Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Article
Application of the urine protein assay to serum total protein measurement with the pyrogallol red molybdate method
Mariko KOBAYASHITatsuya IWASAKIKiyoshi KAMIYAMASusumu OOSAWAHiroaki SHINOTSUKAMakoto MATSUSHITA
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2024 Volume 73 Issue 4 Pages 691-698

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Abstract

血清総蛋白測定はビウレット法が主流であり,その普及率はほぼ100%である。そのため,リポ蛋白-Xやアミノ酸輸液などのピットフォールによる異常データ出現の際,他の検査法で検証することは困難となっている。一方尿蛋白測定法に利用されているピロガロールレッド(PR)法はアミノ酸や糖質などの蛋白質以外の成分に対する非特異反応が少ない方法であるが,高感度であるため血清総蛋白測定法には利用されていない。私たちは,検体前希釈機能を有する日本電子社製のJCA-BM6070を用い適切なパラメータを設定しビウレット法と比べ非特異反応が少ないPR法へ適応させることで,ビウレット法で得られた血清蛋白測定の確認用として活用できるか検討した。ビウレット法の標準血清を使用したPR法でのパラメータ(PR-BM法)を構築し,163例の患者血清を対象にして測定を行った。PR-BM法(y)とビウレット法(x)の相関関係はr = 0.977,y = 1.00x + 0.07であり,両者の測定値は概ね一致した。これらの結果より,PR-BM法は血清総蛋白測定の確認用として利用可能であると結論付けられた。

Translated Abstract

The Biuret method is the mainstay of serum total protein assay, with a prevalence of almost 100%. Therefore, it is difficult to verify abnormal data due to pitfalls such as lipoprotein-X or amino acid infusions by other methods. On the other hand, the pyrogallol red (PR) method, which is used for the urinary protein assay, has less nonspecific reactions to non-protein components such as amino acids and carbohydrates, but is not used for the serum total protein assay because of its high sensitivity. We investigated whether the JEOL JCA-BM6070, which has a sample pre-dilution function, can be used to confirm the serum protein assay obtained by the biuret method by setting appropriate parameters and adapting it to the PR method, which has fewer nonspecific reactions than the biuret method. The correlation between the PR-BM method (y) and the Biuret method (x) in 163 patient sera samples was r = 0.977, y = 1.00x + 0.07, and the measured values of both methods generally agreed. From these results, we conclude that the PR-BM method can be used as a confirmatory method for serum total protein measurement.

I  目的

血清中には,アルブミンや免疫グロブリンをはじめ多種類の蛋白が存在する。臨床ではその総和を血清総蛋白として測定し,栄養状態や肝臓や腎機能を評価するスクリーニング検査として広く利用されている。

日常検査における総蛋白検査は,血清総蛋白検査がビウレット法1),2),尿蛋白検査がピロガロールレッド(PR)法3)のように,それぞれが独立した測定に設定されており,両方法は同一の生化学自動分析装置に適応させている検査室が多い。ビウレット法はPR法に比べ,アミノ酸や糖質などの非蛋白質成分が類似呈色するなど蛋白質に対する特異性が低いという問題がある4)が,呈色に蛋白質間差が小さいことから,現在血清総蛋白測定法として普及している。そこで,これら2種の測定法を相互利用することが可能であれば,ピットフォールによる異常データ出現時の確認法として利用できると考える。PR法はビウレット法の約40倍の感度を有することから,蛋白濃度が低い尿蛋白測定に用いられ,濃度が高い血清総蛋白測定法へは適応されない。近年の生化学自動分析装置の中には予め血清を希釈し,その希釈血清を用いて検査ができる検体前希釈機能を有する生化学自動分析装置(BMシリーズ)が普及している5)。このBMシリーズの機能を用い血清を高倍率に希釈して,PR法で血清総蛋白測定ができるか検討を行った。

