2024 Volume 73 Issue 4 Pages 741-748
血中C反応性蛋白(C-reactive protein; CRP)測定は免疫学的定量法により行われ,その測定標準化は世界保健機関,日本国内標準物質を経て,血清蛋白標準物質であるCRM470(ERM-DA470)によりほぼ実現した。日本におけるCRP測定試薬の多くはERM-DA470やERM-DA472/IFCCを一次標準物質としていた。しかし,現在頒布されているロットはERM-DA474/IFCC(DA474)であるが,DA474に準拠した測定試薬の報告は乏しい。そこで今回,DA474に基づくCRP測定試薬である「LZテスト‘栄研’CRP-RV」の基礎的性能評価を行った。評価内容として,正確性,精密性,分析範囲,特異性および試薬安定性の確認を行い,どの項目も良好な結果が得られた。対照試薬との比較では,相関係数,回帰式ともに良好な結果を示したが,濃度依存的なシグモイド状の誤差分布が観察された。この誤差は,低濃度域を優先する高感度系の被検試薬において検量線の形状が対照試薬と異なっており,低濃度域の精確性も含めて双方の直線性の傾向によって生じるものと考えられた。被検試薬の高感度な特性は,臨床検査において炎症反応や潜在的な疾患の早期発見が可能となり,迅速な治療介入への貢献が期待される。
The measurement of C-reactive protein (CRP) in serum is based on an immunological assay, and its standardization has been largely achieved by the serum protein reference material CRM470 (ERM-DA470) through the World Health Organization and the Japanese National Reference Material. Most of the reagents used for CRP measurement in Japan have been ERM-DA470 or ERM-DA472/IFCC as the primary reference material. However, the currently released lot is ERM-DA474/IFCC (DA474), and there are few reports of measuring reagents in accordance with DA474 in the laboratory. Here, we evaluated the basic performance of “LZ Test ‘Eiken’ CRP-RV”, a reagent for measuring CRP based on DA474. Accuracy, precision, analytical range, specificity, and reagent stability were assessed, and good results were obtained for all items. Compared with the control reagent, the correlation coefficient and regression equation showed good results, but a concentration-dependent sigmoidal error distribution was observed. This error was considered due to the difference of the linearity tendency of the calibration curve, including the precision in the low-concentration range, between the test reagent and the control. The high sensitivity of the test reagent is expected to contribute to the early detection of inflammatory reactions and latent diseases in clinical testing and to prompt therapeutic intervention.
C反応性蛋白(C-reactive protein; CRP)は,1930年に発見された分子量12万から14万の環状5量体の蛋白質であり,生体の細胞や組織の障害・壊死により血中濃度が増加する。CRPはマクロファージの活性化により産生されるインターロイキン-6(IL-6)や組織壊死因子-α(TNF-α)などの炎症性サイトカインの作用により,肝細胞で産生される1),2)。この生体内反応は,炎症反応や組織の損傷などの生理的な変化に対する防御機構として機能している。CRPの血中濃度は産生刺激から48時間でピークに達し,半減期は19時間と報告されている3)。CRPは炎症に伴い著しく上昇することから,臨床現場において炎症のバイオマーカーとして広く利用されている。また,血管内の微小炎症が動脈硬化や脳梗塞の発症へ繋がるとされ,CRPの高感度測定(高感度CRP)が血管イベントや脳血管イベントの発症リスクの予測因子として有用であることが報告されている4)~6)。
