Japanese Journal of Medical Technology
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Challenges created by the diversity of students in clinical practice for medical technology education and dealing with such challenges: Use of training seminars for clinical practice supervisors
Kaoru SHIMADATamami MATUMOTOMakiko SUZUKIMasumi AOYAGIHideo SAKAMOTOShoko MIYAHARAKeiji FUKASAWA
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2024 Volume 73 Issue 3 Pages 539-548

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Abstract

日本の高等教育機関における医療系専門職養成課程では,卒前教育で最も重要なカリキュラムの一つに臨地実習がある。障害のある学生の他,LGBTQ等の性的少数者や留学生等々,多様化する学生(以下,多様な学生)が臨地実習に臨むにあたっては,学生自身,養成施設,実習施設の三者それぞれに,立場と責任,そして課題がある。併せて,この三者間で多様な学生の実習について,検討・試行する機会ともなる。これらの状況の中,養成施設と実習施設間では,多様な学生の理解に加え,学生の支援ニーズ等に基づく情報共有や環境調整等に関して,緊密な連携が求められる。今回,連携に関する事例として,日本臨床衛生検査技師会と日本臨床検査学教育協議会が共同運営する,臨床検査技師を対象とした臨地実習指導者講習会(以下,本講習会)を紹介する。さらに,本講習会プログラム中,「多様な学生の理解」に関連したグループワーク受講者へ,演習内容改善のために実施したアンケート結果を報告する。その結果,受講者は,障害とは何かを学ぶと共に,多様な学生の対応と配慮の必要性を理解し,多様な学生をどう受け入れ,どのように関わっていくかを考える機会となったことや,現実的な対応に苦慮している状況が明らかとなった。今後さらに養成施設と実習施設間の連携を深める上で,本講習会の活用に意義があると思われるので報告する。

Translated Abstract

In medical training curriculums at Japanese institutions of higher learning, diverse students (“students”) participate in “clinical practice,” which is the most important curriculum in their schooling. In clinical practice, students, educational institutions, and practical training facilities have their own positions, responsibilities, and challenges. Clinical practice is discussed and implemented among these three parties. Educational institutions and practical training facilities must closely collaborate with each other to enhance the students’ understanding, share information on students’ needs, and create an appropriate learning environment. As an example of cooperation, we introduce a training seminar for medical technologists who serve as clinical supervisors. The seminar is jointly sponsored by the Japanese Association of Medical Technologists and Japanese Association of Medical Technology Education. We also discuss the results of a questionnaire survey administered to those who participated in the group-work “understanding diverse students,” which was part of the seminar. The results indicated that the participants learned the meaning of disabilities, understood the need to accommodate and care for students, and considered how to accept and relate to diverse students. The participants were also struggling to cope with practical situations. Through this article, the author points out the significance of training seminars as a means of strengthening the cooperation between educational institutions and practical training facilities as students become increasingly diversified.

I  はじめに

本邦の大学,短期大学および高等専門学校(以下,高等教育機関)における医療系専門職養成課程では,卒前教育で最も重要なカリキュラムの一つとして臨地実習がある。障害のある状態にされている学生(以下,障害のある学生)の他,LGBTQ等の性的少数者や留学生等々,多様化する学生(以下,多様な学生)が臨地実習に臨むにあたっては,学生自身,養成施設,実習施設の三者それぞれに,立場と責任,そして課題がある。併せて,この三者間で多様な学生の実習について,検討・試行する機会ともなる。これらの状況の中,養成施設と実習施設間では,多様な学生の理解に加え,学生の支援ニーズ等に基づく情報共有や環境調整等に関して,緊密な連携が求められる。

