2024 Volume 73 Issue 4 Pages 733-740
従来,プロトロンビン時間(prothrombin time; PT)測定試薬の多くは凍結乾燥品であり,専用の溶解液や精製水を加えて調製する必要があったが,近年は調製が簡便な液状PT試薬が数社から発売されている。今回,液状PT試薬である「ヒーモスアイエル レディプラスチン」(アイ・エル・ジャパン株式会社)の基礎性能評価をACL TOP 550 CTS(アイ・エル・ジャパン株式会社)を用いて行ったので報告する。測定試料には2濃度のコントロール血漿および検査後残余患者血漿を用いた。併行精度(repeatability:同時再現性)は10回測定でCV 1.5%以下,オンボード安定性(onboard stability:実測安定性)は1日2回,14日間測定でCV 3.0%以下だった。希釈直線性はPT活性で144.3%まで確認した。検出限界はPT活性で5.7%だった。共存物質による影響はいずれも変化率5%以下だった。ヘパリンの影響は未分画ヘパリン1.25 U/mLまで変化率10%以下だった。従来試薬との相関についてPT-INRでy = 0.987x − 0.0138,r = 0.9978だった。試薬調製時間について従来試薬は約34分かかったのに対して,検討試薬は1分以内であった。ヒーモスアイエル レディプラスチンの基礎性能は非常に良好で従来試薬との相関も高かった。従来試薬は凍結乾燥品のため調製に30分以上の時間がかかり,溶媒の分注誤差のリスクもあったが,検討試薬は2つの液状バイアルを混和するだけですぐに使用できるため,ユーザビリティが非常に高く,技師の負担が大幅に軽減されると考えられた。
In the past, most prothrombin time (PT) reagents were required to add special dissolving solution or purified water. Recently, several companies have released liquid-type PT kits that are easy to prepare. This time, we report on the basic performance evaluation of a liquid-type PT kit, “HemosIL ReadiPlasTin” (I.L.Japan Co., Ltd.), using ACL TOP 550 CTS (I.L.Japan Co., Ltd). Two concentrations of control plasma and post-test residual patient plasma were used as samples. The repeatability was less than 1.5% CV after 10 times measurements, and the onboard stability was less than 3.0% CV after 14 days of measurements twice a day. The dilution linearity was confirmed up to 144.3% for PT activity and the limit of detection was 5.7%. The effect of comorbidities was less than 5% change in each case. The effect of heparin was less than 10% up to 1.25 U/mL. The correlation with the conventional reagent was y = 0.987x − 0.0138, r = 0.9978 for PT-INR. The preparation time was less than 1 minute for the study reagent, whereas the conventional reagent was about 34 minutes. The basic performance of the HemosIL ReadiPlasTin was very good and correlated well with the conventional reagent. The conventional reagent was taken more than 30 minutes to prepare, and there was a risk of solvent dispensing errors, whereas the study reagent could be used immediately by simply mixing two liquid vials, which was considered to have very high usability and significantly reduce the burden on medical technologist.
