Japanese Journal of Medical Technology
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Utility of hemolysis rate monitoring in clinical blood samples and efforts to reduce hemolysis rates and their effects
Ayumi AKABANENaoya ICHIMURAShuji TOHDA
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2024 Volume 73 Issue 2 Pages 380-385

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Abstract

採血から検査までの工程を適切に管理し,維持することが臨床検査の品質確保に不可欠である。今回,検査前工程での溶血の発生要因に焦点を当て,具体的な事例を通じて溶血をモニタリングすることの有用性を検証した。溶血は測定した血清情報から溶血指標を0,1+,2+,> 2+に分類しその件数と溶血率を算出した。遠心機の損傷による溶血率の増加事例では,2台の遠心機の溶血率比較と日々のモニタリングで早期に遠心機の不具合を発見できることを示した。採血翼状針のメーカー変更による溶血率の低下事例では,使用する採血器具の変更が溶血の発生に影響する場合があり,検査前工程に何らかの変更を加えた場合は溶血率によってその影響を観察できる可能性を示した。翼状針の製造工程で針へのシリコン塗布量が増加したことで溶血率が上昇した事例では,溶血が増加しているという客観的な指標によって異常の発生を早期に察知するためにモニタリングが有効であることを示した。真空採血管の容量に対する採血量の変更による溶血率の低下事例では,採血管容量に対して半量以上採血することで溶血率が半減した。さらに,採血管の容器容量を小さいものに変更することでさらに溶血率が減少した。これらの事例から検査試料の溶血率モニタリングが検査前工程の異常を早期発見することに役立つことを示した。

Translated Abstract

Ensuring the quality of clinical laboratory testing requires effective management and maintenance of processes from blood collection to laboratory analysis. This study aimed to validate the utility of hemolysis monitoring by focusing on factors contributing to hemolysis in the pre-examination process and providing concrete examples. Based on measured serum data, hemolysis was categorized into four levels, namely, 0, 1+, 2+, and > 2+, and corresponding counts and hemolysis rates were calculated. Cases with high hemolysis rates because of centrifuge damage enabled the early detection of centrifuge malfunctions through a comparison of hemolysis rates between two centrifuges and daily monitoring. In another case where a change in the manufacturer of butterfly needles led to reduced hemolysis rates, the potential to observe the effect of alterations on pre-examination processes, such as modifications in blood collection tools and techniques, was emphasized. Another case had high hemolysis rates caused by an elevated silicone coating on needles during butterfly needle manufacturing, highlighting the effectiveness of monitoring as an objective indicator for early anomaly detection. Additional cases revealed low hemolysis rates through adjustments in the blood collection volume concerning vacuum blood collection tube capacity. Collecting more than half of the tube’s capacity resulted in a significant reduction in hemolysis rates, a reduction that was further decreased using smaller vacuum collection tubes. These examples underscore the value of monitoring hemolysis rates in the test samples for the early detection of anomalies in pre-examination processes.

I  目的

血液を試料とする臨床検査は検査前工程を経て検査が行われる。この工程で試料に影響を与える因子には,採血者の採血手技,使用する針などの採取器具,検体搬送の方法や所要時間,使用する採血管の種類,臨床検査用の搬送システム,遠心機などが挙げられる。こうした因子を適切にコントロールすること,また適切に管理されている状態を維持することは,臨床検査の品質を確保する上で重要である。検査前工程で溶血を引き起こす要因として,採血管への採血量が少ないと採血管内に残存した陰圧が溶血を引き起こすことや1),採取後に転倒混和でなく左右に強くに振るような混和では溶血すること2),翼状採血針の針の吸込口面積とチューブの内径の組み合わせによって溶血の起こりやすさが異なること3)などが報告されている。溶血の発生要因は個別に研究されているが,これらを臨床で有効に利用する方法を具体的に紹介しているものは見当たらない。

