Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Technical Article
Examination of joint fluid diagnostic staining method for hydroxyapatite deposition disease
Daisuke HACHISUKAToyofumi NAKANISHITakashi IWASAKIYuto JINNOAkio DOISatoshi HATTORIKazuko NAGASHIMAMasato HOSHI
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 73 Issue 4 Pages 719-725

Details
Abstract

結晶誘発性関節炎は様々な結晶形成から起こり,リウマチ性疾患である痛風(尿酸ナトリウム結晶),偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶)は結晶誘発性関節炎で最も多い疾患であるが,ハイドロキシアパタイト結晶(hydroxyapatite crystal;HA結晶)がこの病態に寄与することはまれである。HA結晶は単純な偏光顕微鏡下で特徴的な複屈折性を持たないため,正確な評価に困難をもたらす。同定には従来,電子顕微鏡法かアリザリン赤S染色が用いられてきたが,多くの医療機関ではこれらの方法を利用できる環境は限られている。本研究では,ハイドロキシアパタイト沈着症の関節液診断に最も有用な染色方法として,コッサ反応,ヘマトキシリン・エオシン染色(hematoxylin-eosin; HE)及びギムザ染色を検討した。その結果,コッサ反応とHE染色は特に高い陽性率を示した。RGBヒストグラムを用いた画像解析から,コッサ反応はHA結晶,白血球,背景の間に明瞭なコントラストを与えることがわかった。この結果は,コッサ反応がHA結晶同定のためのアリザリン赤S染色に代わる有効な方法として有望であることを示唆している。このことは,従来の方法が利用できない場面において,結晶誘発性関節炎の実用的診断ツールとしての潜在的有用性を強調するものである。

Translated Abstract

Crystal-induced arthritis arises from variety of crystal formations, with gout (sodium urate crystals) and pseudogout (calcium pyrophosphate crystals) being the most common forms of crystal-induced arthritis in rheumatic diseases, although hydroxyapatite (HA) crystals are a rare contributor to this condition. HA crystals, lacking characteristic birefringence under a simple polarizing microscope, pose challenges in accurate assessment. Electron microscopy or Alizarin Red S staining is conventionally employed for identification; however, accessibility to these methods is limited in many healthcare institutions. In this study, Von Kossa’s method, Hematoxylin-Eosin stain (HE) and Giemsa stain were investigated as the most useful staining techniques for the diagnosis of hydroxyapatite deposition in joint fluid. Results indicated positive staining for HA crystals in all four methods, with Von Kossa’s method and HE stain exhibiting notably high positivity rates. Image analysis, utilizing RGB histogram, revealed that Von Kossa’s method offered distinct contrast among HA crystals, leukocytes, and the background. The findings suggest that Von Kossa’s method holds promise as a viable alternative to Alizarin Red S staining for the identification of HA crystals. This underscores its potential utility as a practical diagnostic tool for crystal-induced arthritis in scenarios where conventional methods are unavailable.

I  はじめに

結晶成分が原因で関節炎を引き起こす結晶誘発性関節炎は,尿酸ナトリウム結晶(sodium urate crystal;MSU結晶)やピロリン酸カルシウム結晶(calcium pyrophosphate dihydrate crystal;CPPD結晶)が主な原因結晶である1),2)。特に臨床上重要とされているMSU結晶やCPPD結晶は,痛風や偽痛風の原因結晶と言われているが,まれに関節液中から出現するハイドロキシアパタイト結晶(hydroxyapatite crystal;HA結晶)を原因とする結晶誘発性関節炎も報告されている2)。関節液成分中のHA結晶は,HA沈着症や変形性関節炎などで出現し,特に透析患者の変形性関節炎は血中カルシウムやリン酸塩のコントロールが必要となるため,結晶同定の意義は高い3)。関節液結晶検査では,偏光顕微鏡を用いた同定方法を推奨しているが,HA結晶は偏光顕微鏡下で特異的な複屈折性を示さない。そのため電子顕微鏡またはアリザリン赤S染色法(Alizarin Red S)にて同定する必要性がある2),4)。しかし電子顕微鏡やアリザリン赤S染色を所持している施設は限られており,検査の外部委託や専門病院へのコンサルタントが必要となるため,鑑別診断が困難になると考えられる。これらの問題点を解決するために,本研究では,ハイドロキシアパタイト沈着症の関節液診断に最も有用な染色方法を検討した。

