Japanese Journal of Medical Technology
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Materials
Importance of simulation of main preparations performed by medical staff in legal brain death assessment
Ako ITOTomotake HAYASHITakayuki INADATakashi NISHIMURAMegumi NAKAMORIAki OKAAyako SEKINERyosuke KIKUCHI
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2023 Volume 72 Issue 4 Pages 597-604

Details
Abstract

法的脳死判定は,本人の脳死下で臓器を提供する意思が存在するまたは不明であり,かつ,家族が脳死下臓器提供を承諾した場合において,2名以上の脳死判定医と検査を担当する臨床検査技師とで実施する。今回,当院において約11年ぶりとなる法的脳死判定が行われた。我々は脳波検査と無呼吸テスト時の血液ガス測定を担当したが,その際,法的脳死判定における医療従事者間の準備が極めて重要であったため,その経験を報告する。症例は,成人女性,原疾患はくも膜下出血であった。臨床的脳波検査は4回実施し,聴性脳幹反応検査は1回実施した。事前準備として,脳波機器の状態確認,必要物品の確認,検査中の役割分担等を行った。血液ガス測定の準備は,病室への血液ガス分析装置の移動,キャリブレーション開始時刻の変更等を行った。法的脳死判定は実施日の午後6時から開始となり,脳波検査の準備に3時間前から病室に入室し準備を行った。脳波検査および無呼吸テストは事前準備のかいもあり,滞りなく終了した。第2回法的脳死判定は,翌日午前3時から行うこととなり開始2時間前に脳波検査の準備に取り掛かった。法的脳死判定は,突然,実施日が決まるため,日頃から機器の状態を確認し備えておく必要性がある。また,事前に準備を関連医療職種で行うことで円滑な法的脳死判定が行えると考えられる。

Translated Abstract

Legal brain death determination is performed when the patient had consented to organ donation under brain death conditions, and in many cases, a biomedical laboratory scientist is involved in electroencephalography (EEG) and blood gas measurements. Recently, we have performed legal brain death determination at our hospital for the first time in about 11 years. We were in charge of EEG and blood gas measurement during the apnea test, and we report our experience in this case because the preparations involved in legal brain death determination are extremely important for medical staff members. The patient was an adult female with subarachnoid hemorrhage. The preparations for EEG included checking the condition of the EEG equipment, checking the necessary supplies, and assigning roles to the medical staff members during the examination. Preparations for blood gas measurement included moving the blood gas equipment to the patient room and changing the calibration start time. Legal brain death determination began at 6:00 p.m. on the day of the tests. We entered the hospital room three hours before the tests to prepare for the EEG and apnea tests. The tests were completed without delay, owing in part to the preliminary preparations. Preparations for the EEG test and examination of its results were also completed without delay for the legal brain death determination in the second case. Legal brain death determination is often requested at short notice. Therefore, it is important to routinely check the condition of the equipment and involve the medical staff in preparations in advance.

I  緒言

1997年10月16日「臓器移植法」が施行されたことにより,脳死下の臓器提供が可能となった。

2008年の国際移植学会によるイスタンブール宣言により,国内の臓器移植の推進が求められる中,2010年7月17日「改正臓器移植法」が全面施行され,臓器提供に関して本人の意思が不明であっても家族からの承諾を得ることで臓器提供が可能となった。これにより,15歳未満でも臓器提供が可能となった。移植法改正以降は,脳死下での臓器提供は心停止後の臓器提供と比べ年々増加傾向である1)。脳死下臓器提供の場合,法的脳死判定は6時間以上(6歳未満は24時間以上)の間隔をあけて2回評価する必要がある。平坦脳波(electro cerebral inactivity; ECI)の確認を目的とした脳波検査と自発的呼吸の消失(以下,無呼吸テスト)を評価する際に臨床検査技師(以下,技師)が携わることが多い。ECIの脳波検査は通常のルチンで行う脳波検査とは仕様が異なるため,いつ実施するか不明瞭である法的脳死判定を想定した準備を日頃から行っておく必要がある。一方,無呼吸テストは段取りと医療者間のチームワークが必要とされる検査であるため,事前の打ち合わせが重要となる。

