2024 Volume 73 Issue 1 Pages 142-146
本邦における血栓症の増加が指摘されているが,本邦で頻度が高い先天性の血栓性素因としては,凝固制御系因子であるアンチトロンビン(AT),プロテインC(PC),プロテインS(PS)の欠乏症が知られている。プロテインS(protein S; PS)は分子量84,000のビタミンK依存性の凝固関連タンパク質の一つで,肝臓で産生される。血中では40%が遊離型,60%がC4b-binding protein(C4BP)との複合体として存在している。PS欠損症は邦人を含めアジア人種において頻度が高い疾患である。今回我々は新規のPROS1遺伝子変異を検出した患者を経験したため報告する。症例は49歳の女性で,肺塞栓症の既往歴があり,原因不明の血栓症にて当院血液内科に紹介となった。抗凝固蛋白の検査では,PS活性が著しく低下していた(10.0%)。分子遺伝学的解析の結果,PROS1のexon9にc.1009_1013delGTGAというナンセンス変異が判明した。今回発見された変異は,PROS1のコドン337に変異を生じ,exon9以後の欠失を認めた。同胞の遺伝子検査より,この変異により,PSの機能が低下していると推定された。過去の同ドメインの欠損症例は大部分でtype 1 PS欠損症として発症する。
Thrombophilia has recently become a more frequently reported disorder. Hereditary protein S deficiency is one of the anticoagulant deficiencies that eventually results in thrombophilia. A 49-year-old female patient was suffering from unexplained thrombosis for the second time with pulmonary thromboembolism. Screening tests for anticoagulant proteins found that the activity of protein S markedly decreased (10.0%). Molecular genetic analysis revealed a nonsense mutation, c.1009_1013delGTGA, in exon9 of PROS1. The mutation discovered here is a rare one affecting codon 337 of PROS1, which results in the replacement of valine at codon 337 of protein S with threonine, leading to a reduction in protein S function.
血液凝固系は止血のための凝固機構と過剰な血栓が生じないようにする凝固制御機構のバランスで成り立っている。この凝固制御機構の異常は過凝固を誘導し,血栓症を惹起しうる1)。この凝固制御機構はアンチトロンビン,プロテインC,プロテインS(protein S; PS)がある。PSは肝臓及び血管内皮細胞などで産生されるビタミンK依存性の凝固制御タンパクの一つであり,PS欠乏症は病的過凝固状態を起こしうる因子として広く認知されている。特に先天性凝固異常症PROS1遺伝子ヘテロ変異は人口の1.1–2.0%と報告され2),その遺伝子変異も多様で,これまでに約300以上の変異が報告されている3)。今回我々は,血栓症の家族歴を伴う新規のPROS1遺伝子変異を検出した患者を経験したため報告する。
患者:49歳女性。
主訴:受診時症状なし(血栓症の原因精査)。
既往歴:併存歴:肺塞栓症(43歳時),胸膜炎。
内服薬:サプリメントピル含めなし。
アレルギー:なし。
現病歴:生来健康で,特に成長発達に問題を指摘されたことはない。当院血液内科受診3か月前に肺塞栓症を指摘され,抗凝固薬にて改善を認めた。過去にも肺塞栓症の既往があり,血栓症素因の存在が疑われ,精査目的に当院血液内科に紹介となった。
家族歴:父親は下肢静脈塞栓症。妹二人は血栓症の指摘はない(Figure 1)。

検査所見:当院血液内科受診時の血液検査データをTable 1に示す。
| data | reference | ||
|---|---|---|---|
| CBC | WBC | 5,630/μL | 3,300–8,600 |
| neu | 66.90% | 27–72 | |
| lym | 24.00% | 18–59 | |
| mono | 5.70% | 0–12 | |
| eos | 2.70% | 0–10 | |
| baso | 0.70% | 0–3 | |
| Hb | 15.3 g/dL | M/F 13.7/11.6–16.8/14.8 | |
| Plt | 28.0 × 104/μL | 15.8–34.8 | |
| Biochemistory | TP | 7.3 g/dL | 6.6–8.1 |
| Alb | 4.7 g/dL | 4.1–5.1 | |
| BUN | 14.9 mg/dL | 8.0–20.0 | |
| Cre | 0.65 mg/dL | M/F 0.65/0.46–1.07/0.79 | |
| Na | 141 mEq/L | 138–145 | |
| K | 4.2 mEq/L | 3.6–4.8 | |
| Cl | 105 mEq/L | 98–108 | |
| AST | 20 IU/L | 13–30 | |
| ALT | 14 IU/L | 7–42 | |
| LDH | 183 IU/L | 124–222 | |
| T-Bil | 0.7 mg/dL | 0.2–1.3 | |
| D-BIl | 0.1 mg/dL | 0.1–0.5 | |
| CRP | 0.09 mg | 0–0.14 | |
| Anti-cardiolipin Ab | (−) | (−) | |
| Anti-β2glycoprotein Ab | (−) | (−) | |
| Lupus anticoagulant | (−) | (−) | |
| Coaglation | APTT | 27 | < 40 |
| PT-INR | 0.88 | ||
| Fibrinogen | 242 mg/dL | 200–400 | |
| D-dimer | 0.8 μg/mL | < 1.0 | |
| ATIII | 104% | 83–118 | |
| vWF activity | 105% | 60–170 | |
| PS Ag | 67% | 65–135 | |
| Free PS Ag | 22% | 56–126 | |
| PS activity | 10% | 60–150 | |
| PC Ag | 133% | 70–150 | |
| PC activity | 141% | 64–146 | |
CBC,臨床化学検査は正常値であった。凝血学的検査では総PS抗原量は正常値範囲内であったが,PS活性,遊離型PS抗原量は低下していた(Table 1)。
上記結果からPS欠乏症(III型)が強く疑われた。
PS活性低下の原因精査のため,PS遺伝子(PROS1)の解析検査(sanger sequencing法)を実施した(Figure 2)。

