Japanese Journal of Medical Technology
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Relationships among salivary biomarker levels, traits of developmental disorders, and stress responses in university students
Emi UCHIBORIChie OKUBOKoji YONEDA
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2023 Volume 72 Issue 4 Pages 513-521

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Abstract

目的:オキシトシンは,精神的な安らぎを与え,ストレス反応を抑え,人と交わったりする社会的行動への不安を減少させることが知られている。本研究では,大学生を対象として,発達面の特性およびストレスの状態と唾液バイオマーカーとの関連について分析し,発達障害の早期発見やストレス状態の把握のためのバイオマーカーとなる可能性を探った。方法:大学生の男女56人(年齢21~23歳)を対象とした。唾液採取を12:00–13:10に実施後,同日に質問紙調査を実施した。唾液バイオマーカーは,唾液オキシトシン濃度,唾液αアミラーゼ活性および唾液コルチゾール濃度をELISA法で測定した。自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動性障害(ADHD)といった発達面の特性の傾向およびストレスの状態について,3種類の質問紙を用いて評価した。質問紙調査を数値化し,バイオマーカー測定値との関連について分析した。結果:ASD傾向において対人関係の問題があると唾液コルチゾール濃度が高い傾向があり,また想像力の問題があると唾液αアミラーゼ活性が低い傾向があることが見いだされた。そして,ASD傾向のうちコミュニケーションに関する困難があると唾液オキシトシン濃度は低いという関連性が見いだされた。結論:唾液バイオマーカー測定は,他者から気付かれにくい大学生の発達障害やストレス状態の早期発見につながる可能性が示唆された。

Translated Abstract

Background: Oxytocin is known to have anxiolytic, antistress, and analgesic effects, and it supports social connection. We examined the utility of salivary biomarkers as indicators for the early detection of developmental disorders and understanding stress responses. Methods: We recruited 56 university-aged males and females (age range: 21–23). They donated saliva samples from 12:00 to 13:10, then completed three questionnaires on the same day. Salivary oxytocin, cortisol, and α-amylase activity levels were measured using an enzyme immunoassay kit. Traits of developmental disorders and stress responses were assessed using three questionnaires: the Autism-Spectrum Quotient Japanese version (AQ), Public Health Research Foundation scale (PHRF-SCL-SF), and Connors Adult attention-deficit hyperactivity disorder (ADHD) Rating Scale (CAARS) Japanese version. We analyzed the relationship between questionnaire scores and biomarker measurements. Results: In the group with autistic tendencies (who scored highly on the AQ), we found that interpersonal problems were significantly associated with elevated salivary cortisol levels, and imagination problems were significantly associated with decreased salivary α-amylase activity. We also found a significant association between communication difficulties and reduced salivary oxytocin levels in the group with autistic tendencies. Conclusions: Measurement of salivary biomarkers may lead to the detection of developmental or stress disorders in university students who have not yet been diagnosed.

I  緒言

日本学生支援機構の調査1)によると,大学,短期大学,高等専門学校において障害のある学生が増加傾向にあり,障害種別にみると「発達障害」「病弱・虚弱」「精神障害」の増加が目立っていることが報告されている。また,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(令和3年法律第56号。令和3年6月4日公布)が改正され,全ての大学等において合理的配慮が求められており,発達障害を抱える学生への支援の必要性が増加していることが考えられる。

大学生活において,人に対する信頼,信用が低い学生は,授業や専門的な実習に対して強いストレスを感じている可能性があり,そのストレスを定量的に把握することは,自他ともにいち早くストレスを認知し,その回復支援につなげることができる。

そこで唾液バイオマーカーがストレスセンサとして最適であると考える2)~4)。唾液は採血と違って,自分で簡単に採取することができる。それ自体は病気でないストレスという状態の計測には,非侵襲的で無痛なサンプリング方法が望まれており,唾液が注目されている5)。急性のストレスセンサとして唾液アミラーゼが交感神経の興奮や鎮静を評価し,慢性ストレスセンサとしてコルチゾールが内分泌系の指標として用いられている。

