Japanese Journal of Medical Technology
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Initiative for early morning blood draw in the ward at our hospital
Sodai YOKOYAMAYohei KATOAyako SEKINEAki OKAHidekazu ISHIDAAyumi FUKAOHiroyuki OKURARyosuke KIKUCHI
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2024 Volume 73 Issue 2 Pages 386-393

Details
Abstract

2024年4月から医師の働き方改革の新制度が施行される。それに伴い,当院においても医師をはじめ,医療従事者の働き方改革が本格化している。当院で診療科および看護部に対して,検査部に期待するタスク・シフト/シェアの要望調査を実施した結果,早朝病棟採血が高い要望として挙げられた。そこで,検査部は早朝病棟採血を実施した。全病棟を対象とすることは現実的ではないため,最も採血件数が多い病棟をトライアル病棟として半年間,臨床検査技師2名を派遣することとした。トライアル病棟での効果検証を行うために,病棟採血実施前後と運用中に看護師を対象としたアンケート調査を実施した。また,対象病棟の採血取り直し件数について運用前後で比較を行うことで,臨床検査技師による病棟採血業務の有効性を評価した。その結果,臨床検査技師による病棟採血は,看護師による早朝時の患者ケアの充実化をはじめ,有効性が高いことが明らかとなった。また,採血取り直し件数についても大幅な改善が認められた。さらに,担当した臨床検査技師2名は業務終了時間が2時間繰り上がることにより,それぞれのワークライフバランスに則した効果も認めることができた。以上より,臨床検査技師による病棟採血は看護師の採血業務軽減だけではなく,患者にとっても有用であり当院での医療水準の底上げとともに,より良質で安全な医療の提供に繋がると考える。

Translated Abstract

The reform of work styles of physicians and other healthcare workers is in full swing. As a result of conducting a survey of the clinical departments and nursing department at our hospital regarding their expectations of the laboratory for task shifting/sharing, early morning blood draw in the wards was cited as high demand. Therefore, we carried out an early morning blood draw with the highest number of blood samplings as trial wards for six months. To verify the effectiveness of the trial wards, we conducted a questionnaire survey before, during, and after the implementation of this project for the nursing department. To evaluate the usefulness of this project, we compared the number of re-drawn blood samplings in the target wards before and after blood sampling by our department began. The results showed that to assist in blood collection in the wards was highly effective, for example, the enhancement of patient care by nurses in the early morning hours. In particular, a significant improvement was observed in the number of re-drawn blood. Furthermore, staff in charge for the project could move up their work hours by two hours, which was also found to be effective in their respective work-life balances. In conclusion, support for blood collection in hospital wards by clinical laboratory not only reduces the blood sampling duties of nurses, but also useful for patients, and has the potential to raise the level of medical care at this hospital and to provide better and safer medical care.

I  はじめに

本邦では医療が高度化・複雑化する中,各医療専門職の疲弊を考慮し,それぞれが有する本来の専門性を発揮することで,効率的かつ安心・安全な医療体制を構築することが求められている。特に,問題視されている医師の長時間労働を緩和するために,2024年4月より厳罰付きで時間外労働の上限規制が適用される1)。タスク・シフト/シェアは,看護師や薬剤師などの医療従事者がそれぞれの専門性を活かせるよう業務分担を見直すことで,医師の負担軽減と同時にチーム医療の水準を上げることを目的としている。

2021年10月1日より臨床検査技師等に関する法律施行令/施行規則の改正により,医療用吸引器を用いて鼻腔,口腔又は気管カニューレから喀痰を採取する行為や内視鏡用生検鉗子を用いて消化管の病変部位の組織の一部を採取する行為などが臨床検査技師によって実施可能となった2)。そこで,当院においても診療科等に対して検査部へのタスク・シフト/シェアの要望調査を実施した。その結果,看護部からのみ早朝病棟採血の要望が挙げられた。現状の日常業務時間帯でのタスク・シフト/シェアはマンパワーの課題が大きく困難な状況下であったが,早朝であれば勤務時間の運用変更で対応可能と判断し,検査部による早朝病棟採血を実施運用することとなった。実施期間は半年間とし,トライアル病棟を選定した上で臨床検査技師を派遣する運用とした。今回,当院で初の試みとなる病棟採血業務の取り組み,タスク・シフト/シェアによる効果と臨床検査技師のワークライフバランスの変化の一例について報告する。

