2024 Volume 73 Issue 4 Pages 699-707
深在性真菌症は,免疫機能に問題のある患者を中心に引き起こされる日和見感染症の1つである。臨床現場では,その補助的診断として(1→3)-β-D-グルカンの検出が用いられている。今回,本検査の院内導入を目的に,当院で行っている外注検査と国内で使用されている2社の検査試薬についての検討を行った。同時及び日差再現性,希釈直線性,方法間での相関性など,基本的性能は,両方法ともに他の報告と同様の結果が得られた。また,同一検体における2重測定の差の比較より,ともに低濃度域で測定誤差が生じやすいということが示唆された。今回,被検法間における低濃度域の判定不一致として,被検A法陽性,被検B法陰性の結果が45/69例(65.2%)みられたが,これは測定値とカットオフ値の比例性が異なるためと考えられた。また,外注検査値からのカルテレビューにより,β-D-グルカン値と深在性真菌症を含む感染症を疑わせる症状との関連が確認された。β-D-グルカン検査試薬の選択に際しては,測定の操作性を含め施設の実情に即した試薬を選択すべきと考える。また,本検査の院内導入により,深在性真菌症の早期診断,適切な治療に結びつくことが期待される。
Deep mycosis is an opportunistic infection occured mainly in patients with immune dysfunction. In clinical practice, the detection of (1→3)-β-D-glucan is used as an auxiliary diagnosis. In this study, we examined the test reagents available in Japan by two companies for the purpose of introducing this test into hospital laboratory. We compared the outsourced tests currently performed at our hospital with each reagent company. The basic performance of within-run and between-day precision, dilution linearity, and correlation between methods were similar to the previous reports. In addition, the comparison of the difference between double measurements of the same sample suggested that measurement errors were likely to occur in the low concentration range in both method A and method B. In this result, 45/69 (65.2%) of results in low concentration range were positive for one method and negative for the other method. This discrepancy in determination is considered to be due to the difference in proportionality between measured values and cut-off value. The medical record review revealed that β-D-glucan value fluctuated in relation to symptoms that suggested infections including deep mycosis. When selecting a β-D-glucan test reagent, we should select a reagent that is appropriate for the actual situation of the facility, including the operability of the measurement. The introduction of this test in the hospital is expected to lead to early diagnosis and appropriate treatment of deep mycosis.
深在性真菌症は,先天的または免疫抑制療法や移植などの医療行為や疾患により,後天的に免疫機能が低下した患者を中心に引き起こされる日和見感染症の1つである。深在性真菌症の確定診断は,真菌培養での病原真菌の分離・同定を行うことがゴールドスタンダードとされている。しかし,培養検査では,発育までに時間を要し,菌量が少ない場合には発育しない場合もある。また,検体採取が必ずしも容易ではないなどの問題がある1)。そこで,臨床現場では深在性真菌症診断における補助的診断として,真菌細胞壁に特異的に存在する(1→3)-β-D-グルカン(以下,β-D-グルカン)の検出が用いられている2),3)。