オキシトシンは,精神的な安らぎを与えるといわれる神経伝達物質のセロトニン作動性ニューロンの働きを促進することでストレス反応を抑え,人と交わったりする社会的行動への不安を減少させると考えられている6)。近年,オキシトシンと自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder; ASD)の関連についての研究が進んでおり,先行研究では,ASD者の血中オキシトシン濃度がわずかに低いことが指摘されている7)。またASD児へのオキシトシン投与により症状の改善が見られたという報告もある8)。しかし多くの研究は,血中オキシトシン濃度を測定しており,侵襲性が高い。唾液オキシトシン濃度は血中オキシトシン濃度と相関すると報告があり9),採血の苦痛を伴わない非侵襲的に採取可能な唾液を用いて,唾液オキシトシン濃度とASDなどの発達障害との関連性を明らかにすることは意義があると考える。また,ストレスと唾液アミラーゼ活性および唾液コルチゾール濃度についての研究も進められているが,大学生のストレス状態の簡易で客観的な測定指標としての評価は明らかになっていない。

そこで本研究では,大学生を対象として,ASDや注意欠如・多動性障害(attention-deficit hyperactivity disorder; ADHD)といった発達障害の傾向およびストレスの状態を,質問紙を用いて調査し数値化し,唾液バイオマーカーとして,唾液オキシトシン濃度,唾液αアミラーゼ活性,唾液コルチゾール濃度を測定し,質問紙から得られる数値と唾液バイオマーカー測定値との関連について調査した。

II  材料と方法

本研究は,京都橘大学研究倫理審査委員会の承認(承認番号:21-16(2021年7月))を得て実施した。

1. 材料

A大学生,成人56人(21~23歳,男性13人,女性43人)の研究協力者から,唾液と質問紙の回答を得た。研究協力者は,事前に説明をし,自由意思で参加に同意を得た学生56人である。学生の所属学科の特性上,男性の割合は少ない。研究協力者本人に研究への参加同意を得て実施し,参加同意した場合も,いつでも撤回可能であること,また撤回しても不利益を生じないことを伝えた。唾液サンプルと質問紙については対応表を作成し,個人を直ちには識別できないような匿名化を行った。

2. 方法

研究協力者に対して唾液採取と質問紙の回答を同日に実施した。質問紙への回答が唾液中の成分に心理的影響を与えるのを避けるために,質問紙の回答は唾液採取後に実施した。

実施日は数日に分けて実施し,時間は12:00~13:10とした。全ての研究協力者に当日の食事は,検体採取開始時刻の2時間前までに摂り,その後は飲食を控えることを指示した。ただしカフェインと糖分のない飲料は喉が渇かない程度に摂取を許可した。また,血漿中のオキシトシン濃度が月経時に突発的な高値を示す10)との報告があるため,女性は月経時を避け,生理の2週間前~生理前日までの期間に実施した。

1) 唾液採取方法

唾液採取にはSwab(SALLMETRICS社)を用いた。Swabを口に数分間含むことにより唾液をSwabに吸収させた後,Swab Storage Tubeに移し,遠心により唾液をSwabから分離し,1~2 mLの唾液を採取した。唾液は,−30℃で凍結保存した。

2) 質問紙による調査

大学生の発達面の特性とストレス反応の調査については,大学生の日常の状態を評価できるものとして,次の3種類の質問紙調査を実施した。

① ASD傾向の評価

成人用AQ日本語版自閉症スペクトラム指数Autism-Spectrum Quotient(以下,AQ)11),12)を用いた。AQは,自閉性障害を特徴づける「社会的スキル」,「注意の切り替え」,「細部への関心」,「コミュニケーション」,「想像力」の5つの下位尺度について各10問,全体で50項目から構成されている。

回答は,4件法で求める。採点は,各項目で自閉症傾向を示すとされる側に該当すると回答すると1点が与えられる。AQのカットオフポイントは32点とされ,33点以上が自閉スペクトラム上において障害レベルとして診断する場合の手がかりの一つとなるとされている。

② ADHD傾向の評価

コナーズ成人ADHD評価スケールTM日本語版(以下,CAARS)13),14)を用いた。CAARSは,66項目から成り,「不注意・記憶の問題」「多動性・落ち着きのなさ」「衝動性・情緒不安定」「自己概念の問題」の4つの下位尺度がある。またDSM-IV診断基準に則ってADHD症状を多面的に評価する尺度として「不注意型症状」「多動性-衝動性症状」「総合ADHD症状」の3つの下位尺度があり,さらにADHD指標を加えた8つの下位尺度について評価する。回答のしかたがいい加減だったり不注意だったりするケースを検知するために矛盾指標が加えられている。回答は,4件法で求める。CAARSの解釈は,個々の項目の回答,各尺度の得点,ADHD指標などによって行われるが,本調査では,粗点を用いて分析を行った。