本稿では,多様な学生の支援ニーズのうち障害のある学生に焦点を当て,本邦の高等教育機関での修学状況を確認した後,臨地実習における養成施設と実習施設間の連携に関する事例として,日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技)と日本臨床検査学教育協議会(以下,日臨教)が共同運営する,厚生労働省の開催指針に従った臨床検査技師臨地実習指導者講習会(以下,本講習会)を紹介する。さらに本講習会プログラム中,「多様な学生の理解」に関連したグループワークによる演習講義(以下,演習3)の受講者を対象として,演習内容改善のために実施したアンケート結果を報告し,臨床検査学教育における多様な学生をめぐる臨地実習の課題と対応のために本講習会の活用を探る。

なお,「障害」の表記については,「障害」の他,「障碍」「障がい」「しょうがい」等の様々な見解があるが,本稿での「障害」は機能制限に原因があるのではなく,社会的障壁にあるとの考えを示す「障害の社会モデル」に基づき,固有名詞を除いて「障害」を使用する。

II  高等教育機関における障害のある学生の修学状況

本邦の高等教育機関での障害のある学生の修学状況は,日本学生支援機構(以下,JASSO)が2005年度より,毎年全国の高等教育機関を対象として実施する悉皆調査1)で確認できる。この調査によれば,2022年5月1日時点の対象校数1,174校における障害学生数は,49,672人で,障害学生在籍率1.53%,障害学生支援率54.6%を示し(Figure 1),いずれも前年度より増加している。

Figure 1  障害学生支援率と医学・歯学を除く保健系学科(専攻)支援学生の障害種別

一方,大学における学科(専攻)別の集計結果で,医学・歯学を除く保健系学科(専攻)の障害学生4,360人のうち支援を受けている学生は1,865人で,障害学生支援率は42.8%を示した。なお,保健系学科(専攻)で支援を受けている学生の障害種別は多かった順に,精神障害700人,次いで病弱・虚弱451人,続いて発達障害243人であった(Figure 1)。これらの結果から,保健系学科(専攻)でも様々な障害のある学生が,支援を受けながら修学している状況が明らかとなった。

III  臨床検査技師 臨地実習指導者講習会

1. 本講習会概要

臨地(床)実習指導者講習会は,医師をはじめとした医療職養成において義務化され,各医療職の質の向上および臨地(床)実習を行う施設での適切な指導体制の確保に資することを目的として,実施されている。その中で本講習会の受講対象者は,臨床検査技師として5年以上の実務経験を有し十分な指導能力を有する者であり,厚生労働省の開催指針2)に示された全プログラム(16時間以上)は,今回Web研修システムを用いた座学講習510分とグループワーク(以下,GW)による演習講義460分の2部構成として実施される(Table 12)。

Table 1 Web研修システムを用いた座学プログラム

講義分類 開催指針
テーマ番号
講習
(Web研修システムを用いた座学)
学習目標 時間
導入 新たな指定規則と指導ガイドラインについて 新たに設けられた指定規則と指導ガイドラインについての全体像を学び臨地実習指導者としての正しい理解につなげる。 30分
臨床検査技師養成施設における臨地実習の理念と概念 臨地実習指導者講習会開催の背景ならびに目的を理解する。指定規則を踏まえて臨床検査技師養成教育における臨地実習の理念と概念を理解し,卒前教育から取り組む意義並びに目標について理解する。 45分
展開1
教育内容
臨地実習において学生に実施させる行為について 臨地実習中に学生に実施させる行為について具体的な講義として学ぶ。(「必ず実施させる行為」,「必ず見学させる行為」および「実施させることが望ましい行為」について学び,その確認法の遵守について徹底する) 45分
医療人に必要なマナーとその指導法について(適切なSNSの使い方など含む) 医療人として必要なマナーを学ぶとともに昨今の適切なSNSの使い方などを理解する。 45分
臨床検査部門における医療安全の確保について 臨床検査部門における医療安全の確保について理解する。 45分
チーム医療における臨床検査技師の役割 医療チームの一員としての臨床検査技師の役割について理解する。 45分
展開2
教育対象
青年期の心理的な特性を踏まえた臨地実習指導について 臨地実習を受ける学生の心理的な特性を踏まえた臨地実習指導法について理解する。 45分
多様な学生の理解とその修学支援
~合理的配慮の提供~
高等教育機関における障害学生の現状とその理解,合理的配慮に基づく障害学生支援を理解する。 45分
展開3
教育方法
臨地実習評価法
(含む臨地実習前の到達度評価)
臨地実習に臨む前の養成施設における評価について理解する。 45分
臨地実習の到達目標と修了基準 依頼する側(養成施設)と依頼される側(実習先)の臨地実習依頼時のカリキュラム作成のためのガイドラインについて学ぶ。 30分
教育指導技法(教育学概論を含む) 目標・評価・方法の整合性のとれた教育プログラムの作成方法と理論,学習効果を高める教育的な関わり方について学ぶ。実務者が教育を担うことの意義と責任について理解する。 45分
まとめ 臨地実習指導者研修のこれからの取り組みについて 臨地実習指導者研修のこれからの取り組みについて理解する。 45分
合計510分
Table 2 グループワークによる演習講義プログラム(Withコロナ企画:Zoomによる講習)

