Japanese Journal of Medical Technology
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Case Report
A case of segmental membranous nephritis for which C3d immunostaining on formalin-fixed paraffin-embedded specimens was useful
Akari TSUBOSAHazuki YOSHIOKAYoko HAGIWARARyuichi YOSHINOLiyang WANGTakashi KUWAHARAHitomi MIYATATakuya HIRATSUKA
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2024 Volume 73 Issue 3 Pages 573-576

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Abstract

【症例】腎生検にてクロンカイト・カナダ症候群に伴う分節性膜性腎炎と診断した60歳代,男性。IgG,C3cは未固定凍結標本蛍光抗体法で陰性であったが,ホルマリン固定パラフィン包埋標本酵素抗体法(formalin fixed paraffin-embedded immuno-peroxidase; FFPEIP)による抗C3d抗体免疫染色でC3dは糸球体基底膜に分節状に明瞭に認められた。未固定凍結標本蛍光抗体法でC3dはボーマン嚢・尿細管基底膜に陽性であったが,FFPEIPではこの所見を認めなかった。【考察】腎生検蛍光抗体で観察するC3cは直近の補体の活性化を表し,時間の経過で消失するため,C3cが不染でも免疫複合体が検体中に存在しないことを意味するわけではない。また,C3cは固定などにより抗原性が失活するのでFFPEIPには適さない。C3dは,補体の活性化が起こればその場に留まるので免疫複合体の観察に優れている。更に,固定などによる抗原性失活が軽微なのでFFPEIPに適している。【結論】FFPEIPによるC3d染色は,蛍光抗体法でIgGを認めない膜性腎炎や巣状分節性糸球体病変,および凍結標本に糸球体を認めないときの腎生検病理診断に有用である。

Translated Abstract

[Case] A man in his 60s was diagnosed by renal biopsy as having segmental membranous nephritis associated with Cronkite–Canada syndrome. IgG and C3c were negative in unfixed frozen specimens as determined by the immunofluorescence method, but anti-C3d antibody immunostaining using formalin-fixed paraffin-embedded immunoperoxidase (FFPEIP)-stained specimens revealed that C3d was found in the glomerular basement membrane with a clearly recognized segmental form. C3d-positive findings in the renal tubules and interstitium, which were observed in unfixed frozen specimens by the immunofluorescence method, disappeared with FFPEIP. [Discussion] C3c observed by renal biopsy with the immunofluorescence method indicates recent complement activation and disappears over time. Therefore, the absence of C3c does not mean the absence of immune complexes. Additionally, C3c is not suitable for PEIP owing to its antigenicity, being inactivated by fixation. C3d, on the other hand, remains in place upon complement activation and is an essential component of immune complexes, making it ideal for observing them. Additionally, its antigenic deactivation due to fixation is minimal, making it suitable for PEIP. [Conclusion] C3d immunostaining using formalin-fixed paraffin-embedded specimens is a valuable tool for examining renal biopsies, particularly in membranous nephritis with negative IgG staining in frozen specimens or with focal segmental glomerular lesions, and in cases where glomeruli are not found in frozen specimens.

 はじめに

大阪府済生会茨木病院(当院)では,腎生検で採取された検体を生理食塩水と共にスライドガラスに載せ,光学顕微鏡で糸球体の存在を確認したのちアクリル板に移動させ,①蛍光抗体検査(IF)用,②電子顕微鏡検査(電顕)用,③光学顕微鏡検査(光顕)用としている。それぞれの検体の標本作製は,外注検査会社に委託している。IFは,免疫グロブリン(immunoglobulin; Ig)G,A,M,補体C3c,光顕はhematoxylin eosin(HE),periodic acid Schiff(PAS),periodic acid methenamine silver(PAM),Masson trichrome染色およびホルマリン固定パラフィン包埋標本酵素抗体法(formalin fixed paraffin-embedded immuno-peroxidase; FFPEIP)でIgG,A,M,C3cの免疫染色を依頼している。