今回,試料の溶血率をモニタリングすることが検査前工程で生じるプロセスの異常を検出することに有用であることを,当院検査部の活用事例を用いて示す。

II  方法

血清情報を測定し,溶血指標として0,1+,2+,> 2+に分類した。血清情報の測定は自動分析装置LABOSPECT 008 または LABOSPECT 008 α(株式会社 日立ハイテク)を用いた。溶血指標の分類は干渉チェックAプラス(シスメックス株式会社)の溶血ヘモグロビンを用いて確認し,概ね0 mg/dL以上50 mg/dL未満で溶血0,50 mg/dL以上100 mg/dL未満で溶血1+,100 mg/dL以上250 mg/dL未満で溶血2+,これ以上は溶血 > 2+である。これらの目視での色味は溶血0から順に黄色,橙色,赤みのある橙色,赤である(Figure 1)。

Figure 1  溶血指標

2015年1月以降,当検査部で把握している検査前工程が要因となった溶血検体数の変化事例を検証した。統計解析には,Microsoft Excel 2019を用いて対応のあるスチューデントのt検定で検討し,有意水準p < 0.05として判定した。

III  成績

1. 遠心機の損傷が原因の溶血の増加

当院の中央採血室で採取した血液の溶血2+以上となる発生率は,通常0.2%程度である。しかし,2017年12月に0.4%,さらに翌月には0.8%まで上昇した(Figure 2)。調査の結果,搬送ラインに接続されている2台ある自動遠心機のうち1台の遠心機を使用した試料の溶血率が高いことが判明し,該当の遠心機の使用を中止した。遠心機はベアリングが損傷しており,修理後溶血率は元の水準に低下した。このおよそ1年後,月次の集計で溶血率が増加し,片側の自動遠心機に偏った増加であることを確認して遠心機の使用を中止した。

Figure 2  遠心機不良による溶血増加

ベアリングが損傷した自動遠心機の修理を実施した2017年12月と2018年12月の2回,溶血率の上昇と平常化を認めた。

2. 翼状針のメーカー変更による溶血率の低下

翼状針の製品別溶血率が市村ら3)によって報告されている。中央採血室ではシュアシールドSV採血セット(テルモ株式会社)とセーフタッチPSVセット(ニプロ株式会社)の2種類の採血針を併用していたが,2017年8月から2017年12月にかけてセーフタッチPSVセットに統一した。この間,セーフタッチPSVの使用割合が大きくなるにつれて溶血1+となる溶血率は減少した(Figure 3)。一方,同時期にセーフタッチPSVセットを採用していた病棟の溶血率に変化はなかった。

Figure 3  翼状針のメーカー変更による溶血の減少

2017年9月から12月にかけて翼状針製品の切り替えが進むにつれて溶血率の減少を認めた。

3. 翼状針の製造工程でシリコンの塗布量の変化による溶血率の上昇

当院の中央採血室で採取した血液の溶血1+となる発生率は,通常2%程度である。しかし2021年7月21日からその溶血率が上昇を続けピーク時には12.8%に達した(Figure 4)。本事例では,最初に採血する採血管で溶血が発生するという現象が判明したため,2021年10月に血清用採血管は2本目以降に採取するように変更し,溶血率は4%まで減少した。その後,ホルダ付き翼状針の後方針に塗布されているシリコン量が増えていたことで後方針の針穴が狭くなりそこを通過する血液に負荷がかかっていることが特定され,改善品が納品された2022年5月から溶血率は元の水準の2%以下に戻った。

Figure 4  翼状針の製造工程でシリコン増量に起因する溶血の増加

2021年7月から溶血率が上昇を始めた。2021年9月に最初に採血する採血管で溶血することが判明し,生化学用採血管を2本目以降に採取する措置で溶血率が減少した。その後翼状針の後方針に塗布されるシリコン量が増加し針穴が狭くなったために溶血が生じることが判明し,改善された製品が納品された2022年5月に溶血率が平常化した。