II  対象と方法

1. 早朝病棟採血に関する事前・事後のアンケート結果について

対象病棟,派遣人数,早朝採血開始時間を決めるために,50名の看護師管理者を対象としたアンケート調査を実施した。派遣期間は2023年4月3日から9月30日までの半年間とした。対象病棟を選定後,対象病棟の看護師を対象とし,臨床検査技師による病棟採血に関するアンケート調査を実施した。派遣3カ月経過時点で,運用開始後の効果についてアンケート調査を実施した。派遣期間終了後に,対象病棟看護師を対象としたアンケート調査を実施した。

2. 対象病棟における採血取り直し件数の比較について

対象病棟への病棟採血実施前後の採血取り直し件数を比較した。対象期間は検査部による病棟採血のタスクシェア開始1年前の2022年4月から9月までの6ヶ月間とタスクシェアを開始した2023年4月から9月までの6ヶ月間とした。比較内容は,全血球計算・赤血球沈降速度,生化学・免疫,凝固能,および外部委託の検査用採血とし,採血量不足や血液凝固,その他採血容器間違いによる取り直し件数を評価した。

3. 早朝病棟採血担当技師のワークライフバランスの変化について

対象病棟に派遣した担当技師2名のワークライフバランスの変化の一例を示すため,それぞれ1日のタイムスケジュールを示した。また,病棟採血業務を担当することで業務外の生活に及ぼした影響について言及した。

III  結果

1. 病棟採血運用開始前のアンケート結果

看護部を対象としたアンケート結果から50名中42名の84%が検査部による病棟採血を希望する結果となった(Figure 1A)。事前調査結果から,血液内科・消化器内科病棟(東8階病棟)が最も採血患者数が多かったため,東8階病棟をトライアル病棟とした(Table 1)。病棟採血の希望開始時間についてのアンケート結果では全体の64%が6時台から,18%は7時からの採血開始を希望する結果となった(Figure 1B)。その他,希望時間なしや採血人数が多い曜日については6時30分から,残りの曜日については7時からなど,採血人数に応じて業務開始業時間の変更を希望する意見があった。また,NICU病棟からはベビー採血を医師と協力して実施しており,臨床検査技師とのタスクシェアは希望していないなどの意見があった。検査部からの病棟派遣希望人数のアンケート結果では看護師50名中32名の64%が1名,50名中18名の36%が2名の派遣を希望し,3名以上の派遣を希望する意見は無かった(Figure 1C)。よって対象病棟からの調査結果より病棟への派遣技師は2名とし基本的には1名を派遣し,もう1人はバックアップ要員としての運用とした。

Figure 1  運用前のアンケート結果

A:検査部による病棟採血について

B:検査部による病棟採血の希望時間について

C:検査部からの病棟派遣希望人数について

Table 1 入院患者別採血オーダー実施件数(動脈血を除く)

依頼科(病棟) 件数/12日 割合(%)
ACCC 206 8.3
GCU 11 0.4
ICU 75 3.0
NICU 62 2.5
小児科(西4階) 189 7.6
消化器外科/心臓血管外科/呼吸器外科/循環器内科/呼吸器内科/乳腺外科/高度救命治療センター・救急科(西5階) 228 9.2
眼科/脳神経外科(西6階) 98 3.9
糖尿病・内分泌内科/免疫・膠原病内科/皮膚科/消化器内科/神経内科・老年科/皮膚科(西7階) 192 7.7
消化器外科/麻酔科・疼痛治療科(西8階) 189 7.6
放射線科/泌尿器科/総合内科(西9階) 226 9.1
循環器内科/呼吸器/腎臓内科(東5階) 234 9.4
歯科口腔外科/耳鼻咽喉科・頭頸部外科/高次救命治療センター・救急科/消化器内科(東6階) 141 5.7
整形外科/消化器内科(東7階) 155 6.2
消化器内科/血液・感染症内科(東8階) 450 18.1
精神神経科(東9階) 34 1.4
合計 2,490 100