II  方法

1. 対象

HA結晶を含有したヒト関節液検体を用い,陽性コントロールとしてマウスの大腿骨を使用した5)(実験動物承認番号:30)。陽性コントロールはヒト関節液検体と同様に作製した。なお,本研究は倫理委員会の審査に該当しないとされた。

2. セルブロック作製6)

関節液10 mLに対してヘパリンナトリウム(陽進堂)を1 mL滴下し,綿棒チューブ(アジア器材)に分注後,25℃にて2,000 g,5分間遠心した。スポイトにて上清を除去し沈渣を作製した後,10%中性緩衝ホルマリン(健栄製薬)7 mLを重層し,25℃にて12時間固定を行った。固定された検体を自動包埋装置エクセルシアES(Thermo Scientific)にてパラフィン浸透操作を実施後,セルブロックを作製した。

3. パラフィン切片作製

作製されたHA結晶セルブロックをライカSM2010R滑走式ミクロトーム(Leica)にて薄切し(3 μm),パラフィン切片とした。

4. 染色方法

薄切された標本をそれぞれ3槽のキシレンで5分間脱パラフィンを実施し,100%エタノール,95%エタノール,70%エタノールにてそれぞれ3分間脱キシレンを行った。特殊染色はアリザリン赤S染色,コッサ反応(Von Kossa’s method),ヘマトキシリン・エオシン染色(hematoxylin-eosin; HE)及びギムザ染色(Giemsa)の4種類をFigure 1の手順にて実施した。また陽性コントロールとしてマウスの大腿骨のパラフィン切片も同時に染色した。

Figure 1  Staining procedures

1) アリザリン赤S染色

標本を精製水水洗し,1%アリザリン赤S染色液(武藤化学)で5分間染色した。精製水水洗後に脱水,透徹しマリノール(武藤化学)封入を行った。

2) コッサ反応

標本を精製水で水洗し,5%硝酸銀液(武藤化学)で15分染色した。精製水水洗後に,対比染色としてケルンエヒトロート(武藤化学)にて5分間染色した。その後,精製水水洗,脱水,透徹し封入を行った。

3) HE染色

標本を精製水で水洗し,マイヤーのヘマトキシリン(サクラファインテックジャパン)で2分間染色した。流水にて3分間色出しを行い,エオシン染色(サクラファインテックジャパン)を2分間染色後,脱水,透徹し封入を行った。

4) ギムザ染色

標本を精製水で水洗し,ギムザ溶液(武藤化学)で15分間染色した。流水水洗し,冷風乾燥後,キシレンにて透徹し封入を行った。

5. 光学顕微鏡による判定

各染色方法にて染色したHA結晶標本を光学顕微鏡(OLYMPUS)にて400倍で全視野観察した。HA結晶を認めた5視野で観察されたHA結晶の染色陽性率を算出した。

6. 染色性の画像解析

各染色方法にて染色したHA結晶標本のHA結晶,白血球及び背景を認めた5視野を抽出し,その平均値を画像解析ソフトFiji-win64を使用して染色強度の比較検討を行った。

7. 統計解析

統計解析はJMP software ver. 14.2.0(SAS Institute)を使用し,2群間の差はフィッシャーの正確度検定で解析した。P < 0.05の場合に統計学的有意差ありと判断した。

III  結果

1. 光学顕微鏡下による染色陽性率

各染色性の結果をFigure 2に示した。陽性コントロールは各染色法にてカルシウム成分が適切な色調で染色されていた。アリザリン赤S染色の5視野当たりの結晶成分の染色陽性率は,84.6%(182/197)であった。コッサ反応の染色陽性率は99.6% (260/261),HE染色の陽性染色率は96.8%(152/157),ギムザ染色の染色陽性率は54.9%(112/204)となった。陽性率が最も高かった染色方法は,コッサ反応であり,最も染色率が低かった染色方法はギムザ染色であった。コッサ反応は,アリザリン赤S染色と比較して有意に高かった。一方,ギムザ染色はアリザリン赤S染色と比較して,有意に低かった(Table 1)。

Figure 2  Observation of HA crystals in the indicated stains

A: Alizarin Red S stain (HA crystals)

B: Von Kossa’s method (HA crystals)

C: HE stain (HA crystals)

D: Giemsa stain (HA crystals)

E: Alizarin Red S stain (Control)

F: Von Kossa’s method (Control)

