2024 Volume 73 Issue 1 Pages 78-84
尿路感染症における薬剤耐性菌への取り組みとして,全自動尿中有形成分分析装置UF-5000で細菌数が測定できることを利用し,原尿に直接感受性ディスクを入れ反応させることによる細菌数の変化から,薬剤感受性結果の推測が可能かを検討した。使用薬剤は,尿路感染症に処方頻度の高いレボフロキサシン(LVFX)と基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)の判定にも用いられるセフォタキシム(CTX)を使用し,30,60,90,120分後の菌数の変化を比較した。それぞれの抗菌薬が有効と判断できるカットオフ値を決めるため,各時間における細菌数の薬剤投与/ブランク値を算出した。LVFXの感受性推定は,90分以内の判定で薬剤投与/ブランク値0.8未満であれば感性と推測,90~120分の判定で0.8以上であれば7~8割程度に耐性と推測できた。CTXは,60分以内の判定で薬剤投与/ブランク値0.8未満であれば感性と推測,0.8以上であれば7割程度に耐性と推測できた。CTX単剤では7割程度の精度しか得られなかったため,クラブラン酸加セフォタキシム(CTX/C)の薬剤を追加し,ESBLがクラブラン酸で阻害される点に着目し,比較した。CTXとCTX/Cの菌数の差で比較したところ,各時間において菌数の差が800以上であればESBLと判定でき,また,120分の時点での差が正であればESBLと判断できた。
As an approach to resistant bacteria in urinary tract infections, we investigated whether it is possible to estimate the drug susceptibility of such bacteria from changes bacterial count in which a susceptibility disc is directly placed in urine using the UF-5000’s bacterial count measurement function. The drugs used were levofloxacin (LVFX), which is often prescribed for urinary tract infections, and cefotaxime (CTX), which is also used for extended-spectrum β-lactamase (ESBL) judgement. Changes bacterial count after 30, 60, 90, and 120 min were compared. Drug administration/blank value was calculated to determine the cut-off value at which antimicrobial agents can be judged to be effective. For LVFX, if the drug administration/blank value was less than 0.8 within 90 min, the bacteria were assumed to be sensitive, and if it was 0.8 or higher within 90 to 120 min, the bacteria were assumed to be 70 to 80% resistant. For CTX, if the drug administration/blank value was less than 0.8 within 60 min, the bacteria were estimated to be sensitive, and if it was 0.8 or higher, the bacteria were estimated to be 70% resistant. Since CTX alone yielded only 70% accuracy, cefotaxime clavulanate (CTX/C) was added and compared with CTX, focusing on the inhibition of ESBL by clavulanic acid. When the difference in bacterial count between CTX and CTX/C was compared, ESBL could be determined if the difference bacterial count was 800 or larger at each time point, and ESBL could be determined if the difference is a positive integer in CTX and CTX/C at 120 min.
