Japanese Journal of Medical Technology
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Evaluation of external control for inhibitory response in loop-mediated isothermal amplification
Naoki WATANABETomohisa WATARIYoshihito OTSUKA
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2023 Volume 72 Issue 4 Pages 543-548

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Abstract

Loop-mediated isothermal amplification(LAMP)法は新型コロナウイルス(COVID-19)の検出に用いられているが,日常検査で反応阻害物質の影響は評価されていない。我々はLAMP法用に開発された外因性コントロールの臨床検体に対する反応性を評価した。鼻咽腔検体(陽性20,陰性80)を対象とし,標準試薬と外因性コントロールを用いたLAMP法のThreshold time(Tt)値を収集した。外因性コントロールでは蒸留水を同時測定し,Dt値(検体-蒸留水のTt値)を算出した。外因性コントロールは,全検体(n = 100)で増幅を認めた。Dt値の中央値は,陽性検体1.4,陰性検体1.3であり,最大値は4.0であった。最大のDt値(4.0)を示した検体は,反応阻害の影響を受けずに判定可能であった。外因性コントロールのTt値は,陽性検体(中央値15.9)と陰性検体(中央値15.8)の間に差を認めなかった(p = 0.75)。結論として,外因性コントロールは全検体で正常な増幅反応を示し,最大4.0分のDt値を示す検体では反応阻害の影響を受けずに判定できた。また,外因性コントロールは陽性検体と陰性検体の反応性に差はなかった。今後は反応阻害を認める検体や喀痰の評価が必要である。

Translated Abstract

The loop-mediated isothermal amplification (LAMP) method is used for detecting novel coronaviruses (e.g., severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2)). However, the effect of reaction inhibitors in specimens has not been evaluated. We evaluated external controls developed for the LAMP assay targeting SARS-CoV-2. The specimens included nasopharyngeal specimens (20 were SARS-CoV-2-positive and 80 were SARS-CoV-2 negative). Threshold time (Tt) was determined by the LAMP method using standard kits and external controls. For the external control, distilled water (SARS-CoV-2-negative sample) was measured, and the Dt ([Tt of specimen] − [Tt of distilled water]) was calculated. We evaluated Tt and Dt of the external control. All the specimens (n = 100) showed amplification of the external control. No specimen was suspected of having an obvious inhibitory reaction. The median Dt values were 1.4 for SARS-CoV-2-positive specimens and 1.3 for SARS-CoV-2-negative specimens, with a maximum value of 4.0. The median Tt of the external control was not significantly different between the SARS-CoV-2-positive (15.9) and -negative (15.8) specimens (p = 0.75). In conclusion, external controls showed normal amplification reactions in all the specimens. The result of the specimen that showed the maximum Dt value of 4.0 min could be determined without the influence of reaction inhibition. Further evaluation of external controls is needed using specimens and sputum that show response inhibition.

I  序文

Loop-mediated isothermal amplification(LAMP)は,等温条件下で標的となるDNAまたはRNAを増幅して検出する核酸増幅検出法である1),2)。LAMPは抗酸菌3),デングウイルス4),Leptospira5)といった幅広い病原体の検出に利用されており,2019年に世界的な流行を引き起こした新型コロナウイルスの検出方法としての有用性も報告されている6)

LAMPやreverse transcription-PCR(RT-PCR)のような核酸増幅検出法では,陽性コントロールと陰性コントロールが精度管理試料として測定される。これらの精度管理試料は,サーマルサイクラーや試薬の不良をチェックできるが,検体中の増幅反応阻害物質の影響はモニタリングできない。したがって,結果が陰性を示した検体には,真の陰性検体と増幅反応阻害物質を含む偽陰性の検体が混在している。

RT-PCRでは,増幅反応阻害物質の影響を評価するために内部コントロールが用いられる。内部コントロールは,検体と同じPCRチューブ内で標的遺伝子と内部コントロールを増幅することによって,検体中の増幅反応阻害物質の影響を評価できる7)。一方,LAMPは濁度や単色の蛍光を観察して結果を判定するため,検体と同じPCRチューブ内で内部コントロールを反応させて増幅反応阻害物質の影響を評価することは難しい。

