2024 Volume 73 Issue 2 Pages 308-315
直接作用型抗ウイルス治療が登場し,C型肝炎患者の多くでウイルス学的著効が可能となった現在,感染スクリーニングの一環としてHCV抗体検査を受けた患者から未診断のC型肝炎患者を拾い上げ,適切な治療に導くことは肝炎撲滅に向けて非常に重要である。当院では2018年2月からHCV抗体陽性者を対象とした電子カルテアラートシステムを導入したが,このシステムだけではC型肝炎患者の拾い上げが不十分であることが分かった。そこで,2022年9月から肝臓専門医と臨床検査技師による肝炎チームを立ち上げ,HCV抗体陽性の患者から未診断のC型肝炎患者を拾い上げるための新たなシステム「肝炎パトロール」を開始した。開始6ヵ月間で,肝臓専門医以外からオーダーされたHCV抗体陽性の患者124例のうち,電子カルテアラートシステムのみで対応が行われた患者は83例(67%),対応が行われなかった患者は41例(33%)であった。対応が行われなかった41例には肝炎チームが介入し,40例でHCV抗体陽性への対応が追加されたため,HCV抗体陽性患者への対応率は67%から99%に向上した。また,チームの介入により,6例が新たにC型肝炎患者と判明した。自動の電子カルテアラートシステムだけでなく,肝炎パトロールのような人の手が加わったシステムは,HCV抗体陽性の患者からC型肝炎患者を効果的に拾い上げるのに非常に有用であることが示された。
Direct acting antivirals (DAA) therapy offers a cure for most chronic hepatitis C cases, underscoring the importance of identifying undiagnosed patients. To enhance viral hepatitis elimination, our institution introduced an HCV antibody-positive alert system in February 2018. However, initially, the system lacked the ability to effectively identify patients with hepatitis C. Since September 2022, our hepatology specialist and clinical laboratory technician team has implemented the Hepatitis Patrol system to identify patients with hepatitis C. Together with an automatic alert system, this integrated approach has significantly improved the appropriate management rate for patients with positive hepatitis C virus antibodies ordered by non-hepatology specialists, increasing it from 67% to an impressive 99%. Moreover, the system has successfully detected six previously undiagnosed hepatitis C patients, highlighting the valuable contribution of the automatic alert and Hepatitis Patrol systems in capturing cases and facilitating DAA therapy initiation. Overall, this refined system shows great promise in enhancing hepatitis C detection and treatment, delivering substantial benefits to clinical practice.