今回,当院では約11年ぶりに法的脳死判定を行うこととなり,技師はECI脳波検査と無呼吸テストの血液ガス測定に関わることとなったのでその経験を報告する。

II  症例

成人女性,原疾患:くも膜下出血。

主治医より,検査室へ意識障害のため脳波検査の依頼があり,その際に脳死下での臓器移植を行う可能性が示唆された。法的脳死判定4日前に初回のECIの確認を目的とした臨床的脳波検査を行ったところ微弱な大脳活動電位が認められた。このため,臨床的脳波検査はECIを確認されるまで計4回実施し法的脳死判定1日前に脳死とされうる状態と判断された(Table 1)。なお,聴性脳幹反応は1回実施しI~V波の消失を確認している。なお,本研究は岐阜大学医学部生命倫理委員会の承認を得て施行した(承認番号:2022-244)。

Table 1 臨床的脳波検査の実施スケジュール

日付 臨床的脳波検査 聴性脳幹反応検査
20XX/X/Y − 4 実施
結果:ECIではない
20XX/X/Y − 3 実施
結果:ECIではない
20XX/X/Y − 2 実施
結果:ECIではない
実施
結果:I~V波消失
20XX/X/Y − 1 実施
結果:脳死とされうる状態

ECI:electro cerebral inactivity(平坦脳波)

III  当日までの準備

当院の検査室では,法的脳死判定用のポータブル脳波機器がある。脳波担当技師は,法的脳死判定を行う前提として準備を進めていき,①脳波機器の設定,②ペン詰まり,③必要物品の在庫数,④法的脳死判定で使用するチェックリストの確認を行った。特に,②ペン詰まりの確認では,1本だけ詰まりを認めたため,急遽,メーカーに来院してもらいペンの交換と合わせて機器点検を依頼した。

IV  法的脳死判定当日

当日の経過をTable 2に示す。

Table 2 法的脳死判定当日のスケジュール

日付 時間 主な事柄 検査部の動き
20XX/X/Y 午前中 法的脳死判定委員会(1回目)を開催 技師長,脳波担当技師2名が委員会へ参加
委員会終了後 検査部で会議を行い,2日間の運用方針を決める
血液ガス分析装置を病室前へ設置する
午後3時 脳波検査の準備を開始
午後5時 法的脳死判定委員会(2回目)を開催
午後6時 第1回法的脳死判定開始
午後9時 第1回法的脳死判定終了
第1回法的脳死判定結果報告会議を開催
午後10時 約2時間半の休憩時間をとる
20XX/X/Y + 1 午前1時 脳波検査の準備を開始
午前3時 第2回法的脳死判定開始
午前6時 第2回法的脳死判定終了
第2回法的脳死判定結果報告会議を開催
午前7時 脳波機器及び血液ガス分析装置の片付け
午前8時 解散

1. 法的脳死判定委員会への出席

法的脳死判定の実施当日に法的脳死判定委員会が開催され,技師長および脳波担当技師2名が参加した(Figure 1)。各診療部門の担当者と顔合わせを行い今後の日程と段取り,前回の法的脳死判定を踏まえての注意事項に関して議論された。検査部からの要望として,①ECI脳波検査における準備開始を2時間前から始める,②脳波検査中の入室を控えていただくために事前に点滴の交換などの依頼,③無呼吸テスト時の血液ガス測定の流れについて提案した。

Figure 1 第1回法的脳死判定委員会の様子

検査部からは,技師長(図外に着席)と脳波担当技師2名(図内,矢印)が参加した。

当院の血液ガス分析装置はABL800 FLEX(据え置き型)を検査室1台,集中治療室1台,新生児集中治療室1台に設置してあり,ABL90 FLEX(移動可能型)が救急部1台,カテーテル検査室1台,手術部2台を設置してある。すべての機器の日常点検,メンテナンスを検査室が行っている。無呼吸テスト時の血液ガス測定は,当初,法的脳死判定が行われる病室から一番近い集中治療室の血液ガス分析装置まで検体を持っていき測定することを想定していた。血液ガス測定に関しては,測定は決められた間隔で動脈採血を行い測定する必要があるため測定ミスは許されない。しかし,血液ガス検体を移送し測定することにはリスクがある。