演習(Zoomを利用)
各グループ5~6人でそれぞれグループ討議する。その後,発表。受講には座学講義の受講済みが必須
学習目標 時間
配分
担当
【開催説明】 演習講義について進め方を説明 10分 日臨技
【演習1】 臨地実習施設における臨地実習プログラムの立案 2021臨地実習ガイドラインに沿って,臨地実習全体のプログラムと検体系(染色体・遺伝子検査,精度管理含む),生理学的検査系(在宅医療含む)のいずれかについて,実習プログラムを含めて作成し発表,共有する。作成プログラムは成果物として提出する。(休憩10分含む) 180分 日臨教
【演習2】 臨地実習プログラム立案の評価 臨地実習指導者および臨地実習プログラムの評価を行うことについて,どのように考えるか,また臨地実習プログラムを評価する場合に考えられる評価項目や評価方法について検討を行う。 90分 日臨教
【演習3】 臨地実習指導者の在り方(ハラスメント防止を含む) ―グループ討議― 臨地実習における対象者の権利保障・安全性の管理,個人情報保護,さらに学生に対するハラスメントについて理解し,臨地実習指導者としてのあり方を理解する。討議資料は成果物として提出する。 90分 日臨教
【演習4】 その他臨地実習に必要な事項 ここまでの学習内容を踏まえて,卒前と卒後の架け橋となる臨地実習の在り方や,指導者自身の学びと成長について語り合い,自身にとっての理想の指導者像を見出す。(確認テスト含む) 90分 日臨教
合計460分

1) Web研修システムを用いた座学講習

日臨技のホームページ上でWeb研修システムを用いた座学講習は,厚生労働省の開催指針のテーマ2)に準じて5つに分類され,策定された講義テーマの学習目標に準じた,事前収録による12講習で実施される。受講者は,この12講習を各自の自宅や職場等自由な形で視聴し,視聴後に講習ごとの確認テストに合格することで,次の研修となるGWによる演習講義に臨むことができる。

座学における「多様な学生の理解」に関連する講習は,開催指針テーマ④「臨地実習指導者の在り方」部分に,「青年期の心理的特徴を踏まえた臨地実習指導について」と「多様な学生の理解とその修学支援~合理的配慮の提供~」の2講習が設定されている。

2) GWによる演習講義

GWによる演習講義は,本来対面で実施することになっているが,2021年10月実施時からコロナ禍企画として,Zoomを用いて実施されている(本稿執筆時点においても)。演習のGWは,ブレイクアウトルーム機能を使用し,受講者を1班6人程度に編成した班で行われる。各班には,世話人として日臨技会員または日臨教の教員が1人配置され,受講者に発言を促しながら話の流れをまとめ,話し合いの合意を確認しつつ,定められたゴールに導くサポートを実施する。

演習3はTable 3に示すように,90分間の枠組みの中で2課題のGWと,講師による各課題の解説や演習3全体のまとめとして座学講習の学びを深め,合理的配慮の提供に関するポイント整理等も実施される。

