2024 Volume 73 Issue 4 Pages 726-732
シスメックス社XNは,血小板測定モードにより血小板凝集の検出力に差がある。本検討ではこの差を利用し,同一検体をPLT-IとPLT-Fで測定した際の各モードの「PLT-Clumps?」フラグの有無から,フィブリン析出検体(Fib検体)と血小板凝集のみの検体を鑑別できるか検証した。血算測定依頼のあった18,540件のうち,以下の条件に該当した757件を対象とした。①PLTが前回値から30%以上低下したもの,②「PLT-Clumps?」フラグが表示されたもの,③上記の条件に該当しないがフィブリン析出または血小板凝集を認めたもの。フラグ表示のトリガーであるQ-Flag値と鏡検所見から感度,特異度,AUCを比較した。また,各モードのフラグ有無の組み合わせにより検体の判定を陰性,Fib検体,血小板凝集検体とし,鏡検との一致率を評価した。Fib検体のAUCはPLT-Fが有意に大きかった。血小板凝集検体に対する感度,特異度は,PLT-F 0.87,0.91に対し,PLT-I 0.06,0.65と顕著な差を認めた。判定の一致率は,両モードフラグなし(判定;陰性)98.7%,PLT-Iのみ(判定;陰性)99.5%,PLT-Fのみ(判定;血小板凝集検体)67.9%,両モードあり(判定;Fib検体)92.0%であった。Clumpsフラグの組み合わせは血小板偽低値の要因を鑑別できる可能性が示唆された。
Sysmex XN has different detection performance of platelet aggregation depending on the platelet measurement mode. In this study, we utilized this difference to examine whether the presence or absence of the PLT-Clumps flags in each mode can differentiate fibrin strands from platelet aggregation when the same specimen is measured with PLT-I and PLT-F. Of the 18,540 specimens for which blood counts were requested, 757 were included in the study if they met the following criteria. (i) PLT decreased by more than 30% from the previous value; (ii) PLT-Clumps-flag was displayed; (iii) fibrin precipitation or platelet aggregation was observed, although the above conditions were not met. Then, sensitivity, specificity, and AUC were determined based on the Q-Flag value, which is the trigger for flagging, and specimen findings, and compared in each mode. Criteria were also developed to classify specimen characteristics as “negative,” “platelet aggregation,” or “fibrin strands” according to the presence or absence of the PLT-Clumps flag in each mode, and concordance with specimen findings was evaluated. The AUC for fibrin strands was significantly higher for PLT-F. Sensitivity and specificity for platelet aggregation were clearly lower for PLT-I (0.06, 0.65) than for PLT-F (0.87, 0.91). The concordance rate of the criteria was 98.7% for PLT-Clumps flags not in both modes (= negative), 99.5% for PLT-I only (= negative), 67.9% for PLT-F only (= platelet aggregation), and 92.0% for both modes (= fibrin strands). The results suggest that the combination of PLT-Clumps flags may be able to differentiate the cause of false low platelets.