世界保健機関は2030年までにウイルス性肝炎を撲滅することを目標に掲げている1)。C型肝炎ウイルス(以下,HCV)に感染すると約30%の人は自然治癒するが,70%は持続感染となり,10年から20年かけて慢性肝炎へ移行し,さらに放置すれば肝硬変や肝癌へと進展する2)。その間ほとんど自覚症状がなく経過するため,未診断のC型肝炎患者が潜在していることが危惧される。2011年に行われた第13回肝炎対策推進協議会にて,我が国には100万から150万人程度のC型肝炎患者が存在し,そのうちの約30万人がC型肝炎の感染に気付いていないと報告された3)。C型肝炎に対する抗ウイルス治療において,長らくインターフェロン(以下,IFN)製剤を主体とした時代が続いていたが,2014年にはIFNを用いない直接作用型抗ウイルス薬治療が保険収載され,現在では多くのC型肝炎患者において,持続的ウイルス学的著効(sustained viral response;以下,SVR)が得られるようになった4)。
HCV抗体検査数は,健診で行われるよりも医療機関において手術前などに行われる方がはるかに多く5),6),陽性率も高いと報告されている7)。そのため,医療機関で手術前や入院時に感染スクリーニングの一環としてHCV抗体検査を受けた患者から,いかに未診断のC型肝炎患者を拾い上げ,治療に結びつけるかが肝炎撲滅に向けて大変重要である。過去には,医療機関にて行われたHCV抗体検査が陽性であったにも関わらず患者に結果説明しなかったことで訴訟に発展した事例も報告されており8),HCV抗体陽性者から確実にC型肝炎患者を拾い上げることは,医療機関のリスクマネジメントの観点からも重要である。
近年,多くの病院で肝臓専門医や肝炎医療コーディネーター(以下,肝炎Co)をはじめとした多職種が協力した未診断のC型肝炎を拾い上げる様々な取り組みが行われ,その成果が報告されている9)~12)。当院では2018年2月よりHCV抗体陽性者を対象とした電子カルテアラートシステムを導入した。現状把握目的にて後ろ向きに行った前調査では,2021年10月から6ヵ月間にHCV抗体陽性であった患者の15%(25例)がHCV-RNA未測定,かつ電子カルテにC型肝炎の既往歴,治療歴に関する記載がなく,HCV抗体検査陽性に対して未対応であることが確認され,既存の電子カルテアラートシステムではC型肝炎患者の拾い上げが十分に行われていないことが示唆された。そこで,2022年9月より肝臓専門医と肝炎Coの資格を持つ臨床検査技師による肝炎チームを立ち上げ,HCV抗体陽性者からC型肝炎患者を拾い上げるための新たなシステム(以下,肝炎パトロール)を構築し,運用を開始した。その実際と成果について報告する。
2022年9月1日から2023年2月28日までの6ヵ月間に当院にてHCV抗体検査が行われた4,599例のうち,重複例を除いた4,383例を対象とした。
2. HCV抗体測定方法HCV抗体は臨床検査部にて化学発光免疫測定法(CLIA法)の原理に基づく全自動測定装置ARCHITECTアナライザーi2000SRと専用試薬であるARCHITECT Anti-HCV Reagent Kit(第2世代:Abbott)を用いて測定し,1.0 S/CO以上を陽性と判定した。
3. SVRの定義抗ウイルス治療によりHCV-RNA検査陰性化が得られ,治療終了24週後の時点で陰性化が持続している場合をSVRと定義した。
4. 電子カルテアラートシステムによる受診勧奨方法2018年2月より,当院電子カルテ(HOPE EGMAIN-GX,富士通システムズ)上において,HCV抗体検査が陽性であった場合,陽性患者個人のカルテに「肝炎受診勧奨対象患者です」というアラートが自動表示されるシステムを導入した。
5. 肝炎パトロールのプロトコール2022年9月より開始した肝炎パトロールのプロトコールをFigure 1に示した。臨床検査部が週1回の頻度で臨床検査部内のデータ抽出システムを用いてHCV抗体検査を受けた患者を抽出した。その中からHCV抗体陽性者をリストアップし,電子カルテ上の共有ファイル(ファイルはアクセス権限が与えられた職員のみがID,パスワードを使用しアクセス可能)内の肝炎チームフォルダに入れた。その後,肝炎CoがHCV抗体陽性者リストから,ウイルス性肝疾患精査目的で行われた肝臓専門医オーダーによるHCV抗体陽性者を除いた。残りの患者(「調査対象患者」と定義)の電子カルテを閲覧し,主治医のHCV抗体陽性の結果への対応を含めFigure 1※に示した7項目を調査した。電子カルテ調査時点にて1)~7)いずれかの確認ができた症例は「対応あり患者」とし,それ以外を「対応なし患者」と定義した。次に,対応なし患者に関しては,肝臓専門医が電子カルテを確認し,肝炎チーム介入の要否を決定した。肝炎チーム介入の具体的な方法として,肝臓専門医の指示(メール送信先決定)のもと,肝炎Coが医師(主治医や担当医)宛てに電子カルテシステムのメール送信機能を利用して,患者へのHCV抗体検査陽性の結果説明と,HCV-RNA検査オーダーを促すメッセージを送った。その後,肝炎Coは,肝炎チームが介入した患者のリストを用いて介入患者の電子カルテを定期的に確認し,HCV-RNA検査オーダーの有無,HCV-RNA検査結果,肝臓専門医へのコンサルトオーダーの有無を確認した。