そこで,我々はLAMPにおける外因性コントロールの有用性を検証した。外因性コントロールを検体と異なるチューブで反応させることによって,増幅反応阻害物質の影響を評価することが可能となる。外因性コントロールが増幅反応阻害物質の影響を評価する試料として有用であった場合,LAMP法における偽陰性検体を確認する方法としての活用が期待される。

II  方法

この研究は,鼻咽腔検体を用いた新型コロナウイルスを検出するためのLAMP用に開発された外因性コントロールについて,試薬の反応性とRT-PCRで使用される内部コントロールとの差異を評価した。副次的検証として,陽性検体についてRT-PCRとLAMPの相関性を評価した。本研究は,亀田メディカルセンター研究倫理委員会の承認を得て実施された(承認番号21-102)。

1. 対象検体

2022年5月20日から5月27日までの期間に,亀田メディカルセンターの発熱外来で採取された鼻咽腔検体を対象とした。日常検査(RT-PCR)で陽性,陰性を示した検体が目標数(陽性20検体と陰性80検体)に達するまで検体を収集した。検体採取はレクチャーを受けた医師または臨床検査技師がCopan UTM(Copan)を用いて実施した。採取後の検体は,RT-PCRの実施まで冷蔵保存した。

日常検査におけるRT-PCRは,Thermo Fisher TaqPath COVID-19 Combo kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて,添付文書に準じて実施した。RT-PCR実施後の検体は,LAMPの実施まで−80℃で凍結保存した。

2. 核酸抽出

核酸抽出は,magLEADとmagLEAD Consumable Kit(Precision System Science)を用いて実施した。magLEAD は,磁性粒子を用いて核酸抽出・精製を行う自動装置である8)

抽出方法の概要は,次の通りである。1)ボルテックス後の検体200 μLを1.5 mLマイクロチューブに分注した。2)マイクロチューブに分注した検体,チップおよび1.5 mLマイクロチューブをmagLEADに架設した。3)核酸抽出量を50 μLに設定し,核酸抽出を開始した。

核酸抽出後の検体はmagLEADから取り出した後,RT-PCRとLAMPの実施まで冷蔵保存した。

3. LAMP(標準キット)

LAMPは,標準キットと外因性コントロールを用いて実施した。標準キットによるLAMPは,新型コロナウイルス2019(SARS-CoV-2)検出試薬キット(栄研化学)を用いて,添付文書に準じて実施した。精度管理として,1測定バッチ毎に検体の代わりに陽性コントロールと陰性コントロール(蒸留水)を測定した。陽性コントロールの濁度が上昇し,陰性コントロールの濁度が上昇していなければ,増幅反応は正常と判断した。

外因性コントロールは,栄研化学によって開発された試薬を使用した(Figure 1)。外因性コントロールは,菌の配列を人工核酸合成してプラスミドに組込み,転写して調製したRNAである。このRNAの増幅を確認することによって,増幅反応の阻害を評価できる。標準キットで陰性を示した検体は,外因性コントロールが陽性を示した場合は反応阻害なし(標準キットの結果は陰性),陰性を示した場合は反応阻害あり(標準キット結果は保留)と解釈された(Table 1)。

Figure 1 Example of external control assay

A: External control before Lamp assay; B: External control after Lamp assay; 1: Positive specimen; 2: Negative specimen.

Table 1 Interpretation of results using external control

Result of LAMP Interpretation
Normal kit External control
Negative Positive Negative
Negative Reservation (inhibition)

Reaction mixture 15 μL(primer mix 7.5 μLとpositive control 7.5 μL)を氷上で反応試薬が固相化されたPCRチューブに分注し,続いて核酸抽出後検体10 μLを添加した。このPCRチューブを転倒して溶液を蓋に移して,転倒した状態のまま氷上で2分間放置した。続いて,PCRチューブを5回転倒混和して,スピンダウンした後に増幅反応を行った。

増幅反応は,リアルタイム濁度測定装置 Loopamp EXIA(栄研化学)を用いて実施した。Loopamp EXIAの表示温度が62.5℃であることを確認し,PCRチューブをLoopamp EXIAにセットした。反応条件は62.5℃で35分間として,Loopamp EXIAに記録された増幅曲線で濁度の上昇を認めた場合を陽性,濁度の上昇が認めなかった場合を陰性と判定した。測定バッチ毎に,蒸留水を対照として測定した。

