Japanese Journal of Medical Technology
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Effect of construction and introduction of inventory management software in clinical laboratory system on laboratory management and operation
Ayumu YOSHINOTakeshi HASHIMOTOAyumi MATSUMOTOTsuyoshi HONGOUYasuhiro ICHINOSEMasayasu YOSHIHARA
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2023 Volume 72 Issue 4 Pages 588-596

Details
Abstract

【背景】在庫管理は診療やコスト管理上重要であるが,臨床検査での在庫管理に関する報告は稀である。本研究は検査システム内物品管理ソフト(管理専用システム)の導入効果を評価した。【方法,結果】2018年12月から2022年3月迄の試薬消耗品の使用履歴を対象とした。記録不備数,年度別の購入額,平均在庫期間(月別),在庫回転率,在庫額を評価した。記録不備は手書き1,465件,FileMaker 551件,管理専用システム383件で物品管理ソフト導入により減少した(p < 0.05)。購入額は2019年277 ± 204万円,2020年236 ± 43万円,2021年297 ± 43万円であった。売上原価率は2019年13.4%,2020年17.8%,2021年20.7%であった。在庫額は2019年629 ± 124万円,2020年491 ± 96万円,2021年461 ± 50万円であった。在庫回転率は試薬で2019年度6.2 ± 8.9回,2020年度5.3 ± 4.7回,2021年度9.1 ± 10.2回,消耗品は2019年度4.2 ± 2.7回,2020年度3.3 ± 2.4回,2021年度6.1 ± 4.7回であった。購入額と売上原価率は増加し,在庫額と在庫回転率は改善された(p < 0.05)。【結論】検査システム内物品管理ソフトの導入効果が確認された。在庫管理精度が向上するため病院運営に貢献できると考えられる。

Translated Abstract

Inventory control is important for medical care and cost control. However, there are only a few reports on inventory management in clinical laboratories. In this study, we evaluated the effect of the introduction of inventory management software in the clinical laboratory supporting system on laboratory management and operations. The numbers of incomplete records were 1,465 by handwriting, 551 by FileMaker, and 383 by clinical laboratory supporting system, all of which decreased with the use of the management software (p < 0.05). Group A in the ABC analysis had the highest reduction rate of cost in the immunological test at 35%. The purchase amounts were 2.77 ± 2.04 million yen in 2019, 2.36 ± 430 thousand yen in 2020, and 2.97 ± 430 thousand yen in 2021. The sales ratios were 13.4% in 2019, 17.8% in 2020, and 20.7% in 2021. The inventory values were 6.29 ± 1.24 million yen in 2019, 4.91 ± 960 thousand yen in 2020, and 4.61 ± 500 thousand yen in 2021. The inventory turnover rates for reagents were 6.2 ± 8.9 in 2019, 5.3 ± 4.7 in 2020, and 9.1 ± 10.2 in 2021, and those for consumables were 4.2 ± 2.7 in 2019, 3.3 ± 2.4 in 2020, and 6.1 ± 4.7 in 2021. The purchase value and sales ratio increased, but the inventory value and inventory turnover improved (p < 0.05). The inventory management software in the laboratory system is useful in clinical laboratory work and is considered to contribute to efficient hospital management.

I  序文

臨床検査室における試薬消耗品の在庫管理は診療体制の維持やコスト管理上重要である。2018年12月の医療法改正により,標準作業手順書や試薬管理台帳等の整備が義務化されている1)。医療法改正以前より試薬管理に関するソフト開発や運用に関する報告は存在するが,検査システム内物品管理ソフト導入効果や検査で使用する試薬消耗品の在庫管理に関する報告は稀である。今回,検査システム内の物品管理ソフトを用いた管理体制の構築と導入効果の評価を行ったので報告する。