③ ストレス反応の評価

身体的・心理的ストレス反応を調査する目的で,今津らによって2006年に標準化されたPublic Health Research Foundationストレスチェックリスト・ショートフォーム(以下,PHRF-SCL(SF))15),16)を用いた。この尺度は,24項目から成り,日常生活におけるストレス反応の表出を,心理的側面と身体的側面から多面的に測定することができる。この尺度は,「不安・不確実感」,「疲労・身体反応」,「自律神経症状」,「うつ気分・不全感」の4つの下位尺度で構成されており,それにより身体的反応と心理的反応を同時に測定できるものとなっている。回答は3件法で求め,下位尺度ごとに合計得点を算出する。

3) 唾液バイオマーカー測定

市販のELISA測定キットを用いて測定した。唾液オキシトシン濃度はOxytocin ELISA Kit(Enzo社),唾液αアミラーゼ活性はSalivary α-Amylase Assay Kit(Salimetrics社),唾液コルチゾール濃度はCortisol Salivary Immunoassay Kit(Salimetrics社)を用いた。

唾液中に含まれるオキシトシン濃度は微量である為,検体の前処理を行った。−30℃で凍結保存した検体を,37℃温浴中で溶解し,4℃で4,000 g,5分間遠心分離後,サンプルの上清1 mLをマイクロチューブに移し,spin dryer mini.vc-150s(TAITEC社)を用いて,減圧乾燥させた。乾燥させたサンプルは測定まで−30℃で保存した。ELISA測定時に乾燥させたサンプルに250 μLのアッセイバッファーを添加し,溶解してELISA測定検体とした。

唾液αアミラーゼ活性と唾液コルチゾール濃度測定については,凍結保存検体を同条件にて溶解,遠心分離し,ELISA測定検体とした。

4) 統計学的検討

統計ソフトは「IBM SPSS Statistics」を用いた。

唾液バイオマーカー測定値の男女2群間の比較にはマン・ホイットニーU検定(Mann-Whitney U test)を用いた。また,唾液バイオマーカー3種の測定値と質問調査3種より得られた各尺度得点について,相関解析および重回帰分析を行った。

III  結果

1. 唾液バイオマーカー測定値

唾液バイオマーカーのELISA測定値をFigure 1に示す。

Figure 1 Salivary biomarker levels in male and female university students (n = 56, males = 13, females = 43)

There was no significant difference between males and females in oxytocin concentration and α-amylase activity. Salivary cortisol levels were significantly higher in males than in females (U = 115.50, p < .01).

唾液コルチゾール濃度は,男性0.27 ± 0.18 μg/dL,女性0.12 ± 0.07 μg/dLであり,女性が男性に比べ有意に低い結果であった(p < .01)。

唾液アミラーゼ活性は,男性86.92 ± 52.50 U/mL,女性72.20 ± 49.86 U/mLであった。

唾液オキシトシン濃度は,男性33.0 ± 19.4 pg/mL,女性38.4 ± 25.1 pg/mLであった。個人差が大きく,男女間に有意差は認められなかった。

2. 心理学的指標

質問紙調査の解析については,CAARSの矛盾指標得点が8以上の被検者については,すべての質問紙への回答の信頼性が低いと判断し,解析対象から除外した。CAARSの矛盾指標得点が8未満の対象者41名(男性10人,女性31人)について解析を行った。

AQ,CAARSの各尺度,PHRF-SCL(SF),ならびに3つのバイオマーカー測定値の平均値(標準偏差)を,全対象者と男性,女性に分けてTable 1に示す。

Table 1 Mean (SD) of each psychological scale score (AQ, PHRF-SCL (SF), and CAARS) and salivary biomarker levels for university students