本研究は,院内の倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:22CO70)。
当院にて2022年9月1日から2023年2月28日までの6ヵ月間にHCV抗体検査が行われた4,599例のうち重複症例を除いた4,383例中,HCV抗体陰性者数は4,250例(97%),陽性者数は133例(3%)であった(Figure 2)。HCV抗体陽性133例中,ウイルス性肝疾患精査目的で行われた肝臓専門医オーダーによるHCV抗体陽性者は9例,調査対象患者は124例であった。調査対象患者の診療科は,多い順に整形外科17例,救急科13例,循環器内科11例,消化器内科9例,脳血管神経内科7例,耳鼻咽喉科7例,眼科7例,肝胆膵外科7例,その他の診療科46例であった。HCV抗体検査の多くは手術前,心臓カテーテル検査や内視鏡といった内科系検査前,救急搬送時の感染スクリーニング目的で行われていた。
調査対象患者124例中,肝炎チームの介入を必要とせず適切に何らかの対応がとられていた症例の割合は83例(67%)であった。(調査期間:2022年9月1日~2023年2月28日の6ヵ月間)
調査対象患者124例において,肝炎チーム介入前(電子カルテアラートシステムのみ)の主治医のHCV抗体陽性患者への対応率を検討した(Figure 2)。HCV抗体陽性結果を契機に主治医から自発的にHCV-RNA検査がオーダーされたのは124例中12例(10%)のみであった。HCV-RNA検査オーダーのなかった112例中,肝臓専門医コンサルトのオーダーが確認されたのが5例,過去にHCV-RNA検査陰性が確認されていたのは8例,C型肝炎の抗ウイルス治療SVR後であると確認されたのが54例,C型肝炎で他院通院中であると確認されたのが1例,肝細胞癌治療中が2例,死亡が1例であった。よって,肝炎チーム介入前(電子カルテアラートシステムのみ)の「対応あり患者」は,調査対象患者124例中83例(67%)であり,調査時点で電子カルテ上C型肝炎の治療歴(SVR後)が確認できない,かつC型肝炎が否定できていない「対応なし患者」は41例(33%)であった。
3. 肝炎チーム介入後のHCV抗体陽性患者対応率「対応なし患者」41例に対して,前述の方法のように,肝炎Coが主治医宛てにHCV-RNA検査オーダーを促すメールを送信した。その後の主治医の対応についてFigure 3に示した。肝炎チームが介入した41例中32例(78%)でHCV-RNA検査がオーダーされた。そのうち6例がHCV-RNA陽性であり肝臓専門医受診となった。その結果,全例がC型肝炎と診断され,主病の予後不良が予想された1例を除く5例で抗ウイルス治療が予定された。41例中9例(22%)はHCV-RNA検査がオーダーされなかったが,そのうち8例は肝炎チームの介入後,主治医から患者へHCV抗体陽性の結果説明が行われ,当院でHCV-RNA検査を行わない理由が電子カルテに記載された。理由の内訳は主病の予後不良が4例,他院での精査希望が1例,他院で過去に抗ウイルス治療後かつSVR確認後であることが追加問診により確認された症例が2例,追加問診によりC型肝炎で他院通院中であることが確認された症例が1例であった。残り1例については,主治医への2回のメールに加え,肝臓専門医から主治医へ電話連絡したが,主疾患の病状および患者の対応に苦慮されている症例であり,最終的にHCV抗体検査陽性の結果説明やHCV-RNA検査オーダーがなされることなく,急遽,患者本人の希望により退院となったため,対応なしのままとなった。肝炎チーム介入の結果,対応なし患者41例中40例でHCV抗体陽性に対する主治医の追加対応が確認されたため,「対応あり患者」は調査対象患者124例中123例(99%)に上昇した。
「対応なし患者」41例に対して肝炎チームが介入した結果,6例の新たなC型肝炎患者を拾い上げることができた。また,40例でHCV抗体陽性に対する追加の対応が確認された。1例のみ未対応のままとなった。(調査期間:2022年9月1日~2023年2月28日の6ヵ月間)
当院にて2022年9月から6ヵ月間のHCV抗体陽性者に占める肝炎チーム介入率を月別に検討したところ,9月から順に40%(8/20),20%(4/20),36%(9/25),40%(10/25),33%(6/18),25%(4/16)であり,10月と2月は他の月に比べてチーム介入を必要とする症例の割合が低く,1月から2月は減少傾向であった(Figure 4)。主治医からの自発的なHCV-RNA検査または肝臓専門医コンサルトオーダーがあった患者の割合は,9月から順に20%(4/20),5%(1/20),12%(3/25),20%(5/25),17%(3/18),6%(1/16)であり,10月と2月が少なかった。また,電子カルテ調査によりFigure 1の※3)~7)が確認され,肝炎チームの介入が不要と判断された症例は,9月から順に40%(8/20),75%(15/20),52%(13/25),40%(10/25),50%(9/18),69%(11/16)であり,10月と2月が多かった。
