2024 Volume 73 Issue 1 Pages 115-122
我々は,デンシトメトリー分析装置“クイックナビリーダーTM2”の有用性評価の検討を行った。SARS-CoV-2抗原陽性検体,インフルエンザウイルス抗原陽性検体,陰性対照検体におけるリーダー判定と目視判定の一致率は100%の結果が得られた。ジドウヨミトリモードを使用し,SARS-CoV-2抗原陽性検体における試料滴加から陽性ライン検出にかかる時間を調査したところ,平均で1.28分であった。SARS-CoV-2リコンビナント抗原,SARS-CoV-2抗原陽性プール検体,インフルエンザウイルスA型抗原陽性プール検体の希釈系列検体における判定閾値比較では,目視判定では陽性と陰性の判定閾値は個人差を認めた一方で,リーダーの判定閾値と目視による判定閾値は,3系列共にほぼ一致した。クイックナビリーダーTM2は,目視と同等の判定精度を有し,再現性の保証,時間管理の手間削減,結果報告時間の短縮が可能なことから,より高品質のイムノクロマト法の提供に寄与し得ると考えられる。
We evaluated the performance of the densitometer “QuickNavi ReaderTM2”. The concordance rate between reader judgment and visual judgment was 100% for SARS-CoV-2 antigen-positive specimens, influenza virus antigen-positive specimens, and negative control specimens. Using automatic read mode, the time from sample addition to positive line detection in SARS-CoV-2 antigen-positive specimens was investigated and averaged 1.28 minutes. Individual differences in visual positivity were observed in the comparison of the determination thresholds of the SARS-CoV-2 recombinant antigen dilution series samples, SARS-CoV-2 antigen-positive pool samples, and influenza virus A antigen-positive pool samples and Negative decision threshold. On the other hand, the reader’s judgment threshold and the visual judgment threshold were almost the same in all three series. QuickNavi ReaderTM2 guarantees judgment accuracy and reproducibility equivalent to visual observation, saves labor in time management, and shortens the time to report results, contributing to the provision of higher quality immunochromatographic methods.
イムノクロマト法(immunochromatography)を原理とした感染症迅速診断キットは安価・簡便なため広く普及している。一方で,感度と特異性,抗原変異への対応,病期と抗原量に起因する感度の影響,操作者の技能に依存,交差反応など,いくつかの課題が存在し,さまざまな改善策が研究と開発の焦点となっている。なかでも,①テストラインの発色強度は対象抗原量に依存するため,特に感染症発症初期における検出限界付近では目視による結果判定に苦慮することがある。また,同様の理由で,②判定に個人差が生じることも知られている1)~3)。これらはメーカーを問わず目視判定を要するイムノクロマト法における共通の問題として認識され,感染症迅速診断キットにおける,特に検出限界付近の判定の統一化(再現性の保証)は品質管理上の重要課題である。感染症の早期診断と迅速な対応は,公衆衛生において極めて重要であり,このような技術の開発と改善は健康管理に寄与し得る。
デンカ株式会社では,“クイックナビTM-Flu2”専用のデンシトメトリー分析装置“クイックナビリーダーTM”を販売していたが,昨今の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大を経て,同社の種々の感染症迅速診断キット“クイックナビTM”シリーズに対応したデンシトメトリー分析装置“クイックナビリーダーTM2”を2023年6月8日に発売した。
