上部にあるツールバー内の属性照会から,時系列データの参照も可能となった。

Figure 1 新登録システムの入力フォーム画面

インフルエンザ施設別発生状況における発生報告を入力する画面。

なお,2019–20年シーズンは,新型コロナウイルス感染症の影響で,2020年3月3日から休校となった。また,2020–21年シーズン,2021–22年シーズンの学級閉鎖等の情報は0件であった。2022–23年シーズンは,第4週現在56施設からの報告があり,問題なく運用している。

II  対象と方法

1. 対象

1) 横浜市のNESIDデータ

横浜市が保有している2019–20年シーズンの定点当たりの患者報告数(以下,定点報告数),新登録システムにおける,2019–20年シーズンの学級閉鎖等の情報。

2) PasCALのデータ

2019–20年シーズンのPasCALに登録した患者報告数と学級閉鎖等の情報,その他関連情報。

2. 方法

新登録システムでは,従来の機能に加えて,CSVファイルを介してPasCALへのインポートやエクスポートが必要となるため,決められたフィールド数や容量の仕様に合わせて,CSVファイルを作成する必要がある。そのため,新たにPasCALシートを作成して,施設ごとの詳細な情報をPasCALの仕様に合わせて設定した。

PasCALでは,区界(18区の地図),横浜市地域包括支援センター(青星印のポイント,以下,地域包括支援センター),学級閉鎖等(マップアイコンによる詳細情報),学級閉鎖等の中学校学区域情報(ポリゴン表示),定点報告数(ポリゴン表示)を地理情報として,PasCAL画面の右側の凡例ウインドウにある凡例レイヤーに展開し,レイヤーのチェックやドラッグ移動で,各種情報をGIS上に表示させることが可能である。区界の情報は,PasCALのデータソース内の共有ワークスペースから流用し,地域包括支援センターは,あらかじめPasCALのテーブルに作成しておいたフィールド名に合わせて,必要な情報をExcelで作成し,CSVファイルとして,PasCALへインポートすることで,レイヤーを作成している。地域包括支援センターや学級閉鎖等の詳細情報の参照には,属性照会から当該レイヤーを選択して,目的のマップアイコン上にマウスのポインターを移動させることで,詳細情報が画面に表示される。

なお,具体的な作成方法は,実際の2020年第5週を例に示すが,下記に示す以外の作成方法もあることを付記しておく。

1) 新登録システムの改修内容と学級閉鎖等の作成方法(Figure 5の上段)

新登録システムは,ExcelのVBA(Visual Basic for Applications)で自主製作しており,学校等の施設から提出されたインフルエンザ様疾患発生報告(以下,様式1)に記載された内容を入力している。今回新たに作成したPasCALシートへ,登録と同時に必要な情報を作成する仕組みとした。シート内容は,A列からO列までを使用し,1施設1行を割り当てる。実際の登録内容をFigure 2に示す。

Figure 2 PasCALシートの抜粋内容(MEMO8~9は非表示)

入力フォームで登録した内容を,PasCALシートへ展開した情報として示す。

PasCALシートの該当する週の施設行を選択して,CSVファイルを作成する。新規レイヤーとして,第5週_2020年1月27日_2月2日の名称でインポートし,アドレスマッチングを行う。

インポートするとPasCALのデータソースと凡例レイヤーに登録される。

凡例レイヤーから単一シンボルを選択し,当該週のマップアイコンを画像ファイルから設定する。

2) 中学校学区域の作成方法(Figure 5の中段)

新登録システムにおけるArcGIS-MPシートを利用して,適宜データの抽出を行う。NESID報告では,週内に同一施設から発生報告が提出されると1施設1報告の取決めから,データをまとめて計上する必要がある。ArcGIS-MPシートの抜粋した内容をFigure 3に示す。抽出方法は,BM列のDEL欄にDが表示されている施設が重複項目となるため,選択削除が必要となる。なお,ArcGIS-MPシートの全てのデータは,初発の施設に時系列で集約できるように設計した。ただし,適宜任意に抽出することも可能である。

Figure 3 ArcGIS-MPシートの抜粋内容(列R~BLは非表示)

施設ごとの時系列のデータを参照することが可能なシートで,当該週の必要な情報を選択して,中学校学区域の情報に適応することができる。BM列のDで示された行が初発以外の施設情報のため,その行を削除することで,初発からの時系列データの参照が可能となる。

PasCALのデータソースから中学校学区域160501_原本のレイヤーを選択し,別名称のレイヤーとして複製し,凡例レイヤーへ展開する。名称はシーズンごとに変更して登録する(例:中学校学区域160501_2019_20年シーズン)。

