Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Article
Study of SARS-CoV-2 quantitative antigen test
Mako HIWATASHIKatsuyuki UMEBASHISyun YAMAGUCHIAyumu YOSHINOIzumi TAKASENahoko NISHIKATA
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2024 Volume 73 Issue 3 Pages 460-466

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Abstract

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症の診断目的として,抗原定量検査はリアルタイムPCR検査(PCR検査)と比較し感度が劣るとされている。今回,抗原定量検査の感度をPCR検査と比較することに加え,判定保留域の設定を評価した。対象は2022年1月から2023年3月の期間において鼻咽頭拭い液でPCR検査が施行された陽性165検体,陰性30検体を用いた。PCR検査と比較した抗原定量検査の感度は79.4%,特異度は100%,陽性的中率は100%,陰性的中率は46.9%であった。PCR検査のCt値と抗原定量検査のcut off index(COI)値には有意な相関を認めた(r = 0.956; p < 0.01)。PCR検査のCt値間隔別に比較した抗原定量検査の感度はCt値30未満で100%,30以上34未満で69.2–94.7%,34以上40未満で0–27.3%であった。判定保留域を0.9–1.0 COI,0.8–1.0 COI,0.7–1.0 COIで設定した際,抗原定量検査の感度は判定保留域なしと比べてCt値32以上38未満で判定保留域の範囲が広がるほど感度の改善は大きく,18.0–50.0% 増加した。したがって,抗原定量検査はPCR検査と比較して感度は大きく劣らず,また感度が劣る低ウイルス量の場合にも判定保留域の設定によって感度を補うことが可能であり,SARS-CoV-2感染症の検査法として有用である。

Translated Abstract

To diagnose coronavirus disease 2019 (COVID-19), quantitative antigen test is said to be less sensitive than PCR. We examined the clinical performance of a quantitative antigen test through sensitivity of the quantitative antigen test in the SARS-CoV-2 and setting of the indeterminant. There were 165 of whom were positive in the real-time PCR (PCR) using nasopharyngeal samples and 30 of whom were negative from January 2022 to March 2023. The quantitative antigen test showed a sensitivity of 79.4%, a specificity of 100%, a positive concordance of 100%, and a negative concordance of 46.9% compared with the PCR. We found a correlation between the Ct value of PCR and the cut off index (COI) value of quantitative antigen test (r = 0.956; p < 0.01). Sensitivity of the quantitative antigen test progressively declined from 100% in Ct <30 to 69.2–94.7% in Ct 32–<34 and then to 0–27.3% in Ct 34–40. When we set the indeterminant line of quantitative antigen test up as 0.9–1.0 COI, 0.8–1.0 COI and 0.7–1.0 COI, sensitivity of the quantitative antigen test has improved as expands the range of the indeterminant compared with no setting of the indeterminant. These results suggest that the SARS-CoV-2 quantitative test is competent enough to diagnose COVID-19, and improved setting of indeterminant makes it possible to be comparable sensitivity compared with PCR.

I  はじめに

2019年12月に中国武漢市で発生したSARS-CoV-2感染症は世界中に広がり,パンデミックとなった1)。その後も感染拡大を引き起こし,未だ終息には至っていないが,本邦ではSARS-CoV-2感染症が2023年5月8日より2類感染症相当から5類感染症へ移行した。5類感染症へ移行することにより感染対策は変化し,SARS-CoV-2感染症の検査体制も変化している2)

現在,SARS-CoV-2感染症の病原体検査にはウイルス遺伝子(核酸)を特異的に増幅し検出する核酸増幅検査とウイルスの抗原をイムノクロマトグラフィー法により検出する抗原定性検査,同じくウイルスの抗原を化学発光酵素免疫測定法により定量的に検出する抗原定量検査がある3)。核酸増幅検査の1つであるリアルタイムPCR検査(以下,PCR検査)は感度,特異度ともに高く,SARS-CoV-2感染症の病原体検査のゴールドスタンダードとして広く実施されているが,検査時間が長く,専用の機器や熟練した知識,技術が必要である4)。一方,抗原定量検査はPCR検査と比較し感度は劣るが,検査時間が短く,比較的簡便であり,自動分析装置により測定を行うため大量検体の処理が可能である3)