血球数算定検査は,自動分析機の性能向上に伴い短時間で精度の高い結果を得ることができるようになった。しかし,血小板数(platelet; PLT)測定では,採血不良やEDTA依存性偽性血小板減少症(EDTA-dependent pseudothrombocytopenia; EDP)など,現在でも患者の病態を反映しない偽低値は日常的に遭遇する1),2)。これらは血小板減少性疾患を診断するうえで最初に除外すべき要因であり,偽低値が疑われる場合には検査者による鏡検確認が必須である3)。しかし,確認を必要とする検体の判断は経験によるものが多く,夜間当直帯のみ血球数算定検査に従事する者や新人職員など経験の浅い分析者による偽低値の見逃しや過度の確認作業による業務負担が課題である。
シスメックス社のXNシリーズには,フローサイトメトリーにより,特定領域のプロットからQ-Flag値を算出し,閾値を超えた場合に「PLT-Clumps?」のフラグメッセージを表示する,血小板凝集の検出機構が搭載されている。XNシリーズはPLT測定に電気抵抗法を用いるPLT-Iとフローサイトメトリー法を用いるPLT-Fの2種の測定モードを採用しているが,測定モードによって血小板凝集の検出領域を設定している測定チャンネルが異なっている。PLT-Iでは,白血球数算定用の測定モードであるWNRチャンネルまたは白血球分画用の測定モードであるWDFチャンネル,PLT-Fでは,WDFチャンネルまたはPLT-Fチャンネルが用いられている。このチャンネルの違いから,血小板測定モードによって血小板凝集の検出性能に差があり,PLT-Fの方が検出能高いことが報告されている4)。また,PLT-IとPLT-Fではフィブリン析出とEDPで検出性能が異なり,PLT-Fは両者を捉えることができるのに対し,PLT-Iはフィブリン析出を捉えることができる一方で,EDPの検出性能が低いことが報告されている5)。このような,測定機の異常検出ツールの特性を理解して活用することが偽低値の見逃しを減らし,業務の効率化につながると考えられる。
本検討では,「PLT-Clumps?」フラグを活用した血小板偽低値確認の効率化を目的とし,血小板偽低値が疑われる検体を対象としてPLT-IとPLT-Fの両モードで測定を行い,フィブリン析出を認め採血不良が疑われる検体(Fib検体)とフィブリン析出が無く血小板凝集のみを認めEDPが疑われる検体(Clumps検体)に対する各モードの「PLT-Clumps?」フラグの検出性能を比較した。また,PLT-Iのフィブリン析出とEDPの検出性能に差があるという特徴を利用し,同一検体を両モードで測定した際の各モードの「PLT-Clumps?」フラグの有無からFib検体とClumps検体の鑑別が可能か検討した。
XN-9100(シスメックス株式会社)を用いた。「PLT-Clumps?」フラグにはフラッギングタイプ設定が存在し,高感度モードであるType A,高特異度モードであるType B,中間モードであるType Cの3種類が選択できる。本検討ではType C設定を使用した。
2. 対象および測定方法2022年4月1日から4月30日の間に当院の平日日勤帯に検査依頼のあった血算検体(EDTA-2K)18,540件のうち,以下の条件に該当した757件を対象とした。①:PLTが前回値から30%以上低下した。(441件)②:「PLT-Clumps?」フラグが表示された。(310件)③:①,②の条件に該当しないが血液像でフィブリン析出または血小板凝集を認めた。(6件)
①,②の条件はそれぞれ当院のPLT-Fによる自動再検基準から設定した。③の条件に該当する検体は「血小板数10 × 109/L未満の場合」,「PLT関連のフラグメッセージが表示された場合」などを含む当院の血液塗抹標本作成基準により作成された5,027件の標本を観察することで抽出した。
対象検体は初回にPLT-Iによる測定を実施し,その後PLT-Fによる測定を行った。また,PLT測定時に算出される「PLT-Clumps?」のQ-Flag値を測定モードごとに集計した。測定後に血液塗抹標本を作製し,フィブリン析出および血小板凝集の有無を確認した。
3. Fib検体およびClumps検体の定義本検討では対象検体の血液塗抹標本を作製し,French-speaking Cellular Hematology Group(GFHC)の定義6)を参考に,標本辺縁を観察してフィブリン糸を認めた場合をフィブリン析出,血小板5個以上の凝集塊を複数認めた場合を血小板凝集とした。フィブリン析出および血小板凝集の所見を認めなかった検体をNegative検体,フィブリン析出の所見を認めた検体をFib検体,フィブリン析出の所見が無く血小板凝集のみを認めた検体をClumps検体と定義した。
4. 検討内容 1) 各測定モードの「PLT-Clumps?」フラグのFib検体およびClumps検体に対する検出性能の比較対象検体をPLT-IおよびPLT-Fで測定した際のQ-Flag値と,鏡検によるFib検体とClumps検体の判定を集計した。対象検体757件に対して,Fib検体,Clumps検体それぞれを陽性としてROC解析を行い,「PLT-Clumps?」フラグ表示の閾値であるQ-Flag値100をカットオフとした時の感度,特異度およびAUCを比較した。