3) 施設患者数レイヤーの作成方法(Figure 5の中段)

NESIDの基本は,週単位で計上するため,週ごとの抽出でレイヤー(例:第5週_施設患者数2019_20年シーズン)を作成する。

メニューから新規レイヤーで,「中学校学区域の作成方法」の項目で抽出したデータをCSVファイルとして,インポートファイル選択画面から,施設の住所(TEXT_1)でアドレスマッチングを行い,施設患者数2019_20年シーズンの週ごとのレイヤーを作成する。

4) 空間結合の方法(Figure 5の中段)

空間結合は,対象のポイントレイヤーに対して,空間的重なりが合致するポリゴンレイヤーの属性を付加する方法3)で,メニューから空間結合を選択,中学校学区域内のフィールドに中学校学区域(TEXT_)を追加作成する。

空間結合の検索フィールドに,中学校学区域160501_2019_20年シーズンを選択して,対象レイヤーを第5週_施設患者数2019_20年シーズンとする。これにより,第5週_施設患者数2019_20年シーズンに中学校学区域160501_2019_20年シーズンの中学校学区域(TEXT_)のフィールドが追加される。

5) 集計CSVファイルの作成方法(Figure 5の中段)

第5週_施設患者数2019_20年シーズンの属性一覧上で,中学校学区域ごとの患者数の集計を行うため,右クリックで項目集計(分類項目:TEXT_,集計項目:W05)を選択,合計にチェックして集計する。

ファイル出力から名称をW05_合計としてCSVファイルを作成し,不要な見出しや情報を削除する。

6) 中学校学区域レイヤーへの患者数の追加方法(Figure 5の中段)

中学校学区域ごとの患者数の集計を行った,W05_合計CSVファイルを使い,メニューの属性更新から中学校学区域のレイヤーにデータを追加する。中学校学区域160501_2019_20年シーズンの既存レイヤーを対象に,W05_合計CSVファイルをドラッグ&ドロップして,TEXT_のみチェックを入れて,インポートを行うことでデータを登録する。

中学校学区域160501_2019_20年シーズンのレイヤーに,W05_合計の件数がコピーされる。このレイヤーは,運用上の原本レイヤーとして作成している。

次に,中学校学区域160501_2019_20年シーズンの属性一覧から,右クリックで別レイヤーとして複製し,週ごとの名称を付ける(第5週_中学校学区域_2019_20年シーズン)。以降は当該週のCSVファイルに適宜変更してレイヤーを作成していく。

7) 定点報告数の作成方法(Figure 5の下段)

定点報告数は,定点医療機関からFAXや電子申請を介して提出され,専用Excelで登録・管理している。凡例レイヤーにある第4週_区別定点報告数_2019_20年シーズンの属性一覧から,右クリックで別レイヤーとして複製を選択し,第5週_区別定点報告数_2019_20年シーズンの名称で作成する。

以降は同様にレイヤーの名称を変更,テーブルの再定義で,該当する週の名称(W05)で追加する。

メニューからエクスポートして,CSVファイルを作成する。名称はW05にして,専用Excelから必要な定点報告数のデータを選択して作成する。なお,前週のCSVファイルを流用することも可能である。

メニューの属性更新から,W05のCSVファイルをドラッグ&ドロップして,第5週のデータを追加してインポートする。

ランキングシンボルについては,週ごとに毎回設定し直す必要がある。中学校学区域と定点報告数のランキングシンボルの設定画面をFigure 4に示す。

Figure 4 中学校学区域(左側)と定点報告数(右側)のランキングシンボル設定画面

色の設定は単色も可能で,分類数も変更は可能であるが,設定は週ごとに行う必要がある。

上記作成方法の主な運用データフローをFigure 5に示す。

Figure 5 主なレイヤー作成の運用データフロー図

上段は,学級閉鎖等の詳細情報をマップアイコンで表示する方法。中段は,中学校学区域の患者数を集計してポリゴン表示する方法。下段は,定点報告数を18区別にポリゴン表示する方法。

III  結果

PasCALを利用して作成した地理情報について示す。表示方法については,凡例レイヤーの移動とチェックの有無で,多様な表示方法が可能となる。ここでは,2019年シーズンの第5週を一例として,Figure 612にGISに関連する表示結果を示す。

Figure 6 マップアイコン(学級閉鎖等)と地域包括支援センター(青星印)【第5週】

第5週を示す数値の入ったマップアイコンで学級閉鎖等の施設の所在地を表示し,青星印のマップアイコンで地域包括支援センターの所在地を表示している。

1. マップアイコン(学級閉鎖等)と地域包括支援センター(青星印)【第5週】

Figure 6は,第5週に発生した学級閉鎖等をマップアイコンで表示しており,数字の5は第5週を表している。青色の星印は,地域包括支援センターの所在地を表示している。

