Japanese Journal of Medical Technology
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Introduction of SARS-CoV-2 screening test flow with retesting of ID NOW
Nanako NOBUHIROMakoto KAWACHIMasaki IIMURAKaoru OKIBAYASHIShogo MIYAZAWARika MIZUTANIKana OIKAWAMasahiko SODA
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2024 Volume 73 Issue 1 Pages 99-105

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Abstract

ID NOW(Abbott)は遺伝子検査でありながら,検査所要時間(TAT)が15分と極めて短く,一度の検体採取で再検の実施が可能である。今回我々は,早急な対応が必要な場合のSARS-CoV-2スクリーニング検査フローについて評価した。ID NOWで検査を実施した4,507件のうち初回測定陽性であった80件をID NOWおよび他の遺伝子検査法で再検し結果を比較した。ID NOW初回測定と乖離して結果が陰性となったのは,ID NOWによる再検が6件(7.5%),他の遺伝子検査法による測定が6件(7.5%)であり,全例で一致した。ID NOWのTATは再検を含めても約30分と,他の検査法と比較して短かった。今回の検討から,ID NOWの再検は他の遺伝子検査法による測定を代用できるとし,我々は当院独自のID NOWの再検を組み込んだSARS-CoV-2スクリーニング検査の運用フローを新たに構築した。該当患者に対してID NOWを用いて迅速に検査を実施し,初回測定陰性時はそのまま陰性と報告する。初回測定陽性時は即座に同じ抽出液を用いて再検を実施し,再検でも陽性の場合に陽性と報告する。初回測定陽性,再検陰性の場合は陰性と報告する。SARS-CoV-2スクリーニング検査において,ID NOWを導入し初回陽性検体は残りの抽出液を用いて再検を実施する運用は,TATの短縮と検査フローの簡略化を実現し,有用である。

Translated Abstract

ID NOW (Abbott) is a nucleic acid detection test with an extremely short turnaround time (15 min), and retests can be performed with a single sample sampling. We evaluated ID NOW Screening Tests for SARS-CoV-2 in asymptomatic people who need urgent care or surgery. Eighty out of 4,507 positive cases identified on an initial ID NOW test were retested using ID NOW and other genetic testing methods. The results of six out of the 80 (7.5%) cases differed from those of the initial ID NOW retests. The results of ID NOW and standard genetic testing methods matched perfectly. The turnaround time for ID NOW was about 30 min, including retests, which is significantly shorter than that for other testing methods. The false-positive rate of ID NOW can be reduced by retesting, suggesting that ID NOW can contribute to rapid and simplified SARS-CoV-2 genetic tests. On the basis of this study, we can introduce the following operational flow with retesting as a potentially effective method: (1) ID NOW testing is to be used for the urgent screening of patients. (2) If negative, the result is to be reported as “negative”. (3) If positive, the patient is to be retested using ID NOW. (4) If the second result is positive and the same as the initial result, we report “positive”. (5) If the retest is negative whereas the initial result is positive, we report “negative”. With this test flow, all test results were reported within 30 min. In the screening tests for SARS-CoV-2, ID NOW is introduced, and the first positive sample is retested using the remaining extracted liquid. This system is useful in saving time and simplifying flow.

I  はじめに

2019年12月に報告されたSARS-CoV-2感染症(COVID-19)は全世界でパンデミックを引き起こした。医療現場では感染対策の強化がはかられ,他の外来と区別して発熱外来が設置された。SARS-CoV-2は無症状病原体保有者によっても院内にもたらされ,アウトブレイクを引き起こした1),2)。医療従事者や他の入院患者への曝露リスクを低減するためには,SARS-CoV-2スクリーニングを行い院内への持ち込みを未然に防ぐことが理想である。

当院では,日本での蔓延初期である2020年2月からSARS-CoV-2感染者専用病棟ならびにSARS-CoV-2発熱外来を設置した。SARS-CoV-2感染を疑う場合には診断検査として抗原定性検査であるエスプラインSARS-CoV-2(富士レビオ)を用いた。また,遺伝子検査であるLoopamp SARS-CoV2検出試薬キット(栄研化学)(以下,LAMP),Gene Xpert(ベックマン・コールター),FilmArray(ビオメリュー・ジャパン),を順次導入し,SARS-CoV-2の検出を行ってきた。そして,2021年3月,遺伝子検査としてID NOW(Abbott)2台および,専用試薬であるID NOWTM新型コロナウイルス2019(Abbott)を新規導入した。

