Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of prostate ductal adenocarcinoma with atypical cells in the urinary sediment
Hiroki UCHIDAYuko AKIYAMAHinako ASAISaho SAKAKIBARAMichihiro KAWAMURAJunko NISHIKIKyotaro YOSHIDAShigeki SHIMIZU
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2024 Volume 73 Issue 1 Pages 188-194

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Abstract

背景:尿沈渣において見られる前立腺癌の組織型はほとんどが腺房細胞に由来する腺癌細胞であり,導管細胞が由来の前立腺導管癌が出現することは非常に稀である。今回我々は尿沈渣中に前立腺導管癌細胞を認めた症例を経験したので報告する。症例:80歳代,男性。5年前に当院にて低異型度尿路上皮癌(low grade urothelial carcinoma;以下,LGUC)の治療のため,TUR-BTを実施。その後,継続してフォローを行っていたところ尿中に異型細胞を検出した。異型細胞はシート状や乳頭状集塊を呈し細胞異型は非常に軽微であったが既往歴よりLGUCの再発が否定できないと判断し担当医に異型細胞の検出を報告し,細胞診の追加検査が提出された。その後膀胱鏡が行われ前立腺尿道部に腫瘍が確認された。尿道腫瘍の切除が行われ,組織診断の結果前立腺導管癌と診断された。結語:尿沈渣検査にて稀な腺癌症例を経験した。本症例の前立腺導管癌は非常に異型が弱く,また出現頻度が少ない稀な組織型であったため判定が困難であった。結果として組織型の推定は困難であったが,異型細胞として報告できたことで診断確定から治療まで繋げることが可能であった。日常の検査において判定に苦慮する細胞成分に遭遇することがあるが,検査結果の見直しを丁寧に行うことで検査精度の向上に努めることが大切である。

Translated Abstract

Background: We report very rare subtype of prostate cancer, prostate ductal adenocarcinoma, found in the urinary sediment. Case: The patient was a man in his 80s. He had a history of low-grade urothelial carcinoma (LGUC) 5 years ago and is continuing follow-up. Urinalysis showed atypical cells. Subsequent examination revealed that the atypical cells were prostate ductal adenocarcinoma cells. Conclusion: Urinary sediment examination revealed a rare case of adenocarcinoma. In this case, LGUC could not be ruled out, and it was difficult to distinguish prostate ductal adenocarcinoma and LGUC. However, we were able to report it as an unusual finding and proceeded to a closer examination. It is important to improve the accuracy of testing by carefully reviewing the test results.

I  はじめに

前立腺がんの多くは腺房細胞に由来する腺房型腺癌であり,導管細胞から発生する前立腺導管癌は比較的稀である。

前立腺導管癌は近年まで組織学的特徴から前立腺小室(Müller管由来)を発生起源とする類内膜癌と呼称されていた。しかし,その後の解析により前立腺の導管細胞に由来するものであることが分かり,現在の分類では前立腺がんの亜型と位置付けられている1)~3)

前立腺導管癌が前立腺がん全体に占める発生頻度の割合は純粋な導管細胞のみからなるpure ductal adenocarcinomaが0.4~0.8%,腺房型腺癌と混在するmixed ductal adenocarcinomaが約5%とされている4)‍~6)

前立腺導管癌は前立腺がんの悪性度を点数化し評価するGleason scoreにおいて腫瘍細胞の異型度の有無に関わらず高リスクに分類されるため鑑別意義の高い腫瘍である。

今回我々はpure ductal adenocarcinomaを尿沈渣中に認めた症例を経験したので報告する。

II  症例

80歳代,男性。当院で5年前に膀胱癌の治療目的でTUR-BTを実施。組織型は低異型度尿路上皮癌(low grade urothelial carcinoma;以下,LGUC)であった。

継続的にフォローを行っていたが尿沈渣検査にて今回,異型細胞を検出した。

受診時に主訴は無く,排尿困難,肉眼的血尿は認めなかった。

異型細胞検出時の尿検査所見をTable 1に示す。

Table 1 Urinalysis finding

Urinalysis
S.G 1.012
pH 7.0
Protein (−)
Glucose (−)
Occult blood (−)
Leucocyte esterase (2+)
Keton body (−)
Bilirubin (−)
Urobilinogen Normal
Nitrite (−)
Urinary sediment
RBC (Isomorphic) < 1/HPF
WBC 5–9/HPF
Urothelial cell 1–4/HPF
Bacteria
Atypical cell +

検体は自然尿で外観は黄色調で透明,尿定性検査の結果はpH 7.0,白血球反応(2+)でその他は陰性を示した。

尿沈渣検査の結果は赤血球(非糸球体型赤血球)< 1/HPF,白血球5–9/HPF,扁平上皮細胞 < 1/HPF,尿路上皮細胞1–4/HPF,コメントで異型細胞を報告した。

