2024 Volume 73 Issue 1 Pages 25-30
体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation; ECMO)を使用する重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例は血液製剤を要するが,その使用状況についての報告は少ない。2019年11月から2021年8月までに当施設でECMO治療を受けた重症COVID-19患者19名の患者背景,血液製剤の使用量,ECMO稼働時間,臨床検査値,転帰を調査し,解析を行った。同時期にECMOを稼働した虚血性心疾患(IHD)患者18名を対照とした。ECMO稼働中,両群ともに臨床検査値の低下時とECMO離脱に際して輸血が行われていた。IHD症例ではECMO導入早期に各血液製剤が使用されていた。一方で,COVID-19症例では血液製剤が連日使用されており,特に新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma; FFP)使用量がIHD症例と比較して有意に多かった。輸血療法の目安として臨床検査値が一般的であるが,ECMO稼働症例では両群ともにECMO離脱時にも輸血が実施されており,治療の進捗状況に留意する必要がある。輸血管理部門としては臨床検査値,治療状況を把握し輸血要請に迅速に対応できる製剤管理を行う必要がある。
Severe coronavirus infection (COVID-19) requires treatment with extracorporeal membrane oxygenation (ECMO). COVID-19 patients have high transfusion requirements, but there are few reports on how to manage and administer them. From 2019 to 2021, 37 patients with COVID-19 and ischemic heart disease (IHD) were enrolled. We obtained information about the patients’ background features, blood product requirements, duration of ECMO, laboratory data, and outcomes. During ECMO, transfusion was administered in both groups at the time of laboratory data reduction and ECMO weaning. IHD patients were administered each blood product in the early phase of ECMO. In contrast, COVID-19 patients were administered blood products every day during ECMO and used significantly more FFP than IHD patients. Laboratory data are generally used as a guideline for transfusion therapy, but transfusions are also administered during weaning from ECMO, it is necessary to pay attention to the status of the treatment. We need to monitor laboratory data and treatment status to manage blood products and to quickly respond to transfusion requests.
2023年5月8日に5類感染症へ移行した新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease-2019; COVID-19)は現在に至るまで7億人以上の感染者を出している1)(2023.6.1現在)。多くは無症状や感冒症状に留まり軽快するが,基礎疾患のある患者や肥満者は重症化し,体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation; ECMO)による補助を要する症例や死亡する例もある2)。
ECMOは治療目的によってveno arterial ECMO(VA ECMO)とveno venous ECMO(VV ECMO)2種類に大別され,前者は心機能補助,後者は呼吸補助として用いられている。VA ECMOを稼働する症例には虚血性心疾患(ischemic heart disease; IHD),心筋炎などがあり,急性呼吸窮迫症候群を伴う重症COVID-19では呼吸補助を目的にVV ECMOが用いられ,一定の効果を示している3)。
ECMO稼働時には各血液製剤を要する4)。これは送脱血管の挿管に伴う出血や炎症による凝固亢進,その対症療法で行われる抗凝固療法やECMO稼働時の血液浄化が関係している5)。
COVID-19症例でも各血液製剤の輸血を要するが,ECMOを稼働した症例の血液製剤使用状況についての報告は少ない。
本研究はECMOを稼働したIHD症例と比較し,ECMOを稼働したCOVID-19症例の血液製剤の使用方法の特徴および管理方法を検討することを目的として行った。
2019年11月~2021年8月に藤田医科大学病院でECMO治療を受けた症例のうち,COVID-19とIHD症例,それぞれ19症例,18症例の連続37症例を対象とした。また,ECMO離脱後に再稼働した1症例と治療中に緊急手術を行った4症例は除外対象とした。使用されたECMOはVV ECMOがCOVID-19で18症例,VA ECMOがCOVID-19の1症例とIHD症例の18症例であった。