β-D-グルカンの測定に基準となる方法はなく,リムルステストを応用した比色法を原理とする2社の試薬が使用されている。ファンギテック®GテストMKII「ニッスイ」とファンギテック®GテストES「ニッスイ」(いすれも日水製薬株式会社)は,カブトガニ血球抽出液中に含まれるG因子が,β-D-グルカンと特異的に反応し活性化する。この活性化G因子が試薬中の凝固酵素前駆体に作用し,発色合成基質から遊離したp-ニトロアニリンを比色定量する。同様の測定原理であるが,前者はバッチ処理,後者はリアルタイム測定による試薬である。また,β-グルカン シングルM30テストワコー(富士フイルム和光純薬株式会社)は,カブトガニ血球抽出物から調整したLAL試薬と試料中のβ-D-グルカンとが反応することで,G因子から反応カスケードを開始させて,発色合成基質から遊離したp-ニトロアニリンを比色定量する。これらの試薬は,前処理方法や操作性,カットオフ値などが異なるため,その診断特性に違いがあることが報告されている4),5)。
現在,当院ではβ-D-グルカン検査を外注委託で行っているが,報告までに数日から1週間程度を要している。免疫機能に問題のあるコンプロマイズドホストの深在性真菌症では,早期の抗真菌薬適応が必要となるため迅速な結果報告が求められる。このような背景から,本検査の院内検査導入を目的に,国内で使用されている2社の検査試薬について検討を行い,若干の知見が得られたので報告する。
2021年10月から2022年4月までの期間に外注委託検査でβ-D-グルカン測定が終了した検体から,外注委託基準値以下を122例,基準値~50 pg/mLを203例,50~100 pg/mLを73例,100 pg/mL以上を64例使用した。返却されたβ-D-グルカン測定用採血管に採取された血液を卓上遠心機(H-1500F,コクサン社)で8,000 g,5分間遠心し,ヘパリン加血漿をグルカンフリーの専用チューブ(日水製薬株式会社)に移して測定まで−80℃で保存した。
2. 機器試薬当院では,β-D-グルカン検査を外注委託している。外注で用いているファンギテック®GテストMKII「ニッスイ」(日水製薬株式会社,カットオフ値20 pg/mL)試薬の検査値を比較法とし,検査試薬ファンギテック®GテストES「ニッスイ」を用いたES Analyzer(いずれも日水製薬株式会社)での測定値を被検A法,検査試薬β-グルカン シングルM30テストワコー(富士フイルム和光純薬株式会社,カットオフ値11 pg/mL)を用いたリムセイブMT-7500(富士フイルム株式会社)での測定値を被検B法として,同一検体間で測定結果を比較した。
3. 操作方法被検A法,B法ともにFigure 1,2に示したメーカー指定の操作工程に従い測定した。Figure 1,2は各メーカーの機器操作マニュアルより抜粋した。
被検A法は,検体50 μLを前処理液に分注・攪拌し,ES Analyzerにセットして37℃で10分間加温した。この間に,緩衝液300 μLで主剤を溶解した。加温後の前処理済検体50 μLを溶解済みの主剤に加えて混和し,ES Analyzerにセットし分析した。本試薬はアルカリ処理-発色合成基質法を原理とした測定法により,血漿または血清中のβ-D-グルカン濃度を迅速に測定するモノテストタイプの試薬でリアルタイムに反応過程を確認することが可能である。
被検B法は,検体50 μLを前処理液(900 μL入り)に分注・攪拌してサーモステーションTS-70/20にセットし,70℃,10分間加温した。加温後,前処理済検体をクーリングステーションにセットし,3分間以上冷却した。冷却後,前処理済検体200 μLをLAL試薬に分注・攪拌してリムセイブMT-7500にセットし分析した。本試薬は,希釈加熱処理-発色合成基質法を原理とし,試薬調製の必要がないシングルタイプの試薬で簡便な操作,かつ反応時間20分間と迅速にβ-D-グルカン濃度の測定が可能である。
両試薬とも測定中はβ-D-グルカン測定に影響を及ぼす検査汚染に注意し,各々の測定機器から表示された測定値を検査値とした。
4. 自家製プール血漿,コントロール試料を用いた同時及び日差再現性の検討自家製プール血漿と各メーカー専用のコントロール試料を,それぞれ10回連続測定を行い同時再現性を調べた。また,同様の試料を10日間連続で測定し日差再現性を調べた。
5. 同一検体を用いた2重測定値の差の比較前処理から検査工程による実測定時におけるばらつきの大きさの評価および院内導入後の再検査基準の設定を目的に,19例の検体を用い2重測定値の差の比較を行った。
6. 高濃度及び低濃度プール血漿を用いた希釈直線性の検討比較法検査値を基準に高濃度プール血漿,低濃度プール血漿を作製し,前処理した検体を被検A法は滅菌蒸留水(大塚製薬),被検B法は検査試薬専用の検体前処理液により10段階希釈を行い,2重測定した平均値による希釈直線性を測定した。
7. 比較法との相関関係についての検討検体157例を用いて,比較法検査値と比較A法,B法の検査値との相関性を調べた。