そこで我々は血液採取から測定までの移動時間を短縮するため,移動可能な小型の血液ガス分析装置を救急部,カテーテル検査室,手術部から移動する提案をし,承諾を得て病室前廊下に3台設置し,血液ガス測定は技師が行うことで決定した。

2. 法的脳死判定に向けての準備

法的脳死判定委員会終了後に,検査部内で情報共有するために各主任を招集し緊急会議が行われた。緊急会議ではスケジュールの確認,ルチン業務の人数調整,新型コロナウイルス検査対応などを共有し法的脳死判定医らとも合流して打ち合わせを行った。実際に病室へ出向き,脳波機器を設置するベッド周囲の機器の状況と,血液ガス分析装置の設置する場所の確認を行った。この時,脳波担当者は脳波機器の準備を行う必要もあったため,血液ガス分析装置は検体検査の技師数名に依頼し設置と準備を行ってもらった。病室前廊下にコンセントがあることを確認後,血液ガス分析装置を救急部,カテーテル検査室,手術部から預かり設置した(Figure 2, 3)。無呼吸テスト中にキャリブレーションやコントロール測定などの自動メンテナンス作業が開始しないように設定の変更に加え,消耗品の補充,3台の時刻合わせを行った。

Figure 2 病室前の廊下に設置された血液ガス分析装置

病室入口から一番近い血液ガス分析装置をメイン測定機(緑矢印)とし,他2台は予備測定機(橙矢印)とした。いずれの機器も,病室入口から10 m以内に配置した。

Figure 3 血液ガス分析装置

左側をメイン測定機とし,右側は予備測定機とした。残り1台は,隣室前のコンセントがある位置に設置した。

脳波検査の準備は,病棟の許可を得ることができ,予定より1時間早く,3時間前から技師2名で準備を始めた。脳死判定準備用のチェックシートを用意しておき,漏れのないように準備を行った。マニュアル2)により皿電極の場合,接触抵抗値を2 kΩ以下にすることが望ましいとされている。頭部の電極はアルコール綿と研磨剤を用いることで接触抵抗を容易に2 kΩ以下にすることができたが,前腕に装着する頭部外モニターの接触抵抗は2 kΩ前後に留まってしまい,完全な2 kΩ以下にするのに困難を極めた。そこで,装着部位を数cm程ずらしてみたり,反対側で試みたり,蒸しタオルで当て角質を柔らかくしてからアルコール綿と研磨剤を用いてこする等を施して接触抵抗の低下に努めた。しかし,僅かに接触抵抗が下がる程度で完全な2 kΩ以下にはならなかったので,法的脳死判定医に頭部外モニターの接触抵抗が2 kΩ前後で落ち着いていること,接触抵抗を低下させるための対策,波形への影響を説明し,了承を得て法的脳死判定に進める判断をしていただいた。看護師には,事前に点滴の交換を行ってもらい,脳死判定中に点滴交換を回避するように努めてもらった。脳死判定は院内の臓器提供マニュアルに準じて進行していった。

3. 法的脳死判定

脳波計測中は,脳波計PC操作兼進行状況確認(以下,脳波PC係)1名,記録紙への記入(以下,脳波記録係)1名,時計係1名の合計技師3名で行った。脳波PC係と脳波記録係は,通常の脳波検査に従事しており,かつ法的脳死判定の流れを把握している技師が担当をし,時計係は脳波検査を少し経験したことがある技師が担当をした。脳波PC係が脳波検査をチェックシートに準じて進行していき,法的脳死判定医へ呼名刺激や痛み刺激を行うタイミングの指示も行った。そして,脳波記録係がそれらの刺激を行ったタイミングで記録紙に鉛筆で記録し続けた。脳波計測は滞りなく記録を終えた。