患者背景として年齢,性別,身長,体重,体格指数(body mass index; BMI),輸血した血液製剤の単位数,ECMO稼働時間,臨床検査値としてヘモグロビン(hemoglobin; Hb)値,血小板(platelet; PLT)数,基礎疾患(高血圧,糖尿病,腎不全)を電子カルテから調査し,後方視的検討を行った。
また,各症例の転帰を調査した。観察期間は,ECMO稼働時から2022年4月27日までと設定し,その平均日数は151.3日であった。加えて,ECMO稼働から14日間の両群の生存曲線を作成した。
統計学的解析はEZR(easy R)version 1.556)を使用し,2群間の比較はWilcoxsonの符号順位検定,生存曲線はKaplan-Meier曲線をlog-rank検定で分析した。p値は0.05未満を統計学的有意とした。
本研究は,藤田医科大学医学研究倫理審査委員会(HM-22-404)の承認を受けて行った。
COVID-19群と,IHD群の患者背景およびECMO稼働前の検査値をTable 1にまとめた。2群間で年齢,男女比,高血圧症と糖尿病の罹患率,ECMO開始前のHb値とPLT数に有意差は認めなかった。ECMO稼働期間は,IHD群の中央値が2.1日[0.4–5.9]であるのに対し,COVID-19群の中央値が21.5日[12.3–30.7]と顕著に長かった(p < 0.001)。また,BMIはCOVID-19群で29.8 kg/m2[25.2–34.1]で,IHD群の23.8 kg/m2[22.2–26.8]と比較して有意に高値(p = 0.008)であった。
COVID-19 (n = 19) |
IHD (n = 18) |
p値 | |
---|---|---|---|
年齢(歳) | 58.0[47.0–66.0] | 62.0[54.0–71.8] | 0.214 |
男性割合(%) | 13(68.4) | 17(94.4) | 0.090 |
身長(cm) | 168.0[145.0–180.0] | 170.0[155.0–178.0] | 0.463 |
体重(kg) | 79.5[67.1–103.8] | 70.0[61.8–79.2] | 0.088 |
BMI(kg/m2) | 29.8[25.2–34.1] | 23.8[22.2–26.8] | 0.008 |
高血圧 n,(%) | 11(57.9) | 6(33.3) | 0.191 |
糖尿病 n,(%) | 7(36.8) | 4(22.2) | 0.476 |
末期腎不全 n,(%) | 1(5.3) | 0(0.0) | 1 |
PLT(×10⁴/μL) | 21.5[13.2–28.5] | 15.6[11.6–20.9] | 0.265 |
Hb(g/dL) | 12.7[11.1–13.5] | 12.6[9.3–13.1] | 0.139 |
ECMO稼働時間(日) | 21.5[12.3–30.7] | 2.10[0.4–5.9] | p < 0.001 |
中央値[四分位範囲]
COVID-19, n = 19; IHD, n = 18; BMI, body mass index; ECMO, extracorporeal membrane oxygenation; PLT, platelet; Hb, hemoglobin.
ECMO稼働期間中の血液製剤使用単位数をTable 2にまとめた。COVID-19群の新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma; FFP)の使用量は中央値116.0単位[38.0–179.0]で,IHD群の使用量中央値6.0単位[4.0–13.5]と比較して有意に多かった。また,ECMOを稼働したCOVID-19ではクリオプレシピテートの使用量が多いという報告もある7)が,本検討においては両群ともにクリオプレシピテートの使用はなかった。COVID-19群の赤血球液(red blood cells; RBC)の使用量中央値は30.0単位[9.0–58.0]で,IHD群の使用量中央値9.0単位数[6.0–22.0]と比較して多い傾向を認めたが,統計学的に有意差を認めなかった。濃厚血小板(platelet concentrate; PC)の使用量は,COVID-19群で中央値40.0単位[0.0–120.0]であり,IHD群の使用量中央値0.0単位[0.0–15.0]と比較して多い傾向にあった。
COVID-19 (n = 19) |
IHD (n = 18) |
p値 | |
---|---|---|---|
RBC(units) | 30.0[9.0–58.0] | 9.0[6.0–22.0] | 0.118 |
FFP(units) | 116.0[38.0–179.0] | 6.0[4.0–13.5] | p < 0.001 |
PC(units) | 40.0[0–120.0] | 0.0[0–15.0] | 0.055 |
中央値[四分位範囲]
COVID-19, n = 19; IHD, n = 18; RBC, red blood cell; FFP, fresh frozen plasma; PC, platelet concentrate.
Figure 1に疾患別血液製剤の使用単位数の推移を示す。グラフにはECMO導入からの経過日数と各症例の生存している症例数,輸血を行った症例数,製剤の使用単位数の推移を提示した。RBC,FFPはCOVID-19群,IHD群ともにECMO導入から連日使用されており,IHD群ではday 8以降は急激に使用されなくなっていた。一方で,COVID-19群ではday 8以降も少量の血液製剤を恒常的に使用していた。なお,各種血液製剤において日毎の使用量に有意差は見られなかった。
(a)日毎のRBC製剤の使用単位数の推移。(b)日毎のFFP製剤の使用単位数の推移。(c)日毎のPC製剤の使用単位数の推移。
図の括弧内の数字はそれぞれ,左がCOVID-19群,右がIHD群の輸血を受けた症例数を示している。
