2023 Volume 72 Issue 4 Pages 643-648
Aerococcus属菌は通性嫌気性グラム陽性球菌で,泌尿器系疾患が背景にある高齢男性の尿路感染症の起因菌となることが多く,まれに菌血症や心内膜炎の起因菌となることが報告されている。泌尿器系疾患が背景にある高齢男性の菌血症3症例を経験し,1例は感染性心内膜炎であった。Aerococcus属菌は血液培養液でのグラム染色ではStaphylococcus属菌様に観察されるが,血液寒天培地上の集落ではα溶血性集落を示し,α溶血Streptococcus属菌やEnterococcus属菌に類似しているため,α-Streptococcusとして誤同定される可能性がある。また同定検査キットや機器においても,データベースが不足しているため同定が困難な菌種があり注意が必要である。実際に,当院で経験した3症例すべて,血液培養検査と同時に採取し外部委託検査会社へ検査依頼した尿培養検査の結果は,Streptococcus spp.と報告された。しかし,血液培養からの検出菌を同定後,院内で自動分析装置,API20Strepなどの同定キット及び質量分析を用いて再同定を行ったところ,3例全てAerococcus属菌と同定することができ,Streptococcus spp.は誤同定であったことが確認された。Aerococcus属菌の同定には,まず本菌の性質を熟知していることが重要であり,また今後の情報蓄積のために,質量分析(MALDI-TOF-MS)や遺伝子検査などによる同定確認が望ましいと考えられた。
Aerococcus spp. are facultative anaerobic gram-positive cocci that often cause urinary tract infections in older men with a history of urological diseases. These species have been reported to rarely cause bacteremia or endocarditis. In our hospital, we encountered three cases of bacteremia in older men with urological diseases; one of these cases was infective endocarditis. Aerococcus spp. have the same characteristics as Staphylococcus spp. on Gram staining of blood culture media. However, on blood agar medium, they show alpha-hemolytic colonies and resemble alpha-hemolytic Streptococcus and Enterococcus spp. Therefore, Aerococcus spp. may be misidentified as α-Streptococcus. In addition, during the use of identification test kits and automatic analyzers, some strains are difficult to identify owing to insufficient databases of these instruments. In fact, in all three cases in our hospital, the results of the urine culture performed by an outsourced laboratory identified the causative organisms as Streptococcus spp. However, they were all re-identified as Aerococcus spp. using an automatic analyzer, an identification kit such as API20Strep, and a mass spectrometer. For the identification of Aerococcus spp., a thorough understanding of their characteristics is important. Furthermore, identification should be confirmed by MALDI-TOF-MS or genetic testing for future accumulation of information.
Aerococcus属菌は通性嫌気性グラム陽性球菌であり,埃などの環境中に存在し,ヒトの皮膚や腸管内,尿道等にも常在している1)。現在,Aerococccus属菌は,Aerococcus urinaeをはじめAerococcus viridans,Aerococcus christensenii,Aerococcus sanguinicola,Aeroccous urinaehominis,Aerococcus urinaeequi,Aeroccous suis,Aeroccous vaginalisの8菌種に分類されている。そのうち臨床材料から分離されることが多いのはA. urinae,A. sanguinicola,A. viridansの3菌種である。A. urinaeが尿培養から検出される頻度は0.16~0.25%2),3)であり,尿路感染症の起因菌の0.31~0.44%を占めるとされ4),背景に泌尿器系疾患のある高齢者の尿路感染症の起因菌として,また稀に敗血症や,感染性心内膜炎,腹膜炎,椎体炎など侵襲性感染症の起因菌としても報告がある5),6)。また,A. uinae及びA. sanguinicolaは,バイオフィルムを形成し,血小板を凝集させ感染性心内膜炎を生じると報告されている7),8)。本稿では,Aerococcus属菌の性状を概説するとともに,3症例から得た経験をもとに検査においての留意点を考察する。
