Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case in which Anaerobiospirillum succiniciproducens was isolated from blood cultures
Saori TAKEMURAHajime NAGATATomokatu KANITANIRika KANAMORIKiyofumi OHKUSU
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2024 Volume 73 Issue 1 Pages 123-129

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Abstract

今回我々は,本邦で報告例の少ないAnaerobiospirillum succiniciproducensによる血流感染症を経験したので報告する。症例は,predonisoloneの内服と糖尿病歴があり,イヌを飼育していた89歳女性。発熱と摂食不能を主訴に,当院を受診した。CTで右肺下葉に浸潤影があり,気管支肺炎の診断で入院した。血液培養を採取後,sulbactam/ampicillinの投与が開始された。翌日,血液培養から嫌気性らせん状グラム陰性菌が発育した。市販のキットでは菌種の同定は不能であったが,後日の質量分析でA. succiniciproducensと同定し,16S rRNA遺伝子解析でも100%一致した。その後,患者は全身状態が改善したため退院した。A. succiniciproducensの血流感染症は,質量分析装置がない検査室では同定に苦慮するが,グラム染色所見,コロニーの所見,生化学性状やイヌの飼育の有無から推定は可能であり,同定に至るまでの方法を蓄積していくことが重要と考える。

Translated Abstract

We have encountered a rare case of Anaerobiospirillum succiniciproducens infection. The patient was an 89-year-old woman who was taking prednisolone and had diabetes and a dog. She was admitted to our hospital because of a fever and inability to eat. She was diagnosed as having pneumonia on the basis of CT findings. Antibiotics were started after blood cultures were taken. Gram-negative spiral bacteria grew from her blood culture the next day. Although it was impossible to determine the bacterial species with a commercially available kit, A. succiniciproducens was identified by mass spectrometry. In addition, a 100% concordance was obtained in the 16S RNA gene search. Although A. succiniciproducens infection is difficult to determine in hospitals without a mass spectrometer, it can be estimated from Gram staining findings, colony findings, biochemical properties, and the presence of a dog. It is important to accumulate knowledge on methods to identify A. succiniciproducens.

I  序文

Anaerobiospirillum succiniciproducensは,1976年Davisら1)により,ビーグル犬の喉と糞便から最初に検出された嫌気性グラム陰性のらせん菌である。イヌやネコとの接触がある易感染性宿主に対して下痢や菌血症,敗血症を起こすことが知られている2)A. succiniciproducensによる敗血症は1981年にRifkinとOpdykeによって初めて報告され3),本邦では2007年に最初の報告がある4)

今回我々は,犬を飼育中で発熱を主訴に入院した患者の血液からA. succiniciproducensを検出した症例を経験した。本菌は質量分析装置を有さない検査室では同定が困難であるが,市販の同定キットを用いた一般的な細菌検査から推定し得ることを報告する。

II  症例

患者:89歳,女性。

主訴:発熱,摂食不能。

既往歴:リウマチ性疾患,2型糖尿病,腰椎圧迫骨折。

現病歴:上記併存症で当院整形外科と腎臓内科に通院中でprednisolone内服中であった。発熱と摂食不能のため当院を受診した。来院時,体温40℃,CRP 10.2 mg/dLと炎症反応を認めた(Table 1)。

Table 1 入院時の血液検査

血液検査 生化学検査
RBC 380 × 104/μL TP 6.2 g/dL
Hb 11.7 g/dL AST 25 U/L
Ht 37.5% ALT 15 U/L
PLT 169 × 103/μL CK 124 U/L
WBC 8.8 × 103/μL ALP 186 U/L
Neut 81.8% UN 16.4 mg/dL
Lymph 14.4% Cr 1 mg/dL
Mono 3.4% Glu 128 mg/dL
Eosino 0.3% HbA1c 7.40%
Baso 0.1% Na 144 mEq/L
K 3.5 mEq/L
Cl 106 mEq/L
CRP 10.2 mg/dL