尿路感染症において最も分離頻度が高く,宿主に対して強い病原性を発揮する大腸菌は1),泌尿器科領域において重要な菌種といえるが,近年大腸菌の薬剤耐性化は世界的問題となっており,わが国でもキノロン耐性大腸菌や基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌の分離頻度が増加傾向にある2)。治療には適切な抗菌薬を早期に使用開始することが重要だが,薬剤感受性試験は数日を要するため初期投薬は医師の経験に基づいて決定されることが多く3),その結果無効な薬剤を使い続けるという現状がある。初期投薬開始前に薬剤感受性結果を知ることができ,適切な抗菌薬の選択が可能であれば,無効な薬剤投与の回避につながり患者にとって有益であることは言うまでもない。
今回,尿沈渣の測定機器である全自動尿中有形成分分析装置UF-5000(Sysmex)において尿中細菌数および細菌グラム染色情報(BACT-info.)4)が測定できることを利用し,原尿に薬剤感受性ディスクを入れ反応させることによる細菌数の変化から薬剤感受性結果を推測することを目的とし検討したので報告する。
2020年11月2日から12月18日に当院外来採尿窓口に提出された随時尿のうち,①UF-5000の細菌数が2+(1,200個/μL)以上 ②BACT-info.がグラム陰性菌と推定されるGram Negative?と判定されたものの2条件にあてはまる100件を対象とした。なお,対象患者に抗菌薬の投与はされていなかった。また,感受性既知の臨床分離株からCTX耐性の22株を使用した。さらに,Escherichia coli(E. coli)CTX感性株19株とE. coli ESBL 19株を使用した。
2. 測定機器全自動尿中有形成分分析装置UF-5000(Sysmex)を用い,使用前に精度管理試料であるUF-コントロールTM(Sysmex)を測定し,測定精度を保証した後に測定した。
3. プロトコル決定使用抗菌薬は薬剤感受性ディスクを使用し,尿路感染症に処方される頻度の高いレボフロキサシン(LVFX 5 μg含有:BDセンシ・ディスク)5)と,ESBLの判定にも用いられるセフォタキシム(CTX 30 μg含有:BDセンシ・ディスク)6)の2種類とし,E. coliとESBL 5株ずつを用い,使用する抗菌薬の量と測定条件を決定するため次の方法で実施した。
トリプチケースソイブイヨンを用いてマクファーランド(McF)0.5に菌液を調整し,生理食塩液で10倍希釈したものを滅菌試験管3本に等量ずつ分注した。1本目をブランク,2本目にLVFXのディスク,3本目にCTXのディスクを入れ,35℃の恒温槽で培養を開始し,細菌数をUF-5000のSTATモードで測定した。
UF-5000の細菌数測定上限が99,999個/μLであり,菌数の増加に伴う測定上限を超えないようにするため,培養開始前の菌数は,103個/μLに調整することとした。測定時間は,30分毎に120分後までの計4回とした。1例をFigure 1に示す。検体量は,STATモードで4回測定するのに必要な1回の検体量0.6 mL × 4回で2.4 mL必要であるため,デッドボリュームを含む3 mLとした。抗菌薬の量について,検体量3 mLに対し必要な抗菌薬の量を検証した。3 mLに対しディスク1枚でも一定の効果が認められたが,抗菌薬濃度を上げることで効果が認められるタイミングが早くなったため,ディスクを2枚入れ検討することとした。
LVFX耐性,CTX感性の株
プロトコルに従って実施し,それぞれの抗菌薬が有効と判断できるカットオフ値を決めるため,各時間における細菌数の薬剤投与/ブランク値を算出した。開始前に比べ数が減少すれば抗菌薬に対し感性と判定するが,菌数の変動が菌の死滅などほかの要因によるものではなく抗菌薬の効果によるものであることを証明するために,原尿を直接Mueller Hinton培地に塗布し,LVFXとCTXのディスク感受性試験を行った。Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)に準拠して,感性(S),中間(I),耐性(R)を判定し,算出した薬剤投与/ブランク値を感受性毎にまとめた。
さらに,CTX耐性がクラブラン酸で阻害されればESBLと判断できるため,CTXとクラブラン酸加セフォタキシム(CTX/C)の比較を行い,薬剤投与/ブランク値をまとめた。なお,感受性既知株を用いた検討は,プロトコル決定時と同様に,菌液をMcF 0.5に調整したものを生理食塩液で10倍に希釈し実施した。
薬剤感受性試験の結果,感性が73件,中間が0件,耐性が26件,発育不良が1件であった。感性群と耐性群に分けた各時間における薬剤投与/ブランク値とその中央値をFigure 2に示す。薬剤が有効と判断できるカットオフ値は,可能な限り短時間で判断したいと考え,30分と60分の感性群の中央値より,0.8と0.9に設定した。各時間における件数と割合をTable 1に示した。