CRPの測定には抗原抗体反応による免疫学的測定法が用いられ,現在は主にラテックス凝集免疫比濁法が用いられている。CRPの定量的測定の精確性担保に必要な標準物質としては,国際臨床化学連盟(International Federation of Clinical Chemistry; IFCC)より国際標準物質が提供されている。日本におけるCRP測定試薬の多くはERM-DA470/IFCC(DA470)やERM-DA472/IFCC(DA472)を一次標準物質としていた。しかしながら,現行として頒布されているロットはERM-DA474/IFCC(DA474)であり,本ロットにトレーサブルな測定系は乏しい。
本研究では,栄研化学株式会社から発売されたDA474を一次標準物質としたCRP測定試薬「LZテスト‘栄研’CRP-RV」について,DA470準拠の現行試薬との比較を含めた基本性能評価を行うことを目的とした。
本検討は岐阜大学大学院医学系研究科等倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:2022-086)。
当院外来および入院患者において,CRP測定依頼のあった検体の診療残余検体3,374例を対象とした。
2. 方法 1) 試薬・装置被検試薬として「LZテスト‘栄研’CRP-RV」(栄研化学株式会社)を用い,メーカー指定の標準パラメータを使用して検討を行った。また,比較対照試薬として「N-アッセイLA CRP-Sニットーボー」(ニットーボーメディカル株式会社)を用いた。各パラメータは,被検試薬が検体5 μL,R1試薬50 μL,R2試薬50 μL,測定波長571 nmであり,比較対照試薬が検体4 μL,R1試薬40 μL,R2試薬40 μL,測定波長658 nmとした。また,DA474はReference Material Institute for Clinical Chemistry Standards(ReCCS)より入手し,認証値は41.2 mg/L(4.12 mg/dL)である。試料として,イムノピアリ1・2(栄研化学株式会社),QAPトロール1X・2X(シスメックス株式会社),LZ CRP-RV用検討試料(直線性低濃度試料,直線性高濃度試料,プロゾーン試料,検出限界試料,専用希釈液,いずれも栄研化学株式会社)および干渉物質試料(干渉チェック・Aプラスおよび干渉チェック・RFプラス,いずれもシスメックス株式会社)を使用した。測定装置として,自動分析装置BioMajesty 8040GX(日本電子株式会社)を使用した。
2) 検討内容被検試薬を用いた基本性能として正確性,併行精度,室内再現精度,希釈直線性,プロゾーン性能,測定感度および共存物質の影響を確認した。また,臨床性能評価として被検試薬および比較対照試薬との相関性をCRP測定依頼のあった検体を同時測定にて確認した。
キャリブレータ5濃度を5回連続測定,DA474を10回連続測定して得られた平均値を表示値と比較した結果,表示値との差の割合は−0.8%から2.4%であった。また,DA474に対する正確さ(%)は102.4%であり,拡張不確かさ0.25 mg/dLの範囲内であった(Figure 1)。
併行精度として,イムノピアリ1・2およびQAPトロール1X・2Xを20回連続測定した。得られた平均値(Mean),標準偏差(SD)から変動係数(CV)を算出した結果,いずれの試料においてもCV%は0.4から0.6であった(Table 1)。
QAP 1X | QAP 2X | Immunopiari 1 | Immunopiari 2 | |
---|---|---|---|---|
Repeatability (N = 20) | ||||
Mean (mg/dL) | 0.40 | 3.84 | 0.47 | 4.13 |
SD | 0.002 | 0.023 | 0.002 | 0.018 |
CV% | 0.4 | 0.6 | 0.5 | 0.4 |
Intermediate Precision (N = 20) | ||||
Mean (mg/dL) | 0.40 | 3.83 | 0.48 | 4.05 |
SD | 0.00 | 0.03 | 0.01 | 0.08 |
CV% | 0.9 | 0.7 | 1.4 | 2.0 |
試薬ボトル開封後,装置架設時のみにキャリブレーションを実施し,以降開封・架設状態を維持したままキャリブレーションならびに試薬交換は行わない条件下にて最大43日目まで室内再現精度の確認を行った。その結果,イムノピアリ1・2およびQAPトロール1X・2XのCV%は 0.7から2.0であった(Table 1)。
4) オンボード安定性室内再現精度と同一条件下にて,QAPトロール1X・2Xにおける43日目におけるベースラインからの変化率は,1Xで−1.13%,2Xで2.03%であった(Figure 2)。