II  材料および方法

1. 測定機器および試薬

測定機器として分光光度計は日立7012型臨床用分光光度計を用いた。生化学自動分析装置は検体前希釈機能(校正時および測定時の検体前希釈が可能)を有する日本電子株式会社JCA-BM6070と試料のみ希釈可能である古野電気株式会社CA-270plusを使用した。

測定試薬はPR試薬として富士フイルム和光純薬株式会社AR-ワコーマイクロTP-AR,ビウレット試薬としてLタイプワコーTPを用い,各標準液は同社のμ-TP蛋白標準血清(表示値100 mg/dL),TP/ALBキャリブレータ(TP表示値7.14 g/dL)を使用した。

2. 試料

残余血清(n = 163),2濃度の管理血清(シスメックス株式会社QAPトロール1X: Lot121,122,2X: Lot221,222),またヒト由来であるシグマアルドリッチ社のアルブミン(A-8763,純度99%以上),αβグロブリン(G-3637),βγグロブリン(G-2388),およびγグロブリン(G-4386,純度99%以上)の4種蛋白質試料をそれぞれ1.0 g秤量して,生理食塩水で溶解し4.0 g/dLに調整したものを測定試料とした。非蛋白質成分では,ペプチドやアミノ酸成分としてGly-Gly(G-1002,純度99%以上),Gly-Gly-Gly(G-1377,純度99%以上),Gly-Gly-Gly-Gly(G-3882,純度99%以上),L-セリン(S-4500,純度99%以上),L-トレオニン(T-8625,純度98%以上),L-アスパラギン(A-0884,純度98%以上),糖質成分としてD-ガラクトース(G-0750,純度99%以上),D-マンノース(M-2069,純度99%以上),N-アセチル-D-グルコサミン(A-8625,純度99%以上)の9種を選定した。この9種の非蛋白質成分を生理食塩水で溶解し1.0 g/dLに調整したものを試料とした。直線性評価には,株式会社LSIメディエンス製のイアトロセーラCC-IIを用い,精製水2.5 mLで溶解したものを使用した。

なお,本研究は臨床検査医学会から提示されている「臨床検査を終了した既存試料(残余検体)の研究,業務,教育のための使用について―日本臨床検査医学会の見解―2021年改訂」に従い,残余検体を使用した。医療機関との契約で,廃棄検体の取り扱いについて,精度維持向上のための使用は認められている。

3. 方法

PR法による血清総蛋白測定はCA-270plus(PR-CA法)およびJCA-BM6070(PR-BM法)とし,2種の生化学自動分析装置で実施した。まずPR-CA法の分析条件は,試料5 μLを生理食塩水195 μLで40倍希釈し,その希釈試料3 μLにPR試薬250 μLを加え,600 nm(主波長),660 nm(副波長)の二波長1ポイントエンド法で測定した。測定値に希釈倍数(40倍)を乗じて血清総蛋白値を算出したものをPR-CA原法とした。なお校正時には標準液の希釈ができないため,μ-TP蛋白標準血清をそのまま使用した。本装置では試料のみが前希釈可能であり,ビウレット法標準液であるTP/ALBキャリブレータを試料として測定し,その実測値と標準液表示値(校正値)の比率(校正値/実測値)で補正したものをPR-CA補正法とした。

PR-BM法による分析条件は,JCA-BM6070の検体前希釈機能を利用して,校正用のTP/ALBキャリブレータ(Table 1)および測定試料5 μLに生理食塩水195 μLを分注して40倍希釈し,この希釈試料3 μLにPR試薬80 μLを加え,596 nm(主波長),658 nm(副波長)の二波長1ポイントエンド法で測定した。ビウレット法による血清総蛋白測定は,CA-270plusおよびJCA-BM6070の両機種で測定を実施した。CA-270plusの分析条件は,試料2.5 μLに第1試薬160 μLを加え5分後に第2試薬80 μLを添加し548 nm(主波長),700 nm(副波長)の二波長2ポイントエンド法で測定した。JCA-BM6070の分析条件は,試料30 μLを生理食塩水120 μLで5倍希釈し,その希釈試料10 μLに第一試薬80 μLを加え,5分後に第二試薬40 μLを添加し545 nm(主波長),694 nm(副波長)の二波長2ポイントエンド法で測定した。なお,校正は両方法ともTP/ALBキャリブレータを使用した。

