2023 Volume 72 Issue 4 Pages 506-512
当院ICU入室患者を対象に,IL-6と他のバイオマーカーの推移を比較し,IL-6の炎症早期マーカーとしての有用性を検討した。ICU入室日から5日間の各マーカーの変動を評価したところ,IL-6はPCT,CRP,SAAに比べICU入室後早期に出現し,その後漸減する傾向を示すことが確認された。この傾向は手術の緊急性や感染の有無に関わらないことから,IL-6は炎症早期マーカーとして有用であることが示唆された。また,ICU入室時のIL-6値がICU在室日数の指標になるか検討したところ,ICUに4日以上在室した群は3日以内に退室した群よりも入室時のIL-6(p < 0.05),PCT(p < 0.01)の値が有意に高値であり,ICU入室時の値が在室日数の予測に寄与する可能性が示めされた。本研究により侵襲の程度や感染の有無がIL-6の推移に変動を与える可能性も示唆され,他の所見の総合的な判断を踏まえたIL-6値の評価が,治療方針の早期の決定に寄与することが期待される。
We compared the trends of the levels of IL-6 and other biomarkers in patients admitted to our ICU and investigated the usefulness of IL-6 as an early marker of inflammation. The results showed that IL-6 appeared earlier than PCT, CRP, and SAA after admission to the ICU and its level tended to decrease gradually thereafter. The IL-6 level tended to peak on the first day regardless of the presence or absence of infection, surgical urgency, or surgical site. Furthermore, the possibility of predicting the length of stay using IL-6 levels at ICU admission was examined, and IL-6 (p < 0.05) and PCT (p < 0.01) levels at admission were significantly higher in the group that stayed in the ICU for more than 4 days than in the group that left within 3 days, suggesting that the levels at ICU admission may contribute to predicting the length of stay. The results suggest that the levels at ICU admission may contribute to the prediction of the length of stay. Since this study also suggests that the degree of invasion and the presence or absence of infection may cause fluctuations in IL-6 levels, the evaluation of IL-6 levels based on a comprehensive judgment of other findings is expected to contribute to an early decision on a treatment strategy.
インターロイキン6(IL-6)はT細胞の培養液中に存在するB細胞分化や抗体産生誘導因子の1つとして,1986年に遺伝子単離された26 kDaの糖蛋白である1)。侵襲時(感染や外傷など)には活性化されたマクロファージや単球などからIL-6が産生され,全身で炎症反応を惹起する一方で,サイトカインストームのように産生制御が乱れ過剰に産生されると,血液凝固カスケードの活性化や血管透過性を亢進させることで臓器障害を誘発することが知られている2)。生体反応の制御に関与する主要な炎症性サイトカインであり,造血,骨代謝,癌の進行などにも関与することから,炎症の重症度把握や臓器障害の予測に有用とされる3)。
2021年1月には,救急搬送された患者,集中治療を要する患者又は集中治療管理下の患者において,全身性炎症反応症候群と診断した,又は疑われる場合の重症度判定の補助を目的としたIL-6の測定に保険収載がなされている。
IL-6は他の炎症マーカーであるC-反応性蛋白(CRP),プロカルシトニン(PCT)の産生誘発因子であり,早期から血中濃度が上昇することが報告されている4),5)が,国内でIL-6の経時変化や有用性を他の炎症マーカーと比較した例は少ない。
そこで今回,集中治療室(ICU)入室患者を対象にIL-6と他のバイオマーカーの推移を比較し,IL-6の炎症早期マーカーとしての有用性を検証した。また,併せてIL-6値によるICU在室日数予測指標としての可能性についても検討した。
2021年6月から11月まで当院ICUに入室し,残余血清が得られた82名(男性62名,女性20名,年齢中央値68歳)を対象とし,患者背景をTable 1に示した。
Age Median (range) | 68 (6–89) | |
Gender | Male | 62 |
Female | 20 | |
Clinical Department | Cardiac surgery | 38 |
General surgery | 17 | |
Otorhinolaryngology | 4 | |
Infectious diseases | 3 | |
Cardiology | 3 | |
Gastroenterology | 3 | |
Oral surgery | 2 | |
Thoracic surgery | 2 | |
Orthopedic surgery | 2 | |
Neurological surgery | 2 | |
Pediatrics | 2 | |
Plastic surgery | 1 | |
Respiratory medicine | 1 | |
Neurology | 1 | |
Rheumatology | 1 |
IL-6及び当院で測定している他の炎症マーカーであるPCT,CRP,血清アミロイドA蛋白(SAA)をICU入室日から最大5日間連続測定した。測定に使用した機器と試薬をTable 2に示した。