プロトロンビン時間(prothrombin time; PT)は1935年にQuick1)によって開発された外因系凝固反応による血液凝固能を測定する基本的な検査であり,外科手術や観血的検査における事前の止血機能の評価,血栓溶解療法の適用除外基準,ワーファリンをはじめとする経口抗凝固薬のモニタリング,肝機能の評価など様々な目的で使用されている。測定原理は患者血漿にPT試薬を添加することで試薬中の組織トロンボプラスチンとカルシウムイオンが患者血漿中の外因系および共通系凝固因子(第VII因子,第X因子,第V因子,プロトロンビン,フィブリノーゲン)を活性化し,フィブリンクロットを形成するまでの時間を測定することである。従来のPT試薬は組織トロンボプラスチンの安定性の問題から,凍結乾燥品がほとんどであり,専用の溶解液や精製水を加えて調製する手間が必要であったが,近年は調製が簡便な液状PT試薬が数社から発売されている。今回,液状PT試薬である「ヒーモスアイエル レディプラスチン」(アイ・エル・ジャパン株式会社)の基礎性能評価を行ったので報告する。
本研究にはヒーモスアイエル ノーマルコントロール(以下,正常域コントロール),ヒーモスアイエル ロー・アブノーマルコントロール(以下,異常域コントロール)の2濃度のコントロール血漿(いずれもアイ・エル・ジャパン株式会社)および当院に提出された検査終了後の3.2%クエン酸ナトリウム加患者残余血漿を用いた。残余血漿の使用は,「臨床検査を終了した既存試料(残余検体)の研究,業務,教育のための使用について―日本臨床検査医学会の見解―2021年改訂」2)を遵守し,連結不可能匿名化して行った。凝固検体の取り扱いは,「凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス」3)に従い適切に扱った。本研究は十和田市立中央病院倫理委員会の承認を得て実施した(通知番号3-9)。
2. 試薬・測定機器検討試薬として液状PT試薬であるヒーモスアイエル レディプラスチン(以下,PT-Read),対照試薬として凍結乾燥PT試薬であるヒーモスアイエル リコンビプラスチン(以下,PT-RP)を使用した(いずれもアイ・エル・ジャパン株式会社)。各試薬は光学的凝固時間法を測定原理とする血液凝固分析装置ACL TOP 550 CTS(アイ・エル・ジャパン株式会社)に搭載し,メーカー指定のパラメーターで測定した。共存物質およびヘパリンの影響の評価には干渉チェックAプラス(シスメックス株式会社)およびヘパリンナトリウム注N(エイワイファーマ株式会社)を使用した。
3. 統計解析測定結果のバリデーション解析にはValidation-Support/Excel Ver 3.5を使用した。
正常域コントロール,異常域コントロールを各10回連続測定し,PT秒数(以下,PT-sec),PT活性値(以下,PT-%),PT国際標準化比(以下,PT-INR)における標準偏差(以下,SD)と変動係数(以下,CV)を算出した。
2. オンボード安定性(Onboard stability:実測安定性)試薬調製後に開栓した状態で機器に搭載し,正常域コントロール,異常域コントロールを1日2回,14日間測定し,PT-sec,PT-%,PT-INRにおけるSDとCVを算出した。
3. 希釈直線性PT-%高値患者プール血漿を専用希釈液であるヒーモスアイエル ファクター・ダイリューエント(アイ・エル・ジャパン株式会社)で系列希釈して作製した5試料を,各3重測定して希釈直線性を確認した。
4. 検出限界PT-%低値患者プール血漿をヒーモスアイエル ファクター・ダイリューエントで系列希釈して作製した10試料を,各5重測定して平均値 ± 2.6 SD法で検出限界を求めた。
5. 共存物質の影響干渉チェック・Aプラスを正常域患者プール血漿に添加して,抱合型ビリルビン,遊離型ビリルビン,ヘモグロビン,乳びの影響を確認した。添加前血漿のPT-%の測定値を基準として添加後血漿の測定値について相対比(%)を算出した。
6. ヘパリンの影響未分画ヘパリンとしてヘパリンナトリウム注Nを正常域患者プール血漿に添加して,その影響を確認した。添加前血漿のPT-%の測定値を基準として添加後血漿の測定値について相対比(%)を算出した。
7. 従来試薬との相関性患者血漿129例についてPT-ReadとPT-RPの各試薬で測定し,近似直線と相関係数を算出した。
8. 試薬調製時間の比較血液検査担当技師2名が,PT-ReadとPT-RPをそれぞれ4回調製した際の所要時間を調査した。
正常域コントロールのCVは0.61%(PT-sec),0.96%(PT-%),0.60%(PT-INR),異常域コントロールのCVは1.01%(PT-sec),1.22%(PT-%),0.99%(PT-INR)でいずれも良好であった(Table 1)。
正常域コントロール | 異常域コントロール | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
PT-sec | PT-% | PT-INR | PT-sec | PT-% | PT-INR | |
1 | 11.5 | 100.4 | 0.97 | 24.5 | 36.3 | 2.03 |
2 | 11.6 | 99.0 | 0.98 | 24.5 | 36.3 | 2.03 |
3 | 11.6 | 99.0 | 0.98 | 24.5 | 36.3 | 2.03 |
4 | 11.6 | 99.0 | 0.98 | 24.3 | 36.6 | 2.02 |