Table 1 各生化学自動分析装置における総蛋白測定条件

PR-CA法 PR-BM法
標準液希釈倍数 装置による希釈不可 装置による40倍希釈
試料希釈倍数 装置による40倍希釈 装置による40倍希釈
試薬量/試料量 250 μL/3 μL 80 μL/3 μL
主波長/副波長 600 nm/660 nm 596 nm/658 nm
校正方法 標準液は前希釈できないため,PR法標準液(μTP蛋白標準血清)で校正したものをPR-CA原法とした。 上記条件でTP/ALBキャリブレータを測定し実測値と校正値の比率(校正値/実測値)で補正したものをPR-CA補正法とした。 標準液も前希釈できることから,ビウレット法標準液であるTP/ALBキャリブレータを使用した。

1) 非蛋白質成分に対する反応性の比較

CA-270plusを用い,PR-CA原法でアルブミンと他9種の非蛋白質試料を2回測定し,吸光度の平均値を求めた。アルブミンに対する反応性を100%としたときの9種の非蛋白質試料における反応性を比較した。なおアルブミンは,4.0 g/dL試料の吸光度を1/4(1.0 g/dL)とした。

2) 吸収スペクトルの確認

日立7012型臨床用分光光度計を用い,4種の蛋白質試料におけるビウレット法とPR法の290~800 nmの波長範囲で吸収スペクトルを測定し,両者を比較した。まず,ビウレット法は各蛋白質試料50 μLに第一試薬2.0 mLおよび第二試薬1.0 mLを加え,37℃,10分間加温後,試薬盲検を対照に吸光度を測定した。次に,PR法は生理食塩水で40倍希釈した各蛋白質試料50 μLにPR試薬3.0 mLを加え,37℃,10分間加温後,試薬盲検を対照に吸光度を測定した。各方法とも各波長における吸光度を2回測定し平均値を用いた。その際,両方法ともに各蛋白質試料の極大吸収波長の吸光度を等しくさせるため,アルブミン以外の試料はその極大吸収波長の吸光度がアルブミン試料の極大級波長の吸光度と等しくなるように各波長の吸光度を補正した。

3) 反応タイムコース

日立7012型臨床用分光光度計を用い,4種の蛋白質試料におけるビウレット法とPR法の反応タイムコースを測定し,両者を比較した。まず,ビウレット法は各蛋白質試料50 μLに第一試薬2.0 mLおよび第二試薬1.0 mLを加え,波長546 nmで37℃,5分間吸光度測定を行った。次に,PR法は生理食塩水で40倍希釈した各蛋白質試料50 μLにPR試薬3.0 mLを加え,波長600 nmで37℃,5分間吸光度測定を行った。各方法とも2回測定し平均値とした。その際,両方法ともに各蛋白質試料の5分後の吸光度を100として,それぞれの各時間の吸光度を補正した。

4) 併行精度

PR-CA原法で2種類の管理血清を各10回,BM-6070(RP-BM法)で別の2種類の管理血清を各20回連続測定し併行精度を求めた。

5) 各蛋白質試料の相対反応性

アルブミン,αβグロブリン,γグロブリンの3種の蛋白質試料を用い,CA-270plusを用いたビウレット法およびPR-CA原法で2重測定しその平均値を算出した。そして,アルブミン試料のPR-CA原法/ビウレット法の測定値の比率を1.0として,αβグロブリンおよびγグロブリンの両方法による相対反応性の比率を算出し比較した。

6) 直線性

PR-CA原法およびPR-BM法において高濃度に調整した試料を5段階希釈し,1/5希釈時の濃度の吸光度を基準にし,理論値 ± 5%以内を直線性ありとした。

7) 相関関係

残余血清を用い,ビウレット法,PR-CA原法(n = 20)およびPR-BM法(n = 163)で総蛋白値を測定し,相関関係を検討した。また,箱ひげ図にて測定分布を示した。

