Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Evaluation of fatty liver using semiquantitative classification and attenuation coefficient
Akiko KANYuka CHUBACHIYumi MORIShunichi NAGAI
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2023 Volume 72 Issue 4 Pages 532-536

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Abstract

目的:これまで脂肪肝の判定は,Bモード所見のみで行っていたが,Bモードによる半定量法と減衰法を併用して行うことで,脂肪肝の評価がどう変わったか検討を行った。方法:対象は当院で腹部超音波検査を行った1,169名中,減衰係数が測定できた1,039名。Bモードによる半定量法で軽度以上,減衰係数0.62 dB/cm/MHz以上を脂肪肝と判定し,Bモード所見と減衰法それぞれの方法で脂肪肝と判定された割合を調べた。また,減衰係数が測定できなかった130名を対象に,半定量分類による脂肪肝の程度ごとの割合を調べた。成績:Bモード所見と減衰法のどちらかで脂肪肝と判定された541名中,両方で脂肪肝ありと判定されたのは53.8%,Bモード所見のみで判定されたのは28.8%,減衰法のみで判定されたのは17.4%であった。この結果より,減衰法はBモード所見のみでは判定できなかった脂肪肝を拾い上げることができた一方で,減衰法だけでは見逃される脂肪肝も多くなると考えられた。減衰係数測定不可の割合は,全対象者の11.1%で,脂肪肝が高度であるほど測定不可の割合が高く,減衰法はBモードで脂肪肝と判定に迷う例で有効であると考えられた。結論:減衰法を併用することで,Bモード所見だけでは分からなかった脂肪肝を拾い上げることにつながった。Bモード所見で中等度以上の脂肪肝は減衰法を行わなくても判定できるが,脂肪肝なしと軽度脂肪肝の判定の場合には,減衰法も組み合わせて判定するのが望ましいと考えられた。

Translated Abstract

Objective: In this study, we aimed to investigate how the evaluation of fatty liver changed when the B-mode semiquantitative and attenuation methods were used in combination. Subjects and Methods: The study subjects were 1,169 subjects who underwent abdominal ultrasonography. Fatty liver was defined as mild or severe by the B-mode semiquantitative method or as an attenuation coefficient of 0.62 dB/cm/MHz or greater. Results and Discussion: Among the 1,169 subjects, the attenuation coefficients could be measured in 1,039 subjects. Of the 541 patients who were determined to have fatty liver either on the basis of the B-mode finding or by the attenuation method, 53.8% were determined by both methods, 28.8% on the basis of the B-mode finding alone, and 17.4% by the attenuation method alone. These results suggest that the attenuation method can detect fatty liver in some cases that could not be determined on the basis of the B-mode finding alone, whereas many cases of fatty liver were missed by the attenuation method alone. In 11.1% of 130 subjects in which the attenuation coefficient could not be measured, the more advanced the fatty liver, the higher the percentage of cases in which the attenuation coefficient could not be measured. This suggests that the attenuation method is effective in cases where the B-mode cannot be determined as a fatty liver. Conclusion: In this study, we showed that the combined use of the B-mode semiquantitative and attenuation methods effectively detects fatty liver that could not be determined on the basis of the B-mode finding alone.

I  はじめに

これまで超音波検査での脂肪肝の評価は,肝腎コントラストの上昇,深部減衰,肝内血管の不明瞭化等のBモード所見1)に基づき,検者の主観で評価していた。近年,超音波の減衰を計測し,脂肪肝の程度を数値化することで,脂肪肝を定量評価できるようになってきたため,当院では2020年3月より,日本超音波医学会「脂肪肝の超音波診断基準」2)を用い,Bモードによる半定量法と減衰法を併用して脂肪肝の評価を行っている。これまでのBモード所見のみの主観的評価と比べて,脂肪肝の評価がどう変わったか,半定量法と減衰法を使用した結果から,現状の評価法について検討を行った。