異型細胞の特徴は,細胞間の結合性の強いシート状や乳頭状の集塊で見られ,細胞質は無染色で白色~灰白色調を呈し,表面構造はややざらつきがある均質状や網目状であった。核は円形~類円形,Sternheimer染色にて明らかなクロマチンの増量は見られず,集塊中に核構などの立体的な核形不整をわずかに認めた(Figure 1)。

Figure 1  異型細胞

A:無染色(×400) 細胞集塊像 細胞質は灰白色調 均質や網目状の表面構造を認める。

B:Sternheimer染色(×400) 細胞集塊像 乳頭状集塊を呈する。円形核が見られる クロマチン増量は認めない。

C:Sternheimer染色(×100) 大型の細胞集塊像 シート状,乳頭状集塊を呈する。

D:Sternheimer染色(×400) 均質状の細胞質に円形核を有する。

E:Sternheimer染色(×400) クロマチン増量は認めない 少数の核構が見られる。

核異型は弱いものであったが乳頭状構造を示す構造異型や既往歴を加味し,LGUCの再発が否定できないと判断し担当医に異型細胞の検出を報告した。

同一尿検体を用いてliquid based cytology(以下,LBC)法にて細胞診検査を実施した。Papanicolaou染色の所見では小型の異型細胞を乳頭状やシート状集塊にて認めた。クロマチン構造は細顆粒状,増量所見は認めず,少数の核構を認めたが非常に細胞異型の弱いものであった(Figure 2)。以上の所見より細胞診検査では腫瘍性病変を強く疑うに足る根拠が得られなかったがLGUCを否定できないためClass分類は「III」,推定病名は「Atypical cells」で良悪判定困難の報告となった。

Figure 2  異型細胞

Papanicolaou染色(LBC法)(×400) 乳頭状,シート状集塊 強い核異型は見られない。

一般検査,細胞診検査後に行われたMRI検査では尿道内に不均一な中程度の高信号と低信号が混在する腫瘤様構造が見られ尿道腫瘍が支持された(Figure 3)。この時に同時に確認された前立腺には画像上は悪性所見を認めなかった。

Figure 3  MRI

横断および縦断画像 尿道内に不均一な信号を呈する腫瘍様構造を認める(矢印)。

診断確定のために膀胱鏡が実施され,前立腺尿道部に乳頭状腫瘍(Figure 4)が確認されたため,LGUCの再発が疑われた。

Figure 4  膀胱鏡

前立腺尿道部に乳頭状腫瘍を認める。

その後,治療目的で腫瘍切除術が実施され術中に乳頭状腫瘍が射精管に沿って充満している所見が得られ,前立腺より発生した腫瘍である可能性が示唆された。

術後速やかに血清PSAを測定したところ14.8 ng/mLとやや高値を示した。

組織診断ではHematoxylin–Eosin(以下,HE)染色にて高円柱状の乳頭状増殖を示す異型細胞を認めた。

免疫染色にてPSA(+)GATA(−)PAX8(−)およびPIN抗体のp63で二層性の消失とAMACR(weak+)が確認されたため,前立腺由来のDuctal adenocarcinomaと確定診断がなされた(Figure 5)。

Figure 5  組織診断で見られた異型細胞

Hematoxylin–Eosin(HE)染色:高円柱状の乳頭状発育を示す異型細胞が散見される。

免疫染色(PSA):明らかな陽性像が散見される。

免疫染色(GATA-3):尿道部分に陽性像が見られるが,腫瘍部分は陰性を示す。

免疫染色(PIN):p63,AMACRの2重免疫染色。P63で二相性の消失,AMACR弱陽性が見られる。

組織診断確定後,LBC法の残検体を用いてPSAの免疫染色を実施した。結果,尿沈渣と細胞診で認めた異型細胞と同様の形態を示す細胞集塊に陽性像が見られた(Figure 6)。そのためLGUCを疑った細胞集塊は前立腺導管癌細胞であることが証明された。

Figure 6  免疫染色(PSA)(LBC検体)(×400)