III  結果

1. 非蛋白質成分に対する反応性の比較

PR-CA原法でアルブミンに対する反応性を100%としたとき,非蛋白質試料であるGly-Gly,Gly-Gly-Gly,Gly-Gly-Gly-Gly,L-セリン,L-トレオニン,L-アスパラギン,D-ガラクトース,D-マンノース,N-アセチル-D-グルコサミンの反応性を比較したところ,すべての成分で呈色せず0%であった。

2. 吸収スペクトル

ビウレット法では,極大吸収波長がアルブミンおよびαβグロブリンで540~545 nm,またγグロブリンで550 nm付近と両者にズレを認めた。一方,PR法では4者の極大吸収波長は600 nm付近で一致した(Figure 1)。

Figure 1  ビウレット法(A)およびピロガロールレッド法(B)による各蛋白分画試料の吸収スペクトル

3. 反応タイムコース

ビウレット法では,γグロブリンが最も早く,またアルブミンが最も遅く呈色し,αβグロブリンは両者の中間の速度で反応した。それに対して,PR法ではビウレット法と異なり,アルブミンがγグロブリンに比べ,早く呈色した(Figure 2)。

Figure 2  ビウレット法(A)およびピロガロールレッド法(B)による各蛋白分画試料の反応タイムコース

4. 併行精度

PR-CA原法およびPR-BM法の併行精度の結果をTable 2に示す。その結果,PR-CA原法では低濃度試料の平均値3.82 g/dL,CV 1.7%,高濃度試料の平均値は6.94 g/dL,CV 1.9%であった。PR-BM法では低濃度試料の平均値は5.01 g/dL,CV 1.1%,高濃度試料の平均値は7.21 g/dL,CV 1.2%であった。

Table 2 PR-CA法およびPR-BM法の併行精度

測定方法 管理試料 平均値(g/dL) SD(g/dL) CV(%)
PR-CA法 (n = 10) 低濃度 3.82 0.07 1.9
高濃度 6.94 0.12 1.7
PR-BM法 (n = 20) 低濃度 5.01 0.06 1.1
高濃度 7.21 0.09 1.2

5. 各蛋白質試料の相対反応性

ビウレット法におけるアルブミン,αβグロブリンおよびγグロブリンの蛋白質試料の測定値は,それぞれ,3.57,3.19,3.91 g/dLであった。同様に,PR-CA原法による3種の蛋白質試料の測定値は,それぞれ,3.75,3.44,4.00 g/dLであった。これらの結果から,3種の蛋白質試料のPR-CA法/ビウレット法の測定値の比率は,アルブミンで1.05(3.75/3.57),αβグロブリンで1.08(3.44/3.19),γグロブリンで1.02(4.00/3.91)と算出された。ここで,アルブミン試料の両方法の比率を1.00とした場合,αβグロブリンで1.03,γグロブリンで0.97となった(Table 3)。

Table 3 ビウレット法およびPR-CA原法による各蛋白分画試料の相対反応性

蛋白分画試料 ビウレット法による総蛋白値(g/dL) PR-CA原法による総蛋白値(g/dL) PR-CA原法/ビウレット法(アルブミン試料のPR-CA原法/ビウレット法測定値を1.00とした)
アルブミン 3.57 3.75 1.05(1.00)
αβグロブリン 3.19 3.44 1.08(1.03)
γグロブリン 3.91 4.00 1.02(0.97)

6. 直線性

PR-CA原法では19.0 g/dL,PR-BM法では15.0 g/dLまで直線性を認めた(Figure 3)。

Figure 3  PR-CA原法(A)およびPR-BM法(B)の直線性

7. 相関関係

PR-CA原法のビウレット法との相関関係(n = 20)をFigure 4(上段)に示す。PR-CA原法回帰式はy = 1.17x − 0.81と系統誤差が認められ,両方法の平均値では,ビウレット法で7.22,PR-CA原法で7.67 g/dLと,後者で0.45 g/dL高値に測定された。一方,PR-CA補正法では,回帰式はy = 1.08x − 0.76,PR-CA補正法の平均値が7.04 g/dLとなり,両方法間のズレは軽減された。