各メーカーのデンシトメトリー分析装置に関する報告は散見されるが,多くはインフルエンザウイルスに対する迅速診断キットを用いたものに限られ,“クイックナビTM”シリーズあるいはSARS-CoV-2に対する報告は限定される。我々は,“クイックナビリーダーTM2”の有用性評価の検討を行ったので報告する。
2023年2月17日~4月30日および9月19日~9月30日に当院にて,SARS-CoV-2抗原検査並びに,SARS-CoV-2抗原・インフルエンザウイルス抗原同時検査を実施した残余検体(内訳 SARS-CoV-2抗原陽性(グループ①と②,検討にあわせ無作為に2群に分けた):59件,インフルエンザウイルスA型抗原陽性(グループ③):59件,インフルエンザウイルスB型抗原陽性(グループ③):1件,陰性対照検体(グループ④と⑤):81件),およびSARS-CoV-2リコンビナント抗原溶液(抗原濃度500 ng/mL)(デンカ株式会社)を対象とした。なお,検体収集においては,期間中に対象検体数の調整を行ったため実際の出検状況および流行状況とは異なる。使用キットは,クイックナビTM-COVID19 Ag(デンカ株式会社),クイックナビTM-Flu+COVID19 Ag(デンカ株式会社),判定用リーダーとしてクイックナビリーダーTM2(デンカ株式会社)を用いた。
検討方法および内容は以下の通りである。対象の臨床検体は実臨床における検査実施後,残余検体を−30℃にて一時保管した。後日,検討直前に一括で融解し以下の検討を行った。
1. 検討① リーダー判定と目視判定比較融解した対象の臨床残余検体(グループ①~④)を,リーダー判定と目視判定を行い,その判定結果を比較した。SARS-CoV-2抗原陽性検体のうち,n = 30(グループ①)は“スグヨミトリ”モードで,n = 29(グループ②)は“ジドウヨミトリ”モード判定を行った。
2. 検討② 試料滴加から陽性ライン検出にかかる時間検討①のうち,“ジドウヨミトリ”モード判定を行った検体(n = 29,グループ②)および陰性対照としてグループ⑤を用いて,試料滴加から陽性ライン検出にかかる時間評価を行った。
3. 検討③ 希釈系列検体における判定閾値比較希釈系列検体における判定閾値比較に用いた試料調整および希釈系列作製プロトコールをFigure 1およびFigure 2に示す。検討①の臨床残余検体をSARS-CoV-2抗原陽性プール検体(グループ①および②を用いて作成)もしくはインフルエンザウイルス抗原陽性プール検体(グループ③を用いて作成)としてプール化し,キット抗原抽出液(約400 μL)にておよその2倍希釈系列を作製し使用した(Figure 2)。SARS-CoV-2リコンビナント抗原溶液については,抗原希釈液(デンカ株式会社)で10倍希釈し,それをもとに2倍希釈系列を作製,その一部(30 μL)をキット抗原抽出液(約400 μL)に添加し使用した(Figure 1)。
検体番号1~10のチューブには,予めキット抗原抽出液(約400 μL)が充填されている。
検体番号1~15のチューブには,予めキット抗原抽出液(約400 μL)が充填されている。
目視判定は,検討①および②では筆頭著者ならびに共同研究者の複数名での判定,検討③では当院で日常的にイムノクロマト法を取り扱っている臨床検査技師16名(キャリア2–25年目)により実施した。いずれも,先行してリーダー判定による予備試験を行い,その結果を各検体の仮判定とした。引き続き,目視判定では,数名でグループをつくり,グループにつき1つのプレートで,複数名での目視判定を行った。目視判定者は本検討の意義を十分理解し,手順を厳守し独立判定を行った。目視判定後には,速やかに再度リーダー判定を行い,予備試験の仮判定との乖離を確認したが,全検体で結果に相違を認めないことを確認しており,プレート間のバイアスの影響がないことを確認している。なお,目視判定およびリーダー判定はメーカーの添付文書に従い実施した。
本検討は一般財団法人竹田健康財団臨床倫理委員会の承認を得て実施した(研究倫理審査受付番号:2023-108K,承認日:2023年7月19日)。残余検体の使用にあたっては,包括同意を得ており個人情報は連結不可能匿名化を行った。また,デンカ株式会社と共同研究契約を締結し,リーダーおよびキット,SARS-CoV-2リコンビナント抗原の提供を受けて実施した。
クイックナビリーダーTM2の動作原理および製品特徴を示す。本リーダーは,光学センサーによりテストデバイスのテストライン及びコントロールラインの撮像・画像解析を行い,設定された閾値との比較により陽性・陰性の判定結果をデジタル表示する。従来品のインフルエンザキット専用から,“クイックナビTM”シリーズ全般に適応が拡大となった。本リーダーの液晶画面には,ステータス表示や各キットにおける通常の判定(「+」もしくは「−」)のほかに,複数抗原陽性の場合は「ハンテイホリュウ」や,コントロールライン非発色の場合は「ハンテイフノウ」,など低頻度症例への注意喚起や検査過誤の防止のためのコメント発出機能も有する。本リーダーには,反応終了後のラインの有無を読み取る“スグヨミトリ”モードと,試料滴加後にライン読み取りを自動で行う“ジドウヨミトリ”モードの,2つのモードを有す(Figure 3)。“スグヨミトリ”モードは反応時間が終了したテストプレートを読み込ませ判定のみを行うモードに対して,“ジドウヨミトリ”モードは試料滴加後のテストプレートを速やかに挿入することで,各種キットに応じた反応時間管理も行う。“ジドウヨミトリ”モードでは,1分刻みでラインの撮像・画像解析を行う仕組みで,陽性判定に関しては初回読み取りとなる開始後最短1分で判定が可能となっている。