調査対象患者124例に占める肝炎チーム介入件数の割合は,10月と2月で少なかった。主治医からの自発的対応としてHCV-RNA検査または肝臓専門医コンサルトオーダーがあった患者の割合は,10月と2月で少なかった。
6ヵ月間のHCV抗体陽性者133例中,今回あるいは過去にHCV-RNA検査を施行され結果が参照できた124例を対象として,HCV-RNA検査結果とHCV抗体価(ARCHITECT)の関係について検討した(Figure 5)。HCV-RNA陽性群(15例)の抗体価(S/CO)は17.6 ± 1.6(平均 ± S.D.),HCV-RNA陰性群(109例)の抗体価は10.1 ± 6.3であり,2群間の抗体価に有意な差を認めた(p < 0.001)。HCV抗体価10(S/CO)以上を高力価,10未満を低力価とすると,HCV-RNA陽性群は全例HCV抗体高力価陽性であった。
HCV-RNA検査結果別のHCV抗体価の平均はHCV-RNA陽性群17.6 S/CO,陰性群10.1 S/COであり,HCV-RNA陽性群が有意に高かった。HCV-RNA陽性群は全例が高力価(10 S/CO以上)であった。
当院では,2022年9月より肝臓専門医と肝炎Coの資格を持つ臨床検査技師で構成された肝炎チームによる新たなC型肝炎患者の拾い上げシステム「肝炎パトロール」を開始した。肝炎パトロール開始から2023年2月までの6ヵ月間の当院のHCV抗体陽性率は3%であった。2012年から2016年に全国の日本赤十字血液センターで献血を行った初回供血者集団のHCV抗体陽性率0.13%13)と比べ高率であり,医療機関受診患者の中から未診断のC型肝炎患者を拾い上げ,適切な診断・治療に繋げることは極めて重要と考えられる。6ヵ月間の調査対象患者124例のうち,「対応あり患者」は83例(67%),「対応なし患者」は41例(33%)であった。前調査同様,やはり電子カルテアラートシステムのみでは拾い上げが十分に行われていなかった。電子カルテアラートシステムの限界については日高ら11)も報告しており,その要因として非肝臓専門医のウイルス性肝炎に対する知識不足が挙げられている。当院では,システム導入から3年以上経過したことによる,アラートへの医師の意識の低下が原因ではないかと推察された。今回,拾い上げシステムの再構築を行い,「対応なし患者」41例に対して肝炎チームが介入し,主治医にHCV-RNA検査オーダーを促すメールを送ったところ,40例で追加の対応が確認された。さらにHCV-RNA検査が行われた32例中6例が新たにC型肝炎と診断され,そのうち5例で抗ウイルス治療が予定された。この6例は肝炎パトロール活動を開始していなければ今回のHCV抗体検査では拾い上げられていなかったと考えられ,本活動の重要性が確認できた。
厚生労働省は,医療機関に対し,手術前などに行われる肝炎ウイルス検査結果について,患者に適切に説明するよう度々通達している14)。HCV抗体の検査結果は,陽性,陰性を問わず主治医が患者に結果説明を行う必要があるが,中でもHCV抗体陽性にも関わらず患者に結果が伝えられないことが患者にとって最も不利益となる。そこで,我々は「HCV抗体陽性者から確実に未診断のC型肝炎患者を拾い上げる」ということを主目的としてシステムを再構築した。毎週1回水曜日午前中にHCV抗体陽性者リストを作成し,その日のうちに電子カルテを閲覧し,肝炎Coが「対応なし患者」を抽出する。木曜日には肝臓専門医がそのリストからチーム介入の要否を決定して,金曜日までには主治医宛てにHCV-RNA検査オーダーを促すメールを送るようにしている。1週間当たりのHCV抗体陽性者の件数は2件から最大11件であったが,電子カルテ上のチームファイルは,アクセス権限があれば院内の全ての電子カルテ端末で閲覧可能であることに加え,臨床検査部には現在7名の肝炎Coが在籍しているため,それぞれの端末から分担して患者情報を調査しリストに入力することで,迅速な対応が可能であった。また,一度のメールで主治医の対応が確認されない場合,再度メールを送り対応を促しているが,陽性者リストには入院予定日や次回の外来受診日を明記しており,その日までにHCV-RNA検査をオーダーしてもらうことを目標にすることで,メール再送のタイミングを逃さずチーム介入することができた。さらに,メールを再送する際には,主治医に加え各診療科長にも同時に送るようにしている。これらのチーム介入方法の工夫により,HCV-RNA検査が必要な患者にはほぼ全例に実施し,99%という高い対応率を実現できたと考えている。今回の検討で,自動の電子カルテアラートシステムだけではなく,人の手が加わった肝炎パトロールは,HCV抗体陽性者から未診断のC型肝炎患者を拾い上げるために有効なシステムであることが確認できた。