G: HE stain (Control)

H: Giemsa stain (Control)

red triangle: Stained crystals

yellow triangle: Unstained crystals

Table 1 The positive rate of each crystal stain

Positive Negative Positive/total ratio (%) Positive Negative Positive/total ratio (%)
Alizarin Red S stain 1 33 6 33/39 (84.6%) Von Kossa’s method 1 70 0 70/70 (100.0%)
2 33 1 33/34 (97.1%) 2 48 0 48/48 (100.0%)
3 40 2 40/42 (95.2%) 3 72 1 72/73 (98.6)
4 32 4 32/36 (88.9%) 4 28 0 28/28 (100.0%)
5 44 2 44/46 (95.7%) 5 42 0 42/42 (100.0%)
total 182 15 182/197 (92.4%) total 260 1 260/261 (99.6%)#
HE stain 1 30 0 30/30 (100.0%) Giemsa stain 1 38 13 38/51 (74.5%)
2 30 1 30/31 (96.8%) 2 27 39 27/66 (69.2%)
3 36 0 36/36 (100.0%) 3 12 10 12/22 (54.5%)
4 26 1 26/27 (96.3%) 4 18 24 18/42 (42.9%)
5 35 3 35/38 (92.1%) 5 17 6 17/24 (70.9%)
total 157 5 152/157 (96.8%)* total 112 92 112/204 (54.9%)$

#p < 0.05, Alizarin Red S stain vs Von Kossa’s method

*p = 0.0683, Alizarin Red S stain vs HE stain

$p < 0.05, Alizarin Red S stain vs Giemsa stain

2. RGBヒストグラムによる各染色性の解析

アリザリン赤S染色,コッサ反応,HE染色及びギムザ染色のRGBヒストグラムの画像解析結果をFigure 3に示す。

Figure 3  RGB histograms of HA crystals, leukocytes and background in the indicated stains

1) アリザリン赤S染色

結晶成分及び白血球は赤色,青色,緑色の波長すべてが明確に分離されており,赤色波長の輝度210付近に高頻度に検出された。上記の成分は青色と緑色波長の明暗の差のみのため,赤色を基調とした色調となった。背景はすべての波長が局在的に検出されたため,白色調となった。

2) コッサ反応

結晶成分は赤色波長のみ分離され,青色と緑色の波長は重複傾向があった。青色波長が輝度65付近に最も高頻度に検出された。よって濃い赤色と深緑色が重なり茶色調となった。白血球は輝度96付近に赤色波長が高頻度に検出され,すべての波長が分離されている傾向にあったため,ピンク色調に緑色が重なり明るい赤紫色調となった。背景はすべての波長が局在的に検出された。結晶成分,白血球及び背景は色調が異なるヒストグラムであった。

3) HE染色

結晶成分は青色波長のみ分離され,赤色と緑色の波長は重複していた。また白血球はすべての波長が明確に分離されており,上記の2種の成分は青色波長が輝度170付近に最も高頻度に検出された。結晶成分は明青色と深緑色が重なり濃青紫色となり,白血球は青紫色となったため,両成分は青色を基調となる色調を示した。一方背景はすべての波長が局在的に検出された。

4) ギムザ染色

結晶成分は緑色波長のみ分離されており,青色及び赤色波長は重複傾向があった。最も高頻度で検出された青色波長は輝度205付近であり,すべての波長の輝度が高いため,明赤紫色になった。白血球は全ての波長が明確に分離され,緑色波長は輝度0で最も高頻度となり,青色波長は170付近で限りなく検出頻度が少なく検出されたため,暗青色となった。背景はすべての波長が局在的に検出される傾向があり,白色調を示した。

IV  考察

本研究では,関節液中に出現したHA結晶に対して,アリザリン赤S染色と同様の情報を得ることができる染色法として,コッサ反応,HE染色及びギムザ染色を実施し,コッサ反応が最も有用な染色方法であることを明らかにした。

HA結晶の同定方法であるアリザリン赤S染色は,pH 5~7付近でカルシウムとレーキを作り特異的な染色性を示し,カルシウムを直接証明する染色方法である7)。一方,本研究で検討した染色法はカルシウムを間接的に証明する方法である。コッサ反応は,HA結晶と結合している陰イオンと硝酸銀の銀イオンが結合し強い光で還元反応を起こすことで染色性を示したと考えられる8),9)。またHE染色やギムザ染色は溶液中で正の荷電となり,HA結晶のリン酸基とイオン結合したことで染色性を示したと考えられる10),11)