2) 各測定モードの「PLT-Clumps?」フラグの有無によるFib検体とClumps検体の鑑別能の評価「PLT-Clumps?」フラグの測定モードによる性能差を利用し,同一検体をPLT-IとPLT-Fの両モードで測定した際の各測定モードの「PLT-Clumps?」フラグの有無の組み合わせから,検体性状を“陰性”,“Fibあり”,“Clumpsあり”と判定する基準を設定した(Table 1)。両モードで表示がない場合(パターンA)を“陰性”,PLT-Iと比較しPLT-Fの方が血小板凝集の検出能が高い点4)から,PLT-Iのみで「PLT-Clumps?」フラグが表示される場合(パターンB)を“陰性”,PLT-IがFib検体と比較しEDP検体の検出性能が低い点5)から,PLT-Fのみで「PLT-Clumps?」フラグが表示された場合(パターンC)を“Clumpsあり”とし,両モードで「PLT-Clumps?」が表示された場合(パターンD)は“Fibあり”の判定とした。対象検体に対して,この基準による判定結果と鏡検による判定結果の一致率を評価した。
「PLT-Clumps?」の表示 | 判定 | ||
---|---|---|---|
PLT-I | PLT-F | ||
パターンA | なし | なし | 陰性 |
パターンB | あり | なし | 陰性 |
パターンC | なし | あり | Clumpsあり |
パターンD | あり | あり | Fibあり |
同一検体をPLT-I,PLT-Fの両モードで測定し,性能特性を基に「PLT-Clumps?」表示の有無の組み合わせによる検体性状の判定基準を設定した。
統計解析にはEZR Ver. 1.557)を使用した。ROC解析によるAUCの比較にはDelongの検定を用いた。p < 0.05を有意差ありと定義した。
Table 2に対象検体の内訳を示した。757検体のうちNegative検体が657件,Fib検体が53件,Clumps検体が47件であった。Clumps検体のうち40件はEDP,7件は未検証または採血不良疑いであった。
PLT-I | PLT-F | 報告値 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
平均値(×109/L) (最小-最大) |
SD | 平均値(×109/L) (最小-最大) |
SD | 平均値(×109/L) (最小-最大) |
SD | |
Negative検体 (657件,87%) |
159 (9.0–758.0) |
104.2 | 162 (8–837) |
108.3 | ||
Fib検体 (53件,7%) |
189 (11–549) |
92.5 | 189 (11–558) |
96.1 | 232 (13–602) |
112.8 |
Clumps検体 (47件,6%) |
147 (41–392) |
76.0 | 175 (45–541) |
89.9 | 234 (55–717) |
131.5 |
対象検体の件数及び割合,PLT-I,PLT-Fおよび報告値(再採血またはカナマイシン採血管の結果)の分布を示した。
ROC解析により求めた,各測定モードによる「PLT-Clumps?」フラグのFib検体およびClumps検体に対する感度,特異度およびAUCをTable 3に示した。Fib検体の検出性能は,PLT-Iは感度0.89,特異度0.71,PLT-Fは感度0.98,特異度0.92であり,感度・特異度ともにPLT-Fが高く,特に特異度に差が認められた。AUCは,PLT-I 0.91,PLT-F 0.96であり,PLT-Iと比較しPLT-Fで有意に大きかった(p < 0.05)。同様に,Clumps検体の検出性能は,PLT-Iは感度0.06,特異度0.65,PLT-Fは感度0.87,特異度0.91であり,感度・特異度ともにPLT-Fが高く,PLT-Iで検出できたClumps検体は47件中3件のみであった。AUCは,PLT-I 0.38,PLT-F 0.94であり,PLT-Iと比較しPLT-Fで有意に大きかった(p < 0.05)。
感度 | 95%CI | 特異度 | 95%CI | AUC | 95%CI | p値 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Fib検体 | PLT-I | 0.89 | 0.77–0.96 | 0.71 | 0.67–0.74 | 0.91 | 0.87–0.95 | < 0.05 |
PLT-F | 0.98 | 0.90–1.00 | 0.92 | 0.90–0.94 | 0.96 | 0.95–0.98 | ||
Clumps検体 | PLT-I | 0.06 | 0.01–0.18 | 0.65 | 0.61–0.68 | 0.38 | 0.32–0.44 | < 0.05 |
PLT-F | 0.87 | 0.74–0.95 | 0.91 | 0.89–0.93 | 0.94 | 0.92–0.96 |
対象検体757件に対して,ROC解析によりAUCとQ-Flag値100をカットオフとした際の感度,特異度を求めた。