我々が目指すのは,肝炎チームが活動しなくても全ての医師がHCV抗体検査の重要性を認識し,陽性であれば確定診断のためにHCV-RNA検査をオーダーするといった対応を確実に実行してもらうことである。そのため,当院の肝炎パトロールは,主治医自身にHCV-RNA検査オーダーを入れてもらうことを原則としている。1回のメールではHCV-RNA検査オーダーに結びつかず,再度の連絡を要する場合も少なくない。その一方で,一度肝炎チームが介入した患者の主治医が,他のHCV抗体陽性患者に対して自発的にHCV-RNA検査や肝臓専門医コンサルトのオーダーを入れてくれるという経験もした。そこで,この6ヵ月間で主治医の自発的なHCV抗体陽性への対応が増加し,肝炎チーム介入の必要件数が減少したかどうかについて検討した。HCV抗体陽性者に占める肝炎チーム介入率は10月と2月で少なく,若干ではあるが,1月から2月で減少傾向がみられた。しかし,調査対象患者に占める主治医からの自発的なHCV-RNA検査または肝臓専門医コンサルトオーダーがあった患者の割合を月別に算出したところ,10月と2月で少なく,チーム介入率の減少は主治医のHCV抗体陽性への自発的な対応の増加によるものではなかった。10月と2月は,調査対象患者に占める抗ウイルス治療SVR歴や過去のHCV-RNA検査陰性歴といった電子カルテ調査によりチーム介入が不要と判断された症例の割合が多く,そのことがチーム介入率の少ない要因となっていた。今後,HCV抗体陽性結果への主治医の自発的な対応が増加するように,引き続き肝炎パトロールを継続するとともに,医師に対する啓発活動にも積極的に取り組んでいく必要性があると考えられた。
今回の肝炎パトロールで拾い上げられた6例のHCV抗体価(S/CO)はいずれも高力価であった。Contrerasら15)は,HCV抗体が高力価であればウイルス血症である可能性が高いと報告している。今回我々は,HCV抗体価を高力価(10 S/CO以上)と低力価(10 S/CO未満)に分けてHCV-RNA結果との関係を検討したところ,HCV-RNA陽性全例が高力価であり,低力価群にはHCV-RNA陽性者がいなかった。そのことから,HCV抗体高力価の場合,未診断のC型肝炎患者である可能性が高い為,HCV-RNA検査が必須であり,そのことを念頭にチーム介入する必要がある。今回対応なしのままとなった1例はHCV抗体価2.83 S/COと低力価であった。我々の今回のデータからはARCHITECTで10 S/COを大きく下回る場合はHCV-RNA陰性である可能性が高いと考えられることから,この症例はHCV-RNA陰性であったのではないかと推測される。しかし,HCV抗体価の高低ではウイルス血症か否かの推定しかできないため,抗体価の数値に関わらず,肝炎チーム介入によりHCV-RNA検査が確実に行われるよう働きかける必要がある。そのため,今後さらに医療安全部門など他部門とも協力し,対策を検討していきたい。
当院では,肝炎パトロールにおいて,肝炎Coの資格を持つ臨床検査技師が陽性者リスト作成のみならず肝炎チーム介入患者の抽出および主治医へのメール連絡と,活動の多くを担っている。このような取り組みは,近年推奨されるタスクシフトの一環としてだけでなく,臨床検査技師が専門性を活かし医療チームの一員として病院のリスクマネジメントに貢献できる重要な機会であり,何より患者の予後向上にとって大変有用であると考えられた。
今回の検討により,新たな未診断C型肝炎患者拾い上げシステム「肝炎パトロール」の有効性が確認された。医療機関におけるHCV抗体陽性者からの未診断C型肝炎患者拾い上げ活動は,肝炎撲滅に向けた着実かつ重要な活動であり,臨床検査技師が専門性を活かしチーム医療に貢献できる場であると考えられた。
本研究は,院内の倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:22CO70)
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
本論文の執筆にあたり,肝炎パトロール活動を支えて頂いている肝炎チームのメンバーである九州医療センター消化器内科の田代茂樹医師,中嶋摩依医師,臨床検査部の渡辺秀明副臨床検査技師長,佐伯綾子主任技師,蒲牟田靖司主任技師,井手陽大技師,岩本礼奈技師,越名優希技師,寺脇和香技師に心から感謝申し上げます。