8. カットオフ値を用いた判定一致率の比較比較法検査値を用い,被検A法のカットオフ値20 pg/ⅿLと被検B法のカットオフ値11 pg/mLより判定一致率を比較した。一致率の比較は,比較法検査値が50 pg/mL以上の検体88例と50 pg/mL未満の検体69例の2群に分けて行った。
9. カルテレビューによるβ-D-グルカン値と病態の整合性の調査β-D-グルカン検査の有用性の評価を目的に,対象となった症例の臨床背景について,電子カルテの情報から比較法によるβ-D-グルカン値と病態変化の整合性についてを調査した。なお,炎症所見として体温・CRP・白血球数,薬物として免疫抑制薬や抗菌薬・抗真菌薬・抗がん薬の使用履歴,非特異反応として血液製剤や人工透析の有無6)~8),肺炎徴候としてレントゲン・CTの結果をレビューした。
自家製プール血漿,各メーカーのコントロール試料を用いた同時並びに日差再現性の結果をTable 1,2に示した。同時再現性は被検A法,B法ともにCV 5%以下の結果が得られた。日差再現性は被検A法,B法ともにCV 7.1%以下の結果が得られた。
Pooled plasma | Control material | |||
---|---|---|---|---|
Test method A |
Test method B |
Test method A |
Test method B |
|
Mean | 57.2 | 20.4 | 66.5 | 28.4 |
Min | 53.4 | 19.2 | 62.9 | 27.7 |
Max | 60.1 | 21.5 | 68.8 | 29.2 |
Range | 6.7 | 2.3 | 5.9 | 1.5 |
SD | 2.5 | 1.0 | 1.8 | 0.4 |
CV(%) | 4.4 | 4.9 | 2.8 | 1.5 |
Pooled plasma | Control material | |||
---|---|---|---|---|
Test method A |
Test method B |
Test method A |
Test method B |
|
Mean | 56.6 | 20.7 | 65.6 | 28.0 |
Min | 51.0 | 18.9 | 62.3 | 26.8 |
Max | 60.7 | 23.2 | 68.4 | 30.1 |
Range | 9.7 | 4.3 | 6.1 | 3.3 |
SD | 3.3 | 1.5 | 2.1 | 0.9 |
CV(%) | 5.8 | 7.1 | 3.2 | 3.1 |
コントロール試料に対して,自家製プール血漿である実試料ではCV値が大きい傾向がみられた。
2. 同一検体を用いた2重測定値の差の比較同一検体を用いた2重測定の差を比較した結果をFigure 3に示した。
The solid line indicates the initial measurement. Dotted line shows a value of ±25% of the initial measurement.
散布図中の実線は1回目の測定値を示す。点線は1回目の測定値の±25%の値を示す。マーカーが実線に近いほど同一検体における2重測定の差が小さい結果となる。
比較法の再検基準である±25%を逸脱した数は,被検A法4/19例(21.1%),被検B法2/19例(10.5%)であった。
3. 高濃度及び低濃度プール血漿を用いた希釈直線性の検討高濃度及び低濃度域の希釈直線性の結果をFigure 4に示した。
直線性の評価基準は,目標値の±20%とした。
高濃度域では,被検A法はメーカー推奨の500 pg/mLまで直線性が得られた。また,被検B法でもメーカー推奨の600 pg/mLまで直線性が確認された。
低濃度域では,被検A法は,メーカーが指定する1 pg/mLでも直線性が得られたが,被検B法では,約2 pg/mL以下で目標値の±20%を超える結果となった。
4. 比較法との相関関係についての検討比較法と被検A法,B法の相関関係をFigure 5に示した。
A. Correlation between test method A and comparison method.
B. Correlation between test method B and comparison method.
比較法に対し被検A法はy = 0.944x + 5.0,r = 0.934,被検B法はy = 0.394x − 6.0,r = 0.950の結果が得られた。
5. カットオフ値を用いた判定一致率の比較比較法検査値50 pg/mL以上と未満の2群における被検A法,B法のカットオフ値(被検A法20 pg/mL,被検B法11 pg/mL)より比較した判定一致率をFigure 6,Table 3に示した。
The red line indicates the cut-off value of the test method A. The yellow line indicates the cut-off value of the test method B.