2. 病棟採血運用中のアンケート結果

タスクシェアを開始した病棟において採血業務を行っている看護師28名を対象とした運用中アンケートの結果を示す(Figure 2)。検査部による採血業務のタスクシェアの結果,看護師一人あたりの採血業務が15分以上短くなり,業務時間短縮に繋がった。また,タスクシェアによって短縮された時間を看護師がどのような業務に活用できているかについてのアンケート結果では検温や内服・口腔ケア・トイレ誘導を含む比較的時間を要する患者ケアに時間を活用できていることが明らかになった(Table 2)。看護師が検査部にどのような患者の採血を依頼しているかについてのアンケート結果では,採血困難な患者や外注検査項目が含まれる特殊採血スピッツによる採血を検査部に依頼する一方,接触予防が必要な患者や重症患者,クリーンルームに入院している患者など看護師による対応が望ましい患者を除いた採血を検査部へ依頼していた(Table 3)。採血困難な患者の対応を希望する意見がある反面,採血困難者は担当看護師に引き継ぎを行うことで対応を行い,病棟派遣中の臨床検査技師にはできるだけ多くの採血を希望していることが明らかとなった。

Figure 2  運用中のアンケート結果

タスクシェアによる採血業務の短縮時間のアンケート結果を示す。

Table 2 タスクシェアによりどのような業務に時間を活用できているか(重複回答有)

回答内容 回答数 割合(%)
検温 13 24.5
ケア(内服・口腔ケア・トイレ誘導) 13 24.5
看護記録 6 11.3
食前の準備 5 9.4
ナースコールを含めた患者対応 5 9.4
焦らず患者対応ができる 4 7.5
残業時間の短縮 3 5.7
点滴 3 5.7
新人教育 1 1.9
合計 53 100
Table 3 どのような患者を依頼しているか(重複回答有)

依頼内容 回答数 割合(%)
採血困難な患者 16 30.8
要接触予防・クリーンルーム・重症以外の患者 14 26.9
消化器内科の患者 7 13.5
状態が安定している患者 6 11.5
同室患者を部屋単位で依頼 4 7.7
採血開始時間が遅くても良い患者 3 5.8
ナースステーションより遠い部屋の患者 1 1.9
特殊採血管(外注検査項目)の採血依頼がある患者 1 1.9
合計 52 100

3. 病棟採血運用後のアンケート結果

検査部による病棟採血の運用後アンケートの結果,対象の看護師35名全てが本企画に満足し,検査部による病棟採血の継続を希望した(Figure 3A, B)。また,運用後に再度,検査部からの病棟派遣希望人数を調査した結果,看護師35名中20名の57%が1名,35名中14名の40%が2名の派遣を希望し,3名以上の派遣を1名(3%)が希望する結果となった(Figure 3C)。検査部による病棟採血をより効果的に行うため,看護部側から検査部への意見や病棟採血を除くタスクシェアの希望業務としては,検査部の病棟採血担当者から看護師に対して患者情報の引き継ぎがある場合はリアルタイムに情報共有を行うことで患者情報や採血業務の進捗状況を把握することができ,より効率的な看護を行うことができるのではないかとの提案があった。また,今後検査部に期待する病棟採血以外のタスクシェアには臨時採血や検体数が多い曜日の採血スピッツの作成や静脈血による血液ガスの採血を求める意見があった。