アリザリン赤S染色はpHの条件によって染色傾向が変化し,pH 6.3~6.5ではダール法,pH 4.1~6.5ではマックギー・ラッセル法があり7),本研究ではpH 6.4のアリザリン赤Sの染色液を使用し,ダール法にてHA結晶を染色した。ダール法はマックギー・ラッセル法と比較すると染色性が弱いため,微細なカルシウムが染色されず,陽性染色率の低下につながったと推測される。ギムザ染色は染色液の製造所,pH,気温,細胞数などの要因により染色性が変化するため,陽性染色率が低下したと考えられる12)。一方,コッサ反応やHE染色の陽性率は高い結果となったが,この要因としてリン酸基以外の尿酸基や硫酸基も染色されるためであると推測される。よって,光学顕微鏡下で結晶成分の形態や偏光顕微鏡下で特異的な複屈折性を示さないことを確認する必要性がある。

本研究では染色性の画像解析を「光の三原色」を利用したRGBヒストグラムによる色調のコントラスト比較により,客観的な解析もまた実施した13)。アリザリン赤S染色では,HA結晶と白血球の色調の違いは,赤色を基調とした青色と緑色の明暗の違いだけである。よって明赤色か暗赤色かを判定する必要性がある。HE染色では,HA結晶と白血球は青色調を示しているが,HA結晶の赤色と緑色の波長のピークが重複していることから複合色を持つため,HA結晶と白血球との鑑別は可能ではある。しかし,HE染色に含まれるヘマトキシリンは細胞核や軟骨基質,粘液成分などHA結晶以外も染色されるため,特異的な反応ではない。ギムザ染色は,HA結晶と白血球のRGBヒストグラムは全く異なる輝度分布を示したが,赤色と青色の輝度分布が近く,明赤紫色を示していた。そのためHA結晶は,背景との対比が弱くなり,見落とす可能性が示唆された。コッサ反応のRGBヒストグラムは,HA結晶は青色の輝度が低く,ピクセル数が最も多いことに対して,白血球は赤色の輝度が高く,ピクセル数が最も多い結果となった。このことから,HA結晶と白血球の色調は異なりコントラストが強く,同定効果は非常に高いと考えられた14)

染色陽性率及び画像解析からコッサ反応が,HA結晶の同定染色法に最も有用な染色方法であると考えられる。また,HE染色でもある程度HA結晶を推定することは可能であり,さらにコッサ反応とHE染色を標本作製することで病理医による病理診断学的観点からの意見を得ることができ,よりHA結晶の同定の精度を高めることに繋がると考えられる。本研究の問題点としては,コッサ反応はカルシウム結晶を間接的に染色するため,カルシウム以外の銅や鉛などがリン酸塩や炭酸塩に陽性反応を示し,偽陽性率が上がることが挙げられる。このことから関節液中に出現しやすいMSU結晶やCPPD結晶も陽性になる可能性があるため,コッサ反応の陽性所見だけではなく,偏光顕微鏡下での複屈折性を示さないことや光学顕微鏡下での形状,大食細胞の貪食など総合的に判断することで,HA沈着症を同定することが可能になると考えられる(Figure 4)。本研究ではHA結晶含有セルブロックを使用したため,今後は生検体にて検討する予定である。

Figure 4  Observation of HA crystals in Giemsa stain

A: Observation with a light microscope

B: Observation with simple polarizing microscope

V  結語

HA結晶成分は,結晶誘発性関節炎の原因結晶として出現頻度は少ないが,透析患者の血中カルシウムやリン酸塩のコントロールが必要となるため,臨床的意義は高い結晶成分である。本研究よりハイドロキシアパタイト沈着の関節液診断染色法として3種類の染色方法を検討しコッサ反応が最も有用な染色方法であった。コッサ反応はアリザリン赤S染色よりも染色手順が煩雑であり時間を要するデメリットはあるが,病理検査で一般的に実施されている染色方法である。これによりアリザリン赤S染色液を所持していない施設でもHA結晶の同定が可能となり,結晶誘発性関節炎の早期発見に付与することができると考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

 謝辞

本研究を進めるにあたり,大変熱心なご指導を頂いた愛知県臨床検査技師会一般検査研究班の皆様には深く感謝申し上げます。

文献
 
© 2024 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top