CTで右下葉に浸潤影を認め気管支肺炎の診断で入院した。

臨床経過:血液培養と喀痰培養の検体を採取後,気管支肺炎の治療目的としてSulbactam/Ampicillin(SBT/ABPC)(1.5 g × 2回/日,点滴:7日間)が開始された。第2病日,血液培養かららせん状グラム陰性桿菌が検出された。入院前には認めなかったが入院後,粘液便が持続したため,第3病日に便培養検体を採取した。第3病日に喀痰培養でKlebsiella pneumoniaeが発育した。便培養では特に病原性の菌の発育はみられなかった。第7病日,炎症反応の低下がみられたため抗生剤をAmoxicillin/Clavulanate(AMPC/CVA)(3錠/日,内服:5日間)に変更した。その後食欲も回復し,第35病日に退院した。

III  微生物学的検査

1. 血液培養

バクテック23F好気用レズンボトルP(日本BD),バクテック22F嫌気用レズンボトルP(日本BD)を使用して自動血液培養装置BACTEC FX(日本BD)にて実施した。2セット採取し,1セットは20.4時間後,もう1セットは21.9時間後に嫌気ボトルが陽性となった。好気用ボトルは7日間培養を行ったが陰性であった。陽性となった嫌気ボトルのセルグラフではピークの後下降するグラフを示した(Figure 1)。

Figure 1  自動血液培養装置BACTEC FXのセルグラフ

2. 塗抹・分離培養

培養陽性となったボトルの内容液を採取し,Neo-B&Mワコー(和光純薬)を用いてグラム染色を行ったところ,塗抹鏡検の所見はらせん状グラム陰性桿菌が観察された(Figure 2)。

Figure 2  血液培養 陽性時のグラム染色所見(×1,000)

グラム陰性のらせん菌を認めた。

生標本では,コルクスクリュー様運動を示し活発に動くらせん状の菌を確認した(Figure 3)。

Figure 3  血液培養 陽性時の生標本所見(×1,000)

コルクスクリュー様運動を示した

サブカルチャーには,5%羊血液寒天培地(日本BD)・チョコレートII寒天培地(日本BD)を用いた25℃・35℃の好気条件下と,5%羊血液寒天培地・チョコレートII寒天培地・ブルセラHK(ウサギ)寒天培地(極東製薬工業)を用いた25℃・35℃・42℃の嫌気条件下と微好気条件下,ポアメディアmCCDA培地(栄研化学)を用いた25℃・42℃の微好気条件下の培養を行った。2培養日に発育が認められたのは35℃と42℃の嫌気培養と42℃の微好気培養で,半透明で水滴状の微小コロニーであった(Figure 4)。

Figure 4  2培養日のコロニー所見

5%羊血液寒天培地(BD)

5%羊血液寒天培地には42℃嫌気培養にてβ溶血を確認した(Figure 5)。

Figure 5  42℃嫌気培養でのβ溶血の確認

5%羊血液寒天培地(BD)

7培養日に5%ヒツジ血液寒天培地でフィルム状のコロニーが確認されスウォーミングが見られた(Figure 6)。

Figure 6  7培養日のフィルム状のコロニー所見

5%羊血液寒天培地(BD)

ポアメディアmCCDA培地では,発育が見られなかった。グラム染色で最も明瞭にらせん状の形態を確認したのは嫌気培養のコロニーであった(Figure 7)。

Figure 7  嫌気培養で発育したコロニーのグラム染色

3. 菌種同定検査

分離したらせん状のグラム陰性桿菌のカタラーゼ試験とオキシダーゼ試験はともに陰性であった。簡易同定キットのRapIDANA II System(アムコ)での結果は,β, D-galactoside(ONPG)陽性,n-acetyl-β, D-glucosaminide(NAG)陽性,α, D-glucoside(αGLU)陽性を示したがProfile No. 034441となり同定不能であった。生化学的な解析では同定不能と判断し,外注先で質量分析を依頼した。バイテックMS(ビオメリュー・ジャパン)にて直接法で施行した結果,A. succiniciproducensと同定された。さらに施行した16S rRNA遺伝子の塩基配列相同性は,A. succiniciproducensの基準株ATCC29305と100%(1,245/1,245)一致した(Figure 8)。