縦軸は薬剤投与/ブランク値,横軸は感性株の30分後を30S,耐性株の30分後を30Rと表現し,以下120分までを表したもの。
その下の数値は中央値。
30分 | 60分 | 90分 | 120分 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
直接感受性試験 | ||||||||
カットオフ値 | S | R | S | R | S | R | S | R |
0.8未満(S) | 4(5%) | 0 | 29(40%) | 0 | 49(67%) | 0 | 52(71%) | 0 |
0.8以上(R) | 69(95%) | 26(100%) | 44(60%) | 26(100%) | 24(33%) | 26(100%) | 21(29%) | 26(100%) |
0.9未満(S) | 15(21%) | 0 | 47(64%) | 1(4%) | 52(71%) | 3(12%) | 56(77%) | 3(12%) |
0.9以上(R) | 58(79%) | 26(100%) | 26(36%) | 25(96%) | 21(29%) | 23(88%) | 17(23%) | 23(88%) |
カットオフ値を0.8とし,0.8未満を感性とした場合,各時間において耐性を感性と誤判定するベリーメジャーエラーは無かった。一方,感性が耐性に誤判定された割合は,90分までは時間経過とともに減少したが,120分でも3割程度が耐性に誤判定され,カットオフ値0.8以上における真の耐性の割合は,8割を超さない程度であった(Table 2)。
30分 | 60分 | 90分 | 120分 | |||||
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直接感受性試験 | ||||||||
カットオフ値 | S | R | S | R | S | R | S | R |
0.8未満(S) | 100 | 0 | 100 | 0 | 100 | 0 | 100 | 0 |
0.8以上(R) | 49 | 51 | 38 | 62 | 25 | 75 | 22 | 78 |
0.9未満(S) | 100 | 0 | 94 | 6 | 86 | 14 | 87 | 13 |
0.9以上(R) | 44 | 56 | 27 | 73 | 25 | 75 | 20 | 80 |
例)30分でカットオフ値0.8未満であれば100%感性株,0.8以上では49%が感性株,51%が耐性株。
カットオフ値を0.9とした場合,ベリーメジャーエラーは90分と120分で1割程度であった。また,感性が耐性に誤判定された割合は,120分で2割程度とカットオフ値0.8と比べて少なかったが,カットオフ値0.9以上の真の耐性の割合は0.8と同等であった。
一度感性を示したが,時間経過により耐性に転じた件数をTable 3に示した。カットオフ値0.8では90分以内は0件であったが,カットオフ値0.9では6件であった。
耐性化した時間 | |||||
---|---|---|---|---|---|
カット オフ値 |
60分 | 90分 | 120分 | ||
感性と判定した時間 | 30分 | 0.8 | 0 | 0 | 0 |
0.9 | 2 | 2 | 2 | ||
60分 | 0.8 | ― | 0 | 1 | |
0.9 | ― | 2 | 1 | ||
90分 | 0.8 | ― | ― | 2 | |
0.9 | ― | ― | 1 |
外来患者にCTX耐性が少なかったため,既知のCTX耐性株22件と合わせた薬剤感受性試験の結果,感性が92件,中間が0件,耐性が29件,発育不良が1件であった。LVFX同様,感性群と耐性群に分けた各時間における薬剤投与/ブランク値とその中央値をFigure 3に,薬剤投与/ブランク値0.8と0.9をカットオフ値とした,各時間における件数と割合をTable 4に示した。
LVFX同様,縦軸は薬剤投与/ブランク値,横軸は感性株の30分後を30S,耐性株の30分後を30Rと表現し,以下120分までを表したもの。その下の数値は中央値。
30分 | 60分 | 90分 | 120分 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
直接感受性試験 | ||||||||
カットオフ値 | S | R | S | R | S | R | S | R |
0.8未満(S) | 33(36%) | 0 | 59(64%) | 1(3%) | 79(86%) | 14(48%) | 85(92%) | 23(79%) |
0.8以上(R) | 59(64%) | 29(100%) | 33(36%) | 28(97%) | 13(14%) | 15(52%) | 7(8%) | 6(21%) |
0.9未満(S) | 47(51%) | 1(3%) | 68(74%) | 3(10%) | 80(87%) | 18(62%) | 85(92%) | 23(79%) |
