Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Clinical performance evaluation of VITROS High-sensitivity Troponin I reagent
Eiko MIKAMIRyuichi TESHIROMORIJunichi KITAZAWA
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2024 Volume 73 Issue 2 Pages 251-257

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Abstract

心筋トロポニンIは心筋の損傷に特異的なマーカーとして知られており,健常人の99パーセンタイル値(判断値)を用いて心筋損傷の有無を予測する。測定試薬には高感度の定義があり,急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂)でも高感度トロポニン測定が推奨されている。今回,化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)を測定原理としたビトロス 高感度トロポニンI(ビトロスcTnI)の基礎的性能を評価し,患者検体を用いて対照試薬との臨床的有用性を評価した。ビトロスcTnIの併行精度は変動係数0.86~2.44%,室内再現性は変動係数2.19~4.57%と良好であった。共存物質の影響はビリルビンFで濃度依存的に低下傾向が確認できたが他の共存物質の影響は軽微であった。比較対照法のAIAパックCLトロポニンIとの相関はr = 0.983,y = 0.738x − 3.39と良好で,エクルーシス試薬トロポニンT hsとはr = 0.789,y = 3.149x − 60.969であった。AIA試薬との判断値での判定一致率は92.1%,エクルーシス試薬とでは86.7%であった。各試薬で判断値付近での乖離例が多い傾向が見られ,心電図やその他の検査結果も含めて臨床判断をする必要がある一方で,ビトロスcTnIはトロポニンが上昇することがないと言われている症例群において判断値以下となる傾向にあり,疾患特異性が高く急性心筋梗塞の診断に有用と考えられた。

Translated Abstract

Cardiac troponin I is a well-known selective marker of myocardial injury, and its concentration relative to the 99th percentile values of healthy subjects can predict the presence of myocardial damage. Because the high-sensitivity troponin assay is recommended by Acute Coronary Syndrome Guidelines (2018), we evaluated the performance of VITROS High-sensitivity Troponin I in this study and compared it with other high-sensitivity reagents. We obtained good results in terms of repeatability, with coefficient of variation (CV) values between 0.86% and 2.44% as well as CV values of 2.19%–4.57% for precision between days. Interference by unconjugated bilirubin occurred in a concentration-dependent decreasing trend, whereas the influence of other substances was insignificant. The correlation coefficient and 99th percentile agreement between the AIA PACK CL Troponin I were r = 0.983 and y = 0.738x − 3.39 and 92.1%, respectively, showing a good correlation. With Elecsys reagent High-sensitivity Troponin T, the respective values were r = 0.789 and y = 3.149x − 60.969 and 86.7%. Because there was a tendency of divergence around the 99th percentile value when comparing each reagent, clinical judgment based on troponin results should be considered in addition to other examination results, such as electrocardiogram. Nonetheless, VITROS High-sensitivity Troponin I was found to be the most disease specific and highly specific for acute myocardial infarction, a disease that requires immediate diagnosis.

I  はじめに

急性冠症候群(acute coronary syndrome; ACS)は,冠動脈粥腫(プラーク)の破綻とそれに伴う血栓形成により冠動脈の高度狭窄または閉塞をきたして急性心筋虚血を呈する病態で,不安定狭心症(unstable angina; UA),急性心筋梗塞(acute myocardial infarction; AMI),虚血による心臓突然死を包括した疾患概念である。

ACSの診療には迅速な診断や治療が求められ,ACS疑いの患者に対して心電図に加え血液生化学検査が必要となる。急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)において,心筋トロポニンは感度,特異度が高く,CK/CK-MBが上昇しない程度の微小心筋傷害も検出できるため,心筋バイオマーカーとして推奨されている1)

心筋トロポニン検出試薬は様々存在するが,ヨーロッパ心臓学会ガイドライン(2015年)では,高感度トロポニン試薬の性能として,健常人の50%以上で測定が可能であること,健常人の99パーセンタイル値における変動係数(CV)が10%以下であること,と定義されている。

今回我々は高感度トロポニン測定試薬である「ビトロス 高感度トロポニンI」(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社(以下,オーソ))について,基礎的性能評価,また対照試薬との比較を行い,臨床的有用性を検証したので報告する。

II  対象及び方法

1. 試薬と測定機器

評価試薬は,「ビトロス 高感度トロポニンI」(オーソ)(以下,ビトロスcTnI)を用いた。測定機器は全自動免疫生化学統合システム ビトロス5600II(オーソ)を使用した。