A. Judgment concordance rate when β-D-glucan is 50 pg/mL or more.
B. Judgment concordance rate when β-D-glucan is less than 50 pg/mL.
Judgment concordance rate ≥ 50 pg/mL |
Test method A | ||
---|---|---|---|
positive | negative | ||
Test method B | positive | 86/88 (97.7%) | 0/88 (0%) |
negative | 2/88 (2.3%) | 0/88 (0%) |
Judgment concordance rate < 50 pg/mL |
Test method A | ||
---|---|---|---|
positive | negative | ||
Test method B | positive | 19/69 (27.5%) | 0/69 (0%) |
negative | 45/69 (65.2%) | 5/69 (7.2%) |
散布図中の実線は,各々のカットオフ値を示す。
50 pg/mL以上の群では,被検A法,B法ともに陽性は86/88例(97.7%),被検A法陽性,被検B法陰性の不一致が2/88例(2.3%)であった。
50 pg/mL未満の群ではともに陽性は19/69例(27.5%),ともに陰性が5/69例(7.2%)被検A法陽性,被検B法陰性の不一致が45/69例(65.2%)であった。
6. カルテレビューによるβ-D-グルカン値と病態の整合性の調査比較法検査値のβ-D-グルカン値と病態変化の整合性について50症例のカルテレビューを行い,その集計結果をTable 4に示した。
β-D-glucan (pg/mL) | n | Fever (> 38℃) | CRP (> 5.0) | WBC (> 10.0) | Immunosuppressive drugs |
Antibacterial drugs | Antifungal drugs | Anticancer drugs | FFP | Dialysis | X-ray CT |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
< 100 | n = 21 | 2 | 4 | 7 | 12 | 11 | 3 | 2 | 1 | 2 | 6 |
rate (%) | 9.5 | 19.0 | 33.3 | 57.1 | 52.4 | 14.3 | 9.5 | 4.8 | 9.5 | 28.6 | |
≥ 100 | n = 29 | 16 | 20 | 11 | 16 | 24 | 9 | 4 | 5 | 5 | 17 |
rate (%) | 55.2 | 69.0 | 37.9 | 55.2 | 82.8 | 31.0 | 13.8 | 17.2 | 17.2 | 58.6 | |
All | n = 50 | 18 | 24 | 18 | 28 | 35 | 12 | 6 | 6 | 7 | 23 |
rate (%) | 36.0 | 48.0 | 36.0 | 56.0 | 70.0 | 24.0 | 12.0 | 12.0 | 14.0 | 46.0 |
50症例の内訳は,100 pg/mL以上は29症例,100 pg/mL未満が21症例である。
β-D-グルカン値が100 pg/mL以上の患者では,体温・CRP・白血球数などの炎症所見や,レントゲン・CTの画像所見でのすりガラス影など肺炎を疑わせる所見と多くの検体が一致した。一方,100 pg/mL未満の患者は感染症を疑わせる所見との一致性は低い結果となった。また,カルテレビュー50症例より,真菌の同定または抗原が検出された菌種をTable 5に示した。β-D-グルカン値が100 pg/mL以上では,C. albicans 2例,Aspergillus spp. 3例(そのうちAspergillus fumiguetusの検出が1例),P. jirovecii(PCP)7例の計12例,24%であった。また,100 pg/mL未満ではC. albicans 1例,P. jirovecii(PCP)1例の計2例,4%であった。
n | Bacterial species | Number of detections | rate (%) |
---|---|---|---|
< 100 (n = 21) | C. albicans | 1 | 2.0 |
P. jirovecii (PCP) | 1 | 2.0 | |
≥ 100 (n = 29) | C. albicans | 2 | 4.0 |
Aspergillus spp. | 3 | 6.0 | |
P. jirovecii (PCP) | 7 | 14.0 |
PCP: Pneumocystis pneumonia