Figure 8  系統樹の作成結果

菌株番号TMUC1967が当院で分離されたグラム陰性のらせん菌

後日実施した簡易同定キットRapidID32API(ビオメリュー)の結果では,同定コード(0500010404)で,A. succiniciproducensの確率96.4%であった。

4. 薬剤感受性試験

嫌気性菌用ABCMブロス(栄研化学)にMcFarland 2.0の菌液を作製し,感受性ブルセラブロス‘栄研’と感受性ABCMブイヨン‘栄研’にそれぞれ25 μL加えドライプレート‘栄研’DP53各ウェルに100 μLずつ分注した。予備還元は行わなかった。菌を接種した各プレートは,アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学)を用いて嫌気ジャーに入れ,35℃ 48時間嫌気培養を行った。微生物感受性分析装置IA01MIC Proを用い,嫌気性菌の判定基準(CLSI M100-S28)でMICを判定した。感受性ABCMブイヨン‘栄研’では72時間後も菌の発育が見られず判定不能であった。本菌株はimipenem,meropenem,SBT/ABPC,AMPC/CVAに良好な感受性を示した(Table 2)。

Table 2 薬剤感受性試験結果

抗菌薬 MIC(μg/mL) CLSI判定
Penicillin(PCG) > 1 R
Ampicillin(ABPC) 0.5 S
Sulbactam/Ampicillin(SBT/ABPC) < 1/2 S
Sulbactam/Cefoperazone(SBT/CPZ) 4/4
Amoxicillin/Clavulanate(AMPC/CVA) < 1/0.5 S
Piperacillin(PIPC) 2 S
Tazobactam/Piperacillin(TAZ/PIPC) 4/2 S
Imipenem(IPM) < 0.25 S
Meropenem(MEPM) < 0.25 S
Cefmetazole(CMZ) 1 S
Ceftriaxone(CTRX) < 1 S
Ceftazidime(CAZ) < 1
Minocycline(MINO) < 0.25
Cefepime(CFPM) < 1
Clindamycin(CLDM) > 4 R
Metronidazole(MNZ) > 16 R
Flomoxef(FMOX) 1
Moxifloxacin(MFLX) 0.25 S

IV  考察

A. succiniciproducenに感染した場合,健常人は下痢症状にとどまり重篤な症状に至らないことが多い一方,免疫不全患者では菌血症から重篤な症状に至ることがあるとされる2)。本症例は高齢の糖尿病患者で,リウマチ性疾患のためpredonisoloneを内服中であり,易感染性を有していたと考えられる。医学中央雑誌でA. succiniciproducensのキーワードで検索をしたところ,本邦では過去に2件4),5)が論文報告されており,本例は3件目にあたる。3件の全例でイヌの飼育歴があることから,患者の背景に易感染性があることに加え,イヌの飼育歴があることは本菌の感染症を鑑別する上で重要な臨床情報であると思われる。

本菌に感染した患者の多くに消化器症状がみられることから侵入門戸は消化管粘膜であることが推測されている2)。本症例は入院後に粘液便が持続したため第3病日に便培養を行ったが本菌を推定するようなグラム陰性らせん菌の発育はみられなかった。便培養の検体を採取した時点で,本菌株が感受性を示したSBT/ABPCの投与が気管支肺炎に対する経験的治療として既に開始されていたことが理由であると推測するが,結果的には適切な抗生剤の投与がなされたことで患者の状態は快方に向かったと思われる。