設定した判定の一致率とその内訳をTable 4に示した。「PLT-Clumps?」フラグがパターンAの検体は447件で,その内判定と一致するNegative検体は441件であり,判定一致率は98.7%であった。パターンBの検体は204件で,判定と一致するNegative検体は203件であり,判定一致率は99.5%であった。パターンCの検体は56件で,判定と一致するClumps検体は38件であり,判定一致率は67.9%であった。パターンDの検体は50件で,判定と一致するFib検体は46件であり,判定一致率は92.0%であった。
件数(件) | 鏡検所見 | 判定一致率(%) | |||
---|---|---|---|---|---|
Negative検体(件) | Fib検体(件) | Clumps検体(件) | |||
パターンA(陰性) | 447 | 441 | 0 | 6 | 98.7 |
パターンB(陰性) | 204 | 203 | 1 | 0 | 99.5 |
パターンC(Clumpsあり) | 56 | 12 | 6 | 38 | 67.9 |
パターンD(Fibあり) | 50 | 1 | 46 | 3 | 92.0 |
下線の数値が設定した判定結果と一致した件数である。
判定一致率は,設定した判定結果と鏡検所見が一致した割合を指す。
本検討では,Fib検体とClumps検体を分類し,両者に対する各血小板測定モードによる「PLT-Clumps?」フラグの検出性能を比較した。Fib検体とClumps検体どちらに対しても,AUCはPLT-Fで有意に大きく,PLT-Fがより検出性能が高いと考えられた。また,PLT-IはFib検体の検出感度が0.89と良好な結果を示したのに対し,Clumps検体に対する感度は0.06と低値を示しており,PLT-Iはフィブリン析出を捉えることができるが血小板凝集の検出には課題があると考えられた。鈴木ら5)は,フィブリン析出検体とEDP検体をPLT-I,PLT-Fで測定した際の「PLT-Clumps?」フラグの表示率を比較し,フィブリン析出検体ではPLT-I 80%,PLT-F 100%,EDP検体はPLT-I 5%,PLT-F 98%と本検討と同様にEDP検体でモードにより顕著な差があることを報告している。また,Lundeら4)は,複数の血小板凝集判定基準を用いて血小板凝集検体に対するPLT-IとPLT-Fの検出力を比較しており,本検討で参考にしたGFHCの判定基準での感度,特異度,AUCは,PLT-I(0.26, 0.94, 0.57),PLT-F(0.71, 0.88, 0.84)とPLT-Fの検出性能が高い結果を報告している。一方で,血小板凝集の定義によって結果に差が認められており,他検討結果との比較には定義を考慮する必要性があると指摘している。本検討の結果と比較すると,PLT-Fの検出能が高い点は同様であるが,PLT-Iの感度,特異度が高い結果を示している。Lundeらの検討では血小板凝集の定義の中でフィブリン析出の有無は言及されておらず,この定義の差がPLT-Iの検出結果に影響している可能性が考えられる。Fib検体とClumps検体で測定モードによる検出性能の差を認めた要因として,鈴木ら5)は測定モードの溶血処理の違いによる影響の可能性を挙げている。PLT-Iの「PLT-Clumps?」フラグの判定領域が設定されているWDFおよびWNRチャンネルは,測定時に溶血剤が使用されるが,フィブリン糸は溶血剤による影響が少ないのに対して,血小板凝集は溶血剤の影響で凝集塊が崩れることで検出能に差が生じている可能性があると述べている。一方で,WDFおよびPLT-Fチャンネルの血小板凝集を検出する領域は,FSCW-FSCスキャッタグラムが用いられているが,FSCWは前方散乱光検出時の細胞が通過する時間を反映し,細胞の重なりなどにより高値となる8),9)。フィブリン糸は絡まった血小板の蛍光により検出され,サイズが大きく不定形で細長い形状であることから血小板凝集よりもFSCやFSCWが高値として検出されると考えられる。PLT測定専用のPLT-Fチャンネルとは異なり,WDFチャンネルはよりサイズの大きい白血球の分類を目的としているためFSCW-FSCのスケールが広い。そのため,血小板と血小板凝集塊のFSCWの差を検出しにくく,値の大きいフィブリン糸のみを検出している可能性がある。しかし,詳細な判定領域は公表されておらず検証はできていない。コスト面の課題はあるが,PLT-Iが血小板凝集の検出性能が低い点を踏まえると,PLT低値や前回値との差が大きい場合にはPLT-Fによる再検を実施することが血小板偽低値の見逃しの防止に繋がると考えられる。
PLT-I,PLT-Fのフィブリン析出および血小板凝集に対する検出性能の特性をもとに,両モードで測定した際の「PLT-Clumps?」フラグの有無による4種の組み合わせから,検体性状を“陰性”,“Fibあり”,“Clumpsあり”と判定する基準を設定し,鏡検による所見との比較を行った。陰性の判定としたパターンA,BとFibありの判定としたパターンDの判定一致率はそれぞれ98.7%,99.5%,92.0%と良好な結果を示した。一方で,Clumpsありの判定としたパターンCは判定一致率が67.9%と他と比べ低値であった。このことから「PLT-Clumps?」フラグの組み合わせによる判定は,Negative検体と偽低値検体の切り分けが良好であり,Fib検体とClumps検体を完全に区別することはできないが,フラグが両モードで表示される場合にはFib検体の疑いが強く,PLT-Fのみの場合はClumps検体の可能性が高いと判断でき,血小板偽低値要因の検出および鑑別への有用性が示唆された。また,Clumps検体は,EDPを想定して対象検体に設定しており,実際47件中40件がEDPの検体であった。このことからEDPを疑う指標として,本検討の判定基準の有用性が示唆された。一方で,7件は採血不良疑いや未検証の検体であり,EDTA以外の要因による血小板凝集が含まれているため,別種の採血管による再測定など確認作業は必要であると考えられる。