Table 3 グループワークによる演習3スケジュール

予定時間 内容
14:50–16:20 9分 演習3全体の概要説明(導入講義を含む)
28分 GW1の概要説明,GW(15分;社会的障壁への合理的配慮),解説
28分 GW2の概要説明,GW(25分;特性のある学生への合理的配慮)
19分 GW2の全体討議(代表班による発表),解説
6分 演習3全体(合理的配慮の提供ポイント含む)のまとめ

なお,本講習会の受講修了者は,2023年10月29日時点で1,410人である。

2. アンケート調査

1) 対象者および実施方法

アンケート対象者は,2022年10月30日~2023年10月29日の間に開催された演習講義を受講した合計653人である。アンケート実施時期は,各自が受講した演習の全日程終了後から1週間程度とした。

質問は,Googleが無料で提供しているGoogle Formsを用いて作成し,質問項目はTable 4に示す合計14項目の他,受講の感想等を記入する自由記述欄を設定した。

Table 4 アンケート質問内容,回答選択肢および結果

質問番号 質問内容 回答選択肢 結果
人数
(人)
回答率
(%)
質問1 演習3受講前に,関連する講習会テキスト部分を再度,十分に読んで臨んだ そう思う 83 17.3
ややそう思う 216 44.9
どちらともいえない 120 24.9
あまり思わない 50 10.4
思わない 12 2.5
質問2 演習3開始時に講師が行った「演習3の概要」を聞いて,演習の進め方を理解できた そう思う 203 42.2
ややそう思う 247 51.4
どちらともいえない 25 5.2
あまり思わない 6 1.2
思わない 0 0.0
質問3 グループワークのブレイクアウトルームにおける討議設定時間について
1 GW1「合理的配慮の提供」(約15分) 適切だった 379 78.8
時間が足りなかった 91 18.9
長すぎた 11 2.3
2 GW2「仮想事例の検討」(約25分) 適切だった 286 59.5
時間が足りなかった 187 38.9
長すぎた 8 1.7
質問4 講師によるグループワーク後の解説・まとめの時間について
1 GW1「合理的配慮の提供」 適切だった 450 93.6
時間が足りなかった 22 4.6
長すぎた 9 1.9
2 GW2「仮想事例の検討」 適切だった 439 91.3
時間が足りなかった 31 6.4
長すぎた 11 2.3
3 演習3全体のまとめ 適切だった 431 89.6
時間が足りなかった 29 6.0
長すぎた 21 4.4
質問5 演習3全体を振り返って
1 合理的配慮の提供について理解できた そう思う 244 50.7
ややそう思う 220 45.7
どちらでもない 15 3.1
やや思わない 2 0.4
思わない 0 0.0
2 多様な学生への理解が深まった そう思う 278 57.8
ややそう思う 189 39.3
どちらでもない 11 2.3
やや思わない 3 0.6
思わない 0 0.0
3 学生の実習にあたって,養成校との連携が重要であると理解できた そう思う 380 79.0
ややそう思う 99 20.6
どちらでもない 1 0.2
やや思わない 1 0.2
思わない 0 0.0
4 今後,インクルーシブな職場環境の整備が必要である そう思う 275 57.2
ややそう思う 190 39.5
どちらでもない 15 3.1
やや思わない 1 0.2
思わない 0 0.0
5 ファシリテーターは演習中に受講生の疑問・質問に答える配慮をしていた そう思う 325 67.6
ややそう思う 141 29.3
どちらでもない 13 2.7
やや思わない 2 0.4
思わない 0 0.0
6 講師は演習中に受講生の疑問・質問に答える配慮をしていた そう思う 315 65.5
ややそう思う 140 29.1
どちらでもない 24 5.0
やや思わない 2 0.4
思わない 0 0.0
7 総合的に考えて,演習3は満足できるものであった そう思う 326 67.8
ややそう思う 140 29.1
どちらでもない 12 2.5
やや思わない 3 0.6
思わない 0 0.0