比較対照法は,全自動化学発光酵素免疫測定装置AIA-CL1200(東ソー株式会社)を用いた「AIA-パックCLトロポニンI」(以下,AIA cTnI),及び全自動電気化学発光免疫測定装置cobas 8000(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用いた「エクルーシス試薬トロポニンT hs」(以下,ロシュcTnT)を使用した。

2. 材料

精度ではCLINIQA Liquid QC Cardiac Marker Control VS(オーソ),及びビトロス 高感度トロポニンI用コントロール(オーソ)を用いて評価した。共存物質の影響試験,相関性の評価に用いたヒト血清は,心筋トロポニンIの検査オーダーがあった当院の入院及び外来患者の中から330例の検査後残血清を用いた。

3. 方法

1) 精度

併行精度は4濃度の精度管理試料を用いて10回重複測定した結果から算出した。室内再現精度は初日のみキャリブレーションを行い,別ロットの同精度管理試料を試薬開封より29日後までの13ポイントで1重測定し,変動係数の算出を行い,精度を調べた。

2) 共存物質の影響

共存物質には干渉チェック・Aプラス(シスメックス株式会社)とビオチン(+)(富士レビオ和光純薬株式会社)の飽和水溶液を用いた。ヒト血清はトロポニンI(cTnI)値が40 ng/L,400 ng/L付近の検体をそれぞれプールし,試験に用いた。測定は共存物質濃度6段階で各2重測定を実施し,共存物質を添加していない検体を100%としたときの相対値を算出し,影響を確認した。

3) 相関試験

ヒト血清330例を対象にビトロスcTnI,AIA cTnI,ロシュcTnTとの測定値比較を行った。回帰式はPassing-Bablok法を用いて算出した。

4) 3社試薬の測定値分布比較

前述のヒト血清330例を対象にビトロスcTnI,AIA cTnI,ロシュcTnTとの測定値比較を行った。各試薬の99パーセンタイル値で測定値を割り,診断基準である99パーセンタイル値に対する比率を算出した。ビトロスcTnIを縦軸に,AIA cTnI,ロシュcTnTそれぞれを横軸にしたグラフを示した。なお,99パーセンタイル値は添付文書記載(ビトロスcTnI 11 ng/L,AIA cTnI 24 ng/L,ロシュcTnT 14 ng/L)を用いた。

また今回検討した症例を,診断名および判定の一致状況によって3群に分類し,その測定値分布の比較を行った。低値域の解像度を上げる目的で測定値を対数に変換し,各試薬の99パーセンタイル値をカットオフとして作図を行った。各試薬の99パーセンタイル値の対数換算値は,ビトロス11 ng/L = 1.04,AIA 24 ng/L = 1.38,ロシュ14 ng/L = 1.15として表記した。なお,有意差は2群間の平均値の差の検定であるt検定をExcelで行い,各試薬の3群を比較した。3群の内訳は以下の通りである。

(A)群:診断名からトロポニン値が上昇することが明確である症例,(e.g.,急性心筋梗塞),または3社試薬ともに測定値が各社規定の99パーセンタイル値を上回る値を出している症例(n = 201)。

(B)群:診断名からトロポニン値が上昇する可能性のあることが知られている症例(e.g.,狭心症,心不全,大動脈解離,敗血症,脳梗塞,腎不全,くも膜下出血,心房細動1)~6))(n = 19)。

(C)群:診断名からトロポニン値が上昇することがないとされている症例(e.g.,パーキンソン病,虫垂炎,肺炎,食道異物,転倒骨折,認知症,てんかん,イレウス等),または3社試薬ともに測定値が各社規定の99パーセンタイル値以下の症例(n = 106)。

なお,診断名が得られなかった症例,および3社試薬で結果が不一致だった4症例は分類より省いた。

III  結果

1. 精度

併行精度における4濃度の精度管理試料の変動係数(CV%)は0.86~2.44%であった(Table 1)。別ロットの同精度管理試料を用いた室内再現性は,全濃度において変動係数(CV%)は2.19~4.57%であった(Figure 1, Table 2)。

Table 1 併行精度(n = 10)

CLINIQA Liquid QC Cardiac Marker Control VS ビトロス
高感度トロポニンI用
コントロール
Level 1 Level 2 Level 3
Mean(ng/L) 52.56 201.35 3,305.62 8.18
SD 1.28 1.72 45.05 0.17
CV(%) 2.44 0.86 1.36 2.11
Range 4.6 5.8 134.7 0.5
Figure 1  室内再現性