0.9以上(R) | 45(49%) | 28(97%) | 24(26%) | 26(90%) | 12(13%) | 11(38%) | 7(8%) | 6(21%) |
LVFX同様カットオフ値を0.8とし,0.8未満を感性とした場合,ベリーメジャーエラーは60分以内で1件あったが,90分以降増加する傾向にあった。
一方,感性が耐性に誤判定された割合は,時間経過とともに減少傾向にあり,120分では1割未満であったが,カットオフ値0.8以上における真の耐性の割合は7割であった(Table 5)。
30分 | 60分 | 90分 | 120分 | |||||
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直接感受性試験 | ||||||||
カットオフ値 | S | R | S | R | S | R | S | R |
0.8未満(S) | 100 | 0 | 96 | 4 | 64 | 36 | 54 | 46 |
0.8以上(R) | 39 | 61 | 27 | 73 | 21 | 79 | 28 | 72 |
0.9未満(S) | 94 | 6 | 88 | 12 | 58 | 42 | 54 | 46 |
0.9以上(R) | 34 | 66 | 22 | 78 | 25 | 75 | 28 | 72 |
カットオフ値を0.9とした場合,ベリーメジャーエラーは60分の時点で既に1割を超え,以降カットオフ値0.8と同様に増加傾向であった。感性が耐性に誤判定された割合は,60分まではカットオフ値0.8より少なかったが90分以降は同様な割合であり,カットオフ値0.9以上の真の耐性の割合は7割程度であった。
時間経過により,感性が耐性に転じた件数をTable 6に示した。カットオフ値0.8では耐性化しなかった。カットオフ値0.9では,30分から60分の間に2件あったが,この2件は90分以降0.9未満に戻っており,最終的に耐性に転じたものは120分の時点で2件であった。
耐性化した件数 | |||||
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カット オフ値 |
60分 | 90分 | 120分 | ||
感性と判定した時間 | 30分 | 0.8 | 0 | 0 | 0 |
0.9 | 2 | 0 | 0 | ||
60分 | 0.8 | ― | 0 | 0 | |
0.9 | ― | 0 | 1 | ||
90分 | 0.8 | ― | ― | 0 | |
0.9 | ― | ― | 1 |
CTX感性株とE. coli ESBLについて,CTXとCTX/Cの各時間におけるカットオフ値毎の件数と割合をTable 7とTable 8に示した。CTX感性株はブランクのみ増加し,CTXとCTX/Cは減少する傾向にあった(Figure 4)。一方,E. coli ESBLは,ブランクとCTXが増加,CTX/Cのみ減少する傾向にあった(Figure 5)。
30分 | 60分 | 90分 | 120分 | |||||
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カットオフ値 | CTX | CTX/C | CTX | CTX/C | CTX | CTX/C | CTX | CTX/C |
0.8未満(S) | 0 | 0 | 0 | 1(5%) | 7(37%) | 6(32%) | 14(74%) | 12(63%) |
0.8以上(R) | 19(100%) | 19(100%) | 19(100%) | 18(95%) | 12(63%) | 13(68%) | 5(26%) | 7(37%) |
0.9未満(S) | 0 | 0 | 4(21%) | 4(21%) | 10(53%) | 10(53%) | 15(79%) | 14(74%) |
0.9以上(R) | 19(100%) | 19(100%) | 15(79%) | 15(79%) | 9(47%) | 9(47%) | 4(21%) | 5(26%) |
30分 | 60分 | 90分 | 120分 | |||||
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カットオフ値 | CTX | CTX/C | CTX | CTX/C | CTX | CTX/C | CTX | CTX/C |
0.8未満(S) | 0 | 0 | 0 | 0 | 1(5%) | 13(68%) | 7(37%) | 18(95%) |
0.8以上(R) | 19(100%) | 19(100%) | 19(100%) | 19(100%) | 18(95%) | 6(32%) | 12(63%) | 1(5%) |
0.9未満(S) | 0 | 0 | 0 | 2(11%) | 5(26%) | 17(89%) | 11(58%) | 18(95%) |