質問項目への回答形式は択一式とし,回答方法は,Google Formsのアンケート機能を利用したインターネットリサーチとした。すなわち,受講者はアンケートに回答する際,提示されたURLに各自のパソコンやスマートフォン等のデバイスからアクセス後,無記名自記式で各質問に入力した。

2) 結果集計および分析方法

Google Formsの自動集計機能を用いて集計した。その後,Microsoft社の表計算ソフトExcelを用いて分析を行った。結果は,回答の選択肢ごとの回答者数と回答率(%)をTable 4に示す。なお,自由記述された文章中の単語同士の繋がりを分析する共起分析には,インターネット環境で無料提供されている“User Local AIテキストマイニング”(https://textmining.userlocal.jp/)を用いた。

3) 倫理的配慮

アンケート実施において,演習講義すべてが終了した時点で,講師が講義内容改善の基礎資料とする旨や個人が特定されないことを説明し,協力の依頼を行った。その後,受講者へURLが提示され,回答をもって同意とした。

4) アンケート集計結果およびその考察

演習講義開催日毎のアンケート回答率は,最高85.7%,最低58.3%であり,全体で73.7%(481人/653人)であった(Table 5)。アンケートは,入力操作を伴うインターネット回答であることや,長時間に及ぶ演習後の入力となる負担等を考えた場合,回答率の低さが懸念された。しかし,全体で70%を超える回答率を得ることができた。

Table 5 アンケート回答率

講習会開催日 開催支部 受講者実数1)(人) 回答者数(人) 回答率(%)
2022年10月30日 関甲信 42 33 78.6
2022年11月  3日 首都圏 36 21 58.3
2022年12月11日 関甲信 36 28 77.8
2023年  1月15日 北日本 28 24 85.7
2023年  2月12日 近畿 46 36 78.3
2023年  2月19日 中部 53 34 64.2
2023年  2月26日 中四国 59 49 83.1
2023年  4月23日 北日本 58 45 77.6
2023年  5月14日 首都圏 57 46 80.7
2023年  6月  4日 中四国 59 40 67.8
2023年  8月27日 九州 60 36 60.0
2023年  9月10日 近畿 59 46 78.0
2023年10月29日 中部 60 43 71.7
合計 653 481 73.7

1)受講者は開催支部内の臨床検査技師とは限らない

質問への回答結果はTable 4に示した。質問1“演習受講前に講習会テキストを再度,十分に読んで臨んだ”において,回答の高い割合から順に「ややそう思う」44.9%,次いで「どちらともいえない」24.9%,続いて「そう思う」17.3%であった。「そう思う」「ややそう思う」を合わせると60%を超え,多忙な業務の中でも演習講義に臨む受講者の意識の高さが窺えた。

質問2“演習3の概要説明で演習の進め方を理解できた”の最も高い割合は,「ややそう思う」51.4%,次いで「そう思う」42.2%を示し,90%以上の受講者が演習の進め方を理解した後,実際のGWに臨んでいたことが分かった。

質問3“GWのブレイクアウトルームにおける討議設定時間について”は,GW1の設定時間を「適切だった」とした割合が最も高く78.8%であった。一方,GW2では「適切だった」とする割合は,59.5%を示したが,同時に「時間が足りなかった」が38.9%とGW1よりも高値を示した。GW2は仮想事例を提示して実習生への対応を検討するGWで,開始前に講師が提供するワークシートを参考として討議を進めて良い旨を説明した。しかし,筆者らがGWを見学した際,受講者は,事例で示されたような行動をとる実習生の受け入れ経験が少なく,特性そのものが気になっている様子が見受けられた。そのためか,ワークシートに示された対応方法等への討議にとりかかるまでに時間を要し,設定された25分を「足りなかった」と回答したのではないかと推察した。