Check items | Instruments | Reagents |
---|---|---|
Interleukin-6 (IL-6) | Cobas8000 e801 (Roche Diagnostics, Switzerland) |
Elecsys IL-6 immunoassay (Roche Diagnostics, Switzerland) |
Procalcitonin (PCT) | Cobas8000 e801 (Roche Diagnostics, Switzerland) |
Elecsys PCT immunoassay (Roche Diagnostics, Switzerland) |
C-reactive protein (CRP) | TBA-FX-8 (Canon Medical Systems Corporation, Japan) |
N-assay LA CRP-U Nittobo (NITTOBO MEDICAL CORPORATION, JAPAN) |
Serum amyloid A (SAA) | TBA-FX-8 (Canon Medical Systems Corporation, Japan) |
LZ-SAA ‘Eiken’ (Eiken Chemical Corporation, Japan) |
残余血清が得られた69名(男性54名,女性15名,年齢中央値67歳)を対象にICU入室日(Day 1)から5日目(Day 5)までの各炎症性バイオマーカーの経時的推移を比較した。また,IL-6の経時的推移について,ICUに入室した背景別についても追加解析を行った。追加解析は予定手術群(46名),緊急手術群(10名)及び非手術群(13名)の3群で推移を比較し,予定手術においては循環器系術後群(28名),消化器系術後群(8名)及びその他術後群(9名)でも比較した。さらにPCT 0.5 ng/mLを感染の有無のカットオフ値とし,感染の有無で各種マーカー推移に変化があるか感染群(29名),非感染群(40名)で比較した。
2) ICU入室日の各炎症マーカーの値と在室日数との関連当院のICU平均在室日数である3日を基準とし,ICU在室3日以内群と4日以上群における入室時の各炎症性バイオマーカー値を比較し,receiver-operating characteristic(ROC)解析を行った。
4. 統計解析統計解析ソフトJMP Pro 16.0.0を使用し,Mann-Whitney U検定を用いて検定した。p < 0.05を有意差ありと定義した。
なお,本検討は,東北大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認のもと実施した(2021-1-523)。
全症例においてICU入室日の各バイオマーカーの中央値は,IL-6 66.6 pg/mL,PCT 0.34 ng/mL,CRP 2.85 mg/dL,SAA 283.1 μg/mLであった(Table 3)。ICU入室日から5日目までの炎症性バイオマーカーの推移を比較すると,IL-6はDay 1,CRPはDay 2,SAA及びPCTはDay 3にピークを迎え,以後漸減する傾向を示し,IL-6,CRP,SAAではピークを迎えた日と他の日との間に有意差(p < 0.05)を認めた(Figure 1)。また,予定手術群(Figure 2A),緊急手術群(Figure 2B)及び非手術群(Figure 2C)でも同様にIL-6がDay 1にピークを示した。予定手術群ではピークを迎えた日と他の日との間に有意差(p < 0.05)を認めたが,緊急手術群及び非手術群では有意差を認めなかった。さらに予定手術群を術部位別に分類しても同様に循環器系術後群,消化器系術後群及びその他術後群の全てでIL-6が初日にピークを示し,循環器系術後群及びその他術後群ではピークを迎えた日と他の日との間に有意差(p < 0.05)を認めた(Figure 3)。
Check items | Unit | Median (25%–75%) |
---|---|---|
IL-6 | pg/mL | 66.6 (38.8–167.5) |
PCT | ng/mL | 0.34 (0.11–1.66) |
CRP | mg/dL | 2.85 (0.46–8.27) |
SAA | μg/mL | 283.1 (29.5–715.4) |
For each biomarker, the peak day is indicated by red square. IL-6 peaked on Day 1, CRP peaked on Day 2, SAA and PCT peaked on Day 3 and tended to decrease gradually thereafter. IL-6 and CRP and SAA showed significant differences between the day of the peak and other days (p < 0.05).
For each biomarker, the peak day is indicated by red square. IL-6 peaked on Day 1 in all groups as well. Significant differences were observed between the day of peak and other days in the scheduled surgery group (p < 0.05), but not in the emergency surgery group or the non surgical group.
For each biomarker, the peak day is indicated by red square. IL-6 peaked on Day 1 in all groups, and significant differences were observed between the day of peak and other days in circulator system post-operative group and other postoperative group (p < 0.05).
感染の有無による推移では,感染の有無に関わらずIL-6がDay 1にピークを迎え,他の日との間に有意差(p < 0.05)を認めた(Figure 4A, B)。
For each biomarker, the peak day is indicated by red square. IL-6 peaked on Day 1 with a significant difference (p < 0.05) in both infection and non-infection groups.
