2024 Volume 73 Issue 3 Pages 405-410
経胸壁心エコー図検査(TTE)において,心臓以外の病変(心外病変)に遭遇することがあるが,まとまった報告は少ない。検出し得た症例をまとめ,その特徴を解析することは,今後の診断力向上につながると思われる。過去5年間に,当院において臨床検査技師が担当したTTEを対象とし,心外病変を検出した症例を抽出し後方視的に解析を行った。TTEは2016年から2021年の5年間で延べ31,930例行われ,心外病変報告件数は16例(0.05%)であった。臓器別では,肝臓6例,胆嚢6例,膵臓1例,腹腔内リンパ節2例,乳腺1例であった。悪性疾患は10例であった。全16症例のうち14症例,および悪性疾患全症例はルーチン業務で腹部や体表領域の検査も行っている技師が担当していた。肝臓および胆嚢疾患は,下大静脈の評価を心窩部走査だけでなく肋間走査を用いたことにより,多くの症例を発見できたと思われる。多領域の知識と経験を有していることが,心外病変を拾い上げる確率を上昇させる要素になると思われた。TTEで心外病変を捉えたとしても病勢が進行したものが多いが,少数ではあるが治療に繋がることが確認できた。
Extracardiac lesions are occasionally incidentally detected on transthoracic echocardiography (TTE), but such incidental detections have seldom been comprehensively investigated. Data collection and analysis for detected cases may lead to improved diagnostic capability. We retrospectively analyzed cases in which extracardiac lesions were detected during TTE performed by clinical laboratory technicians at our hospital from 2016 to 2021. Over the 5-year period, TTE was performed on a total of 31,930 patients, and extracardiac lesions were detected in 16 (0.05%) of these patients. The detected lesions were located in the liver (n = 6), gallbladder (n = 6), pancreas (n = 1), intra-abdominal lymph node (n = 2), and mammary gland (n = 1). Ten of the patients were found to have a malignancy. Fourteen of the 16 patients (including all 10 patients with malignancies) were examined by technicians who routinely also performed diagnostic imaging of the abdomen and superficial structures. The large number of detections in the liver and gallbladder was attributed to the fact that the inferior vena cava was assessed using epigastric as well as intercostal scanning. Our study findings suggest that multidisciplinary expertise and experience contribute to higher detection rates of extracardiac lesions. Furthermore, although most TTE-detected extracardiac lesions progressed by the time of detection, a small number of patients were able to receive appropriate treatment as a result of the incidental detection.