第2病日に嫌気性ボトルの血液培養陽転時に行ったグラム染色で,らせん状のグラム陰性桿菌が認められた時点でA. succiniciproducensBrachyspira pilosicoliDesulfovibrio desulfuricansCampylobacter属が鑑別の筆頭に挙がった。これらは形態学的に類似しているがTable 3に表すようにいくつかの鑑別点がある。

Table 3 鑑別となる菌の特徴

A. succiniciproducens C. jejuni B. pilosicoli D. desulfuricans
血液培養ボトル 嫌気 好気 嫌気 嫌気
運動性 + + + +
溶血 β βW
オキシダーゼ + +
カタラーゼ + + +
β, D-galactoside(ONPG) + ND ND ND
n-acetyl-β, D-glucosaminide(NAG) + ND ND ND
α, D-glucoside(αGLU) + ND ± ND
菌体大きさ(長さ×直径) 3.87~7.5 × 0.38~0.92 μm 0.5~5 × 0.2~0.8 μm 6~8 × 0.2~0.3 μm 約3 × 0.5 μm

C. jejuni: Campylobacter jejuni

B. pilosicoli: Brachyspira pilosicoli

D. desulfuricans: Desulfovibrio desulfuricans

Campylobacter属の鞭毛は単極単毛であるのに対してA. succiniciproducensの鞭毛は両極多毛である。生標本ではA. succiniciproducensはコルクスクリュー運動性を示す一方,Campylobacter属はダーツな運動性を示す6)。またA. succiniciproducensはカタラーゼ陰性,オキシダーゼ陰性である一方,Campylobacter属やB. pilosicolはカタラーゼ陽性,オキシダーゼ陽性である6)。本症例の菌はA. succiniciproducensの特徴であるコルクスクリュー様運動とカタラーゼ陰性,オキシダーゼ陰性であったことに加え,RapIDANAIISystem(アムコ)でβ, D-galactoside(ONPG)陽性,n-acetyl-β, D-glucosaminide(NAG)陽性,α, D-glucoside(αGLU)陽性であったことから,A. succiniciproducensである可能性が高いと推定が可能であった。

D. desulfuricansでは生化学培地においてH2S(+)となることで確認が可能である。羊血液寒天でのβ溶血が本菌の特徴であるとする報告がある5)。これらの特徴が類似菌との鑑別に有用であった。

本菌の自動血液培養装置のセルグラフの特徴として,本菌が発育する際に酸性物質とアルカリ性物質を産生するために,増殖初期は血液培養ボトル内を酸性化させるが,その後に血液培養ボトル内をアルカリ化させるため上昇した後に下降を示すという報告がある5)。本症例においても上昇した後下降する反応(Figure 1)が見られた。

しかし,下降を示すのは陽転してから約6時間後であった。通常は陽転するとボトルを抜いてしまうため,この反応を確認するには,グラム染色などでらせん状のグラム陰性桿菌を確認した後,陽転したボトルを血液培養装置に戻す必要があると考えられる。

抗菌薬に関しては,A. succiniciproducensは,metronidazoleとclindamycinに耐性を示すことがあるが,一般にβラクタマーゼ阻害剤配合薬・第1世代以外のCephalosporin・Carbapenem・Fluoroquinolone に感受性があるといわれている6)。今回検出されたA. succiniciproducensの感受性試験の結果も同じ結果を示したことから推定菌の報告と同時に推定薬剤も提案できた。

新型コロナウイルス禍で,ペットとの生活に癒しを求める傾向が強まり,イヌの飼育頭数は増加傾向にあることを背景に,本感染症は今後も増加することが予想される7)

V  結語

本邦においてまれなA. succiniciproducens感染症は,グラム染色所見・コロニーの所見や生化学性状,イヌの飼育などの情報から推定が可能である。質量分析や16S rRNA遺伝子解析の結果を待たず,菌種の同定に至る方法を蓄積していくことが重要と考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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