無呼吸テストでは,病室内に法的脳死判定医2名,全体の進行係(看護師),タイムキーパー(看護師),結果記録係(看護師),採血者(医師),検体の搬送者(技師1名),移植コーディネーター,呼吸装置着脱補助係(医師)が待機し,病室前廊下に検体の搬送者(技師1名),血液ガス測定者(技師1名),検査結果の読み上げ係(医師)が待機した。技師3名は脳波検査を担当した技師がそのまま血液ガス測定を継続した(Figure 4)。医師Aが動脈採血を行い(①),採取した検体を技師B・Cを経て技師Dまで手渡し(②)。技師Dがメイン血液ガス分析装置で測定(③)をして測定結果を隣にいる医師Eへ渡し(④),医師Eは読み上げて病室内のスタッフに報告する(⑤)流れで行った。なお,血液ガス測定を担当した技師Dは検査部の血液ガス分析装置の責任者を務めていることから,担当になることとなった。採血してから測定までの間にキャリブレーションやコントロール測定などのメンテナス作業が全て行われなかったため,無呼吸テストも滞りなく測定をすることができた。

Figure 4 無呼吸テストにおける血液ガス測定の流れ

血液ガス測定に関与したスタッフのみを示す。医師Aが動脈採血を行い(①),採取した検体を技師B・Cを経て技師Dまで手渡す(②)。技師Dがメイン血液ガス分析装置で測定(③)をして測定結果を隣にいる医師Eへ渡し(④),医師Eは読み上げて病室内のスタッフに報告する(⑤)。

全ての工程を終えて,第1回法的脳死判定を終了した。終了後,すぐに法的脳死判定結果報告会議が開催されるため,早急に記録した脳波記録と保管袋,患者情報と脳波検査の記録時間を記載した紙を用意し法的脳死判定医に提出した。

第1回法的脳死判定結果報告会議(以下,第1回報告会議)では,第1回法的脳死判定の結果が報告された。第2回法的脳死判定の開始時刻は翌日午前3時に決定し,その他のスケジュールも情報共有され第1回報告会議は終了した。第1回報告会議終了後に,法的脳死判定医らとの2回目の脳死判定打ち合わせを行い,そのあと検査室に戻り使用した物品の補充をし,2回目の準備まで休憩した。休憩は午後10時ごろから午前0時30分ごろまで取り,食事と仮眠をとった。午前0時30分ごろからは,病室に行く前の物品の再確認を行った。

第2回法的脳死判定の検査の準備は開始の2時間前から行った。電極は1回目の測定から片付けせずに装着した状態であったため,電極間の距離,接触抵抗に問題がないことを確認して継続使用した。頭部外モニターに関しては,第1回法的脳死判定時と同様に対策を行ったが接触抵抗は2 kΩ前後に留まったため,法的脳死判定医に第1回法的脳死判定時と同様の説明をし,了承を得て法的脳死判定に進める判断をしていただいた。2回目の法的脳死判定でも,手順通りに脳波検査を行うことができ,無呼吸検査においても滞ることなく終えることができ,第2回法的脳死判定結果報告会議で当患者は脳死と判定された。

第2回法的脳死判定結果報告会議後には,脳波機器の片付けと血液ガス分析装置の片付けと返却を行い,午前8時ごろに担当した技師らは解散をした。

V  考察

今回,当院で約11年ぶりの法的脳死判定を行った。前回の法的脳死判定で検査に携わった技師はパートで1人いるのみであり,現在,脳波検査を担当している技師らが主となり初めての法的脳死判定を行うこととなった。脳波検査担当技師らは,院内臓器提供連絡調整員(以下,院内コーディネーター)であり院内の臓器移植業務に関わる会議に出席はしていたが,昨今のコロナ渦により院外で開催される法的脳死判定及び臓器移植に関する研修会への参加はできていなかった。そのため,今回の法的脳死判定を行うにあたって,脳波検査は過去に参加した研修会等の資料や日本神経生理検査研究会がホームページ上で公開している情報3)を参考に準備および検査の段取りを行った。

1. 脳波検査に関する考察

今回,脳波機器の点検中にペン詰まりが発覚し急遽メーカーに対応して頂くことができたが,ペン詰まりは防ぐことが可能である。今回の法的脳死判定を機に毎月2回のペン書きを行うことでペン詰まり防止とペンの状態の確認を行うようにしている。その際には,記録紙の残量とインクの残量も確認し,事前の準備を施すこととした。