0.9以上(R) | 19(100%) | 19(100%) | 19(100%) | 17(89%) | 14(74%) | 2(11%) | 8(42%) | 1(5%) |
LVFXについて,カットオフ値0.8の場合,ベリーメジャーエラーがなく,90分以内の判定であれば感性が耐性に転じることはなかった。0.8以上を耐性とした場合,90分または120分の判定で約3割が耐性に誤判定されたことから,0.8をカットオフ値とする場合,90分以内に判定し,0.8未満であれば感性と推測できる。しかし,0.8以上であっても耐性と推測できるのは7~8割程度である。カットオフ値0.9の場合,ベリーメジャーエラーが数件存在したことから,感性と推測するには0.8をカットオフ値とする方が適している。感性を耐性と誤判定した割合は120分で2割程度であり0.8の場合より少ないが,耐性と推測できるのは0.8と同等であった。
これらのことから,LVFXの感受性推定は,90分以内の判定でカットオフ値0.8未満であれば感性と推測できる。また,90分から120分の判定でカットオフ値0.8以上であれば7~8割程度に耐性と推測できる。これは当院のアンチバイオグラムと同等の数値であり,細菌培養による感受性結果と同様の解釈ができる。
次にCTXについて,LVFXの耐性群は時間が経過してもカットオフ値以上からほぼ不変であったが,CTXの耐性群はカットオフ値未満になる傾向が90分以降顕著であった。ベリーメジャーエラーは,カットオフ値0.8,0.9ともに60分で1割未満であったが90分で5割程度に増加している。このことから,CTXは60分以内に判定することが必須である。これを前提に0.8をカットオフ値とする場合,ベリーメジャーエラーが1割未満であること,感性が耐性に転じなかったことから,0.8未満であれば感性と推測することができる。また,0.8以上を耐性とした場合60分で約3割が耐性に誤判定され,LVFX同様0.8以上で耐性と推測できるのは7割程度である。カットオフ値を0.9とした場合,0.8に比べてベリーメジャーエラーが多く,感性と推測する場合には0.8をカットオフ値とする方が適している。また,感性群を耐性と誤判定した割合は0.8より少ないものの,耐性と推測できるのは8割を超さない。
以上のことからCTXの感受性推定は,60分以内の判定でカットオフ値0.8未満であれば感性と推測,0.8以上であれば,7割程度に耐性と推測できる。
CTXとCTX/Cの検討では,ESBLがクラブラン酸で阻害される点に着目し,薬剤投与/ブランク値の割合で比較した。120分の時点でのCTX/Cの有効性は,ESBLはほぼ有効と判断できたが,CTX感性株でも7割程度が有効であり,ESBLの推測が難しかった。そこで,CTXとCTX/Cの菌数の差で比較した(Table 9)。60分でCTX-CTX/Cが正,つまりクラブラン酸で阻害されることにより菌数が減少しESBLと判定できるのは,ESBL既知検体で17/19件であったが,CTX感性株でも11/19件がESBLと誤判定された。今回の検討ではn数が少ないものの,CTX感性株において菌数の差の最大値は60分の774であり,それより差が大きい場合,CTX感性株をESBLと誤判定することは無かった。また,120分ではCTX感性株において差が正になる検体は無かったため,正であればESBLと判定できる。
30分 | 60分 | 90分 | 120分 | |||||
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差が正 | 感性株 | ESBL | 感性株 | ESBL | 感性株 | ESBL | 感性株 | ESBL |
件数 | 3 | 8 | 11 | 17 | 4 | 18 | 0 | 18 |
最小値 (個/μL) |
38 | 122 | 23 | 3 | 62 | 229 | 0 | 185 |
最大値 (個/μL) |
156 | 373 | 774 | 3,987 | 385 | 20,084 | 0 | 47,708 |
以上のことから,774に近く切りが良い800を基準に設定し,いずれの時間においても正の差の菌数が800以上であればESBLと判定でき,また,120分の時点での差が正であればESBLと判断できる。
本法は原尿で実施できること,培養法に比べ安価であること,また細菌検査を実施していない施設でも実施可能であり,特に抗菌薬決定までに大幅な時間短縮ができることから,有効な治療へ貢献できる可能性が高い。あくまでも簡易法ではあるが,患者に適切な抗菌薬が処方できるよう,今後は本検討での課題や菌種によるカットオフ値の設定などを更に検討し,臨床へ提案していきたい。
本論文は,当院の倫理委員会の承認を得ている(承認番号:MEC2020-C56)。なお,本論文の要旨は,第70回日本医学検査学会(web開催)にて発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。