II  検査システム内物品管理ソフトを用いた管理体制の構築

今回評価を行った物品管理ソフトはアイディエス社の検査システムであるLABOWARE内の物品管理ソフト(以下,管理専用システム)を用いた。主な機能として入庫,出庫,発注,JANコード,QRコード,二段階コード,バーコードの無い試薬消耗品も処理可能である。商品マスタと分析項目マスタとの紐づけも可能となっている。廃棄,統計,試薬管理台帳,商品マスタ等を有する。

運用とデータの流れに関するデータフロー図(DFD)をFigure 1に示す。当院では,入庫時に商品ラベルを発行する設定を用いて,SPD運用(Supply Processing & Distribution)を採用している(Figure 2)。開封時に,台紙にラベルを貼り付け,業務終了時に出庫処理を行っている。ラベル貼り付け用紙と試薬管理台帳の出力・保存することで医療法に対応している。使用状況や在庫状況の統計解析を行い,在庫定数の変更や試薬消耗品の見直しを行っている。在庫定数=(1ヶ月の使用数)+(安全在庫)として月2回発注を行い,月末最終営業日に棚卸を実施し在庫状況を確認している。

Figure 1 運用データフロー図(DFD)

入出庫時は入出庫データと在庫データが更新される。発注時に未納品データが更新される。発注処理後事務部門にデータと注文書を送信している。送信されたデータは問屋に送られ,後日納品がされる。

Figure 2 採血管ラベルを用いたSPD運用

入庫時にSPDラベルが作成され,使用時に払い出し用紙に貼り業務終了時に出庫処理を実施している。貼り付け用紙とPDF出力した試薬管理台帳を保存し医療法に対応している。

III  対象および方法

1. 対象

2018年12月から2022年3月の期間を対象期間とし,試薬消耗品の購入から使用・廃棄までの全ての記録を評価対象とした。当院で経験した臨床検査試薬消耗品管理手法(手書き,FileMaker,管理専用システム)の,運用の詳細をTable 1に示す。FileMakerは日野出らのソフト2)を用いた。FileMaker使用時はネットワーク構築や,ラベル設定は行わず,管理専用の端末で管理した。

Table 1 管理手法の運用内訳

手書き FileMaker 管理専用システム
管理台数 台帳1冊 PC 1台 PC 8台
ネットワーク構築
期間 2018.12~2019.6 2019.7~2020.1 2020.2~2022.3
定数設定
試薬消耗品数 475 513 417
在庫解析
発注 台帳 台帳 同システム
発注サイクル 1回/月 1回/月 2回/月
棚卸 1回/月(月末最終営業日)

FileMaker使用時はネットワーク構築を行っていない。管理専用システム導入時に一元化し,不使用物品を除外している。

2. 評価項目

管理専用システム導入による業務改善効果,重点分析(ABC分析),試薬管理台帳への記録不備件数,年度別の購入金額,平均在庫期間,在庫回転率,月末在庫金額,廃棄金額の評価を行った。

1) 業務改善内容

管理専用システム導入による業務上の改善効果を洗い出した。

2) 重点分析(ABC分析)

管理専用システム導入以降の履歴を対象とした。本ソフト内の統計解析機能を使用しABC分析を行った。出庫金額の累積比率上位70%までをA群,70~90%をB群,残りをC群とした。

3) 試薬管理台帳の記録不備件数

全期間における購入履歴と試薬管理台帳の突合作業を実施した。入出庫日,入出庫数,Lot等の記録不備件数を調査し各管理手法間の件数を求めた。

4) 購入金額の削減効果

月別の検査科収益と購入金額より売り上げ原価率(%)を求めた。

・売り上げ原価率(%)= 100 × 原価 ÷ 検査部門収益

より算出し,管理専用システム導入年度である2019年度の結果と比較した。

5) 平均在庫期間(月数)

年度別の平均在庫期間(月別)を求め評価した。

・平均在庫期間(月数)=平均在庫金額 ÷ (出荷額 ÷ 月数)