II  対象と方法

対象は,2020年3月から2021年10月に当院で腹部超音波検査を行った1,169名(男性543名,女性626名,平均年齢65.0 ± 15.2歳)である。日本超音波医学会「脂肪肝の超音波診断基準」の,Bモードによる半定量法を使用して,脂肪肝の程度を半定量的に分類し,軽度以上を脂肪肝とした(Table 1)。同時に減衰係数を測定し,ATT 0.62 dB/cm/MHz以上を脂肪肝とした。なおカットオフ値は,Tamakiら3)の検討による肝脂肪化5%以上を検出するAUROC 0.79,カットオフ値0.62 dB/cm/MHzを採用した。1,169名のうち,減衰係数が測定できた1,039名(男性507名,女性532名,平均年齢64.6 ± 15.2歳)を対象に,Bモード所見と減衰法それぞれの方法で脂肪肝と判定された割合と検者ごとの脂肪肝判定一致率を調べた。また,減衰係数が測定できなかった130名(男性36名,女性94名,平均年齢68.4 ± 15.0歳)を対象に,脂肪肝半定量分類の程度ごとの割合を調べた。超音波検査とBモードによる脂肪肝の判定は,日本超音波医学会認定超音波検査士3名(A, B, C)で行った。脂肪肝の診断は超音波検査結果のみによるものであり,1症例につき検者1名での判定である。検者ごとの脂肪肝判定一致率の検定と,脂肪肝半定量分類の程度と測定不可の割合の検定にはカイ2乗検定を用いた。使用機器は,富士フイルムヘルスケア社製ARIETTA 850(探触子C252)である。ATTは,右肋間走査で肝前区域(S5/8付近)で,3回以上測定を行い,中央値を採用した。

Table 1 脂肪肝の半定量的所見

軽度 肝腎コントラストのみ
中等度 肝腎コントラスト + 肝内門脈枝・肝静脈枝の不明瞭化もしくは深部減衰のどちらかの所見
高度 肝腎コントラスト + 肝内門脈枝・肝静脈枝の不明瞭化 + 深部減衰

日本超音波医学会用語・診断基準委員会 脂肪肝の超音波診断基準より引用改変

III  結果

減衰係数が測定できた1,039名のうち,Bモード所見または減衰法のどちらかで脂肪肝と判定されたのは,52.0%(541/1,039名)であった。そのうちBモード所見で脂肪肝と判定されたのは82.6%(447/541名),減衰法で脂肪肝と判定されたのは71.2%(385/541名)であった。両方で脂肪肝と判定が一致したのは53.8%(291/541名)とわずか半数に過ぎず,Bモード所見のみで脂肪肝と判定されたのは28.8%(156/541名),減衰法のみで脂肪肝と判定されたのは17.4%(94/541名)であった(Figure 1)。

Figure 1 判定法別の脂肪肝の割合

Bモード所見と減衰法の両方で脂肪肝ありと判定が一致したのは53.8%とわずか半数であった。

3名の検者ごとの脂肪肝判定一致率をみてみると,A:57.6%(80/139名),B:55.0%(116/211名),C:49.7%(95/191名)であった。3名の検者間で統計的有意差は認められず(p = 0.716),3名の検者間の判定一致率に差はないと考えられる。

次に,当院での減衰係数測定不可例の割合を調べてみると,全対象者の11.1%(130/1,169名)存在した。脂肪肝半定量分類の程度ごとの割合をみてみると,脂肪肝なしでは7.6%(49/641名),軽度では7.5%(22/293名),中等度では18.8%(22/117名),高度では31.3%(37/118名)であり,脂肪肝の程度が高度になるほど有意に高い割合であった(p < 0.001)(Figure 2)。