外注検査会社に委託した場合,IFでの判定にはいくつかの問題点がある。まず,標本中に糸球体が存在せず判定不能となる場合があること。外注によるIFの結果報告は,1つの糸球体についてのみであるため,糸球体が複数存在し個々の糸球体病変が異なる場合では,病理診断が病態を反映しない可能性がある。さらに,糸球体以外の血管,尿細管および間質の病変がわからないなどの点がある。FFPEIPは,光顕で得られるすべての糸球体および血管,尿細管および間質病変の観察が可能であるが,IFと比較すると感度が低く非特異反応による陽性所見が出やすいなど,染色結果を安定させることが技術的に難しいことから臨床的な評価は低い1)。我々は,補体C3分解最終産物であるC3dのFFPEIPを個々の糸球体病変が異なる分節性膜性腎炎の症例に行いIFと比較した。C3dのFFPEIPは,免疫複合体(immune complex; IC)の糸球体への沈着の局在観察,血管,尿細管および間質病変の観察に優れ,臨床的に有用であったので報告する。

I  症例

症例:60歳代,男性。クロンカイト・カナダ症候群2)。低蛋白血症(TP 4.2 g/dL,Alb 2.2 g/dL),蛋白尿+(0.37 g/gCre),eGFR 81 mL/分,浮腫で腎臓内科に紹介され,腎生検が行われた。腎生検病理外部委託検査結果:糸球体は,一般光顕で著変なし。IFでIgG,A,M,C3cは,全て陰性であった。FFPEIP免疫組織化学でIgA,C3cは,陰性であったが,IgG,IgMの沈着を一部の係蹄壁,すなわち糸球体基底膜(glomerular basement membrane; GBM)で分節状に認めた。電顕では,GBM(主に上皮下)に部分的に電子密度の高い沈着物(electron dense deposits; EDDs)を認め,分節性膜性腎炎3)と診断した(Figure 1)。

Figure 1  腎生検病理外部委託検査(光顕,蛍光抗体法IgG染色,ホルマリン固定パラフィン包埋標本酵素抗体法IgG染色,電顕)結果

A.PAM染色(×20):糸球体病変を認めない。

B.IF IgG染色(倍率は不明):IgGの沈着を認めない。

C.FFPEIP IgG染色(×40):GBMに分節状に弱陽性。

D.電顕(×2,500):多数のEDDsをGBM上皮下に認める。EDDsを認めないGBMも存在する。

II  FFPEIP C3d染色方法

IFは,一次抗体としてマウスモノクローナル抗C3d抗体(Quidel)100倍希釈を使用し,FITC標識ウサギ抗マウスIgポリクローナル抗体(Dako)と反応させた後にオールインワン蛍光顕微鏡BZ-X700(キーエンス)で観察した。FFPEIPは,3 μmの厚さで薄切した切片をヒストファインプロテアーゼ(ニチレイ)で15分処理後,一次抗体にウサギ抗ヒトC3dポリクローナル抗体(Dako)を100倍,200倍,400倍希釈したものを使用した。二次抗体はヒストファインシンプルステインMAX-PO(ニチレイ)を使用し,DAB反応後に光学顕微鏡BX53(オリンパス)で観察した。

III  結果

C3d蛍光抗体法結果をFigure 2に示す。観察し得た5つ全ての糸球体でGBMは部分的に陽性を示し,ボーマン嚢および尿細管基底膜(tubular basement membrane; TBM)は線状に陽性を示した。血管壁は,散在性に陽性であった。FFPEIP C3d染色の結果をFigure 3に示す。陽性の沈着物は,一次抗体100倍希釈でGBMに瀰漫性,顆粒状に強く認められ,一部のTBMは弱く線状に認められた。一次抗体を200,400倍希釈したものでは,GBMに分節状顆粒状に陽性に染まり,ボーマン嚢やTBMへの沈着は認めなかった。