抗原定量検査は抗原抗体反応を用いた免疫学的測定法を測定原理としていることから,SARS-CoV-2抗原の類似物質や夾雑物などと試薬中の抗体が反応する非特異的反応を引き起こすことにより偽陽性を生じる場合がある5)。また,抗原定量検査はPCR検査と比較し感度が劣ることから,偽陽性だけではなく,一定数の偽陰性も存在することが報告されている6)。これらのことから,抗原定量検査の試薬の中にはカットオフ値の他に判定保留域を設けている検査試薬がある。また,判定保留域を設けていない試薬においては,抗原定量検査を導入するにあたり自施設で判定保留域を設定している施設もある。

今回,我々はSARS-CoV-2感染症の診断における抗原定量検査の臨床的有用性を検討する目的で抗原定量検査をPCR検査と比較し感度を確認することに加え,判定保留域の設定を評価した。

II  対象と方法

1. 対象

2022年1月から2023年3月の期間に,鹿児島医療センターにおいてSARS-CoV-2感染症疑いにて鼻咽頭拭い液でPCR検査が施行され陽性であった165検体,陰性であった30検体を対象とした。

2. 方法

PCR検査は,測定機器としてThermal Cycler Dice Real Time System III TP990(タカラバイオ株式会社),測定試薬としてTakara SARS-CoV-2ダイレクトPCR検出キット(タカラバイオ株式会社)を用いて行い,内在性コントロール(ヒトRNaseP遺伝子)とSARS-CoV-2(N遺伝子)のCt値が共に40以下の場合を陽性とした。

抗原定量検査はPCR検査の既存検体195例を用い,測定機器としてcobas e411(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社),測定試薬としてエクルーシス試薬SARS-CoV-2 Ag(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用い,添付文書に従い実施した。検体は希釈せずに測定し,COI 1.0未満を陰性,1.0以上を陽性とした。

3. 統計解析

抗原定量検査のCOI値とPCR検査のCt値間の相関係数(r)はピアソンの相関係数を用いて算出した。統計解析には統計解析ソフトSPSS Statistics Version 21(IBM)を用いて行った。P < 0.05を統計学的有意差ありとした。

III  結果

1. PCR検査と比較した抗原定量検査の感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率

PCR検査と比較した抗原定量検査の感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率を確認した(Table 1)。抗原定量検査の感度は79.4%(131/165例),特異度は100%(30/30例),陽性的中率は100%(131/131例),陰性的中率は46.9%(30/64例)であった。

Table 1 Comparison of SARS-CoV-2 quantitative antigen test to real-time PCR

real-time PCR
positive negative
quantitative antigen test positive 131 0
negative 34 30

Sensitivity: 79.4% (131/165)

Specificity: 100% (30/30)

Positive concordance rate: 100% (131/131)

Negative concordance rate: 46.9% (30/64)

2. PCR検査のCt値と抗原定量検査のCOI値との関連

PCR検査が陽性であった165検体において,PCR検査のCt値と抗原定量検査のCOI値の関連を検討した(Figure 1)。PCR検査のCt値と抗原定量検査のCOI値には,有意な相関を認めた(r = 0.956; p < 0.01)。

Figure 1  Correlation between COI value of SARS-CoV-2 quantitative antigen test and Ct value of real-time PCR decision line: 1.0 COI (blue line)

3. PCR検査Ct値間隔別に比較した抗原定量検査の感度

PCR検査が陽性であった165検体において,PCR検査のCt値間隔別に比較した抗原定量検査の感度を確認した(Figure 2)。抗原定量検査の感度はCt値30未満で100%(100/100例),30以上32未満で94.7%(18/19例),32以上34未満で69.2%(9/13例),34以上36未満で27.3%(3/11例),36以上38未満で0%(0/12例),38以上40以下で10.0%(1/10例)であった。また,PCR検査陽性165検体中抗原定量検査陰性は34検体あり,抗原定量検査のCOI値は0.559–0.969であった(Table 2)。

Figure 2  Sensitivity of SARS-CoV-2 quantitative antigen test on the based of Ct value ranges
Table 2 Detailed data of SARS-CoV-2 positive case by real-time PCR and negative case by quantitative antigen test