5 | 11.6 | 99.0 | 0.98 | 24.1 | 37.0 | 2.00 |
6 | 11.5 | 100.4 | 0.97 | 23.8 | 37.5 | 1.98 |
7 | 11.4 | 101.8 | 0.96 | 24.0 | 37.2 | 1.99 |
8 | 11.6 | 99.0 | 0.98 | 24.0 | 37.2 | 1.99 |
9 | 11.5 | 100.4 | 0.97 | 24.1 | 37.0 | 2.00 |
10 | 11.6 | 99.0 | 0.98 | 24.2 | 36.8 | 2.01 |
平均値 | 11.6 | 99.7 | 0.97 | 24.2 | 36.8 | 2.01 |
SD | 0.07 | 0.96 | 0.01 | 0.24 | 0.45 | 0.02 |
CV% | 0.61 | 0.96 | 0.60 | 1.01 | 1.22 | 0.99 |
正常域コントロールのCVは1.22%(PT-sec),1.88%(PT-%),1.20%(PT-INR),異常域コントロールのCVは1.63%(PT-sec),2.00%(PT-%),1.60%(PT-INR)でいずれも良好であった(Table 2, Figure 1)。
正常域コントロール | 異常域コントロール | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
PT-sec | PT-% | PT-INR | PT-sec | PT-% | PT-INR | |
日数 | 14 | 14 | 14 | 14 | 14 | 14 |
測定回数 | 28 | 28 | 28 | 28 | 28 | 28 |
平均値 | 11.7 | 98.0 | 0.98 | 22.8 | 39.5 | 1.90 |
最大値 | 12.0 | 101.8 | 1.01 | 23.5 | 41.3 | 1.95 |
最小値 | 11.4 | 94.0 | 0.96 | 22.0 | 38.1 | 1.83 |
SD | 0.14 | 1.84 | 0.01 | 0.37 | 0.79 | 0.03 |
CV% | 1.22 | 1.88 | 1.20 | 1.63 | 2.00 | 1.60 |
理論値からの乖離が10%以内の場合に希釈直線性があると判定すると,希釈直線性はPT-%で144.3%まで確認できた(Table 3, Figure 2)。
希釈倍率 | PT-% | 相対比(%) | |
---|---|---|---|
平均値 | 理論値 | ||
2/10 | 27.2 | 29.7 | 91.5 |
4/10 | 60.1 | 59.5 | 101.0 |
6/10 | 93.1 | 89.2 | 104.3 |
8/10 | 119.0 | 119.0 | 100.0 |
10/10 | 144.3 | 148.7 | 97.0 |
2.6 SD法で算出したPT-%の検出限界は5.7%であり,そのときのCVは2.59%であった。それ以下の希釈系列では機器が凝固点を判定できず測定不能となった(Figure 3)。
PT-%について,抱合型ビリルビン20.7 mg/dL,遊離型ビリルビン20.8 mg/dL,ヘモグロビン500 mg/dL,乳び1,730 FTUまで測定値に対する変化率は5%以下であり,共存物質の影響はなかった(Figure 4)。
未分画ヘパリンの添加濃度依存的にPT-%は低下傾向にあったが,1.25 U/mLまで変化率は10%以下であった(Figure 4)。
7. 従来試薬との相関性患者血漿129例について,PT-RPとの相関を調べた結果,PT-secでy = 0.9859x + 0.3665,r = 0.9980,PT-%でy = 1.0181x − 0.0139,r = 0.9914,PT-INRでy = 0.9870x − 0.0138,r = 0.9978でありいずれも高い相関を認めた。129例のうちワーファリン服用中の22例を抽出し,同様に相関を調べた結果,PT-secでy = 0.9856x + 0.6538,r = 0.9986,PT-%でy = 0.9311x + 1.2787,r = 0.9949,PT-INRでy = 0.9948x − 0.0232,r = 0.9985 でありワーファリンの有無に関わらず相関は良好であった(Figure 5)。
凍結乾燥試薬であるPT-RPは,「①15分常温に静置する。②ホールピペットで溶解液を分注する。③転倒混和する。④15分常温に静置して溶解する。」という調製手順が必要であったが,液状試薬であるPT-Readは,調製液バイアルを全量試薬バイアルに注ぎ,転倒混和後にすぐに使用できる利点がある(Figure 6)。試薬調製時間は血液検査担当技師2名が各4回実施したところ,PT-RPでどちらも平均33.5分であり,PT-Readではどちらも平均0.7分であった。
近年,新たに発売された液状PT試薬であるヒーモスアイエル レディプラスチンの基礎性能評価を行った。