経胸壁心エコー図検査(TTE)において,心臓以外の病変(心外病変)に遭遇することがあるが,まとまった報告は少ない。検出し得た症例を集積し特徴を解析することは,今後の診断力向上につながると思われる。
今回,当院のTTEにおいて心外病変を指摘し得た症例を抽出し,後ろ向きに検討を行った。
2016年1月から2021年2月において,当院の臨床検査技師が担当したTTEの,延べ31,930例を対象とした。
2. 方法富士フイルム社製生理検査システムNEXUSのフリーワード検索機能を用い,TTE施行時に心血管疾患および胸水,腹水を除いた心外病変が報告書に記載された症例を抽出した。既知の疾患は除外し,これまでにCTやMRIで指摘されていない,新規に発見された病変を対象とした。TTEを担当した臨床検査技師は9名で,心血管領域のみの担当が5名,心血管+腹部領域担当が2名,心血管+腹部+体表領域担当が2名である。超音波検査関連の認定取得状況は,日本超音波医学会の循環器領域が5名,消化器+体表領域が1名,循環器+消化器+血管+体表領域が1名,循環器+消化器領域が1名,日本脳神経超音波学会認定検査士が1名である(Table 1)。
担当領域 | 認定 | 経験年数 | |
---|---|---|---|
技師① | 心,血管 | 循環器(JSUM) | 20年 |
技師② | 心,血管 | 循環器(JSUM) | 16年 |
技師③ | 心,血管 | 循環器(JSUM) | 16年 |
技師④ | 心,血管,腹部,体表 | 消化器,体表(JSUM) | 12年 |
技師⑤ | 心,血管 | 循環器(JSUM) | 12年 |
技師⑥ | 心,血管,腹部,体表 | 循環器,消化器,血管,体表(JSUM) | 13年 |
技師⑦ | 心,血管 | 循環器(JSUM) | 4年 |
技師⑧ | 心,血管,腹部(健診のみ) | 脳神経(JAN) | 8年 |
技師⑨ | 心,血管,腹部 | 循環器,消化器(JSUM) | 7年 |
JSUM:日本超音波医学会認定,JAN:日本脳神経超音波学会認定
心外病変報告件数は16例(0.05%)であった。男性7例,女性9例,年齢38~95歳(年齢中央値80歳)であった。臓器別では肝臓6例,胆嚢6例,腹腔内リンパ節2例,膵臓1例,乳腺1例であった。悪性疾患は10例(0.03%)であった(Table 2)。
症例 | 年齢 | 性別 | 疾患 | 腫瘤 部位 サイズ | 依頼科 | 担当技師 |
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① | 76 | 女 | 腹腔内リンパ節転移(原発:胆嚢癌) | 肝門部 28 × 19 mm | 呼吸器内科 | 6 |
② | 89 | 女 | 転移性肝腫瘍(原発:乳癌) | 多発 最大S3 12 × 11 mm | 心臓血管内科 | 6 |
③ | 82 | 男 | 肝細胞癌 | S4 45 × 32 mm | 心臓血管内科 | 4 |
④ | 38 | 女 | 胆嚢結石 | 呼吸器内科 | 5 | |
⑤ | 69 | 女 | 胆嚢結石 | 心臓血管内科 | 6 | |
⑥ | 67 | 男 | 肝血管腫 | S6 16 × 6 mm | 消化器外科 | 6 |
⑦ | 95 | 男 | 肝細胞癌 | 右葉 95 × 98 mm | 心臓血管内科 | 6 |
⑧ | 80 | 女 | 膵嚢胞性腫瘤 | 頭部 20 × 13 mm | 心臓血管内科 | 6 |
⑨ | 82 | 男 | 肝細胞癌 | S3 17 × 12 mm | 心臓血管内科 | 6 |
⑩ | 85 | 男 | 腹腔内リンパ節転移(原発:胆管細胞癌) | 肝門部 57 × 29 mm | 心臓血管内科 | 6 |
⑪ | 61 | 女 | 肝細胞癌 | S3 19 × 12 mm | 心臓血管内科 | 6 |
⑫ | 68 | 女 | 浸潤性乳管癌 | AC 17 × 14 mm | 心臓血管内科 | 6 |