Sample No. COI of antigen test Sample No. COI of antigen test
1 0.720 18 0.677
2 0.682 19 0.621
3 0.752 20 0.601
4 0.955 21 0.564
5 0.945 22 0.735
6 0.685 23 0.753
7 0.969 24 0.700
8 0.857 25 0.625
9 0.760 26 0.636
10 0.617 27 0.673
11 0.581 28 0.774
12 0.636 29 0.964
13 0.632 30 0.564
14 0.590 31 0.636
15 0.626 32 0.559
16 0.637 33 0.606
17 0.657 34 0.941

4. 抗原定量検査における判定保留域の検討

抗原定量検査における判定保留域の検討において,PCR検査が陽性であった165検体を用いて,判定保留域を0.9–1.0 COI,0.8–1.0 COI,0.7–1.0 COIの3つの範囲で設定し,PCR検査のCt値間隔別に抗原定量検査の感度を確認した(Figure 3)。判定保留域0.9–1.0 COI,0.8–1.0 COI,0.7–1.0 COIのCt値間隔別における抗原定量検査の感度はCt値30未満で100%,100%,100%,Ct値30以上32未満で94.7%,94.7%,100%,Ct値32以上34未満で69.2%,69.2%,84.6%,Ct値34以上36未満で45.5%,45.5%,63.6%,Ct値36以上38未満で25.0%,33.3%,50.0%,38以上40以下で10.0%,10.0%,10.0%であった。判定保留域の設定により,判定保留域なしと比較してCt値34以上38未満で判定保留域の範囲が大きくなるほど感度の改善は大きかった。また,PCR検査陰性かつ抗原定量検査陰性であった30検体のCOI値は全て0.7未満であり(Table 3),判定保留域を0.7–1.0 COIに設定した際,抗原定量検査は全て陰性であった。

Figure 3  Comparison of sensitivity by SARS-CoV-2 quantitative antigen test COI on the based of real-time PCR Ct value ranges
Table 3 Detailed data of SARS-CoV-2 negative case by real-time PCR and negative case by quantitative antigen test

Sample No. COI of antigen test Sample No. COI of antigen test
1 0.645 16 0.587
2 0.537 17 0.601
3 0.524 18 0.514
4 0.543 19 0.534
5 0.533 20 0.509
6 0.550 21 0.587
7 0.568 22 0.510
8 0.523 23 0.500
9 0.535 24 0.516
10 0.569 25 0.539
11 0.545 26 0.515
12 0.518 27 0.520
13 0.528 28 0.524
14 0.510 29 0.524
15 0.511 30 0.514

IV  考察

SARS-CoV-2感染症の5類感染症への移行によって,社会的感染対策は緩和されたが,医療機関における感染対策は緩和によって院内クラスターが生じ,一般診療に大きな影響が出るため変更はないとしている2)。社会的感染対策と院内感染対策に差が生じる中,院内感染対策を行う上でSARS-CoV-2検査の偽陰性による院内への持ち込みは院内での感染拡大に繋がり,クラスター発生の起因となる。今回,我々はSARS-CoV-2感染症の診断における抗原定量検査の臨床的有用性を検討する目的で抗原定量検査をPCR検査と比較し感度を確認することに加え,判定保留域の設定を評価した。

抗原定量検査は比較的簡便で迅速かつ大量検体を処理可能であるが,PCR検査と比較し感度が劣るとされている3)。本検討においてPCR検査と比較した際の抗原定量検査の感度は79.4%であり,以前報告された抗原定量検査の感度70.0–85.7%7)~9)とほぼ同様な結果であった。また,我々はCt値間隔別に抗原定量検査の感度を確認し,その結果,Ct値が高くなるに従い感度が大きく低下し,特にCt値34以上36未満では27.3%であり,32以上34未満の69.2%から大きく低下した。大出ら10)はSARS-CoV-2感染症においてPCR検査と抗原定量検査の結果が乖離する要因はウイルス量であると報告している。我々と同様にCt値間隔別における抗原定量検査の感度を示した報告ではCt値25未満で94.3%,25以上29以下で70.8%,30以上35以下では47.2%としている8)。また,Hirotsuら9)はウイルス量間隔別におけるPCR検査と比較した抗原定量検査の感度を報告しており,5 log10 copies/test以上で100%,4–5 log10 copies/testで99%,3–4 log10 copies/testで97%,2–3 log10 copies/testで81%,1–2 log10 copies/testで41%,1 log10 copies/test未満で10%とし,ウイルス量の低下に伴い,抗原定量検査の感度は大きく低下していた。抗原定量検査はCt値30未満でPCR検査と同等に検出でき,Ct値30以上34未満においても感度は大きく劣っていなかった。しかし,Ct値30以上となる症例ではPCR検査の結果と乖離が生じ,抗原定量検査において偽陰性となる可能性を考慮する必要があると考える。