Figure 3  運用後のアンケート結果

A:検査部による病棟採血について

B:検査部による病棟採血の継続について

C:検査部からの病棟派遣希望人数について

4. 病棟採血実施前後の採血取り直し件数比較

今回の病棟早朝採血において検査部からの派遣技師は1日あたり平均10.4人の採血を行った。病棟採血の運用開始前後での採血取り直し件数の比較をTable 4に示す。病棟採血運用開始前の2022年の4月から9月の6ヶ月間で入院患者採血オーダー実施件数5,995件中65件(1.1%)の取り直しが発生していたのに対して,検査部による病棟採血の運用開始した2023年では取り直し件数が6,914件中25件(0.4%)と減少した。また,採血スピッツ毎の取り直し件数の比較では全ての採血スピッツにおいて取り直し件数が減少しており,特に運用開始前で取り直しが多かった外注検査の採血スピッツについては採血量不足による採血取り直しの件数に大幅な改善を認めた。その他,全血球計算・赤血球沈降速度,生化学・免疫,凝固能の採血スピッツについても採血量不足や溶血,血液凝固の影響による取り直しなど全ての取り直し事項について減少傾向が見られた(Figure 4)。

Table 4 採血取り直し件数比較

  入院患者採血オーダー実施件数 採血取り直し件数 取り直し割合(%)
運用前 5,995 65 1.1
運用後 6,914 25 0.4
Figure 4  採血スピッツ別採血取り直し件数比較

縦軸に検査部による病棟採血運用前後の採血取り直し件数,横軸(上段)に採血取り直し事項,横軸(下段)に採血項目をそれぞれ示す。検査部による病棟早朝採血運用後の2023年は前年の2022年と比較して全ての採血スピッツについて取り直し件数が減少した。

5. ワークライフバランスの変化の一例について

我々は検査部としての多様な働き方を模索するため,早朝病棟採血を取り入れた新たな勤務体系の試験的運用を試みた。具体的には朝の6時30分に出勤し,早朝病棟採血を行い,早朝出勤した担当者は通常ルチン業務後に15時15分で帰宅をする仕組みである。今回の試験的運用では学術活動に力を入れたい職員と産後パパ育休を取得後に家庭の時間を今以上に必要とする職員の2名が早朝病棟採血を担当した。それぞれの1日のタイムスケジュールをTable 5に示す。学術活動を取り入れたワークライフバランスでは終業後の15時15分以降に研究活動を実施した。本来であれば17時15分以降に実施可能である学術活動を2時間繰り上げ開始することができ,研究活動に伴う実験や学会発表の準備,論文執筆などを行うには十分な時間を確保できた。また,家庭の時間を確保するためのワークライフバランスでは15時15分にルチン業務を終了することで17時以降に実施していた書類作成等の事務作業を前倒しして実施し,2時間の超過勤務となるが定時に帰宅することで育児等の家庭内の時間を確保することができた。さらに,15時15分時点で即時帰宅できる場合は有給休暇等の対応を行わずとも,出生後育児に必要な予防接種に自身の子供を連れて行く時間や,平日帯でも家庭内のプライベート時間を確保できるメリットが生じた。

Table 5 1日のタイムスケジュール

職員A(学術活動を含む) 職員B(育児参加を含む)
時刻 活動内容 時刻 活動内容
5:45 自宅出発 5:15 自宅出発
6:00 出勤 6:15 出勤
6:05 早朝病棟採血準備 6:20 早朝病棟採血準備
6:30 早朝病棟採血開始 6:30 早朝病棟採血開始
8:00 早朝病棟採血終了 8:10 早朝病棟採血終了
8:15 小休憩 8:15 小休憩
8:30 ルチン業務 8:30 ルチン業務
11:00 昼休憩 11:00 昼休憩
12:00 ルチン業務 12:00 ルチン業務
15:15 終業 15:15 書類作成業務
15:45 研究活動 17:15 終業(定時終了)
18:15 帰宅・育児への参加,家族との時間