より算出し,管理専用システム導入年度である2019年度の結果と比較した。

6) 在庫回転率

年度別の在庫回転率を求め評価した。

・在庫回転率=出庫金額 ÷ 在庫金額

より算出し,管理専用システム導入年度である2019年度の結果と比較した。

7) 在庫回転期間(月数)

年度別の在庫回転期間を求め評価した。

・在庫回転期間(月数)=月数 ÷ 在庫金額

より算出し管理専用システム導入年度である2019年度の結果と比較した。

8) 月末在庫金額

月末最終営業日の棚卸実施時における試薬消耗品の在庫金額を求めた。管理専用システム導入年度である2019年度の結果と比較した。

9) 廃棄金額の評価

年度別の廃棄額を評価した。

IV  統計解析

統計解析には統計解析ソフトEZRを用いた3)。対応ある2群間の有意差(Wilcoxon検定)の検定を行い有意水準は5%とし,外れ値は除外した。

V  結果

1) 業務改善内容

管理専用システム導入による管理の一元化,手書き作業の解消,利用可能端末数の増加により操作性が大幅に改善された。管理専用システム導入時に検査項目と試薬消耗品の項目マスタの紐づけを行い,検査項目毎に使用する試薬消耗品の在庫状況の把握(Figure 3)と使用履歴の記録が簡略化(Figure 4)された。分析項目と試薬消耗品の同時統計可能となったことで原価分析の作業負担が軽減された(Figure 5)。

Figure 3 分析項目毎の試薬消耗品表示

分析項目との紐づけにより分析毎に使用する試薬消耗品の在庫状況の把握が容易になった。

Figure 4 使用履歴

分析項目との紐づけにより分析毎に使用する試薬消耗品の在庫状況の把握が容易になった。

Figure 5 統計解析ツール

分析で使用する試薬消耗品の入出庫数や,購入金額の解析が容易となった。統計時に自動的にABC分析が更新される。

2) 重点分析(ABC分析)

試薬消耗品のABC分析結果をTable 2に示す。A群は免疫37%,生化学9%,凝固6%,血液ガス7%,微生物4%,血液4%,一般2%,輸血1%,生理1%,その他1%であった。

Table 2 ABC分析結果

区分 ABC分析 免疫 生化学 凝固 血液ガス 微生物 血液 一般 輸血 病理 生理 その他
試薬 A(%) 36 7 5 4 4 4 2 1 0 0 0
B(%) 2 6 1 1 1 2 1 0 0 0 0
C(%) 1 4 0 0 1 0 0 1 0 0 0
試薬数 44 133 22 9 37 18 13 27 23 5 1
消耗品 A(%) 1 2 1 3 0 0 0 0 0 1 1
B(%) 0 1 0 1 0 0 0 0 0 1 1
C(%) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1
消耗品数 3 24 5 11 18 1 5 9 6 46 33

A群中において免疫,生化学関連の試薬消耗品が約半数を占める。

3) 試薬管理台帳の記録不備件数

管理手法間における記録不備の件数をTable 3に示す。記録不備は手書き1,465件,FileMaker 551件,管理専用システム383件で物品管理ソフトを用いることで記録不備数が減少した(p < 0.05)。管理手法に関係なく検体採取容器の記録不備が多く認められ,手書き・FileMakerでは出庫日の記載不備が多かった。管理専用システムでは入庫日の入力ミスが111件あり在庫数の乖離が認められた。2件の出庫操作忘れと269件認のLOTの入力忘れが認められた。