Figure 4  ビウレット法と各測定法との相関性(A:PR-CA原法,B:CA-PR補正法,C:PR-BM法)

PR-BM法のビウレット法との相関関係(n = 163)をFigure 4(下段)に示す。回帰式y = 1.00x + 0.07,相関係数r = 0.977,両方法の平均値は,ビウレット法で7.07 g/dL,PR-BM法で7.14 g/dLであり,両方法の総蛋白値はほぼ一致した。また,箱ひげ図(Figure 5)から測定値に大きな差を認めなかった。

Figure 5  ビウレット法とPR-CA補正法(A)およびPR-BM法(B)の総蛋白値の分布

IV  考察

現在,血清総蛋白の測定は,ビウレット法の普及率がほぼ100%である1)。このビウレット法は銅イオンとペプチド結合とのキレート反応を利用していることから,アルブミンとグロブリンをほぼ均等に測定することが可能となり,最も血清総蛋白測定に適しているものと考えられている6)。しかし,このビウレット法にも種々の課題が報告されている。

まず,1点目は蛋白質以外の一部のアミノ酸(セリン,スレオニン,アスパラギンなど)や糖質成分(ガラクトース,マンノース,シアル酸など)に類似呈色が認められることである4),7)。そのため,ハプトグロビン,α1アンチトリプシン,α1酸性糖蛋白,ヘモペキシンなどの糖含量の高い糖蛋白が他の蛋白よりも呈色度が高いことも報告されている8)。2点目は,蛋白質の種類によって極大吸収波長および吸収スペクトルにズレを生じることである。これは銅イオンとペプチド結合とのキレート呈色化合物の構造は,その蛋白質の構成アミノ酸によって異なることに起因し,その極大吸収波長はアルブミンで541 nm付近,またγグロブリンで548 nm付近となり,設定波長によって総蛋白値が変動することになる9)。3点目は,1試薬系試薬と2試薬系試薬が共存し,試薬や分析条件が統一されていないことである10)。特に1試薬系試薬では濁りやヘモグロビンの色の影響を受けやすい10),また,2試薬系試薬では測定時間11)や第2試薬が強アルカリ性のビウレット試薬であることから,第1試薬とのpHの相違が検体盲検に影響を与えている可能性があることも報告されている9)

また,日常検査で何らかの原因で異常データが出現した場合,異なる原理の検査法を用いて確認することは重要と考える。しかし,血清総蛋白測定法においては,測定値の妥当性を検証する他の検査法がない実情である。

一方,臨床化学検査では,尿や腹水など血清以外の試料を測定する場合,血清測定と同じ原理の検査法が用いられている。例えば,尿中濃度が血清に比べ著しく高値となるクレアチニンや尿素窒素では,高濃度となる尿を希釈することで,血清と同じパラメータでの測定を可能としている。これに対して,血清中濃度が尿中に比べ著しく高値となる総蛋白検査は,血清ではビウレット法,また尿ではPR法が使用され,これは,健常者では血清と尿ではおよそ1,000倍程度の濃度差があるため,対象検体の蛋白濃度に適した測定法が選択されたためと思われる。