a: Low concentration sample (QAP1X)
b: High concentration sample (QAP2X)
一次標準物質のDA474およびLZ CRP-RV検討試料の低濃度(5.0 mg/dL)および高濃度試料(40.0 mg/dL)を用いて,専用希釈液にて10段階に希釈し各希釈試料を5回連続測定した。その結果,いずれも良好な直線性が得られた(Figure 3a–c)。
a: ERM-DA474/IFCC
b: Low concentration sample
c: High concentration sample
d: Prozone sample
LZ CRP-RV検討試料のプロゾーン試料(100.0 mg/dL)を用いて,専用希釈液にて4段階に希釈し各希釈試料を2回連続測定した。その結果,プロゾーン現象は確認されず,メーカー設定の測定上限(36.0 mg/dL)を下回ることはなかった(Figure 3d)。
3) 測定感度ブランク上限(limit of blank; LoB)は10種のプール血清を試料として計6日間,総計60回の測定を行った。総平均値+1.645×合成標準偏差から求めたLoBは0.0042 mg/dLであった。また,LZ CRP-RV検討試料の検出限界試料を用いて10段階希釈し各希釈試料を計10日間測定し,検出限界(limit of detection; LoD)を求めた。その結果,LoB+1.645×当該試料の標準偏差の平均から求めたLoDは0.0065 mg/dLであった。
また,精度プロファイル図から許容誤差限界CVの点から定量限界(limit of quantitation; LoQ)を推定した。CV 10%点におけるLoQは0.013 mg/dL,CV 20%点におけるLoQは0.006 mg/dLとなった(Figure 4)。
a: Limit of blank and detection
b: Limit of quantitation
LoB, Limit of blank; LoD, Limit of detection; LoQ, Limit of quantitation
プール血清,干渉物質試料(干渉チェック)を用いて溶血ヘモグロビン,抱合型ビリルビン,遊離型ビリルビン,乳び,リウマトイド因子(rheumatoid factor; RF)の影響を観察した。プール血清に干渉物質試料およびブランク液を添加後,5段階希釈し各希釈試料を3回連続測定した。ブランク検体に対する変化率はいずれも±3%以内であった(Figure 5)。
a: Hemoglobin
b: Conjugated bilirubin
c: Free bilirubin
d: Chyle
e: Rheumatoid factor
患者検体3,374件を対象に被検試薬と比較対照試薬の同時測定を行い,相関性を検討した。その結果,相関係数r = 0.998,回帰式y = 0.96x − 0.01であった。また,Bland-Altman分析により比較対照試薬濃度を基準に差のプロットを確認したところ,誤差の平均値は−0.08 mg/dL,誤差の許容範囲(limits of agreement; LoA)は−0.58から0.42 mg/dLであり,シグモイド状の分布を確認した(Figure 6a, b)。
a: Scatter plot of the whole range of CRP-RV and CRP-S
b: Bland-Altman plot of the whole range of CRP-RV and CRP-S
c: Scatter plot within the range of 0.00 to 0.99 mg/dL
d: Bland-Altman plot within the range of 0.00 to 0.99 mg/dL for CRP-RV and CRP-S
e: Scatter plot within the range of 1.00 to 4.99 mg/dL
f: Bland-Altman plot within the range of 1.00 to 4.99 mg/dL for CRP-RV and CRP-S
g: Scatter plot within the range of 5.00 to 15.00 mg/dL
h: Bland-Altman plot within the range of 5.00 to 15.00 mg/dL for CRP-RV and CRP-S
CRP-RV, LZ Test ‘Eiken’ CRP-RV; CRP-S, N-Assay LA CRP-S Nittobo
現在頒布されている国際標準品DA474に準拠したCRP測定試薬である「LZテスト‘栄研’CRP-RV」の基礎的性能に関する検討を行った。その結果,正確性・精密性,分析範囲,特異性ともに良好な成績を得た。対照法との比較においては,相関性については良好であったが,濃度依存的なシグモイド状の誤差分布を確認した。