Table 3 管理手法における記録不備件数

部門 区分 手書き FileMaker 管理専用システム
入庫忘れ 出庫忘れ 入力ミス 入庫忘れ 出庫忘れ 入力ミス 入庫忘れ 出庫忘れ 入力ミス
免疫 試薬 40 216 6 6 96 8 0 0 58
消耗品 2 16 8 0 0 1 0 0 0
生化学 試薬 5 251 4 14 22 5 0 0 65
消耗品 0 28 0 0 3 0 0 0 5
血液ガス 試薬 1 22 0 1 11 0 0 0 0
消耗品 0 10 0 0 0 0 0 0 0
凝固 試薬 0 61 2 9 12 0 0 0 12
消耗品 0 6 1 0 2 5 0 0 1
微生物 試薬 8 112 0 4 18 0 0 0 17
消耗品 0 8 0 3 0 0 0 0 0
血液 試薬 5 72 4 4 9 8 0 1 21
消耗品 0 42 0 0 0 0 0 0 0
その他 試薬 0 0 0 0 0 0 0 0 0
消耗品 0 6 0 0 1 0 1 0 2
採取容器 27 302 2 1 112 126 0 0 167
一般 試薬 4 81 8 1 13 1 0 1 8
消耗品 0 4 0 0 2 2 0 0 0
輸血 試薬 0 32 1 0 4 0 0 0 8
消耗品 0 12 0 0 0 0 0 0 0
生理 試薬 0 0 0 0 4 0 0 0 0
消耗品 0 28 1 3 21 18 0 0 16
病理 試薬 1 22 2 0 1 0 0 0 0
消耗品 0 2 0 0 0 0 0 0 0

管理手法を問わず検体採取容器の件数が最も多く認められた。

4) 購入金額の削減効果

購入金額,売上高,売上原価率等の結果をTable 4に示す。月別購入金額は2019年277 ± 204万円,2020年236 ± 43万円,2021年297 ± 43万円であった。売上高は2019年1,502 ± 85.7万円,2020年1,337 ± 99.1万円,2021年1,439 ± 96.7万円であった。売上原価率は2019年13.4 ± 6.6%,2020年17.8 ± 3.5%,2021年20.7 ± 3.3%であった。2021年度の購入金額は増加した(p < 0.05)。一方で購入額のばらつき(CV%)は2019年81%,2020年は18%,2021年は12.7%と徐々に減少した。

Table 4 年度別指標

n 2019年度 2020年度 p-value* 2021年度 p-value*
購入金額 35 277 ± 204万円 236 ± 43万円 p < 0.05 297 ± 43万円 p < 0.05
 CV% 35 81% 18% 12.7%
売上(万円) 36 1,502 ± 85万円 1,336 ± 99万円 p < 0.05 1,439 ± 97万円 p < 0.05
売上原価率(%) 35 13.4 ± 6.6 17.8 ± 3.5 p = 0.38 20.7 ± 3.3 p = 0.08
在庫金額 34 629 ± 124万円 491 ± 96万円 p < 0.05 461 ± 50万円 p < 0.05
 CV% 21.80% 25.70% 10.30%
平均在庫期間(月)
 試薬 130 3.4 ± 2.0 4.5 ± 4.2 p = 0.17 3.5 ± 3.1 p = 0.23
 消耗品 35 3.4 ± 2.0 4.8 ± 3.0 p < 0.05 3.7 ± 3.3 p = 0.32
在庫回転率
 試薬 132 6.2 ± 8.9回 5.3 ± 4.7回 p = 0.77 9.1 ± 10.2回 p < 0.05
 消耗品 35 4.2 ± 2.7回 3.3 ± 2.4回 p < 0.0 6.1 ± 4.7回 p < 0.05
在庫回転期間(月)
 試薬 125 3.4 ± 2.0 4.1 ± 3.8 p = 0.88 3.5 ± 3.1 p = 0.23
 消耗品 35 3.4 ± 2.0 4.6 ± 3.9 p = 0.32 3.7 ± 3.3 p = 0.12
廃棄金額(万円) 6 34.4万円 15.3万円 17.3万円

*管理専用システム導入年度(2019年度)との比較

5) 平均在庫期間(月数)