4. データ収集

RT-PCRとLAMPの結果を収集した。RT-PCRの結果は,判定結果(陽性または陰性),内部コントロール(internal positive control; IPC)および標的遺伝子のcycle threshold(Ct)値を収集した。標的遺伝子は,ヌクレオカプシドタンパク(N gene),スパイクタンパク(S gene)および非構造タンパク(ORF gene)をコードする遺伝子である。

LAMPの結果は,Threshold time(Tt)値を記録した。外因性コントロールについて,検体のTt値から対照のTt値を引いた値(difference Tt values;Dt値)を算出した。Dt値は,反応阻害物質の影響を評価する指標である。この値は,検体中に反応阻害物質が含まれると検体のTt値は高くなるが,対照のTt値は変動しない。

5. 統計解析

統計解析は,EZR(Version 1.54)9)を用いて実施し,p < 0.05を有意な差とした。解析項目は,次の通りである。1)RT-PCRのCt値とLAMPの反応性の検証 2)Dt値の検証 3)標準キットと外因性コントロール間におけるTt値の比較 4)陽性検体におけるRT-PCR法のCt値とLAMPのTt値の相関性。

Ct値,Tt値およびDt値は,Shapiro-Wilk testで正規性の検定を行い,中央値とinterquartile range(IQR)で表した。Dt値の検証,IPCのCt値と外因性コントロールのTt値の比較には,マンホイットニーのU検定を用いて解析した。陽性検体におけるRT-PCR法(N gene,S geneおよびORF gene)のCt値とLAMPのTt値の相関性は,Pearson’s product-moment correlationを用いて評価した。

III  結果

1. RT-PCRのCt値とLAMPの反応性

陽性検体(n = 20)のうち,18検体がN gene,S geneおよびORF geneの全てが陽性であり,Ct値は25以下であった。残りの2検体はN geneとORF geneが陽性かつS gene陰性であり,N geneとORF geneのCt値は34以上であった。

標準キットでは,20検体が陽性,80検体が陰性であり,全検体の結果がRT-PCRと一致した。全ての陽性コントロールの濁度が上昇し,全ての陰性コントロールの濁度が上昇せず,全ての増幅反応は正常であった。

Table 2は,LAMP法の結果を示している。外因性コントロールでは,陽性検体(n = 20),陰性検体(n = 80)および対照検体の全てについて増幅を認めた。

Table 2 Threshold time and difference in Tt values of LAMP

Subject and specimen Min 25% Median 75% Max
SARS-CoV-2 kit,
threshold time (min)
Positive specimens, n = 20 10.0 10.6 11.0 11.3 29.0
Negative specimens, n = 80 Not detected Not detected Not detected Not detected Not detected
External control,
threshold time (min)
Positive specimens, n = 20 14.7 15.6 15.9 16.2 16.7
Negative specimens, n = 80 14.8 15.3 15.8 16.2 18.8
Difference in threshold
time values (min)
Positive specimens, n = 20 0.2 1 1.4 1.5 2.1
Negative specimens, n = 80 0.1 0.8 1.3 1.9 4

2. Dt値の検証

Dt値([検体のTt値]-[対照検体のTt値])は,陽性検体(中央値1.4,IQR 1.0–1.5)と陰性検体(中央値1.3,IQR 0.8–1.9)の間に優位差を認めなかった(p = 0.78)。

全検体におけるDt値の最大値は4.0であり,この検体では判定結果に影響を与える阻害反応を認めなかった。

3. IPCのCt値と外因性コントロールのTt値の比較

RT-PCRにおけるIPCのCt値は,陽性検体(中央値28.3,IQR 27.4–30.1)が陰性検体(中央値26.50,IQR 26.3–26.8)より優位に高かった(p < 0.0001, Figure 2A)。

Figure 2 Distribution of control values for positive and negative specimens

A: Ct value of RT-PCR (internal positive control). B: Threshold time value of Lamp (external control).