Figure 2  未固定凍結標本C3d蛍光抗体法

A.全体像(×4):糸球体,尿細管・間質,血管のC3d染色像。

B.拡大像①(×20):糸球体は分節状にGBMに陽性。

C.拡大像②(×10):尿細管基底膜,ボーマン嚢に線状に陽性。血管壁に散在性に陽性。

Figure 3  ホルマリン固定パラフィン包埋標本C3d酵素抗体法

A.C3d抗体100倍希釈(左 ×4 右 ×40):全ての糸球体のGBMに瀰漫性に陽性。

B.C3d抗体200倍希釈(左 ×4 右 ×40):全ての糸球体のGBMに分節状に陽性。ボーマン嚢,TBMは陰性。

C.C3d抗体400倍希釈(左 ×4 右 ×40):全ての糸球体のGBMに分節状に陽性。ボーマン嚢,TBMは陰性。

IV  考察

腎炎の多くは,Igと補体(complement; C)で形成されるICによるIC腎炎である。補体活性化経路は,C1から始まる古典経路,C4から始まるレクチン経路,C3から始まる副経路があり,C3活性化からC5が活性化され,最終的にC5b-9の膜侵襲複合体(membrane attack complex; MAC)が形成される4)

腎生検の蛍光抗体検査では,一般的にIgG,A,MとC3cの4種類が行われる。ICは抗原に抗体が結合した抗原抗体複合体と,それに補体成分が結合した抗原抗体補体複合体である。補体C3は,すべての補体活性化経路に共通するのでIC腎炎には補体C3が存在する。IgA腎炎では,C3c陽性を多く認めるが膜性腎炎では限られた例にしか認めない5)。糸球体に沈着する免疫複合体のC3は,I因子によりC3cとC3dに分解される。C3cは,24時間以内に85%が消失するため,IC腎炎のC3c沈着は直近の補体活性化を示している6)。一方,C3dの沈着は持続するので,IC腎炎ではC3dが陽性となる。Snijdersら7)は,未固定凍結標本のC3c蛍光抗体法において,たとえ陰性となってもホルマリン固定パラフィン包埋標本C3d酵素抗体法では陽性となることもあるので,C3腎炎や膜性増殖性腎炎が疑われるすべての例にFFPEIPによるC3d染色を行うことを推奨している。

蛍光抗体標本で糸球体が含まれないときに,糸球体IC沈着の有無を検討するため糸球体が含まれているFF標本での免疫染色が試みられる。Nasrら8)は,プロナーゼ処理パラフィン包埋標本の蛍光抗体法でIgA腎炎の88%,膜性増殖性腎炎の60%,特発性膜性腎炎の50%,抗糸球体基底膜抗体腎炎の20%が診断されたが,C3cは全ての症例で陽性率は低かったとしている。すなわち,IgA腎炎の12%がIgA陰性,膜性腎炎の50%がIgG陰性,抗糸球体基底膜抗体腎炎の80%がIgG陰性となるが,各種腎炎のIC沈着部位と形状を理解していれば,プロテアーゼ処理パラフィン包埋標本C3d免疫染色により,各種腎炎の病理診断が可能となる。腎生検蛍光抗体検査で,C3dが一般に用いられないのは尿細管や間質にC3d沈着を強く認めることや正常腎や,微小変化群でも糸球体に陽性になるためと考えられる。IFでTBMに線状に認めるC3dは,未固定凍結標本酵素抗体法ではTBM上ではなくTBM外縁に沿って染色されることを経験している。

本症例のFFPEIP C3d染色では,GBM以外の糸球体部位(メザンギウムやボーマン嚢)やTBMのC3d沈着が陰性となった。ホルマリン固定パラフィン包埋標本作製過程で組織に沈着していないC3dは,取り除かれると考えられ,C3d染色は従来のIFよりFFPEIPのほうが優れていると思われた。また,FFPEIPに3 μm切片を使用するときのC3d抗体希釈倍率は,200倍が最適であると考えられた。

V  結語

ホルマリン固定パラフィン包埋標本を用いたC3d酵素抗体法は,蛍光抗体法でIgGを認めない膜性腎炎や巣状分節性糸球体病変,および凍結標本に糸球体を認めないときの腎生検診断に有用である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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