2. 18区別の定点報告数【第5週】

Figure 7は,18区別の定点報告数をポリゴン表示している。

Figure 7 18区別の定点報告数【第5週】

第5週の18区別定点報告数をランキングシンボルの指定通りにポリゴン表示している。

3. 18区別の定点報告数とマップアイコン(学級閉鎖等)【第5週】

Figure 8は,18区別の定点報告数をポリゴン表示して,学級閉鎖等のマップアイコンを一元的に表示している。

Figure 8 18区別の定点報告数とマップアイコン(学級閉鎖等)【第5週】

第5週における18区別定点報告数のポリゴン表示と学級閉鎖等のマップアイコンを表示している。

4. マップアイコン(学級閉鎖等)の詳細情報【第5週】

Figure 9は,属性照会から,学級閉鎖等の詳細情報を画面に表示している。

Figure 9 マップアイコン(学級閉鎖等)の詳細情報【第5週】

第5週の学級閉鎖等のマップアイコンから目的の施設の詳細情報を画面上に表示している。

5. マップアイコン(学級閉鎖等)と中学校学区域の情報【第5週】

Figure 10は,学級閉鎖等のマップアイコンと中学校学区域のインフルエンザ状況をポリゴン表示して,一元的に表示している。

Figure 10 マップアイコン(学級閉鎖等)と中学校学区域の情報【第5週】

第5週の学級閉鎖等のマップアイコンと中学校学区域のポリゴン表示を一元的に表示している。

6. 地域包括支援センターの詳細情報

Figure 11は,属性照会から,地域包括支援センターの詳細情報を表示している。

Figure 11 地域包括支援センターの詳細情報

属性照会画面から対象レイヤーの地域包括支援センターを選択して,所在地を表す青星印にカーソルを移動させることで,詳細情報を画面に表示している。

7. 中学校学区域の時系列データ【第5週】

Figure 12は,属性照会から,青葉区内の赤太線で囲まれた中学校学区域の時系列データを画面に表示している。

Figure 12 中学校学区域の時系列データ【第5週】

属性照会画面から対象レイヤーの中学校学区域を選択して,ポリゴン表示した位置(赤太線:青葉区内みたけ台中学校学区域)にカーソルを移動させることで,時系列データを画面に表示している。

IV  考察

筆者らは,インフルエンザ感染症の流行状況を可視化するため,よこはまっぷやArcGISのソフトを利用してきた。今回,新たにPasCALが導入されたが,データの移行に関しては,現場の詳細な検討がされず,再度データの登録をし直す必要が生じた。そのため,2019年シーズンのデータについてのみ,改修した新登録システムから再度データの入力を行い,GISの構築を図った。

今回のGIS構築の主な意義は,今まで使用してきた2つのGISの機能を統合して,1つのGISで実現することにある。すなわち,よこはまっぷによる詳細な学級閉鎖等の情報とArcGISによる中学校学区域のポリゴン表示をPasCAL上で一元的に可視化することである。

GISを利用するに当たっての実務課題としては,インフルエンザ感染症情報を電子化して,GISへインポートするフォーマットに加工後,運用上遅延なく業務が実施できることである。システム要求としては,一般的なネットワーク上の改ざん等によるセキュリティ問題を考慮すると,LGWANのGISを利用することが安全な運用に繋がり,汎用性の高いCSVファイルの使用を図ることが必要である。今後のデータ活用としては,全国の自治体との間でシームレスな情報公開に繋げて,利便性の高いGISの構築を図る必要があると考える。

最初に,従来の登録システムの改修を行い,PasCALの仕様に合わせたPasCALシートを作成して,学級閉鎖等の詳細情報を表示できるように,新登録システムを構築した。Figure 9に示された項目名の内容は,ID$(システムが任意に作成する番号),CATEGORY(前半2桁は区番号,後半2桁は週数),TITLE(施設名称),ADDRESS1(施設住所),TEL,FAX,MEMO1(発生報告全体の情報),MEMO2(症状),MEMO3(その他の情報),MEMO4~9(個別の詳細情報),URL1(施設のURL)として区分した。詳細情報の表示には,ツールバー内の属性照会から,対象レイヤーを選択して,表示したいマップアイコン上へマウスのポンターを移動させてクリックすることで表示される。従来のよこはまっぷに比べると,動作の工程が多く煩雑なイメージを受けるが,対象レイヤーを選択するだけで,定点報告数や中学校学区域の時系列データを確認することができるため,機能的に優れている。ただし,凡例レイヤーの上下の位置関係により,表示される内容が変わるため,表示したいレイヤーを上位に移動させる必要がある。