psychological scale Subscale total (n = 41) males (n = 10) females (n = 31)
Mean (SD) Mean (SD) Mean (SD)
AQ Japanese version social skill 4.098 (2.755) 2.900 (2.767) 4.484 (2.682)
attention switching 5.415 (1.884) 5.600 (1.265) 5.355 (2.058)
local details 5.707 (2.182) 5.500 (2.550) 5.774 (2.093)
communication 3.683 (2.173) 3.300 (2.406) 3.806 (2.120)
imagination 3.000 (1.732) 3.600 (1.776) 2.806 (1.701)
Total AQ score 21.902 (5.616) 20.900 (5.877) 22.226 (5.590)
CAARS Japanese version Inattention/Memory Problems 12.878 (6.302) 14.500 (9.360) 12.355 (5.050)
Hyperactivity/Restlessness 10.390 (7.758) 13.500 (11.218) 9.387 (6.184)
Impulsivity/Emotional Lability 10.415 (7.523) 11.800 (10.696) 9.968 (6.348)
Problems with Self-Concept 8.195 (4.523) 7.400 (4.452) 8.452 (4.589)
DSM-IV: Inattentive Symptoms 8.195 (5.066) 10.400 (7.863) 7.484 (3.678)
DSM-IV: Hyperactive-Impulsive Symptoms 6.122 (5.134) 9.800 (7.642) 4.935 (3.415)
DSM-IV: ADHD Symptoms Total 14.317 (9.663) 20.200 (15.419) 12.419 (6.158)
ADHD Index 11.561 (6.667) 14.100 (9.927) 10.742 (5.183)
point of contradiction 4.390 (1.730) 3.600 (2.221) 4.645 (1.496)
Public Health Research Foundation Anxiety/uncertainty 5.659 (2.912) 4.300 (2.983) 6.097 (2.797)
Fatigue/physical reaction 6.122 (3.250) 4.700 (3.529) 6.581 (3.074)
autonomic symptoms 1.951 (1.465) 1.800 (1.398) 2.000 (1.506)
Depressed mood/feeling of inadequacy 4.800 (2.643) 3.778 (3.383) 5.097 (2.371)
salivary biomarkers salivary cortisol concentration (μg/dL) 0.173 (0.141) 0.309 (0.195) 0.129 (0.083)
Salivary α-amylase activity (U/mL) 76.400 (56.204) 85.346 (59.798) 73.514 (55.712)
salivary oxytocin concentration (pg/mL) 39.047 (25.485) 34.528 (22.539) 40.505 (26.544)

1) AQ

今回の対象には,AQのカットオフポイント32点を超えた人はいなかった。

2) CAARS

CAARSにおける各尺度およびADHD指標については,明確なカットオフ値はなく,T得点での評価17)においてT得点が70を超えると症状のレベルがかなり高いとみなす。本研究では,粗点を用いて分析を行っているため,各尺度においてT得点が70以上と判断される粗点を参照したところ,DSM-IVによるADHDの診断基準を満たしているか否かを判断する指標である「DSM-IV総合ADHD症状」尺度において,T得点が70を超えた被験者のうち,矛盾指標が基準値内の人は3名であった。

3) PHRF-SCL(SF)

PHRF-SCL(SF)における各尺度の平均得点については,今津らの報告15)の一般群に比べて不安・不確実感と疲労・身体反応の平均得点が高いが,4つの下位尺度のいずれも平均 ± 1SD範囲内の値を示した。

3. 相関解析

今回の対象は男性が数少なく,唾液コルチゾール濃度に男女で有意差を認めたことから,相関解析についてはCAARSの矛盾指標得点が8未満の女性(31名)のみで解析を行った。

1) AQの各尺度,CAARSの各尺度ならびにPHRF-SCL(SF)の各尺度と唾液バイオマーカー測定値の相関解析

AQの各尺度と唾液バイオマーカーの相関をTable 2に示す。唾液コルチゾール濃度が社会的スキル得点(p < .01),コミュニケーション得点(p < .01)ならびに,AQ総合得点(p < .01)と有意な正の相関を認めた。また,唾液αアミラーゼ活性は,想像力得点と有意な負の相関(p < .05)を認めた。

Table 2 Correlation between AQ scale score and salivary biomarker levels for university students

AQ scale score Salivary biomarker levels
cortisol levels α-amylase activity oxytocin levels
social skill .464** −.113 −.057
attention switching .169 −.011 −.227
local details .228 .277 .211
communication .414* .134 −.170
imagination .088 −.357* .082
Total AQ score .554** .012 −.072

**p < .01, *p < .05

CAARSおよびPHRF-SCL(SF)の各尺度と唾液バイオマーカー測定値については有意な相関を認めなかった。

2) AQの各尺度とPHRF-SCL(SF)の各尺度の相関分析(Table 3
Table 3 Correlation between each subscale scores of AQ Japanese version and Public Health Research Foundation for university students

AQ scale score Public Health Research Foundation score
Anxiety/uncertainty Fatigue/physical reaction autonomic symptoms Depressed mood/feeling of inadequacy
social skill .167 −.051 .074 .123
attention switching .353 .293 .011 .102
local details .317 .151 −.053 .219
communication .267 .212 .334 .488**
imagination −.234 −.054 .026 −.144
Total AQ score .359* .204 .154 .320