IV  考察

運用前アンケート結果より臨床検査技師による採血業務のタスクシェアはほとんどの看護師にとってニーズがあり,特に早朝の採血件数が多い病棟でのタスクシェアが有用であることが明らかになった。また,採血業務の開始時間については看護師が採血業務を始める6時台から開始することが有効であり,患者が朝食をとる前に採血業務を終えるためにもこの時間からタスクシェアをすることが望ましいと考えられる。検査部から病棟への派遣人数については1~2名が看護部と検査部の双方にとって望ましいと考えられるが,施設間で検査部のマンパワーが異なるため,毎日2名以上を派遣することができる施設は稀である。一方,小規模の検査室において臨床検査技師が病棟採血のタスクシェアを実施した例が報告されており3),検体の提出数が最も多い時間帯は検査室のルチン業務を行い,検体の提出数が少ない時間で病棟採血を運用する方法も選択肢の一つである。今後,当検査室のマンパワーや,検体提出数を考慮したうえで,適した病棟採血への派遣人数や採血開始時間を模索していきたい。

運用中・運用後のアンケート結果より看護師が病棟採血実施後で比較的時間を要する患者ケアに対応する時間を大きく確保できていることがわかった。看護師による患者ケアの時間が増えることは患者に安心感をもたらすだけでなく看護業務に追われない精神的余裕から,点滴間違い等のインシデントを未然に防ぐことに大きく貢献する可能性がある。また,実施前後の対象病棟の採血取り直し件数が大幅に改善されており,臨床検査技師がタスクシェアを実施することによる看護業務の改善だけでなく,再採血の減少により患者負担の軽減に貢献できていることが示された。よって病棟採血のタスクシェアは検査部と看護部の双方にメリットが生じ,チーム医療を礎としたより安全で上質な医療の提供に繋がると考える。

我々は当院における早朝病棟採血への取り組み,病棟採血終了1週間前より臨床検査技師歴2年目の職員と共に病棟採血の実施を試みた。比較的採血業務の経験年数が短い職員と病棟採血を実施することで,個人の患者接遇と採血手技を確認する良い機会となり,検査部全体の患者接遇と採血技術を今一度見直すきっかけとなった。当院では検査部の職員は主に外来患者に対する採血を担当しているが,ベッド採血を行う頻度も少なく,輸液ポンプや末梢静脈挿入型中心静脈カテーテル(以下,医療用PICC)による処置を要する患者に対して採血を実施することは稀である。しかし,我々が採血業務を担当した病棟では抗がん剤治療を必要する患者が多く,医療用PICCを体内に留置している患者が過半数を占めていた。また,長期間の抗がん剤治療の影響により静脈炎を発症する患者も一定数存在した。静脈炎は一般的に薬剤のpHの影響により血管内皮細胞が刺激され,血管痛を伴うことが知られており4),このような症状がある患者採血を担当する際は血管選択の幅が通常よりも減少している場合がほとんどである。さらに,早朝時の病棟患者は低血圧に伴い採血をする血管の見極めに難渋することがあった。我々は対応策としてホットパックで前腕の末梢部分を温めることで血管の怒張を試みたが,それでも採血困難な場合は,担当看護師に引き継ぎを行うことで対応を行った。よって,病棟採血業務において担当医師と病棟看護師との連携・情報交換は必須である。我々臨床検査技師が幅広い知識と技術を習得することで,医師並びに看護師と医療従事者としてより良い関係性を構築する必要がある。また,病棟特有の特殊状況下で採血業務を経験することは採血技術を向上させ,自身の経験や技術を周りと共有することで検査部全体の医療水準を底上げすることに繋がる。今後,若手臨床検査技師の病棟早朝採血業務への積極的な参加を期待したい。