Figure 10は,学級閉鎖等の詳細情報を示すマップアイコンと中学校学区域情報のポリゴン表示である。両者の情報は一致することから,GIS上でマップアイコンが示した地域の中学校学区域は,ポリゴンのランキングシンボルで色付けされている地域となっている。属性照会では,1つのレイヤーしか選択できないため,別のレイヤーを調べるためには切り換えを行う必要がある。

Figure 11は,地域包括支援センターの詳細情報を表示している。わが国では,超高齢化社会として,団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になることで起こる社会保障をはじめとするさまざまな問題を「2025年問題」として取り上げている。地域包括ケアシステム4)においては,地域による日常生活圏を中学校学区域としている。地域包括支援センターの場所は,老人をはじめとする地域で生活する人々の安心で安全な生活基盤を支える上で重要な役割を果たしている。特に,成木の研究5)でも,地域包括ケアシステムとの連携をどのように進めるかは重要な課題と考える。作成方法は,PasCALのフィールド名に合わせて,必要な情報をExcelで作成し,CSVファイルとしてPasCALへインポートしているため,簡単に更新作業を行うことが可能である。

Figure 12では,中学校学区域の時系列データが参照可能となっている。これは従来にはなかった機能であり,感染症の流行状況の把握には,現時点からどのように推移が予測されるか,散発性か増減傾向にあるかを判断する上でも有用な情報である。参照の方法は学級閉鎖等の詳細情報の表示と同じで,属性照会から対象レイヤーを選択して行っていく。なお,18区別の定点報告数でも時系列データの参照は可能である。

感染症におけるGISの有用性については,中谷の研究6)でも,空間疫学におけるGISの有用性について,GISは電子的な情報の入出力をとおして,他の分析環境とリンクしたより高度な解析や,internetを通じた情報配信が可能であると述べている。

インフルエンザのGISに関する研究は少なく,主な先行研究としては,2003年に坂井による「GIS(地理情報システム)を用いたインフルエンザウイルス感染症の空間的疫学分析」7)や山本らによる「学級閉鎖の有効性に関する研究―新型インフルエンザ流行時の小学校におけるクラス内欠席者割合と実施日数より予測される学級閉鎖後の欠席者割合―」8),康井らによる「小中学校における学校感染症対策としての学級閉鎖の実態―2012年度~2016年度―」9)等が挙げられる。坂井の研究では,インフルエンザの学校閉鎖実施状況の推移をポイントで表示し,型別による流行伝播様式を明らかにしているが,日本国内では県別・保健所別の報告という断片的な分布の提示にとどまっていることを指摘している。自治体の例として,川崎市10)や山口県11)のGIS掲載情報を参考文献に示す。

本研究では,NESIDへ報告している運用データを用いて,定点報告数,学級閉鎖等の情報,中学校学区域を利用した情報を一元的にGIS上へ表示できる仕組みを構築しており,新規性のあるシステム構築が図られたと考える。さらに,新登録システムでは,VBAでデータセットを作成し,CSVファイルを介したGISとのインポートやエクスポートのため,全国の自治体に普及が図られると,断片的でないシームレスな情報公開も可能と考える。

また,学級閉鎖等の情報は,定点報告数に比べ迅速性に優れており,NESIDへ報告する前に,地域包括支援センターへ提供することが可能である。松本らの報告12)でも,小学校児童の欠席率とインフルエンザ流行状況との相関関係が確認され,インフルエンザの発生状況を容易かつ迅速に把握する上で有効であることが示されている。感染症における予防対策では,流行情報をいかに早く探知し,適切に関係機関へ報告して,地域住民へ知らせることが重要であり,学級閉鎖等の情報は有用性が高く,さらなる利用が推進されると考える。

今回のPasCALによるGISの構築は,インフルエンザの流行状況について,現時点でのNESID情報を一元的に可視化することを可能とした。今後は,ウェブ上で利用しやすいGISとして,市民向けに情報が公開されることが必要である。

V  結語

インフルエンザ感染症の流行を可視化するため,学級閉鎖等の詳細情報と定点報告数の情報を一元的にGIS上に可視化することを可能とした。また,中学校学区域や18区別の定点報告数について,時系列データとしてGIS上に表示させ,より有用性のある情報を得ることができた。将来的には,新型コロナウイルス感染症の流行状況に関しても,同様の仕組みでGISを構築することも可能である。感染症におけるGISの役割がますます重要なものとなり,感染予防の啓発に向けて,地域住民へ還元されることを期待する。

本研究のデータは個人情報を含んでおらず,倫理審査委員会の承認は得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2023 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top