Aerococcus属菌による菌血症を3例経験した。3例のうち,A. sanguinicolaが1例,A. urinaeが2例であった。うち1例は,A. urinaeによる感染性心内膜炎であった(Figure 1)。
大動脈無冠尖(赤丸内)に0.5 cm程の疣腫
3症例はすべて85歳以上の高齢者であり,基礎疾患に前立腺肥大症,前立腺癌,尿閉など泌尿器系疾患があった。血液培養と同時に採取された尿培養からもAerococcus属菌が検出された(Table 1)。
症例番号 | 1 | 2 | 3 |
---|---|---|---|
年齢 | 90歳 | 85歳 | 87歳 |
性別 | 男性 | 男性 | 男性 |
基礎疾患 | 前立腺癌 | 前立腺肥大症 | 尿閉 |
尿中白血球反応 | (−) | 2+ | 3+ |
血液培養検出菌 | A. sanguinicola | A. urinae | A. urinae |
尿培養検出菌 | A. sanguinicola A. urinae |
A. urinae | A. urinae |
グラム染色では,グラム陽性球菌でA. sanguinicola,A. urinaeはどちらもStaphylococcus属菌様に観察された(Figure 2)。
ブドウ球菌様のGPCクラスターを認めた(×1,000)
グラム染色液 フェイバーG染色液(島津ダイアグノスティクス)
通性嫌気性菌であり,検出には5%ヒツジ血液寒天培地を用いて,35℃ 5% CO2条件下で培養を行った。同条件下で培養を行ったBTB寒天培地には発育を認めなかった。24時間培養では,α溶血性集落を形成し,集落の特徴がα溶血性Streptococcus属菌やEnterococcus属菌様に観察された。またA. urinaeは直径0.5 mm程度のα溶血性の灰白色の小集落を形成し,対してA. sanguinicolaはA. urinaeと比較するとα溶血性は弱く,若干大きめであり,約1 mm程度の灰色~白色の集落を形成した(Figure 3)。どちらも特徴的な臭気は認められなかった。
Aerococcus属菌はカタラーゼ試験陰性であり,A. urinae,A. sanguinicola,A. viridansの3菌種は,生化学的性状のピロリドニルアリルアミダーゼ(pyrrolidonylarylamidase; PYR),ロイシンアミノペプチザーゼ(leucine aminopeptidase; LAP),β-グルクロニダーゼ(β-glucuronidase; β-GUR)により分類が可能とされ9)(Figure 4),3例から分離された3菌とも検査キットであるApi20Strep(シスメックス・ビオメリュージャパン社)が菌種同定に有用であった(Figure 5)。RapidID32STREP(シスメックス・ビオメリュージャパン社)も同定可能とされているが,本キットではLAPの項目がないため誤同定されることがあり注意が必要である。また,検査キットの同定検索においてA. sanguinicolaは蓄積されたデータベースがなくA. viridansとして判定されることや,A. urinaeは古いデータベースを用いるとStreptococcus acidominimusと誤同定されることに注意が必要である。実際に,RapidID32STREPを用いてA. viridansと同定された株を質量分析装置MALDI Biotyper(ブルカー・ダルトニクス社)にて再同定した結果,PYR(−)株はA. urinae,PYR(+)株はA. sanguinicolaと同定され,A. viridansと同定された株はなかったという報告もある10)。また,Aerococcus属菌の検出頻度について,微生物自動分析装置であるBD Phoenix100(日本ベクトン・ディッキンソン社)や,RapidID32STREPを用いて同定を行っていた7年10か月の期間では,A. viridans 6件とA. urinae 1件の計7件であったのに対し,質量分析装置MALDI Biotyper(ブルカー・ダルトニクス社)を導入後は,尿路系材料,血液培養からの検出件数が1年間で40件に増加したという報告がある11)。40件のうち血液培養陽性症例が2例あり,ともにA. urinaeであった。また尿路系材料からの検出菌の内訳はA. urinaeが大半であり,A. sanguinicolaが12%程度,A. viridansは検出されなかった。当院の3症例は,血液培養液のグラム染色と分離培養の結果よりAerococcus属菌を疑い,Api20Strepを用いて同定検査を行った。3症例から検出されたうちの1株はプロファイル番号65510010となり,データベース(V8.0)で検索を行った結果,A. viridans 99.7%と同定された(Figure 5)。しかし,生化学項目のうちPYR,β-GURが陽性,LAPは弱陽性となり陰性と判断した。誤同定の可能性を考え,質量分析装置での再同定を行った。結果は,A. sanguinicola(Score value: 2.08)となった。
臨床検体から分離されることが多いA. urinae,A. sanguinicola,A. viridansの生化学的性状による分類
A. sanguinicola(プロファイル番号:65510010 A. viridans 99.7%)
A. urinae(プロファイル番号:3440301 A. urinae 99.0%)