その結果,この患者はPROS1のexon9の塩基1009_1013位の欠損(c.1009_1013delGTGA)が認められた。同変異はPSの337位のフレームシフトによるナンセンス変異であり,病的意義を有すると考えられた。
その後,父親・同胞についても検索され,PS遺伝子における同変異を父親および同胞一人に認めた。
先天性PS欠乏症は,①PS活性,総PS抗原量(遊離型PS抗原とPS- C4b-binding protein(C4BP)複合体の総和)がともに減少したI型欠乏症,②PS活性のみが低下し遊離型PS抗原量と総PS抗原量は正常のII型欠乏症,③PS活性と遊離型PS抗原量が減少し総PS抗原量は正常の3種に分類される。本症例はPS遺伝子異常症のIII型欠乏症として臨床的に判断された症例である。
ヒトの血漿中PSはその約60%が補体系制御因子のC4BP(C4b-bindingprotein)とsex hormone-binding globulin(SHBG)ドメインで複合体を形成している。ヒト血液中においてはPSとC4BPの親和性は非常に強く,結合状態ではPS活性は失われる。一方,残りの40%が遊離型として存在し,生理的活性を有している。ヒト血中で血液凝固反応が開始されると遊離型PSは活性化血小板に結合し,活性化プロテインCの補因子として血液凝固を制御する4)。このように血中のPSの状態によりPS活性,抗原量に差が生じると考えられている。
本症例はexon9のナンセンス変異を有していた。PSのカルボキシ末端半分(残基284–676)はexon9からexon14とexon15の5'末端によってコードされており,この領域はSHBGドメインと呼ばれている5)。よって本症例に見られたexon9のナンセンス変異はSHBGドメインの欠失を呈すると予想される。I-TASSER(https://zhanggroup.org/I-TASSER/)によるタンパク質の構造解析を行ったところ,PS wild typeのタンパク構造を模式的に表現することが可能であった(Figure 3)。

Wild typeの予測構造の上に変異点であるval337をplotするとFigure 4の緑の点に相当する。本患者の変異では,この点より22アミノ酸配列後にstop codonとなることが予想され,点線で囲ったSHBG-like domainの多くの部分が欠損することが予想された(Figure 4)。

実際に変異したアミノ酸構造から,変異Protein S構造を予測したところ,Figure 5のようにSHBG-domainのみならず,EGF3/4領域も高次元構造の変動から大きく変化していることが予想された(Figure 5)。

同ドメインの欠損症例の文献的解析からはSHBG欠損症例はI型 PS欠乏症として発症することが多い6)。一方で本症例を含めIII型PS欠乏症として報告されている症例も散見される(Table 2)。実際PS欠乏症では同じPROS1変異であっても臨床病型が異なる症例が報告されている。この臨床病型の差がどのように生じるのか明確にはなっていないが,血中の遊離型PS濃度はPS濃度だけでなくC4BP濃度によって影響を受けるため,同じ遺伝子異常を有していても遊離型PS活性値に差が生じると考えられている7)。
| authors | mautation | sex | type | references |
|---|---|---|---|---|
| Zhao-Hui Wang | p.Asp496* | F | 1 | Thromb J, 2021; 19: 64 |
| p.Asp496* | F | 1 | ||
| p.Asp496* | M | 1 | ||
| p.Asp496* | M | 1 | ||
| Jingyui Zhou | p.Thr518Argfs*39 | F | ND | J Clin Pathol, 2020; 73(1): 7–13 |
| p.Thr518Argfs*39 | M | 3 | ||
| Lei Li | p.Thr518Argfs*41 | M | ND | Thromb Haemost, 2019; 119(3): 449–460 |
| p.thr560* | M | 1 | ||
| p.thr560* | M | 1 | ||
| p.thr560* | F | 1 | ||
| p.thr560* | M | 1 | ||
| p.Glu598* | M | 1 | ||
| Xiaojie Huang | p.Glu598* | M | ND | Medicine (Baltimore), 2018; 97(19): e0714 |
| Fumina Taniguchi | p.As599Thrfs*13 | F | 1 | Thromb Res, 2017; 151: 8–16 |
「特発性血栓症(遺伝性血栓性素因によるものに限る)」診断基準では,確実例(Definite)とほぼ確実例(Probable)を特発性血栓症と診断するが,特徴的な症状と検査所見(血漿中のPC,PS,AT活性低下),および鑑別診断が必須要件である8)。
本症例では受診6年前の43歳時に肺塞栓症を発症,抗凝固薬にて治療を行われた既往がある。抗凝固薬にて改善を認めるが,繰り返す血管内塞栓症を発症していた。
受診時点では特発性血栓症の診断基準を満たしていたのは2項目のみだったが,家族歴を有した再発性の若年患者であり,より早期にPS活性検査などの凝固抑制因子のスクリーニング測定を提案するべき症例であったと考えられた。
新規変異を伴う家族性protein S欠損症の症例を経験した。PROS1のコドン337に変異を生じ,exon9以後の欠損を認めた。この変異により,PSの機能が低下し,PS活性値が低下しているものと推定された。血栓症を発症した若年者では,家族歴や内服歴など患者背景を踏まえたうえで凝固抑制因子のスクリーニング検査を臨床医に提案するべきである。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。