検討①の結果をTable 1に示す。SARS-CoV-2抗原陽性検体59件を用いて,グループ①はクイックナビTM-Flu+COVID19 Agを使用し“スグヨミトリ”モード,グループ②はクイックナビTM-COVID19 Agを使用し“ジドウヨミトリ”モードで判定を行ったところ,複数抗原で陽性となった事例も含めて,判定一致率100%の結果が得られた。同様に,インフルエンザウイルス抗原陽性検体60件(グループ③)を用いて,クイックナビTM-Flu+COVID19 Agを使用し“スグヨミトリ”モードで判定を行ったところ,判定一致率100%の結果が得られた。また,陰性対照検体を用いて,グループ④はクイックナビTM-Flu+COVID19 Agを使用し“スグヨミトリ”モード,グループ⑤はクイックナビTM-COVID19 Agを使用し“ジドウヨミトリ”モードで判定を行ったところ,判定一致率100%の結果が得られた。
対象 グループ |
使用キット | 判定モード | SARS-CoV-2 | インフルエンザA型 | インフルエンザB型 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
陰性 | 陽性 | 陰性 | 陽性 | 陰性 | 陽性 | ||||
グループ① | Flu+COVID | スグヨミトリ | 検体数 | 0 | 30 | 26 | 4 | 30 | 0 |
判定一致 | 30 | 30 | 30 | ||||||
判定不一致 | 0 | 0 | 0 | ||||||
一致率(%) | 100.0 | 100.0 | 100.0 | ||||||
グループ② | COVID | ジドウヨミトリ | 検体数 | 0 | 29 | N/A | N/A | N/A | N/A |
判定一致 | 29 | N/A | N/A | ||||||
判定不一致 | 0 | N/A | N/A | ||||||
一致率(%) | 100.0 | N/A | N/A | ||||||
グループ③ | Flu+COVID | スグヨミトリ | 検体数 | 60 | 0 | 0 | 60 | 59 | 1 |
判定一致 | 60 | 60 | 60 | ||||||
判定不一致 | 0 | 0 | 0 | ||||||
一致率(%) | 100.0 | 100.0 | 100.0 | ||||||
グループ④ | Flu+COVID | スグヨミトリ | 検体数 | 41 | 0 | 41 | 0 | 41 | 0 |
判定一致 | 41 | 41 | 41 | ||||||
判定不一致 | 0 | 0 | 0 | ||||||
一致率(%) | 100.0 | 100.0 | 100.0 | ||||||
グループ⑤ | COVID | ジドウヨミトリ | 検体数 | 40 | 0 | N/A | N/A | N/A | N/A |
判定一致 | 40 | N/A | N/A | ||||||
判定不一致 | 0 | N/A | N/A | ||||||
一致率(%) | 100.0 | N/A | N/A |
Flu+COVID:クイックナビTM-Flu+COVID19 Ag,COVID:クイックナビTM-COVID19 Ag
SARS-CoV-2抗原陽性検体29件(グループ②)を用いて,“ジドウヨミトリ”モードにおける,試料滴加から陽性ライン検出にかかる時間を調査したところ,陽性判定がされるまでの時間は平均で1.28分であった(Figure 4)。他方,陰性検体40件(グループ⑤)では規定時間後すべて陰性と判定された。
使用キット:クイックナビTM-COVID19 Ag
Table 2に,AがSARS-CoV-2リコンビナント抗原,BがSARS-CoV-2抗原陽性プール検体,CがインフルエンザウイルスA型抗原陽性プール検体における希釈系列と,それぞれの目視判定およびリーダー判定の結果を示す。
検体番号 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
A SARS-CoV-2リコンビナント抗原液 | |||||||||||||||
リーダー | + | + | + | + | − | − | − | − | − | − | |||||
目視+/− | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 8/8 | 8/8 | 0/16 | 0/16 | 0/16 | 0/16 | 0/16 | |||||