質問4“講師によるGW後の解説・まとめの時間について”は,GW1,GW2共に「適切だった」が90%を超え,全体のまとめにおいても「適切だった」89.6%を示した。また質問5“演習3全体を振り返って”の各質問すべてにおいても,「そう思う」「ややそう思う」の回答が90%を超えた。

アンケート入力の最後である自由記述,“演習3に関して,受講者として感じたことや思ったことをどのようなことでもお書きください”の記入率は,69.6%(335人/481人)であった。記述内容としては,「多様な学生への理解や対応の重要性を感じ,学校との連携が重要だと思いました」「学生の多様性にどう配慮していくか,難しい問題でした」「今まで学習してこなかった領域でありこれからも学び続けなければならないと感じた」等々,多様な学生への理解や合理的配慮に関する感想が最も多かった(314人/335人)。その他,「学生だけではなく現就職者にも活かせるのでもっと時間をかけて学びたい」「演習3の時間を長くして欲しい」「合理的配慮の具体的な事例がもっと聞きたい」「カタカナ語が多く頭にイメージしにくかった。あまりなじみがない分野なのでかみ砕いていただけると理解がスムーズになる」等の要望や改善を求める意見(19人/335人)も挙げられた。

そこで,自由記述文中に出現した単語の共起(一文中同時出現する単語の組合せ)分析を行ったところ,Figure 2に示す通りの結果となった。出現の多かった名詞は「学生」「対応」「必要」「理解」,動詞は「感じる」「思う」,形容詞では「難しい」であった。特に,ネガティブな形容詞である「難しい」と繋がりが強く認めた動詞は「感じる」であり,加えて名詞の「対応」や「問題」との繋がりも確認された。また「配慮」「必要」「理解」「できる」等,多様な学生への対応を検討する意図の他,養成施設や検査室内における「連携」「重要」性を示す繋がりも見え,多様な学生の理解に努めようとする姿勢が推察された。

Figure 2  自由記述文中に出現した単語の共起分析結果

文字の色:名詞=青色,動詞=うす橙色,形容詞=黄緑色

〇印の大きさ:大=出現多い,小=出現少ない

黒線:単語の出現パターンが似ているもので,太線であるほど共起の程度大

IV  総合考察

JASSOの実態調査による障害のある学生の在籍率および障害学生支援率は,共に今後も減ることはなく増加していくだろうと推測される。その理由として,初等・中等教育段階における支援がさらに拡充されることに加えて,改正『障害者差別解消法』の施行(2024年4月1日)による,民間事業者(私立大学等)での障害のある人(学生)への合理的配慮の提供が,それまでの努力義務から義務化され,大学等における支援体制がより一層拡充されること等が挙げられる。

この状況の中,高等教育に関する障害者施策動向において文部科学省は,2012年に有識者による障害のある学生の修学支援に関する検討会を開催し,その結果を「障がいのある学生の修学支援に関する検討会(第一次まとめ)」(以下,「第一次まとめ」),2017年に「障害のある学生の修学支援に関する検討会(第二次まとめ)」(以下,「第二次まとめ」)として報告した。「第二次まとめ」3)では,“学外実習や留学,海外研修等,学外の複数の機関が関与する場合には,受け入れ機関においても一定の支援が必要となる”と示され,“学外実習においても受入れ機関の利用者の権利・利益を損なわないように留意しつつ,実習等の目的・内容・機能の本質を満たす支援(合理的配慮)の在り方を検討するため,大学等はこれらの機関と密接に情報交換を行うことが重要である”と明記された。

他方,臨床検査技師養成課程では,『臨床検査技師学校養成所指定規則』の法改正ならびに『臨床検査技師養成所指導ガイドライン』の改正がなされ,臨地実習の充実が図られた。改正ガイドライン4)では,養成施設側の「臨地実習調整者」配置と,学生が臨地実習を履修できる実習施設側に「臨地実習指導者」の在籍が必須となった。この改正部分は,「第二次まとめ」に示された,“大学等の養成施設と実習施設が密接に情報交換を行うことが重要である”が,具現化されているとも捉えることができる。