法的脳死判定の準備中では,電極の取付けで頭部外モニターの前腕の接触抵抗を低下させることに苦慮した。頭部の電極は通常検査時から接触抵抗を2 kΩ以下に下げる意識をして電極の取付けを行っているため,容易に下げることが可能であった。前腕の場合,通常検査時は接触抵抗を下げることがないため,不慣れであり困難を極めた。接触抵抗が5~10 kΩの場合,アーチファクトが混入する場合があり,2 kΩ以下であると抑制されやすいため3),2 kΩ以下を目指すよう努める必要がある。対策として,蒸しタオルで温める対策があるが火傷の危険性や,またこすり過ぎによる擦過傷に気を付けて行う必要がある。今回は,いずれの方法も講じたが接触抵抗は下がらず最終的に法的脳死判定医に了承を得ることとした。

法的脳死判定の準備にかかった時間は,1回目が3時間,2回目が2時間である。1回目は通常の脳波検査とは異なる法的脳死判定を実施する責任から慎重に準備を行ったこと,不慣れな環境下であったこともあり,3時間を要した。頭部外モニター以外の電極は装着から接触抵抗の確認,電極間距離の計測まで,1時間半ほどで済ますことができていたが,先程も述べた頭部外モニターの接触抵抗に苦慮したため,開始時間直前まで対応を行った。2回目は1回目の電極を取り外さずに残しておいたため,準備時間は1回目より1時間短縮することができた。頭部電極の接触抵抗は2 kΩ以下であり,電極間距離の変動もなかったため付け直しは生じなかった。しかし,1回目と同様頭部外モニターの取付けに時間を要した。法的脳死判定は,実施する責任から過度のストレスや,開始時間に遅れてはいけない重圧も生じてくる。臨床的脳波検査の時点で2名の技師で行っており,準備にかかる時間の予想はできていたため法的脳死判定委員会では準備開始時間の提案をすることができた。実際は,準備開始時間を1時間早めることができ,2名の技師は時間と心に余裕を持って準備を行うことができた。また,今回の頭部外モニターの取付けのように予想以上の時間がかかる事例が生じることもあるため,技師らのストレス緩和のためにも法的脳死判定委員会での準備時間の提案は重要であると考える。

脳波検査後には,結果を提出する準備の必要があったが無呼吸テストに気を取られ提出用の記録紙と袋類の用意を忘れていた。検査前に患者情報等は予め記入し,無呼吸テスト中に残りの用意する技師を一人配置しておく方が良かったと考える。

2. 血液ガス測定に関する考察

無呼吸テストはPaCO2を上昇させることにより呼吸中枢を刺激し自発呼吸の確認を行うため,血液ガスの測定は重要であり事前の打ち合わせが必要不可欠になる。今回,法的脳死判定委員会に技師らが参加したことにより過去の経験から血液ガス分析装置を病室前廊下に3台を配置することが決定した。利点として,①血液採取後にすぐに測定が可能,②操作に慣れている技師が測定することで測定ミスが減る,③メイン機器が測定不能になっても,予備機で測定を行えることがあげられる。①に関しては,測定結果がすぐに報告できたことによりPaCO2の上昇をいち早く病室内の法的脳死判定医らへ報告することが可能であった。また,測定に慣れている技師が行うことと予備機があることで,測定ミスや測定時間の超過などの不安要素が取り除かれ,無呼吸テストに携わった担当者らは落ち着いて無呼吸テストを進めることができたと考えられる。今回は,血液ガス測定に採血者1名,検体の搬送者2名,血液ガス測定者1名,検査結果の読み上げ係1名の5名で行った。採血は1分毎に行われる。今回,血液ガス測定者は日常点検を担当していた技師が担当し固定配置をしたことで,測定によるミスの軽減,簡単なトラブルに対応可能,常に機器の状態を確認可能といった点が良かった点と考えられる。検体の搬送者に2名配置したが,ベッドサイドから病室前の装置まで短距離であったため,1名配置でも可能であったと考える。