4. 真空採血管への採血量を増加させたことによる溶血率の低下

真空採血管の容量に対して採取量が少ないと溶血することが知られている4)。当院では病棟用の血清用採血管は採取容量9 mLの採血管(VP-AS109K60,テルモ株式会社)に対して採血量3.0 mLの指示となっていた検体数は全体の51%であった。2018年2月に最低採取量を採血管容量に対して半分以上となる5.0 mLに変更したところ,病棟全体の溶血1+以上の溶血率は変更前の5か月間の平均27%から変更後の5か月間の平均14%に減少した。しかし小児科のみで検証した場合には有意な差を認めなかった(p = 0.48)。対照として採取容量5 mLの採血管(VP-AL076K,テルモ株式会社)で最低採取量4.0 mLの採血では溶血率の変化を認めなかった(Figure 5a)。

Figure 5  採血管容量に対する採決量増量による溶血率の低下

a)採血管への採取量を増量したことによる溶血率の低下

容量9 mLの採血管に対して最低採取量を3 mLに設定していたところを採血管の半量以上の5 mLに増量させると病棟の溶血率が減少した。採血量を増やせない小児科では変化がなかった。対照として容量5 mLの採血管に対して最低採取量4 mLの採血では溶血率に変化はなかった。

b)少ない容量の採血管に変更したことによる溶血率の低下

採血容量を9 mLから5 mLの製品に変更すると病棟全体および小児科で溶血率が減少した。病棟全体の溶血率は既存の同じ容量の採血管と同等になった。

さらに血清用採血管を採取容量5 mLの製品(SMD750SQ-キイロST,積水メディカル株式会社)に変更し,最低採取量を4.0 mLとした場合,変更後の病棟全体の溶血率は10%まで減少した。病棟別で確認すると溶血率は減少あるいは不変であった。小児科は35%から20%程度に減少した。対照として,前出の採取容量5 mLの採血管(VP-AL076K)も同製品(SMD750SQ-キイロST)に変更し,採取量は変更せずに4.0 mLとした場合では,溶血率の変化を認めなかった(Figure 5b)。

5. モニタリングシステムの開発

モニタリングシステムのプロトタイプを作成した(Figure 6)。溶血率はデータベースから抽出した検体数と溶血数から算出した。この溶血率の算出から採血日ごとまた採血場所ごとの変動を線グラフで描画するまでを自動化しており,数値のトレンドを監視している。

Figure 6  溶血モニタリングシステム

モニタリングシステムの一例として採血室と処置室の溶血率グラフを示す。

IV  考察

本検証では,溶血は検査前工程の異常を反映し,溶血率をモニタリングすることで異常を早期に検出できることを示した。

遠心機のベアリング損傷による回転時の振動は溶血を増加させた。この時,溶血2+の発生率の上限を定めておらず,普段より高いという集計者の感覚による発覚であった。発生率の許容基準を0.2%と定めていた場合,不具合発見の1回目は3か月,2回目は1か月早く溶血率の上昇傾向を警戒できたであろう。しかし,溶血2+を指標とした場合には通常1日1件程度の発生のためモニタリングには適さず,また,月次の集計では不具合発見のタイミングが月1回と少ない。そこで溶血1+以上の全ての溶血を指標とし,溶血率2.0%を基準として日々確認した場合,2018年11月の半ばから2.0%を上回り徐々に上昇のトレンドが確認できるため,月次の集計より早く遠心機の不調に気づくことができたであろう(Figure 7)。検査機器の精度管理と同様に遠心機の性能確認として日々の溶血の変化をモニタリングすることは有用であると考える。ただし指標として用いる場合には,通常安定して低い溶血率を保っている状態,例えば要員のトレーニングが十分に施された採血室で採取された検体の検査結果を活用する方が,より鋭敏に工程の異常を検知できることが期待できる。