さらに東京大学は,2017年から取り組んでいるプロジェクト「障害と高等教育に関するプラットフォーム事業」のテーマ別検討部会(SIG)で,高等教育機関における障害学生への適切な支援や支援体制備のための質の指標(以下,QI)となるスタンダード策定を行っている。そのSIGの一つであるSIG-TSが示すQI集の学外実習項目5)で,これができないならば不適格という考え方ではなく,どのような配慮が障害特性に対する合理的配慮となるかを検討する考え方について,学外実習機関と共通認識を持つことが必要である。また実習施設においても「差別的取り扱いの禁止」「合理的配慮の提供」が必要であり,支援者は受け入れ先を対象とした研修会を開催する等,理解・啓発に努めることを提示した。

このように,臨地実習での養成施設と実習施設間における連携の重要性が求められる中,本講習会の特徴は,Web研修や演習講義の講師,そして演習時の世話人を両団体の会員がすべて担当していることである。この体制により受講生は,GW時に受講者同士のみならず,養成施設の教員とも気軽に意見交換を行うことができる。そのため,Web研修や演習講義だけでは理解しづらい,多様な学生の理解とその合理的配慮の提供の他,関係者間の情報交換や連携の必要性を肌で感じる場となっている。

つまり,本講習会が,養成施設と実習施設間での多様な学生の理解・啓発の他,学生の支援ニーズ等に基づく情報共有や環境調整に関して,学生を共に育てていく協同体として連携を深める役割を果たしていると言える。合わせて,相互の協力体制をもってその道をさらに開拓することは,卒前教育を終えて,成長した多様な学生を同じ職場の一員として温かく迎えることができるインクルーシブな職場作りにも繋がり,臨床検査技師の未来を築くことになると考える。

さて本稿の最後に,演習3において受講者が理解に戸惑う姿勢が見られた,合理的配慮の概念とその提供のポイントについて少し触れておきたい。

「合理的配慮」という言葉は,日本独自のものではなく,『障害者の権利に関する条約』(以下,『権利条約』)の条文中に定義されている言葉であり,原文では“Reasonable accommodation”と表記されている。すなわち,『権利条約』の第二条(定義)に,“合理的配慮とは,障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって~中略~かつ,均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう6)”と記されている。

さらに「第一次まとめ」7)では,大学等における合理的配慮の定義を,①障害のある者が,他の者と平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために,大学等が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり,②障害のある学生に対し,その状況に応じて,大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるものである。かつ,③大学等に対して,体制面,財政面において,均衡を失した又は過度の負担を課さないものと定めた。

また「第二次まとめ」では,合理的配慮の内容の決定手順が示された。その手順に従い,臨地実習における実習指導者対応の具体例として,A大学が作成した資料を改変してFigure 3に示す。参考となれば幸いである。

Figure 3  学外実習における「合理的配慮提供」の流れ(例)

V  結語

今回,多様な学生の臨地実習における養成施設と実習施設間の緊密な連携への事例として,日臨技と日臨教が共同運営する本講習会を紹介すると共に,演習講義受講者へ実施したアンケート結果を示した。これらの結果から,受講者は障害とは何かを学ぶと共に,多様な学生の対応と配慮の必要性を理解し,実習指導者として多様な学生をどう受け入れ,どのように関わっていくかを考える機会となったことや,現実的な対応に苦慮している状況が明らかとなった。今後さらに養成施設と実習施設間の連携を深める上で,本講習会に意義があると思われる。

本稿の概要は,第72回日本医学検査学会in GUNMAにおける一般演題にて発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

 謝辞

今回のアンケート調査にご協力頂きました受講者の皆様,アンケート分析にご協力を頂きました熊本保健科学大学保健科学部共通教育センター 山鹿敏臣先生,および本稿作成にあたりご助言を賜りました筑波波大学ヒューマンエンパワーメント推進局 舩越高樹先生に深謝いたします。

文献
 
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