一方,欠点として,①3台のオートメンテナンス時間を調整する必要がある,②貸出期間中は,元の配置場所で測定ができないため,検査部に検体を送る必要がある,③3台とも精度管理が行われている必要があることがあげられる。今回使用した3台の血液ガス分析装置は検査部で管理しメンテナンスや精度管理を毎日実施している。直近の精度管理上に関して問題がなかったため,病室前への配置が可能となった。血液ガス分析装置の設定上,オートメンテナンスを中止しておくことが不可能であったため,開始時間を変更する対応を行った。今回は11年ぶりであり不明な点もあったため3台配置をしたが,実際は大きなトラブルがなく1台でも十分賄うことが可能であった。しかし予備機を含めて2台を病室前に配置しておく方が不測の事態に対応することが可能であり,また無呼吸テストに携わる担当者たちの安心材料になり,精神的ストレスの軽減にもつながると考える。また,病室前廊下に配置したことで,無呼吸テストに関わる担当者の動きを全員が把握することが可能であり,無呼吸テストが開始してからの経過時間や採血状況,血液ガス分析の結果などを全員が共有することが可能であった。

3. 業務全体に関する考察

今回の法的脳死判定には,日常から脳波検査に従事している技師2名(内1名は血液ガス分析装置の責任者も兼務)と技師長の3名が法的脳死判定委員会に出席し意見を述べた。法的脳死判定中は上記の技師2名と脳波検査以外に従事している生理検査室職員1名が加わった3名で脳波検査と無呼吸テストに携わった。業務を遂行する人数は過不足なく配置できたと考えるが,法的脳死判定に関して必要な知識を持っている技師は少なくとも1名は必要であり,2名以上いると安心して行えると感じた。法的脳死判定中は重圧を感じやすく,検査を進めていく上では2名以上で確認しながら行うことで心的負担をかなり軽減しながら行えたと感じる。法的脳死判定が未経験であっても,研修会等で学んだ知識や資料は重宝するため,今後も学習していきたいと考える。

日常業務と並行して法的脳死判定の準備を行ったので勤務の調整は必要不可欠であった。法的脳死判定をいつ実施するか定かではなかったため,夜勤や代休等を変更するのに二転三転してしまい,また生理検査の担当者だけでは勤務の変更は困難であるため,検査部全体で変更を考え通常業務も運営できるようにしていく必要があった。ご家族の同意状況や患者の容態により法的脳死判定の話は一進一退するため,検査部としては主治医や病院事務,移植コーディネーターとの情報共有は必須であった。法的脳死判定の実施日が不確定な場合は,柔軟に対応できるように部員は心づもりをしておき,実施日が確定してから勤務変更の対応をしても十分可能であると考える。

今回の法的脳死判定は,日勤業務を終えてから1回目が午後6時から開始し,2回目が翌日午前3時開始であった。「医師の働き方改革」が言われている中で,今回は長時間の拘束になったことにより,多数の意見があがり次回以降は開始日・時間が取り組みやすい日程で検討されることとなった。

2021年に内閣府で行われた「移植医療に関する世論調査」の結果4)によると,「臓器移植に関して関心を示している人」が65.5%との報告があり,臓器移植に関心を持った理由として保険証や免許証の裏面にある意思表示欄などから臓器移植について関心を持ったとの回答があった。また「脳死下または心停止後に臓器を提供する意思を持っている」と回答した人が39.5%であった。一方「提供したくない」と回答した人は24.3%という結果であった。2010年の臓器移植法改正により,脳死後の臓器移植件数は年々増加しており,2020年の新型コロナウイルスの流行により件数は若干低迷を認めているが今後も増加が想定される。

今後,脳死下での臓器移植が増加する場合,技師が法的脳死判定に関与する機会も増加することが考えられる。法的脳死判定に関する研修会に参加するだけでなく,医療者間のチームワークが必要とされるため,技師も院内コーディネーターの一員になることや,臓器移植に関する会議に出席するなどして他職種と連携をとれるようにしておくことが重要であると考えられる。また,法的脳死判定に関わる技師は,長時間拘束となってしまい,一方で通常の業務は人手不足になり易く,業務に支障をきたしてしまう。実際,今回の事例においても脳波検査を行う技師が抜けてしまうため,夜勤や休日の変更をしつつも通常の脳波検査等の検査の制限をかけた背景もある。そのため,今後の課題として脳波検査ができる担当技師を増やすとともに,脳波担当技師以外も交えて法的脳死判定を想定した練習を行い流れや段取りを習得するだけでも,双方の負担が軽減されると想定される。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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