Figure 7  遠心機不良による溶血の増加

2018年11月の前半から溶血率が上昇して12月には溶血率2.0%を超過した。2019年1月の遠心機修理後,溶血率は2.0%以下に平常化した。

採血に使用する針が溶血の発生に影響する事例を示した。採血針に限らず,採血器具あるいは採血手技の変更が溶血に変化を与える可能性があり,採血の工程で何らかの変更をした場合は溶血率の変化をモニタリングすることが重要である。また,同じ製品であっても製造工程の変化によって溶血率に変化が生じる事例を紹介した。今回はホルダ付き翼状針の後方針に塗布するシリコン量が増加していたことが原因であった。溶血の増加を感じる検査者がいたが,機器更新に伴う採血管の変更と時期が重なったために採血針に問題があるという認識に及ばなかった。当院ではそれまで溶血2+以上の頻度を監視していたが,より感度の高い溶血1+で監視を行っていた場合,不良品に置き換わった日から溶血率上昇にシフトし,その後も上昇のトレンドが確認できたため1週間程度で不具合を検知できていたと推測される。溶血の増加を人が感覚で認識し具体的に対応するまでにかかる時間よりも,溶血をモニタリングして客観的な指標で評価する方が早くまた確実である。

真空採血管の容量に対する採取量の設定値は溶血の発生率に影響を及ぼしていた。当院の過去の病棟での溶血の半数は,採取量が少ないことが要因で発生していたといえる結果であった。採取量を3 mLから5 mLに増量したにも関わらず小児科で溶血率が低下しかなかったのは,患児の体格によって採取量を表示通りに増加させることが困難であることや,検査項目によって必要な最低採血量を診療科が把握しており,表示した必要量通りに採血が行われなかったことが考えられる。

さらに採血管容量を5 mL,採取量は4.0 mLに変更したことで,病棟全体の溶血率は10%にまで減少した。これは採血管の容量が大きいほど陰圧が強いため容量の小さい採血管の方が血球にかかる負荷が小さくなり溶血発生が抑えられたと考えられる。また,採取量の変更だけでは改善しなかった小児科の溶血率が病棟全体の水準に近づいたのは,容器の小容量化と容量に対する陰圧の強さが弱まったことで血球にかかる負荷が緩和されたためと考えらえる。

2015年からの8年間で溶血率は中央採血室で20%から2%以下に,病棟では30%から8%以下に減少した。これは個人の採血技術の向上ではなく,採血器具の選定や採取量の設定による効果である。このように溶血の発生は採血管や採取量が原因となる可能性があるため,採血管容量や採取量設定の見直しが重要であり,溶血率をモニタリングすることがその効果指標となりうる。

血清情報は生化学検査において常時測定されることが多い。溶血率モニタリングは溶血データを利用するシステムを構築するだけでよく,導入コストが低いことから他の臨床検査機関でも導入しやすい。既に溶血をモニタリングしている施設やこれから溶血率をモニタリングし始める施設からの溶血率変化の事例報告によって多くの施設で溶血を減少させる対策が取られ臨床検査領域での検査結果の信頼性を向上させることが望まれる。溶血指標の標準化がされれば各施設間での溶血の程度を比較することも可能になるだろう。

V  結語

溶血の発生件数は採血から検査までの工程の変化や不具合を反映し,その頻度をモニタリングすることで検査前工程の変化を早期に検知できる。採取後の採血管への衝撃,翼状針のメーカー別の溶血の違い,採血管容量に対する採血量など,溶血に関する報告は個別にされているが,これらの報告を臨床検査に実践的に活用するために溶血率モニタリングは有用である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)   飯塚  儀明:採血から検査までの測定値の変動要因.医学検査,2004; 53: 1131–1135.
  • 2)   高橋  政江,他:採血管の混和方法が検査結果に及ぼす影響について.新県中病誌,2020; 28: 1–3.
  • 3)   市村  直也,他:翼状採血針における製品別の溶血率調査.医療検査と自動化,2020; 45: 208–212.
  • 4)   中島  美沙,他:救急外来検体に対する溶血低減の試み~低陰圧・低用量採血管は末梢静脈留置針からの採血時の溶血を減らす~.日本臨床検査医学会誌,2021; 69: 654–657.
 
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