**p < .01, *p < .05

不安・不確実感とAQ総合得点(p < .05),うつ気分・不全感とコミュニケーション得点(p < .01)の間に有意な相関を認めた。

3) CAARSの各尺度得点とPHRF-SCL(SF)の各尺度の相関解析(Table 4
Table 4 Correlation between each subscale scores of CAARS Japanese version and Public Health Research Foundation for university students

CAARS Japanese version Public Health Research Foundation score
Anxiety/uncertainty Fatigue/physical reaction autonomic symptoms Depressed mood/feeling of inadequacy
Inattention/Memory Problems .094 .347 .022 .094
Hyperactivity/Restlessness .011 .405* .345 .304
Impulsivity/Emotional Lability .271 .565** .359* .600**
Problems with Self-Concept .693** .262 .227 .575**
DSM-IV: Inattentive Symptoms .099 .163 .084 .216
DSM-IV: Hyperactive-Impulsive Symptoms .147 .420* .246 .486**
DSM-IV: ADHD Symptoms Total .141 .330 .187 .399*
ADHD Index .360* .367* .273 .528**
point of contradiction .144 .068 .178 .132

**p < .01, *p < .05

不安・不確実感は,自己概念の問題(p < .01)とADHD指標(p < .05)との間に有意な相関を認めた。疲労・身体反応は,多動/落ち着きのなさ(p < .05),衝動性/情緒不安定(p < .01),DSM-IV多動-衝動性症状(p < .05),並びにADHD指標(p < .05)との間にそれぞれ有意な相関を認めた。自律神経症状は,衝動性/情緒不安定(p < .05)と有意な相関を認めた。うつ気分・不全感は,衝動性/情緒不安定(p < .01),自己概念の問題(p < .01),DSM-IV多動-衝動性症(p < .05)ならびにADHD指標(p < .01)との間にそれぞれ有意な相関を認めた。

4. 重回帰分析

CAARSの矛盾指標得点が8未満の対象者41名(男性10人,女性31人)について解析を行った。

1) AQ,ならびにCAARSの各下位尺度を独立変数とし,3種の唾液バイオマーカー測定値を従属変数とした重回帰分析結果(Table 5
Table 5 Multiple regression analysis with subscales score of AQ and CAARS as independent variables and salivary biomarker levels as dependent variables

independent variable Salivary biomarker levels
cortisol levels α-amylase activity oxytocin levels
sex −0.594** −0.121 0.148
AQ Japanese version social skill −0.256 −0.331 0.163
attention switching −0.003 −0.203 −0.347
local details 0.171 0.019 0.351
communication −0.063 0.246 −0.499*
imagination 0.119 −0.360 0.239
CAARS Japanese version Inattention/Memory Problems 0.070 0.377 0.073
Hyperactivity/Restlessness 0.030 −0.319 −0.081
Impulsivity/Emotional Lability 0.026 0.201 0.325
Problems with Self-Concept 0.172 0.061 −0.005
R2 0.307 0.306 0.246

**p < .01, *p < .05, p < .10

唾液コルチゾール濃度は,性別(p < .01)のみ有意な関連を示した。唾液オキシトシン濃度は,コミュニケーション得点と有意な関連(p < .05)を示した。

2) 性別,AQ総合得点,ならびにDSM-IV総合ADHD症状を独立変数とし,3種の唾液バイオマーカー測定値を従属変数とした重回帰分析結果(Table 6
Table 6 Multiple regression analysis with gender, total AQ score, DSM-IV ADHD symptoms, and total score of CAARS subscale as independent variables and salivary biomarker levels as dependent variables

independent variable Salivary biomarker levels
cortisol levels α-amylase activity oxytocin levels
sex −0.580** 0.015 0.098
Total AQ score 0.297* −0.123 −0.117
DSM-IV: ADHD Symptoms Total 0.013 0.267 −0.044
R2 0.395 0.074 0.028

**p < .01, *p < .05, p < .10

全般的なASD傾向やADHD傾向と唾液バイオマーカーの関連を見るために,重回帰分析を行った。唾液コルチゾール濃度のみ,性別(p < .01)とAQ総合得点(p < .05)において有意な関連を認めた。