試薬の平均在庫期間は2019年度3.4 ± 20ヶ月,2020年度4.5 ± 4.2ヶ月,2021年度3.5 ± 3.1ヶ月であった。消耗品の平均在庫期間は2019年度3.4 ± 20ヶ月,2020年度4.8 ± 3.0ヶ月,2021年度3.7 ± 3.3ヶ月であった。消耗品の平均在庫期間は2020年に悪化した(p < 0.05)。

6) 在庫回転率

試薬の在庫回転率は2019年度6.2 ± 8.9回,2020年度5.3 ± 4.7回,2021年度9.1 ± 10.2回であった。消耗品の在庫回転率は2019年度4.2 ± 2.7回,2020年度3.3 ± 2.4回,2021年度6.1 ± 4.7回であった。試薬は2021年に改善されたが,消耗品は2020年に悪化し2021年に改善されている(p < 0.05)。

7) 在庫回転期間(月数)

試薬の在庫回転期間は2019年度3.4 ± 2.0ヶ月,2020年度4.1 ± 3.8ヶ月,2021年度3.5 ± 3.1ヶ月であった。消耗品は2019年度3.4 ± 2.0ヶ月,2020年度4.6 ± 3.9ヶ月,2021年度3.7 ± 3.3ヶ月であった。

8) 月末在庫金額

月末在庫金額は2019年629 ± 124万円,2020年491 ± 96万円,2021年461 ± 50万円で2020年と2021年において在庫金額は減少している(p < 0.05)。在庫金額のばらつき(CV%)は2019年21.8%,2020年25.7%,2021年10.3%であった。管理専用システム導入後に在庫金額を最大352万円削減された(Figure 6)。

Figure 6 月末在庫金額推移

管理専用システム導入後月末在庫金額は減少し最大352万円減少している。

9) 廃棄金額の評価

試薬消耗品の廃棄金額は2019年34.4万円,2020年15.3万円,2021年17.3万円であった。

VI  考察

臨床検査における試薬管理はISO15189認証取得施設で要求されていたが4),2018年の医療法改正によって全ての臨床検査室において適切な在庫管理が要求されるようになっている1)。検査試薬消耗品の欠品は診療に直結し,患者の命に影響を及ぼす可能性がある一方で5)過剰在庫は現金流量の悪化に繋がるため,適切な管理が必要不可欠となる。

記録不備は在庫数の乖離に繋がり最終的に欠品や信頼性の低下を招く可能性が高まると考えられる。業者SPD不採用施設や管理専用システムで一元管理している施設では,試薬管理台帳のみならず入出庫に関しても特に精度の高い管理が要求される。手書き管理は作業方法の特性上入力ミスが生じやすく記録不備が多く認められる原因につながった。特に小規模施設においては業務負担が大きく,Digital Transformationとして試薬管理業務のシステム化が望ましいと考えられる。管理専用システムを用いた管理はバーコードを読ませる作業で完結するため,入力間違いは少なく業務負担は軽減される。物品管理ソフトには検査システム内物品管理ソフト,エクセルマクロVisual Basic for Applicationsを用いて施設で自作するもの6),フリーソフト,SPDシステム等が存在する。試薬管理ソフトを自作した場合,人事異動がある施設では将来的に管理体制を維持管理できなくなる可能性が高まる。フリーで広く無償配布しているソフト7)も存在するが,情報処理推進機構では日常における情報セキュリティ対策としてソフトウェアをインストールする際にはシステム管理者に事前に許可を取ることを推奨している8)。FileMaker2)は使用開始時にセキュリティ上での問題でネットワーク構築を行えなかった。管理専用端末1台での運用により利便性の低下したことが管理専用システムより記録不備数が多かった理由として考えられる。管理専用システムにおける検体採取容器の入庫日の記載ミスは,マスタ設定時における入数設定ミスに由来していることが判明し,速やかに是正処置を行い再発は認められていない。出庫忘れはラベル紛失に由来し,在庫数が乖離していた。システム上の在庫数と実在庫数の乖離することへの対策として定期的な照合が必要と考えられる。一部の商品ではGS128コードが記載されておらず,LOTや有効期限を手入力する必要があったが,管理専用システムにおけるLOTの入力忘れはGS128コードではなくJANコードを読み取ったことに由来した。職員への運用に関する周知と教育を継続することで,記録不備はさらに減少すると考えられる。また作業を簡素化するために採血管ラベルを用いたSPD運用,業者SPDと商品バーコードと紐づける等,施設の状況に応じた設定が必要であると考えられる。