B SARS-CoV-2抗原陽性プール検体 | |||||||||||||||
リーダー | + | + | + | + | + | + | + | + | + | + | + | − | − | − | − |
目視+/− | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 10/6 | 6/10 | 0/16 | 0/16 | 0/16 | 0/16 |
C インフルエンザA抗原陽性プール検体 | |||||||||||||||
リーダー | + | + | + | + | + | + | + | + | + | + | − | − | − | − | − |
目視+/− | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 16/0 | 0/16 | 0/16 | 0/16 | 0/16 | 0/16 |
使用キット:クイックナビTM-Flu+COVID19 Ag,目視判定:当院臨床検査科スタッフ16名(キャリア2–25年目)によるブラインド判定によるもので,陽性(+)/陰性(−)と判定した人数を表している。
リーダーの判定閾値と目視による判定閾値は,3系列共にほぼ一致した。SARS-CoV-2抗原における推定の目視およびリーダーでの判定閾値は,検体抽出液に添加したリコンビナント抗原溶液の蛋白濃度が50 ng/mL × 24~25付近であることが示唆された。また,目視判定では陽性と陰性の判定閾値は個人差を認め,境界領域での一致率はインフルエンザウイルス抗原では100%であったが,SARS-CoV-2抗原におけるリーダーとの一致率は,最も低いところではリコンビナント抗原で50.0%,プール検体で37.5%であった。
本検討ではクイックナビリーダーTM2における,従来一般的に行われていた目視判定との判定性能の差を明らかにするため,種々の検討を行った。イムノクロマト法の目視判定においては,特に判定ラインとバックグラウンドの色調コントラストの差が判断材料の1つとなるため,検体の進展や色調の異常は目視判定に影響を及ぼし得る要因となる。そのため我々は,判定一致率や希釈系列を用いた判定閾値比較の検討では,患者の細胞や粘液成分など一般的な夾雑物を含む実臨床残余検体を中心に検討を実施した。なお,対象検体の収集期間中に,弱陽性検体や明らかな血液混入検体には遭遇しなかったため,そのような検体は対象には含まれなかった。一方で,検討①の一部の対象検体において,本検討エントリー前(凍結保管前)に実臨床で実施した目視判定結果と,本検討時のリーダー判定ならびに目視結果に差異が認められた事例に遭遇した。いずれも凍結保管・融解によって,新たに予期していなかった陽性ラインが新たに出現した。いずれのケースも陽性ラインの色調に異常はなく,明らかな非特異反応時に認められるゴーストラインとは異なっていた。また,十分に強く発色していたため,リーダー判定と目視判定に乖離を認めるものではなかった。非特異反応が助長されたか,もしくは微弱反応が増強された可能性がある。なお,メーカーでは検体の凍結保存の検討は実施していないため,詳細な原因は不明である。いずれにせよ,本検討の趣旨や結果に影響がないため,対象からは除外せず,そのまま掲載・集計している。
リーダー判定と目視判定比較(検討①)に用いたSARS-CoV-2抗原陽性検体59件,インフルエンザウイルス抗原陽性検体60件,陰性対照検体81件において,全例一致(陽性一致率・陰性一致率ともに100%)の結果であった。インフルエンザウイルス抗原に対して目視判定とリーダー判定の一致率を比較した先行研究では,先行販売されていたクイックナビリーダーTMを用いた検討において,弱陽性検体で100%の一致率を得ており,有用性が明らかとなっている1)。対して,他メーカーのリーダーにおいても強陽性検体では98.3~100%の一致率を得ており3),本検討の結果に大きな差を認めなかったことからも,既存のリーダーと遜色のない性能を有していることが示唆された。一方で,検出感度付近では,クイックナビリーダーTMで79.4~100.0%1),他メーカーのリーダーで60.7~96.4%3)であり,目視判定における個人差を認めた。これらの一致率は,普段目視判定を行っていない検者の場合はさらに低下する傾向を認めた。我々も,希釈系列検体を用いて,リーダーと目視の判定閾値比較による検出感度の評価を行った。本検討は日常的にイムノクロマト法を取り扱っている検者で実施したが,プール検体によるインフルエンザウイルス抗原に対しての検出感度付近の一致率は100%であったが,SARS-CoV-2抗原に対しての検出感度付近の一致率は大きく低下した。2n希釈を用いた検出感度付近の一致率を検討した他の報告でも示されているように,2n希釈では2管差程度は検者間でのバラつきを認めたことからも,本検討における希釈試験の結果も,想定される範囲内でのバラつきであると考えられる。目視とリーダー判定では一定程度の乖離は避けられないことには常に留意しなければならない。一方で,SARS-CoV-2抗原に対して目視判定とリーダー判定の一致率を比較した研究は,他メーカーのリーダーを含めて報告がなく,本研究にて初めて明らかにした。本検討では,一部のキットでの評価となったが,臨床残余検体やリコンビナント抗原において,検出限界付近で,リーダー判定と目視判定の結果はほぼ一致しており,本リーダーの判定閾値は目視と同程度の感度を有することが示唆された。なおメーカーによると,本リーダーに対応したすべてのキットにおいて,その添付文書における最小検出感度を確認した抗原を用いた目視とリーダー判定の感度試験を行っており,最小検出感度はキット(目視判定)とリーダー判定で相違はないとされるが,今後,更なる報告が待たれるところである。