ID NOWはサーマルサイクラーを使わずに核酸増幅をすることで迅速に結果が得られるポイントオブケア機器であり,Nicking Enzyme Amplification Reaction(NEAR)法による等温核酸増幅法である。操作は試薬加温と抽出の2ステップと簡便で,TATが15分と極めて短いことが特徴である3)。また,一度の検体採取で再検の実施が可能である。

このような理由から当院では,積極的にはCOVID-19を疑わないが緊急処置・緊急手術等の早急な対応が必要な場合のSARS-CoV-2スクリーニング検査としてID NOWを用いることとした。そして,初回検査で陽性判定をした場合の運用について,同検査の再検,他の遺伝子検査法での測定を行った。今回我々は,その再検結果から再検の有用性を評価し,ID NOWの再検を組み込んだSARS-CoV-2スクリーニング検査の運用フローを新たに構築したので報告する。

II  事前検討

1. ID NOWについて

1) ID NOW基本操作手順4)

①オレンジ色と青色のカートリッジをカートリッジホルダーに挿入し,サンプルカートリッジを3分間加温する。

②ホイルシールをはがし,検体採取後の綿棒をサンプルカートリッジの液体中で10秒間混ぜる。綿球を側面に押し付けて溶液をしぼりながら綿棒を取り除く。

③サンプルカートリッジに分注カートリッジを押し込んで抽出液を吸引し,次に,分注カートリッジを持ち上げて,テストカートリッジに押し込んで接続する。カバーを閉じると自動的にテストが開始され,検出感度に達した時点で陽性判定,陰性判定は10分で行われる。

④測定終了後,テストカートリッジと分注カートリッジを接続したまま機器から取り外してサンプルカートリッジに押し込んで接続し,そのまま廃棄する。

2) ID NOWの再検

ID NOW初回測定陽性時の再検は,添付文書に記載された再検方法4)に従い,初回測定で用いた抽出液の残りを新しい分注カートリッジで再度吸引し,新しいテストカートリッジに接続する方法で実施した。機器の汚染等を考慮し,別の機器を用いて再検した。同じ抽出液を使用するため,この操作に検体の再採取は不要である。

2. 導入時の検査フロー

緊急処置・緊急手術等の早急な対応が必要な場合に,緊急遺伝子検査としてID NOWを用いる。初回測定陰性時はその段階で陰性報告とする。初回測定陽性時は,即座に同じ抽出液を用いて再検を実施し,再検でも陽性の場合は仮陽性報告とする。再検で陰性の場合は判定保留とする。初回測定陽性症例はすべて,検体の再採取を依頼し他の遺伝子検査法による測定を実施し,最終判断とする(Figure 1)。

Figure 1  ID NOW導入時の検査フロー

早急な対応が必要な場合は,ID NOWを用いる。初回測定陰性時はその段階で陰性報告とする。初回測定陽性時は,即座に同じ抽出液を用いてID NOWの再検を実施し,再検でも陽性の場合は仮陽性報告とする。再検で陰性の場合は判定保留とする。初回測定陽性症例はすべて,検体の再採取を依頼し他の遺伝子検査法による測定を実施し,最終判断とする。

3. 対象

2021年3月からの1年間,積極的にはCOVID-19を疑わないが早急な対応が必要でSARS-CoV2遺伝子検査がオーダーされ,ID NOWを用いた4,507件を対象とした。検体は,ニプロスポンジスワブ(ニプロ)もしくはFLOQスワブ(日本ベクトンデッキソン)にて採取された鼻咽頭ぬぐい液を用い,採取後ただちに検査を実施した。

4. 方法

ID NOW初回測定が陽性であった検体において,ID NOWならびに他の遺伝子検査法で再検を実施し,ID NOW初回測定,ID NOW再検および他の遺伝子検査法による測定の三者で結果を比較検討した。ID NOWによる再検は1.2)ID NOWの再検で示した手順で行った。他の遺伝子検査法による測定は検体の再採取を行い,LAMP(遺伝子抽出:magLEAD 6gC(PSS)・増幅:Loopamp EXIA(栄研化学)),Gene Xpert(ベックマン・コールター),FilmArray(ビオメリュー・ジャパン)のいずれかにて実施した。使用試薬はそれぞれ,magLEAD Consumable Kit(PSS)及びMagDEA® Dx SV(PSS),Loopamp® SARS-CoV2検出試薬キット(栄研化学),Xpert ® Xpress SARS-CoV-2「セフィエド」,FilmArray呼吸器パネル2.1を用いた。