今回,β-D-グルカン検査の院内導入を目的とした2社の検査試薬を用いた検討結果より,同時及び日差再現性,直線性,方法間での相関性など,基本的性能については,他の報告と同様の結果が得られた4),9)。なお,同時及び日差再現性において,コントロール試料に対して実試料のCV値が大きくなったのは,試料のマトリックスの影響もしくはβ-D-グルカン自体の構造等によるものと考えられる。低濃度希釈直線性について,被検B法において2 pg/mL以下で直線性が得られないという結果となったが,カットオフ値以下であるため測定結果に与える影響は少ないと考える。相関関係での外れ値の多くは,検討に用いた試料に溶血を示す検体が含まれているため,被検A法では正誤差の影響が要因の1つと考えられる。被検B法では溶血の影響を受けない結果であったが,これは前処理時の希釈率が被検A法よりも高く(被検A法7倍希釈,被検B法19倍希釈),また前処理液に含まれる界面活性剤で溶血を軽減しているためと考える。測定値の大きさは比較法>被検A法>被検B法の順で差がみられ,これも他の報告と一致した結果であった4)。
また,同一検体における2重測定の差の比較より,被検A法,B法ともに低濃度域で測定誤差が生じやすいということが示唆された。その原因として,室内の浮遊微生物における真菌の割合が約50%前後であること10),11)や環境からの汚染等によるβ-D-グルカン値の偽陽性6)が考えられる。そのため,β-D-グルカン測定操作時のコンタミネーションには十分に注意する必要がある。特に,被検A法は,被検B法に対して操作手順が1ステップ多いため,測定誤差の要因となる可能性があると考える。なお,100 pg/mL以上の高濃度域でも被検A法2例,被検B法で1例の乖離検体が認められたが,カットオフ値付近の低濃度域でのばらつきは判定に影響を及ぼすため,測定誤差にはより一層の注意が必要となる。
今回,被検法間における低濃度域の判定不一致として,被検A法陽性,被検B法陰性の結果が45/69例(65.2%)みられた。考えられる要因としては,測定値の相関性が傾き0.4であるのに対しカットオフ値の比率が0.55の関係となっているため,測定値とカットオフ値の比例性が異なることが挙げられる。仮に,カットオフ値を相関に合わせて被検B法のカットオフ値を7 pg/mLとした場合,不一致率は16/69例(23.2%)に縮小された。
カルテレビューより,β-D-グルカン値は体温・CRP・白血球数などの炎症所見やレントゲン・CTといった画像所見でのすりガラス影など,深在性真菌症を含む感染症を疑わせる症状との関連が確認された。大林3)は,深在性真菌症の診断は患者の病歴や臨床検査所見などと合わせて総合的に行うため,おおまかにβ-D-グルカン値100 pg/mL~では真菌感染でまず間違いないととらえられると報告している。100 pg/mLを基準にカルテレビューを行ったが,100 pg/mL以上で実際に菌種が同定されたまたは抗原が検出された検体はTable 5より12例,24%であった。また,100 pg/mL未満でも2例で菌種の同定,抗原の検出がされているが,それらはいずれも真菌感染を疑わせるものではなかった。これには偽陽性の可能性もあるが,β-D-グルカンはあくまで補助的診断であるため,バイタルの変化や易感染状態であるなど重症化のリスクがある場合には積極的なフォローが必要だと考えられた。
当院のβ-D-グルカン検査は月間700~800件と少ない検査ではなく,多い曜日には1日に数サイクルの検査を行う必要がある。そのため,操作性は簡便かつ少ない操作ステップであることが選択基準と考えられた。また,侵襲性の高い真菌症を扱う診療科や免疫機能の低下した患者が多い診療科では,感度が重視される。当院はβ-D-グルカン検査依頼の約60%を血液内科と集中治療室(ICU)が占めるため,感度の高い試薬を選択すべきとも考える。
β-D-グルカン検査の院内導入により迅速に結果が得られることの有用性は,β-D-グルカン値とカルテレビューの関係からも明らかとなった。
現在,β-D-グルカン検査には,主に測定感度の異なる2社の検査試薬が使用されている。その選択に際しては,各施設でのβ-D-グルカン検査の依頼実績や,測定の操作性を含め施設の実情に即した試薬を選択すべきと考える。また,院内導入に際しては,測定感度とカットオフ値の関係から診断感度・特異度に差が生じる可能性もあるため,外注委託検査値と被検法との検査値の相違について,臨床医の合意を得ることが重要である。
本検討を通して,β-D-グルカン検査の結果は,病態が真菌感染によるものかを判断するうえで重要な項目の1つであり,より早急な結果の報告が求められていると強く感じた。
本検査の院内導入により,これまでの外注委託検査よりも2~3日(場合によっては1週間)早く検査結果が得られる。軽微な所見により診断の困難なケースで,患者情報(易感染状態)とβ-D-グルカン値により深在性真菌症の早期診断,適切な治療に結びつくことが期待される。
本検討は,自治医科大学附属病院倫理委員会の承認(承認番号:臨附21-098)を得て実施した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。