Aerococccus属菌の判定基準はCLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)M45 3rd Editionに,McFarland0.5に調整した菌液を,2.5~5%ウマ溶血血球加ミュラーヒントンブロスに接種し,35℃ 5% CO2 20~24時間培養後判定と記載されている。今回は,MICroFAST7J(ベックマンコールター社)を用いた微量液体希釈法による薬剤感受性試験を実施し,参考値として報告した(Table 2)。結果は各抗菌薬に概ね低いMICを示していたが,A. sanguinicola 1株はlevofloxacin(LVFX)に対しMIC 8と耐性であった。A. sanguinicolaはβラクタム系抗菌薬に対し低いMICを示すとされている1)。A. urinaeはβラクタム系抗菌薬,linezolid(LZD),tetracycline(TC),vancomycin(VCM)に対し95~100%と高い感受性率を示し,LVFXに対しては,84%と感受性率が低下傾向であると報告されている12)。また,in vitro試験においてチミジンと葉酸存在下ではSXTに耐性を示すため,臨床現場では耐性と報告することが望ましいとされている12)。A. viridansは基本的にVCMに感受性を示すが,penicillin(PCG),cefotaxime(CTX),ceftriaxone(CTRX),meropenem(MEPM)に高いMIC値を示す株や,VanA遺伝子を保有する株の報告がある13)。しかし,過去の報告では,A. viridansは誤同定結果を用いて薬剤感受性検査が判定されていた例もあると考えられ10),注意が必要である。
Case number | 1 | 2 | 3 |
---|---|---|---|
Detected bacteria | Aerococcus sanguinicola | Aerococcus urinae | Aerococcus urinae |
Antimicrobial drug | MIC | MIC | MIC |
PCG | ≤ 0.03 | ≤ 0.03 | ≤ 0.03 |
ABPC | ≤ 0.06 | ≤ 0.06 | ≤ 0.06 |
CTM | ≤ 0.5 | ≤ 0.5 | ≤ 0.5 |
CTX | ≤ 0.5 | ≤ 0.5 | ≤ 0.5 |
CTRX | ≤ 0.12 | ≤ 0.12 | ≤ 0.12 |
CZOP | ≤ 0.12 | ≤ 0.12 | ≤ 0.12 |
CFPM | ≤ 0.5 | ≤ 0.5 | ≤ 0.5 |
CDTR | ≤ 0.06 | ≤ 0.06 | ≤ 0.06 |
MEPM | ≤ 0.12 | ≤ 0.12 | ≤ 0.12 |
CVA/AMPC | ≤ 0.25/0.12 | ≤ 0.25/0.12 | ≤ 0.25/0.12 |
EM | ≤ 0.12 | ≤ 0.12 | ≤ 0.12 |
AZM | ≤ 0.25 | ≤ 0.25 | ≤ 0.25 |
CLDM | ≤ 0.12 | ≤ 0.12 | ≤ 0.12 |
MINO | 1 | ≤ 0.5 | ≤ 0.5 |
LVFX | 8 | ≤ 0.25 | ≤ 0.25 |
VCM | 0.5 | 0.5 | ≤ 0.12 |
ST | ≤ 0.5/9.5 | ≤ 0.5/9.5 | ≤ 0.5/9.5 |
REP | ≤ 1 | ≤ 1 | ≤ 1 |
CP | ≤ 4 | ≤ 4 | ≤ 4 |
MICroFAST7J(ベックマンコールター社)にて参考値報告
PCG: penicilin G, ABPC: ampicillin, CTM: cefotiam, CTX: cefotaxime, CTRX: ceftriaxone, CZOP: cefozopran, CFPM: cefepime, CDTR: cefditoren povoxil, MEPM: meropenem, CVA/AMPC: clavulanic acid/amoxicillin, EM: erythromycin, AZM: azithromycin, CLDM: clindamycin, MINO: minocycline, LVFX: levofloxacin, VCM: vancomycin, ST: trimethoprim-sulfamethoxazole, RFP: rifampicin, CP: chloramphenicol
患者背景は3例とも基礎に泌尿器系疾患がある高齢者であり,うち1例は感染性心内膜炎であった。血液培養検査よりAerococcus属菌を検出した際は,侵入門戸として泌尿器系を疑い,感染性心内膜炎や腹膜炎,椎体炎など侵襲性感染症を考慮する必要がある。また,今回の3症例は尿培養検査も実施しており,当院では尿培養検査は外部委託している。外部委託先では,尿培養検査において血液寒天培地上でα溶血性Streptococcus属菌様集落を確認した際,肉眼的判定によりStreptococcus spp.と同定される。3症例の尿培養検査結果は全てStreptococcus spp.で,血液培養検出菌と異なる結果であった。院内で実施した血液培養検査よりAerococcus属菌を検出していたため,外部委託先から菌株返却を行い,自動分析装置,API20Strepなどの同定キット及び質量分析装置を用いて再同定を行ったところ,全て血液培養検出と同様のAerococcus属菌と同定できた。グラム染色上でStaphylococcus属菌様に,血液寒天培地上ではStreptococcus属菌様やEnterococcus属菌様に観察される際は,Aerococcus属菌を想起し検査を進める必要がある。また,微生物自動分析装置や検査キットでの同定においても誤同定される可能性があるため,打ち出された同定結果を盲信するのではなく,生化学的性状を目視で確認するなど慎重に検査を進めることが重要を考えられ,またそれにはAerococous属菌の性質を熟知しておくことが必要である。
Aerococcus属菌はこれまでに報告された臨床検体からの分離頻度は極めて低いが,Staphylococcus属菌やStreptococcus属菌,Enterococcus属菌に誤認されていることも要因の一つと考えられる。実際に近年,質量分析装置の普及によりAeorococcus属菌の報告件数が増加している。また,質量分析装置によるAerococcus属菌の再同定により,A. urinaeとA. sanguinicolaの一部はA. viridansと誤同定されていたことも報告されている9)。過去の文献情報から薬剤感受性結果を参照する際は同定方法に注意が必要である。今後は,可能であれば質量分析装置(MALDI-TOF-MS)や16SsRNA遺伝子を用いて正確に菌種同定を行い,Aerococcus属菌の菌種ごとの情報を蓄積していくことが重要と考えられた。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。