ビトロスcTnIの室内再現性をCLINIQA Liquid QC Cardiac Marker Control VS,及びビトロス 高感度トロポニンI用コントロールを用いて評価した結果

Table 2 室内再現性

CLINIQA Liquid QC Cardiac Marker Control VS ビトロス
高感度トロポニンI用
コントロール
Level 1 Level 2 Level 3
Mean(ng/L) 40.80 255.50 3,929.38 11.355
SD 1.53 7.48 85.91 0.52
CV(%) 3.75 2.93 2.19 4.57

2. 共存物質の影響

共存物質のうちビリルビンC 20.0 mg/dL,ヘモグロビン500 mg/dL,乳び2,000 FTU,ビオチン3,500 ng/mLにおいては,低値検体(cTnI:40 ng/L付近),高値検体(cTnI: 400 ng/L)にて相対値は94~103%であった(Figure 2)。ビリルビンFは共存物質の濃度が高くなるほどcTnIの数値に低下が見られ,ビリルビンF濃度20 mg/dLの添加で,低値検体で相対値85%,高値検体で相対値90%と低下が見られた。

Figure 2  共存物質の影響

cTnI値が40 ng/L,400 ng/L付近の検体をプールし試験に用い,共存物質を添加していない検体を100%としたときの相対値で確認した。

3. 相関試験

ビトロスcTnIとAIA cTnIの相関では,330例のうち両試薬の測定下限値未満となった症例を除外した256例を対象に比較したところ,r = 0.983,y = 0.738x − 3.394であった(Figure 3A)。またビトロスcTnIとロシュcTnTの相関では,同様に測定下限値未満を除外した267例における相関は,r = 0.789,y = 3.149x − 60.969であった(Figure 3B)。

Figure 3  相関試験

ヒト血清330例を対象とし,両試薬の測定下限値未満となった症例を除外した相関図。

AはビトロスcTnIとAIA cTnI(n = 256),BはビトロスcTnIとロシュcTnT(n = 267)。

4. 3社試薬の測定値分布比較

3社試薬の判定乖離数からの一致率は,ビトロスcTnIとAIA cTnIでは92.1%(26例乖離),ビトロスcTnIとロシュcTnTでは86.7%(44例乖離),AIA cTnIとロシュcTnTでは88.5%(38例乖離)であった(Table 3)。

Table 3 3社試薬判定不一致症例数

99パーセンタイル値 以上

ビトロス

cTnI

AIA

cTnI

ロシュ

cTnT

99パーセンタイル値未満 ビトロスcTnI 17 44
AIA cTnI 9 37
ロシュcTnT 0 1

また,診断名及びトロポニン測定値の一致度の観点で前述の(A),(B),(C)の3つに群に分類し,その上で各測定値の10を底とした対数値(log10測定値)をもとにして分類群ごとに箱ひげ図を作成し,3社試薬間の違いを比較した(Figure 4)。

Figure 4  3社試薬の測定値及び診断名による比較

ビトロスcTnI,AIA cTnI,およびロシュcTnTの測定値を対数表示し,診断名および99パーセンタイル値の基準よりA(n = 201)B(n = 29)C(n = 96)で分類した。

Figure 4で示す通り,3社試薬における(A),(B),(C)の群間において有意差が認められた。なお,ビトロスcTnIでは,(A)群以外で総じて99パーセンタイル値以下の結果が多い傾向にあった。一方でロシュcTnTではビトロスcTnIと比べ(A)群を含めて99パーセンタイル値以上の測定値を示す症例が多く認められた。AIA cTnIでは上記2社の中間的な結果であった。また,ビトロスcTnIでは外れ値(Figure 4中,白抜き丸で表示)を示した測定結果が無かったことに対し,他2社試薬では(B)群および(C)群で外れ値が散見された。

IV  考察

今回性能評価したビトロスcTnIの精度は,併行精度・室内再現精度ともに良好であり,既報の高感度トロポニン試薬の精度と比較しても遜色ない結果であった7)。また共存物質の影響試験ではビリルビンF 20 mg/dLでの干渉が認められたが,添付文書の性能を担保していることが分かった。ビリルビンの抗酸化作用が酵素を用いたペルオキシダーゼ酸化反応に対して影響すると知られている8),9)。ビトロスcTnI試薬はイムノメトリック法を測定原理としており,検体中の心筋トロポニンIとビオチン化抗体(ビオチン化抗トロポニンIマウスモノクローナル抗体)およびホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識抗体コンジュゲート(HRP標識抗トロポニンIマウスモノクローナル抗体)を同時に反応させる系である。結合したコンジュゲート中のHRPはルミノール誘導体の酸化を触媒,発光しこの発光強度が機器で読み取られ検体中のcTnIに比例する。ビリルビンがB/F分離前にビトロスcTnI試薬の反応原理の酸化反応に影響し,発光量を抑えることで濃度依存的に低下させている可能が考えられた。