細胞質にPSAの陽性像が見られる。

術後,血清PSA検査,尿検査,細胞診検査,膀胱鏡にて定期フォローを行っているが異常所見は認めず経過良好である。

III  考察

背景は清明で異型細胞が散見される以外は所見に乏しい尿沈渣像であった。

膀胱鏡による肉眼像および組織診断のHE染色像にて乳頭状増殖を示し,同様に尿沈渣像やPapanicolaou染色像も乳頭状の構造異型を認めた。そのためLGUCの細胞所見との鑑別が困難であった。総合的な異型所見が乏しく,またLGUCの既往があったことから再発のリスクが高い患者であった点もLGUCを疑う要素の一つとして挙げられた。見直し後に確認された鑑別点として特徴的であったのは細胞質の表面構造で,本症例は均質状や網目状であるのに対してLGUCは尿路上皮細胞に由来する漆喰状構造が認められることが挙げられる。細胞質の表面構造の所見は無染色の尿沈渣像で詳細に確認できる所見であるため注視する必要がある。またPapanicolaou染色にて僅かに粘液と思われる赤桃色調の成分(Figure 7)や少数の腺腔構造(Figure 8A arrow),Sternheimer染色にて高円柱状異型細胞の管状集塊(Figure 8B)が確認された。

Figure 7  Papanicolaou染色(×400)

桃色調の粘液と思われる成分が少量見られる。

Figure 8  A:Papanicolaou染色(×400)とB:Sternheimer染色(×400)

A:Papanicolaou染色では矢印部分に腺腔様の構造が見られる。

B:Sternheimer染色では高円柱状異型細胞が管状の構造を呈す。

国内において前立腺導管癌細胞の細胞像の考察がなされている症例報告文献は筆者の探し得る限りで6例7)~12)であった。

6例ともPapanicolaou染色に関する症例報告であり,無染色およびSternheimer染色に関する文献は見られなかった。

これらの症例報告で共通する細胞所見として,柵状や乳頭状など細胞集塊に関する特徴が挙げられている。

また核所見に関しては核異型の目立たない症例が多いが,一部にクロマチン増量や核小体腫大を認める症例が見られ,文献ごとに多少の差が見られた。

これらの所見はPapanicolaou染色によるものではあるが,本症例の形態学的所見を鑑みるに,少なくとも細胞集塊や核所見は無染色やSternheimer染色でも共通する所見であり一般検査領域においても大きく参考になると考えられる。

前立腺導管癌はtype Aとtype Bに分類され,type Aは乳頭状増殖を示しtype Bはより不均一な乳頭状増殖に加え充実性や複雑な腺状,篩状を呈するとされている。Type Aは前立腺の一次導管,type Bは二次導管を起源として発生し,解剖学的に一次導管は前立腺部尿道に開口しているため,出現する異型細胞はtype Aに由来する症例が多く乳頭状発育を示す細胞像の報告が多いと考えられた13)

また他の文献14)によれば一次導管に由来するものは乳頭状発育,高円柱状上皮細胞に見られ核異型は比較的軽度とされる。二次導管に由来するものは大小の胞巣を形成し,胞巣内部は篩状や乳頭状,充実性のパターンで見られ,時に中心部に面疱壊死を認める。これらのパターンで前立腺実質に浸潤する前立腺導管癌は核異型が強くN/C比増大や核分裂像が見られるとされている。

参考文献7)~12)のなかで見られる細胞異型の差は前立腺導管癌の由来部位の違いに起因するものと推察される。

Type A,type B共通の異型所見として乳頭状発育が挙げられるため乳頭状集塊に注視し,また細胞質の表面構造を正確に読み取ることで組織型推定には至らずとも異型細胞としての報告は十分可能であると考える。

平松ら15)によれば7症例の前立腺導管癌において,初診時PSAはそれぞれ2.1 ng/mL,8 ng/mL,12.1 ng/mL,6.4 ng/mL,12.5 ng/mL,22.3 ng/mL,102 ng/mL(平均22.8 ng/mL)であったと報告している。症例の半数以上は高度な増大とは言い難く,また本邦においてPSAはカットオフ値が4.0 ng/mLと設定されているため16)中にはPSAが正常値を示す前立腺導管癌が存在することが分かる。そのため前立腺導管癌においてPSA値を重視し細胞鑑別を行うことはバイアスがかかり正確な検査を行えないリスクがあると考える。

前立腺がんは同一腫瘍にしばしば悪性度の異なるがんが発生するため,Gleason scoreを用いてがんの悪性度の判定を行う。その際に前立腺導管癌は高リスクに分類されるため,尿沈渣検査や細胞診での報告は臨床の早期治療介入のために重要である。

IV  結語

尿沈渣検査にて稀な腺癌症例を経験した。

本症例は非常に稀な症例であったため,形態学的な鑑別に苦慮した。しかしわずかな異型所見から異型細胞として報告することができ,精査につなげることが可能であった。

日常の検査において判定に苦慮する細胞成分に遭遇することがあるが,検査結果の見直しを丁寧に行うことで検査精度の向上に努めることが大切である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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