抗原定量検査を導入するにあたり自施設で判定保留域を設定している施設の多くは偽陽性を防ぐため,カットオフ値より高い値で判定保留域の検討を行っている11)。一方で,ウイルス量が低い感染初期や無症状者を含めた感染症の広がりを確認する目的では,判定保留域をカットオフ値より低い値で検討した方が良いとの議論がある12)。今回,我々の検討ではカットオフ値1.0 COIにおいてPCR検査と比較した抗原定量検査の特異度は100%であり,偽陽性の症例は認めなかった。このことから,判定保留域をカットオフ値1.0 COIよりも低い値で検討し,PCR検査と比較した感度を確認した。その結果,判定保留域の設定により判定保留域なしと比較し,Ct値34以上36未満において0.9–1.0 COI,0.8–1.0 COIで18.2%の増加,0.7–1.0 COIで36.3%の増加であり,Ct値36以上38未満において0.9–1.0 COIで25.0%の増加,0.8–1.0 COIで33.3%の増加,0.7–1.0 COIで50.0%の増加となった。判定保留域の範囲が広がるほど判定保留域なしと比べて感度は高くなることから,我々の検討で感度が劣っていたCt値32以上38未満において抗原定量検査のカットオフ値以下の対象が判定保留域によって補われていることが示された。また,今回PCR検査陰性検体のCOI値は全て0.7以下であり,0.7–1.0 COIを判定保留域に設定した際に偽陽性の症例は認めなかった。偽陽性を認めず,感度を補えることはメリットが大きく,カットオフ値である1.0 COIより低い値で判定保留域を設定することの意義がみられた。感染早期の低ウイルス量の場合においても抗原定量検査は判定保留域の設定により検出が可能となり,偽陰性の発生を妨げ,感染拡大防止につながると考える。

今回の検討期間を踏まえると,SARS-CoV-2はデルタ株やオミクロン株などの多くの変異株を検出していると考えられる。以前の報告では,検査試薬によってデルタ株やオミクロン株などの変異株における抗原定量検査の検出感度は異なり,また変異株による検出感度も異なるが,それぞれは従来株と同等の感度で検出されている13)。今回,我々はゲノム解析まで行えていないが,PCR検査と比較した抗原定量検査の感度はCt値30未満で100%と高く,オミクロン株やデルタ株などの変異株による抗原定量検査の感度への影響は少ないと推測する。しかし,抗原定量検査の感度と変異株の関係性における報告は少なく,今後の課題であると考える。

入院時のスクリーニング検査や院内感染発生時のスクリーニング検査は院内へのSARS-CoV-2の持ち込みや感染拡大を防ぐために行われる。感染後できるだけ早い段階でSARS-CoV-2感染症を診断することは,感染拡大防止において大変重要である。抗原定量検査はPCR検査と比較して感度は大きく劣っておらず,また低ウイルス量によるPCR検査と比較して感度が劣る部分は判定保留域の設定によって補うことが可能である。以上のことから,迅速かつ比較的簡便で大量検体を測定可能である抗原定量検査は判定保留域を用いることで感染早期の診断に加え,検査数の多い入院時のスクリーニング検査や院内感染発生時のスクリーニング検査に適しており,今後のSARS-CoV-2感染症の検査法として有用であると考える。

V  結語

SARS-CoV-2抗原定量検査はPCR検査と比較して感度は大きく劣っておらず,また低ウイルス量によるPCR検査と比較して感度が劣る部分は判定保留域の設定によって補うことが可能である。さらに抗原定量検査は迅速かつ比較的簡便で大量検体を測定可能なことから,今後のSARS-CoV-2感染症の検査法として有用である。

なお,本研究は国立病院機構鹿児島医療センター倫理委員会の承認(管理番号:2022-5)を得て実施した。

また,本論文の要旨は2023年度日臨技九州支部医学検査学会(第57回)において発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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