Table 3の結果より,ビトロスcTnIとロシュcTnTの結果が乖離した例が44例,ビトロスcTnIとAIA cTnIでは26例が不一致であった。

判定乖離例の測定値分布において,ビトロスcTnIが99パーセンタイル値以上であり,かつAIA cTnIが99パーセンタイル値未満の群の測定値の多くは99パーセンタイル値付近に分布していたのに対し,逆にAIA cTnIでの測定値が99パーセンタイル値以上,ビトロスcTnIが99パーセンタイル値未満の群では測定値が広範に分布しており,両社試薬99パーセンタイル値以上の群では測定値がよく相関していたことから,AIA cTnIのみ高値となる群においては感度差以外の要因による乖離があるものと考えられた。ビトロスcTnIとロシュcTnTの乖離例は全てロシュcTnTで99パーセンタイル値以上,ビトロスcTnIでは99パーセンタイル値以下であり,その測定値分布も広範に分布する傾向にあった。

ビトロスcTnIとAIA cTnIでは,試薬の名称からも示されている通りトロポニンIを測定対象としている一方で,ロシュcTnTではトロポニンTが測定対象である。トロポニンは分子種の違いによって血中での分解の挙動など分子動態が異なることが知られ,トロポニンIやトロポニンTに関して単体の蛋白が血液に遊離し測定しているのではなく,トロポニンの分解産物や複合体を抗体で検出していることが報告されている10)~12)。また,試薬の抗体のエピトープはメーカーごとに捉える分子は異なり13),トロポニンIはcTnI-cTnCおよびcTnI-cTnC-cTnTの複合体を検出するエピソード,トロポニンTは単体の蛋白およびその分解産物を測定している14)。各測定対象の違いは本検討でも反映され,同分子種を標的とするビトロスcTnIおよびAIA cTnIでは類似した結果が得られ,ロシュcTnTとは異なる傾向を示した。cTnIはトロポニンの複合体を検出することから疾患特異性が高い結果となったが,cTnTはより小さな分解成分を検出することが示唆される。

診断名及び3社試薬の判定一致傾向により3群に分類した群別の測定値の傾向比較(Figure 4)においては,(A)群では,3社試薬ともに99パーセンタイル値以上の結果が大半を占め,総じて類似した傾向を示していた。またトロポニン値が上昇する可能性のあることが知られている症例をまとめた(B)群では,ロシュcTnTでは99パーセンタイル値以上を示す症例が多いのに対して,ビトロスcTnIでは対照的にほぼ全てが基準値以下の低値トロポニン症例となった。AIA cTnIは高値側での外れ値が見られるものの,全体的には基準値以下で,ビトロスcTnIと類似した傾向であった。(B)群はトロポニン上昇の可能性がある疾患群ではあるが,心筋障害以外の疾患が多いことや,狭心症などの心筋傷害には関連するものの,一般的には99パーセンタイル値を超えることは少ないとされる群であることから,ビトロスcTnIの測定結果はより心筋障害に特異的であると示唆された。さらに,(C)群では,99パーセンタイル値を基準とすると,ロシュcTnTが基準値以上・基準値以下の症例がほぼ同数と高値傾向にあったのに対して,ビトロスcTnIではほとんど全てが基準値以下であり,AIA cTnIでは高値側での数点の外れ値を除いてビトロスcTnI同様に概ね基準値以下であった。

Figure 4から,ビトロスcTnIは急性心筋梗塞のようなトロポニン値の上昇と深く関連した症例を漏れなく検出できる一方,それ以外の必ずしもトロポニン値上昇とは関連しない疾患は検出しないことが示唆された。AIA cTnIでは数例の高値側での外れ値を除いてビトロスcTnI同様であるが,ロシュcTnTはあらゆる症例でトロポニン高値となっていることから疾患に対する特異性が低いことが示唆された結果となった。

V  結語

ビトロス 高感度トロポニンI試薬について,基礎的性能評価と対照法との臨床的有用性について検討を行った。ビトロス 高感度トロポニンIは十分な基礎的性能を示すとともに,心筋障害により特異的で従来法と遜色のない優れた診断能を有することが示唆された。

本論文内の検討は青森県立中央病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:R04-2-029)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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