このような背景の中で,今回,著者らは尿蛋白測定法として普及しているPR法を血清総蛋白測定法へ応用することを検討し,従来のビウレット法と比較した。その結果,PR-CA原法では9種の非蛋白質すべての成分で呈色せず,PR法はビウレット法に比べ蛋白質に特異性が高い方法であることが確認された。直線性はPR-CA原法で19.0 g/dL,PR-BM法で15.0 g/dL,併行精度は1.1~1.9%と十分な直線性と精度を有していた。また,蛋白質に対する特異性およびアルブミンやグロブリンに対する呈色の極大吸収波長のズレでは,明らかにPR法がビウレット法に比べ優れている方法であることが確認された。しかし,ビウレット法による血清総蛋白測定は健常者血清とほぼ同等の蛋白組成からなるTP/ALBキャリブレータを使用して校正しているため,ビウレット法の吸収スペクトルのズレや糖蛋白質の反応性の相違に伴う影響はある程度補正されているものと推測できる。そのため,今回の検討ではPR-BM法とビウレット法との相関関係は良好となり,特異性等に伴うPR-BM法のビウレット法に対する明確な利点を見出すことが困難となったものと考えた。また,アルブミンや免疫グロブリンに対する呈色の蛋白質間差はビウレット法とほぼ同等であった。これは,PR法は開発当初では,アルブミンがグロブリンに比べ反応性が高値となる問題が指摘されていたが,その後,両者の反応性がほぼ等しくなる試薬に改良されている報告と一致している11)。さらに,蛋白質試料の初期反応速度の相違の比較では,ビウレット法ではγグロブリンの反応性が早く,またPR法では逆にアルブミンの反応速度が早いものであった。しかし,これらは初期反応速度の相違であり,実際の測定時間となる5分後以降となることや前述したTP/ALBキャリブレータで校正していることを考慮すると,両方法とも患者検体測定に大きな問題はないものと思われる。これらの結果から,PR法は原理的には血清総蛋白測定法に十分利用可能な方法と考えられた。ただし,高感度であるPR法をどのように濃度の高い血清総蛋白測定法に応用するかの課題を解決する必要があった。

現在の生化学自動分析装置の希釈機能に注目して分類すると,日本電子BMシリーズのように試料および標準液を同一条件で希釈測定する装置12)また,試料のみを希釈測定して測定後に希釈倍数を乗じて検査値を算出する装置と2種類に大別することができる。今回PR法を2種類の生化学自動分析装置に応用し,ビウレット法(x)との相関関係を比較した。その結果,相関係数はそれぞれの生化学自動分析装置で良好であったのに対して,ビウレット法とPR法の平均値はBM6070では,ビウレット法で7.14 g/dL,PR-BM法で7.07 g/dLと近似していたが,CA-270plusでは,ビウレット法で7.22 g/dL,PR-CA原法で7.67 g/dLと,後者で0.45 g/dL高値に測定された。一方,PR-CA補正法では,この平均値のズレは軽減されたため,CA-270plusでは,試料のみを40倍希釈していることから希釈倍数の正確さのズレがこの平均値のズレの原因となったものと推測された。そのため,PR法を血清総蛋白測定に応用するためには,試料の希釈誤差を補正することが必要となり,BM6070のように試料および標準液を同一条件で希釈測定が可能となる校正が必須であると考える。また,ビウレット法とPR-BM法で乖離する血清の測定ができなかったことが本研究の限界であった。これは,総蛋白測定が蛋白標準血清で校正することが基本となっていることから両者の相関関係は良好となり,ビウレット法とPR-BM法間で明らかに乖離する例が認められなかったものと推察された。つまりPR法の特異性に関わる利点を活かすことが困難であったことも原因していると示唆された。今後の課題としてビウレット法で異常反応が認められた血清を対象とした評価が必要となるものと考えている。最後に,PR試薬は既には多くの検査室で生化学自動分析装置に適応されているため,新たに試薬を導入する必要もない。これらの結果より,PR法はビウレット法とは異なる原理の血清総蛋白測定法になり得るものと考えられた。

V  結論

尿蛋白測定法に使用されているPR法を用いた血清総蛋白測定法について検討を行った。その結果,PR法は蛋白質に対する特異性および呈色の極大吸収波長のズレなどでビウレット法よりも優れていることが確認された。患者血清と標準液を同一条件で希釈測定して校正することが可能となる検体前希釈機能を有する生化学自動分析装置に適応させることで,ビウレット法とは異なる原理の血清総蛋白測定法になりえるものと結論づけられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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