Figure 2 脂肪肝半定量分類の程度別減衰係数測定不可例の割合

脂肪肝が高度になるほど測定不可の割合は高かった。

IV  考察

脂肪肝とは,肝臓に中性脂肪が蓄積する疾患である。脂肪肝はアルコール性と非アルコール性に分類され,非アルコール性脂肪性肝疾患はNAFLDといわれる。NAFLD発症の最も重要な因子は肥満であり,NAFLD患者の内臓脂肪量と肝細胞内脂肪量に正の相関が報告されている4)。さらに,NAFLDは非アルコール性脂肪肝(NAFL)と,非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に分類される。NASHは,NAFLに比べて肝硬変や肝癌に進行しやすく,近年肝炎ウイルスに感染していない肝癌患者が増加しており,これはNASH由来の肝癌と考えられている5)。脂肪肝には自覚症状がなく,肝硬変や肝がんに進行するまで,その危険性に気付かないことが多い。そのため,簡便に行うことができる腹部超音波検査での脂肪肝の拾い上げが重要である。2021年に発表された日本超音波医学会「脂肪肝の超音波診断基準」では,超音波の減衰を用いた減衰法による定量評価が主たる方法として採用されており,減衰法を行っていない施設では,Bモードによる脂肪肝の診断および半定量法を許容している。しかし,Bモード所見と減衰法の判定が必ずしも一致しないことは,日々の検査で実感していたので,Bモード所見と減衰法による脂肪肝の評価がどの程度一致するのかを検討してみた。その結果,Bモード所見と減衰法の両方が脂肪肝と判定したのは53.8%と,約半数しか一致しない結果となった。もし,診断基準に則って減衰法のみを使用するならば,Bモード所見では脂肪肝と判定されなかった脂肪肝が17.4%(94/541人)おり,腹部エコーを行った全対象のうちの9.0%(94/1,039人)を脂肪肝として拾い上げることができた一方で,Bモード所見のみで脂肪肝と判定されたのは,腹部エコーを行った全対象のうち15.0%(156/1,039人)存在し,これまで脂肪肝と判定していた例が脂肪肝と判定されなくなるという問題がある。

減衰係数測定不可例の割合は,全対象者の11.1%存在し,減衰法だけで脂肪肝を判定できない例が1割も存在するといえる。測定不可の要因として,描出不良,被検者の息止め困難,構造物の入り込み,皮下脂肪厚の影響などが考えられる6)。また,脂肪肝が高度になるほど測定不可例が増える要因として,脂肪滴による減衰の周波数依存等の影響や,視認性の低下による構造物の入り込み,想定外の散乱などにより深部信号に生じる振幅変化のひずみが減衰計測に影響を及ぼすといわれている7)。そのため,明らかにBモード所見により脂肪肝と判定できるものほど,減衰法を用いることで誤判定される可能性が高くなると考えられる。どちらか一方だけで診断すると見逃しが増える可能性が高くなるため,Bモード所見による中等度以上の明らかな脂肪肝は脂肪肝と判定し,脂肪肝なしか軽度脂肪肝か判定に迷うような境界領域の脂肪肝の評価には減衰法を用いることで,脂肪肝の見逃しを減らすことができると考えられた(Figure 3)。

Figure 3 Bモード所見と減衰法の判定不一致例

A:肝腎コントラストなしだが,減衰係数(ATT)は0.65 dB/cm/MHzで脂肪肝ありと判定される。

B:肝腎コントラストはわずかにあるように見え判定に迷うが,減衰係数(ATT)は0.55 dB/cm/MHzで脂肪肝なしと判定される。

V  結語

Bモードによる半定量評価と減衰法を併用することで,Bモード所見だけでは分からなかった脂肪肝を拾い上げることにつながった。Bモード所見による中等度以上の明らかな脂肪肝は脂肪肝と判定し,脂肪肝なしと軽度脂肪肝の判定には,Bモード所見と減衰法の両方を組み合わせて検査するのが望ましい。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本論文作成に際しご指導いただきました山形大学大学院医学系研究科 公衆衛生学・衛生学講座 今田恒夫教授に深謝いたします。

文献
 
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