LAMP法(外因性コントロール)のTt値(分)は,陽性検体(中央値15.9,IQR 15.6–16.2)と陰性検体(中央値15.8,15.3–16.2)の間に優位差を認めなかった(p = 0.75, Figure 2B)。

4. LAMPとRT-PCRの相関

RT-PCR法のCt値とLAMPのTt値との間に有意な相関を認めた。相関係数(95%信頼区間,p)は,次の通りである。N gene-LAMP:0.95(0.88–0.98, p < 0.0001),S gene-LAMP:0.87(0.68–0.95, p < 0.0001),ORF gene-LAMP:0.95(0.87–0.98, p < 0.0001)。

IV  考察

本研究では,外因性コントロールが全ての鼻咽腔検体で正常な反応を示したが,判定結果に影響を与える反応阻害を認めた検体はなかった。また,陽性検体について,RT-PCR法のCt値とLAMPのTt値との間に有意な相関を認めた。

LAMPは様々な病原体の検出に用いられており,SARS-CoV-2の検出にも有用であることが報告されている6)。鼻咽腔検体を用いた本研究では,LAMPとRT-PCRの結果は全ての検体で一致した(陽性20名,陰性80名)。先行研究によると,SARS-CoV-2に対するLAMPの感度は87–100%であった10)~12)。また,LAMPはCt値36以下の検体ではRT-PCRと同等の性能を示すと報告されている10)。今回の結果は先行研究と同様であり,既報のデータを支持するものであった。

RT-PCR法では,検体中の反応阻害物質を評価するために,内因性ヒトβ-actin遺伝子やphocine herpesvirusなどの内部コントロールを使用する13)‍~15)。一方,LAMP法ではこれらの内部コントロールを用いた評価は困難であり,医療機関では反応阻害物質の影響を評価できていない状況である。今回使用した外因性コントロールは,すべての検体(陽性20検体,陰性80検体)で増幅反応が確認され,鼻咽腔検体を用いた測定への適用が可能であることが確認された。

Dt値が最も大きい検体(4.0分)は,RT-PCRとLAMPの両法ともに陰性であり,偽陰性を認めずに判定可能であった。本研究では明らかな反応阻害を示す検体がなかったことから,阻害反応を区別するためのDt値の基準を設定できなかった。今後,反応阻害を示す検体のデータを収集し,阻害反応を区別するためのDt値の基準を設定する必要がある。

IPCのCt値は,RT-PCRでは陽性検体(中央値28.3)が陰性検体(中央値26.5)より有意に高かった。一方,外因性コントロールのTt値は,陽性検体(中央値15.9分)と陰性検体(中央値15.9分)の間で差を認めず,RT-PCRのIPCよりも安定していた。RT-PCRのIPCとLAMPの外因性コントロール間で見られた違いは,両者の特徴に起因すると考えられた。内部コントロールは,RT-PCRアッセイにおいて標的核酸と競合する7)。その結果,陽性検体では内部コントロールのCt値が高くなる。一方,外因性コントロールは,標的遺伝子とは別チューブでアッセイすることから標的核酸と競合せず,陽性検体でも反応阻害物質の影響を評価しやすいと考えられた。ただし,陽性検体では内部コントロールのCt値が高くても判定結果は変わらず,臨床的な意義への影響はない。

本研究には,いくつかの限界がある。1つ目は,鼻咽頭検体のみを使用したことである。喀痰や唾液を検体とした場合の反応性は評価できなかったことから,結果の適用が限定される。2つ目は,凍結保存検体を使用したことである。凍結融解によって検体中の標的核酸が減少し,LAMPのTt値に影響を及ぼした可能性がある。しかしながら,すべての陽性検体の結果がLAMP(保存検体)とRT-PCR(保存前検体)で一致しており,凍結保存検体を使用したことが試験結果に与えた影響は限定的であると推測された。3つ目は,著者が調査した範囲ではLAMP法における外因性コントロールの評価報告はなく,本研究と他の結果を比較できなかった。

結論として,本研究で評価したLAMPの外因性コントロールは,すべての鼻咽頭検体で十分な増幅反応を示し,検体中の反応阻害物質のモニタリングに有用である可能性が示唆された。今後,反応阻害を示す検体のデータを蓄積する必要がある。

V  その他

本研究で使用したmagLEAD Consumable Kit,新型コロナウイルス2019(SARS-CoV-2)検出試薬キットおよび外因性コントロールは,栄研化学からの提供を受けた。栄研化学は,測定,統計解析および考察に関与していない。

本論文のプレプリントは,次のURLから参照可能である(https://doi.org/10.1099/acmi.0.000477.v1)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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