裁量による管理や消費税増税や新型コロナウイルス診療のための検査試薬購入に伴う購入金額増加が2021年度は2019年と比較し年間平均購入金額と売り上げ原価率の増加の要因であったと考えられる。また在庫金額や購入金額のばらつきは経年的に減少したことから管理専用システム導入による効果が確認できた。2020年度は消耗品の平均在庫期間と在庫回転率の悪化が認められている。在庫数,購入量の解析と見直しを行い,2020年度に在庫額が減少し2021年に在庫回転率は改善されたことから在庫数と購入量の定期的な解析が必要であると思われる。在庫回転期間の指標は0.4~4程度とされ業種により異なる9)。財務省財務総合政策研究所による2004年度から2020年度の法人企業統計調査では,医療業全体の棚卸資産回転期間は0.09~0.26ヶ月であった10)。臨床検査室での在庫管理指標の目安や検討例の報告はあまりない。高橋ら11)は大手検査センター1999年から2003年の4年間における流動資産回転率は1.9~3.0回,棚卸資産回転月数は0.1~0.4ヶ月,売上原価率は16.1~27.8%であったと報告している。古志ら12)は試薬入庫金額実績の重点試薬項目をABC分析し免疫45%,生化学33%,一般13%,血液6%,輸血2%,微生物1%,在庫管理システム導入効果と検査経営管理に関する報告をしている。今回の検討結果でもA群に占める頻度は免疫検査試薬の頻度が36%と最も高く,免疫学検査試薬の定数見直しが在庫金額削減に与える影響は大きく重点的な見直しが必要である。施設の特徴や規模,運用により使用量や在庫定数は異なるため,定期的な解析と定数や発注の見直しを行うことで継続して効果が得られると考えられる。

試薬消耗品と検査項目をマスタと紐づけしたことで,分析項目と試薬消耗品に関する統計解析が可能となった。当院では本機能を用い不採算項目の洗い出しと運用に関する提案を行い,2021年度末に4件の項目を外部委託化,4件を運用廃止した。診療上不可欠であるため外部委託検査に切り替えられない2件の項目については低コスト試薬へ変更する対策をとった。運用切り替え対象項目の廃棄が2021年度末に計上され,廃棄金額が増加した要因となった。将来的に購入額,在庫金額,廃棄額が減少し,在庫回転率や平均在庫期間は改善される。このため検査システム内物品管理ソフトは意思決定の上でも非常に重要で経営面から病院運営に貢献可能であると考えられる。管理専用システム導入は導入費用と導入タイミングが課題として挙げられる。導入時期を逃した場合,検査システム更新時まで数年間忍耐せねばならない。導入時や更新時において物品管理ソフトの運用を要件定義することを忘れてならない。使用履歴や試薬管理台帳作成のみならず,在庫指標や統計解析まで視野に入れたシステム構築を視野に入れる必要がある。

VII  結語

管理専用システムの導入効果を評価した。管理専用システムを用いることで記録不備数の減少が確認できた。また導入により業務効率化と解析による在庫金額と在庫回転率の改善と分析項目運用の見直しを行えた。管理専用システムは,経営面から病院運営に貢献可能で果たす役割は非常に大きいと考えられる。

本論文の要旨は,第56回日臨技九州支部検査医学会において発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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