5. 測定時間の評価

今回用いる遺伝子検査機器の検査所要時間を測定し,平均値で比較した。

III  結果

ID NOWにてSARS-CoV-2遺伝子検査を実施した4,507件のうち,初回測定陽性は80件(1.8%)であった。その内訳は男性42人,女性38人,年齢は7歳~97歳(中央値72.5歳)であった。このID NOW初回測定陽性80件のID NOW再検ならびに他の遺伝子検査法による測定の結果をFigure 2に示す。ID NOWによる再検では,ID NOW初回測定陽性80件のうち74件(92.5%)は陽性であったが,6件(7.5%)は陰性であり初回測定結果と一致しなかった。検査フローにおいては74件(92.5%)が仮陽性,6件(7.5%)が判定保留となった。また,他の遺伝子検査法による測定でも74件(92.5%)は陽性であったが,6件(7.5%)は陰性であり,これはID NOWの再検結果と完全に一致した。検査フローにおいてはID NOWで初回陽性,再検陰性となった全例において他の遺伝子検査法も陰性であった。また,電子カルテで臨床の最終診断も陰性であることを確認した。

Figure 2  ID NOW初回測定,ID NOWの再検,他の遺伝子検査による測定の三者比較

検査フローにおいて,ID NOWで初回陽性,再検陰性となった全例において他の遺伝子検査法も陰性であった。

他の遺伝子検査法の内訳はLAMP 72件,Gene Xpert 7件,FilmArray 1件であった。用いた遺伝子検査機器のTATはID NOWが約15分,LAMPが抽出と増幅を含め約85分,Gene Xpertが約50分,FilmArrayが約70分であった。ID NOWのTATは再検を含めても約30分以内であり,他の遺伝子検査法と比較して明らかに短かった(Figure 3)。

Figure 3  各検査法のTATの比較

ID NOWのTATは再検を含めても約30分以内であり,他の遺伝子検査法と比較して短かった。

IV  考察

医療施設の安全性,また,術者の安全を確保するためには,SARS-CoV-2のスクリーニング検査を行い,院内での感染拡大を防ぐことは重要である5)。今回我々が対象としたのは,積極的にはCOVID-19を疑わない患者であったにも関わらず,1年間で4,507件中74件の陽性判定を経験した。今回我々は,ID NOWを用いた迅速な結果報告によって即座に患者ならびに患者周囲の感染対策を強化し,医療従事者への曝露を抑制することができたことからもスクリーニング検査は有効であったといえる。

ID NOWは機器が約3 kgと小型で持ち運びも可能であり,検査試薬は室温保管で冷蔵保管する必要がないことが長所である。また,検査後の抽出液はカートリッジをドッキングさせることで廃棄時の感染性物質曝露の心配はないとされる3),4)。しかしながら,コロナ禍初期にはRT-PCR法と比較してID NOWの精度を疑問視する報告も散見された6)~8)。本検討でもID NOW初回測定と再検結果が一致しない例が生じ,ID NOWの偽陽性と考えた。一般的に遺伝子検査における偽陽性の原因として,検体の粘調性や不純物質の存在,交差反応等が考えられるが,ID NOWの結果には増幅曲線,検出時間,Ct値等は一切含まれず,結果について我々ユーザーが詳細に解析することは不可能である。しかし,今回の検討において,ID NOWの再検結果は他の遺伝子検査法の測定結果と完全に一致した。ID NOW初回測定陽性検体は再検を実施し,再検結果が初回測定と同様に陽性である場合のみ陽性報告をする運用であれば偽陽性は生じず,ID NOWのみで結果を報告することは可能と考える。

Tauhら9)はID NOWの偽陽性について,注視すべき事象であり,ID NOWは再検により精度が向上すると述べているが,国内をはじめ,再検を用いた運用方法の報告はこれまでにない。当院は,ID NOW初回測定陽性の全例において他の遺伝子検査法による測定を実施していたが,今回の検討でID NOWの再検結果と他の遺伝子検査法の測定結果が全例一致したことより,ID NOWの再検でこれを代用できるとし,我々は当院独自のID NOWの再検を組み込んだSARS-CoV-2スクリーニング検査の運用フローを構築した(Figure 4)。