CRPは炎症状態を反映し,臓器非特異的に血中濃度が上昇することから,様々な病態における炎症マーカーとして汎用されている。特に循環器領域においては高感度CRPが有用とされており,Arimaら7)の久山町研究にて高感度CRPが0.102 mg/dLを超える群では,0.021 mg/dL未満の群に比し,冠動脈疾患の発症率が3倍程度高くなると報告されている。また,心血管イベントだけではなく,脳血管イベントや糖尿病の合併症リスク評価,炎症性疾患や抗炎症薬の治癒効果モニタリングに有用であるとされている8),9)。関節リウマチや膠原病などの慢性炎症性疾患は疾患活動性や臓器障害の程度によって高値を示すことも少なくない10)。これらの評価のためには高感度域だけではなく,幅広い範囲での精密性とともに正確性の担保されたCRP測定系であることが重要となる。
被検試薬は最新の上位標準物質であるDA474とのトレーサビリティが確認され,併行精度,室内再現精度はともに良好な結果が得られた。メーカー公表の被検試薬の測定レンジは 0.008から36 mg/dLであるが,本検討においても測定上限までの良好な直線性とLoQ 0.006 mg/dLを確認した。また,プロゾーン性能においても,測定上限以上の理論検体値が測定レンジ内まで落ち込むことはなく,測定上限以下では直線性が保たれていることを確認した。共存物質の影響に関しても,±3%以内の変化であり良好な結果が得られた。
比較対照試薬との相関性においては相関係数,回帰式ともに良好な結果であったがCRP濃度1.00~4.99 mg/dLでは正誤差,5.00~20.00 mg/dLでは負誤差があり,シグモイド状の誤差分布を確認した(Figure 6a, b)。今回の被検試薬と比較対照試薬の組み合わせとは異なるが,過去の栄研化学株式会社製CRP測定試薬とニットーボーメディカル株式会社製CRP測定試薬の相関性においてもシグモイド状の分布があった11)。また,CRP濃度を0.00~0.99,1.00~4.99,5.00~15.00 mg/dLの群に分けたときの回帰式は,0.00~0.99 mg/dL:y = 0.95x − 0.01,1.00~4.99 mg/dL:y = 1.00x − 0.00,5.00~15.00 mg/dL:y = 0.90x + 0.10となり各濃度域で回帰式に変化が生じた(Figure 6c–h)。これらの誤差要因としては,キャリブレータの設定ポイントによる影響が考えられる。キャリブレータの設定ポイントは,比較対照試薬では1.0,5.0,15.0,30.0,40.0 mg/dLに対して,被検試薬では0.4,1.5,4.0,18.0,36.0 mg/dLであり,特に低値領域における設定ポイントが異なっている。低濃度域にキャリブレータポイントを多く設定した被検試薬と,測定範囲全域に均等設定した対照試薬で,検量線の形状も試薬間差が生じ,低濃度域の精確性も含めて双方の直線性の傾向に誤差が生じるものと考えられる。
日本におけるCRP測定は,主に免疫学的測定法であるラテックス凝集免疫比濁法が用いられ,幅広い装置で測定することが可能である。CRP測定における標準化は,1985年にWHOにより最上位の一次標準物質としてヒト腹水由来の精製品(WHO CRP 85/506)を用いたものが採用された12)。日本では,これに準拠した精製CRPを添加した国内標準物質の頒布が1986年に開始された。その後,血清マトリックスベースのDA470が作製され,DA472へと引き継がれた。現在販売されている測定試薬の中にはDA470やDA472を一次標準物質としているものがあるが,現行として頒布されているロットはDA474であり,上位標準物質でのトレーサビリティの確認を行うことが困難な状況である。凍結乾燥品であるDA470は,CRPの一部が5量体から単量体に分解され測定値の低下を示す一方で,液状凍結品であるDA474は単量体に分解されないことが報告されている13)。また,DA472は精製CRPを添加すると沈殿物を生じたため,DA474の再作製に至ったとされている14)。
今回の検討によってDA474に対する正確性は確認することができたが,比較対照試薬の一次標準物質であるDA470に対する反応性は直接確認できていない。また,キャリブレータの設定ポイントが近似した試薬での比較検証は行っていないため,濃度依存的に比較対照試薬と乖離した検体についての詳細な解析や高感度における臨床性能評価は確認ができていない。しかしながら,現在の一次標準物質であるDA474からのトレーサビリティが確認され,その他の基本的性能評価では良好な成績が得られていることから臨床ならびに研究において要求される試薬性能は十分に有しているものと考えられる。
今回の検討により,「LZテスト‘栄研’CRP-RV」は最新の国際基準に準拠し,基本性能および臨床的有用性において高い水準で達成していることが確認できた。高感度かつワイドレンジな特性は,多岐にわたる炎症の評価に適しており,臨床検査において異常な炎症反応や潜在的な疾患の早期発見が可能となり,迅速な治療介入への貢献が期待される。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。