⑬ | 67 | 男 | 胆嚢結石 | 心臓血管内科 | 8 | |
⑭ | 50 | 男 | 胆嚢癌,肝転移,膵転移 | 心臓血管内科 | 6 | |
⑮ | 91 | 男 | 胆嚢癌 | 救急科 | 6 | |
⑯ | 80 | 男 | 胆嚢出血・穿孔 | 心臓血管外科 | 6 |
肝疾患6例のうち4例が肝細胞癌,1例が転移性肝腫瘍,1例は肝血管腫であった。腫瘍長径は13~98 mm(平均38 mm)であった。3例が左葉(S3 2例,S4 1例),2例が右葉(右葉全体を占拠1例,S6 1例),多発は1例であった。腫瘤のエコーレベルは低エコー腫瘤3例,等エコー腫瘤1例,高エコー腫瘤が2例であった(Figure 1)。胆嚢疾患の内訳は,胆嚢癌2例,胆嚢結石が3例,胆嚢出血が1例であった。胆嚢癌の2症例の超音波所見は,症例⑭では高度で不整な壁肥厚を示し,肝との境界は不明瞭で混合型の形態を呈していた。症例⑮においても高度で不整な壁肥厚を示しており,粘膜面の同定は困難であった。肝との境界は比較的保たれていた(Figure 2)。腹腔内リンパ節腫大が2例で,長径は28 mmと57 mmであった。いずれも肝門部のリンパ節で,境界明瞭で楕円形,リンパ節門は消失していた。症例①の原発は胆嚢癌,症例⑩は胆管細胞癌であった(Figure 3)。浸潤性乳管癌の1例は左乳房AC領域に見られ,大きさは17 × 14 mmで充実型の像であった(Figure 4)。
症例②:S3に12 × 11 mmの境界明瞭粗ぞうで内部均質な低エコー腫瘤を認める。その他にも数mm大の腫瘤が見られた。(コンベックスプローブ)
症例③:S4に45 × 32 mmの境界明瞭平滑な等エコー腫瘤を認める。後方増強,側方陰影を認める。(コンベックスプローブ)
症例⑥:S6に16 × 6 mmの境界明瞭で内部はやや不均質な高エコー腫瘤を認める。(コンベックスプローブ)
症例⑦:右葉に95 × 98 mmの境界明瞭粗ぞうで内部不均質な高エコー腫瘤を認める。(コンベックスプローブ)
症例⑨:S3に17 × 12 mmの境界明瞭粗ぞうで内部均質な低エコー腫瘤を認める。後方増強を認める。(コンベックスプローブ)
症例⑪:S3に19 × 12 mmの境界明瞭粗ぞうで内部均質な低エコー腫瘤を認める。(コンベックスプローブ)
症例⑭:胆嚢壁はびまん性に肥厚し,肝との境界は不明瞭となっている。胆嚢癌混合型の所見と考えられる。内腔には結石や胆砂と思われる高エコーが見られる。(コンベックスプローブ)
症例⑮(1):肋間走査で下大静脈の描出を行ったところ,矢印部に充実性腫瘤が見られた。(セクタプローブ)
症例⑮(2):リニアプローブでの観察。胆嚢壁はびまん性に肥厚し,肝との境界は比較的保たれている。胆嚢癌浸潤型の所見と考えられる。(リニアプローブ)
症例①⑩ともに,腹腔動脈近傍リンパ節の腫大であった。境界明瞭で楕円形でリンパ節門は見られない。(コンベックスプローブ)
多角形で境界一部不明瞭で,ハローを伴っている。(リニアプローブ)
担当者別報告件数の内訳は,心血管+腹部+体表領域の担当者が14例,心血管領域のみ担当している技師および心血管+腹部(健診)を担当している技師が1例ずつ報告した。また悪性疾患の10例全例は心血管+腹部+体表領域の担当者が報告していた。
依頼診療科別に見ると,心臓血管内科11例,呼吸器内科2例,心臓血管外科1例,消化器外科1例,救急科1例と専門領域外であった。いずれの症例も,TTE施行時点では,心臓以外の胸腹部の検査を行う予定はなかった。
Khosaら1)は後方視的にTTE画像を再評価し心外病変の検出を行い,新規に指摘でき,且つ懸念すべき症例は0.2%で,この患者らの治療方針の変更はなかったと報告した。母数が1,008件と少ないこともあり,悪性疾患は検出できていなかった。また,Alkhouliら2)は41,067例中1,797例で,心外病変を検出した。TTEにおいては胸腹水や血管の病変を除くと58例で全体の0.15%であったと報告した。TTEと経食道心エコー図検査を合わせると,新規発見は肝臓34例,食道裂孔ヘルニア12例,縦隔2例,肺1例で検出率は0.12%であった。新規の肝病変34例のうちフォローアップは12例で行われ,悪性腫瘍は転移性肝腫瘍の1例のみであった。その他,悪性腫瘍は胸腺癌1例,肺癌1例であり新規に発見された悪性腫瘍は検査総数の < 0.01%であった。我々の施設では,心外病変を発見した際の記載基準は特に定めていないが,明らかな良性疾患や臨床上問題とならないような肝嚢胞や胆嚢結石は,心エコー図検査報告書に記載していないことが多い。このため,心外病変の検出率は0.05%で,既報と比較し低率であったと考えられる。しかしながら,悪性疾患の検出率においては0.03%とAlkhouliらの0.005%を上回っていた。