Figure 4  当院独自のID NOWの再検を組み込んだSARS-CoV-2スクリーニング検査の運用フロー

早急な対応が必要な場合は,ID NOWを用いて迅速に検査を実施する。初回測定陰性時はそのまま陰性報告,初回測定陽性時は即座に同じ抽出液を用いて再検を実施し,再検でも陽性の場合は陽性と報告する。初回測定陽性,再検陰性の場合は陰性と報告する。

以上のことより,緊急処置・緊急手術等の早急な対応が必要な場合は,ID NOWを用いて迅速に検査を実施し,初回測定陰性時はそのまま陰性報告,初回測定陽性時は即座に同じ抽出液を用いて再検を実施し,再検でも陽性の場合は陽性と報告した。初回測定陽性,再検陰性の場合は陰性と報告した。

なお,ID NOWの精度は他の遺伝子検査法に劣るとされるため5)~8),ID NOW陰性でも臨床的にCOVID-19を否定しきれない場合は,他の遺伝子検査を追加するよう臨床に促した。Figure 4の検査フローに改良したことで,すべての検体の結果報告を30分以内に実施できた。また,Figure 4の検査フローは手順が明瞭であること,検査の操作手順が簡便であること,再検に他の遺伝子検査機器を必要としないことから日当直帯でも対応可能と判断し,日当直者に周知教育を行い,24時間365日の遺伝子検査体制を確立した。さらに,当院はID NOWを2台増設して現在4台で運用しており,他検体の同時測定及び再検は滞りなく実施できる。

検査を行うにあたり,検査方法と検査機器の特性を理解してTAT,コスト,感度・特異度等を考慮した運用方法を構築することが我々臨床検査技師に求められる7)。SARS-CoV-2遺伝子検査における偽陰性は感染者を逃してしまい,治療の遅れのみならず感染対策の上でも危惧されなければならない。また,偽陽性も,陰圧個室の圧迫,感染対策レベルの引き上げによる処置の遅れ,面会制限,不必要な処方,不必要な個人防護具の使用,不必要な隔離による日常生活の制限等が発生し,患者・患者家族ならびに医療機関への不利益は計り知れない。さらに,COVID-19の誤診によって他の感染症や疾患の診断及び治療の遅れ,不必要な処方等を招く可能性も否定できない10)

今回の検討において,コストのみを比較すると,ID NOW(再検未実施):ID NOW(再検実施):LAMP(control測定を含む):GeneXpert:FilmArray = 1:2:0.89:0.77:3.57であり,ID NOWで再検を実施すると,再検を実施しない場合と比較して単純に検査コストは2倍となる。また,LAMP(control測定を含む)とGeneXpertはID NOWの1回測定より安価である。しかしながら,緊急性の高い症例においては迅速性が重要視されることが多い。今回我々が対象としたような緊急処置・緊急手術等の早急な対応が必要な場合のSARS-CoV-2スクリーニング検査においては,再検によるコスト増加よりも偽陽性による不利益のほうが大きいと考える。そのため,挿管などの緊急処置等が必要であり感染否定目的でID NOWを実施したにもかかわらず初回陽性となった際は,再検を実施しSARS-CoV-2感染を確認することは有益であると考える。

アメリカ食品医薬品局(FDA)はCOVID-19の有病率5%以下の集団にID NOWを用いる場合,偽陽性を常に念頭に置く必要があると述べている10)。今回の検討におけるID NOWの対象者も積極的にはCOVID-19を疑わない患者であり,パンデミック下とはいえ,有病率は比較的低い集団であったといえる。そして,今後の入院時スクリーニングや感染レベル引き下げ後の検査においては,ID NOWの偽陽性をこれまで以上に考慮する必要性があると考える。

ID NOWはその特性を十分理解し,迅速性,簡便性を最大限活かした運用を構築することで,有用な遺伝子検査機器になると考える。なお,本検討を終えて構築したFigure 4のID NOW検査フローで運用を開始してから,ID NOW初回測定陽性,再検陰性となり陰性報告を行ったCOVID-19既往歴のない症例は2022年11月現在で14件あったが,臨床診断と一致せず,問題となった症例は当院では一度も経験していない。

V  結語

SARS-CoV-2スクリーニング検査において,ID NOW初回陽性検体を残りの抽出液を用いて再検を実施し結果報告するという,今回構築した検査フローは有用である。また,TATの短縮,フローの簡略化の面からも非常に優れていると考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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