Figure 2にECMO導入から7日間の臨床検査値の推移を示す。7日間におけるHb値の最大値から最小値への変化は,IHD群では12.7 g/dLから9.5 g/dLに経時的に緩やかに低下したが(Figure 2(a)実線),COVID-19群のHb値は12.7 g/dLから12.0 g/dLであり,ほぼ変化なく推移した(Figure 2(a)破線)。
(a)ECMO稼働開始から7日間のHb値(線グラフ)。(b)ECMO稼働開始から7日間のPLT数(線グラフ)。COVID-19,n = 19; IHD,n = 18。
両群ともに日毎に緩やかに低下し,その低下速度は群によって異なった。また,IHD群ではHb値9.5 g/dL,PLT数5 × 104/μL付近を推移していたのに対し,COVID-19群ではHb値12 g/dL,PLT数10 × 104/μL付近を推移していた。
他方,PLT数は,IHD群(Figure 2(b)実線)で15.6 × 104/μLから4.3 × 104/μLに,COVID-19群では21.5 × 104/μLから10.2 × 104/μLに低下していた(Figure 2(b)破線)。
ECMO稼働2日目は,1日目と比較してIHD症例のHb値の低下が1.6 g/dL,COVID-19症例,IHD症例それぞれのPLT数の低下が3.8 × 104/μL,6.3 × 104/μLであった。このように前日からの検査値の低下の程度が大きい日は血液製剤の投与量が多かった。また,ECMO離脱時には52.6%の症例でRBC輸血を行っていた(Figure 1,2)。
IHD群で14日間生存したのは5症例のみ(約28%)であり,およそ半数がECMO稼働から1週間前後で亡くなっていた。一方で,COVID-19群ではVA ECMOを稼働した1症例を除く全症例(約95%)が14日間生存していた(Figure 3)。
COVID-19群を破線で,IHD群を実線で示す。
14日間において,IHD群では7日間でおよそ半数,14日間では7割が亡くなっていたのに対して,COVID-19群はVA-ECMOを稼働した1症例を除き,全ての症例で生存していた。
COVID-19群でECMO稼働期間が長く,肥満を有する患者が多いという結果は肥満が重症化のリスク因子であるという過去の報告と同様の傾向を示しており8),本研究と矛盾はない。
両群共にECMO稼働期間のHb値は緩やかに低下していくが,低下速度で比較するとCOVID-19群はIHD群より緩やかであった(Figure 2)。過去に,VV-ECMOを稼働した患者ではHb値が7 g/dLを下回ると死亡リスクが増加し,その際にRBC輸血を行うと死亡率が低下すると報告がある9)。実際に本検討もHb値が7 g/dLを下回る前に輸血しており,COVID-19群で12 g/dL,IHD群で9.5 g/dL付近の値で推移していた。Hbの維持値の差は,COVID-19の病態が明らかとなる以前の治療であったことから,患者安全の観点からHb値やPLT数をより高い水準で管理を行った可能性がある。またはVA ECMOとVV ECMOの違いが血液製剤の使用方法に影響を与えたかもしれない。以上から,本検討では病態や治療によって無輸血が許容できるHb値以下になるまでの期間に差があり,それがRBC使用時期の特徴に表れていると考える。PC輸血もHb値とRBC輸血の関係と同様にPLT数の低下に伴い輸血が実施されており,COVID-19群で10 × 104/μL,IHD群で5 × 104/μL程度の値で推移していた。IHD群ではHb値,PLT数ともにCOVID-19群よりも低い値で推移していたが,ECMO稼働中の最低Hb値,PLT数はECMOを稼働した成人を対象とした報告の結果と近似していた10)。したがって,本検討においてIHD症例で特段Hb値とPLT数が低い水準で維持されていたとは考えにくく,COVID-19症例では,比較的高いHb値,PLT数を維持するよう治療されていたと考えられる。
COVID-19群はIHD群と比較して,各製剤の総使用量が多いという特徴を認めた(Table 2)。これはRBCやPCはHb値とPLT数がIHD群よりも高い値で保たれていること(Figure 2),血液製剤が ECMO稼働中に恒常的に使用されており(Figure 1),ECMO稼働期間が長いこと(Figure 3)も要因と考える。ECMO稼働期間が長いことと輸血使用量には関連があることが報告されており10),本検討結果もそれを支持するものである。
ECMO稼働中は両群とも基本的に臨床検査値に基づいて輸血の実施が行われている。しかし,ECMO離脱に備えた予防的投与や循環血液量の確保を目的とした臨床検査値によらない輸血も行われる。本検討において,COVID-19症例ではHb値が11 g/dL,PLT数が10 × 104/μLを目安に輸血が実施されており,ECMO離脱時には約50%の症例でRBC輸血(2~16単位)が行われている実情が明らかとなった。我々輸血管理部門には,臨床検査値及び治療の推移に注視して製剤管理を行うことが求められる。COVID-19症例では,少量のRBCやFFPを連日投与する特徴から在庫量には長期的な注意を払う必要がある。
本研究の限界は単一施設による後方視的検討でありサンプルサイズが小さい点である。そのため,より正確な血液製剤の投与状況や傾向を把握するためには多施設でのさらなる調査を要する。
ECMOを稼働する重症COVID-19群ではIHD群と比較して多くの血液製剤を使用する傾向があることが明らかとなった。血液製剤は臨床検査値の低下やECMO離脱などを契機に使用される。そのタイミングは病態によって異なり,輸血管理部門では臨床検査値,治療状況を把握し,臨床からの輸血要請に迅速に対応できる製剤管理を行う必要がある。COVID-19症例の場合,血液製剤の継続的な使用に対応することが重要である。
本研究において,藤田医科大学病院ME管理室の山本賢先生,竹内陵先生にご助力をいただきました。ここに深謝いたします。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。