タスク・シフト/シェアに伴う早朝病棟採血を取り入れた業務体制は臨床検査技師にとって新たな働き方となる可能性がある。今回,我々は学術活動や育児を含めた家庭の時間を必要とする職員での運用を試みたが,本業務体制は様々な就業者にとってニーズがあると考える。本邦では医療機関を含めた臨床検査室においてISO 15189(以下,ISO)を所得する施設が291施設(2023年11月8日現在)あり5),多数の臨床検査室の職員がISO認定維持のための業務に尽力している。ISO所得施設で働く臨床検査技師にとって日頃のルチン業務を行いながら,ISO認定維持にかかる業務時間を確保することは非常に難儀である。よって,我々が試験的運用で試みた業務体制を取り入れることで,家庭の時間やプライベートの時間を削ることなく無理のない働き方を実現できる可能性がある。また,早朝病棟採血を担当する職員がISO関連の業務だけでなく,日頃のルチン業務に関わる精度管理業務や,始業前の検査機器の立ち上げやメンテナンスなど早期出勤のメリットを生かした時間の使い方を行うことができれば,検査室全体の負担軽減に繋がる可能性がある。

早朝病棟採血を継続するにあたり今後の運用面での課題がいくつか明らかになった。まず挙げられるのは自宅から職場までの通勤時間の問題である。今回,本運用は通勤時間が片道15分と片道1時間の職員によって実施された。通勤時間が異なる職員2名で比較を行うと,通勤時間が長くなるに比例して自宅を出発する時間が早くなり,肉体的・精神的疲労が蓄積し易くなる傾向にあった。また,病棟早朝採血は基本的に1名の臨床検査技師によって採血を実施する勤務体系であった。単独で採血を実施することは採血途中に血液が止まった際にシリンジ交換など他の職員によるフォローを望めず,採血を自己完結する必要があった。他の職員による緊急対応のフォローがないまま医療行為を実施することは精神的な負荷が非常に大きかった。今後,担当職員の肉体的・精神的負担を考慮したうえで様々な臨床検査技師のニーズにあった業務体制の確立を目指していきたい。

次に,アンモニア採血等の迅速測定が望まれる採血運用の課題である。一般的に,アンモニアは溶血や全血の室温放置の影響で濃度が著増し6),検体採取後速やかに測定することが望ましいとされる。しかし,このことは病棟看護師にとって周知の事実ではなく,我々が病棟採血を実施するにあたって,アンモニア採血の運用面での見直しが必要であると考えた。我々は実際の対策として患者の採血順の見直しを行い,アンモニア採血が必要である患者に対する採血を可能な限り検体を搬送する直前に実施するように心掛けた。施設によってはアンモニアや血液ガス等の迅速な測定が望まれる検体は採取したその都度,検査室に搬送を行う運用が実施されている。また,当院では血液ガスに関して採取直後に氷冷を行い病棟から検査室に搬送を行っており,アンモニア採血に関しても血液ガス同様に病棟全体で迅速測定が望ましいとする共通認識を持つ必要がある。アンモニア測定に限らず,検査項目の注意事項を病院全体に周知することは臨床検査に特化した我々の責務であり,他職種と知識を共有しながら患者にとって有益かつ医療従事者にとって無理のない運用方法を模索していきたい。

V  結語

医師の働き方改革に向けて,2021年10月には臨床検査技師等に関する法律が改正されたことにより,臨床検査技師が行うことができる業務の拡大が行われた。しかし,500床を超える病院では専門化が細分化しており当初の目論みのタスク・シフト/シェアの需要は決して高くない。また,日常業務時間帯でのタスク・シフト/シェアはマンパワーの観点から調整すべき点も多々ある。そのような中,早朝の病棟採血は効果的なタスクシェアの可能性が高い。他には,早朝勤務開始とすることで夕方以降には学術的活動や家庭時間の確保など,多面的な効果を生み出せる可能性がある。今後益々多様化する働き方のニーズの観点からも臨床検査技師による病棟採血は大いに検討の余地がある。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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