肝臓左葉の心外病変は,心エコー図検査のルーチン走査で画角内に入ってくるため,比較的高率に検出できる領域であると思われる。さらに,心窩部走査で下大静脈が見えにくい症例は,下大静脈の評価を心窩部走査だけでなく肋間走査も用いたことにより,肝臓の右葉や,胆嚢の疾患を拾い上げることができた。また,肝形態の変化や実質の粗雑化が目立つ場合は,追加で肝腫瘍の簡易スクリーニングを行い,検出に至った症例もあった。乳腺腫瘍の1例(症例⑫)は胸骨左縁アプローチで乳房に硬結を触知したため,リニアプローブでの評価を行い指摘に至っている。胆嚢出血・穿孔の症例(症例⑯)では心窩部アプローチを行った際にsonographic Murphy’s signを捉え,その後,コンベックスプローブでの評価を行ったことで診断するに至っている。身体所見を捉え,さらなる評価を進めることで心外病変の検出につながっていた。当検査室の超音波診断装置全てに,コンベックスプローブやリニアプローブを搭載している。このためセクタプローブのまま周波数や画角の変更をする必要性がなく,スムーズに心外病変の評価を行うことができている。
悪性腫瘍は16例中10例で検出でき,エコー施行が有益な症例であったと思われる。全16症例の90%,そして悪性腫瘍の検出に至っては全例で,日本超音波医学会認定の消化器領域や体表領域の超音波検査士を取得し,ルーチンで腹部や体表領域の検査を行っている技師が超音波検査を担当していた。また,検出できた症例数とエコーの経験年数との明らかな相関は見られなかった。この結果から,多領域の知識と経験を有していることが,心外病変を拾い上げる確率を上昇させる要素になると考えられた。
しかし,TTEで指摘できた腫瘤の検出感度は,肝細胞癌で17 mmと通常の腹部エコーで検出できる腫瘍に比べ大きく3),進行したものが多かった。
治療に至った症例は10例中5例で,肝細胞癌の1例は外科的に部分切除を施行し2例は経皮的動脈化学塞栓術やラジオ波焼灼術といった内科的治療が行われた。胆嚢癌原発の転移性リンパ節腫大は外科的手術となった。胆嚢癌の多発転移は化学療法と放射線療法が選択された。胆嚢穿孔を来した胆嚢出血の症例(Figure 5)は,緊急の胆嚢摘出術が行われた。高齢,もしくは終末期であった5例はベストサポーティブケアとなった。転院した2例を除き,悪性疾患で追跡可能であった8例の生存期間中央値は13ヶ月(0.5ヶ月~52ヶ月)で,3例においては2年以上の生存が確認できた。症例の大半は予後不良であったが,治療に繋がり心外病変の指摘が有用であった症例も存在した。
胆嚢は腫大し,内部には血腫と思われる不均質な成分が充満している。(コンベックスプローブ)
いずれも偶発的に発見された症例であり,TTEで心外病変を検出できていなかった場合,悪性疾患症例や急性腹症症例では,さらに病期が進行していたものと推察される。また,悪性疾患や緊急性が高いと判断した症例は,適切な治療につながるように,口頭報告も併せて行っている。以上より,超音波検査の柔軟性を生かしその能力を発揮することで,より良い医療を患者に提供することが可能であると言える。
当院におけるTTEでの新規の心外病変検出率は0.05%であり,悪性疾患の検出率は0.03%であった。
TTEで心外病変を検出できれば,少数ではあるが患者予後に関わる疾患の診断に繋がる。腹部・体表領域の知識を向上させるほか,TTEのルーチンに肋間走査を追加すること,肝形態の変化がある場合は肝腫瘍の簡易スクリーニングを追加することが心外病変の検出率を上げる要素となると思われる。
本研究は,長崎みなとメディカルセンターの倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:NIRB No. R3-012)。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。