採血不良によるフィブリン析出やEDPによる血小板偽低値の鏡検確認は,血球数算定検査には必須の作業であるが,血液塗抹標本を作製して観察を行うためTurn Around Time(TAT)の延長や業務負担に繋がる。とくに夜勤帯のみの担当者や新人技師など経験の浅い者にとっては,確認を実施すべき検体の判断が困難な場合も多い。そのため,見逃しが無くかつ無駄の少ない確認基準を設定することが求められる。本検討の結果は,この基準設定に有用であると考えられる。特にパターンBのほぼ全例がNegative検体であった点は,「PLT-Clumps?」を血小板確認基準に用いるうえで重要である。「PLT-Clumps?」フラグが表示された検体を鏡検確認の対象とする施設が多いが,PLT-Fでの再検を行うことで偽陽性を減らすことができ,確認作業の減少による業務の効率化が期待される。仮にTable 4を参考に本検討の対象検体を用いてシミュレーションすると,「PLT-Clumps?」フラグが表示された全例で鏡検確認を実施した場合,パターンAを除いた310件が鏡検対象となるが,その内実際に偽低値なのはパターンB,C,DのNegative検体を除いた94件のみである。しかし,パターンBを鏡検対象から除外した場合,鏡検対象が107件となり,約7割減少する。一方で,パターンAではClumps検体が6件,パターンBではFib検体が1件認められている。Table 5に示した通り,パターンAのClumps検体のうち4件は,基準範囲内の変動であった。また,パターンAのClumps検体④とパターンBのFib検体は,PLTが10 × 109/L未満と低値であったが,再採血等をした後の報告値との差はわずかでありこれらの臨床的な影響は小さいと考えられた。しかし,パターンAのClumps検体①に関しては,報告値との差が176 × 109/Lと大きく,臨床的な判断に影響を与える可能性が考えられた。萩原ら10)は,「PLT-Clumps?」フラグでは大型の血小板凝集塊が不検出となる可能性を報告している。このことからも,フラグのみで偽低値すべてを検出することは難しく,パターンA,Bの場合もPLT異常低値や前回値差が大きい場合などは確認を実施する基準を設ける必要があると考えられる。これらを踏まえ,本検討結果をもとにした血小板確認フローを作成した(Figure 1)。初回測定時のPLT測定値やIPメッセージを利用して,偽低値が疑われる場合にPLT-Fによる再検を実施し,「PLT-Clumps?」フラグの組み合わせを基に鏡検確認実施の要否を決めるものである。PLT-Fによる再検実施を行う基準やパターンA,Bで鏡検を行う基準を含め,この確認フローの有効性について今後検証していきたい。
PLT-I (×109L) |
PLT-F (×109/L) |
報告値 (×109/L) |
||
---|---|---|---|---|
パターンA | Clumps検体① | 392 | 541 | 717 |
Clumps検体② | 111 | 248 | 247 | |
Clumps検体③ | 171 | 187 | 225 | |
Clumps検体④ | 41 | 88 | 88 | |
Clumps検体⑤ | 235 | 269 | 280 | |
Clumps検体⑥ | 155 | 234 | 234 | |
パターンB | Fib検体 | 45 | 41 | 44 |
本検討は,対象期間に依頼されたすべての検体を解析したわけではなく,PLT-F未測定検体の中にフラグ偽陽性の検体が含まれていた可能性や未鏡検検体の中にフィブリン析出や血小板凝集の存在は否定できない。また,「PLT-Clumps?」フラグのフラッギングタイプ設定の違いによっても結果に差異が生じるため注意が必要である。これらを踏まえたうえで,検出機構の特性を生かした確認基準を設定することで,性能を最大限に活用して業務の効率化と血小板偽低値の見逃し防止を図ることができると考えられる。
本検討では,同一検体をPLT-IとPLT-Fで測定した場合の「PLT-Clumps?」フラグの有無により,“陰性”,“Fibあり”,“Clumpsあり”を鑑別できることが示唆された。完全な切り分けはできないため依然として鏡検確認は必要であるが,検出機構の特性を踏まえて血小板の確認基準を設定することで過剰な確認作業を減らし,血小板偽低値の見逃し防止の一助になると考えられる。
なお,本検討は東北大学病院医学系研究科倫理委員会の承認のもと実施した(2020-1-279)。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。