IV  考察

唾液バイオマーカー測定値については,唾液コルチゾール濃度と唾液αアミラーゼ活性は,全被検者が基準値範囲内であり,異常な高値を示すものはなかった。唾液オキシトシン濃度については,使用キットに基準値は示されておらず,個人により差が大きかった。これらの3つの唾液バイオマーカー測定値と質問紙調査より得られた心理学的指標との間には次のいくつかの関連が認められた。

ASD傾向については,AQ下位尺度の社会的スキルとコミュニケーションの対人関係に問題がある場合や,AQ総合得点が高く総合的なASD傾向が高い人ほど唾液コルチゾール濃度が高いことが示唆された。これは総合的な自閉傾向が高い人は,対人関係やコミュニケーションが苦手,また新しい場所や人など新規場面が苦手などの特性があるため,大学生活において友人関係の中で継続した強いストレスを受けており,慢性ストレスマーカーである唾液コルチゾール濃度が高いと考えた。今回の測定では,女性の方が男性より唾液コルチゾール濃度が低い結果となったが,一般的にコルチゾール濃度に性差は認めないため,男性の人数が少なかった今回の対象集団の特性によるものと考える。

また,想像力に問題があると唾液αアミラーゼ活性が低い傾向が示唆された。コミュニケーションはお互いが意思疎通をするために,お互いが想像しながら進んでいくものだが,想像力に問題がある人は,相手の心情を表情や言葉のニュアンスから察することが苦手であり,他人の言動に影響されないため,社会行動に関して急性的なストレスを感じることが少なく,唾液αアミラーゼ活性が低いのではないかと考えた。

ADHD傾向およびストレス反応と唾液バイオマーカーについては有意な相関を認めなかったが,ASD傾向とストレス反応およびADHD傾向とストレス反応について相関を認めた。全般的な自閉症傾向が強いと,不安感が強くなる傾向があること,また,コミュニケーションの問題が大きいほど,抑うつ感が高まることが考えられた。そしてADHDに関連する特性は,さまざまなストレス反応に関連していると考えられるが,不注意症状に関する尺度得点は,ストレス反応との関連性は低く,多動衝動性に関する尺度得点とストレス反応の関連性は統計的に有意であった。

重回帰分析結果からは,唾液コルチゾール濃度は,ASD傾向やADHD傾向の下位尺度値に関連しないが,AQ総合得点が高く,総合的なASD傾向が高いほど唾液コルチゾール濃度が高いことが示唆された。さらに,AQのコミュニケーションに関する困難があると唾液オキシトシン濃度は低いことが示唆された。この結果は,血中オキシトシン濃度を用いた先行研究の結果を支持するものである可能性が示唆され,侵襲性の低い唾液中オキシトシン濃度の測定がASD傾向を知る指標の一つとなりうる可能性が示唆された。さらに臨床群との比較研究など慎重な研究を進め,関連を明らかにしていく必要があると考える。

最後に,今回の結果からADHD傾向およびストレス評価各尺度について,3種の唾液バイオマーカーとの有意な関連が認めなかったことは,ADHD傾向およびストレス状態の評価を質問紙による自己評価のみで行ったため,結果の信頼性が低いことが考えられた。井澤ら5)は質問紙で測定した慢性的・長期的ストレスと唾液中指標の対応をみるだけでは不十分であることを指摘したうえで,客観的なストレス事態との関連や臨床的な変数との関連も検討し,唾液中指標によって測定し得るストレスの側面を明らかにすることが必要であるとしている。本研究の協力者は自由意思での参加であり,修学困難なほど大きなストレスを抱えている学生は含まれていない。56人全員が順調に学生生活を送り4年間で卒業した学生である。不安を抱える学生は自ら協力者に立候補することはなく,今回は協力を得られなかった。今後は修学困難な学生にも研究参加の同意を得て調査し,障害を抱える学生の唾液バイオマーカー値についても明らかにしていきたい。

V  結語

本研究では,ASD傾向を評価する質問紙の得点と,唾液コルチゾール濃度,唾液αアミラーゼ活性,唾液オキシトシン濃度に有意な関連が見いだされた。大学生において唾液バイオマーカー測定は,他者から気付かれにくい大学生の発達障害やストレス状態の早期発見につながる可能性があると考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本研究を行うにあたり,ご協力を頂いた研究協力者の皆様へ深く感謝申し上げます。

本研究は2021年度 京都橘大学総合研究センター 公募型研究助成費「本学の特色―21004(2021年5月)」を受け実施しました。

文献
 
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