併行精度については正常域コントロール,異常域コントロールいずれもCV 1.5%以下であり良好な結果であった(Table 1)。14日間のオンボード安定性の検討では,正常域コントロール,異常域コントロールともにCV 3.0%以下で良好な結果であった(Table 2, Figure 1)。PT-Readの添付文書4)では開栓したままACL TOP 550 CTS内部の試薬保冷庫(15℃)に常時搭載で10日間の安定性を有することが明記されているが,本検討ではそれよりも長い14日間の安定性が確認された。当院での1日のPT測定件数は50~80件であり,1バイアル当たり200テスト測定可能な本試薬は1週間以内には十分に使い切れるため,当院の運用では精度上,問題ないと考えられた。希釈直線性についてはPT-%で144.3%まで(Table 3, Figure 2),検出限界は5.7%まで確認することができた(Figure 3)。従ってPT-Readは通常検査には問題ない測定範囲を有していることが示された。
ACL TOP 550 CTSはPT測定においてフィブリンクロットの生成を光学的に検出するため,血漿の色調変化や混濁は測定値に影響する可能性が示唆されたが,本検討では抱合型ビリルビン20.7 mg/dL,遊離型ビリルビン20.8 mg/dL,ヘモグロビン500 mg/dL,乳び1,730 FTUまで測定値に対する変化率は5%以下であり,いずれも臨床上問題となるような影響はなかった(Figure 4)。しかしながら,実際の現場では特に溶血検体において組織因子の採血管への混入による測定値への影響なども十分に考えられるため,検体性状の確認については凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス3)に基づいて適切に対応することが重要であると考える。未分画ヘパリンの影響については,添加濃度依存的にPT-%は低下傾向にあったが,1.25 U/mLまで変化率は10%以下であり,添付文書4)記載の1.0 U/mLよりも良好な結果となった(Figure 4)。
PT-ReadとPR-RPとの相関性を患者血漿129例で検討した。129例には直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant; DOAC)投与24例,ワーファリン投与22例,肝硬変3例,ヘパリン投与2例が含まれていたが,PT-sec,PT-%,PT-INRのいずれも高い相関を認めた。また129例のうちPT-INRが治療管理の指標に重要なワーファリン服用中の22例を個別に抽出し,同様に調べたが,ワーファリンの有無に関わらず相関は良好であった(Figure 5)。2つの試薬はどちらもリコンビナントヒト組織トロンボプラスチンを使用し4),5),国際感度指数(International Sensitivity Index; ISI)は推奨されている1.0付近6)の試薬であるため,PT-sec,PT-%,PT-INRいずれも非常に高い相関を示したと考えられる。今後は各凝固因子との反応性の特徴を比較検討する必要があると考える。
凍結乾燥PT試薬であるPT-RPは,冷蔵庫から取り出して15分常温静置してからホールピペットによって専用溶解液を分注して転倒混和し,さらに15分常温静置して初めて使用可能となるため,調製に手間がかかる試薬であったが,液状PT試薬であるPT-Readは,冷蔵庫から取り出して調製液バイアルを全量試薬バイアルに注ぎ,転倒混和後にすぐ使用できる(Figure 6)。試薬調製時間について血液検査を担当している技師2人で検討した結果,PT-RPは約34分,PT-Readは1分以下であり大幅に試薬調製時間を短縮することができた。他社の液状PT試薬の中には調製が一切不要なものも発売されている7),8)。しかしながら,PT-Readは2バイアルを混和する方式にすることで組織トロンボプラスチンの製造後の安定性を維持することができ,他社試薬と比較して製造販売後の未開封での使用期限が長く,検査室における試薬ロットの管理がしやすいメリットがある(Table 4)。
試薬名 | コアグピア® PT-Liquid | コアグジェネシスPT | ヒーモスアイエル レディプラスチン |
---|---|---|---|
試薬の形状 | 液状 | 液状 | 液状 |
主な成分 | トロンボプラスチン(ウサギ脳由来) 塩化カルシウム |
リコンビナントヒト組織トロンボプラスチン 塩化カルシウム |
リコンビナントヒト組織トロンボプラスチン (試薬バイアル) + 塩化カルシウム(溶解液バイアル) |
調製方法 | 調製不要だが,機器搭載時は 撹拌子をバイアルに入れる |
調製不要 | 2バイアルを混和後に使用可能 |
有効期間 | 製造後1年間 | 18か月 | 24か月 |
従来の凍結乾燥PT試薬の中には,技師間のホールピペットによる分注誤差が測定値に与える影響について報告されているものもある9)。従って,PT-Readは試薬調製時間の大幅な短縮が期待できるだけではなく,溶解時の分注ミスやピペット誤差による測定値への影響を限りなく少なくすることが可能であり,ロット管理もしやすく,技師の業務負担を大幅に軽減できるユーザビリティが非常に高い試薬であると考える。
液状PT試薬であるヒーモスアイエル レディプラスチンの基礎性能は非常に良好であり,従来試薬との相関も高かった。本試薬は2バイアルを混和してすぐに使用することができ,技師の業務負担を大幅に軽減できるユーザビリティの非常に高い試薬である。
本論文の内容は日本医療検査科学会第55回大会で発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。