先行研究1)~3)によると,目視判定における検者間におけるバラつきの原因の一つとされる目視判定に影響を及ぼす要因として,熟練度と視力的な差異が関係することが明らかとなっている。具体的要因として,年齢や職種(普段からイムノクロマト法を使用しているか否か)などが挙げられるが,本検討で目視判定を行った当院臨床検査科スタッフ16名(いずれも臨床検査技師)において,年齢,性別,キャリアなどに対する関連性は認められなかった。いずれにせよ,本リーダーを使用することで,それらの影響要因を排除することができるため,高精度かつ安定的な判定に寄与し得ると考える。
次に,“ジドウヨミトリ”モードを用いた試料滴加から陽性ライン検出にかかる時間の評価を行ったところ,8割を超える検体において,読み取り1回目(滴加後1分)で陽性判定となった。陽性判定がされるまでに要した時間は平均で1.28分であった一方,陰性検体は規定時間後すべて陰性と判定された。“クイックナビTM”シリーズは,試料滴加後,所定の反応時間経過後,速やかに判定を実施することが求められる。さらに,イムノクロマト法の特性等から,所定の時間では反応および発色は完了せずに,以降もわずかに進行・継続し,反応時間超過以降にラインが出現する場合もあるが,時間超過のテストデバイスは判定には使用できない。ただし,試料滴加から判定時間の間に予期される色調のコントロールラインと陽性のテストラインが出現した時点で,陽性と判定することができる。“ジドウヨミトリ”モードを使用せず,タイマー管理を行う場合,種々の検査キットに合わせての時間設定の誤り,タイマーのかけ忘れ,判定時間超過による新たなライン出現,などの検査過誤の要因となる。さらに,目視判定を併用することで,それ自体に由来する判定誤差も生じるため,品質保証上の懸念事項である。本リーダーの“ジドウヨミトリ”モードを使用することで,タイマー管理の手間や目視判定による不確実性が排除できる。特にジドウヨミトリモードでは,陽性者を短時間で陽性判定可能なことから,流行期における医療者の負担を軽減や,早期に陽性者を識別することで,治療開始や2次感染予防を早期に実施し得ることとなり,本リーダーの使用は医療者・患者側双方に有益であると言える。しかしながら,本検討では明らかな陽性検体を多く含んでの結果であったため,対象によっては陽性判定までの時間は延長する可能性が考えられることにも十分留意されたい。
以上のように,クイックナビリーダーTM2は,陽性検体での目視判定一致率,陰性検体での一致率がともに100%であり,検出限界付近であっても目視判定と同等の検出感度を有する,“ジドウヨミトリ”モードでは早期に陽性検体を判定し得ることが明らかとなった。一方で,今回の検討内容とは異なるが,本リーダーはラインの濃淡(強弱)により判定するが,色調の区別はできない。そのため,非特異反応時に散見される本来と異なる色調を呈するゴーストラインは識別ができないため,判断にあたっては注意が必要である。“クイックナビTM”シリーズでは複数種類の有色ラテックスを用いている。リーダー判定と併用し,出現したラインが予期される色調かどうかを目視で判断することにより,より正確な判定結果を提供することが可能と考える。
また,時田の報告1)では,特に検体が集中する流行期には,全検体をリーダー判定のみで実施することは現実的ではないと述べており,これに関しては筆者も同意するところである。各施設環境や流行状況など個々の事情に合わせて,本リーダーの活用法を検討すべきと考える。本リーダーの使用は前述の特性を踏まえ,判定に苦慮する際や,普段慣れていないスタッフが判定する時間外検査を中心に使用することで本来の価値を最大限発揮できるものと考える。
最後に,我々はイムノクロマト法(クイックナビTM-COVID19Ag)の評価を行い,目視判定ではあったが十分な性能を有することを報告した4)。“クイックナビTM”シリーズは,クイックナリーダーTM2を併用することで,さらなる充実した品質保証が実現可能であると考える。
クイックナビリーダーTM2は,目視と同等の判定精度を有し,判定における個人差の低減,時間管理の手間削減,結果報告時間の短縮が可能なことから,より高品質なイムノクロマト法の活躍の場を広く提供し得ることが期待される。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
本研究遂行にあたり,支援賜ったデンカ株式会社の関係諸氏に深謝する。