ICU在室3日以内群と4日以上群におけるDay 1の各炎症性バイオマーカー値を比較すると,ICU在室4日以上の群は,3日以内の群に比べICU入室時のIL-6(p < 0.05),PCT(p < 0.01)が有意に高値であった(Figure 5)。また,Day 1におけるICU在室3日以内群と4日以上群の各炎症性バイオマーカーのROC解析の結果,カットオフ値は,IL-6 32.3 pg/mL,PCT 0.20 ng/mL,CRP 13.09 mg/dL,SAA 873.6 μg/mLであった。また,各群の分別能を表すROC曲線下面積(AUC)はそれぞれ0.632,0.693,0.427,0.429であった。
IL-6 (p < 0.05) and PCT (p < 0.01) values at admission were significantly higher in the group that stayed in the ICU for more than 4 days than in the group that left within 3 days.
本研究では,IL-6をICU入室日から経時的に測定し,IL-6はPCT,CRP,SAAに比べICU入室後早期に出現し,その後漸減する傾向があることが確認された。IL-6は侵襲に対する全身的急性反応時に放出されるサイトカインであり,CRPやSAA,フィブリノーゲン,ハプトグロビンなどの急性相蛋白の産生誘導に関わっている6)~8)。また,PCTも重篤な障害や感染症では身体から放出される複数の炎症性サイトカインにより,持続的に放出されることから,組織や臓器の二次的な障害に関与しているとされている9),10)。今回の結果は全身への侵襲や障害によって放出されたIL-6の誘導により,PCT,CRP,SAA血中濃度が増加したことが示唆される結果であった。しかし,ICU入室以前の患者状態により,IL-6の血中濃度に差が生じる可能性が考えられる。そこで,ICU入室以前のサイトカイン変動を考慮するため,予定手術群を対象にIL-6や他の炎症マーカーの変動を比較したところ,IL-6は全体と同様入室日にピークとなった(Figure 2A)。また,どの術後群においてもIL-6はICU入室直後にピークとなることから,外科的処置によるサイトカイン放出はIL-6が先行して放出されることが確認された。IL-6合成と外科的外傷の間には関連があるとされ,その上昇の程度は外科的手法の違いや手術の複雑さといった,組織損傷の程度と相関することが報告されている11),12)。また,全身性炎症反応は外科的外傷や人工心肺装置,臓器再灌流障害などで引き起こされるとされている13)。今回解析対象において,他の炎症マーカーと比較し,早期にIL-6上昇が確認され,IL-6が外科的処置による組織損傷や全身性炎症反応の程度をいち早く予測するマーカーとして有用である可能性が示唆された。しかし,本検討では患者背景や術式,再灌流の有無などの情報は解析対象としておらず,患者の層別化には追加解析が必要と考えている。また,術式など比較対象が異なるため,同一の病気の重症度指標であるAPACHEスコアなどとの比較も今後の検討課題である。
PCTを基準にした感染症の有無による各種マーカーのピーク日以降の推移は,PCTを除きほぼ同等の変動であったが,IL-6はDay 4以降も高値を維持した。感染によるサイトカインストームによりIL-6は惹起されることから6),ICU入室時の感染によるサイトカイン放出が継続的に行われていることが示唆された。
当院のICU平均在室日数である3日を基準にした場合,4日を超える期間在室した群は3日以内に退室した群よりも入室時のIL-6,PCTの値が有意に高値であった。ROC解析によると,CRP,SAAに比べPCT,IL-6は在室日数予測を可能にすると考えられる。ICUでは多くの医療資源とマンパワーを要するためICU資源の有効利用は重要な課題であるが,ICU長期滞在患者は入室患者全体の4〜11%に上ることが報告されている14)。また,日本の保険診療では特定集中治療室管理料などは一部の例外を除き2週間までしか算定できず,長期ICU滞在患者にかかるコストは病院経営における課題である。さらに,ICU滞在日数の増加と死亡率の増加の関係についても報告されている14)~16)。
PCTに関しては,ICU入室後の上昇が術後管理に影響することも報告されており17),本検討の解析でも同様の傾向が示された。さらに感染のない患者において,PCTより早期に変動するIL-6をICU入室直後に測定することで,在室日数や予後の予測に寄与する可能性が示唆され,最善な患者のケアや治療方針を早期に決定するためのバイオマーカーとして期待される。しかし,侵襲の程度や感染の有無がIL-6の推移に変動を与える可能性もあり,より臨床的に有用なIL-6値の評価には,患者の診療情報の層別化や,他の所見の総合的な判断が必要不可欠と思われる。
IL-6はPCT,CRP,SAAに比べICU入室後早期に出現することが確認され,早期炎症マーカーとして利用できることが示唆された。
ICU入室時の値が在室日数の予測に寄与する可能性があり,炎症の程度や予後予測など,治療方針を早期に決定するためのバイオマーカーとして期待される。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。